No.1011067

フレームアームズ・ガール外伝~その大きな手で私を抱いて~ ep20

コマネチさん

ep20『人間とフレームアームズ・ガール』(前編)
 今回からラストに向けてストーリーの収束開始です。肝心な時に天気が崩れてばっかりなので新作FAGは投稿出来ませんが、話は書けたので投稿します。

2019-11-24 23:12:07 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:665   閲覧ユーザー数:663

 その日、黄一は南の島にいた。空高く輝く太陽。白い砂浜、輝く水平線、人の手が入ってない自然が少年の眼の前に広がる。そして水着の少女達が泳ごうと、この自然を満喫しようと砂浜をその足で踏みしめた。

 

「イィィヤッホォォッッ!!マスター!2月と言えば海水浴ですね!!」

 

 競泳水着を着た小学生の様な体型の少女。轟雷がテンション高に叫ぶ。武装はつけておらず、素体姿である。

 

「お前初めての海だからって興奮しすぎだよ」

 

 轟雷の隣、パーカーと海パン姿の黄一は轟雷を鎮めようとする。

 

「それにしても……お前の体型」

 

 黄一はイメージ通りと言わんばかりに微笑みながら言った。水着になって露わになった轟雷のプロポーションは小学生その物だった。まな板でイカ腹である。

 

「な!なんですか!私のプロポーションに何の文句が!」

 

 微笑ましいといった黄一の反応だが馬鹿にしてる様に轟雷は感じた。

 

「轟雷と黄一さんを確認……」

 

「あ……」

 

 続けて黒いビキニを着たアーキテクトが止めた。出るとこは出て引っ込むべき所は引っ込んでる体型だ。轟雷の反応はアーキテクトのプロポーションに関してである。圧倒的差に轟雷は閉口するしかない。

 

「ようアーキテクト。大輔は?」

 

「まだ準備中との事……」

 

「……アーキテクト。声が控えめな割には体は主張が激しいですね」

 

 まな板兼イカ腹の轟雷は、グラマー体型のアーキテクトを羨ましそうに見ながら言う。

 

「っ……。個体差の問題。なりたくてなったわけじゃない」

 

 俯き、胸を押さえながらアーキテクトは言う。相変わらず表情に変化は見られないが恥ずかしいのだろうか。若干顔が赤い。

 

「個体差……そうですねー」

 

 そういって轟雷は別方向に目をやる。自分と同じ水着姿の轟雷のバリエーションがビーチバレーで和気あいあいと遊んでるのが見えた。

 

「いきまーす!てやーっ!」

 

 おっとりした声で轟雷の支援用バリエーションの榴雷・改がボールを上げる。(水着はフリル付きのビキニ)ぽっちゃり系体型でふくよかな胸がぽよんと揺れる。

 

「ふぎゃ!」

 

 投げた拍子にこけた榴雷・改はその場に前のめりで倒れた。

 

「遅いな!」

 

 対する轟雷の重武装バリエーションのウェアウルフ・スペクターは鋭い声でボールを撃ち返す。(水着はバンドゥービキニ)引き締まった褐色肌は健康的な色気を出していた。巨乳ではなくともスタイルはいいと間違いなく言えるだろう。

 

「なんのぉ!」

 

 打ってきたスパイクを、轟雷の近接戦闘用バリエーションである漸雷がスライディングレシーブの動作でボールを受け止めた。(ホットパンツとビキニの組み合わせを着ている)地面に押し付けた巨乳がむにゅっと潰れる。

 

「……試作型の轟雷はナイスバディだったと聞きます。なんで私だけ……」

 

 自分と起源になったFAGは同じなのに……そう轟雷は思いながら平坦な自分の胸を恨めしそうに触った。

 

――素体じゃ全然区別つかないけどなぁ――と黄一。

 

「……学習モード……データ取得完了。『貧乳はステータスだ。希少価値だ』」

 

「それ、冗談なら最低ですけど。皮肉ならもっと最低ですよ」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

「うぅ、マスター!私の大人素体ボディを買って下さいぃぃ!」

 

「もう予算ないから無理だ。改アーマーに使ったんだから」

 

「ぐぬぬ……」

 

「別に他人の目なんか気にするなよ。どうせ向こうだって意識してないんだから。それよりお前も初めての体験だろ今日のイベント。そっちを楽しむのに集中しろよ」

 

「……そうですね。……では!こうなったら海の家でヤケ食いします!VRのイベントならば、味覚が私にも解るというものです!うぉぉっ!!」

 

 そう言って轟雷は近くに会った海の家に走って行った。

 

「そっちかよ。まだ泳いでないのに……」

 

