No.102172

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #06 続・記念祭典開催中

四方多撲さん

第6話を投稿です。
中日四日目から五日目までをお送りします。
今回は、華琳を!可愛く!という目標で頑張ったら、過去最長、えらい長くなりました……
風はちょっと出すだけで凄い存在感を示すので、劇薬のようだと思いましたww
あと、オリキャラの一人目が出ます。ちょい役ですので、さほど気にならないとは思いますが。

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2009-10-21 00:18:56 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:54107   閲覧ユーザー数:37871

 

 

同盟一周年記念祭典は順調に進んでいく。

 

平和と祭りに沸く成都。

天下一品武道会では春蘭が優勝。

天界衣装お披露目会にて様々な天界の衣装によるファッションショー。

 

誰もがイベントを楽しみながら。

 

その心の内には、彼の面影がちらついていた――

 

「え?」

 

祭典中日(四日目)の早朝。一刀はそう聞き返していた。

 

一刀は自室にて、鈴々と向き合っていた。というかフライングボディアタックで叩き起こされた。

いつものことと言えばそうなので、特に文句も言わず、どうしたのかと声を掛けたのだが。

彼女から帰ってきた返答が、一刀には理解出来なかったのだ。

 

「ご、ごめん。よく聞こえなかったよ。もう一回言ってくれ」

「勉強を教えて欲しいのだ!」

 

「え?」

 

やはり理解出来ない。

 

「勉強が、何だって?」

「だーかーらー! 鈴々に、勉強を、教えて欲しいのだ!!」

 

「え?」

「何回言わせる積もりなのだーー!#」

 

ドゴォンッ! ガタッ! バターン!

 

「げふっ!? う、ううぅ……。ご、ごめんよ。鈴々」

 

寝台に腰掛けていた一刀は、鈴々のパンチ一発、そのまま後方へ吹き飛び、寝台から転げ落ちた。

殴られた腹部の痛みを堪えつつ、寝台に腰掛けなおし。詳しく話を聞いてみると。

 

「お祭りの最後の夜に、チビ助との“勝負”があるのだ。鈴々、すっかりそのことを忘れていたのだ……」

 

鈴々と季衣は、三国会談で会う度に勝負をしている。

その理由は……

 

 

『ねえねえ、兄ちゃん。ご飯奢ってよ~♪』

『だぁー! お兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶななのだ!』

『何だよ、しつこいなぁ……いいじゃん、兄ちゃんはいいよって言ってくれたんだから』

『鈴々は許してないのだ!』

『どうしてお前に許されなきゃいけないんだよ! 大体、流琉の“兄様”には何も言わないじゃないか! 何でボクだけ許されないのさ!』

『流琉は作る料理が美味いからいいのだ! でも、鈴々はまだお前を認めてないのだ!』

『なにーー!? よぉし、いいじゃんか! なら勝負だ!!』

 

 

といった感である。

以降、三国会談で顔を合わせる度に様々な勝負をしているのであった。

単純に一騎討ちから、力比べ、徒競走、山登り競争(つまり長距離走)等々。

 

今のところ、鈴々の全勝である。

力比べはかなり接戦だったのだが。

 

実は流琉などから“大食い”で勝負してはどうかと言われていた季衣だったが、彼女にとって“大食い”とは食事を楽しむが故に大量に食べるのであって、勝負に値するようなものではないらしく、その提案を拒否していた。

 

 

ともかく、鈴々は今回の勝負の内容は“問答”だと前回の三国会談で言われていたのをすっかり忘れていたらしい。

 

「ああ、季衣との“勝負”なのか。へぇ~、今回は知識勝負ね……。って、今日を入れても、あと丸四日しかないぞ?」

「やらないよりマシなのだ! えっと……ねえねえ、お願いなのだぁ…“ぺろぺろ”してあげるから~」

「ぶぅぅぅぅぅぅッ!? そんなおねだり、誰から吹き込まれたッ!?」

「紫苑が、こう言えばいいと教えてくれたのだ」

 

けろりと白状する鈴々。

 

(ええ~い、相変わらずこういう方向で情操教育によろしくないお母さんめ!)

 

「ごほん、鈴々。そこにお座りなさい」

「えー、どうせ座るなら此処がいいのだ!」

 

鈴々は、寝台に腰掛けていた一刀の、その膝に座り込んできた。

 

(あー、柔らかい……ホント、鈴々って体温高めだよなぁ――じゃない!教育的指導!!)

 

ぷにぷにした感触に、思わず主題を忘れかけた一刀だったが、どうにか正気を保ったようだ。

 

「……いいかい、鈴々」

「うん?」

 

一刀は膝に座る鈴々を後ろから抱きつくように、その腹へ両手を回した。

 

「“そういうこと”を、俺へのお願いに使っちゃ駄目だ。確かに誘惑に弱い俺も悪いけど。ああいうのは、鈴々が俺のことを“好きだから”してくれるんだろう? それを俺に対するエサにしたら、“好き”って気持ちが可哀想だろう?」

「そういうものなのかー?」

「そういうものなの。俺といちゃいちゃしたくなったらするものであって、おねだりのエサにしちゃ駄目。分かったね?」

「はーい、なのだ。じゃあ“ぺろぺろ”はまた今度にするのだ。とにかく、鈴々はお兄ちゃんに勉強を教えて欲しいのだ!」

 

(ようやく本題に戻ったか……)

 

安堵の吐息を漏らす一刀であったが。

鈴々は鼻息も荒く、一刀へ勉強をせがむ。相当季衣に負けたくないらしい。

と言っても彼女の場合、もう原因の一刀の呼び方が云々と、負け嫌いが半々になってしまっているのだが。

 

「うーん……それは俺より朱里か雛里に頼んだ方がいいんじゃないか?」

「朱里は問題を出す役だから駄目なのだ。雛里は、さっき部屋に行ったらもういなかったのだ」

「こんな朝早くから? 何処行ったんだろう……」

 

部屋で悩んでいても仕方ない。一刀は鈴々と一緒に雛里を探すことにした。

 

城の女中に聞いたところ、雛里は音々音に呼ばれて恋の“自宅”へ行ったそうだ。

 

恋は、自分の家族であるところの動物達と生活する為、城の私室以外にも、城のすぐ近くに大きな屋敷を用意して貰っている(劉備陣営に降る条件の一つとして貰った物件である)。

 

彼女の家族達は、どういう訳か非常によく躾けられていて、無駄に家を汚すことはない。

とは言え、数十という動物が生活すれば、汚れや臭いはどうしても付く為、城の女中が定期的に掃除などの手入れを行っている。

何故かと言うと、恋の財布事情では、掃除や家屋を管理するような使用人を雇うことが出来ない為だ。

何せ、まず本人の食事量がアレである。そこにあれだけの動物達の餌代。呂一家のエンゲル係数は推して知るべし、である。彼女の俸禄の殆どは食費に消えていくのだ。

という訳で。

一刀の計らいで、恋への俸禄とは別に、城の女中に掃除を頼んでいるのだ。

追加給付があるとは言え、彼女らにとっては余分な仕事である。しかし、この仕事には“恋に食事をさせる権利”が付く為、実は意外(でもない?)な人気を誇っていた。

 

なお、この女中達への追加給付の予算は、北郷一刀の小遣いから天引きされている。

 

 

二人は恋の屋敷を訪れ、家の正面玄関前に来ていた。

 

「恋、いるか~?」(コンコン)

 

声を掛け扉をノックすると、犬、猫、鳥の鳴き声が混じって聴こえてくる。

 

「……人の気配はするのだ」

 

流石は一騎当千の武将。鈴々が家屋の中の気配に気付いた。

 

「ふむ……。お邪魔してみるか」

 

この家の扉には、基本的に鍵が掛けられることはない。というか、鍵が付いてない。更に言うと、動物達の出入りする専用の“小さな扉”を一刀が作るまで、常に開けっ放しだった。

一刀は扉を開けて、家屋に入る。

 

「…………」

「どうしたのだ、お兄ちゃん?」

「でかいのが一匹いる」

「? おー、確かにでかいのがいるのだ」

 

勿論、この家に恋や音々音が寝泊りする為、人間が生活する為の家具も一通り揃っているのだが。

寝台で猫や小型犬に囲まれて眠っていたのは。

 

「くー……」

 

曹魏の誇る不思議軍師、程昱こと風であった。

 

「……」

「(気持ちよさそうなのだ……)」

「…………」

 

鈴々は眠る風の様子を羨ましげに見ていたが。

一刀の心の中には、悪戯心が積乱雲の如く、むくむくと膨らんでいた。

 

「(ちょっとだけ……)」

 

こちょこちょ……

 

一刀は、風の顔に寄り添って眠る猫の尻尾を使って、風の頬をくすぐる。

 

「むー……」

 

「(にひひ♪ おもしろそうなのだ! 鈴々にもやらせて欲しいのだ~)」

「(よかよか。思う存分やるがよい♪)」

 

鈴々も同様にして、風の首元をくすぐる。

 

「ふみゅー……」

 

嫌々、とばかりに風の手が尻尾を払おうと動いた。

 

「(起きちゃったかな?)」

「(いや、まだみたい。よーし、今度は俺が……)」

 

一刀は、今度は風の耳をくすぐってみる。

 

「ぁん♪」

「!!」

 

予想以上の艶っぽい声に、一刀の心に別の感情――ぶっちゃけ劣情――が鎌首をもたげてしまう。

 

(い、いかん!これはいけない!!)

