No.1012221

九番目熾天使・外伝 蒼の章 未来外伝2

Blazさん

またも短編。
とりあえず言えるのはディアのフラグはもうかなりできてるということ。

2019-12-07 23:34:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1173   閲覧ユーザー数:1138

 

 

 

 

 

 ―――死は生命の義務である。

 

 ―――死は生命の宿命である。

 

 ―――死は生命の一部である。

 

 

 ―――ゆえに、死がある限り”生命”は存在し続ける。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 某世界、ディアーリーズの自宅―――

 

 ある世界にあるディアーリーズの自宅。その一室にてそれは起きていた。

 

 「………。」

 

 複数人、それも十人以上はいるリビングはそれに反して極めて重苦しい静寂に包まれていた。

 普通なら多くの人の声でにぎわってそうだが、生憎とその場にいる面々の大半はそんな気分ではない。ある者は体中から脂汗を滝のように流し、ある者はその様子を睨むように凝視している。そしてある者はその様子を傍観者であるかのように眺め、ポテチを食べていた。当然、そんな様子を他の者たちが気にしないわけがなく、まさに修羅場と言える光景がそこにはあった。

 そんな光景に、青年は一言。心の中でつぶやく。

 

 

 

 ―――どうしてこうなった。

 

 と。

 

 

 

 まぁ余は知らんがな。

 

 「いや、アンタのせいでもあるからね!?」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 事の始まりは今から三時間前。

 旅団本拠地、楽園での一幕だった。

 任務を終えて帰還したディアーリーズは休息と軽食を兼ねて食堂に足を運んだ。そこには同じく軽食をとるロキとげんぶの姿があり、そこに同席させてもらう。

 任務終わりでへとへとなディアは軽い食事とはいうがかなりガッツリとしたケバブを一つ食らいついていた。

 そんな時だ。

 

「………そういえばさ、ディアよ」

「はい……?」

 

 ふと話を切り出したロキは食べていたサンドイッチを飲み込むと何気ない顔でディアに問いを投げた。

 

「お前、結婚はするのか?」

「ぶっ!?」

 

 唐突かつ平然と切り出された質問に思わず食べていたケバブのカスを噴き出すディア。それにはげんぶも思わず身を引き、カスの雨から飲んでいた飲み物を遠ざける。

 そして、せき込むディアは混乱した顔でロキの問いに問いで返す。

 

「けほっけほっ……い、いきなりなんでそんな質問するんですか!?」

「いやよ、お前結婚とかすんのかなって、ふとよ」

「ふとそんなこと聞きます!?」

「聞くだろ。男でも結婚話の一つして悪いかよ」

「い、いやそういうわけでは……」

 

 身を乗り出してでも否定か回避をしたいのか、慌てた顔で返すディア。ロキはかろうじて無事だった飲み物を口にして、まぁそれもそうだなと話を切り出したわけを語った。

 

「いやさ、蒼崎のこともあるけど実は団がちょっとした結婚ブームでよ。思わずお前はどうなのかなってさ」

「結婚って……ああ、そういえば」

 

 実は旅団では現在、団員やスタッフが結ばれる結婚ブームが到来していた。始まりは当然、一夫多妻の模範例である蒼崎で、そこからさらにロキの弟のルカに朱雀。さらに噂では二百式も婚約の話があるとかで、それを皮切りに既に何組もの新婚が誕生していた。

 加えて、彼の目の前には既婚者であるげんぶがいるのだから話がそこに行きつくのもある意味自然な流れだ。

 

「それでなんですね」

「そうだ。まぁブームとはいうが、こう軽率に結婚すると言われてもな。だから偶然会ったロキに結婚してからの話をしていた」

 

 旅団内でもナンバーズで結婚しているのはげんぶだけだ。彼はその生い立ち上かなり特殊な部類で、その一つとして既婚者も上げられる。既に子どもも育ち、どうやら学校に通っているようだ。