「でもこのイベントの出来事は私達にとっても凄く貴重な体験が出来る。轟雷も多分このイベントでマスターと距離間が近づけるのが嬉しいんだと思う……」

 

「飲食もその内だからな。確かにあんなテンションは珍しい」

 

 妹の様に思ってるFAGの、いつも以上の変人っぷりを発揮してる辺り、嬉しさと周りとの体型格差に、絶望とない交ぜになった感情を轟雷は感じてるのだろうと黄一は思っていた。

 そう、これはVRを使ったFAGの一大イベントだ。何故こうなったかを説明するには、ある程度遡る必要がある。

 

 

 2月某日、いつもの模型店にて、健と黄一と大輔と、そしてヒカルの男4人はFAG関連の売り場の前にいた。目的は当然白虎への再戦への新装備だ。

 

「恐ろしい相手だったね。あの白虎」

 

「そうだな。予備動作が偉い短いから大型の武器を使ってる轟雷達じゃどうしても不利になってしまう」

 

「って事は取り回しの良い武器が必要になるでしょうね」

 

 黄一達がそんな風に話し合ってる中、ヒカルはその会話の中に入らず、ある事を考えていた。白虎の言葉を。

 

――人間とFAGじゃ恋人にはなれねぇよな――

 

 スティレットがボロ負けして挑発されたというのは当然悔しい。だが先述の言葉も、言われたのがたまらなく悔しい。

 

――なんで俺、白虎にあぁ言われて腹立ったんだろうな……――

 

 スティレットが好きと言う事には自覚はまだないヒカルだ。……高校生が人間とFAGの恋愛に関して否定的になってしまうのは普通ではある。そう言った心の奥底の望みにヒカルはまだ気づいてない。

 

「ヒカル……?おいヒカル?」

 

 ヒカルがだんまりな事に他の3人も気になっていた。黄一の言葉にヒカルはハッとする。

 

「っ!あ、黄一か。なんだ?」

 

「大丈夫か?なんか妙にボーッとしてるぞ」

 

「悪い。スティレットの奴がボロ負けしたのがどうしても忘れられなくてさ」

 

「珍しいですね。ヒカルさんが上の空なんて」

 

「コイツ授業中はいつもこんなもんだぜ健君」

 

「あんまりでしょうがその言い方。で、どうなんだリベンジ用の装備はさ」

 

「……あまり買うの気乗りしないなー」

 

 一方の黄一もどうも気分が乗らない素振りだ。当然ヒカルの方も気になる。

 

「?お前もどうしたんだよ」

 

「あのバトルの後にちょっと轟雷の奴がやらかしてさ……正直新装備とかは買いたくない」

 

「?よく解んないけど、でもここにいるって事は買うんだろ?」

 

「……そうだな。ま、今回は特別だ」

 

――腹は立つけど……アイツの落ち込んでる姿は見ていたくないからさ――

 

 黄一はそう言って積まれたある箱を手に取る。

 

「やっぱそれ選ぶか。じゃあ俺も!」

 

 そう言ってヒカルも黄一に続いてある箱を手に取った。

 

 

 さて主達が再戦の準備を進める中、一方のFAG達はと言うと、

 

「あぁもう!思い出すだけで腹が立つわ!!」

 

 毎度の事ながら、いつものFAG用のコミュニケーションスペースにおいて、いつもの様にだべっているわけだが、一つだけの違い、轟雷とスティレットは不機嫌さを隠そうとしない。原因は前回の白虎に大敗を喫した事だ。この模型店のトップの実力を持っていながらも、ぽっと出のFAGに圧倒された事は彼女達にとって屈辱だった。

 

「荒れてるね。スティレットお姉ちゃん」

 

「この間の戦いを見たでしょう?自信をへし折られたんだから仕方がないわよ」

 

 いつもの様にバーの様な内装のセット、そしてバーテンダーのコスプレをしたレーフがカウンター内で対応する。ごっこ遊びを兼ねた愚痴の吐き出しだ。カウンターの丸椅子で座って荒れてるのはスティレットとフレズヴェルクともう一人。轟雷である。

 

「レーフ。もう一杯頂戴」

 

「飲み過ぎよ。轟雷」

 

「いいでしょ?今日は酔いたい気分なの」

 

 ヤケ酒ごっこやってる轟雷だった。カウンターに突っ伏しながらグラスを手に取って口に運ぶ。とはいえ飲食の出来ないFAGにとっては無駄な行為だが、

 

「そういうごっこ遊びしてる辺りまだ余裕だね轟雷」

 

 フレズとしては何意味不明な事をしてるのと呆れ気味だった。

 

「フレズ、うっさいですよ。人間は嫌な事があるとヤケ酒や、ヤケ食いで気をまぎらわすと聞きましたので」

 

