No.1035324

竜王復活

vivitaさん

SANATによる武器商人ノーチェ討伐宣言。
追いつめられたノーチェは、LAへと戦火をひろげた。
LAを守るため、ルシアはSANATと共闘する。

アグニレイジ率いるバルクアームα部隊と、ジアース率いる第三世代ヘキサギア部隊が激突する。

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2020-07-12 20:38:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:592   閲覧ユーザー数:591

「マズイ!マズイマズイマズイマズイマズイ……!!!!」

 

 ノーチェが、艶やかな黒髪をみだしふるわせた。

 とんでもない失敗をしてしまった。たった一瞬ひらいた回線から、隠していたすべてをSANATにひきぬかれた。喪失した規格外兵装―インペリアルフレイムを持っていることを知られてしまった。

 完全にSANATを怒らせた。じきに討伐隊がやってくるだろう。

 

 対抗しようにも、手元の戦力はとぼしい。時代遅れの兵器―バルクアームαやその追加武装がほとんどだった。ルシアとオルフェを罠にはめるために、金を使いすぎたのだ。

 

「インペリアルフレイムの完全復元はむずかしいが…それでも形にはなる。

問題は私は1人で、敵は大勢ということ。敵100機を焼き払っても、200いたら意味がない。

再びインペリアルフレイムをはなつ前に殺される…!

さらにはオールインジアース!!これはもう、詰んでいるっ!!」

 

 ノーチェはLAへとつながる秘匿回線をひらいた。LAの研究者、ワームが端末に映しだされる。

 

「これはこれはノーチェくん。先日はすてきな実験サンプルをどうも。」

 

 動揺をきづかれないように呼吸を整えて、あくまで優雅にうつくしく。

 ノーチェは、ふるえをおさえるために愛する人を想った。

 そう、恐れることはない。むしろ楽しむべきなのだ。この足掻きが成功すれば、騎士ルシアを苦しめることができる。清らかで優しいあの人が、私の邪悪を受け止めてくれる、これ以上の幸せはない。

 

「…SANATの軍勢が、LAへとむけて進軍している。目標は先日あげた実験サンプルよ。

リトル。いくら薬漬けにしても壊れない、新たなる強化兵士の可能性…。

アグニレイジをうしなったSANATは、LAが新たな力を得ることを恐れている。

 

とうとう私たちは、あのSANATを追い詰めたのよ。あとはとどめをさしてしまうだけ。

ワーム、私の軍隊を買うつもりはない?」

 

 悪辣非道の魔女が、他人を助けることなどありえない。

 ワームは、ノーチェが自分を利用しようとしているのだと察した。しかし彼は、ノーチェの誘いを断らなかった。

 

「我が親愛なる同士、きみの詐術に乗ろうじゃないか。

私の研究、私の非道をSANATは許さない。だが、きみは許す。

人類のために生き残るべきはどちらか、火を見るよりも明らかだ。」

 

 ワームの背後で、巨躯がうごめく。

 巨大な翼がひろがる、四本の脚が大地を踏み鳴らす。聖剣レイブレードの輝きが、大気を青く染めた。

 歪な形状へと変異したキメラ型ヘキサギア、レイブレードグライフ。その復元がいま終わったのだった。

 

***

 

「バカなことを…!VF軍の侵攻ルートは、完全に我々の基地から外れている!

これはLAに対する軍事行動ではない。経過を観察する必要はあるが、いきなり攻撃するなど!」

 

 LA基地。上層部をまじえた会議で、トロスが声を荒げる。しかし、彼の言葉にうなずくものはいない。

 

「熱砂の暴君オールインジアース。かの機体が動くとなっては、うってでるしかあるまい。」

 

 上層部の1人が静かに語る。トロス以外のみなが、その言葉にうなずいた。

 

「…わかっているのか?手を組もうとしているのは、あの武器商人ノーチェだぞ。

LAのガバナーや市民たちが、なんど傷つけられ殺されてきたか。忘れたわけではあるまい!」

 

