No.103036

恋姫†無双 真・北郷√13 後編

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・12修正。

2009-10-25 08:16:40 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:48087   閲覧ユーザー数:31740

----------------------------------------------注意----------------------------------------------

 

この先は、覚悟を決めた覇王、北郷一刀の気持ちになってお進みください。

 

好みが分かれる展開になっております。先に申しますと、悲しい展開です。

 

ですので、それが嫌だ! という方は見ない事をお勧めします。

 

予定では、この先は私の崩壊作品を受け入れてくれた方のみの公開になります。

 

理由は個人的なものですが、最近の状況をただ悲しいと感じたからです。

 

お気に入り 14話 光で照らす優しき覇王、闇で苦しむ歪んだ仁王 本編

お気に入り 15話 大器安成 その後のお話

一般に公開 あとがき 言い訳+秘密のおまけ あとがきだけは既に完成してます。

 

上記の順でこのルートは終了します。

 

 正直、凄く悩みましたが、このプロットは、00話からのもので、これを変えると辻褄が合わなくなる為、強行させて頂きます。明るいままだと思われた方、申し訳ないです。

 

この拙作の最大の山場かも知れません。説明も多少、強引です。へたくそです。

 

では、了承された方だけお進みください。

 

ただ、一刀達を心配して現われた貂蝉の最後の台詞…それが残される希望です。

 

 

恋姫†無双 真・北郷√13 後編

 

 

 

記憶の狭間、狭間の記憶

 

 

 

鄴城 一刀私室

 

『記憶の狭間』

 

/一刀視点

 

「……愛紗にも何かあげないとなぁ。最初の貂蝉との時も愛紗だけ貰えなかったし……」

 

 あれ? なんで貂蝉は広い大陸のあそこに丁度いたんだ? それに会っていきなり恋の武器の話とか良く考えたら凄く不自然だし、なんとなく余所余所しかったような……?

 

 ついて来ていたんだろうか? 

 

 そして一刀様と聞くと何かが引っかかる……っといけない。また考えすぎた。夜も遅いし久しぶりに一人で眠れる……さっさと寝よう!

 

 俺は布団を頭までかぶって目を閉じる。程なく睡魔が襲ってきた……。

 

……

 

夢 記憶の再現 始まりの外史の終端

 

泰山の頂上

 

「終端は始まってしまった。あとは象徴である鏡を取り返すのみ、よ」

 

「あの鏡を取り返せば、この世界は終わらなくて良くなるのか」

 

「……終わらなくても良くなるんじゃない。……新たな外史として新生するの」

 

「……」

 

 遂に始まってしまった終端。そして俺の問い掛けに微かな逡巡の後に答えた貂蝉の言葉。その言葉が時間をかけて頭の中に染み込んで来た事で、俺は漸く気付くことができた。

 

 貂蝉の言葉、それは物語の再生と言う事だ。

 

 俺と愛紗……皆との物語がありつつも、更に別の物語が新しく生まれるということ。

 

 そしてこの世界はもはや終わりしか迎えられない事。

 

「だけど……っ!」

 

 例え終わりしか迎えられない……終わりと決定づけられているのだとしても、何もせずに終わることなんて出来やしない。

 

 俺はこの世界を終わらせたくないと、強く思っているのだから。

 

 俺という存在に『想造』されたこの世界。

 

 俺というファクター(為す者、作る者)の役割。愛紗達は作られた存在……。

 

 そして突端だった愛紗、鈴々、朱里。……世界の鍵は銅鏡。

 

 

 銅鏡を前に想念を始める。俺がこの外史で最初に出会った少女……愛紗を思い描く。

 

 淡い光を放ち始める銅鏡。その光はこの物語の突端に放たれた光。白色の光に包まれながら、俺はこの世界との別離を悟った。

 

 自分という存在を形作る想念。その想念が薄れていくことを感じながら、それでも俺は心の中に愛しい愛紗を思い描く。

 

 ずっと俺の傍に居てくれた心優しい彼女。

 

 この物語の中、俺を支え、時には励まし、叱りつけてくれた大切な女性。

 

 その少女との別れの刻が迫ってくる。

 

 俺という存在の境界が薄れていく恐怖の中で、ただ愛紗に会いたいと願う。

 

 このまま消え去るのは嫌だ……。約束したじゃないか。愛紗の前から消えることはしないと!