「お待たせしたご主人様」

 

 と、そこへトレイに乗せたグラスを持ってくるFAGが一人、それは……

 

「あっバーゼお前!」

 

「……何やってんですかバーゼラルド」

 

 フレズと轟雷が反応する。スカートの丈の長いメイド服を着たバーゼラルドだった。

 

「私は私のままで変わりたいと誓った。が、どう変わればいいかいまいち解らず、レーフに相談してみたら、『まずは形から入って模索しましょう!』と言われてこの服を渡されたのだ」

 

「バーゼ、私の見込んだ通りの女だったわ!この冷徹な眼差し、主人との恋愛は有り得なさそうな仕事と割り切った距離間!有事の際には武装でボディガード!まさにハウスキーパー、武装メイドとしては申し分ないわ!」

 

「むぅ……そうは言うがなレーフ、正直これは得体のしれない何かが湧き上がってくるぞ」

 

 若干恥じらいを見せるバーゼ、こういった格好の経験は当然ながらバトル漬けだった彼女にはない。

 

「慣れよ慣れ。その内皆が羨む様になって、それが快感になるわ。着こなすってのは才能よ」

 

「お姉ちゃん、前の大会でコテンパンにやられたのにもう仲良くなっちゃってさー」

 

 バーゼへの態度は、レーフとライでそれぞれ違っていた。打ち解けているレーフと違いライの方は不満ありげだ。

 

「関係ないわねライ。バトルが終われば同じFAG同士、いがみ合う必要はないわ」

 

「そうはいうけどさー。アイツなんか苦手なんだよー。一緒にいるとなんか空気が張りつめるっていうか」

 

 ライの方はバーゼラルドに苦手意識がある様だ。あまり距離を詰めようとしない。警戒する様な素振りのライにバーゼは少々申し訳なくなる。

 

「……ライにはあまり好かれてない様だな……」

 

「人見知りよあいつ。根が単純だから何かきっかけがあればすぐに懐いてくれるわ。全く、普段空気読めない割にこういうのは敏感なんだから」

 

「とはいってもバトルばかりやってきた私に、出来るコミュニケーションパターンは多くは無いな……」

 

「いっそライを弟子入りさせて鍛えてあげたら?地獄の特訓メニューでもすれば、少しはアイツも身が引き締まると思うから」

 

「っ!何言ってんのお姉ちゃん!!」

 

 珍しくライが嫌そうな顔で言った。

 

「……特訓?!そうよ!そうだわ!」

 

 と、レーフの発言に気付いたFAGがバーゼに食いつく。スティレットだ。

 

「バーゼラルド!あんた強いんでしょ!今度のバトルであの白虎に勝ちたいから私達を鍛えてよ!?」

 

 スティレットの提案に轟雷も同意する。

 

「あ!そうですねバーゼ!あなたの経歴を考えてみたらその手がありました!」

 

「それは別に構わんが……」

 

「良かったじゃないバーゼ、」

 

「でもさー。リベンジするって言っても、ボロ負けしたんでしょ?何か新しい装備とか必要じゃない?」とライが水を刺す。いつもは完全に余計な一言ではあるが、今回は理にかなった一言だった。

 

「装備?そうね……」

 

 確かにリベンジとなると新しい装備は必要だ。例の白虎には何が有効か考える。

 

「確かに全然当たらなかったですからね。私の攻撃」

 

「轟雷もそう思った?予備動作が短すぎるのよアイツ。相対的に大物使ってる私達には相性が悪いというかね」

 

 白虎の戦法はオーソドックスな正面切っての戦い方だ。ではあるが挙動が非常に早い。スティレット達の武器は大型がメインな以上隙が生まれがちだった。

 

「となるとやはりお前達の装備を今より強化した方がいいだろう。理想はやはり……」

 

 そう言ってバーゼラルドは店の外側のポスターを指差す。貼られていたのはFAG強化装備、『轟雷改』『スティレットxf-3』『バーゼラルド強化型ゼルフィカール』等の宣伝だった。いずれも対応したFAGの強化アーマーだった。

 

「試作型轟雷が使用していたっていう轟雷改装備だな。ボクも知ってるよ。ボクの試作型と激闘を演じたって装備だ」

 

 轟雷改。かつて試作型轟雷と源内あおの2人が使用していたと言われる轟雷用強化装備だ。

 

「じゃああれを即買いすればいいわけだね轟雷お姉ちゃん」とライ。

 

「うーん。改装備ですか」

 

 珍しく轟雷が乗り気ではない。

 

「どうしたのよ。貴方憧れの試作型轟雷も使っていた装備でしょ?大喜びで食いつくと思ったんだけど」

 