 

そう思い、悪戯を繰り返そうとする鈴々を制止しようとするが、理性と煩悩が拮抗して、どうにも出来ない。

一刀が固まってしまった間に、鈴々は床に落ちていた鳥の羽根を手にしていた。

 

「(にしし♪ いいものを見つけちゃったのだ♪)」

「(あー、うー、そ、そろそろ止めた方が……)」

 

 

「じぃーーーーーーーー。何をしているのですか、お兄さん。鈴々ちゃん」

 

 

「「はぅ!?」」

 

半眼で睨まれ、身動き出来ない二人。文字通り、悪戯を見つけられた子供のようであった。

 

「全く。折角、風が至福の時を過ごしていたというのに」

「「ごめんなさい」」

「おまけに……」

 

風の視線が一刀の股間に集中する。

 

「……何を考えていたのですかー?」

「何も!?」

「そうですかー?」

「そうです!」

「理屈すらなく強弁することが自白と同義であることに気付いてますかー? 何なら鈴々ちゃんや愛紗ちゃん、或いは華琳様に説明してもよいのですよー?」

「ごめんなさい! ホントーに申し訳ありませんでした! それだけはご勘弁を!m(x x)m」

「ふっふっふ。これは良い脅迫のネタを仕入れてしまいましたねー♪」

「(ぞぉー……)」

「なんのことなのだ?」

「いえいえ。何でもありませんよー。それで、どうしてこんなところに?」

「こんなところって、此処は一応、恋の家なんだけど……」

「ちゃんと家主の許可は貰ってますよー。というか風はお留守番なのです」

「留守番? ということは……恋とねね、雛里は出掛けたってことか?」

「その通りなのです。魏から良い穀物を土産に持ってきたので、お三方はそれを取りに行っているのですよー。とても風一人では運べない量なので」

「雛里が呼び出されたってことは、人足か荷車かでも使う積もりか? そんなに大量なの?」

「ええ。馬で荷車を引っ張って来ましたからねー」

「そっか。じゃあ帰ってくるまで待つか、鈴々?」

「そうするのだ」

 

三人(というか雛里)を待つ間、こちらの状況も風に説明した。

 

「ほほー。季衣ちゃんと問答勝負ですか」

「こう言っちゃ何だけど、意外だよな」

「いえいえ。季衣ちゃんは桂花ちゃんに扱かれてますからねー。侮れませんよ?」

「そ、そうなのか……これは厳しい勝負になりそうだな」

「うぅ……勝負でなきゃ、勉強なんかしたくないのだ……」

「勝負方法は一月前に決まっていたのでは?」

「あはは……。鈴々の奴、どうも忘れてたらしくてな。勉強したくなかったってのもある気がするけど」

『おいおい、嬢ちゃん。それじゃあ勝負にならねぇぜ?』

 

宝譿のツッコミに、鈴々は唸るばかり。相当勉強が嫌らしい。

 

「出題範囲は分かってるのか?」

「えーっと……何だったかなー……?」

「おいおい……」

 

そこへ扉を開けて家屋に入って来た四人。

雛里、恋、音々音。そして月だった。

 

「おはよう、みんな……あれ、月?」

「ご主人様? おはようございます」

「お、おはようごじゃいましゅ、ご主人様!」

「落ち着こうなー、雛里~(ニコニコ)」

「おはよう、ご主人様。……椅子、そこ。月、座る」

「うん、おはよう、恋。……月、どうぞ」

「はい。ありがとうございます、恋さん。わざわざすみません、ご主人様////」

 

家主である恋が、月の身体を気遣い、椅子を勧めた。一刀も椅子を引いてやる。

 

「どうして月まで?」

「散歩をしていたら、みなさんにお会いして。折角なのでご一緒しました」

「そっか。出来れば一人歩きは止めて欲しいんだけどね……」

「ご、ごめんなさい。詠ちゃんは忙しいし、他の女中の方々も……。部屋に籠りっきりというのも気が滅入るものですから……」

「ああ、そうだね。でも、俺がいた世界でも『妊婦はとりあえず偉い』みたいな扱いだったし。俺とか、一緒に歩く人を呼んでいいからね? ちゃんとみんなには俺から話しておくから」

「あ……はい。ありがとうございます、ご主人様////」

 

一刀の優しい言葉に微笑みを返しながら、月がゆっくりと椅子に座る。

その月の腹部を見て、風が声をあげた。

 

「おぉー。随分大きくなりましたねー」

「えへへ♪ おかげさまで、順調です」

「うぅーむ、これが生命の神秘。お兄さんのアレがコレしてソレされて、こうなるのですねー」

「へぅぅ……////」

「あわわ……////」

「風って何気に下品な言葉も容赦なく使うよね……」

「成る程、成る程。先程は危うく風もこうされるところ……」

「わーーー!わーーー!ごめんなさい!風さんは全然下品じゃありません!!」

「分かればよいのですよー♪」

「(うう……本気で弱みを握られちゃったのかも……)」

 

風にいい様に振り回されている一刀。

ヤバイ台詞はなんとか大声で誤魔化した積もりの一刀だが、明らかに不自然であり。

 

「ご主人様?」

 

雛里が問い質そうとした直後。

 

「ちんきゅーきーーっく!」

 

ゴスッ!

 

「ぐはっ!?」

「何故、へぼ太守まで此処にいるのです!?」

 

音々音のちんきゅーきっくが炸裂した。

 

「あわわ!ねねちゃん、落ち着いてぇ~~」

「あいたた……。あー、お邪魔してるよ」

「だ、大丈夫ですか、ご主人様?」

「ああ、問題ないよ。今回は殆ど助走がなかったからな」

「ふん!今に見ておれです!」

 

蜀の人間にとっては日常的なやり取り。

しかし、風の目にはかなり奇矯なものに写った。

 

「……お兄さん、怒らないんですねー?」

「何を?」

 

心底不思議そうに尋ねる一刀。雛里と月は苦笑いだ。……恋もかつては叱っていたが、今や無表情。

 

「お兄さんは……一応、仮にも、曲がりなりにも。蜀の代表者ではないですかー」

「そ、そうだね(汗」

「配下に蹴飛ばされて、叱責もしないというのは驚きなのですよー」

「いや、怒る時は怒るよ? でも、基本的にねねのコレは愛情表現だから♪」

「んな訳あるかー!の、ちんきゅーきーっく『参式』!!」

 

ドゴッ!(因みに『参式』とは、垂直ジャンプによる蹴り上げである)

 

「ぐへっ!? 冗談に決まってるだろ! 一々蹴るな!」

「やかましいのです! 言って良い冗談と悪い冗談があるのです!////」

「……ねね。顔、赤い。照れてる?」

「恋殿ぉ~~~~!? これは怒り! 怒りの赤なのですぞ!?」

「なるほどー。流石は“噂の”『天の御遣い』ですねー」

「「「…………」」」

 

何が流石で、どんな噂なのか、聞く気も起きない一刀およびその仲間達であった。

 

 

……

 

…………

 

 

「……という訳で、雛里に鈴々の教師役をやって欲しかったんだ」

「例の勝負ですね。朱里ちゃんからも聞いています。ただ、問題が……」

「問題?」

「出題範囲は“兵法及び算術”だそうなので……範囲が広くて、とても丸四日だけでは……。それに、申し訳ないのですが、私もまだ仕事がありますので、つきっきりという訳にも」

「そりゃそうだよなぁ。そもそも、鈴々がそんな長時間勉強に集中出来るとも思えないし」

「鈴々もそう思うのだ!」

「自分で言ってれば世話ないのです」

「あわわ……でも鈴々ちゃん。このままじゃ負けちゃうよ?」

「それは嫌なのだー!」

「へぅ……それじゃあ只の我儘だよ、鈴々ちゃん……」

「こりゃ困ったな……」

 

雛里は忙しいようだし、音々音は教える気がない。そもそも鈴々にやる気があるのか不明瞭な上、出題範囲は広い。

お手上げかと一刀も諦めようとしたその時。

 

「ふむ。ならば、風が教えてあげてもいいのですよー?」

「ええっ!?」

「今日から、朝に一刻(二時間)、夜に一刻ずつ。範囲が広いので、山を当てていくしかないですけどねー」

「そうですね。私もなんとか時間を作ってみます。だから頑張ろう、鈴々ちゃん」

「……分かったのだ。お願いしますなのだ!」

 

鈴々は覚悟を決めたようで、二人へ頭を下げた。

 

それを確認してから、風がこっそり一刀へ耳打ちした。

 

「(お兄さん。勿論、授業料を戴きますよー?)」

「(え!? 俺が払うの!?)」

「(ふっふっふ。物事には対価というものがあるのですよー)」

「(鈴々の為だ、仕方ない。で、いくら?)」

「(おっと、風を見縊(みくび)ってもらっては困るのですよ。授業料は金銭ではなく、時間で戴くのです)」

「(時間で?)」

「(明日、風は成都をぐるりと回る予定なのです。お兄さんには丁稚として付いて来て戴きますよー)」

「(丁稚かよ!? ……まあ荷物持ち兼案内役ってことだな。明日か……)」

「(空いている時間で結構なので、風に付き合って下さいよー)」

「(明日は忙しいんだよな……明後日にまからない? 明後日なら結構余裕あるし、長時間付き合えるよ?)」

「(おぉっ。本当ですかー。分かりました。では明後日。……ふふ♪ 約束ですよー?)」

 

ちゃっかり個人的な逢瀬の時間を確保した風であった。

 

祭典五日目の朝。

 

「ない!? そ、そんな……確かにここへ入れておいた筈……!?」

 

華琳は、魏勢に割り当てられた地下倉庫の一角で叫んでいた。

彼女は今、魏から運搬してきた荷物の内、一旦地下倉庫へ移したもの――要冷暗所保存の荷物――から、あるガラス瓶を探していた。

 

(入れ忘れた筈は無い……あれは、他の誰にも触らせていないし……保存の関係上、陽に当てる訳にはいかないから、厳重に布で包み、私の署名札を貼った上でこの木箱に入れた筈……)

 

しかし、無いものは無い。となると……誰かが無断で持ち出した?

 

(この曹孟徳の私物を持ち出すなんて……只では済まさないわ!)

