No.99728

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #02 思い出と愛の結晶

四方多撲さん

第2話を投稿です。
アニメは……OPに桃香いないよ?途中で絵を差し替えるのかな……
ラスト当たりスペース多いし。前作の絵使い回してたし。怪しいな~、とか思ってますw
まぁ、それは置いといて。
それでは、蜀END分岐アフター開演でござ~い☆彡

2009-10-08 20:06:32 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:73779   閲覧ユーザー数:52361

 

 

第二次五胡戦争の勝利を祝う宴にて、泥酔した桃香がぶちかました一刀への熱烈な接吻。

 

見せつけられた形の華琳と雪蓮は、羨望と嫉妬と共に半年前の情景……北郷一刀との思い出を思い浮かべていた――

 

 

<華琳side>

 

『第二次五胡戦争』が勃発する半年前――『第一次五胡戦争』に勝利した翌月。

呉都建業にて、初めての三国会談が開催された。

そこにおいて、諸外国……特に五胡の騎馬隊に対抗する戦術として、蜀から『八陣図』が提案された。

 

『八陣図』は、全体の陣形としては方陣であり、以下の八つの小陣形を組み合わせたものだ。

 

壱の陣『長槍陣』。

密集した方陣による対騎馬戦用の歩兵隊。基本配置は横長に前曲へ。

弩兵と、腕固定の小盾と長槍(五メートル以上の長さの槍)を装備した長槍兵によって密集方陣を敷いたもの。

長槍兵が『槍衾(槍の穂先を無数に突き立てる)』を形成し、敵騎兵の突進を防ぎ、弩兵がその隙を狙い撃つ。

槍兵・弩兵が二対一の割合で密集することで、敵兵の突入を防ぎつつ、前の兵が倒れれば後ろの兵が前に出ることで、戦線を維持しプレッシャーを掛けながら進軍していく。

 

弐の陣『大盾陣』。

対歩兵・弓兵用密集方陣。基本配置は前衛の『長槍陣』の後方。

こちらは大盾と槍を装備した、防御力に優れた密集方陣(ほぼ西洋における『ファランクス』と同じもの)。

半身をカバーする大盾を密集させ、その間から槍を突き出すことで敵兵を“押し込む”ことに長け、高い防衛力を誇る。

敵兵の状況によっては前衛の『長槍陣』と入れ代わることで、歩兵に適応した戦陣へと移行する。また前衛の『長槍陣』が抜かれたりした場合に、陣形全体が総崩れになることを防ぐ堤防であり、損耗に対する補充要員でもある。

 

参の陣『騎馬陣』。

基本的には左右および後方に配置される騎兵隊。

その役割は、第一に密集方陣は正面には強いが側面が脆弱である為、敵の横撃を防ぐ。第二に中央の密集方陣が相手の機動力に翻弄されることが想定される場合、鶴翼陣のごとく「Vの字」に突出し、敵が左右に動けないよう足止めする(その間に中央歩兵『長槍陣』『大盾陣』が突進する)。

 

肆の陣『突撃陣』。

基本配置は本陣横および左右翼の最前列。騎馬突撃(チャージ)を行う“切り札”的な遊撃部隊。

初撃によるアドバンテージの獲得、好機・危機に対する遊撃、敵陣への止め・追い討ちを行なう。

走り抜ける戦術である為、どうしても馬の消耗が激しい。よって投入タイミングが非常に重要となる。

 

伍の陣『鋼鉄陣』。

基本配置は前衛と本陣の真ん中。錬鉄製の槍と刀、全身鎧を装備した重装歩兵隊。

前衛が抜かれたり横撃された時の防衛や、敵が崩れた際の追い討ちを行なう、柔軟性を求められる真の意味で遊撃部隊。

装備のコストが高く、重要な役割を持つ為、精兵を揃えるのが理想。

 

陸の陣『戦車陣』。

本陣前に配する戦車による方陣。

突入してきた敵兵の隊列を戦車によって分断させる。また戦車は障害物としても使い、歩兵と弩兵が各種の長・短兵器で応戦する。基本的には補助戦力であり、戦車は補充用の長槍や矢の運搬も担当し、兵は櫓や城攻兵器、大型投擲兵器などを戦場で組み立てる工作兵が主体となる。

 

漆の陣『弓兵陣』。

本陣前、『戦車陣』の後方に配置される弓兵による横陣。

従来の『矢衾(矢の乱れ撃ち)』による攻撃を行なう。

また、前方の『戦車陣』の予備兵装を用いて前方の補充兵や本陣守護兵としても動く。

騎射が出来る優秀な弓兵には馬が補填され、遊牧民族の如く騎馬弓兵隊として遊撃も行うことも可能。

 

捌の陣『本陣』。

その名の通り、本陣である。基本的な方陣で、重装歩兵と弩兵を交互に配置。首脳陣の傍には騎馬兵も寡数配置する(最悪のパターンとして、撤退・逃亡時の首脳陣の補助など)。

 

 

『八陣図』には、調練が難しい、一部装備品の必要精度・コストが高い、用兵にクセがあり陣形指示の難易度が高いなど問題点が多々ある。

しかし、古代中国の歩兵を中心とした戦争に適応し易く、騎兵隊に対しての対抗力に優れる。数に勝れば蹂躙と呼ぶに相応しい攻撃力を発揮し、たとえ数に劣っても堅固な防衛力を持つ。

また、状況によって主体とする『陣』を選択することも可能だ(敵の主力が歩兵なので、『大盾陣』に多く兵を割り振り、最前列に配置する、など)。

 

三国が同盟し、基礎的な国力が安定した今ならば十分に運用可能な戦略であった。

 