「そりゃそうなんですけどね。……こないだの敗北のショックから、マスターのお金で衝動買いしちゃいまして……」

 

「その所為でマスターから財布握られてると」

 

「最低だねお姉ちゃん」とその場にいた全員が呆れていた。

 

「我慢できなかったんですよー!そんな目で私を見ないでください!!」

 

「じゃああんただけ新装備なしで挑む?」

 

「だ!大丈夫です!かくなる上はこの状況をひっくり返す逆転方法があります!」

 

「あるのか?そんな方法が」

 

 バーゼとしてはコミュニケーションの方法として興味があるらしい。隣にいたレーフからは「碌なもんじゃないから真似しちゃ駄目よ」と釘を刺されていたが、

 

「それは……」

 

「あ、皆が来たよ」とライが近づいてくる黄一達に気付く。

 

「轟雷、白虎との再戦なんだけどな……」

 

「行きます……。……お兄ちゃま~☆」

 

『っ!?』

 

 決死の表情から一転。凄い猫なで声で轟雷が黄一に走ってゆく。バーゼを除く全員の背筋が凍った。

 

「キャッ☆」

 

 その場で転倒する轟雷。余りにもこけ方がわざとらしい。

 

「あいたた~。ごめんなさいお兄ちゃま。轟雷ドジな妹でぇ~☆」

 

「轟雷……お前……」

 

「こんなドジな轟雷だけど、轟雷はお兄ちゃまが大好きなFAGです。どうか轟雷を見捨てないで……!」

 

 悲劇のヒロインめいた、片手をついて下半身を寝そべらせたポーズで、轟雷は黄一を見上げる。目は潤んでおり保護欲を掻き立てる……と轟雷は思っていた。なお周りはドン引きである。バーゼと黄一は除く。

 

「……すまん轟雷……。俺は……俺は……」

 

 黄一は思いつめた様に体をわなわなと震わせる。

 

「いいのお兄ちゃま。ただね、轟雷ね。ちょっと欲しい装備があってぇ……」

 

 改装備の事を切り出そうとする轟雷。しかし黄一はスマホを取り出し電話を掛ける。

 

「もしもし!?ファクトリーアドバンス社ですか?!家の轟雷に異常がっ!助けてあげてください!!」

 

「っ!!お兄ちゃまぁぁっ!!……あれ?前にもこんな事あった様な……」

 

 

とりあえず轟雷は意図を説明してこの状況を収まらせた。

 

「何故ですか……!何故私の色仕掛けが通じないんですかいつも……」

 

「そりゃ無理あんでしょアンタ……」とスティレット

 

「お兄ちゃまじゃいけなかったんですか?!やっぱ兄やでいくべきでした!」

 

「うんアンタもう黙ってて」 

 

「……ほう。妹という立場を装えばマスターへの頼みごとがスムーズに行くのか」

 

 バーゼとしては今まで見た事のないコミュニケーションだった為真に受けていた。

 

「お、バーゼ解りますか?バーゼも兄くんとか言って源三さんに」

 

 食いつきのいいバーゼにスティレットは呆れながら止めようとする。

 

「うん80歳差の兄妹って所を考えてみましょうか」

 

「フレズもします?あにぃとか言って誘惑すれば健君喜びますよ?」

 

「っ。やだよ。絶対やだ」

 

 嫌そうなしかめっ面でフレズは答える。いつもの快活さは一切感じられない。

 

――妹じゃ……結婚出来ないじゃないか。マスターのお嫁さんになれないじゃないか……――

 

「?珍しいですねフレズ。まぁ、体格差はともかく健君とフレズじゃお姉ちゃんと弟とも見えますからね」

 

 フレズの反応に違和感を感じる轟雷。フレズの恋愛感情は知ってる轟雷だが、ここまで強いとは思っていなかった。認識の違いである。

 

「……」

 

 一方で健はムスッとした表情を見せる。フレズが年上に見られるのがどうも不満らしい。これは誰にも悟られなかったが。

 そして他のマスター達は……

 

「しっかし轟雷の奴面白い演技するもんだ。なぁ黄一」

 

「……ったく、また演技なら演技って言えよ……。心配かけさせやがって……」

 

 黄一の方は完全に騙されていたらしい。しかも2回目だ。

 

「黄一……、君もしかして轟雷のあの演技に騙されてたのかい?」

 

「っ!?と!当然じゃないか大輔!あれ位見抜いてたよハハハ!電話も実はフリだよフリ!」

 

 黄一のごまかし方に完全に騙されていたなと感づくマスター達、

 

「……完全に騙されてましたね黄一さん」

 

「あいつ捻くれてる割に純粋だからな……」

 