 そんな結婚の玄人であるげんぶが話し相手なのだから話が結婚についてになるのは当然のこと、その現実、シビアな部分までも彼は話してくれるので、その気のないロキでものめり込んでいた。そんな時にディアが入ってきたので、話題の拡張としては十分な人物と言えたので、現在に至る。

 

「で、お前が来たから聞いてみようと思ったってわけ」

「……話の経緯は分かりました、つまりそのノリで僕にその話を振ったというわけですね」

「そういうことだな。それにお前なら話題としても面白そうだしよ」

「やっぱりそうですかドチクショウ」

 

 自分のことと言えば女難という流れにもはや呆れるほかないディアは溜息をつく。もうすっかりとなれたこととはいえ、やはり自分がそういう系に見られるというのはいかがなものか、と言いたくなるが彼の現状それを覆せることができないのもまた事実で、言い返せないことを理解していたディアは嘆くしかなかった。

 

「で、その後の進展は?」

「……なんのですか」

「恋愛……っていう野暮は聞かねぇがお前、蒼の世界の女に好かれまくってただろ」

「あれは……その、なんというか……向こうから……ね?」

 

 と、言い訳するディアにげんぶが笑う。ロキからの質問はディアにとっては答えにくいものであるらしく、ケバブを食べながら目線を合わせまいと左右に躍らせる。

 

「どうやら本気で気になる奴はいるようだな」

「い、いや別にそういうわけでは……」

「別にお前の恋愛にどうこう言う気はない。ただお前の好きな女と言うのを知りたいんだ」

「………。」

 

 げんぶの言葉にディアは目を泳がせるのをやめて考え込む。その言葉に悪意がないと知ったからだ。

 彼らもフラグまみれの自分が一体どんな性格の女性が好きなのか知りたいのだろう。目の前にいる二人が自分を弄り倒すのはよくあることだが、こういった話では真面目であることは知っている。

 

「うーん……」

「心配すんなよ。言ったところでバラす気はねぇよ」

「……本当ですか」

「言いたいことは分かる。そのチベットスナギツネみたいな目ぇ見りゃな」

 

あまり信用されてないな、というのが目でわかる表情に念を押して大丈夫だ、と言うロキ。ディアの目の圧力はすさまじく、まるで数千年単位の恨みが漏れ出ているかのようで、自分も思い当たることがいくつもあったが、その根本的な原因は他のナンバーズだなという確信があった。

……とはいえ。この場での彼の本音を聞いても誰にも話さないというのも事実。あとはディアが口を開くまで待つしかない。ロキも言葉を選んでと考えていたが、それよりも先にディアが信用したのか口を開いた。

 

「……まぁ「気になる」という言葉でなら彼女……ツバキですかね」

「ツバキ=ヤヨイ……だったな」

 

彼女の頑ななキャラはげんぶとしても忘れ難い印象だったのだろう。ディアの言葉一つで、ああ、と反応した彼は脳裏に赤髪を伸ばした女性ことツバキを思いうかべる。

 

「ええ。まぁ彼女の性格と言うか、態度というか……ほっとけない感があったので。それで一緒に行動してたんですよ」

「まぁバカ真面目そうだったもんな」

 

ロキの返答にええ、と小さく頷く。

彼の言う通りツバキ=ヤヨイという人物はかなり真面目で堅物。視野が狭いという難点持ちでもあり、それだけに彼がほっとけなかったというのも道理である。しかも彼女が戦う際に使用していた武具は無理をすれば命にも関わるというデメリットもあったことから余計にほっとけなかったようで、ディアが彼女に関わり、そして秩序の力をより深く知るきっかけになった。

 

「よくあの傭兵と一緒にいられたな」

「いや……あの世界(・・・・)では別行動だったというか……」

「ああ。それでツバキってやつともう一人、青髪の女と一緒だったってわけか」

「ぶっ!?」

 

