No.1037175

紙の月16話

超能力者と人類の間で戦争が起きそうになる中、主人公のデーキスは監禁されてしまう。一方で着々と太陽都市に超能力者が集まり始める。

2020-08-01 18:13:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:59   閲覧ユーザー数:59

 

 デーキスは薄暗い建物の中で目を覚ました。途切れていた記憶を振り返る。ハーブと言う紛い者に詳しい大人の人間に出会い彼から話を聞いていたら、フライシュハッカーがやってきて……そのフライシュハッカーが超能力でハーブを……そして自分はフライシュハッカーに刃向かって気絶させられた事を思い出した。

「気が付いたみたいだね」

 その声はアラナルドだ。起き上がって彼が無事な事を確認する。その陰に見た事のある顔も二つ並んでいた。

「大丈夫かい? 僕らはホラ貝塔の地下に閉じ込められたんだ。反抗的だから事が終わるまで、ここでじっとしてろとね……」

 事が終わるまで、それはきっと太陽都市を紛い者のものにする計画のことだ。まだ頭が痛むが、なんとしても止めなくてはいけない。ゆっくりと立ち上がり外へ出ようとするが、そのためには格子で隔てられた扉の向こうにいかなければならない。

「おいおい、大人しくしてろよ」

「クモが出てきたらどうする」

 その同じ声はブルメにちょっかいをだしていた双子のカフとクラウトの声だ。彼らもここに閉じ込められていたようだ。

「ここから出なくちゃ……フライシュハッカーを止めなきゃいけない……きっと大変な事になる」

「まだ動いちゃ駄目だって。ここから出るなんて危険だ。見えないけど扉の向こうには見張りがいるし、どうやって彼を止めるつもりだい?」

 それをどうにかしなきゃいけない。見過ごすことは出来る。でもハーブの言っていたことが頭から離れない。

「分かっていてそれを見過ごすなんて出来ないよ。何とかしなきゃ……」

 きっとフライシュハッカーは太陽都市に行く。ここから出て自分も向かわなくてはならない。

「見過ごしちゃいけないんだ……偽物のままじゃいけない。本物になろうとしなきゃ……」

 スタークウェザーに壊されたあのペーパームーンを思い出していた。本物とはちがう偽物の月、人間とは違う紛い者……果たしてそれでいいのか?本当は大した違いがあるわけじゃない。そう思っているだけなんじゃないだろうか? 悪い超能力者なんかじゃない。ただの人間とそう変わらない存在だって思えばそうなるはずだ

「みんなそう思ってるはず。でも誰も止めないから……」

 一部の人が紛い者を悪者だと言った。そうじゃないかもと思っても誰も止めなかった。だから迫害は続いた。そして今は紛い者のフライシュハッカーが、自分たちは新人類だからただの人間とは違うと言った。デーキスは紛い者は新人類なんかではないと思う。でもそう思っても止めなければ……。

 デーキスは格子を両手でつかむ。

「ボクが止める!」

 超能力を使おうとするが、そのまま倒れる。思ったよりもフライシュハッカーから受けた超能力は強い。精神を集中させることが出来ない。

「デーキスわかった。分かったからまだ休むんだ!」

「でも早くしなきゃ……」

 焦る気持ちとは裏腹に、身体は動かず刻一刻と時間は過ぎていった。

 

***

 

 太陽都市の歓楽街の中、デビット・ギランはふらふらとおぼつかない足取りで歩いていた。ぶつぶつと独り言を呟く口からは酒の臭いが漏れ出て、近寄りがたい雰囲気を出していた。それでも、治安維持部隊の姿を見ると、さも素面であるかのように装う程度の分別はまだ残しているのが、太陽都市における彼の微妙な立ち位置を想像させた。

 今でこそ仕事こそ続けているものの昔は勤務態度の悪さで職を転々とし、太陽都市では軽蔑される公共エリアの清掃業に従事しなければならなくなり、他者に見下されるうっ憤を晴らすために、なけなしの給料を酒につぎ込むというサイクルを延々と繰り返していた。

 住居エリアに入ると封鎖されてる家がある事に気づく。ここは確か数日前から何か騒ぎがあった家だ。まだ治安維持部隊の連中が封鎖しているようだが……すぐ近くで通りがかりの男たちの話している声が聞こえてくる。

