
■年度末ラッシュ襲来〜単行本
3月といえば年度末。そんなわけで予算達成のため、単行本ラッシュをかけてくる出版社もあり、勢いチェックすべき本も多くなる。読者としてはうれしい悲鳴といったところ。個人的に、3月はゲームがらみの単行本でけっこう収穫が多かった。ちなみに3月あたりだと、学生さんが卒業する季節なので、学生の多い街だと古本屋にけっこう本が持ち込まれるシーズン。こまめに通って出物を探してみるのもいいかも。
それでは印象に残った単行本を挙げていこう。
・「ニューはまり道」 吉田戦車 アスペクト B6
吉田戦車がファミ通などで長年描き続けたゲーム漫画がこれにて完結。飄々としてすっとぼけた視点と、あらゆるゲームを吉田色に染め上げるイヤなものとゲームのカップリングの数々。そして赤&緑服の愉快なヒゲ兄弟のうっとうしい物語など、じんわり面白く仕上がっている。作品一本一本でどうのこうのいうより、まとめて読んで吉田ゲーム世界に浸るのが吉。
・「しあわせのかたち愛蔵版」全3巻 桜玉吉 アスペクト B5
・「なぁゲームをやろうじゃないか!!」1巻 桜玉吉 講談社 A5
・「桜玉吉のかたち」 コミックビーム編集部編 アスペクト A5(書籍)
桜玉吉、一挙に5冊である。
復刻の「しあわせのかたち」、それからアフタヌーン連載の「なぁゲームをやろうじゃないか!!」もいいけど、なんといっても桜玉吉特集本的な書籍である「桜玉吉のかたち」がやたらめったら濃い。竹熊健太郎やらコミックビーム編集長O村などとの濃密な対談など、桜玉吉の魅力を、むちゃくちゃな密度で語る一冊になっている。
・「アーケードゲーマーふぶき」 吉崎観音 アスペクト A5変形
ふっ!ふっ!ふぶっき〜っ!! 真っ白なパンティにキラッと光る、チャンピオンマークだパックマン〜。
ってな感じで、普段は大人しい女の子のふぶきが、パックマンがプリントされたパンティをチラ〜リさせるとゲームパワーが集結、一撃でゲームをクリアするような達人に変身する。キュートで健康的でちょっとH。そして何よりドタバタ進むお話が楽しい。レトロゲームがらみの数々のアイテムもゲーマー魂を刺激。途中まではコミカルに進むが、ラストはゲームを愛する気持ちがビシバシあふれて、ゲームに青春を費やしてきた人間のココロを揺さぶる。俺なんか思わずジ〜ンとしちゃいました。
・「Garden」 古屋兎丸 イースト・プレス A5
澄みきった、純粋で繊細な描写が細かく細かく集められ、圧倒的なボリュームといえるほどにまで積み重ねられている。その美しさ、確かな存在感はほかに並ぶものとてない。とくに、海上にぽっかりと浮かぶ孤島で、何代にもわたって研究を続けている錬金術師、その弟子と少女の物語である「月の書」は、重厚感、繊細さ、センスオブワンダー、どれをとっても恐ろしいほどの出来栄え。鳥肌がビシビシ立ちまくる完成度を誇る。残虐描写の連続である巻末袋とじ「エミちゃん」は、無残なだけに止まらず、作者の情念がこれでもかこれでもかと叩きつけられていて、グロテスクではあるけれど一種気高い美しさも発している。古屋兎丸は、すでにワンアンドオンリーな高みにまで到達した感がある。コミックバーズ 4月号(ソニー・マガジンズ)から、新連載「Marieの奏でる音楽」も始まった。毎月これが読めると思うと、漫画読者としては幸せすぎて涙がチョチョ切れそうな出来である。古屋兎丸から目を離すな!