再び吐き出すディアに、二人は距離を置く。

どうやらあまり言われたくないことだったらしく、また慌てた様子で否定を続ける。

 

「ななな、なんで知ってるんですか! っていうか好きで一緒だったわけじゃ!?」

「あー落ち着け落ち着け。俺も偶然見かけてな。まさかあの人数で行動してたとはな」

 

どうやらどこからか偶然彼らの姿を見ていたらしく、ロキもホント偶然だったなと言葉を付け足す。彼にとってあの時にディアを見かけたのは幸か不幸か、会う者全員が敵という状態だったので彼らのような複数人での行動は戦いに迷いをもたらしたが、同時に共に行動できる、共闘できるのだということ知ることができたのだ。

 

「ええ……まぁ……なんか気が付けば……」

「お前、割と優柔不断なとこあったからな。つか四人パーティってどうなってるんだよ」

「それは僕も知りませんよ!」

 

まさかの四人行動、しかも自分以外は全員女性という編成に呆れるしかないロキだが、それをディアは必死な顔で否定する。彼も求めずしてそうなってしまったメンバーに当時はどうしてだと思いたかったが、状況が状況だったがために突っ込むこともできなかったので、結局そのまま決戦に向かったのだった。

ディアの体質か、それとも。かくしてそんな四人旅を彼は行っていたらしい。

 

「僕も訳がわかりませんでしたよ……四人で行動してたなんて……」

「まぁそのお陰なのかもな……」

 

かくしてそんな事件があった蒼の世界での出来事を振り返りつつ、自分の本心を語ったディア。今でも彼女、ツバキは彼の中でも心配ではあるのだろう。そういった意味で気になるという話に、ロキもげんぶも適当だが相槌を打つ。

 

「かもしれんな。あの後、彼女とは?」

「事件があれでしたからね。流石に会えませんよ……とはいえ、ココノエ博士からその後のことは色々聞きましたけどね」

「そうか。まぁその方がいいのかもしれんな」

 

げんぶからの問いに少しだが気を落とすディア。ワケあって会えない事情となってしまい、それが辛いのだろう。げんぶも事情を知っているので深くは聞こうとはせず、彼の俯いた顔に短く答えた。

 

「……ディアーリーズ。一つ聞いていいか」

「……なんでしょう」

 

しかし。

そのげんぶの顔は険しく、とてもそれで全てを納得したという顔ではなかった。

ディアもその顔に気圧されたのか、身を少し引き、張りつめた空気に背筋を伸ばす。一方でロキはその空気に何かあるのかと口を閉ざす。

 

「お前、それでもその後あの世界に行っただろ」

「…………。」

 

ある時のことだ。げんぶが蒼の世界での任務を終えてその報告書をと思っていた時、偶然にもルカと遭遇し、彼からある話を耳にする。

それは、あの世界に事件後何名かの旅団メンバーが飛んだというもので、その中にはディアの姿もあったという。事件後は彼の言う通り行くにいけない状況だったというのになぜ彼らは蒼の世界に向かったのか。機会があれば聞こうと思っていたことを思い出し、げんぶはそれを今投げかける。

 

「マジでか」

「ああ。お前の弟が聞いたらしい」

 

弟の話が信じられないというよりも、その話自体が事実なのかと言いたいロキはげんぶに確かめるように尋ねる。間を置かずに肯定するげんぶは頷き、その返答にロキはどういうことかと口には出さなかったがディアの方へ目を向けた。

 

「あの世界はあの後、お前の言う「行くにいけない理由」で行くことができない……いや、難しくなっていたはずだ。だが、それでもお前や竜神丸、Blazやデルタはあの世界に行った。あの世界と多くの関わりを持ったメンバーだけがな」

 

そのメンバーにロキも眉を寄せ訝しく思う。今、げんぶが名を上げた面々は確かに蒼の世界に多くの関わりを持つ者たちだったからだ。元々あの世界に居た者、力を学んだもの、繋がりとしては一見弱く思えるが、それは彼らがどれだけ真実を明かしていないかにもなる。