「この家はたしか、治安維持部隊のロイドと言う男が住んでいたが何があったんだ?」

「殺人だよ。ロイドと言う奴がアンチの一員だったんだ。それで一人殺して逃げた。今も逃走中だよ」

 話を聞いてデビットはいい気味だと思った。治安維持部隊の連中め、奴らが身内の恥を晒すのは気分がいい。これで今日くらいは気持ちよく眠れる。

 デビットは酒癖は悪く妻がいなくなってからは養育費目当てに引き取った息子に暴力をふるい、その息子にすら逃げられてからは政府にも要注意人物として睨まれている。特にいなくなったデビットの息子は紛い者だった。それを知った時、報奨金目当てに治安維持部隊に通報したのだが、息子にいち早く気付かれ逃げられてしまった。紛い者を逃がしたと疑われ、いつ太陽都市から追い出されるかという所まで来てしまい、それからは治安維持部隊の姿を見るだけで怯える日々だった。

 それでもデビットは自らを反省することはなかった。

 息子が逃げたのも治安維持部隊の動きがのろかったせいだ。このままじゃ一等市民に格上げされてしまう……。

 一等市民……二等市民よりも上の階級で、働けなくなった年寄りや仕事で傷を負った者たちが、太陽都市に貢献したとして与えられる階級だ。労働や納税の義務から解放されて安寧に暮らせるというが、そんなのはごく一部の限られた人間だけだ。役人たちが自分たちの老後の為に作った階級で、自分の様な一般人は理由をつけて太陽都市から追い出される。市民が何も知らないと思っているのか。一等市民になった連中がどこへ行ったか。

 大体の市民はおおよそ知っている。ただ自分には無関係だと思っているから言わないだけだ。デビットも息子がいなくなるまでは自分に関係ない話だと思っていた。自分の知らない誰かが、太陽都市から追い出されようがどうでもいいと。

 デビットが住んでいる場所は住居エリアの端にある独身の人間が住まうエリアだ。人通りも少なく先ほどの治安維持部隊の一員や家族で住んでいる市民たちがいる場所に比べて夜はひっそりとしている。道中すれ違う人もおらず、家についてる灯りも少ない。こういうところでも格差が現れている。

 鍵を探して玄関のドアを開けようとしたところで違和感に気が付いた。鍵がかかってない。明かりはついていないが人のいる気配がする。デビットは玄関わきに立てかけていたバットがある事を確認すると、すぐにそれを手に取った。

 じっと暗闇に目を凝らすと、僅かn光る二つの目がこちらを覗き込んでいた。そして、その両目は虹色に輝いている。

「誰だ、そこにいるのはわかっている!」

 声を張り上げるが僅かに震えていた。暗闇で覗く二つの目にデビットは見覚えがあった。紛い者になった息子の目、通報した自分に復讐に来たのかとデビットは思った。

「このクズが……よくももぬけぬけと戻ってこれたな!」

 息子の顔を思い出して、デビットは頭に血が上った。紛い者になった息子のせいでツキに見放されたと彼は思っていた。その腹いせでいつもそうしていたように、息子を殴りつけようと手を振り上げた時だった。

 がくんと手に衝撃が走り、バットを持っていた腕がありえない方向に折れ曲がった。何が起こったのか理解できず、デビットは折れた腕を見た後。無言で見つめる二つの目の方へ顔を向けた。

「何しやが……」

 デビットが言い終わる前に、紛い者の超能力が彼の全身を捻じ曲げる。何が起こったのかもわからないうちにデビットの意識は消え、床の上に倒れた。

「おおい、みんな手伝ってくれ。こいつを中に入れないと」

 紛い者の少年はこの家に帰ってきた男の身体を引っ張って家の中に引きずり込む。その間に周囲を見渡して誰にも見られてない事を確認する。

「せっかく太陽都市に入れたのにフライシュハッカーはここで待機してろだってさ。まったく……」

「まだ外にいる連中が来るのに、こいつはどうしようか」

 太陽都市の一角、そこはいわゆる貧民街ともいう所であった。デビットの様な太陽都市の中であまり必要とされない人間が、最低限の生活をするためだけの場所。誰にも気にされず、顧みられない者たちの住居。どこかにアンチが潜んでいてもおかしくないような場所だった。

 そんな場所で、デビットは紛い者の少年たちによって殺された。彼らは他の都市国家からの輸入品に紛れ込み太陽都市の内部へと入り、フライシュハッカーの命令があるまで、密かに待機する事になっていた。こんな場所は隠れるにはうってつけだった。ただそれだけのためにデビットは殺された。