「まぁ轟雷をそこまで大切に思ってたって事でしょ」

 

――黄一……お前まさかシスコン?――

 

 昔からの付き合いのあるヒカルも、親友のそんな一面を目の当たりにしていた。

 

「まぁそんな事より!新型装備が欲しかったわけだお前は」

 

「はい……。ですがマスターを怒らせた為に買ってもらえないんじゃないかと心配になった結果でした……」

 

「そう言う事か……これ買ってきたから使えよ」

 

 そう言って黄一は店内の轟雷へある箱を見せた。

 

「っ!?轟雷改10式装備!マスタァ……」

 

「多分欲しがるだろうからなお前」

 

 伝えずとも自分の欲しかった物をマスターは買ってくれた。自分の事を考えてくれていた事に轟雷はなんだか嬉しくなる。

 

「有難う!お兄ちゃん大好き!!」

 

「だからその呼び方やめろって……。まぁいいか」

 

 笑顔になってくれた轟雷に黄一も満更ではなかった。ヒカルも続いてスティレットに買って来たであろう箱を見せる。スティレット用強化アーマー。xf-3だ。

 

「で、俺の方もこれ使って欲しい、スティレットの強化装備」

 

「いいの?マスター……この間高価なルシファーズウィング買ってもらったのに……」

 

「気にすんなよ。俺がエロ本に使うよりは建設的なお金の使い方だろ?」

 

「っ!と、当然ね!」

 

 スティレットの方も嬉しそうだった。ただややヒカルに対して壁を意識してる感じはある。

 

「……なんかスティレットの奴、ちょっとよそよそしくないか?そんなに白虎に負けたの悔しかったんだろうか」

 

 そんなにショック受けるのもアイツにしちゃ珍しいな。と黄一は疑問に感じていた。黄一はスティレットがヒカルを好きな事は知っている。しかし両思いである事と、それがお互い人間とFAGであるという事で悩む程本気になっている事はまだ知らなかった。

 

「……まぁ、そうだな」

 

 ヒカルの方も適当な事を言ってはぐらかすしか出来ない。

 

「?ま、いいや。とりあえず工作室借りて新装備を組立てようぜ」

 

 と、その時だった。

 

「諭吉黄一様!お電話頂き有難うございます!!」

 

 突如女性声が響くとある人物が現れる。女性用のスーツを身に纏った人間の女性、……首から下は、だ。頭部はフレームアーキテクト。前にも会った異様なその人物は……

 

「うわっ!!ア・アーキテクトウーマンさん!?」

 

 アーキテクトウーマン。FAG達のメーカー。ファクトリーアドバンス社の宣伝及びお客様の相談担当の社員である。

 

「お電話って……黄一。やっぱ本当に電話したんじゃん」

 

「っ!わ!悪いかよ!」

 

「それではまずは轟雷さんの身体検査をさせていただきます!無料で!」

 

 そう言って轟雷をむんずと掴む。これで目からサーチライトで透過してFAGを検査するわけだが、轟雷にとっては恐怖だった。

 

「え?!もしかして分解ですか!?」

 

「いえいえ、私のアイガードから透過式のライトを当てて確認するだけです」

 

「ギャー!お兄ちゃま~!!」

 

「あ、それ位でしたら、まぁ無料だし折角なんでお願いします」

 

「っ!アニキの薄情者ぉぉっ!!!」

 

 

「見られちゃった……色々と……もうお嫁にいけません……」

 

 悲劇のヒロインポーズ2回目で轟雷は透過された事を嘆いていた。黄一は水をすくい上げる様に両掌を合わせてその上で、同じ目線の高さで轟雷を乗せていた。

 

「行けるもんなら行ってみろお前。有難うございます。どこも異常はないみたいで良かったですよ」

 

「いえいえ、大切に扱ってるというのは解りますから。やはりこうして大事にしてくれるユーザーを見るのは嬉しいですよ」

 

「しかし随分と迅速な対応でしたね。電話したらすぐだ」

 

 大輔が問いかける。以前の時は電話した翌日だったが、今回は連絡後すぐに来た。いくらなんでも早すぎる。

 

「あぁ、それなんですが、実は今日あるお知らせがありまして、ちょうどこちらに向かってる時に本社から轟雷さんの検査をする様に言われたわけですね」

 

「お知らせ。ですか?」

 

「はい!これです!」

 

 そう言ってアーキテクトウーマンはあるポスターを見せた。今時2月だと言うのに、南国でバカンスに興じるFAGのグラビアがでかでかと写っていた。大きな字で『第1回フレームアームズ・ガール マスターとFAGのサマーフェスティバル』と書いてある。

 

「これは……VR空間を使ったFAGとのお祭りですか」

 