となれば、いくら繋がりが弱くとも、その事実がピックアップされる。

 

「お前ら、あの世界に行ってなにをした?」

「ええっと……」

 

鋭いまなざしで問いただすげんぶの圧力にディアも冷や汗をにじませて狼狽してしまう。彼の顔抜きに、どうやら答えられない事であるらしく、その目は泳いで回りに助けを求めるが、残念ながら俺は助けないぞ、とはっきりと目で言うロキ以外誰もいない。

 

「それは……」

 

万事休すか。本当のことを話すべきかという瀬戸際に立たされたディアの口が小さく開閉し、魚のようになる。言葉が出ずに乾いた息だけが吐き出される。

げんぶの問いに答えるしかないか、否か。彼の中での選択肢が迫られた、その時。天運が彼を味方した。

 

「ッ……! ちょっと電話に出てもいいですか」

「……ああ」

 

まるでタイミングを見計らっていたかのように響く携帯のバイブに救われたディアはあからさまな安堵の息とともに取り出してげんぶに電話に出ていいかを問う。明らかに逃げたい一心の彼の顔に呆れつつもうなずいたので、ディアは電話を繋ぐ。

 

「もしもし。どうし―――」

『あ、ウルさん! 実は……』

「どうかしたの、美空さん?」

 

ディアの口にしたその名前に二人は反応する。美空と言うのは現在ディアらが保護している少女の名前で、かつて旅団の作戦で流れて的に彼が預かることになったようだ。保護して間もないころは心を閉ざしていたが、今ではある程度回復したということで、ある場所で暮らしている。が、独りにしては危険ということでこうして連絡を取り合い、時には彼女の下にも行くこともある。

そんな美空の電話口の向こうでは、何やら聞きなれた声の少女らが騒いでいるのが聞こえてくる。おそらく、彼女の家にディアの妹の咲良とその友人であるニュー、蓮の三人がいるのだろう。彼女らはよく美空の家に遊びに行き、泊まることもあるのだ。

 

『実はさっき、こっちに変なお客さんが来たんです……』

「変な客?」

 

美空を狙う人間か、と考えるが彼女の身辺警護は旅団関係者によって万全極まりなく、たとえ変質者が来ようともドアホンを鳴らす前に連行される。

言えば、彼女に危害を加えようなら鉄槌が下る。そこまでの過剰ともいえる警備体制を敷いてるので、相手が手練れでもない限りその手の人間は会うことも難しいだろう。

だが、そんな包囲網を抜けてその客は彼女の前にやって来たということで、奇妙にも思えるが、少なくとも彼女に危害を加えるような相手ではないのだろう。

ディアもそう思い、心配しないで、と言おうとした。

 

『はい……紫の髪をした女の子で』

「……うん?」

『「ディアーリーズはいないか」って……』

 

しかし、その刹那彼の口は美空の放った言葉により硬直してしまい、次の言葉が放たれるのはおろか思考も停止してしまう。その一言、美空の事後報告が彼の中で混乱とフリーズをおこしてしまい、しばらくは携帯を持ったまま動かなくなってしまう。

それだけの爆弾発言をしたが、そんなことを知る由もない美空は返事の帰ってこない相手の様子に美空だけでなくげんぶも声をかける。

 

『あ、あのウルさん? もしもし?』

「おい、ディア―――」

 

身も時も凍り付いていたディアだったが、それもつかの間。刹那には彼の中で処理が終了し、それと同時に停止していた体の全機能が再起動。彼の中で先んじて入力されていた行動が一斉に行われる。

その一瞬で。

 

「うおっ!?」

「ちょ!?」

 

刹那。ディアが爆発でもしたかのように椅子から立ち上がるとそのまま体勢を立て直すこともなく飛び出し走り出す。いきなり眼前で飛び跳ねた彼の行動に驚いたげんぶとロキは思わず上半身を引き、彼から離れるがその条件反射によって離れたディアに対する反応が遅れ、気づいたげんぶが叫ぶ。