・「万事快調」 駕籠真太郎 B.S.P A5
これまで1990年(久保書店「人間以上」)と1995年(三和出版「凸凹ニンフォマニア」)に単行本が1冊ずつ(ともに絶版)出ただけだった駕籠真太郎だが、1999年に「輝け!大東亜共栄圏」「喜劇駅前虐殺」(太田出版)が立て続けに発行され、そしてまたこの単行本である。この1年間でなんと3冊。今までなかなか単行本が出なくて、それだけにストックがたまっていたという証でもあるのだが、ここにきて一気にブレイクした感がある。今回の単行本はコットンコミック(東京三世社)で1995〜1997年に掲載された作品群を収録している。
人間型の兵器が、ごく普通の道具として爆裂しなんの説明もなく異様な戦場模様が繰り広げられる「動力戦線」シリーズ、10cm程度の壁を挟んでパラレルワールドが1コマの中で同時に展開する重層的構造が見事な「万事〜」シリーズなどなど、ブラックでクールでアナーキーな味付けがたまらない、奇想あふれる物語が次々と展開される。実験的な発想を、うまくお話の中で生かし、読者の脳髄をつかんでぶん回す。ものすごく知的で、実に楽しそうだ。活躍場所はエロ漫画系の雑誌が多くて目に付きにくいが、明らかに漫画表現の最先端を、ある方面で突っ走り続けている。
・「ゴーダ哲学堂 空気人形」 業田良家 小学館 A5
どこにでもいるような、平凡な人たち(ロボットなどもいるけれど)の心のかたちを描くヒューマンドラマ系短編集。人間を愛してしまったフーセン式のダッチワイフ、あらゆる局面において損か得かを計算してユーザーにアドバイスするロボット、子熊のかぶりものを装着することによって他人の関心を惹き業績を挙げる営業マンなどなどが、ときに哀しく、ときに暖い物語を織り成す。クサいことはクサいし、あざといと感じる向きもあろう。しかし、馴染みやすい絵柄と強い言葉でもって語る作風は、読む人をしみじみと感動させたり励ましたりする力を持っている。素直にいいお話だと思うのだ。
・「ブレーメン」 河合克夫 青林工藝舎 A5
絵柄は地味だが、やっていることはかなりすごい。お話をあらぬほうへと転がしていき、読者を飄々と煙に巻く軽妙なノリは見事というほかない。とくに60ページ近くある「月の砂漠」は絶品。ソバージュにしてくださいという女性を丸刈りにしてソバを頭にぶちまけ、最終的にはカミソリで頭を割って殺してしまうイカれた美容師のところからお話は始まり、オフィスでタコを丸呑みにする課長、その部下のOL、月の砂漠を行く主従……などなど、一見関係性のなさそうなキャラが説明もなくごく自然に入れ替わり立ち替わりする物語を読み進むうちに、頭がどうにもクラクラしてきてしまう。ブリーフと白靴下だけの外人男の写真の表紙にメゲずに、ぜひぜひチャレンジしてもらいたい。
・「ファイヤーキャンディ」2巻 今村夏央 秋田書店 B6
エロ漫画では「米倉けんご」名義で活躍していた今村夏央の、一般誌初連載作品。生殖能力が減退した人類が、人口保持のため獣の遺伝子を利用して作られた新人類である少年少女たちの、暴力とドラッグにまみれたハードな生き様を描く物語。もともとエロ系でも実力には定評のあった人だが、エロのときよりもだいぶ骨太な画風になり、また一段レベルを上げてきた。
テンションが高く、自暴自棄的に疾走する主人公たちの姿はなかなか凄絶でテンションも高かったが、結局は2巻で未完のまま終了。今村夏央には、いつかまたこのキャラクターたちで納得するところまで描ききってほしいところではあるが、この主人公たちのノーフューチャーな生き様を見ていると、未完という終わり方も何かふさわしいもののように思えてしまう。
・「リーマンギャンブラーマウス」1巻 高橋のぼる 講談社 B6
モーニング(講談社)でシリーズ連載中な作品。包茎で家庭も冷えきっていた平凡なサラリーマンが、ナゾの美女の導きにより裏ギャンブル界にデビュー。それ以来、彼は「マウス」と名乗るようになり、勝負の世界で水を得た魚のようにイキイキと泳ぎだす。