「とりあえず、見てもらった方が早いと思うんで」

 

というわけで、建業の修練場に、蜀軍によって小規模の密集方陣が敷かれた。

 

「正面から見ると、厄介さが良く分かるよ。因みに、牽制としては突き、攻撃としては振り叩くことになる」

「「……」」

 

一刀の言葉通り、日本の戦国時代に用いられたという『槍衾』は、正面から見れば、槍の穂先による剣山のようなものだ。そして、このプレッシャーに負けて足を止めたり、馬を旋回すれば、槍兵の隙間に潜む弩兵の矢の的となる。

また、弩は射手の姿勢が比較的自由であり、密集陣全体が前進することも容易なのだ。

 

(正に騎兵殺し、か。おいそれと突撃できず、足を止めれば弩で狙い撃ち。陣自体も前方突進に優れる、と)

(得物が長いぶん、横からに弱そうだけど……左右は騎兵で固めるんだっけ?へぇ~……)

 

「基本的には弩を使うけど、弓に自信がある兵は弓でもいい。ただ、相応の技量を要求されることになっちゃうけど。密集陣は、通常は当然密集してるんだけど、状況によっては散開したい場合もあるだろうから。陣の単位をきっちり決めておいて、命令があれば小単位で動けるように訓練する」

 

「私の考えていた方陣は、柔軟性に欠けていたのですが、ご主人様が改良してくださいました」

 

とは朱里の弁。

 

……

 

…………

 

続いて、『騎馬突撃(チャージ)』のお披露目となった。

 

この時代はまだ馬具が発達しておらず、騎馬の突進とともに“突く”と物理的に反作用の法則で攻撃した側も後方に落馬してしまう。

一刀は馬具、特に鐙や鞍を考案・改良することによって、馬上でも踏ん張りを利き易くし、西洋で名高い『チャージ』を実現したのだった。

 

訓練した無名の突撃騎兵と相対するのは、なんと魏の猛将・張遼である。

 

「さて。どんなもんか、見せてもらおか!」

「よし。始め!」

 

愛紗の号令で、相対した二騎が互いに突撃する。

 

「ぐぅ!?(重いッ!)」

 

その一合目、自らの得物よりもかなり長い突撃槍――ランスの一撃を、霞はなんとか凌いでみせたが、危うく得物を落とすところだった。その体勢もかなり崩れていた。

 

その時点で、霞の馬は動きを鈍らせていた。突撃騎兵はその間も走り続け、一定距離で反転。さらに突撃に掛かる。

霞もその間に体勢を取り戻す。

 

二合目も、ほぼ相打ち。同様の結果となった。

 

そして三合目。

 

「悪いけど、本気出すでぇ!」

 

突進してくる蜀の突撃騎兵へ、自らが跨る軍馬も突進させ、霞は何と手綱を手放し、愛刀『飛龍偃月刀』を両手で構えて応戦した!

 

「うらぁぁぁぁあ!!」

 

がきぃぃぃぃん!!

 

「うわぁぁぁ!」

「ヒヒィィィン!」

 

驚くことに、霞は突撃騎兵を馬ごと横倒しに吹き飛ばしたのであった。

 

……

 

…………

 

「北郷様、申し訳ございません。お披露目であったというのに……」

 

突撃騎兵は一刀へ無念げに謝罪した。しかし、一刀は笑顔で彼を褒めた。

 

「何を言うかな、君は十分やってくれたよ。かの『神速の張遼』に本気を出させたんだから」

「そうね。あれは霞の奥義『蒼竜神速撃』だわ。彼女にそこまでしなくては勝てないと判断させた、という事実で十分その威力は実証されたと言っていいでしょう」

「正直、最初は舐めとったわ。コイツは……馬上戦では脅威やで?」

 

霞が本気を出さねばならなくなった理由。

それは、馬上で得物を片手で持つ者と両手で持つ者の差であり、加えて鐙(あぶみ)の有無による馬上で踏ん張り易さの差だったのだ。

 

一、二合目において、猛将である霞だからこそ、片手で持った非常識な程に重い『飛龍偃月刀』でランスを押し返したが、明らかに重量のある両手武器を騎馬の突撃力を乗せて突くチャージは、受け止めることも出来ないほどの凄まじい威力を持つのである。

故に霞は、武器を両手で構えて本気を出したのだ。突進する馬上で手放しで全力で武器を振るうことの出来る彼女だからこそ勝つことが出来た、とも言えるだろう。

 

また、スピードのある突進において、騎兵突撃槍(ランス)のリーチの長さは想像以上に防御し難い。手持ち武器で二十センチも違うと感覚的には相当遠く感じるが、ランスは柄の端を持って突端で突く武器である為、有効的なリーチとなると偃月刀や一般的な戟・槍よりも一メートル近く長いのだ。

 

「ただ、突撃槍は扱うのに技量がいるし、硬質の鋼を使うから高価い。おまけに“走って突く”ことしか出来ないから、乱戦では使えない。だから、少数精鋭で遊撃に用いることになるんだ」

 

「このような形で、『八陣図』は多数の長槍と長距離兵器による攻撃力、密集することによる防御力、騎馬兵の補助、そして幾つかの特殊兵装による応用力から成り立っています。用兵に癖があり訓練は難しいですが、効果はあると思います。是非、対五胡の戦術として採用したいと考えています」

 

そう締める朱里に、反対するものはなかった。

 

 

 

華琳は戦術概要を聞き、実際に目の当たりにしたこの戦術が、もし魏と蜀との戦争で使用されていたなら。曹魏は相当の被害を被ったに違いないと確信した。

 

