No.1018520

快傑ネコシエーター34

五沙彌堂さん

166、里見堅応の賓客
167、日輪の遺産
168、100歳のヒロイン
169、霧霞童子渡英
170、明日への遺言

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2020-02-01 23:44:27 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:640   閲覧ユーザー数:640

166、里見堅応の賓客

 

里見堅応の元に大陸の密教の総本山からの手紙が届けられた。

手紙を読んで驚き、携えてきた人物と直接会うことにした。

「大僧正猊下、初めてお目にかかります、私は大陸の鬼族を束ねる霧霞童子様の配下で

彌浄と申します。」

「ではあなたが貴人や高僧の舎利を作られて都の東寺に納めているという彌浄童子様。」

里見堅応は正直驚いていた、この国には仏舎利を作れるものが無く大陸より送り人を

呼んで貴人や高僧の供養をした。

遺体を焼かずに遺骨を綺麗に舎利にするのは仏法に帰依した食屍鬼に

しかできなかったのだ。

その正体は全く分からず、浄の一字をその名に持った童子名の無角の鬼族であるとだけ、

聞いていたが突如目の前に現れて大事な要件を伝えに来たのだった。

「手紙にもありますように我が主の命で大谷行基はこの国を治め、近代国家に立て直し

大陸のように国土を細切れにされずに、侵略からこの国の独立を守ることです。」

「しかし、かなりの独断で最早我が主の願いとは方向がずれ始めています、

それがこの国にとって憂いになっているといっても過言ではありません。」

彌浄童子は静かに語り、里見堅応の反応を見ていた。

里見堅応は大谷行基の正体をはっきりさせてくれた霧霞童子に感謝した。

「ところで霧霞童子様は私の様な老いぼれに何をさせたいのですかな。」

「古宮慧快様が纏め上げた文献をこっそり行基に分らないように御山で隠し

持っていて頂きたいのです。」

「行基めは古宮慧快様が亡くなればそれを全て封印してしまうでしょう、その前に

この御山にその写しを隠して行基の魔手から守って欲しいのです。」

「慧快さんは行基にすっかり騙されて言いなりに成って居る上、奴の本性を知らずに

大恩人だと思いこんでいるようだから説得するのは難しかろう。」

「我が主より策を授かって参りました、大僧正猊下が慧快様に遺言書を書いて、少しでも

行基に対して疑心が生じた時に読むように託ければ、間違いなく目が覚めて自分の

知りえたことを御山に残すでしょう。」

里見堅応は還暦を迎えたばかりであったが自分が確りしている内に慧快に遺言書を

誰にも知られないように与え、大谷行基に疑心が湧くまで封印するようにと告げた。

果して、20年近く経ち慧快が生死の境を彷徨う様な怪我をして一年の休養後、

エクスタミネーター養成所の教官として現場を離れていた時に里見堅応が倒れたと

言う知らせを聞き、直ぐに密教の総本山の里見堅応の枕元に駆け付けた。

慧快以外誰もいなくなると里見堅応は静かに目を開け、慧快に語りかけた。

「慧快さん、大谷行基に疑心が湧いたのであろう。」

「はい、この1年の間管長猊下の遺言書を読むべきかどうか迷っていました。」

「では、行基の本性にやっと気が付いたのであろうな。」

「それでも、大検校様は私にとって大恩人でありました。」

「しかし、罪の無い亜人の命を軽く見て私の大事な友人のパートナーやその子息を

罠にかけ命を奪うことを仕組み、人間の命の重さを全く顧みない不死族の本性が

愚かな私にも解かって参りました。」

「慧快さん、行基とは今まで通りに接して行きなさい。」

「決して、疑心が生じたことを気づかれないようにしなくてはいけませんよ。」

「例え慧快さんでも行基は使えなくなれば捨てますよ。」