 

かくして華琳の追跡調査が始まった。

 

 

 

祭典初日から今朝までの倉庫番から聞いた(ほぼ尋問だったが)ところによると、連れて来た魏の将軍・軍師全員が最低一度はここの荷物を取りに来ていた。

冷暗所保存物が全て詰まっている為、用途が多いのだ。

但し、例のブツが置かれていた箇所は、将軍クラスの武官ないし上級官僚の私物関連専用。となると一般兵等は無実であるということだ。

即ち犯人の候補は、春蘭・秋蘭・桂花・季衣・流琉・霞・凪・沙和・真桜・風・稟の十一名。

 

全員の倉庫からの持ち出し品(持ち出した物を記帳させている)と、今日の予定を頭の中で纏めてみる。

 

まず、毎日この倉庫を訪れているのが、秋蘭と霞である。

どちらも毎晩、酒や肴を持ち出しているようだ。

魏は華琳のお膝元とあって、酒造に関して高い技術を誇る。故に、毎晩催されている呑兵衛どもの酒宴に引っ張りだこなのである。それを見越して、相当な量を持ち込んであるが。

 

霞は、毎晩催される酒宴において主催者的に振舞うことも多い。自腹で購入済みの魏の酒も大量に倉庫へ運ばれており、ほぼ毎日それを運び出していた。

今日は、今まで同様、一日適当に街をぶらぶらする積もりだろう。街で呑んで帰って来たことも多々あり。

(酔った勢いで、私の署名入りの酒を持ち出した……? 霞ならやりかねないあたりが困ったものね……)

 

秋蘭は自身が呑む為ではなく、春蘭の為に持っていってやったのだろう。特に春蘭は、天下一品武道会の愛紗との決着に酷く不満があるようで、二日目から毎晩のように自棄酒を呑んでいるのだ。

基本的に秋蘭は春蘭と共に行動している。今朝も姉妹揃って朝早くに出て行った。

(誤って私の酒を持ち出した?……可能性は低いわね……)

 

次に訪れた回数が多いのは流琉である。彼女は特殊な食材などを持ち出している。

今日も晩餐の準備の為に、朝早くに訪れている。何せ首脳陣の晩餐調理の指揮は彼女に一任されているのだ。

また今日は、明日行われる『文化交流会』で『くっきー』を出展する為、その準備に出ている。

(料理に使用する酒を持ち出すことはあるでしょうが、勘違いで私の酒を持ち出すことはなさそうね……)

 

後のメンバーはそれぞれ一度ずつ訪れている。用途は基本的には酒か肴だ。

 

春蘭は一度だけ初日の夜に酒を持ち出していた。

今日は秋蘭と共に、蜀でも有名な菓子を手に入れるのだと早朝に出掛けて言った。

(……あの娘は、偶に物凄い勘違いとかやらかすのよね……可能性はないとは言えないわね……)

 

桂花は、華琳本人が昨晩二人で呑む為に、酒と肴を持って来させている。

今日は、明日の『文化交流会』での華琳の自著の売り場責任者としてその準備を行っている。

(あの娘に限って、間違える筈もないし。昨日の呑んだ酒も勿論、別の酒だったわ)

 

季衣は、どうやら塩漬けの豚をまるまる一頭分二日前に持って行ったようだ。

まだ起き出して来ていないが、今日は『文化交流会』会場で流琉の手伝いをすると聞いている。

(ふむ……あの娘は酒より食料、よね。完全に呑まない訳ではないけれど……)

 

凪、沙和、真桜は初日の夜、天下一品武道会に参加した凪のお疲れ会として三人で呑む為に、自分達の持ち込み分を持って行っている。

今日は、沙和に付き合って、三人で街へと繰り出すと聞いた。

(特に違和感は感じないし……万一沙和や真桜が暴走しても凪が抑える筈……)

 

風は、先日から鈴々の教師役を引き受けており、彼女のやる気を引き出す為に、秘蔵の水飴を持ち出している。

今日は午前は鈴々との勉強会、午後から恋の家族と過ごすとか。

(風の可能性はまずないわね。それにしても風が鈴々の面倒を見るなんて、ちょっと意外ね)

 

稟は、昨日の晩餐の直後、華佗特製の増血作用のある薬用酒を取りに来ていた。

今日は桂花の補助として『文化交流会』の準備をする予定となっている。

(増血しないとならないような状態とは聞いていないけれど……薬用酒が目的なら、それ以外に用はない筈)

 

 

情報は出揃った。

華琳は瞑目し、その明晰なる頭脳をフル回転させる。

 

(――成る程。犯人は――)

 

 

……

 

…………

 

 

「ということだから。白状なさい」

 

華琳の眼前には、正座させられている桂花。

 

「……何故、私が犯人だと……?」

「簡単なことよ。アレが、私が一刀に試飲させる為に持って来たこと、酒であることは皆が知るところ。なら、それを知っていて、なお手を出す者。それは一刀に不満を持つ、あなた以外に有り得ないわ」

「くぅっ……流石は華琳様……」

 

さっさと自白する桂花。推理事件にもなりゃしない。

 

「一刀を毛嫌いするあなたにとって、研究や酒造を手伝ったあの酒が。私の手ずから一刀に酌されるのが嫌だったのでしょう?」

「はい……申し訳ございませんでした……」

「……アレは何処なの? もし、捨てていたというなら……私もあなたを捨てようかしら?#」

「そ、そんな!? あ、あの酒瓶は……食堂の保管庫に……」

「……そう。なら今回は特別に許してあげる。あの酒は、一刀にしか完成度を判断出来ないのだから。我慢して頂戴」

「はい……」

 

という訳で食堂へ来た二人。

 

「うっ、華琳殿!?」

「華琳様、おはようございまーす♪」

 

食堂にいたのは、朝食を卓に大量に並べて食べ続ける季衣と、何故かメイド服姿の愛紗だった。

 

「おはよう、季衣。……あら、愛紗。中々似合っているじゃない?(ぎらん)」

「華琳様!華琳様の方が何十倍もお似合いでした!」

「ふふ、ありがとう、桂花。でも……ちょっと静かにしていなさい?」

「うぅ~……」

 

華琳の眼の奥に光った欲望の光に気付いた桂花が、主を止めようとしたが、あっさり封じられた。

 

「こ、これは……月の代わりを申し出たらご主人様が……」

 

『こんなこともあろうかとッッ!!』

 

とか言って持ち出してきたらしい。採寸は気味が悪いくらいにぴったり。流石は北郷一刀。

 

「成る程ね。全く、そういう目端ばかり利くのだから、困った男ね」

「はぁ……こればかりは華琳殿の言われる通りだ」

「ふふふ……ねぇ、愛紗。私に“殿”だなんて他人行儀だわ。呼び捨てでいいのよ?」

「かの魏武殿に、そう言って戴けるとは光栄。今後はよしなに。……しかし、何故私ににじり寄って来るのだ?」

「あらあら、どうして逃げるの? もっと友誼を深めましょうよ(両手をにぎにぎ)」

「ならば、その怪しげな手つきを止めて貰えないだろうか……?」

「気にしたら駄目よ……ふふふ♪」

「けっ、桂花! 助けてくれ!?」

 

桂花に助けを求めた愛紗だったが。

 

「……#」

 

しかし桂花は、華琳に静かにしていろと言われてしまい、嫉妬の怒りを表情を以って表すばかり。

愛紗が桂花へ顔を向けたその一瞬の隙に、華琳は愛紗との間合いをゼロ距離まで詰めていた。

 

「隙在り!」

 

さわさわさわさわさわさわさわ!

 

「うひゃあぁぁぁぁぁぁん!? や、やめんかーーー!!」

 

体中を弄られて思わず悲鳴。一瞬で壁際まで逃げる愛紗。

 

「あら。流石の反応ね。この私に“ひと巡り”しか触らせないなんて。それにしても、いい感度だわ~。余程あの男に開発されているのかしら? それはそれで気に食わないわね……」

「開発とか言うな! おぬしこそ、ご主人様よりも、よっぽど性質(たち)が悪いぞ!?」

「あんな男と一緒にしないで。私は只、可愛らしいものを愛でたいだけよ?ふふふふ……」

 

またしても愛紗へにじり寄る華琳であったが。

 

「おっはよー♪ ……何してんの?」

「……おはよう。朝からお盛んなことだな、孟徳殿」

 

そこへやって来たのは、雪蓮と冥琳だった。

 

「ちっ……」

「(もぐもぐ)華琳様も朝餉ですかー?」

 

邪魔者の参入で気が削がれたことと、この状況でもマイペースだった季衣の台詞で、華琳はようやっと正気に戻った。

 

(し、しまった。こんなことをしている場合ではなかったわ……愛紗の余りの可愛さに思わず……)

 

「か、華琳様ぁ~……」

「そ、そうだったわね。ごめんなさい、桂花。……季衣、私は朝餉に来た訳ではないわ。というか、もう少し早起きなさい。流琉はとっくに『文化交流会』の会場へ行ってしまったわよ?」

「え、えへへ……」

 

「今の言葉。聞いていたか、伯符。流琉はもう働いているそうだぞ?」

「はいはい。寝坊してごめんなさいでした~。……今日は愛紗が給仕なの?」

「う、うむ。月は身重だからな。その代わりだ」

「そ。羨ましいわよねぇ?」

「そ、そんなことはない。めでたいことではないか」

「あらあら。ここにも素直じゃない娘がいたわね。……ま、いいや。私達にも朝餉を戴けるかしら」

「う、うむ。承知した。暫し待たれよ」

 

愛紗が厨房へと入っていく。華琳は愛紗へと声を掛けた。

 

「愛紗。私は食堂の保管庫に用があるのだけれど」

「保管庫? 何か取り出すのか?」

「ええ。私の私物が誤って此方に保管されてしまったそうなの」

「(華琳様……////)」

 

恐らくは無断で保管庫を使用した桂花を、さり気なく庇った華琳。桂花はこっそり感激していた。

 

「そうか。今ならば丁度よい。鍵は開いているので、自由に探してもらって結構だ」

「そうなの?」

「うむ。先程ご主人様が来られて、『文化交流会』でお披露目する、天界の調味料を持って行かれたのでな」

「へぇ、天界の調味料ね。それはそれで興味深いわね」

「華琳は食通であるからな。何でも『しょうゆ』という大豆から作る醤(ジャン)の一種だそうだ。結構な大きさの瓶だったな」

「…………」

「か、華琳様?」

 