「命令が来る前に治安維持部隊の連中に気づかれるとまずいな。どうにかしなくちゃ……」

 彼らはデビットを殺したことに何ら感情をわかさなかった。虫けらを殺すかのように無感情で当然の様に、彼らにとってその程度の物だった。フライシュハッカーの言葉を受け、紛い者にとって人間は異なる存在だと言われたことを信じたのだ。

「もう少しの辛抱さ。どっかの部屋に押し込んでおけばいい」

 デビットの死体を引きずり浴室に押し込む。どうせ気づかれる頃にはこの都市が自分たちの物のなっていると、紛い者の少年たちは思っている。そして少しずつ、着実に太陽都市の中に紛い者たちが集まってきていた。

 

***

 

「くそっ! 開け、開けー!」

 デーキスは格子を揺さぶって叫ぶ。疲労と焦りのあまり超能力が使うことが出来ず、いたずらに時間だけが過ぎていく。

「おい、誰か来るぞ」

「あんまりうるさいから見張りが来たのかも」

 階段を誰かが下りてくる。アラナルドとデーキスは身構えるが、姿を現したのがウォルターだと気づいて驚いた。

「よぉデーキス、こんな所に放り込まれたってのにまだ何かしようとしてるのかよ」

「ウォルター……!」

 知っている顔が出てきて驚いたが、嬉しいという気持ちはわかなかった。元はと言えばデーキスとハーブがあっていた事をフライシュハッカーに教えたのはウォルターだった。

「フライシュハッカーの奴が太陽都市に行ったことは知ってるか? もうすぐ何か大きなことをおっぱじめる気みたいだぜ」

「知っているよ。太陽都市を乗っ取ろうとしてるんだ」

「そうか、今も紛い者を太陽都市に送り込んでいる。お前はどうするつもりだ?」

「そんなこと絶対やめさせる」

 ウォルターが何を企んでいるのか表情を見ても考えが読み取れない。どうしてここにやって来たのか、何の目的があってデーキスに話しているのか。聴きたい事を我慢して、デーキスは最低限の答えしかしなかった。

「そんなことして何の意味がある? フライシュハッカーを敵に回すつもりか?」

「このまま黙って見過ごしたら、紛い者にとってもとてもよくうないことがおこると思う。だから何としても太陽都市に行って彼を止めなきゃなんだ」

「良くない事が起こるか……」

 何か思う所があるのか、ウォルターは表情を曇らせる。

「もし、君が止めるつもりでも、ボクは絶対に止まらない」

「頑固だな。前にもそんなことがあったな。そうやってお前は自分の考えを曲げなかった」

 ウォルターが近づき格子を挟んでデーキスと向かい合う。手を差し出して何かしたかと思うと、ウォルターは鍵を開けてデーキスたちを解放した。

「行けよ」

 思いがけないウォルターの行動にポカンとしたデーキスたちだったが、アラナルドが口を開いた。

「一体何が目的なんだ? ここに閉じ込められた君が原因なのに、今度はボクたちを逃がすなんて……」

「言ったところで信じてもらえるとは思わないけど、オレはこんなこと望んでいなかったんだ。いや、お前たちがどうなるかすらも考えてなかったよ」

 未だ信じきれないというアラナルドだったが、デーキスは格子から出てウォルターの顔を見た。

「ウォルター、ボクたちはフライシュハッカーを止める。手伝ってくれるかい?」

 デーキスの言葉を聞いて、ウォルターは目頭が熱くなった。ようやく自分の犯した事が許された気がした。鼻をすするとウォルターはいつもの態度に戻った。

「しょうがないな……兄貴分のオレが手伝ってやるよ」

「デーキスいいのかい?」

「うん、ウォルターの事はよく知ってるつもりだから、この行動が嘘じゃないって分かるよ。」

 たった三人だけだが、フライシュハッカーを止められるかもしれないとデーキスは思った。

「ちょっと待ってよ」

「ボクたちも連れて行ってくれよ。フライシュハッカーの奴に仕返しをしたいんだ」

 一緒に捕まっていた双子が声を上げた。意外な同行者も増えたが味方が増える分には喜ばしい事だ。太陽都市に戻り、フライシュハッカーを止める。仲間たちと共に階段を上がって地上へと出る。

「見張りはいない。逃げるなら今の内だ」

 そのまま前のように下水を通って太陽都市へと向かおうとしたが、外に出た所で一人の少年がデーキスたちの前に立ちふさがった。フライシュハッカーの部下ニコだ。怯えの隠しきれない表情だが、フライシュハッカーの邪魔をさせないという決意が感じられた。

 

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