「慧快さんには真祖吸血鬼さえ滅ぼせる日輪の十字架があるから行基は今のところは

慧快さんを大事にしています、それが自分に向けられると思ったら容赦なく罠を

仕掛けて繰るでしょう。」

「管長猊下の遺言書にあるよう私の調べたデミバンパイアの退治法だけではなく、

この国古来の変化で人の命を奪う者の退治法について纏めた物を経典に偽装して

御山に納め、将来のため役立つように致します。」

「日輪の十字架は普段は秘密の場所に隠しております、それは大検校にも教えません、

日輪の十字架は私の切り札です。」

「慧快さん、くれぐれも長生きして下さいね。」

それだけ言うと里見堅応は静かに目を閉じた。

御山から下りて帰路を急ぐ慧快に話しかける者があった。

「大僧正猊下の寿命はまだまだ大丈夫ですよ。」

「あなたは。」

慧快は不思議そうに尋ねた。

「私は大陸の密教の総本山の在家の長である霧霞童子様の配下で彌浄と申します。」

「あなたが彌浄童子様、でもどうして私にそんなことを。」

慧快は大陸からの賓客が目の前に現れて少し困惑した。

「大僧正猊下同様に霧霞童子様も慧快様をとても心配しております。」

「慧快様の体は既に日輪の力を後数回位使えば寿命が尽きる程衰えています。」

「自重して下さい、日輪の十字架を作る荒行で既に30年位寿命が削られています。」

彌浄童子は親身になって慧快の体を心配してした。

「なぜ、あなた様、そして霧霞童子様が私なんぞを心配して下さるのですか。」

「どうして、私自身の私の知らないことまでご存じなのでしょうか。」

彌浄童子は慧快の疑問に誠実に答えた。

「それはあなたとあなたのお仲間がこの小さな島国の弱い立場の人々を守っていることを

私が霧霞童子様に全て伝えております。」

「霧霞童子様は全てを見通すサトリ鬼で我等鬼族全ての頭領なのです。」

167、日輪の遺産

 

道雪の元に人目を忍んで尋ねてきた老僧があった。

毬栗頭に無精髭を生やしボロボロの袈裟と衣を着た物乞いの托鉢僧の出で立ちであったが

道雪は一目見るなり深くお辞儀をしてその正体を見破ったようだった。

「畏れ多くも御山の主様がこのような一介の修行僧に如何なる御用事でしょうか。」

 

老僧の正体は密教の総本山の主で寒河江弐公であった。

里見堅応は慧快の没後二十年以上生き齢百八歳で逝去し、

当時三十三歳であった寒河江弐公が堅応の遺言で後を継いだのであった。

 

寒河江弐公は風狂の異名を持つ異端児で大谷行基に諂わない気骨と

名刹の主に相応しい優れた知識を持っていた。

「道雪様は慧快様と深いご縁があると先代堅応大僧正猊下から聞いております。」

「ぜひ、道雪様に慧快様の残された経典を受け継いでお役に立てて欲しいのです。」

道雪は寒河江弐公の突然の申し出に驚いた、慧快の遺したものは全て行基が封印して

仕舞ったと聞いていて密教の総本山といえど何も残っていないと思われていたからである。

「実は先代堅応大僧正猊下より慧快様が調べた日輪の十字架の開眼法、デミバンパイア

の退治法から、この国古来の変化で人の命を奪う者の退治法について纏めた物を

経典に偽装して御山に納め、将来のため役立つようにされていたのです。」

 

寒河江弐公が23歳の時、慧快の死後から10年以上経ってから行基の行いを

知り非常に憤慨していた。

「慧快様を供養したい人は数多くいるはずなのに、何も自分の屋敷の一角にまるで

封印するように葬るなんて、髑髏検校の奴何を考えているんだ。」

「堅応大僧正猊下をないがしろにして読経さえも拒むなんて驕りも極まれりという

ものだ。」

そんな弐公を諭すように堅応は優しく語った。

「弐公さん、お前さんにとても大事な役目を務めてもらう、わしが死んだら遺言書を

残しておくから、それで行基の鼻の穴を開かしてやりなさい。」

 