ギャンブルの駆け引きはもちろんなのだが、それよりも各キャラクターのとんでもない行動が抜群に愉快。前触れもなく女体盛りが登場したり、脂っこくてすっとんきょうな展開がやたらイカす。この1巻だけでもかなりテンションが高いが、それ以降の展開はより濃厚さが増していていいのである。2巻が出るのを心待ちにしている。
高橋のぼるといえば、漫画アクション 4/4 No.14(双葉社)に掲載された「麻雀猿K2」もすごかった。猿と人間が麻雀である。実に真剣に。過剰で濃密でキレがあり、そしてこのうえなく馬鹿馬鹿しい。高橋のぼる、絶好調である。
・「バラ色の明日」6巻 いくえみ綾 集英社 新書判
いくえみ綾はこの作品で小学館漫画賞を受賞したが、そんなのは当然と思えるほどに面白い。この巻には3話分しか収録されていないが、いずれもクオリティが高い。親の都合で学校を転々としている女の子。彼女が行く先々には常に同じ男の子が。そして彼女は、どの学校へ行ってもその少年に恋をする……といった具合に始まる第10話、11話なんて実に見事な出来。不思議ちゃん的恋愛モノで始まり、トキメキをふりかけ、一筋縄では終わらぬ展開を用意し、最後はふわりと着地。その手際の鮮やかさには感嘆するばかり。この単行本で不満があるとするならば、判型が新書判と小さいことくらい。こういう見事な作品を読むなら、最低でもA5サイズはほしい。
・「心機一転土工!」 根本敬 青林工藝舎 A5
漫画家生活(数えで)20年を記念する一冊。
因果者追求ないつもの根本的作品だけでなく、ほのぼの系などかなり初期の作品も収録。今までの作品集からは見えてこなかった根本敬の仕事っぷりが伺え、充実度は高い。下品で熱くたぎる情念をストレートにぶつける作品なんかは読んでてとても気持ちいい。なんか思いっ切り鼻をかんだときみたいな爽快さとでもいいますか。実にスッキリするのですな。
・「ハネムーンサラダ」1巻 二宮ひかる 白泉社 B6
二宮ひかるは、恋愛漫画ではすでに名手の風格さえ感じる。
男女の恋愛をときにとろけるように甘く、そしてまた甘くなりすぎないようにはぐらかしつつ、微妙な距離感を保ちながらお話を進めていく。ときどきそっけなさそうに突き放す呼吸なんか実にうまい。スタイリッシュに恋愛を描くが、それはけしてイヤミにならない。見事に魂をトロトロにしてくれる。ああ恋してえ、って気になってこようってもの。
・「実録企画モノ」 卯月妙子 太田出版 A5
うーん、やはりホンモノはすげえ。絶句ものである。
カルト系AV女優にして、インチキくさい企画屋の妻、そして一児の母である卯月妙子の日常を赤裸々すぎるほど赤裸々につづったエッセイコミックである。ウンコをかぶった男優の写真に天啓を受けてAV業界入りしたってところからしてすさまじいが、撮影でもウンコ・ゲロは当たり前。ミミズまみれになってみたりと、もうやりたい放題。この単行本後半の、夫の自殺に関するエピソードなど、あまりのたくましさにビリビリしびれる。ホンモノはやはり凄みが違う。参りました。白旗。
・「海鶴」1巻 森秀樹 小学館 B6
森秀樹にしては珍しく、主人公が女性な物語。室町時代末期、瀬戸内の海で勢力を誇っていた三島水軍の姫君・鶴の生き様を描いていく。鶴は天真爛漫で、強く、そして美しい。生きたキャラクターたちを縦横無尽に動かし、骨太に物語を進める。確固としてゆるぎない面白さを持っている。森秀樹の作風は地味だけど、読み込むとものすごく面白いし、ハズレがない。この作品も力が入っていて面白くなりそうな匂いがプンプン。
・「恋の門」1巻 羽生生純 エンターブレイン A5
