No.100031

真・恋姫†無双~三国統一☆ハーレム√演義~ #03 軋む同盟と記念祭典と

四方多撲さん

第3話を投稿です。
何やら修羅場をご希望の方が多いようですw
修羅場とは少々異なりますが……こんな感じでどうでしょう?
蜀END分岐アフター、今回は蜀オールキャストでお送り致しま~す!

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2009-10-10 04:33:15 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:65386   閲覧ユーザー数:46688

 

 

外国の侵攻を撃退し、平和を取り戻した三国。

 

そんな折、月の懐妊が判明し、誰もが喜び祝辞を贈る三国の仲間達。

 

しかし、それを契機に。

 

北郷一刀を中心とした、思慕と危惧、平和への義務感の入り混じる大きな渦が生み出されていく……

 

 

「はわわ~……また、かぁ」

「あわわ……こっちもだよぅ」

 

と、執務室に溜息が二つ。

 

「どうしたのだ、朱里に雛里まで。……その書簡は?」

 

尋ねるのは愛紗。対して朱里と雛里はうんざりしたように返す。

 

「……呉から。ご主人様に視察に来て欲しい、と……」

「魏からも、耕運用機械の開発について共同開発のお誘いが……」

「なにぃ!またか!? 魏も呉も、確かこの前も同じような書簡が届いていただろう!」

「「……そうなんですぅ……」」

 

軍師二人のぐったり気味の返答に激昂する愛紗。

 

ともあれ。

ご主人様が取られちゃいそうなんで嫌です、などとは当然言える訳もなく。

朱里と雛里は毎回、お断りを考えなくてはならない。

何せ、国と国のやり取り、即ち外交である。

下手な一言が、国家間に大きな溝を作ってしまうことだって間々あるのだ。

 

とはいえ……多いときにはひと月に片手を超える程、魏からも呉からも一刀を遣せと様々な提案が送られて来る。

いい加減、面倒になってきたというのが朱里と雛里の偽らざる気持ちだった。

 

なお、蜀のメンバー内では…

 

「誰かが一緒に行くならいいんじゃない?」派が、桃香・鈴々・星・紫苑・桔梗・蒲公英・猪々子。

「出来るならお断りしたいです……」派が、朱里・雛里・月・白蓮・斗詩。

「断固反対!」派が、愛紗・翠・恋。

「どうでもいい」派が、詠・音々音・焔耶・麗羽。

 

以上の内訳である。なお、この分類は飽く迄“本人談”である。

「断固反対!」派が三人しかいないあたりは、蜀陣営の懐の深さか、はたまた北郷一刀という男の業の深さか。

(なお、恋は一刀が自分と違う土地へ行ってしまい離れるのを嫌がっているだけで、独占欲と言えば独占欲ではあるが、正確には「自分が一緒に行くならいい」という意見だ)

 

さて肝心の一刀はというと、政務に追われていてそれどころではなかった。

(朱里と雛里は、これを視察等のお断りの主たる理由として同盟国に返答している)

 

何しろ、毎月三国会談が行なわれるのだ。開催期間は第二回以降三日間となったとは言え、参加者は、移動を含めれば一ヶ月の三割は別の国にいることになる。実際には国主と、精々が供として二、三人が参加することが大半ではある(ただ、天下一品武道会などの為、武将は参加することが多い傾向にある)。

逆に主催国となれば、その歓迎の準備や撤収作業を総出で行うことになる。

 

結局、主催側や参加することとなった者は、一ヶ月分の政務・ノルマを半月強で終えなくてはならないのだ。

 

魏は広大な領地を持つが、国主である曹操がそもそも辣腕であるし、周囲にも優秀な官僚らが控えている。何より華琳の人材登用の妙もあり、人材にはこと欠かない。

 

呉は、極端に言えば土豪有力者を孫家が纏めている形である為、細かい政務は各地を治める豪族に一任出来る分、余裕がある。

 

結局、蜀の政務メンバー(主に一刀、桃香、愛紗に軍師達と政務経験者)が一番大変なのだ。

特に一刀は読み書きに時間が掛かる為、尚更である。

上記で「どうでもいい」派の詠と音々音も、コレを鑑みれば「断固反対!」派になる。

(因みに政務経験者とは、紫苑・桔梗・白蓮・斗詩のことである。月も州牧としての経験を持つが、これまでの経緯もあり、政治に口出しすることはなく、飽く迄メイドとして皆の補助に努めていた)

 

それでも最近になって、華琳・雪蓮の帝王学講座のおかげか、一刀と桃香の作業速度は格段に進歩した。

それを見越しての訪国勧誘であることは分かっているが……

 

(それでもご主人様が手一杯な程にお忙しいのは分かっているだろうに……!)

 

そう。愛紗とて気付いている。この訪国勧誘は詰まるところ。

 

(これでは、熱烈な恋文と大差ないではないか!)

 

……なのだ。

だから、愛紗は特に余計に反発してしまう。

 

魏や呉の彼女ら自身をどうこう思うわけではない。真名を交換するほどの友人達なのだ。

出来るなら、後顧の憂いなく、三国会談で笑顔でもって逢いたい。

 

(だというのに……!)