 

 心が引き裂かれそうなほど痛い。その痛みが俺を突き動かし、白光の中でも無意識に手を伸ばす。

 

 愛しき存在を求めるように。

 

「ご主人様っ!」

 

 薄れていく意識の中、聞こえる愛しい声。その声は俺が無くしたくないと切に願う大切な女の子の声。

 

「あい……しゃ……っ!」

 

 俺という存在を飲み込もうとする無慈悲な白光。逃げる事の出来ないその光に飲み込まれながら。俺は必死に手を伸ばす。

 

「あい……しゃ……っ!」

 

 掠れる声。すでに痛みさえ感じない自分の体に恐怖を覚えながら、たった一つの感情だけを爆発させて、愛紗にむかって手を伸ばす。

 

 離れたくない!

 

 

 胸の中で木霊する叫びは声にならず、ただいたずらに悲哀をかき立てる。

 

 離れたくない! 離れたくない! 離れたくない! 離れたくない! 離れたくない!

 

 今まで過ごした時間。今まで過ごした記憶。そして今まで抱いていた想いが消えていく。

 

 まるで白く深い闇に覆われていくように、薄れていく。

 

 だけど……愛紗との思い出を失いたくない。

 

 自分の存在が消え去る運命だとしても、俺が愛紗を愛し、そして愛紗が俺を愛してくれたという事実は厳然としてあるのだから……!

 

 たとえそれが決められた物語であったとしても。

 

 今、俺の心の中に渦巻く感情が、仕組まれたものだとは思わない。

 

「あい……しゃ……っ!」

 

 何よりも大切な女性の想いを欲し、俺は己の全てを賭けて声を絞り出した。

 

「愛紗ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」「一刀さま……っ!」

 

 思いのたけを爆発させるように、愛しき互いの名を叫ぶ。だけど……届かないのか……。

 

 そして――――――。絆は強く。固く結ばれた――――――。

 

「「恋っ!?」」

 

 駆けてきた恋の手によって……。

 

 その時、俺の思考は視界に飛び込んできた無口な恋から、陽気な霞。口うるさい詠に、心根の優しい月。敵対し、文句を言いながらも仲間となり、俺を助けてくれた華琳達。王としての責任、役割……そういったものを教えてくれた蓮華達。力の無かった俺を助けてくれた、義侠に富んだ少女、公孫賛。街のみんなを次々と思い出していた。だが……。

 

 誰か一人忘れてるような……意識が遠くなる……愛紗と恋、二人が手を握っている。

 

……

 

 無意識に思考が進んでいく……新生する世界の想念を描いている最中……渦巻くのは後悔と願い。

 

 俺は気を失いながらも想念で外史を描き続ける。……失ってしまった世界……救えなかった友人……俺を頼ってくれた民……平和を願う心優しいみんな。

 

 今度こそみんなを救いたいと……願う。

 

夢 了

 

……

 

 そこで俺は目覚める……。

 

「思い出した……ここは俺が『想造』した新たな外史……皆と一緒に暮らすための世界……」

 

 だからこの世界は消えない。貂蝉も言っていた。

 

『ご主人様の使命である『大陸を平和に導く』を達成しないと、ここからはでることができないの』

 

『でることができない』平和に導いても終わらないと言う事だ。出る事が出来るだけ。

 

 だから安心して俺はこの大陸を平和に導けば良い。平和、治世、乱世を治める、つまり元の状態。一つの国に……。

 

 それぞれ主張は違っていたけど、みんなが平和を願う心は同じ。ならばひとつになれるはずだし、俺が消える事も世界が消える事もない。ずっと皆と一緒に居られる。

 

 だが……たしか……? 愛紗が一刀様と叫んだ時に見た恋は……? くっ……思い出せな!?