嫌な予感。華琳は早足で保管庫へ入る。桂花もそれに続いた。

 

「……桂花」

「……ありません。恐らくは……」

 

どうやら予感は的中してしまったらしい。

よく見ると、床に木札が落ちている。拾い上げると、やはり“曹孟徳”と署名されていた。

すぐ隣には、よく似た大きさの布に包まれた瓶がある。

布を解くと、出てきたのはガラス製ではなく、陶器の瓶だった。

華琳はそれを手に持ち、保管庫を出る。

 

「愛紗。あなたはその『しょうゆ』というものを見たことはある?」

「うむ、蜀のものは何度か食事で戴いた事があるのでな」

 

華琳は陶器の瓶を傾け、少量を皿に垂らした。

 

「これかしら?」

「ああ、これだ。(ぺろっ)うむ、間違いない。……ご主人様が間違えて持って行かれたのか」

「そうみたいね……もう! じゃあ私は行くわ。ついでにコレも届けてあげる」

「そうか。申し訳ない。よろしく頼む」

「ええ」

 

愛紗が律儀に頭を下げる。華琳は手でそれを抑えて返答した。

と、そこへ雪蓮の声。

 

「愛紗~、朝餉まだ~?」

「行儀が悪いぞ、伯符」

「うーむ、季衣に殆ど食われてしまったようだ。……私の作り置きの炒飯でよければあるのだが」

「もう、それでいいわ~。お腹空いちゃって」

「承知した。今回は見た目も上手くいったし、自信作なのだ」

 

平皿に炒飯を盛って、雪蓮と冥琳に差し出す愛紗。

 

「ご馳走様でした! あ、愛紗~。お皿片すの、お願いしてもいい?」

「うむ。任せておけ」

「華琳様、ボクも一緒に行きます! 瓶、持ちますね」

「ありがとう、季衣。……行きましょう」

「「はい!」」

「じゃあ私達は行くわ。ごゆっくり」

「はーい、いってらっしゃーい」

「うむ」

 

雪蓮と冥琳にも声を掛け、華琳たちは『文化交流会』会場へと向かう。

 

「「!”#$%&’|¥@*;?」」

「雪蓮殿!? 冥琳殿!? どうなされたのだ!?」

 

雪蓮と冥琳の断末魔の悲鳴を後にして。

 

城から城下町へと出る為、外庭を歩く。

すると、門の辺りに三つの人影。

 

「おはよう。蓮華、思春、月」

「ああ、華琳。おはよう」

「(ぺこり)」

「おはようございます、華琳さん」

「街へ出るのかしら?」

「いいえ。流石にあの人混みの中歩くのは禁止されてますので……」

「城の庭を散歩していたらしくてな。私も付き合っていたのだ」

「相変わらず、他国の者には堅苦しいわね、蓮華。もっと砕けても良いと思うのだけど」

「……ふぅ……華琳を前にするとどうしてもね……あなたの自然な覇気は、ある意味、私の目標かもしれないわ」

「あら、褒めても何も出ないわよ?ふふっ」

 

たった一言でここまで崩すことが出来るようになっただけでも、随分な成長だと華琳は感じていた。

 

(あいつも、随分気に掛けていたものね。『仲間』だから、とか言っていたけれど……)

 

「私達は、これから中庭の東屋でお茶にするんですが。華琳さんも如何ですか?」

「お誘いありがとう。でも、これから『文化交流会』会場まで行く用事があるのよ」

「へぅ、そうですか。残念です……」

 

儚げな笑顔。

月……董仲穎。真名の示す通り、優しげで柔らかい光――魅力を放つ女性。三国の首脳陣でも、時流に乗ることで(望む望まずに関わらず)漢王朝における権力の“頂点”に立った経験のある者。

 

(そういう意味では、あの男の『正室』には相応しい、のかしら……)

 

対して、鼎立する国においても最大規模国家の王、かつては自他共に認める“覇王”へ自らの力で上った自分。

思わず、月のその膨らんだ腹部を見て……華琳は無意識に、月と自分を比較してしまっていた。

のだが。

 

「……やはり、華琳も……彼の子が欲しいの……?」

「「「「!?」」」」

 

そんな華琳を見たからか、恐らくはこれも無意識に零れたのだろう蓮華の小さな言葉。

その言葉に衝撃を受ける華琳、桂花、思春、月の四人。

 

「そっ!そんな訳ないでしょう!!」

「そ、そうですよね、華琳様!?」

「蓮華様!?」

「へ、へぅぅ!? 蓮華さん!?」

 

「ハッ! な、何でもないのよ! 気にしないで! 聞かなかったことにして!!////」

 

(れ、冷静になりなさい、華琳!……そうよ、孫家三姉妹が皆、一刀に惚れている事くらい、見ていれば分かること……。何を慌てる必要がある……)

 

華琳はすぐさま乱れた心を抑えたのだが。

 

「あー、月ってボクと殆ど背とか変わらないよね。じゃあボクにも兄ちゃんの赤ちゃん、出来るのかな?」

「「「「季衣(ちゃん)!?」」」」

 

季衣の一言で、また乱されてしまったのだった。

 

 

……

 

…………

 

 

三国のバランスがどうした、魏の将軍だから云々とか。未だ納得はしていない季衣を引き摺り、月たち三人と別れ、城を出発した華琳たち。

 

(あの後のお茶会、果たしてお茶の味を感じられるのかしらね、蓮華ったら……)

 

自分を棚上げしてそんなことを考えている内に、『文化交流会』会場の『天界料理展覧』スペースに到着した。

流琉の『くっきー』もここで販売されるらしい。

 

「あれ、華琳様?」

「ほんとだ。華琳、どうしたの?」

 

出迎えたのは流琉と、事をややこしくした張本人である一刀だった。

 

「……忘れ物よ」

「はい、兄ちゃん。これ」

「あ、醤油の瓶! 助かったよ、これから取りに戻ろうかと思ってたんだ。ありがとうな、季衣」

 

一刀が季衣の頭を優しく撫でる。

 

「えへへ……」

 

それを忌々しげに見る桂花と、対照的に羨ましげに見る流琉。

微笑ましいシーンの筈だが、華琳も何故か微妙に苛立ちを抑えられない。

 

(もう!どうして私がこんなに苛々しなくてはならないのよ!?)

 

「……季衣!来たのなら準備を手伝ってよ!」

「何怒ってるのさ、流琉。あ~、さては……」

「もう!いいから手伝いなさい!////」

「はーい。じゃあね、兄ちゃん」

「おう。頑張ってな、二人とも」

 

(流琉のあれも、嫉妬よね……全く、揃いも揃ってこの男に……!)

 

流琉に引っ張られて、季衣も『くっきー』の準備へと行った。

が、それはともかく……

 

「で! あなたが! 間違えた方の瓶は! どうしたのかしら!?#」

「な、なんでそんなに迫力出すの!? えっと~、あれはなんか酒っぽかったから、偶々来てた霞にあげちゃった」

「なっ、なんですって!?」

「こっ、この菌糸類未満男!あの酒は――」

「お黙りなさい!」

「きゃん!?」

 

華琳が桂花の頭を押さえて、無理矢理言葉を切らせた。

 

「菌糸類未満って……俺はキノコより下な訳?……で、あの酒がどうかしたの?」

 

一刀からすれば、自分の城の食料庫にあった酒、という認識である。大きな問題とは気付かない。

 

「……何でもないわ。で、霞はどこへ?」

「霞なら、『三羽烏』に『くっきー』を渡す約束してるって言ってたな。『巣多場』で待ち合わせとか」

「「すたば?」」

「ああ。成都でも有名な喫茶店だよ。場所は……」

「もう!あなたが案内なさい!」

「ええっ!? 俺にも仕事が……」

 

一刀を無理矢理引っ張り出し、華琳は会場を飛び出したのだった。

 

という訳で、一刀の案内で喫茶店『巣多場』を目指す華琳、桂花、一刀。

一刀はもうサボリということで開き直っていた……愛紗のカミナリに怯えつつも。

 

人混みを避ける為、大通りからひとつ外れた、少し狭い道を歩く三人。

すると前から、何やら騒がしい一団が此方へ歩いてくる。

 

「ったく! 祭りだからってはしゃぎすぎだ!」

「そうだよ~。よりによってたんぽぽの当番時間に騒がないでよ、おばさん!」

「きいぃぃぃぃぃ! 誰が乳垂れ確定のおばさんですって!?」

「姫。たんぽぽちゃん、そこまで言ってませんよ……」

「はぁ~……また愛紗の説教かよ~……いや、星よりはマシだけどさ」

「イノちゃんもそう思う? 星姉様のお説教って、心に刺さるんだよねぇ……ホント容赦ないし」

「あー、子龍は昔っからそうだよな。下手に庇ったりすると、こっちにまでとばっちりが来るからなぁ。もし説教役が星だったら、悪いけど助けないからな。猪々子、斗詩」

「ひぇぇぇぇん……」

「結局、一番の貧乏くじは斗詩な訳か……頑張れよ」

 

どうもまた騒ぎを起こした麗羽・猪々子・斗詩を、警備隊の当番だった翠・蒲公英・白蓮が連行しているようだ。

 

「おう、みんな。お疲れ様」

「あ、ご主人様~♪」

 

一刀を認めた蒲公英が、早速一刀へ抱きついてきた。

 

「こら、たんぽぽ! 一応、ここは往来だぞ!?」

「もう、お姉様ったら固ぁ~い」

「腕組むくらいにしとけよ、たんぽぽ。……北郷はどうしたんだ? 華琳や桂花まで連れて」

「ああ、二人を『巣多場』に案内することになってね」

「……ご主人様。『文化交流会』の準備役だろ? ってことは怠業かよ。愛紗に言いつけるぞ?」

「全くだ。お前、責任者だろう?」

「だ、だって……」

 

華琳が無理矢理……と言い訳するのは、余りにも男らしくない。そう考えた一刀は口を噤んだ。

 