(『天の御遣い』北郷一刀……)

 

戦乱の時代から、食えない男だとは感じていた。

しかし、たった七日間ではあるが、この三国会談で語らう中にその印象はさらに昇華した。

 

基本的に“甘い”と言わざるを得ない蜀王・桃香の理想と、諸葛孔明を筆頭とした優秀な配下が見る現実。

その間にあって。配下には現実を理想に近づける情熱と智謀を。党首・桃香には理想と現実の乖離を諭すだけでなく、その理想を理解した上で、それに沿った形で折衷してみせる手腕。

 

故に、蜀将は理想の為に邁進することを恐れず。蜀王は理想を掲げるだけでなく、自らに必要なものを模索する。

蜀の強さは、『天の御遣い』が治めているという風聞だけではなく。

彼自身の、その個性にこそあったのだと実感した。

 

それはまるで人馬一体の如く。

行き先を見る桃香と、そこへ至る道を見極め、悪路ですら闊歩してみせる一刀。

それが可能なのは、蜀の上に立つ二人が思う『理想』が近しいから。

それは、支配者ではなく。まるで農民や雑兵のような、下から見上げる理想。

 

時折、一刀が桃香をフォローする姿を見るたび。

この二人と話せば話す程、訳の分からない苛立ちが華琳の心に生まれていた。

 

帝王学講座の提案に、二人が頭を下げて「「お願いします!」」と言ってくれても。

春蘭、秋蘭と共に、最高級の茶請けでお茶会を催してみても。

夜伽に桂花を苛めてみても。

 

心のささくれは癒えてくれない。

 

彼女はそれが。

覇王の衣を脱ぎ捨てても。

根っからの支配者である自分には。

桃香と同じように一刀と理想を語ることができないという。

 

自分自身への苛立ちと、桃香への羨望であることに、気付かずにいた。

 

一ヵ月後。

第二回の三国会談の開催地は、蜀・成都であった。

 

成都が三国会談でお祭り騒ぎに盛り上がっていた頃。

魏王・曹孟徳こと華琳は一人、城の中庭の東屋で、大陸地図を前に思索に耽っていた。

 

(三国同盟において、長期的視点からすれば、やはり我が曹魏こそが危うさを孕んでいる……)

 

『天下三分の計』によって締結された三国同盟は、その関係において上下はなかったが、表向きは天子を擁する魏が、漢の皇帝の名の下に呉・蜀に王を封じるという体裁をとっており、いわば魏こそが三国のリーダーであった。

故に、三国は漢王朝の下で同盟している形である。また、史実では『蜀』なる国は存在しないが、現在桃香が国主に封じられているのは益州と漢中を治める『蜀国』となっている(『劉蜀』とでも言おうか)。

 

各国の内情をみても、魏は蜀呉を倍する国土・人口・生産力を誇り、赤壁で敗北を喫したとはいえ、その軍事力もまた三国最大であることは明白だった。

 

しかし。

 

(せめて赤壁で勝って江夏を領地に出来ていれば……いや、そもそも赤壁で勝っていたなら私こそが大陸の覇王となっていた、か……)

 

蜀、呉にあって魏に足りないもの。それこそが魏王・華琳を悩ませていた。

 

(たとえ三国同盟が続いたとしても、おそらく十数年のうちに『天下三分の計』は崩れるわ……それも魏が、蜀と呉に併呑される形で。それはそれで『天下二分の計』として平和は保たれるでしょうけれどね……)

 

「こんなところで、一人でどうしたんだ?曹操」

「きゃぁあああ!」

 

思考に没頭していたせいか、近づいて来た一刀に気付かなかった華琳は、文字通り飛び跳ねて驚いた。

 

「うわっ!驚きすぎだろ!」

「うるさいわね!いきなり声をかけた、あなたが悪いんでしょう!?」

 

(実質の蜀の代表、北郷一刀か……もし蜀から漢中を奪えたなら、この問題を解決できるけれど……)

 

しかし、覇王の衣を脱ぎ去った華琳にとって、最早武力による侵攻は選択すべき道筋にない。

となれば、相応の対価を以って蜀から領地移譲を引き出すしかない。

 

せめて口約束でもいい。諸葛孔明や、こと外交においては油断ならない劉玄徳から譲歩を引き出す取っ掛かりとする為にも、蜀内に絶大な発言力を持つこの男から“漢中を魏に移譲する”ことを約束させなくてはならない。

 

(――やるしか、ないわ。曹魏百年の安寧の為に。どんな犠牲を払っても!)

 

 

 

「で、何してたんだ?」

「……『天下三分の計』について考えていたのよ。この計略の肝は、三国による三竦みにこそあるわ。三国の均衡が崩れれば、その基盤は崩れ落ちる」

「まあ理屈的には、そうだね」

「そして……蜀と呉にあって、今の魏に足りないものがここにあるわ」

 

と言って、華琳は大陸地図の一点を指す。そこは蜀領内、漢中と呼ばれる場所。

 

「……」

「この地を魏に移譲して欲しいの。そうすればあらゆる条件が三国を均衡に保つわ」

「魏に足りないもの――鉱物資源、特に貨幣供給の為の銅山、だね?」

 

(やはり見抜かれたか……!)