さて、堅応の死後遺言書をに目を通した弐公は仰天した。

自分が兄弟子たちを差し置いて後継者に選ばれていたのだった。

そして、古宮慧快の生涯を通じて調べ上げた研究書とも云うべき経典が御山に隠されて

おり、然るべき後継者に引き継がせるように指示されていたのであった。

 

弐公は巷で滝口道雪、大和龍之介及び四方野井雅の活躍を耳にしてその人物に

ついて秘かに調査し慧快の遺した経典を委ねても良いがどうか考えていた。

そこで僧籍にあって慧快と縁が深かった道雪を訪ねてきたのであった。

道雪は経典を広げ、中を見ると確かに見覚えのある懐かしい慧快の文字が刻まれていた。

「これは、これこそ日輪の申し子慧快様の遺産だ。」

道雪は深々と弐公に深々と頭を下げ感涙にむせんでいた。

「この日輪の遺産のことは絶対に行基に悟られぬようにして下さい。」

「あなた方の命そして周りにいる全ての方々の命を危険に晒すことになります。」

「行基が偏執的で残酷なのは既にご存じだと思いますが下手をすると全て皆殺しに

して口封じ、存在さえ無かったことにするでしょう。」

弐公は道雪に強く警告をすることを怠らなかった。

行基に対する警戒心はだれよりも強く慧快の縁者に危害が及ぶのを何よりも恐れていた。

実は弐公の元に大陸の霧霞童子からの書状が届き行基の目を盗んで慧快の遺産を継承させ

のは今がその機会であると告げられたこともあり、思い切って道雪の元に経典を全て移譲

したのであった。

「実は大陸の鬼族の棟梁である霧霞童子様からの書状が届き今なら行基も油断している

から、この機会に縁の深かった道雪様に日輪の遺産をゆだねたのです。」

道雪は深く頭を下げ。

「弐公様、お言葉をきっと心に留め折角のご厚意を無駄にせぬようにいたします。」

「それがこの経典を記された慧快様の意に叶うことです。」

弐公は道雪の人格を見極め、経典をゆだねたことに満足して注意深く、あたりに監視の

目の無いことを確認しながらその場を立ち去った。

 

道雪は暫らく感慨に浸っていたが経典をどうするか考え、特に慧快と付き合いの深かった

四方音と銀を呼び相談することにした。

ただ銀には行基の監視の目に注意して猫の姿で源さんの工房へ来てもらった。

 

「密教の総本山の先代堅応大僧正様という方はとても気骨のある方だったようだね、

お陰で慧快さんの遺産がこうして日の目を見る日が来るなんて。」

銀は感動で涙を浮かべていた。

しかし四方音は霧霞童子の恐ろしいくらいの手際の良さが気になっていた。

「いったい何者なんじゃ、霧霞童子という大陸の鬼族の棟梁というのは行基を手玉に

取るなんて、いったい何が目的なのか想像がつかないのう。」

とても不安そうに呟いた。

「しかも、大陸の不死の鬼族の棟梁がどうしてこの国の人の幸福を考えるのか判らぬのう、

本当に心を許していいのじゃろうか。」

168、100歳のヒロイン

 