 

「……たしか、恋は大怪我……いや死にかけて……」

 

「……やっぱり、思い出しちゃったのねん」

 

「!? 貂蝉っ!」

 

「ご主人様、今から話す事を落ち着いて聞いて頂戴……」

 

 俺はいつになく真剣な顔をした貂蝉の話を聞き始めた…

 

 

おまけ

 

拠点 愛紗08

 

鄴城 愛紗私室

 

『狭間の記憶』

 

/愛紗視点

 

「ご主人様から私だけ何も貰っていない……そういえば最初にここに来た時にも貂蝉から私は何も……」

 

 ……む? 恋も願ったわけではない。お詫びと言っていた。お詫び? ……なぜか心に隙間が空いたような気分になる。何か大切な事を忘れている。そんな落ち着かない気分だ。

 

「今日は遅い。明日の朝、考えよう……」

 

 私は静かに眠りについた。

 

……

 

夢 記憶の再現 終端の光

 

「ご主人様っ!」

 

 白い光に包まれて消え去ろうとしているご主人様の姿に、心に深く鋭い痛みが走る。走馬灯のように心を駆け巡っていく思い出が、私を強く強く突き動かす。

 

「そんなのいやです……! 消えないで!」

 

「あい……しゃ……っ!」

 

「約束したのに……っ! ずっと……ずっと一緒に居るって約束したのにっ! 消えないで……っ! 戻ってきて……っ! 私を! 私を一人にしないで……!」

 

 ご主人様が消えてしまう。私の前から消え去ってしまう。悟ってしまったその事実は、私の心にギリギリと爪をたてる。心が壊れそうに痛い。

 

 そんなのは嫌……っ! 私の全てを捧げられた愛しい人。暖かな眼差しが好き。優しい声音が好き。大好きで、大好きで、大好きで。私の存在する理由となったあの人が、消え去るなんて私は絶対に認めない……っ!

 

「行かないで……っ! 帰ってきて……っ!」

 

 言葉を出しても意味は無いのかも知れない。けれど私は無我夢中で手を伸ばした。

 

「消え去るからこそ、仲間のために身体を張るのだ。……それこそが我等が武の誇り」

 

 背後から星の声が聞こえる。そして私達の為に戦う仲間たちの声も。その声に後押しされるように、私は心の底から声を振り絞ってご主人様を追い求める。

 

「ご主人様っ!」

 

「あい……しゃ……っ!」

 

 すでに目が空ろなご主人様はそんな状態でも私を求めるように手を伸ばす。

 

 

 二人をへだつ距離は遠いけれど、愛を貫こうとする私は諦められない。ただ、ご主人様の温もりが欲しいと。その想いと共に私の胸の中に溢れだす思い出。

 

 初めてご主人様と出会い、言葉を交わしたあの瞬間(とき)を。

 

 好きという言葉を、一生分の勇気を振り絞って伝えたあの瞬間を。

 

 己の存在全てを捧げ、ただ純粋に愛し合ったあの瞬間を。

 

 その一瞬の時を積み重ね、深めてきた愛だけを信じて私はご主人様を強く求める。どうかこの絆が消えませんようにと久遠を願う。

 

「愛紗ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」「一刀さま……っ!」

 

 思いのたけを爆発させるように、愛しき互いの名を叫ぶ。届かないなんて……嫌っ!

 

 そして――――――。絆は強く。固く結ばれた――――――。

 

「「恋っ!?」」

 

 血を流しながらも駆けてきた恋の手によって……。

 

「……二人は離れちゃ……駄目」

 

 恋が力を振り絞り、私達の手を近づける、恋の口から咳と共に大量の血が流れ出す。

 

「……愛紗……恋のこと一杯かまってくれた……大好き」

 

 深い傷を負っているのに、恋は笑顔で私にそう話す。

 

「~っ恋!」

 

 私は涙を流し恋の手を握り返す。空ろな目のご主人様も恋を見ている。

 

「……ご主人様……っ~~いっぱいいっぱいありがとう。……恋うまくいえないけど……」

 

 恋は一瞬言葉に詰まった後、ご主人様に思いのたけをぶつける。自分の死期を悟って……。

 

「……ご主人様……いっぱい……愛して……る」

 

 最後にそれだけを伝えると、恋は綺麗な笑顔で私達二人の手をつなぎあわせた。

 

 役目を終えたように目をつぶる恋の体が崩れ落ちる。その瞬間、ご主人様が瞳を見開き、

 

「「恋っ!」」

 