「ふぅ……ちょっと行って来るだけだから、見逃してくれ」

 

と困った風の笑顔。翠と白蓮はその笑顔から顔を背けてしまった。

 

「もう……今回だけだぞ////」

「……仕方ない奴だな////」

 

その様子が何だか面白くない華琳。思わず口から言葉が漏れた。

 

「……相手が純な翠と白蓮だからとは言え……大した“女殺し”っぷりね#」

「ちょっ!? なんてこと言うかな!?」

「あ、あたしだって、そんな積もりじゃ……!////」

「そ、そうだぞ、華琳! 変なことを言うな!////」

「えぇ~? 今、二人とも明らかにご主人様の笑顔に“殺され”てたよねぇ?くすくす……♪」

「たんぽぽぉ~!? お前、どっちの味方だぁ~~!!」

 

騒ぎ出した翠、蒲公英、白蓮の三人。その隙をついて、一刀に話しかけたのは猪々子だった。

 

「なぁなぁ、アニキぃ~。その調子で、愛紗も何とかしてくんない? もう説教は勘弁だし……」

「それはお前等が騒いだのがいけないんだろ?」

「アニキだって怠業してるの、二人に見逃して貰うんだろ?」

「う、確かに……」

「なぁ、いいだろ~? 代わりに今晩、斗詩に何でも好きにしていいからさぁ~。あ、勿論あたいも交ぜろよ?」

「ちょっと文ちゃん!? なんで私なの!?」

「な、何でも……?(ごくり)」

「ご主人様も、その気にならないで下さい!?」

 

ちゃきっ!

 

毎度の大鎌『絶』の刃が一刀の頸に掛かる。

 

「……鼻の下、伸ばしてるんじゃないわよ……#」

「汚らしい!これだから男は……!」

「じょ、冗談ですよ? 華琳さん、桂花さん……」

 

しかし、そこに割って入ったのは。

 

「あらあら、華琳さんたら。その程度で刃物を持ち出すとは。心の狭いこと」

「何ですって……言ってくれるじゃない、麗羽」

 

そこまで比較的大人しかった麗羽だった。

 

「翠さんや蒲公英さん、白蓮さん。そしてわたくし達主従は、一刀さんの寵愛を受けているのですもの。この程度、子猫のじゃれ合いのようなもの。それを刃物でどうこうしようなどと、無粋極まりないですわよ? ふふん」

「……私はこんな男が誰とどうしようと気になどしないわ。さっきのは、この男のだらしない顔が生理的に気に食わなかっただけよ」

「そ、それはあんまりなお言葉……」

「「一刀(さん)は黙ってなさい!」」

「……はい」

 

「おーっほっほっほっほっ! ならば……コレを見ても、冷静でいられるのかしら?」

 

麗羽は一刀にしな垂れかかり、その大きな胸を一刀に押し付ける。

 

「れ、麗羽!?」

「ふふっ。何を動揺してますの、一刀さん。こんなもの、閨では大したことではないでしょう?」

「いや、ここ往来……むぐっ!?」

「んむぅ……ん、んぅ……♪」

 

一刀の反論を封じ、彼の頭を抱えるようにしての熱烈な接吻。

 

『ッ!?』

 

周囲の者達は、それ自体にも当然驚愕していたが。

 

「……こんな、往来で、大した、破廉恥振り、じゃないの……#」

 

寧ろ、武人たる彼女たちは、華琳から発せられる覇気と怒気の入り混じった凄まじい迫力とその重圧感に戦慄していた。

更に後方では、あまりの重圧に一般の警備兵が次々に失神し、倒れていく。

 

(うわっ! さ、流石は“覇王”と謂われただけあるな……すげー迫力……『慈恵雷者(じぇらいしゃ)』並だぜ……)

(こ、怖いよう、お姉様ぁ!?)

(か、華琳の奴、本気でキレてんじゃないのか!? 麗羽の奴、殺されないだろうな!?)

(姫……やっちまったぁ~……)

(き、気が遠くなりそう……はぅぅ)

 

「……ぷはっ!れ、麗羽! ここは往来だって言ってるだろ!?」

 

華琳の殺気に当てられ、半泣きの一刀である。

対して、大物なのか鈍感なだけか。麗羽は涼しい顔で、これ見よがしにその巨乳を一刀の腕に押し付け、さらりと言ってのける。

 

「……あら、華琳さん。額に血管が浮いていますわよ? 大体、これくらいのこと、わたくし達が街の娘を奪い合っていた頃なら、日常茶飯事だったでしょう?」

 

「……それもそうね。――悪いけれど、今日は私も忙しいの。これで失礼するわ#」

「あら、そう。では、晩餐にでもまた。おーっほっほっほっほ!!」

 

 

……

 

…………

 

 

結局、麗羽たちは翠たちに連行されて行った。

一刀たちも、改めて『巣多場』へ向けて歩き出したのだが。

 

「……#」

「「…………」」

 

華琳の機嫌は最悪のまま。

 

「(この往来破廉恥男! なんとかなさいよ!)」

「(ええっ!? この状態の華琳に話しかけろってのかよ!?)」

「(全部あんたのせいでしょうが!)」

 

「あ、あの華琳さん……」

「話し掛けないで!!」

「はいっ!!」

「……今、話しかけられると……誰彼構わず斬り殺してしまいそうだから……#」

「「…………」」

 

(そうよ! それこそ麗羽の言う通り……あの程度のこと、許昌や洛陽では日常茶飯事だったことだってあるじゃない。可愛い娘と見れば召し上げる前に“食べて”しまうことだってあったわ! 私は、何を苛ついているのよ!? あんな、接吻如きで……!!)

 

思い出すと、尚更に苛々が増す。華琳は“あのシーン”を脳裏の片隅へと追いやった。……苛立ちがそれで治まる訳ではなかったが。

 

「…………さあ。行くわよ、二人とも」

「「……はい」」

 

ようやっと喫茶店『巣多場』に来た華琳、桂花、一刀。

 

「ふぅん。確かに流行ってるわね……」

 

祭典ということで、流行りの喫茶店は更に混雑していた。歩くのもやっとである。

 

「ほら、桂花。俺の後ろにいろって。上着の裾、掴んでいいから」

「う、うるさいわね! あんたの服なんて触ったら妊娠するでしょうが!」

「人混みでそういうことを言うな!?」

 

潔癖症で男嫌いな桂花は、人混みで他人(特に男)に接触しそうな状況にかなり戸惑っていた。

それに気付いた一刀が、彼女を背に庇うように前へ出る。どうせ言葉では拒否されることが分かっているからか、そう言いつつも、一刀は既に桂花を庇うように動き出していた。

 

(……ほんと、そういうこところだけは目端が利くのね……#)

 

そういう性質を持つ桂花を庇うのはいいのだが。これだと自分がほったらかされているようで、面白くない華琳である。

 

「ごめんよ~! 並ぶ訳じゃないから、通してくれな~。人を探してるだけだから~」

 

と言いつつ、人混み(というか行列)を掻き分け進む一刀と、それに続く二人。

これに店員の一人が気付いたようだ。

 

「こ、これは北郷様!? い、今すぐに席をご用意致しますので!」

「あ、兄さん。悪いね、忙しいときに。ちょっと人探しに来ただけだから、気にしないで」

 

(相変わらず、市井の者にも普通に話すのね……王の威厳を考えろとあれ程、帝王学講座で言ったのに……)

 

「なんで断ってるのよ! 華琳様がいらっしゃるんだから、席を用意させて……」

「桂花。今日は飲茶に来た訳ではないのよ。構わないわ」

 

「丁度いいや、兄さん。いつもの魏の将軍三人、ここ来てない?」

「あ、はい。二階席の方にいらしてます」

「よし、ありがとう! ……だそうだ、華琳」

「分かったわ」

 

三人は二階へと上がる。

姦しい声が聞こえた方向へ目線を巡らせると、お目当ての三人組。

 

「凪、沙和、真桜」

「華琳様、桂花様。――北郷様!?(カチーン)」

「あ、北郷さんも一緒なの? ねえねえ、沙和たちと一緒に飲茶するの~! ね~、いいでしょ?」

「……沙和。お前、俺に奢らせる気だろう?」

「やぁ~ん、ばれちゃったの♪」

「ほんで、お三方も飲茶でっか?」

「……霞に用があったのだけれど」

「姐さんなら、ウチらに『くっきー』届けてくれはった後、どっかで呑む言うて出て行かれましたで?」

「このお店はお酒がないから嫌だって言ってたの」

 

「…………そう#」

 

「「ッ!?」」

 

此処までの様々な感情――主に怒り――の籠った華琳の一言に沙和と真桜がびくりとなる。

 

「(な、なんや大将、ごっつい機嫌悪るない?)」

「(う、うん。すっごい怒ってる感じなの……)」

「(……………………)」

 

「困ったなぁ……。凪は霞のお気に入りだったよね。行き先分からない?」

「……………………(コチーン)」

「「「「…………」」」」

「な、凪?」

「(ぶんぶんぶんぶん!)」

 

凪はほぼ全くの無表情で、首を左右に大げさに振って見せた。

 

「そっか、知らないか……手掛かりが途絶えちゃったな……華琳」

「……何?」

「こうなったらもう人海戦術しかない。手の空いてる兵を使うしかないぞ?」

「……そうね。桂花」

「は、はっ!」

「これは飽く迄も私事。他国の人員を使う訳にはいかないわ。一旦城へ帰り、手の空いている魏兵を使って捜索して頂戴。あなたはそのまま城で指揮なさい」

「はい!……華琳様は如何なさるのですか?」

「街を回って霞を探すわ」

「そ、そんな!? 兵を使うのであれば、華琳様ご自身が捜索なさらずとも……」

「じっとしてるような気分ではないのよ……#」

「……承知致しました。では行って参ります」

「お願いね」

「……こりゃ、乗りかかった船だな。俺も手伝うよ」

「……っ」

 

一刀も仕事へ戻す積もりだった華琳は、一瞬「いいの?」と尋ねようとしたが。

 

「……当然でしょう。付き合いなさい」

 

口から出た言葉はこうだった。

 

 

 

こうして二人で、この広い成都から人間一人を探索することとなった。

とは言え、探すのは呑兵衛である霞だ。しかも“どこかで呑む”宣言したとの情報もある。

となれば、片っ端から酒を出す店を当たるしかないだろう。

 

ということで街を歩く一刀と華琳。

 

「……なあ、華琳。『巣多場』でさぁ、なんか凪の様子、おかしくなかった?」

「……そう?」

「俺と目線合わせてくれないし。……嫌われたかなぁ……。凪って真面目な武人だもんな。俺みたいなのとは性が合わないのかな~……」

 

(何をとんちんかんなことを言ってるのよ、この馬鹿!)