 小さく書いてある説明文を大輔が読みながらアーキテクトウーマンに問う。

 

「その通りです!是非皆さんに参加していただきたくてお知らせに参ったわけです!」

 

 それが本来の目的か。と黄一はすぐに来た理由に納得。

 

「これ……自由参加のイベントではないんですか?」

 

「いえ、特定のユーザーとFAGに絞った物です」

 

「……何か引っかかるな……何故僕達みたいな特定のユーザーに見せるんですか?」

 

「同意……私達にも通達は来てない。こういうのは事前にインターネット経由で知らせるのが普通……」

 

 どうも大輔とアーキテクトは懐疑的だ。

 

「あーそれはですね……こういったVRのイベント自体まだ試作の域を出ていなくて、選ばれた一部のテストユーザーにのみ参加して改良を重ねていこうと言う試みなんです」

 

「そうだなぁ……出てみるかスティレット」

 

 早速ヒカルが食いついた。

 

「マスター?何言ってんのよ。私は白虎相手にバーゼの特訓を受けなきゃいけないのよ、私は出ないからね」

 

「こんな時だからだろ?……負けて以来お前結構ふさぎ込んでいたからさ」

 

「別にそんな事……」

 

 目を逸らしながらスティレットはどもる。確かに最近は白虎に言われた事で割と悩んでいた。

 

「それでしたら、イベント内でもバトルの大会はありますから、それに出ればいい腕試しになりますよ」とアーキテクトウーマンは付け加える。

 

「だったら決まりだな。俺参加しますよ。スティレットも出来れば……」

 

「はぁー……もういいわよ。出ればいいんでしょ?」

 

 ぶっきらぼうにスティレットは答える。ヒカルとしては何かしら別の話題に興味を持って、今の燻ってる気持ちを薄めて欲しいと思っていた。ヒカルにつられて他のマスター達も興味をくすぐられた様だ。

 

「ヒカルが出るなら俺も出るかな」

 

「そうですねー。2月ですけど南の島でバカンスですよ海水浴ですよ」

 

 黄一と轟雷も食いつき。

 

「マスター、ボク達も出ようよ。南の島で皆で遊べるよ!」

 

「うーん……まぁFAGとのイベントって余り縁がないからな、出てみるかフレズ」

 

「えへへー。初めてだねこういうの」

 

 健とフレズもこういったイベントには興味がある。

 

「まぁ怪しいけど、日程はすぐにってわけじゃないし……」

 

「折角友達が出るなら私達だけ出ないわけにはいかない……。後から情報収集でこのイベントの事を調べればいいだけ……」

 

 最後に訝しげだが大輔とアーキテクトも参加の意思を見せた。

 

「では決まりですね!ポスターに書いてある通りに今週の日曜日に、指定した時間とサーバーにお集まりください!では!」

 

 そう言ってアーキテクトウーマンは恭しいお辞儀をしながらその場を後にした。

 

 

 そして当日、装備を製作し、バーゼからの特訓を受けながら轟雷達はその日を待った。そして当日、指定の時間になると、黄一は自室で机に向かいVRを起動。コードでVRに繋がれた轟雷もバーチャル空間にダイブする仕組みだ。

 

「じゃ、やってみますか」

 

「ふふん。私の水着で海の皆は悩殺させて見せますよ」

 

「妙に自信満々だなお前、空間内での体型も個体差があるんだろ?」

 

 いつも見てる素体はどの機体も専用パーツでもつけてない限りは変わりはない。黄一は轟雷の体型を予想しても子供の様な体型しかイメージ出来ない。

 

「何言ってんですか!私達の始祖たる試作型轟雷は、精神年齢に反してナイスバディだったと聞きます!その直系の後継機たる私なら同じ体型になるのは解りきったことです!」

 

「はいはい。とりあえず入ってみるぞー」

 

 そしてVRを被って起動させる黄一。そして冒頭に繋がったわけである。轟雷の予想は外れやけ食いに走ったわけだ。

 

「大輔まだかな。てっきり皆もう来てるもんだと思ってたけど」

 

 まだ自分達しかいないという事に残念がる黄一、その時だった。

 

「シュコー……やぁ黄一。……シュコー……来てたんだ……」

 

「?ぅおっ!お前……大輔か?」

 

 声のした方を向くと潜水服を着た人物がそこにいた。フレームアームズのグライフェンまんまのデザインの潜水服である。くぐもった声と頭部パーツから覗く顔で大輔と分かった。

 

「水泳があると聞いたんでね……シュコー……潜水服が衣装にあったから選んだよ……シュコー……」

 

「マスター……泳げないから……」

 