 ご主人様と二人、空いている方の腕で脱力した恋の両手を……掴んだ……そのまま私達三人は、一際輝く閃光の向こう…世界の狭間に。

 

 

狭間の世界

 

「これは困った事になったわね……」

 

「……っ!? 貂蝉っ!?」

 

 ドスの聞いた気味の悪い声音に振り返ると貂蝉がいた……心臓に悪い。

 

「はぁ~い♪ 関羽ちゃん。あたし、ご主人様が心配でついてきちゃったわ♪」

 

「貂蝉、貴様っ! 干吉どもの仲間の分際で、良くも私達の前に姿を現せたなっ!」

 

 よくもぬけぬけと……と睨みながら青龍偃月刀を構えると。

 

「は~いは~いは~~い。それについての苦情は後で受け付けてあげるから、今はあたしの話、聞いてくださる?」

 

「話だと?」

 

 見渡しても地面さえ無い白だけの世界。この世界の説明だろうか……私は武器を下ろす。

 

「ご主人様達は……本来ならご主人様が元居た、聖フランチェスカとは似て非なる世界に関羽ちゃんと行くはずだったの……。でも、予期せぬ事態が起こって全員で行く事に変更され、外史の想造が不安定になってしまった為、この世界の狭間に落ちた……」

 

 そう言いながら貂蝉は私達の手につながれてぐったりした恋を悲しそうに見る。

 

「……な!? 恋っ! しっかりしろ! 恋! ……ご主人様っ! 恋がっ! 起きてくださいっ!」

 

 私は恋を揺するが意識が無い。わずかに息はあるようだが助からないのは明白……。大量の血が流れ出して気を失いながらも、ご主人様の腕にしっかりとしがみついていた。

 

 ご主人様の方もいくら揺すっても、きつく目を閉じ反応しない。

 

「ご主人様は新しい外史の想念を描いている途中なの……目を覚まさないわ」

 

「貂蝉っ! 恋は!? 助けてやってくれ! 頼む! 私とご主人様を……繋いでくれたんだっ!」

 

 届かないと諦めそうだった時、その手を結んでくれた恋。私は涙が溢れて止まらない。

 

「……そうね。普通は無理だけど、まだ突端は開かれていない狭間の世界。そしてご主人様は世界を想造している最中。ならば……私に出来る範囲で関羽ちゃんの願いを叶えましょう。傷を塞げれば良いんだけど……ここまで深いと無理ね。残りの命の灯火を使って呂布ちゃんを再構成するしかないわ……」

 

 貂蝉が念を込める。恋の体が光の霧のようになり、再び人の形を作ろうとするが……。

 

「やっぱり力が足りないわ……何か、想いの力。想いの詰まったものでもあれば……」

 

「想いが詰まった? ……武器! 恋の方天画戟はどうだ! 私の想いも全部使って良い! ……だから、恋を! 大切な恋を助けてくれっ! ……たのむぅ、お願いだ……うぅ」

 

 貂蝉の呟きに武人の私は武器を思いつく。想いの詰まった己の半身ならどうかと。それでも足りないなら私の想いも全て使えと。

 

「そうね。呂布ちゃんのご主人様を守るという想いの詰まった武器。使えそうだわ。関羽ちゃんのその想いも大きいし、もう一度やってみるわん」

 

 光の中から方天画戟が現われ、そのまま光に融けていく。やがてうっすらと恋の姿が現われ始める。ああ……恋、間違いなく恋だ……。

 

「恋……良かった……」

 

 だが、恋を再構成させる為にと想いの力を使い切ったようだ。私は気が遠くなっていく。

 

夢 了

 

……

 

「恋。そうだ、あの『再構成』された時、恋は……小さくなかった」

 

 なんで忘れていたんだろう。恋は私達のために死にそうになって……。そして、一度光の霧になり……貂蝉のおかげで命を取り戻した。それが私の願い……。

 

 私は願いを叶えていた……恋の命を助けるという願い。だが、何故、恋は小さいのだろう。

 

 そしてお詫びとは……武器を使ってしまった事に対するものなのだろうか……。

 

「夜も遅いがご主人様にお話してみよう……何かの手がかりになるかも知れん」

 

 私はご主人様の部屋の前に行き『のっく』をしようとするが……。

 