羽生生純は4月に、これと併せて「1ページでわかるゲーム業界」も出たが、コミックビーム連載の本作が抜群に面白い。「漫画芸術家」を名乗る石を紙に貼り付けた前衛的な漫画を製作する男・蒼木門と、美人であり同人作家でコスプレイヤーでもある証恋乃の二人の、恋と愛と青春の物語。羽生生純の暑苦しくゴツゴツした切羽詰まった絵で描かれた物語は、青臭く、唐突で、やたらとテンションが高い。似合わないコスプレを「普段着」として着こなし恋乃を追いかけ回すデブのストーカー女など、登場人物たちの業の深さは圧巻。主役格二人の恋愛も、真剣なようでいて打算的でもある。そういったドロドロも赤裸々に描き出す逃げのない筆は迫力十分。A5単行本の4分の3くらいの幅を占めるぶっとい帯がまたかっこいい。
・「マウス」1巻 作:あかほりさとる+画:板場広志 白泉社 B6
ヤングアニマル連載。とにかく馬鹿っぽい。普段は生徒にもからかわれ、美人教師三人組にもイジメられている新米非常勤講師である無音宙太。だが彼は、実はどんなものでも盗み出す怪盗・マウスだった。そして、学校では彼をイジメている美人三人組は、マウスの忠実な召し使いであり肉奴隷であったのだ……というなんとも煩悩バリバリな作品。かっこいい盗みのアクションをやったと思ったら、次のページでいきなり美人三人組が全裸で「ああ〜ん好きにしてご主人様〜」とくる。やたらサービス精神旺盛で、あっけにとられるほどの頭の悪い展開がたまらない。脳味噌をトロトロにしてくれる。
・「白い少年」1巻 かいともあき 双葉社 B6
最近注目の漫画アクションで連載中の作品。汚れを知らず、素直すぎるがゆえに他人とは違う行動をとってしまう少年の、まっすぐすぎるパワフルな青春物語。血管をビキビキいわせて「あああああああああああああああ」とか叫び、不必要なくらいにダイナミックなアクションをやってのける唐突さがステキである。最近のアクションでの連載分は、テンションが落ちてきてしまっているのでちともの足りなくはあるのだが、この1巻掲載分は文句なく面白いのでぜひ。
・「聖」1巻 山本おさむ 小学館 B6
副題は「−天才・羽生が恐れた男−」。29歳の若さで夭折した棋士・村山聖の物語である。将棋の駒に自分のすべてを託して、将棋盤という宇宙にぶつけ、鮮烈な輝きを放った棋士の物語である。この巻では、村山聖の少年時代を描く。死と隣り合わせの環境で、同じような病状にある仲間たち、そして将棋との出会いが描かれる。いつ終わるかもしれない命を燃やし、汗をダラダラ流しながら盤面を見つめ続ける聖の姿には圧倒的な緊迫感があり、実に感動的で思わず泣けてくる。
・「福神町綺譚」貳巻 藤原カムイ 集英社 A5
1年ぶりの第2巻。インターネット上から読者の意見を募集し、(リンク参照)作品に反映していくインタラクティブコミックの第2巻。架空の町「福神町」を舞台としているが、漫画の中で描かれる結婚式が、参加読者の実際の結婚式とリンクしていたりと、この巻ではだいぶ読者の関わり方がダイナミックになってきた。
・「NIGHT GALLERY I 桜色の肖像」 天竺浪人 コアマガジン A5
・「黒日夢」 天竺浪人 三和出版 A5
エロ漫画界でも有数のワザ師である天竺浪人の単行本が4月に2冊発売。
「桜色の肖像」では、これまで単行本未収録だった1993〜1996年発表作品が収録。「黒日夢」はフラミンゴ掲載作品を収録した短編集。人間の心の暗闇と向き合い、その姿を浮き彫りにしていくような、ダークで深みのある作風が持ち味。最近ではエロ描写も格段に上達し、幅が広がっている。エロ漫画界屈指の描き手でありつつ、常に先へと進み続けている。
・「アルコールラムプの銀河鉄道(下)蠍の火」 しろみかずひさ 三和出版 A5
上巻が出てから3年余りしてようやく下巻が登場。細部までこだわった描写の精密さ、そして魂から振り絞るような、引き裂かれるような想いに満ちた作風が読者の心を震わす。ちょっとアクの強い絵柄ではあるけれども、遠く宇宙の心の虚空に意識を飛ばすかのような作風は、サディズム、マゾヒズム、ロマンチシズム、愛を包み込んで高いレベルで結実している。作者の生の声が聞こえてくるような一冊。
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