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8.
阿部:しげの秀一って『バリバリ伝説』の人でしょう。このマンガも『D』と似たような物語の進展を辿った。公道からサーキット(プロレース)に移っていくという過程がね。そのなかで主人公のグンとヒデヨシというライバル関係があって、これが『D』だと拓海と高橋啓介に対応している。つまりかなり似通っちゃっているんだよね。結局『バリバリ』の方は、ヒデヨシが途中で死ぬわけ。これでマンネリ化を避けたんだけど、それなら『D』はいったいどうなるのか。拓海はなつきに対してプロのドライバーで頂点に立つと言っているし、高橋啓介もそれはすでに公言してるわけだから、二人でプロジェクトDの完全制覇の後にプロの道へ行くのはおそらく間違いないだろう。そこで二人で競い合って……となると、まさに『バリバリ』と同じ展開になっちゃう。
いずれにせよ、第二部の牽引的役割を果たしているのが、プロジェクトDの全貌なわけ。これが一応謎として仕掛けられている。「D」って何の意味だろうと、第二部の最初でも言われるんだけどさ。僕はこれ次第かな、と考えているんだ。
東:つまり、高橋涼介(啓介の兄)が何を考えているかということですね。『バリバリ伝説』には涼介に相当する人物はいたんですか?
阿部:いなかった。
東:涼介が新しい要素なんですね。
阿部:そういうこと。涼介は公道最速理論の確立へ向かっているから。でも『D』第二部の問題で言うと、『タッチ』も似たような事態に直面していた。実は南ちゃんとタッちゃんは相思相愛だったんだけれど、カッちゃんが死んだことによって二人はそれ以上の距離に近づくことができなくなってしまった。とはいえ途中で、南ちゃんとの距離が縮まりそうになる。カッちゃんの存在が希薄になるわけ。 それでまずいと思ったあだち充は、南ちゃんを突然、新体操の女王にしちゃうんだ。それで距離を離すのだけど、それだけじゃ足りないから鬼監督を出すわけ。この鬼監督の存在が非常におもしろいの。彼は兄貴が起こした事件を引き受けることで、その後野球ができなくなり不良になってしまったやつなんだ。つまり、その一件によって表に出られなかった存在になるわけね。彼が死によって表に出られなかったカッちゃんを代弁する存在になるわけだ。そういう図式をつくって『タッチ』の第二部は進展した。『D』の場合、このような展開に持っていけるかどうか。
東:登場人物がちょっと少ないですかね。
阿部:今のところ考えられるのは、これまで描かれなかった母親の存在があるでしょう。それをどう出してくるか。それにしげの自身あるインタビューのなかで、何で『バリバリ』でヒデヨシを殺してしまったか、という聞き手の質問に対して、予定調和に陥ることだけはどうしても避けたかった、と強調してるわけ。そういうふうに作者が自覚的である以上、このまま予測されたような展開が続くとも言えないだろう、という期待はあるんだよ。
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