「ご主人様、今から話す事を落ち着いて聞いて頂戴……」

 

 貂蝉の声? いつになく真剣な……私はそのまま聞き耳を立ててしまった……。

 

 

記憶 恋『00』

 

始まりの外史終端

 

『仮初の恋の記憶』

 

/『隠されていた恋視点』

 

「……ご主人様……愛紗……さよな……」

 

 恋はこのまま消える。でも最後は幸せだった。最後に二人を目に焼き付けたい。でも……。

 

「……きて! 私を! 私を一人にしないで……!」

 

 恋は不意に聞こえてきた愛紗のその叫びに心を強く突き動かされる。それは昔の恋の心の叫びのようで……。

 

 大好きなご主人様と愛紗が悲しんでる。ひとりぼっちだったあの時の恋のように……。

 

「愛紗ぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!」「一刀さま……っ!」

 

 許さない! 二人を引き離すなんて……今度は恋がご主人様達に恩を返す番。

 

 二人の手はこのままじゃ届かない。でも……他のみんなは気が付かない。なら恋が行くしかない!

 

「……駄目……二人を引き離すなんて……駄目っ!」

 

 二人に手を貸す為に、恋は力の限り走った。

 

ザシュッ

 

 恋の背中に何かが深く突き刺さる。……でも間に合うなら恋はどうなっても良い。

 

「……くっ……邪魔」

 

 恋の背中を刺したのは白いやつ。でも時間が無い。恋は速く早くと二人の近くに走る。そして世界が消える前に大好きな二人の手を取る事が出来た。

 

「「恋っ!?」」

 

 大好きな二人が叫ぶ。恋はもう駄目……血が流れすぎた、身体が震える……寒い。でも、

「……二人は離れちゃ……駄目」

 

 力を振り絞り二人の手を近づける、背中の傷は深い(傷は肺に達している)咳が出ると口から血が沢山流れてきた。もう恋は死ぬかも……でも二人は間に合った。嬉しい。

 

「……愛紗……恋のこと一杯かまってくれた……大好き」

 

 恋は世話好きの愛紗がお母さんみたいで大好き。

 

「~っ恋!」

 

 涙を流して恋の手を握り返す愛紗。空ろな目のご主人様が恋を見る。

 

 

「……ご主人様……っ~~いっぱいいっぱいありがとう。……恋うまくいえないけど……」

 

 そして恋を寂しかった場所から救い出してくれたご主人様。とっても大好きな愛しい人。恋のお父さんみたいな優しい優しい……心が暖かい人。世界で一番大切な恋の居場所……。

 

「……ご主人様……いっぱい……愛して……る」

 

 最後に伝えたかった言葉は沢山ありすぎて上手くいえなかったけど、ただありがとう。そして沢山愛していますと・・・…もう思い残す事が無いから、恋は笑顔でお別れ出来る。悲しい顔は好きじゃない。

 

 そして二人の手をつなぎあわせた。 良かった……これで二人はずっと一緒……。

 

 恋は安心して目をつぶる。疲れた……もう動けない。体から力がどんどん抜けて何も分からない。寒い……寂しい……。

 

「「恋っ!」」

 

 大好きな二人の温かい手が恋の両手を握ってくれてる。もう寂しくない。暖かい。二人の声を聞けたから恋は安心して眠る――――――。

 

……

 

「恋……良かった……」

 

 愛紗の声と倒れる音が聞こえて、恋は目を覚ます。……ご主人様と愛紗が倒れてる。恋の身体を見ると半分透き通ってる……恋、死んだ? ……難しい顔の貂蝉が恋を見てる。

 

「やっぱり存在が安定しないわ……あとは呂布ちゃん本人の想い次第ね。呂布ちゃん、あなたは何を願うのかしら? ひとつだけ叶えられるわ」

 

「恋の願い。平和な世界でみんな仲良し、そこで恋はご主人様と愛紗の子供になりたい」

 

 恋がお願いすると、体がどんどん小さくなって透き通った体も濃くなってきた。

 

「……体が小さくなったから、構成に必要な力が少なくなって安定したようね……」

 

 貂蝉が良く分からない事を言う。今、この真っ白な世界で起きているのは貂蝉と恋だけ。

 