 

蜀の領地である益州と漢中は豊富な鉱物資源を持つ。呉は江夏に大陸最大の大銅山『銅緑山』を領有している。つまり蜀も呉も自力で貨幣を鋳造することが出来るのだ。

対して魏は、領地こそ広いが、その領内に有力な銅山が存在しない。

 

魏がどれだけの生産力と人口を誇ろうとも、貨幣供給という経済の基盤を他国に握られていては、その生産物も人口もいずれ蜀呉へ流れてしまう。また、銅の輸入を制限されるだけで、魏国内の貨幣供給は覚束なくなり、結局経済的に蜀呉に頼らざるを得なくなってしまう。

 

今の各国首脳が存命のうちは会話や外交で調整が可能だろう。しかし今後の国家百年を鑑みれば、今こそが魏の危機であり、最悪――未来に再び乱世を呼び込むのは、経済的には追い詰められつつも最大の軍事力を持つ魏となってしまうかもしれない。

 

(それでは、私が覇王の衣を脱ぎ捨てた意味がなくなってしまう!)

 

「そうよ。だから益州内にも鉱山を持つ蜀から、漢中の地を魏に移譲して欲しい」

「…………」

 

一刀は無言。華琳からは、その重要性を見抜かれた以上、漢中以上のものを渡すしかない。

華琳は椅子から立ち上がり、一刀から目線を外しつつも言葉を続ける。

 

「もちろん対価は払うわ。蜀はまだ騎馬が少ないでしょうし、魏から騎馬を譲りましょう」

「……?」

 

「あなたのところの馬超は元々涼州の姫だったわね。だったら涼州を蜀に移譲してもいいわ」

「……曹操?」

 

「あなた自身に対しての対価が欲しいというなら……それこそ何だって用意できるわ」

「……曹操!」

 

「そうよ。あなたが望むなら、この私自身をあげたって――」

「曹操!!!」

 

一刀が華琳の両肩を叩くようにして掴む。そうしてようやく華琳は口を動かすことを止めることができた。

 

「何よ!これでも足らないとでも――あなた……泣いて、いるの……?」

「曹操……もう言うな……」

 

一刀は涙こそ流していなかったが、その表情は最早いつ泣き出してもおかしくないほどに歪んでおり、それは彼の内に満ちる哀しみを如実に表していた。

 

「俺達は……平和の為に同盟を組んだんだろう……?」

「……そうよ」

 

「みんなで手を取り合って……笑い合おうって。俺や桃香の気持ちに応えてくれたんだろう……?」

「……今でも甘いとは思っているけれどね」

 

「これが外交だってことは分かってる。でも……」

「……でも?」

 

「乱世の時みたいな……こんな腹の探り合いなんかしなくたって!」

「…………」

 

「俺達は――『仲間』だろう!?」

「!!」

 

いつからか、一刀は涙を流していた。この涙は、一刀の華琳への“信頼”そのものだった。

 

「もっと素直に……相談してくれよ……二人きりの時くらい……」

 

そういって一刀は華琳を抱きしめた。

一瞬反発しようとした華琳だったが、一刀の涙と力強さに抵抗を止めた。

 

(……ごめんなさい……)

 

謝罪を口に出来る程に素直にはなれなかったけれど。

 

 

 

暫くして。二人は、何故か一刀が華琳の座椅子になる形で床に座り込んでいた。

 

「……曹操って、こんなに小さかったんだな……」

「のゎんですって?」

 

ちゃきっ!

 

「どこから出したの、その鎌!?」

「この私を愚弄したのだもの。相応の罰は覚悟できてるんでしょうね?#」

「なんで!? 小さくて可愛いって意味だよ!!」

「……そう。なら、いいわ」

 

華琳が大鎌『絶』を(何処ともなく)しまう。

 

「ふう……覇王の衣を脱いでも、恐い子だよ。全く……」

「なっ! その話、どこで聞いたの!?」

「昨日の宴会で夏侯淵から」

 

(秋蘭ったら!その話広めてるんじゃないでしょうね!? 後で問い質さなくちゃ……)

 

「まあ、曹操が将軍の大怪我に取り乱しちゃうような、優しい女の子だってことは分かってるんだけどさ」

「ちょっ!? その話もどこから!!?」

「昨日の宴会で夏侯惇から」

 

(姉妹揃って~~!今晩は二人して“オシオキ”ね!!)

 

「さっきの話だけど。蜀って領土が小さいから移譲とかだと影響大きいし、一先ず漢中を蜀と魏で共同統治にして、魏も鉱山を使えるようすればいいんじゃないかな。それなら朱里も納得してくれると思う。何年か様子を見て、場合によっては移譲する、くらいで」

「そうね。あなたがそう言うなら信用しましょう。『仲間』ですものね?」

 

“くすり”というか、“にやり”と笑ってみせる華琳。一刀は苦笑いだ。

 

「口じゃあ曹操には勝てないなぁ」

「……華琳」

「え?」

「これからは華琳と呼びなさい。いいわね? 私も……一刀と呼ぶわ////」

 

そう言った華琳の頬は、少々赤みを強めているようだった。

 

「ははっ♪ 君に真名を許してもらえるなんて、光栄だよ。――華琳」

 

<雪蓮side>

 

第一回三国会談にて、蜀は諸葛孔明からの『八陣図』の説明に曹操・華琳が無言で思案している、その隣りでは。

 

(魏武曹操すら無言、か。大した戦術だな……)

 

呉の大都督・冥琳もまた、その戦術に驚愕していた。

 

(理を以って万事成さしめる諸葛孔明の智謀、即時即応の戦術においては諸葛孔明すら上回ると謂われる鳳士元の戦術論も大きかろうが……何より『天の知識』は侮り難い。諜報の報告にもあったが、そも北郷一刀がもたらす知識は、治世においてこそ有用となるものが多いと言うしな……)

 

冥琳は、戦後における治水の為の労働力確保という難問に対し、アルバイト制という知識・政策を献策した一刀を高く評価しており、出来ることなら呉へ臨時的にでも助言者、顧問として招聘したいと考えていた。