「おかっぱのお嬢ちゃん、トイレにつれってってよ。」

そこには四方音の袖を引っ張る小さな愛くるしいおばあちゃんが大きな目をくりくりさせていた。

四方音は手をつないでコンビニのトイレまで案内することにした。

「トイレ、トイレ、トイレ」とおばあちゃんは楽しそうに歌いだした。

トイレで用を足すと洗った手を拭きながら

「ありがとうお嬢ちゃん、ちゃんと間に合ったよ。」

そんな二人の姿を見たさつきはレジから飛び出してきた。

「ふにさん、またデイサービスを脱走してきたんですか?」

「さっきオーナーさんのところに電話があってふにさんが行方不明になったって大騒ぎで

オーナーさんの家族みんな、コンビニの店長以下私以外の全員とヘルパーさん総出で

探していますよ。」

「だってあそこの人は今行ったばかりだからってトイレに連れてってくれないんだよ。」

ふにさんはプーと頬を膨らませ不満そうに言った。

ふにさんは足のむくみの治療のため利尿剤を飲んでいるのでトイレに頻繁に通わなければ

ならなかった。

「さつき姉様、この方をご存じなのですか。」

四方音は人懐っこいおばあちゃんに興味を持った。

「この方は若本ふにさんといってこのマンションのオーナーさんのお祖母様なのです。」

さつきは小声で四方音にだけ聞こえるように

「ふにさんは一人歩きをさせると何回も転んで大怪我をしてるんで注意が必要なん

ですよ。」

デイサービスの職員はとても忙しく人手不足で十分見守りができなかった。

ふにさんが転んで怪我するよりは失禁しても大人しくじっとしていて欲しかったのだ。

しかしながらふにさんは地獄耳だった。

「何こそこそ内緒話なんかしているんだい、あたしゃ97歳でも耳だけは達者なんだよ。」

ふにさんは不満そうにさつき達に文句を言った。

「おばあちゃんいえ、ふにさん、とてもお若いのでとても97歳には見えません。」

咄嗟に四方音は必死になって誤魔化して取り繕うとした。

実はふにさんは今年誕生日を迎えると101歳になるのだったが本人は実年齢の記憶が

あやふやだった。

四方音もさつきも実年齢は離れているが不死に近い長寿命の種族なので正直なところ

人間のお年寄りは苦手だった。

いったいどうやって付き合えばいいのか分からなかったのだ。

 

そこへ助け舟がやってきた、雅だった。

「ふにさん、みんなで必死になって亜人街を探していますよ、さっきオーナーさんが

源さんの工房に来ていましたよ。」

雅は不死に近い長寿命の自覚が無く人間生活が長いので年長者に対して敬意を持って

接しており、特にご老人に優しかった。

「みやちゃん、早くトイレにつれってってよ。」

「えっ、今行ったばかりじゃ・・・。」

四方音はつい言ってしまいそうになったが何とか踏みとどまった。

雅は優しくふにさんの手をつないで答えた。

「では、一緒にトイレまでご案内いたします。」

「トイレ、トイレ、トイレ」とふにさんは楽しそうに歌いだした。

ふにさんがトイレに入ったことを確認してから、さつきは小声で囁いた。

「別に忘れたわけではなく、ふにさんは本当にトイレに行かないと間に合わないですよ。」

「雅さんだけではなく、美猫ちゃん、妖子ちゃん、銀さん・・・この辺に住んでいる皆

ふにさんのトイレ誘導をやっているんですよ。」

「ふにさんは顔は覚えていても名前が出ないと言って家族以外は雅さんしか名前を覚えて

貰えないんですよ。」

「長寿命の種族は普通老化しないだけあって、ご老人が持っている悩みを理解するのは

難しいのぅ。」

四方音は溜息をついて呟くように言った。

「妖子ちゃんなんか名前を覚えて貰えなくても御祖母ちゃん大好きっ子だから全身全霊

ふにさんに付き合っていますよ。」

さつきは微笑まし気に言った。

さつきはコンビニの店長にふにさんが無事保護されたことを連絡した。

ふにさんは満面の笑みを浮かべてトイレから出てくると、雅の手を握ってささやいた。

「みやちゃん、死んだ爺さんの次に大好き。」

雅は照れながらもふにさんに優しい言葉をかけた。

「では、ふにさんの旦那様の命日のお墓参りにご一緒致しましょう。」

ふにさんは喜びを全身で表しつつ照れ隠しにいつものように

「みやちゃん、早くトイレにつれってってよ。」

ふにさんにとってトイレに本当に行きたくなったのだが

これは大事なコミュニケーションの手段でもあった。

雅は優しくふにさんの手をつないで答えた。

「では、一緒にトイレまでご案内いたします。」

 