「……まぁ自分で選んだっていうならなんも言えないけどさ……」

 

「よう黄一!……わはは!なんだよ大輔その恰好!」

 

 ヒカルの声がするや否や、大輔の潜水服に気づきヒカルは笑う。ライトブルーのビキニを着たスティレットも一緒だ。

 

「笑わないでくれよヒカル……」

 

 スティレットの方は自分のサイズがヒカルと同スケールになる事に違和感を感じていた。

 

「実感沸かないわね。マスターや黄一さん達と同じスケールになるなんて……、轟雷は?」

 

「飲食が出来るってんで海の家の方に行ったよ」

 

 周りを見回し探すスティレットに黄一は言う。理由を正直に言っても轟雷を傷つけるだけだろうと黄一は詳細を言わなかった。

 

「再戦控えてるってのに呑気ねアイツも」

 

「こういう時位そういう事は忘れろよ。……折角そんな可愛い恰好してんのに仏頂面は勿体ないでしょうが」

 

 ヒカルは水着のスティレットを前に、シリアスを保ったままだった。ヒカルにとって今は彼女が立ち直ってくれるのが先決だった。白い肌、アーキテクト程ではないにしろ巨乳で引き締まった体型のスティレットだ。

 

「可愛い……。よしてよ……」

 

 好きな人の感想に、照れつつも目を伏せるスティレット。そんな会話をしてる中、「あーいたいた!」と言う声。健とフレズがやってくる。

 

「もう来てたんですか皆さん」

 

「やっほー皆、こういう場所で会うのは初めてだねー」

 

 シャツと海パン姿の健と、紫のビキニを着たフレズが来る。

 

「よぉフレズ、健君も一緒か」

 

「へへん。僕の水着姿にマスターもメロメロだよ」

 

 健に見せ付ける様にポーズをつけるフレズ。デフォルメした猫顔のマークや切込みが特徴のビキニだ。

 

「!そんな事ないよ!いつもあんな水着同然の格好してる癖に!」

 

 得意げになってるフレズに対し、健は顔を赤くして反論。色白な分余計に真っ赤に見える。とはいえ確かに、いつもビキニアーマー姿なので正直水着になっても、きわどさがいつもと変わらない。

 

「手足の露出は増加してるが……いつもと余り変わらない様な……」

 

 アーキテクトは……いや、他の全員もそんな事を考えていた。が……当の健はフレズを直視できないらしくチラチラと目を逸らしていた。ビキニアーマーと水着では違って見えるらしい。

 

「フフ……健君てば純情ね。2人並ぶとお姉さんと弟だわ」

 

 スティレットが少し笑いながら言った。健とフレズの2人が並ぶと、お互いの体格差が顕著に出る。フレズより一回り小さく、彼女の胸辺りまでの身長からどちらが上の立場か曖昧に感じてしまう。

 

「こいつの方が年上に思われるのは正直やだなぁ」

 

 不満げに健は呟いた。

 

「ボクもそう言われるのやだよ……」

 

「?珍しいわねフレズ、アンタこないだもそんな顔してたけど」

 

「……いいじゃないか別に」

 

 理由は前述の通り、姉弟じゃ結婚できない。だ。

 

「それよりさ、時間が惜しいよ。早く遊ぼうよマスター」

 

「そうだねフレズ。すいません。まずは二人で遊びたいんで」

 

 そう言ってヒカル達に断りを入れた健はフレズと海へ走っていった。「気をつけてな」そう言ってヒカル達は見送った。

 

「じゃあ俺の方も轟雷が心配だから様子を見てくるわ」

 

 続けて黄一が海の家に轟雷の様子を見に行った。

 

「すぐ泳ぐんじゃないのか。じゃあ僕も付き合うよ」

 

 潜水服を脱ぐとウェットスーツ姿の大輔はアーキテクトと一緒に黄一に付き添う。残ったのはヒカルとスティレットだ。

 

「……お前はどうするよ」

 

 ビニールシートとパラソルを設置しながらヒカルが問いかける。

 

「暫く考え事したいからここにいるわ」

 

 遊ぶ気になれないとスティレットはシートの上で体育座りをする。

 

「そっか。じゃあ俺もここにいるわ」

 

「……好きにすれば?」

 

 その横でヒカルは座った。

「……」

 

「……」

 

 暫く時間が経つ。お互いの耳には波の音と、FAGとマスターの話し声が入ってくるが、そんな喧噪も、季節外れの日差しも二人は意に介さない。

 

――……何やってんだろ私、マスターがこんなに私を心配してくれてるのに……――

 

 スティレットは白虎に言われた事もそうだが、ヒカルに対して壁を作ってる事に自己嫌悪に陥っていた。

 