 

そして何より。

 

呉王・雪蓮が、蜀の諸将軍からあれだけの好意・信頼を集める『天の御遣い』に興味をそそられていたのだ。

 

以上の理由により、雪蓮の「北郷一刀と出掛けてみたーい!」という我儘に乗る形で、冥琳は北郷一刀の人となりを見定める為に、一緒に治水工事の予定現場の視察に行こうと誘ったのだった。

 

 

 

「はぁ~、しかし本当に川だらけだなぁ……」

 

雪蓮、冥琳の誘いを快諾した一刀は、黄河の支流のひとつの河縁に来ていた。

ここに来るまででも、いくつもの小さな水路を越えてきている。

どの河にも、港というほどの規模ではないが、漁師達の漁船や、商人の運搬船が数多く並んでいた。

 

「うむ。だからこそ呉においては、治水を如何に確実に行なうかは非常に重要となるのだ」

「ま、北郷の『あるばいと制』がうまくいけば、なんとか遅れも取り戻せるでしょ」

 

魏との決戦を控えて、徴兵が行なわれていた為、治水工事の予定が大幅に遅れていたらしい。

その労働力を確保すべく、一刀が提案したのがアルバイト制だった。

この献策は思いのほか、呉の柱石たる冥琳に高い評価を受け、実施と相成ったのであった。

 

「…………」

「どうしたの、北郷?」

 

河辺で船の整備をしていたらしい民を見て、何事か考えていたらしい一刀に雪蓮が声を掛ける。

 

「ああ……ようやく大きな戦が終わって。みんなが自分の生活に戻れてるんだなって思ってさ……」

「……そうね」

「……」

 

(この子も、激しい戦乱を“民”と触れ合いながら進んできたのね……なんか親近感を感じちゃうな~♪)

 

(この男の本質は、支配者よりも寧ろ“民”の側にあるのやも知れんな……そして恐らくは、それこそがこの男をして『大徳』劉玄徳と並ぶ、蜀の中心たらしめたのだ)

 

雪蓮、冥琳は一刀の民を見る優しい眼差しを見て、とある確信を深めた。

それは北郷一刀が乱世よりも治世においてこそ、その本領を発揮するであろうということだった。

 

 

「ねえ、あの船で作業してる人と話してみたいんだ。ちょっと行って来ていいかな?」

「ああ、少しくらいなら構わんぞ。行ってくるといい」

 

一刀が河辺へ行ったことを確認して、冥琳は雪蓮へ声を掛ける。

 

「……雪蓮。呉の統治に百年の安定をもたらすには、やはりあの男の力が欲しいな」

「そうよね。それに民に対するあの態度がすっごい私好みなのよね~♪……ねえ、冥琳?」

「なんだ? 何か思いついたという笑いだな……」

「北郷一刀を孫家の婿に迎えちゃうって、どうかしら?」

「ふむ……確かに有効だが。それは蜀の連中が許すまい」

「はぁ、やっぱそうよねえ。あ~あ、彼が呉に降りてくれればよかったのに……」

 

そう零す雪蓮の横顔を見て、冥琳は彼女が一刀に“女”として惹かれている事を悟ったのだった。

 

(そうだな……この身のこともある。なんとか北郷を呉に――雪蓮に……ぐっ!?)

 

冥琳の身体がぐらりと傾く。

 

「冥琳ッ!?」

 

とっさに雪蓮が冥琳の身体を支える。一刀も異常に気付き、戻って来た。

 

「どうしたんだ!?」

「分かんない!……今までこんなことなかったのに……」

 

冥琳は既に意識がなく、顔からは生気が失われ、真っ青だった。

 

「とにかく医者に診せなくちゃ!周瑜は俺がそこの詰め所まで背負っていくから、孫策は医者を呼んで来てくれ!」

「……分かったわ。冥琳を……お願い!」

「任せろ!」

 

雪蓮自身も顔から血の気が引いていたが、すぐさま城へ向けて駆け出した。

一刀も冥琳を背負い、詰め所へ向けて歩き出した。

 

 

……

 

…………

 

 

詰め所の入り口に一刀は一人立っていた。

そこへ老齢の男を連れて雪蓮が戻って来た。しかし、その顔は暗く彩られていた。

 

「公瑾様は中でございますか?」

「はい。今、別の医者が診てくれています。俺では専門的な補助ができないので、よろしくお願いします」

 

老医師は頷くと詰め所へと入っていった。

 

「……北郷。どうしよう……どうしたらいいの……!?」

 

一刀はこれ程取り乱した雪蓮を見るのは初めてだった。断金の絆と謂われた冥琳が不調とはいえ、一刀にも雪蓮のこの反応は異常と感じた。

 

「……冥琳、もう随分前から病気だったんだって……今はまだ症状が進んでないから、外からじゃ分からないけど……段々と生命力がなくなっていくんだって……医者でも治せないんだって!!!」

 

そこまで独白すると、雪蓮ははらはらと涙を流した。

 

「……大丈夫だよ、孫策。大丈夫だ」

「何が大丈夫なのよ!? 医者だって、症状を遅らせることしかできないって!!」

 

激昂した雪蓮を、一刀は優しく抱きしめる。

その気になれば簡単に振りほどけるであろう一刀の抱擁を、そのままにするしかできない彼女がほんの少しでも落ち着けるように。

一刀はその意外なほどに華奢な身を抱きしめたまま、頭をゆっくりと撫でる。

 

「それでも、大丈夫だ。天運はまだ周瑜を見放していない。これは『天の御遣い』としての知識でもある。周瑜は、もう大丈夫だ」

 

「ぐすっ……どういう……ことなの?」

 

「実は……」

 

 

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一刀は歩きながらも、自らの背で苦しげに喘ぐ冥琳の気配に、後悔の念を感じていた。

 

(くそっ!まさか周瑜の“病気”がこんなに早く進行してるなんて……対処が遅かったのか!?)