 

華琳には凪のあの様子には見覚えがあった。

初めて自分に謁見した際、彼女は緊張の余り、固まってしまったのだが、その様子と全く同様だった。

 

(……本当にウチの娘の殆どは、こいつに惚れ込んでる訳ね……)

 

怒ればいいのか、呆れればいいのか。……自身の想いはひらすら棚上げの華琳だった。

 

「お、美味そうな饅頭」

「……一刀。今は探索中――」

「いいから、いいから。おっちゃーん、饅頭二つくれ!」

「あいよ!……って北郷様じゃありませんか。何なら……」

「こらこら、商売人が金取らないでどうすんのさ。はい、これでぴったりな~」

「……へい。毎度~!!」

 

「ほら、華琳も食えよ。甘いものを食べると頭の働きが回復するんだぜ?」

「……それも天界の知識かしら?」

「そ。俺のいた世界じゃ、結構常識だったよ」

「……そう。なら頂くわ」

「ちょっと行儀が悪いが、そこは緊急事態ということで」

 

二人、歩きながら饅頭を頬張る。

 

(……状況だけ見れば……二人っきりで、街を回ってるのよね……)

 

それに思い至った瞬間、それまで心を苛立たせていた何かが、全て洗い流されてしまった。

 

「……華琳?」

「っ!? ……何よ」

「いや、急に大人しくなったから。どうしたのかなって」

「……何でもないわよ。さっさと酒を出す店へ案内なさい!////」

 

強い口調で命令する華琳だったが、頬が少し赤らんでいた。

 

既に二十軒を超える店を見て回っているが、未だ霞は発見出来ず。

途中、昼食で休憩を挟みつつも、捜索を続ける二人。もう夕方も近い時間帯に差し掛かっていた。

しかし、華琳の機嫌は寧ろ最初よりも良好なくらいだった。

 

「……ふむ。此処にもいないわね。次よ!」

「へーい」

「何よ、気合の入ってない返事ね。自分から手伝うと言ったのでしょう?」

「いやー、色気の無いデートだなってさ~」

「でえと?」

「えーっと、逢引とか逢瀬とか、そういう意味」

「なっ!?////」

 

自らの顔が赤らんだことを自覚した華琳は、一刀に見られないよう、顔を背ける。

 

「ば、馬鹿なことを言ってんじゃないわよ! これは捜索なのだから!」

「分かってますって……うーん、次は……」

 

(ったく、この男は……さらりと言ってくれるわね!)

 

「……ん? 華琳、あれ……」

「な、何よ。……あら、風ね」

 

一刀の指す方向……店と店の隙間、小路に風が座り込んでいた。

此方からは背中しか見えないので、何をしているのかは分からない。

 

「聞き込みと行きますか」

「そうね」

 

二人はその小路へ向かった。

 

 

「にゃ~? どうか風にそのふかふかなお腹を見せて欲しいのですよー……うーむ。通じませんねー。やはり国が違うと、猫の言葉も異国語になるのでしょうか? これは難しい問題なのです」

「ええっ!? 風さんは魏のお猫様とお話出来るのですか!?」

「絶賛研究中なのですよー。全く以って進んでおりませんが」

「そうなのですか……残念です。もし成功したら是非私にもご教授して下さい!」

「いいですよー。実は意思疎通の実例を見つけてしまいましたからねー。これから研究を進める予定なのです」

「ほ、本当ですか!?」

「ふっふっふ。明命ちゃんは恋ちゃんのご家族とはお会いしたことがありますかー?」

「恋さんのご家族ですか?」

「恋ちゃんのご家族というのは大勢の犬や猫、鳥などなのですー。そして、なんと恋ちゃんは大筋においてご家族と会話されているのですよー」

「す、凄いです! 弟子入りしたいくらいです!」

「という訳で、恋ちゃんにお願いして、最近よく恋ちゃんと一緒にご家族と食事したりしているのです」

「はぅあ~! 今度は是非、私も誘って下さい!」

「恋ちゃんならきっと了承してくれると思うのですよー」

 

一刀へ猫談義の手紙を毎月送っている風だったが。

 

(本気で猫語を解析する積もりだったのか……本当にどこまで本気なのか、分からない娘だな~……)

 

「おーい、風。明命」

「おぉっ。華琳様に、お兄さんではないですかー」

「こんにちはです!」

「ご機嫌如何かしら、明命」

『なんでい、あんちゃん。華琳様と逢引かい?』

「風!?」

「いや、そういう訳じゃなくて……」

 

宝譿の冷やかしに、一刀が説明するより早く、風が口を挟んだ。

 

「なんですか、お兄さん。今日は忙しいからと風との逢引を断ったというのに。忙しいというのは、華琳様との逢引だったのですかー?」

「はぅあ!? あ、逢引ですか!?」

「違うってば!?」

「……逢引を断った?」

「そうなのですよー。鈴々ちゃんの家庭教師役を引き受ける代わりに、今日一日逢引しましょうと持ち掛けたら、忙しいと断られたのですー。まあ明日は暇らしいので、明日に延期しましたが」

「……つまり。明日、風と一刀は逢引する訳ね?#」

「そういうことですねー(さらり)」

「はぅあ~……風さん、大人なのですね……」

「ええっ!? あの時、風は丁稚って言ってたでしょ!?」

『……女の意地ってヤツよ』

「ええーーーっ!?」

「……#」

 

明命は顔を赤くして、羨ましげに風を見ている。

ようやっと機嫌が直ったと思った華琳は、またも額に血管が……

 

(ひぃぃぃぃぃぃ!?)

 

「とまあ、冗談でないことは置いといてですねー」

「冗談だって言ってくれ……(T T)」

「何か、風に尋ねたいことがあったのではないのですかー?」

「……そうね。今優先すべきは其方だわ。風、明命。霞を見なかったかしら?」

「ふぅむ。風は見てませんねー」

「霞さんでしたら、隣の通りの居酒屋で祭様と一緒に呑まれてましたよ?」

「本当か!……って祭と一緒に居酒屋!?」

「くっ! 急ぐわよ、一刀!」

「おう! 情報、ありがとな、風、明命!」

 

二人は礼もそこそこに駆け出した。

 

 

……

 

…………

 

 

「霞ッ!」

 

店に入るなり、声を掛ける一刀。

 

「んー? お、一刀やん。あれ、華琳もか。どないしたん?」

「おう、北郷。おぬしも呑っていくか?」

「今はそれどころじゃなくて! 『文化交流会』の会場で渡した酒瓶はどうした!?」

「ああ、あれ? もう空けてもうたで?」

「な、なんてこと……」

 

華琳が膝から崩れ落ちる。

 

「ちょっ、華琳!? どないしたっちゅーねん!?」

「あれは……私が今回の祭典に持ち込んだ、例の酒だったのよ……」

 

華琳は、それこそ今にも泣き出しそうだった。

こんな華琳を見たことは、その場の誰もなかった。恐らくは春蘭や秋蘭程に長く深く付き合ってきた者しか見たことのない表情だったに違いない。

 

ところが。

 

「へ? あの酒瓶、全然ちゃうヤツやったよ?」

「「……え?」」

「華琳の例のブツって、確か玻璃(ガラス)の瓶やろ? ウチが一刀から貰ったのって」

「陶器製だったね……」

「……そういうことは早く言いなさいよ!この馬鹿!!」

 

ばちこーん!

 

「すんませんしたぁーーーー!!」

 

華琳の痛烈な張り手に、一刀は横倒しにされたのだった。

 

 

 

二人は霞と祭の誘いを断り、居酒屋を出る。

 

「しかし、そうなるとあの瓶は何処へ……」

「まさか、城にあったとか言わないよな?」

「…………」

 

悩む二人。そこへ聞こえてきたのは……

 

「ひぐっ、ひぐっ……朱里ちゃぁ~ん……助けてぇ~~……」

 

「ん?雛里?」

 

確かに一刀の耳には雛里の声が聞こえた。

 

「此処はどこですかぁ~~~……もう異国ですかぁ~~……」

 

(あ~、この妄想は雛里に間違いないな……)

 

「雛里!ひーなーりー!」

「ご主人様ぁ~~……」

 

(また聞こえてないな、これは)

 

埒が明かないと判断した一刀は、声の聞こえた方向を頼りに、人混みに突貫した。

すると、すぐに特徴的な彼女の帽子の先端がちらと見えた。

 

「見つけた!……ほら、雛里。俺だよ!」

「ご主人様ぁ! うぇぇぇぇん!! もう遠い異国に連れて来られちゃったのかと……ぐずぐず」

「はいはい、もう大丈夫だよ。さ、手を繋いで」

「は、はい……////」

 

 

という訳で雛里が合流した。

 

「……背が低いと人混みは辛いよなぁ」

「うぅ……」

「それ、私にも言ってるのかしら?#」

「一般論です! ……で、雛里はどうしたの?」

「ご主人様がちっとも戻って下さらないから、作業が進まないんですぅ!!」

「うわっ!? あ~……そうだよね。ごめんなさい」

 

雛里の常に無い大声に、素直に頭を下げる一刀。

 

「……一刀を連れ回したのは、私の責任でもあるわ。ごめんなさい、雛里」

「……はい。大まかなことは桂花さんから伺っています。でも……」

「そう。一刀がいないと進まない作業が殆どなのね?」

「はい。ですので、申し訳ないのですが……」

「分かったわ。……一刀。今日はありがとう。此処からは私一人で続けるわ」

「一人でか!? せめて誰か……ほら、霞とか」

「酔っ払いを連れ歩いても仕方ないわ。……あなたの責任を放棄させるようなことをしてごめんなさい。今からでも責任を果たしなさい」

「……分かった。とにかく無茶はするなよ」

「言われるまでもないわ」

 

(それで本当に無茶しないなら、こんなこと言わないんだけどな……)

 

一刀、雛里と別れ。華琳は更に捜索を続行した。

一度は城へ戻り、倉庫や食堂保管庫を再確認した。

『文化交流会』会場にも足を運んだ。既に仕事中だった一刀も、一度確認したそうだが、ガラス製の瓶はなかったそうだ。

 

完全に手詰まりだった。

しかし、華琳にはどうしても諦めがつかない。

 

(どうして……? 一体、何処へ消えたというの……?)

