No.100073

愚者と聖者と 第一章 旅人 Part 1

空化さん

主人公フレイルは幼いころに国の圧力で両親を失いながらも、剣術等の師匠グミエルと共に強く生きる。そして旅に出てしばらく。立ち寄ったグレゴール帝国で見知らぬ女からグミエルの死を告げられる。悲しみに打ち砕かれるグミエルだがその女が言う「神殺し」という儀式を行うと何でも願いがかなうというのだが・・・。

2009-10-10 12:47:26 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:770   閲覧ユーザー数:765

第一章 旅人

 

 

私の名前はフレイル・デイトン。三十歳の旅人だ。

故郷であるシュルツヴァー連邦国を旅立ってもう十年ほどだ。

最初の数年は道中にあう魔物に手を焼いたが、ここ何年かは子供の頃から教えられてきた剣術や魔術もサマになってきて魔物との戦いには手を焼かなくなった。

そして今、私はこのグレゴール帝国の特産品であるグレインティーのカフェで活気溢れる街を見ていた。

グレインティーの香ばしい深みのある味わいには水平線が目の前に広がる船の上で飲むのが一番か、静寂に包まれ鳥の鳴き声と木々が風に揺られる音の中で飲むのが一番かとずっと考えていたが、今日結論が出た。

一番は味だ。

風景にとらわれることのない味さえあれば文句はない。

というのが、私がこのオープンカフェ「アルフス」で得た結論だ。

そんな事をぼんやりと頭の中で考えていると、隣から栗色の髪を片目で伸ばした母親が子供に絵本を読む声が聴こえてきた。

その母親がまた筆舌しがたい程の美人だったので私は耳を傾けた。

「むかーし、昔。あるところにグレオールという国がありました。グレオールはとっても強く、食べ物も沢山あって国のみんなは生きていくのに何一つ困ることはありませんでした」

「今も変わらないねー」

と子供が口をはさむ。

子供の話に私は怒りを覚えた。

私は貧乏な旅人だがね。

しかし、その母親が聖女のような笑顔で「そうね」と微笑んでいたのを見られたので許すことにしよう。

「そんな頃、隣の貧しい国のブレトリントは食べ物が少なくグレオールに『助けて』と言いました。グレゴールはそれを断りました。断ったことに怒ったブレトリントは多くの軍人をグレゴールに送りました。」

「そこで『ぶぁんびい』だね!」

ぶぁんびぃ……バンビーだろうか。

聞いたことがない。兵器かなんかの名前だろうか・・・・・・?

 「うふふ、そうね。そしてグレゴールにはバンビーという人が居ました。戦いが始まるまでは普通の兵士でしたがグレントリントがグレゴールを攻撃してきた時に、ブレントリントの兵士をたーっくさん、倒しました。そしてバンビーはこの戦いで王様に活躍が認められてセイジンになることができました。おしまい」

セイジン・・・・・・?

言葉をどう変換していいか私は戸惑った。

するとさっきの子供が「外で待ってるねー」と母親に言い残し店を出て行った。

私はさっきの疑問がどうも気になったので子供の母親に聞いてみることにした。

「あの、お話伺ってもいいでしょうか」

すると母親は満面の笑みで答えた。

「ええ、構いませんよ」

私は下心が顔に出ないよう必死に抑えながら話した。

「さっきの絵本のお話なのですが・・・・・・。セイジンとは何と読むのでしょうか」

「ああ、それはですね。聖なる人、と書いて聖人なのです。この絵本は『グレゴール戦記』と言ってグレゴールの英雄であるバンビーのお話なんです。この話は確か・・・・・・四百年ほど前の話なんです。そしてバンビーの血筋の人達は今でも聖人として崇められているんです。逆にさっきのお話で攻めてきたブレントリントの国民たちはグレゴールからこの戦い以降、今でも愚民として扱われているんです」

なるほど・・・・・・聖人という意味だったのか。

しかし国民全体を愚民として扱うとは、当時のグレゴールの皇帝は中々悪そうな顔をしているのだろうな・・・・・・。

「ありがとうございます。私は旅人なのでこのあたりの歴史にはあまり詳しくないもので・・・・・・」

「へえ、旅ですか。いいですねぇ。お体に気を付けてくださいね」

そのお言葉だけで人生に悔いはありません。

栗色の髪の毛の母親はそう言い残し店を出て行った。

 


 
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