 

「オイ、ディア!?」

「なんだなんだ!?」

 

げんぶの制止も聞かず、慌てた動きと表情で出ていくディアの姿に回りにいた数名の旅団メンバーは驚き、彼の道を開ける。

ロキも驚きを隠せず離れるディアの後ろ姿を眺めていたが、特段追おうとは思わずその様子を見るだけだ。彼を止める気はないようでげんぶとは違い、何だったのかと椅子に腰を掛けなおした。

 

「急に出てったな……」

「ああ……しかし、どうしたんだアイツ……」

 

まるで疾風とでもいうかのような足で食堂を後にしたディアに置いて行かれた二人は何事かと完全に置いて行かれてしまうが、その彼らの疑問を晴らす答えを知る人物が運よくそこにはいた。

 

「……ん? Blaz?」

 

ロキの言葉にげんぶも、ディアが出て行った方ドアに目を向けると、そこには丁度入ってきたとばかりに近くで走り去る人物の後ろ姿を見るBlazの姿が確かにあり、彼の姿に二人は目を合わせる。

 

 

「なんだありゃ……」

 

走り去るディアの姿を見てロキやげんぶと同じことを言うBlaz。違いがあるとするなら―――この後に彼の肩をげんぶが叩くということだろう。

 

「Blaz」

「あん? げんぶ?」

「……少し話がある」

 

この直後、げんぶにこってり絞られる姿をロキは新しく入れたコーヒーを飲みながら眺めていた。

Blazがここに来なければよかった、そう思うほどに。

 

 

 

 

 

全速力で食堂だけでなく楽園からも出たディアは、迷わずにまっすぐある場所に向かう。それは彼の現在の自宅で、今はある世界の住宅街に居を構えていた。

現在は彼と妹の咲良の二人暮らしでハルトも転がり込んでいたが紆余曲折……で済む話でもないがトラブルがあったので今は二人で住んでいた。

……が。その咲良も今は美空の家で遊んでいる。つまり現在彼の自宅はもぬけの殻で誰も居ていいはずもないのだ。そこは彼ら二人の自宅なのだから。

だが。

 

「やっぱり、開いてる……」

 

急いで自宅に駆け付けたディアは開いている家の玄関ドアに汗をにじませる。それが走ってきたことで出てきた汗ならよかったが、今にじんでいるのはむしろ脂汗か冷や汗だ。

それがどれだけマズいことか、何も言わずともそれだけで十分だろう。

しかもそれだけでなく、彼が自宅に防犯として配置、設置した術式や魔法が軒並み解除ないしは破壊されており、まさに彼の家の防衛機構は死んだも同然、丸裸にされていた。

 

「ってことは……!」

 

もう焦ることも迷うこともない。こうまでもあからさまにはがされているのなら、中に居るのは確実だ。

深いため息とも深呼吸ともつかない息を吐き、呼吸を整える。この向こう。自宅内に居るのは分かっているのだ。ならあとは。

落ち着いたことで焦りもなくなった彼の顔は何かを覚悟したという顔で、彼の手は迷わずドアのノブに置かれドアを開けた。

 

 

 

玄関、廊下と進み、その中で一番よく使う、最初に帰ってきたら訪れる部屋であるリビングに足を進める。

リビングに近づくにつれてどこかからか声が聞こえてくる。複数人の声はリビングからだが、当然そこにはそんな大人数はいない。きっとリビングに備えているテレビからだろう。

ということは。リビングに居る。

その確信を得たディアは躊躇することなくリビングに足を踏み入れた。

 

 

「…………やっぱり」

 

 

 

「んむ? おお、おひょかったな……んっ、ディアーリーズ」

「はぁ…………こんなところで……っていうかなんで僕の家に居るんですか、イザナミ!」

 