 

手掛かりはなく、最早街を放浪しているに過ぎなかった。

街は祭り騒ぎで、その喧騒が静まる気配はない。

しかし、いつしか太陽も沈みかけており、辺りは夕日の赤から、夜の黒へと移り変わりつつあった。

 

(もう、こんな時間なのね……)

 

とうとう諦めがその華琳の心にも広がっていった。

 

(この曹孟徳が……一体、何をしているのかしら……)

 

成都の大通りを城へ向けて一人歩き出す。

彼女にはいつもの覇気はなく。目線も下向きがちで。まるで小さな少女のようだった。

 

 

「あらァン♪ そこ往くお嬢さん。あちきンお話ィ、ちょオっち聞いておゆきなせェ?」

 

 

そんな華琳に声を掛けたのは。

一刀よりも更に頭ひとつ分は高い、美丈夫。

背の割りにその身体は病的なほどに細い。

恐らくは相当に長いだろう黒髪を頭上で結い上げており、煌びやかな簪を幾つも挿していた。

ど派手な着物のような衣装を着崩し、手には煙管(きせる)。

 

現代日本人的に言うなら、“花魁(おいらん)の衣装を着崩して纏った背の高い男”ということだ。

何より胡散臭いのは、男の野太い声でありながら、女のような、全く違うような、癇に障る口調。

 

十人が声を掛けられれば十人が逃げ出しそうな怪しい男だった。

 

「……私のことかしら」

「そうざんすよォ♪ あちきン見たところ、なンやらお探し物がおありでござんしょオ?」

「…………」

 

普段の華琳ならば、このような者の言を聞いたりはしなかったろう。

しかし、今の華琳は縋(すが)れるならば藁にでも縋りたかった。

 

「……そうね。そこまではあなたの言う通りよ。私の探し物が何なのか。それを言い当てたなら、あなたの話を聞きましょう」

 

「ンやん♪ 曹孟徳さぁまを占えるなんざァ、占い師としちゃあ至上ン喜びざんすよォ♪ ではァ……」

「(私の顔も知っている、か。いざとなれば……)」

 

華琳はいつでも大鎌『絶』を引き抜けるよう、警戒を怠らない。

 

占い師だという男は、胸元から銅鏡らしきものを取り出した。如何に男の背が高いとは言え、鏡は人の頭より明らかに一回り以上大きい。本当に胸元、しかもあの着崩した服の中に入っていたのだろうか。

 

「ふゥむ……お探し物はァ……ほっ、こりゃァ凄え一品でありんすなァ。天界の酒ざんすかァ♪」

「!! 見事ね。裏があるのかは知らないけれど。……まずは名を聞きましょう」

「ほっほぉ♪ 曹ォ孟徳様ァに、あちきン名をお教え出来るなんざァ、光栄の極みィざんすよォ」

「いいからさっさと教えなさい」

 

「こりゃァ失礼♪ あちきン名は――管公明ィ。大陸一ン占い師……管輅てェ申しやんす♪」

 

……。一瞬、辺りを沈黙が支配した気がした。

 

「……え? あ、あなたが“あの”管輅なの!?」

「おォっとォ。孟徳様ァがご存知たァ、あちきも有名ンなったモンざんすねェ♪」

 

未来を見通し、星を読み、易に通じ、他者の寿命を言い当てるという、胡散臭い占い師。

そして……『天の御遣い』がこの大陸の乱世を平定すると予言した男。

 

「ならば聞くわ。私が作ったあの酒は……どこにある?」

「あィやァ、お待ちあれィ。ふゥむ……」

 

管輅は銅鏡を睨みつけ。ぱっと華琳の顔を見た。

 

「どゥやら、もう探す必要はないざんすねェ。こンまま城へお帰ンなせェ」

「つまり……既に誰かが見つけて、城にあるということ?」

「へェい」

 

一言そう返した管輅は銅鏡を胸元へと仕舞う。とてもあんな重い物が入っているようには、やはり見えない。

 

「……それが正しいのであれば褒美を取らせましょう。この場で確認出来ない以上、ここでは褒美はやれないわね」

「金なンざァ、あちきにゃア不要でありんすよ。――明日ン晩、貴女様ン、最も大事な“モノ”でもォ戴きやしょオかねィ?」

「――この曹孟徳を脅すか!?」

 

華琳は即座に大鎌『絶』を突きつけんとするが。

 

「!?」

 

管輅の胸元から光が差したかと思うと、もう彼の姿はそこになかった。

 

「私の……最も大事な“モノ”を、奪う……!?」

 

太陽はいつの間にか完全に沈み、辺りは暗闇に覆われていた。

ただ、人の持つ灯りが微かに辺りを照らし、街の喧騒は未だ収まることを知らない。

 

 

……

 

…………

 

 

華琳が城の門を潜ると、桂花が駆け寄ってきた。

 

「華琳様! お帰りが遅いので、心配致しました!」

「そうね、ごめんなさい……」

「華琳様?」

 

どこか覇気のない華琳に桂花が声を掛ける。

 

「……ああ、それで首尾はどうなったのかしら?」

「あ、はい! 発見してございます!#」

「見つかったのね!……何を怒っているの、桂花?」

「それが……」

 

と桂花が説明しようとすると、そこへ瓶を抱えた一刀がやって来た。その後ろからは、今日一日で出会った者たちが続く。

 

「あ~……華琳。これ」

 

一刀が差し出したガラス瓶は、確かに華琳が今日一日探し続けたものだった。

 

「…………」

 

華琳は無言でそれを受け取り。瓶を抱き締めて、目を瞑り。唯(ただ)一筋、涙を流した。

 

「華琳!?」「か、華琳様!?」

 

彼女の涙は。この酒に籠められた、華琳の一刀への想いを如実に表していた。

この酒が一刀に試飲させるものであることを知る者は、華琳の想いの強さを改めて知ったのだった。

 

 

「ふぅ……今日は散々な一日だったわね……」

「申し訳ございません、華琳様……」

「……もう、いいわ。あなたの心情を理解出来なかった私にも非はある。――ごめんなさい、桂花」

「そんな!勿体無いお言葉です……!」

 

「で、結局。この酒瓶はどこにあったの?」

「あ、あの~、それなんだけど……」

 

華琳の当然の疑問に、一刀が気まずげに答えた。

 

「俺が『文化交流会』の会場に持ち込んで。勘違いで別物を霞に渡して。で、実は霞に渡した陶器製の酒瓶は元々会場に置いてあった料理用の酒だったらしくて」

「……そうね、そこまでは霞の証言と一致するわね」

「で……会場に置きっぱなしになっていた、華琳の酒瓶に気付いた流琉が、大事なものだからって保管してくれていてね……」

「……あなたが探したときには、見つからなかった、と……#」

「……はい」

 

「結局、あなたがちゃんと管理出来てないせいじゃないの! この馬鹿ーーーーーーー!!」

 

ばちこーん!

 

「すんませんしたぁーーーー!!」

 

 

 

続。

 

諸葛瞻「しょかっちょ!」

曹丕「そうっぺ!」

周循「しゅうっちの!」

 

三人「「「真・恋姫†無双『乙女繚乱☆あとがき演義』~~~☆彡」」」

 

諸葛瞻「お読み戴き多謝でしゅ。諸葛亮こと朱里の娘にして北郷一刀の第23子、しょかっちょでしゅ!」

曹丕「乱文乱筆なれど楽しんで戴けたかしら。曹操こと華琳の娘にして北郷一刀の第9子、そうっぺよ♪」

周循「少しでも面白いと思って下されば重畳。周瑜こと冥琳の娘にして北郷一刀の第25子、しゅうっちで~す☆」

 

 

周循「さて、まずは裏ネタからですね」

 

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○議題:ヒロイン大食い番付

 

諸葛瞻「“大食い”ネタから参りましゅ。筆者の感覚やアニメ等より、以下のように設定しゃれているそうでしゅよ」

 

 翠 < 鈴々 = 猪々子 < 恋 = 季衣

 

曹丕「これは人によっては異論がありそうね。飽く迄この“外史”――本作での設定ということで納得して頂戴」

 

周循「因みに、母親の大食いの素養はほぼその娘に遺伝されていますね。娘の方は順列の設定はしていないとのこと」

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○議題:『ちんきゅーきっく』について

 

諸葛瞻「次にねね様の『ちんきゅーきっく』のバージョンについてでしゅ」

 

曹丕「どーでもいいオリジナルネタね」

 

周循「まあそう言わず。『壱式』は原作中でも多用されていた、体重を乗せた所謂“跳び蹴り”ですね」

 

諸葛瞻「『弐式』は原作中に一度だけ使用されたシュライディングちんきゅーきっくのことでしゅ」

 

曹丕「しょかっちょ、言えてないわよ。“ス”ライディングちんきゅーきっく、ね」

 

諸葛瞻「はわ~……気合を入れるようなネタでなかったもので。で、『参式』が垂直ないし斜めへ跳び上がっての蹴り上げでしゅ。どれも基本的に助走することが前提だそうでしゅ」

 