「竜撃戦によるアグニレイジの討伐、新たな強化兵士の可能性、ウィンドフォールによる潜入工作。

我々がVFを追い詰めていることは明白だ。人類のため、このチャンスはものにする必要がある。

ここは人類同士、遺恨を忘れて手をとりあうべきだろう。」

 

 武器商人ノーチェとの合同作戦にむけ、みなが準備をはじめた。

 この戦いに勝てば、LAは2つの規格外ヘキサギアを有することになる。

 兵士たちの瞳は、希望に燃えていた。

 

「このままではまずい。ノーチェはかならず裏切る。

ジアースやグライフを奪取し、自分のものとする算段をたてているにちがいない。

規格外ヘキサギアがやつの手にわたれば、天変地異にも勝る災厄がおこるぞ!」

 

「仲間に犠牲はだしたくねえ、なんとかする方法はないのか?」

 

 ブランカに問われて、トロスが腕をくむ。悩んでいるようだった。

 

「…1つ手はある。だが、この手をとっていいものか。」

 

 トロスが端末をとりだし、みなに見せる。

 表示されているのは、紅いひし形の紋章。SANATによる宣戦布告の日、人類へとくばられた連絡用コードだった。起動すれば、SANAT本人とつながることができる。

 しばらくの間、沈黙がながれた。これはLAに対する裏切りで、自分の心に刃をむける行いだった。

 SANATとの間には、おおくの戦いがあった。おおくの敵を殺し、おおくの友を奪われた。戦争がはじまったころならば、まだ手をとりあえただろう。多くの悲劇がすぎさったいま、その断絶はあまりに深い。

 

「やるしかあるまい。人々を救い守る。その意志のもとでなら、私はSANATとも手を組む。」

 

 ルシアが沈黙をやぶる。語る言葉は、3人の胸をつらぬいた。

 しかし、トロスとブランカも頷き、ルシアの手をとる。3人は拳をあわせ、LAを守ることを誓った。

 鶏の騎士コケコ卿、虫混じりの獅子ミルコレオ、ロードインパルス・ロボ、小型犬ヘキサギア・シース。 ヘキサギアたちもまた、互いの決意をたしかめるように吼えた。

 

***

 

 空飛ぶ顎モーターパニッシャー、万能の雷竜ボルトレックス、猛突の破壊神デモリッションブルート。

 VFの機械獣たちが荒野を駆ける。

 

 かなたに相対するのは、ヘテロドックスの白いバルクアームα部隊。

 堅牢な装甲と太い四肢をもつ人型ヘキサギア。ICS追加装甲で、その防御力はさらに高まっている。

 

「突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 SANAT率いるVF部隊と、ノーチェ率いるヘテロドックス部隊。その戦いの幕が切って落とされた。

 

 整列したバルクアームが、膝立ちで大型砲をかまえる。

 <百拾式超長距離砲 叢雲(ムラクモ)>。バルクアームほどもある大型火器が、いっせいに発射される。

 

 おおくの第三世代ヘキサギアが、掃射を避けきれずに落ちた。

 

「いけるぞ!この距離でならば、俺たちが有利だ!」

「弾代は気にしなくていい!落とせば落とすほど報酬が増える、撃ちまくれ!!」

 

 しかし、第二射…第三射…回数をかさねると、状況が変わる。

 

 SANATの加護をうけて、VF部隊のゾアテックスが全開した。射撃データを学習し、動きを修正する。

 第三世代ヘキサギアたちが、たくみに砲撃を避けはじめた。かすり傷ひとつしなくなる。

 

「反撃開始だ、神聖なるVFの戦いをみせてやれ。すべてはSANATのために!」

「SANATのために!」

 

 ボルトレックスの両肩が青く光った。プラズマキャノンが連射され、バルクアームの装甲を焼く。

 空をゆくモーターパニッシャーからはセンチネルが飛び降りた。バルクアームのコックピットをこじあけて、グレネードをほうりこむ。

 