――今まで散々自分の事人形だって言い聞かせてきたけど、マスターと一緒にいるとそんな事些細だって、無意識に思ってたんだろうな。……でも私が人間でない以上、人間の事……好きになるなんて……私がやってる事ってなんだろう……――

 

 今まで、ヒカルが自分に優しくしてくれた事を思い出す。自分をFAGだからと、人間でないからと差別しなかった少年。どうして彼がそうしたか、それは純粋にヒカルが優しさを持っていたから、

 

――……だからってマスターにこんなよそよそしくする必要もないよね。周りがどう言おうと、私が……私がマスターを好きなのは変わらない。一緒にいれれば今はそれでいいわ。普通に考えたら今でも十分私幸せじゃない――

 

 そう意を決したスティレットは態勢を変えずに、隣のヒカルへ口を開いた。

 

「あのさ、マスター……白虎型に言われた事だけど、奴の言った通りだわ。FAGと人間は恋人にはなれない。でもそんな事は関係ないわ。人形の私達FAGでも信頼を結ぶ事は出来る」

 

 それを証明してくれたのはヒカル自身、そうスティレットは含みを持たせながら言う。

 

「あの白虎に勝つには恋人とか関係ない。マスターと力を合わせる必要があるし、それを見せ付けたい。……だから、私と一緒に戦ってマスター」

 

 自分一人では難しいかもしれないし、一人で戦ってる白虎に対し、それはフェアではないかもしれない。しかしスティレットはヒカルとの絆を白虎に見せ付けたかった。

 

「勘違いしないでよね……。私別にマスターと恋人になりたいとかじゃないから。……でも意地だから、マスターも私を大事にしてくれるんなら、私もマスターに答えてあげなきゃって思っただけだから……ね、マス」

 

 そこで初めてスティレットはヒカルの方を向いた。が、当のヒカルは……見とれていた。視線の先、鞘に収めた日本刀を持ち、サラシと六尺褌を水着として絞めた黒髪のFAGの後ろ姿に見とれていた。褌なのでお尻が丸見えだった上に、歩く度に尻肉がふるふる揺れる。

 

「……ハッ!殺気!」

 

「まぁぁすぅぅたぁぁ……」

 

 殺気に振り返ろうとしたヒカルだったが、その前にスティレットが両手でヒカルの頭を掴むと、無理やり自分の側に振り返らせた。

 

「こっちが……こっちが真面目な話してんのに何見とれてんのよ!!」

 

「いででで!仕方ないだろ!男としてどうしても反応せざるを得なかったんだよ!」

 

「何よ!こっちは塞ぎ込んでいたってのに!マスターのおかげで……やっと気持ちを切り替えられたってのに!」

 

「!それって……立ち直れたのか?」

 

 純粋に心配する顔だ。何をいけしゃあしゃあと思いつつも、心配する気持ちはやっぱり本物だったとスティレットは思う。

 

「悩んでるの馬鹿らしくなったわよ。何はともあれあの白虎に勝つにはマスターとの協力が必要になるわ。その為にはマスターにも健君みたいな腕前が必要になる。付き合ってもらうわよ。マスター」

 

「スティレット……あぁ!」

 

「ま、そう考えたら今日位は遊んでおきたいわね。折角だから遊ぶわよマスター!」

 

 そう言うとスティレットは立ち上がり海の方へ走っていく。いたずらっぽく笑うスティレットにヒカルは、少しはここに来た意味はあったかなと安堵した。

 

「っと!待てよスティレット!」

 

 そう言ってヒカルはスティレットの後を追いかける。

 ……そんな二人を興味深そうに見ているFAGが一人いた。水着は着ておらず、デフォルトの格好だ。マスターらしき高校生の少年と一緒だった。

 

「HEY!提督ゥー。あの二人、なんだか面白い関係のFAGとマスターの様デース。年齢は恐らく提督と近そうネ」

 

「初対面でもない人にそう言うなよ。それに提督呼びとその口調はやめてくれ。大姉ちゃんの連れているアイツの真似だろ?」

 

「金剛姉さんの真似だったのですが……では指揮官、あの二人、なかなかに優雅ですわ!」

 

「それも、ちぃ姉ちゃんの金剛の真似だろ。普通にやってくれグライフェン」

 

「あらら、解りましたマスター。……私、なんだかあの人達と友達になりたいです」

 

一方で褌とサラシを巻いた巨乳の美少女『マガツキ』は不快そうな顔で呟いた。

 

「……どいつもこいつも、FAGである事の自覚を忘れて……」 

 このタイミングで、前からやってみたかった水着回です。ヒカルとスティレットメインのはずがほとんど黄一と轟雷メインになっちゃったな。


 
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