「呂布ちゃん。その体はあたしが関羽ちゃんのお願いを叶えて、無理やりこの世界につなぎとめた仮初の存在。これから行く新しい外史に居るみんなの記憶が戻って、あなたが小さいと不一致を感じれば、世界はそれを修正しようとして、あなたを元に戻そうとする。でもそうなれば存在を維持する事が出来ない……消えてしまうわ」

 

「………………(コク)ご主人様と愛紗がずっと一緒なら良い。恋はどうせ消えてた」

 

 難しい事は分からない。愛紗がお願いしてくれて今は生きてる。恋は愛紗が大好き。体の中に愛紗の優しい気持ちがいっぱい入ってる。だからきっと恋は幸せ。……それに恋は璃々がいつも肩車してもらってるのが羨ましかった。恋もご主人様に沢山甘えられる子供が良い。

 

 

「そう……ここにいる三人以外は、記憶を失ってしまうようだから、まあいいとして……関羽ちゃんからこの狭間での記憶を消しましょう……彼女は嘘をつけないし。あと、ご主人様は……外史の想造中は無理ね」

 

「……(コク)」

 

 恋がしばらく消えないのは分かった。愛紗が苦しまないのも。ならそれで良い。

 

「でも呂布ちゃんの武器は使って無くなっちゃったのよね……何か代わりはないかしら」

 

「……ごしゅじんさまにきめてもらう」

 

 困った時はご主人様。恋の身体が透けなくなると、上手く話せなくなった……子供も大変。

 

――『ずっといるって……言ったじゃない…………! ばか……ぁ……!』――

 

 ? ……遠くから声が聞こえる。泣いている女の子、すごく寂しそう。あの子もひとり。

 

「……れんといっしょ……こっち」

 

 恋が呼んだらご主人様に重なって消えてく……良かった。これであの子も寂しくない。ご主人様は暖かいから。

 

「ご主人様の新たな外史の想造が……終わったみたいね、始まるわ」

 

「……(コク)」

 

「さて……このままご主人様に、この新しい外史の説明をしていこうかしら……ご主人様だけ願い事を聞かないのも不公平ですものね……」

 

「……ちょうせん……ひみつ」

 

 暗い顔の貂蝉に、今の事は二人には言わないでと恋は短くお願いする。

 

「ええ……わかってるわ……ぐすっ。……さぁ! いきましょう♪」

 

「(コク)……すやすや」

 

 貂蝉が少し泣いていたけど顔を上げたら笑顔だった。恋も悲しい顔は嫌い。恋は早速ご主人様の腕にしがみついて寝たふりをする。向こうに着いてご主人様が起きたらすぐに肩車してもらう。今は倒れててできない。でももうすぐできる。璃々みたいに。恋、とてもすごく楽しみ……ご主人様の肩の上。恋の憧れの場所。でも眠くなってきた……。

 

……

 

 四人は光に包まれる。二人は気を失い。一人は狸寝入りをしたまま本当に寝てしまい。そして最後の一人は……管理者としての責務と漢女としての感情を必死に整理して……。ご主人様達に嘘をついてしまうわね……と。

 

……

 

 一刀が想造中、最後に思い出した人物、袁紹の近くへと……新たな外史の突端は拓かれた。

 

 気がついた三人に外史の説明をして、恋の武器の事を相談し、北郷一刀の願いを聞いた。

 

 最後に貂蝉は北郷一刀の『恋が怪我をしていた』という記憶を、願いのついでに消す。己の力不足で、儚く消えてしまう小さな恋が見る夢の時間を……少しでも長くと願って。

 

(みんなの記憶を取り戻す事が呂布ちゃんを消してしまうなんて……悲しすぎるわ)

 

 貂蝉は零れそうな涙を最高の笑顔で北郷一刀から隠して跳躍する。高く高く……。

 

 

鄴城 一刀私室

 

『救い出せた命の対価』

 

/一刀視点

 

「……と言うわけなの。小さな呂布ちゃんは仮初の姿。皆の記憶が戻って前外史と今の姿の違い、不一致を感じてしまえば世界に修正される。元の姿に戻ったら体を構成する力が足りなくなるから……長くは持たないわ。記憶は袁紹ちゃんや趙雲ちゃんのように自然に思い出す事もあるの。だから……もう時間の問題ね」