 

そんな後悔に苛まれつつ道を曲がった際、一刀は一人の男とぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい! 病人を運んでいて、急いでるんだ!」

「病人だと!?」

 

一刀がぶつかったその男は、赤毛に黒い服。精悍で整った顔立ち。まるで武術家のような気配だったが、自身を医者だと名乗り出た。

 

「俺は五斗米道の医者だ。俺に任せてくれないか?」

「五斗米道!? あなたが『華佗』先生!?」

「せ、先生!? 先生なんて呼ばないでくれ//// ……ん? 何故、俺の名を知っているんだ?」

「俺は北郷一刀。――あなたを建業に呼んだ、蜀の代表者です」

 

一刀は現代の知識として、周瑜が病魔に冒されているのではないかと危惧していた。

その為、一度彼女を診察してもらう為に、大陸を放浪する五斗米道の名医『華佗』を三国会談に合わせて建業へ招聘する旨の手紙を各地へ送っていたのだった。

 

「背の女性が件の病人なんです。俺の予想よりかなり病状が進んでしまっているようで……診察をお願いします!」

「分かった!俺に任せてくれ!!」

 

華佗は拳を握り、力強く応えた。

 

 

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「この詰め所に来るとき、一人の男と出会った。彼は――華佗は、後世で『神医』とまで謳われることになる、俺が知る限り大陸随一の医師だ。その彼が大丈夫と言ってくれた。だから……もう周瑜は大丈夫だ」

 

「……ほんと……?本当に冥琳は……」

 

「ああ。治療を続ければ病気は治る。だから……泣き止んで、孫策」

 

一刀は抱きしめた雪蓮の頭と背をゆっくりと撫で続けた。親友を想い泣きじゃくる、優しいこの女性が泣き止むまで。

華佗が詰め所から出てきて、一先ずの処置が終わったことを告げた。

お礼を言う二人に、

 

「俺は医者として当然のことをしたまでだ」

 

と言い残し、老医師と共に去っていった。

 

 

 

医師二人を見送った一刀と雪蓮は、簡易の病室となっている詰め所の一室に駆け込んだ。

 

「冥琳!大丈夫!?」

「ふふ。心配を掛けてしまったな」

 

寝台に横たわる冥琳は、顔色も良く、少なくとも素人目にはこれといって異常は見られなかった。

 

「全くよ! 何か隠し事をしているのは気付いていたけど、こんなことだったなんて!」

「済まない、雪蓮。……北郷。寝たままで申し訳ないが、まずは礼を言わせてくれ」

 

冥琳はそう切り出した。

 

「華佗から話は聞いた。私の病気の診察の為に、方々へ手を尽くして彼を建業へ招聘してくれたそうだな」

「ええっ!そうなの!?」

「あ~、まあね」

 

照れくささもあり、目線を逸らしつつ頭を掻く一刀。

 

「俺の知っている歴史だと、周瑜は若くして病死するんだ。だから、一度しっかりとした医者に診察してもらっておこうと思ってさ。俺が知ってる一番の名医である華佗を探してたんだ。でも、正直こんなに症状が進んでるとは思わなかったから、焦ったよ……ホント間に合ってよかった」

 

「――ありがとう、一刀!」

 

そんな一刀に雪蓮が抱きつく。その眼からはまた涙が溢れた。

 

「私の親友を救ってくれて。泣く事しか出来なかった私を慰めてくれて。本当にありがとう……」

「私から礼を言わせてくれと言ったのに、全く……」

 

涙を流しながらも笑顔を雪蓮と、呆れと微笑みの混じった顔の冥琳。

一方の一刀は、雪蓮の柔らかさに少々舞い上がり気味だった。

 

「あ、あはは……。俺達は『仲間』なんだ。心配するのも、手助けするのも当然だよ。だから気にしないで。俺は周瑜が元気になってくれれば、何も言う事はないよ」

 

そう言った一刀の笑顔を見て、冥琳は僅かに頬を染めていた。

 

「う、うむ。華佗は治療が終わるまでの間、建業に留まってくれるそうだ。心配は要らん////」

「そっか。よかった」

「あらぁ~、ちょっと顔赤いんじゃないの、冥琳?」

「そうかな? まあ孫策が言うならそうなのかも……?」

「ええい、うるさい!……ごほん」

 

相変わらず女性の機微には鈍感な一刀であったが、雪蓮の突っ込みに流石の冥琳も少々慌て気味であった。

しかし冥琳が咳払いをし、雪蓮へ目配せを送ると、彼女は冥琳の意図に気付き、一刀から離れて佇まいを直した。

 

「北郷一刀殿。孫呉の柱石、周公瑾の命を救って頂いたこと。この孫策、呉王として心より御礼申し上げる」

「この謝儀は何れ、大都督と我が名に懸けて必ずや。今は只、御礼を申すのみにてお許し下さい」

 

二人の畏まった礼に少々慌てた一刀だが、すぐさま持ち直して返礼した。

 

「今は治療のみを心がけて下さい。友人が息災であるのなら、俺はそれで満足です」

「……くすっ。“俺”って言っちゃってるわよ?」

「う。……いや~、畏まった言葉って難しいよね……帝王学講座でも言われたけど」

「あはは!曹操にはかなり絞られてたもんね♪」

 