169、霧霞童子渡英

 

霧霞童子は英国のスレート侯爵と面会した。

「あなたという人は否、見た目は普通の人間だが本当に神出鬼没で怖い方だ。」

スレート侯爵は感嘆して言った。

「あなたの度胸というか大胆さは私も見習いところだが、私の傍には日沙妃姫が

厳重に見張っていて、あの国に行かせては貰えないのだ。」

霧霞童子は横にいる日沙妃姫に視線を投げかけた。

「童子様は行基を甘く見すぎています。」

「行基にとってスレート侯爵は英国の支持を得るためなくてはならないお方です、

あの国で何か遭ったら、行基は英国の後ろ盾を失います。」

「反対に童子様は行基をあの国に送り込んだ張本人で大恩人にも拘らず、目の上の瘤

程度ぐらいにしか思っておらず、あの恩知らずに隙を見せれば命を奪って自分の地位の

安定を計りかねません。」

日沙妃姫は少しふくれて答えた。

「日沙妃姫は本当に行基がお嫌いのようだね。」

「いやぁ、私も行基が大嫌いで顔を見るのも嫌だからに交渉事はガード伯爵に全て丸投げ

しているよ。」

スレート侯爵は相変らず無責任に言った。

「ガード伯爵のご心痛お察し申し上げます。」

日沙妃姫は少し気の毒そうに答えた。

「ガード伯爵は正義漢だけれど、かなりのお人好しだから行基の闇や悪行には

気づかないだろうなぁ。」

「でもとても聡明だから、もし気づいたとしても英国の国益になるのなら

それぐらい我慢するだろうなぁ。」

スレート侯爵は溜息をついて言った。

「私の息子があの国に暮らしていて、理不尽な社会の歪みに精一杯抵抗しているが

まだまだ心もとない、できれば元通りの平穏な暮らしをさせたいがそうも行くまいよ。」

「行基に目をつけられ、いずれは小宮慧快様のように使役されかれない。」

スレート侯爵は口惜しそうに言った。

「四方野井雅さんは私霧霞童子が命を懸けて守りましょう。」

「そのために大陸からあの国に食屍鬼の長である彌浄童子を密偵に送り込み様子を

探っています。」

実は霧霞童子は四方野井雅に興味があった、スレート侯爵の実子でスレート侯爵同様に

腰の低いバンパイアハーフがとても気になっていた。

「流石はサトリ鬼だけあって真祖吸血鬼以上の能力を有するあなたの守護があれば

私の息子も安心です。」

「でも、行基に対する決定的な切り札がないと日沙妃姫の心配は解消しないでしょう。」

スレート侯爵は心配顔で言った。

「手はいろいろ有るのだが、例えば食人鬼を多数密入国させて混乱させたり、邪流立川流

の封印を解いた呪いの髑髏を大量に送り付けて混乱させたりとか、確かに行基は困る

だろうな、国の秩序が乱れるから、ただその方法だと無辜の国民に多大な迷惑がかかる。」

霧霞童子は悩まし気に答えた。

「それは確かに不味いでしょうなぁ。」

余りにも強硬で危険な案件に流石にスレート侯爵も賛成しかねるものであった。

「そんなたちの悪い悪戯の規模を拡大したようなことをやったら行基はさっさと国を

逃げ出すでしょう、でも残された者たちで国を元通りにするのは困難だと思います。」

日沙妃姫は頬を紅潮させて言った。

「では、行基が魔力遮断するように仕向けて無力化出来れば問題ないでしょうな。」

スレート侯爵は行基を油断させることを提案した。

「行基は自分の作った亜人管理のための身分制度に自信を持っておりこれからも永遠

に続くものと過信している。」

「あの国には古宮慧快様の遺志を引き継いで弱い立場の人々を守っている方々がいる。」

「何とか彼らと接触して情報交換ができれば行基の横暴からあの国の弱い立場の亜人

を守ることができ、行基の作り出した身分制度を破壊して解放できるかもしれない。」