 

「……周瑜や公孫賛だって死んでたじゃないか。なぜ恋だけ消えるんだっ!」

 

 俺は聞かなくても良い事まで思わず聞いてしまう。そんな事。この外史を造った俺が聞くまでもないというのに……。周瑜達は俺が認識した通りの姿で存在している……問題ない。

 

 だが、恋は想造前……俺が最後に認識した姿に戻る。つまり、皆の記憶が戻る事によって矛盾が大きくなり、俺の想造した世界に消される。そしてそれはもう変更出来ない……。

 

 貂蝉は俺のせいだという事は伏せているが……俺は理解してしまった。

 

 俺が愛紗の次に作り出した恋の想念が……恋を元に戻そうとして……消す……恋が消える。

 

「周瑜ちゃんや、公孫賛ちゃん、他のみんなもだけど、ご主人様の想念で想造されたの。この世界で再び生を受けたって事。でも呂布ちゃんはご主人様と一緒にここに来たから……」

 

「俺が手を握った事で恋は居る者として認識し、愛紗と同様にこの世界では想念は描かれても想造はされていない……。だから仮の姿で再構成って事か……いきなり武器の話をしたのも使って無くなったから。お詫びって言うのは仮の姿の……。皆の記憶が無かったのは……?」

 

 声が震える。無口な恋はそんな記憶を持ちながらいままで過ごしてきたのかと……。だが泣いている暇は無い。今は理解しなければ。恋が消える……その瞬間が近付く事を。

 

「ご主人様達も感じたでしょうけど、記憶を消す白光に包まれたから……。互いを想い手を取り合った三人とは違って、他の皆はほとんど忘れてしまったの。それでも記憶は確かに残っていて、次第に思い出していく。あたしの言葉に良く気がついたわね。そして……嘘をついていてごめんなさい」

 

「いや……あそこで俺達が知っていたら、迷ってしまったかも知れない。だけど今なら迷わない。みんなの願いは平和。恋の願いは平和な世界で俺達と暮らす事。なら……俺が出来るのは、せめて恋が消える前に平和な世界を見せてやる事だけだ」

 

 俺は誓う。恋が消えるとしても……このまま消えるより最後の願いを叶えてやると。

 

「……最後に、見た事も無い人物はどうして? 俺が知らないはずなのに……」

 

「あら、最初に落ちたのは狭間の世界。いろんな外史の想いが渦巻いているわん……。ご主人様が想造中、泣いている曹操ちゃんが見えたわ。多分、曹操ちゃんの周りの子の想いも一緒に……」

 

 ……渦巻く想い。……俺を求める華琳の詩、志在千里はその『想い』だったのか。

 

「……ご主人様。冷静ね……安心したわ。これなら、あたしも来た甲斐があったってわけね」

 

「貂蝉、色々ありがとう……」

 

「切ない漢女心よん……最後まで諦めないでね」

 

 すっと優しげな顔で消える貂蝉。本当に良い奴なんだな……。

 

 俺の申し出をのらりくらりとかわす劉備と話し合う機会を待つ時間はもう無い。

 

「……だったら、俺は進むしかない……恋、必ず平和な世界を見せてやるぞ」

 

 今までの事をひとつひとつ思い出す……恋は幸せだったのだろうか……。

 

『……でも……もっとだいじなりゆう……あいしゃとごしゅじんさま……れんのかぞく。ずっと……ずっといっしょにいたいからっ』03話参照

 

 恋が初めて泣いたあの日。自分が消えてしまう事を知っていた恋は一体どんな気持ちだったんだろう。……ずっと一緒に……いら……れない……恋は……。

 

――――っ

 

 胸が張り裂けそうなほど痛い……恋っ! 恋……心が壊れそうだ……。

 

……

 

「……ぁぁぅ(……ご……しゅじ……んさまぁ……れん……うぁぁぅ)」

 

 扉の外で愛紗は声を殺して泣く。全てを知り、それでも前に進むと決めた尊い主と、進んだ先で儚く消えてしまう……大切で愛しい仲間を想って……。

 

 つづく

 


 
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