三人は暫く笑い合っていた。が、今度は雪蓮が冥琳に目配せを送り、冥琳も頷いた。

 

「?? 今度はどうしたの?」

 

「ねえ、北郷。あなたは冥琳の命の恩人。何よりその人柄に惹かれるから。だから――私達の真名を預けるわ」

「私も異論ない。謝儀の件は別として、是非我等の真名を受け取って欲しい」

 

真っ直ぐな二人の言葉に一刀は素直に頷いた。

 

「……分かった。謹んで預かるよ」

 

「姓は孫。名は策。字は伯符。真名は雪蓮よ。私も“一刀”って呼ばせてね♪」

「うん。……というかさっき呼ばれたような? まあこっちは真名じゃないからいいんだけど」

 

「次は私だな。――姓は周。名は瑜。字は公瑾。真名は、冥琳だ。これからもよろしく頼む」

「こちらこそ。冥琳」

 

二人は固く握手を交わした。

のだが、すぐさま雪蓮が一刀の反対側の腕を取って、自分の腕を絡めた。

 

「な、なに? どうしたの雪蓮」

「んふ♪ なーんでもない。――か・ず・と♪」

「……なんだ、雪蓮。お前がそれ程まで男に気安いのは、初めて見た気がするな」

 

「あら、冥琳ったら嫉妬? だって~、一刀ったらさっき私が泣いてた時、すっごい優しく慰めてくれたんだも~ん♪」

「ちょっ、本人の目の前で言うのは止めてぇ~!////」

 

雪蓮の惚気のような一言は、一刀には羞恥プレイだったようで、顔を真っ赤にしていた。

 

「くくっ。なんだ、意外と初心だな北郷。はははは!」

「冥琳も笑ってる場合じゃないんじゃない? これだけの恩に対する謝儀ともなると……もう操を捧げるしか!?」

「……雪蓮。私の操は、既にお前に奪われて久しいぞ……」

「そ、そうなの!?」

 

雪蓮と冥琳の暴露話に一刀が驚くが、構わず雪蓮は話を続けた。

 

「そっかー。一刀の周りは若くて可愛い娘ばっかりだもんねぇ。冥琳みたいに歳食ってるのは……」

「お前も私と同い年だろう!?」

 

「何言ってんの!二人みたいな美人と仲良くできるだけでも男冥利に尽きるってもんだよ!!」

 

「「…………」」

 

思わず力説した一刀に、ぽかーんとしている二人。

 

「……引かれた?」

「あ、ああ。そういうわけじゃなくて……あんまり真っ直ぐな口説き文句だったから。くすくす……」

「蜀でもその調子な訳か。大した英雄っぷりだな、北郷。しかし……お前が良いならば、謝儀はそれでも構わないぞ?」

「マジでっ!?」

「ちょっとー!私を無視していい雰囲気になってんじゃないわよー!」

「……本当にお前には困ったものだな。しぇ……」

 

冥琳の言葉が終わる前に、雪蓮は盟友に抱きついていた。

 

「でも……ほんと……よかった……」

 

抱き合う二人を一刀は穏やかな笑顔でもって見つめていた。

 

……

 

…………

 

冥琳の容態が落ち着いた為、一刀は三国会談中の宿舎へと帰っていった。

二人も、日が暮れぬうちに、と城へ帰還した。

 

 

その夜、雪蓮は冥琳の部屋でいつものように酒を嗜んでいた。

 

「はぁ……」

 

杯を揺らし、蝋燭の灯りをゆらゆらと反射する酒の水面を眺めつつ、雪蓮が溜息を漏らす。

 

「どうした雪蓮。溜息とは珍しい」

「ふん。どうせ分かってるんでしょ?」

 

拗ねたような物言いをした雪蓮が、杯を一気に呷る。

冥琳は顎を撫でつつ、空いた雪蓮の杯に酒を注いでやる。

 

「北郷一刀……か。本気で惚れたな?……しかし敵は数多く、手強いぞ」

 

「敵が多勢だからとか、手強いからって手を引くような者は、孫家の女じゃないわ!」

 

「ふふ。それでこそ私の雪蓮だ。となれば奴を呉に引き入れる策を講じねばな」

 

 

月明かりの下、断金の二人は笑い合った。

 

「「はぁ……」」

 

桃香と小蓮に翻弄される一刀を見て、図らずも同時に溜息を吐く女王二人。

 

あれから約半年が経つが、未だ一刀は蜀以外の人間と深い仲にはなっていない(精々が真名を許された程度だ。と言っても、それが三国の重鎮たる武将・軍師全員から、というあたりは、普通に考えれば非常識なレベルではあるのだが)。

 

主な原因を挙げるなら、やはり距離と時間であろう。

 

今回のような異常事態でもなければ、こうして会うことができるのは、毎月の三国会談のときだけなのだ。

三国会談が終わってしまえば、一刀は当然蜀都である成都へと帰ってしまう。

 

また、いかに同盟を組んだとはいえ一刀自身にも他国の重鎮とそういう仲になることに忌避があるのかもしれない。

 

魏は、華琳が自身の想いを自覚することを避けている為、その知識が欲しいと表向き言葉にはするが、まだ策謀によって一刀を取り込もうとはしていない。

 

呉は、冥琳や穏を初めとした軍師達が様々な策を巡らしてはいるが、雪蓮と小蓮(とこっそり蓮華)が互いに引かなかったり、思春の反対もあって、積極的な策謀には出られずにいる。

 

しかも蜀には、神算鬼謀を誇る『伏龍』と『鳳雛』、元董卓軍の謀士、飛将軍の軍師……と優秀な軍師層があり、他勢力が単独で一刀と会合を持ったりしないよう、予防線を張り巡らせているのだ。