「既に古宮慧快様の研究の集大成日輪の遺産は彼らの手に委ねられた。」

霧霞童子は期待込めて答えた。

「ただ一つ心配なのは彼らが私霧霞童子を信じてくれるかどうかが判らない。」

「なぜ大陸の鬼の棟梁があの国のために力を貸すのか、それは私の命を助けて

育んでくれた国なのです。」

「猫間大納言様、竜造寺烏丸姫様、亡き大伴の大蔵介様に恩返しをしたいのです。」

「さらに私の日沙妃姫はあの国の姫神の血を引いております。」

「当初の目的はあの国に行基を送り込んで秩序を守り大陸のように外国に征服される

ことのない、近代国家として生まれ変わらせることだった。」

「途中までは良かったが段々と行基の私心が大きくなってあの国を自分の所有物として

好き勝手にする様になってしまった。」

「このまま捨て置く事は絶対に出来ない。行基を倒して行基に代わってあの国を

守っていくものの手に委ねたい。」

霧霞童子は熱く語った。

日沙妃姫は頷き、熱い目で霧霞童子を見つめていた。

スレート侯爵は霧霞童子への協力を約束した。

 

170、明日への遺言

 

四方音は妖子の変化の能力を本来の自在変化まで高め美猫以上のスペックを否

銀以上の高位の変化の力が使えるようになって欲しいと思っていた。

いずれは母親の天子の最期を伝え仇敵行基を討ち取って欲しいと思っていた。

今の妖子では自在変化処か普通に妖狐なることすら叶わない。

下手に天子の最期の話をして今行基との因縁が生じることは避けなければ為らなかった。

ただ行基を葬るには雅が現在預かっている日輪の十字架かつて古宮慧快が命を込めて

造り上げたものを使えばいいのであった。

美猫が手負いのデミバンパイアを滅ぼしたことから妖子が使うのに問題はないと思われ、

この方法が一番確実であった。

最大の問題は妖子の吸血鬼恐怖のトラウマであった。

 

ある日、四方音の下へ大陸の鬼の棟梁の霧霞童子の使者として彌浄童子が訪ねてきた。

「鬼族の棟梁の霧霞童子様から是非四方音様にお伝えしたいことがありまして、こちらに

こっそり行基に見咎められぬ様に参りました。」

「今日輪の遺産を守って居られるのは四方音様と伺ったの是非お耳に入れたいことが

あります。」

「白猫銀様、大和龍之介様、四方野井雅様、竜造寺美猫様には行基の監視の目があり、

下手に近づけないのです。」

「近い将来、行基を闇に葬ろうと霧霞童子様は考えておられます。」

「霧霞童子様も無事では済まないかもしれません。」

「自分の命と引き換えにしても行基を倒そうと考えておられます。」

四方音は霧霞童子が命を懸けてこの国に巣食う害毒から救う事情を聞いた。

「猫間大納言様、竜造寺烏丸姫様、亡き大伴の大蔵介様に恩返しをしたいのです。」

「さらに私の日沙妃姫はこの国の姫神の血を引いております。」

「当初の目的はこの国に行基を送り込んで秩序を守り大陸のように外国に征服される

ことのない、近代国家として生まれ変わらせることだった。」

「途中までは良かったが段々と行基の私心が大きくなってこの国を自分の所有物として

好き勝手にする様になってしまった。」

「このまま捨て置く事は絶対に出来ない。行基を倒して行基に代わってこの国を

守っていくものの手に委ねたい。」

彌浄童子は霧霞童子の言葉をそのまま伝えた。

四方音は霧霞童子の遺言を聞いたような気がした。

同時に霧霞童子のこの国への思いを強く感じた。

「私に何ができるのだろうかわからないが霧霞童子様の気持ちに可能な限り答えたい。」

 


 
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