曹丕「ねね様はお体が小さくてらっしゃるから、威力を上げるには仕方ないわね」

 

周循「今や老犬となった張々では、真桜様特製のジャンプ台は運べませんからね」

 

諸葛瞻「代わりに、最近は華佗先生に教わって、人体の急所を狙うことにしたらしいでしゅ。まだ命中率に難があるらしいでしゅが」

 

曹丕「工夫を忘れないのは、軍師として正しい姿だとは思うけれど……。方向性を明らかに間違えてるわね……」

 

 

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○議題:“大陸一の占い師”管輅について

 

曹丕「…………二人出すと言っていたオリジナルキャラの一人目、ね…………」

 

諸葛瞻「無印、真に関わらず、原作中で名前だけ出てくる人物でしゅけど……」

 

周循「凄まじいイロモノにしたものだな……」

 

諸葛瞻「初めはもっとちゃんとした『廓詞(くるわことば、花魁たちの使う特殊な言葉)』にする積もりだったらしいでしゅが……しゅっごい難しくて、筆者にはとても再現出来ない、と……」

 

曹丕「で、あの怪しい“ざんすざんす”言う意味不明な言葉遣いになった訳ね……」

 

周循「筆者としては、今後オフィシャルで出たとき絶対に被らないキャラで、かつ、読者様が“うぉっ!?”と思うようなキャラにしたかったとのことで」

 

曹丕「オフィシャルとは被らないでしょうけど……これでいいのかしら……」

 

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諸葛瞻「こほん。さあ、今回もゲストが来てくれています! では自己紹介をお願いします」

 

 

孫紹「やっほ~☆ 孫策こと雪蓮の娘で、北郷一刀の第8子。孫紹(しょう)よ☆」

 

黄柄「わっはっはっは! 黄蓋こと祭の娘にして北郷一刀の第16子、黄柄(へい)ってんだ! よろしくな!」

 

曹丕「今回はこの三人をゲストにお送りするわ」

 

馬秋「ちょ、待てこら! 三人って言ってんのに、明らかに一人足りてないだろ!?」

 

曹丕「……(ぽん)。すっかり忘れてたわ」

 

黄柄「ぶわっはっはっはっはっは!!(両手を叩いて大笑い)」

 

馬秋「ゲストに来てやってんのに、進行役が忘れんなよ!? つか柄も笑いすぎだ!」

 

曹丕「はいはい。自己紹介して頂戴」

 

馬秋「ちくしょー……。(咳払い)改めて、馬超こと翠の娘であり北郷一刀の第12子、馬秋(しゅう)だ!」

 

 

諸葛瞻「今回のお三人は、全員そうっぺと同じ年長下級(小5クラス)でしゅね」

 

周循「前回も申し上げましたが、人名の後にすみ括弧書き【xx】とあった場合、その方の娘であるということを示しています。今後もこの形式で統一しますので、よろしくお願いします」

 

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○質問:特に仲の良い姉妹は?

 

孫紹「んー、アタシは孫家姉妹を除くと……(しゅうっちを見る)」

 

周循「ああ、そうですね。母さん達と共に過ごすことも多いので。しゅうっちは孫紹様とはよく一緒にいますね」

 

孫紹「だって~、アタシはしゅうっちを愛してるんですもの~☆(抱きっ!) しゅうっちさえいてくれれば、後は何も要らないわ!!」

 

周循「むぎゅぅ!少し力を抜いて下さい、孫紹様!……ふぅ、孫紹様はちょっと悪癖がありまして。詳しくは後述しますが。なんだかんだで武官候補の姉妹とは仲が良いというか、トラブルメーカー扱いされているというか……」

 

孫紹「あぁ~ん、いつもごめんね、しゅうっち。まあ、確かに柄とは良く一緒に暴れてるわね。あと……実はアタシ、鈴々様を尊敬しているのよ☆ ネタバレになるから、細かいことは言えないけど」

 

黄柄「そうだな、あたいは孫紹様とはよく一緒にいるな。あと、紫玉……タマ【桔梗】とは互いにライバルとして認めてるんでな。あいつは宏【雛里】とつるんでるんで、あたいはその宏【雛里】と仲の悪い譚【麗羽】に傭兵として雇われて、よく喧嘩してるぜ」

 

諸葛瞻「姉妹内では宏ちゃん【雛里】と譚ちゃん【麗羽】の諍いは日常茶飯事でしゅ。ガキ大将的に年少組を仕切る宏ちゃん【雛里】が、自身が皇女で最も高貴であると主張しゅる譚ちゃん【麗羽】には気に入らないらしくて。周りを巻き込んで何かと喧嘩になるのでしゅよ……」

 

馬秋「あたしは孫登(とう)様【蓮華】が一番仲が良いかな。あと勿論、馬一門である承(しょう)【蒲公英】もな。それから、乗馬関連で董白(はく)様【月】とも良く遊ぶし、孫登様【蓮華】繋がりで苞(ほう)姉上【鈴々】とも一緒になることも結構あるな」

 

曹丕「孫登【蓮華】は仲の良い姉妹が多いから、その孫登と仲の良いあなたも自然とその輪が広がるのでしょうね」

 

馬秋「……正直、惲【桂花】は苦手なんだけどな……。あたしは頭悪いから、充(じゅう)【春蘭】と一緒に、あいつの悪巧みに引っかかりまくってるんだよ……」

 

曹丕「ああ、孫登【蓮華】はその二人とは特に仲が良かったわね。……ま、諦めなさい」

 

馬秋「(溜息)」

 

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○質問:特技・特徴は何ですか?

 

孫紹「あんまり言いたくないけど……アタシ、興奮すると『バーサーカーモード』になっちゃうのよね」

 

周循「自身が倒れるか、周囲の動くもの全てを打ち倒すかしないと止まらない……孫紹様は孫家の血が凝縮したかのようなバトルマニア。『江東の虎』孫文台の再来とすら言われる武の申し子ですからね」

 

孫紹「そんなアタシを唯一、制御出来るのがしゅうっちなのよ~! 愛の成せる業よね~☆」

 

周循「まあそういう事情もありまして。お目付け役を兼ねて、しゅうっちは孫紹様と一緒にいることが多いのです」

 

曹丕「アレが発動しちゃうと、流石に私や平(へい)お姉様【愛紗】でも押さえきれないわね。それこそお母様方か、お義姉様(璃々)に来てもらわないとならなくなるのよ」

 

孫紹「いつもすまないねぇ……」

 

周循「ボケるチャンスを取られた!? 酷いです、孫紹様!」

 

諸葛瞻「しょう言えば説明してましぇんでした。劉禅(ぜん)しゃま【桃香】、そうっぺこと曹丕しゃま【華琳】、そして孫家の御子様は、“元国主・王家の娘”ということで。また皇太子であられる董白様【月】は、他の姉妹からは“姓名プラス様付け”で呼ぶことになっていましゅ」

 

孫紹「その規則のせいで、しゅうっちに“姉さん”って呼んで貰えないのよねぇ……ま、公の場では、ということで、私室とかだと無視されることもあるわ。実際、家族だけの時とかは“紹姉さん”って呼んでくれる時もあるし☆」

 

黄柄「次はあたいか。基本的にあたいは戦闘馬鹿だな。戦うことしか能がない。お袋殿から教わった鉄鞭を両手に構える“双鉄鞭”と……あとは『気功』が得意ってくらいだ」

 

曹丕「あら、謙遜なんて珍しいわね。あなたの『気功』の才能は姉妹随一。既に母を超えたとすら謂われる程じゃないの。特にその硬気功は刃も矢も通さず、と聞いているわ」

 

黄柄「そりゃ普通の兵士のならな。タマの弾丸なんぞまともに喰らったら、流石に効いちまうし、まだまださ。この間の決闘じゃああたいが負けたしな。でも、次戦ったらあたいが勝つね! わっはっはっは!」

 

周循「その根拠のない自信はどこから……ああ、そうそう。柄姉さんと言えば『笑い上戸』ですかね。笑ってる場合でなくても笑ってますよね……。筆者のイメージはワンピ●スのルフ●だそうですが」

 

馬秋「あたしはやっぱり母上直伝の馬術と槍術だな。馬上戦闘なら董白様【月】にだって負けないぜ! ……その代わり、頭の方はからっきしだけどな……」

 

諸葛瞻「しょかっちょ的には、秋お姉しゃまの最大の特徴は『何故か影が薄い』ことだと思うのでしゅが」

 

馬秋「ほっとけ!」

 

曹丕「孫登【蓮華】すらその存在をよく忘れてるわねぇ。遊ぶ約束をしていて、誰かがいないと思うと、大概あなたですものね。学校の点呼ですら呼ばれない時があるし」

 

周循「存在感がない訳ではない筈なのに不思議ですね。秋姉さんはいつも前向きで明朗快活であるので、とても皆さんに可愛がられています。こう言っては何ですが……愛すべきお馬鹿ちゃん、ということでもあるのですが……」

 

馬秋「そっちもほっとけ!」

 

曹丕「うふふ……何を言っているの。あなたの最大の特徴は……『おもらしキャラ――」

 

馬秋「わーーーー!わーーーー!わーーーー!!」

 

その他「「「「??」」」」

 

馬秋「(だっ、誰から聞いたんだよ、そんな話!?)」

 

曹丕「(私は“あの”惲【桂花】と仲が良いのよ? このくらいの情報は当然握ってるわ♪)」

 

馬秋「(た、頼むよ~、内緒にしといてくれ~……)」

 

曹丕「(くすくす♪ あなたの可愛い泣き顔に免じて、この場は大人しくしていましょう♪)」

 

馬秋「(はふぅ~……)」

 

 

 

曹丕「こんなところかしらね。楽しんで戴けたかしら?」

 

馬秋「あたし、何だかどっと疲れた……」

 

周循「?? それでは、また次回にお会いしましょう! 皆さん、ご一緒に!」

 

諸葛瞻「いきましゅよ。しぇーのっ」

 

 

六人「「「「「「バイバイ真(ま)~~~☆彡」」」」」」

 


 
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