 

そもそも、一刀自身が蜀の代表であるからして、魏や呉が彼を自国に引き入れるということは、蜀がその国に取り込まれることにもなりかねず、ともすれば三国のバランスが崩れてしまう事も懸念される。

 

 

以上の状況から、各国の北郷一刀を巡る戦い?は膠着状態であった。

 

 

蜀呉を倍する国土と生産力・人口を誇り、軍馬の大量調達が可能で強大な騎馬軍団を有する魏。

 

稲作を基本とした生産力、南方貿易による経済力、大銅山という資本を有し、優秀な水軍を擁する呉。

 

人口や国土・生産力は最小ながら、豊富な鉱物資源と良質な塩・鉄・絹など特産品専売による高い経済力を持つ蜀。

 

 

三国は同盟によって互いの弱点をカバーし合い、大きな発展の兆しを見せていた。

外敵に対しては、この第二次五胡戦争に大勝することよって、その強大な軍事力をも誇示した。

 

大陸には平和が訪れた。誰もがそれを実感していた。

 

しかし。

 

 

「「はぁ……」」

 

 

魏呉国主二人の再度の溜息。

 

しかし、正にここから三国同盟の危機は始まっていた。

 

「みんな、ちょっと聞いてくれる?」

 

先日の大宴会も終わり、皆が国許へ帰還する為、別れの挨拶を兼ね一同に会していた場にて、突然詠が呼びかけた。

その後ろでは月が顔を真っ赤にして俯いている。

 

「五胡の奴らが攻め込んできてたんで、今まで黙ってたらしいんだけど……その……」

 

俯き気味になり、一旦言い淀む詠。不思議に思う一同を代表して一刀が尋ねる。

 

「どうしたんだ、詠?」

 

「……月……きたんだって……////」

 

「え? 何?」

 

「……月に……出来たんだって……////」

 

「??? 何が?」

 

ぶちっ!

 

「だーかーらぁ! 月に! あんたの! 子供が! 出来たんだって!!」

 

 

「「「「「――!!?」」」」」

 

 

「ま、マジで!?」

 

「へぅ~////」(こくり)

 

一刀は月を抱きしめ、大騒ぎ。

 

「そっか!そっか~!! ありがとう、月!!!」

 

「そ、そんな。わたしこそ……////」

 

抱き合う二人は、いつしか涙を流していた。

 

その様子を見ていた周囲の娘達は、口々に祝福を告げ、喜びを表していた。

 

 

そして。

 

 

新たな命を喜ぶ、そんな二人の涙こそが。

 

 

一刀を取り巻く彼女達の心の奥にあったオンナのサガを、より一層深く強く突き動かし始めたのである。

 

 

 

続。

 

【あとがき】

第2話を投稿致しました。四方多撲でございます。

 

前話を読まれた方で、「麗羽が頭良過ぎ!」と思われた方は多いかと思われますが、彼女の礼儀作法は一流っぽいし、その本質については本文に書いた通りの設定ですので、大目に見て下さいw

おバカにバカやらせるというのが、意外に難しいのですよ……

 

 

それはさておきまして。

 

今回は私が執筆するにあたっての一応のレギュレーションを書いておこうと思います。

 

【執筆レギュレーション】

 ・小説ではなくゲームの延長ということで、説明文はくどくど書かず、ゲームに近い会話の応酬を基本に

 ・オリキャラは(モブを除き)出さない(例外は2キャラのみ、後々出てきます。子供達は含みません)

 ・数字は漢数字で表記

 ・原作中「さま」とひらがな表記される尊称も、全て「様」と漢字で統一

 ・二人称「あなた」は基本的にひらがな。

  敬語の途中や相手を敬っている場合のみ「貴方」「貴女」を使用(後ろに“様”が付く感じ)

 ・複数を表す接尾語「達(たち)」は基本的には漢字。雰囲気に合わない場合はひらがなで。

 ・「ひとつ」はひらがなで、「二つ」以降は漢数字を使用

 ・「みんな」はひらがな。「みな」は漢字で「皆」を使用

 ・一般的でない漢字は後ろに括弧書きで振り仮名を書く

 

となっております。

 

……いきなり『八陣図』の説明やら、彼方此方で文章がくどくどしちゃってますねぇ(- -;

複数キャラの会話において、誰それが言ったと書かず、連続で「(会話)」を続けている箇所がちょこちょことありますが、小説(ライトノベル)よりも、更にゲーム寄りな書き方にしたかったのです。

さくっと読める物語が理想かな、と。

会話内容だけでヒロイン達の特徴が出るよう、精進する所存です。

 

 

また、前回と今回の内容についての脚注をば。

 

・前回の一刀君の皇帝正装姿ですが。前回のコメントにて突っ込まれましたが、帝暦・黄平12年ということは……一刀くんは三十路前後(アラサーとでも言えばいいのでしょうか)ということになります。それなのに学生服はないだろう、ということで……制服を『肩掛け(ケープないし短いマント)』に縫製し直したということにしております。

 

・前回は話の上でのみ、今回その詳細が出ました『八陣図』なる陣形は(諸説ありますが)、本作中ではオリジナルの陣形戦術として設定しております。所詮は素人丸出しの理論ですので、此方も大目に見てやってください。

ぶっちゃけ自己満足レベルなので、読み飛ばして下さってもストーリー把握上問題ないです、多分。

 

 

愚著が皆様のお気に召せば冥加に余る至福です。宜しければまた次回で。

 

四方多撲 拝

 


 
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