 堅牢なバルクアームたちは猛攻に耐えるが、ろくに反撃することができない。

 ゾアテックスの機動力に、翻弄されていた。

 

 とつぜん機械獣たちが、なにかにふるえて怯えだした。圧倒的優位をすてて、散り散りに逃げていく。

 はるか天上からさしこむ、一筋の赤い光。規格外兵装、インペリアルフレイム。

 灼熱の炎が、すべてを飲みこんだ。

 

 赤い竜、アグニレイジに乗ったノーチェが笑う。

 

「これは現実?それとも夢?なんて、なんてすばらしい!

100を超えるヘキサギアが、たったの一撃で朽ちていく。しかも……ふふっ……。」

 

 バルクアームの通信回線から、悲しみ憎む声が聞こえてくる。ノーチェにはそれが、美しい歌声に聞こえた。

 インペリアルフレイムの復元は不完全だった。以前のように、一撃で敵を滅する力はない。

 みな、半殺しで焼かれつづけている。

 

「アグニレイジ、さいっこうに私好みの機体じゃない!」

 

 生き残ったデモリッションブルートが、アグニレイジへと銃口をむけた。ひろったムラクモを装着し、天上のアグニレイジを狙い撃とうとする。

 銃撃によって、ムラクモがふきとんだ。

 炎の中から、ゆっくりとバルクアームたちが歩いてくる。ICSの赤い輝きが、黒ずんだ装甲を彩る。

 ブルートがバルクアームへと突撃した。バルクアームが両腕で角をつかみ、巨躯を受け止める。

 

 半壊した第三世代ヘキサギアたちが、バルクアームによって破壊されていく。

 それを阻むように、長い長い尾がふるわれた。

 

『雇われの戦士たち、命が惜しくば立ち去りなさい。』

 

 SANATの声が響く。

 バルクアームやブルートの数倍も大きく、厚い装甲。熱砂の暴君、オールインジアース。

 アグニレイジとジアース、2機の竜王がいまむかいあった。

 

***

 

 戦いがはじまるすこしまえ、うち捨てられた教会にオルフェはいた。

 ミラーの義体は修復され、いまは人と変わらない姿をしている。

 

「旅の人。もしよろしければ、食事でもいかがですか?」

 

 とつぜん声をかけられて、オルフェは驚いた。

 廃墟とばかり思っていたが、人が住んでいたらしい。

 みると、シスターがオルフェに食事をさしだしている。

 

 オルフェは首をふった。

 たとえパラポーンでなかったとしても、受けとらなかっただろうと思った。

 SANATを裏切り、SANATに見捨てられた自分には、もうなにも価値はない。

 

 シスターは食事を置くと、教会の掃除をはじめた。

 

「なぜ、そんなことをする?」

 

「なぜと、もうしますと?」

 

「知っている。かつては指折りの宗教だったが、もうほとんど信者はいない。

おまえたちの神は、危機にあらわれなかった。信徒は神を裏切り、VFやLAへとくだった。

神を裏切り、神に見捨てられた。もう、おまえの献身に意味などあるまい。」

 

「自らの信仰に、迷っておられるのですね。

私も、かつてはそうでした。信仰を捨てて、主を裏切った。

わるくない暮らしをおくりましたよ、幸せだった。でも、気づくとここにもどっていた。

 

こんなこと、言っていいのかわからないけど…私が主を信じるのは、私のためです。

報いがなくても、真実でなくともいい。主を信じていたいと、私の心が求めるのです。

だから、私はここにいます。」

 

「己の心が、求める。」

 

 シスターはまた掃除へともどった。

 オルフェは心の中で、彼女の言葉をくりかえす。己の心が、求めるもの。

 

「私の心。私の歌は、まだいまも…。」

 

 どこからか、季節はずれな鈴虫の音が聞こえた。


 
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