リビングにあるソファの上で寝転がりながらテレビを見て、ジャンクを食い、雑誌を読む少女が。

かつて帝、いや、冥王イザナミと呼ばれた少女はそこにいた。

―――薄着のラフな格好で

 

 

 

「余がお前の家に行きたいと思ったからだ。光栄に思え、お前の家は割と住み心地いいぞ」

「いやそれは僕が一番よく知ってます。っていうかここ僕の家、僕のソファ、僕のテレビ、僕のポテチ!」

「雑誌は?」

「それは知らんわぁ!!」

 

まるで自分の家のようにくつろぐイザナミだが、ここがディアの自宅であることは確かだ。とはいえ、この状態で話していると一体どっちが家主か分からなくなってしまう。

家主が逆転したかのような状態にディアは頭を抱えるが、イザナミのほうはかなりのんびりしている。と言うよりも

 

「っていうかその恰好何!? 今までの服装は!? っていうか誰に買ってもらった!?」

「うむ? ああ、この服か。あの後、あの世界に居ても暇だったからな。お前らの団長とやらに買いに行かせた」

「うそぉ!?」

 

まさか女性用の服を買いに行かせるというある意味勇気のいる役割を、自分たちの組織のトップである団長のクライシスにやらせたというのか、と驚くどころか本当なのかと言いたくなるディア。イザナミであれば言いかねないことだが、それをおいそれを承諾するとも考えられず、彼の中では正直なところ嘘かホントかと迷っている。

しかし、実際彼女が帝の時の服装でもなければイザナミの時の服装でもない、現代の少女が着ているラフな格好をしているので買わせたのは事実だろう。

―――しかし。実際は団長が女性団員に買わせたのであって、彼自身はそれについて行っただけだというが、それを知る者は竜神丸以外はいない。

 

 

「ファッションセンス、と言うのだったな。中々見る目がある」

「だ……団長に行かせたって……仮にも負けた相手に……」

「お前、まだ勝ち負けであれを推し量っているのか。あれはどうあがいても引き分けがいいとこだ。それもわからんとは、いやはや、繁殖行為にだけにしか頭は働かんようだな」

「誰が繁殖行為にだけ!? 普通に頭動かしてる! っていうかあれは次元が違うからわからんわ!!」

 

思わず荒っぽい声で返すディアに対し、イザナミは生足を伸ばしてのんびりとしている。しかもさらりと酷い事をいう彼女に、頭に血が上るディアは否定するが、その言葉を聞き入れているのかと言いたくなるほどに気にもしていない。

そんなことなどどこ吹く風という態度でいる彼女にディアはペースが乱れる。

 

「はぁ……」

「顔色悪いぞ」

「アンタに言われたくないですよ……で。そもそも何しに来たんですか。ただの気まぐれなだけじゃないでしょう」

 

改まったディアの問いにポテチを加えるイザナミはまるで聞いてないかのように適当な言い方で答える……かと思いきや、話を聞いていたのか意外にもまともに答えた。

 

「んむ。お前に用があった」

「……僕に?」

「というかお前の運命とその根幹にだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、言ってる意味全然分からないんですが」

「ん? 何を言っておる。わかりやすいだろう」

「いや全然」

「なんだ。やはりお前、頭悪いな」

「いや頭悪いとかではなく意味がわから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白そうだからな。お前との子を儲けようということにした。というかするぞ」

「―――――なんで?」

 

直後。げんぶの話を聞き、駆け付けたラヴァーズがそこに登場。

帝もイザナミも知らない彼女らは、知らない女(しかも薄着で)が彼氏の家でゴロゴロしているという光景に状況の理解が追い付かなかったが、ただ一つ。言えることとして、知らない女がディアの家に居るという事実に全員の意思が一致。

彼に詰め寄るとともにイザナミに威嚇を行う。

 

そして、その結果。冒頭の通りに至る。

 


 
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