 

「ふぇえん、愛紗さんが怖いよぅ、朱里ちゃぁん……!」

「はわわわわ……愛紗さんが『慈恵雷者(じぇらいしゃ)』になっちゃってますぅ~!」

「ええい!『慈恵雷者(じぇらいしゃ)』と呼ぶなと言っておろうが!」

「はわ~!ごめんなさいですぅ~!」

 

暴走気味な愛紗に、朱里の背に隠れて怖がる雛里と、帽子の上から頭を抱えて謝る朱里。

 

『慈恵雷者(じぇらいしゃ)』とは、嫉妬に駆られて暴走状態になった愛紗を指して一刀が称したものだ。

ジェラシー愛紗の略であるらしい。英語が交じっていた為、ヘンテコな当て字となっている。

元々は一刀しか呼んでいなかったのだが、いつの間にか蜀の主要メンバー全員に広まってしまった。

愛紗からすれば、訳の分からない蔑称としか思えず、一々否定しているのだが。

 

閑話休題。

 

次の三国会談の開催は此処、蜀都・成都。

次回は三国が同盟して丁度一年。よって同盟一周年記念祭典と銘打った大規模なお祭りを開催する為。そして、訪れる各国首脳陣を歓迎する為、着々と準備が進められている。

暫くすれば、遠き地の友人達と逢って語らうことが出来るというのに。

 

「ああ、愛紗の心は晴れないのであった」

「……何の真似だ?星……」

 

いつの間にやら執務室に入り込み、詩を吟じるが如く言ったのは、趙雲こと星であった。

 

「なにやらご機嫌斜めだと思ってな。今からそんな調子では身体を壊すぞ?」

「余計なお世話だ。貴様とて、私が何に悩んでいるかは分かっているだろう!!」

 

愛紗は思わず語気を荒らげてしまったが、相手は『一身これ胆なり』と謂われた趙子龍である。

風さえ呼び起こしそうな愛紗の一喝も、どこ吹く風よとニヤリと笑う。

 

「ふふん。それは分かっているさ。――この蜀の将、全てがな」

「くっ……」

 

視線を落とす愛紗。それを密かに、気付かれぬよう悩ましげに窺う星。

まるで、桃香と一刀との間で揺さぶられていた頃の彼女を見るようで。

星は一言だけ、助言めいた言葉を口にした。

 

「……あの方の傍に侍る限り。どこまで往ってもあの時と同じことなのだ。愛紗よ」

「なんだと?」

「――覚悟を決めろ。私が言いたいのはそれだけだ。……ではな」

 

星は、訪れたときと同様に風のように去っていった。

 

 

「……何の覚悟だと言うのだ……」

 

 

だがそれでも。愛紗の心は迷ったまま。

 

数えて十一回目となる三国会談(第二次五胡戦争の為、一度中止になっている)。

 

そして、第一次五胡戦争――三国同盟締結から丸一年。

 

今回の三国会談は三国同盟締結一周年を記念し、大規模に執り行われることとなった。

その開催期間も、今回のみ初回と同じ七日間。

 

蜀都である成都には、この大祭に参加しようと、貴族から商人、それどころか隣国の一般人すらが来国しており、大勢という言葉では表しきれない程の人間が集まり始めていた。

 

これも三国間の治安の良さ、庶人階層にも旅に出るだけの余裕が生まれ始めている証拠であった。

 

とは言え、それだけの人間を収容し、祭りを開催する側は……その準備の為、誰しもが忙殺という言葉に相応しい仕事量を抱えており、上を下への大騒ぎとも言えるような、まさしくてんてこ舞いであった。

 

 

「こらー!馬休、木材はそっちじゃないぞ!……って馬鉄!折角運んで来た荷物を何処へ持っていく気だー!!」

「てぇーい!鈴々の前に立ち塞がると怪我するのだー!」

「……これ、どこ?」

「はわわわ!えっと~、正面門までお願いしましゅ!」

「全く!恋殿を人足扱いするなど……」

「偉そうなこと言ってんじゃないわよ! 今は人手がとにかく足りないんだから、我儘抜かすな!」

「雛里。今、食材が届いたそうなのだが。もう食糧庫が満杯らしい。どうするのだ?」

「あわわ……城の裏の森の入り口に臨時倉庫を建設してますので、そちらへ運んでくらしゃい!」

「うむ、分かった」

「軍師殿。魏より送られて来た不思議な絡繰は何処に置いておけば宜しいかな?」

「朱里。私の部下から報告があったぞ。天下一品武道会の予選の為の工作員の手配が終わったそうだ」

「雛里~。競馬場の整備の為の庭師を呼びたいんだけど、どうしたらいいの?」

「「ひゃい!?」」

「あはは……もう朱里も雛里も限界っぽいね(汗」

「そのようじゃのう。ここ最近の状況では致し方ない気もするがな」

「取り敢えずは、わたくしが補助に回るとしましょう。何々……配置図によると……ああ、その絡繰は城の一室に入れておくそうですわ」

「紫苑ならば問題あるまい。――委細承知」

「「あ、ありがとうございますぅ~、紫苑さん……」」

 

 

延々とこんな調子で準備期間は慌しく過ぎていく。

 

 

 

そんなある日の朝。

愛紗が一刀を起こそうと、彼の自室へと入って来た。

 

「ご主人様、おはようございます。朝です…よ?」

 

ところが、既に寝台は蛻(もぬけ)の殻。

掛け布団は畳まれているし、何より衣文掛けに天界の衣服――学生服――がない。

 

(今日のご予定に、早朝からのものはなかった筈。どちらへ行かれたのか……ん?)

 

部屋を見回し、まるで秘書宜しく主の予定を頭の中で確認するが、早朝から彼が起き出す理由は思い付かない。精々が生理現象くらいのものだ。

 

しかし、そんな彼女の目に留まったのは、机の上に無造作に置かれている書類らしき紙の束。

よくよく見ると、それは手紙だった。

この時代は、ようやく紙が普及し始めた頃である。手紙に木札でなく紙を使うということ。それが政務室ではなく、北郷一刀の私室にあること。そして……紙束の隣に置かれた、蓋の開いた箱。

 

それらの情報が、愛紗にこの紙束……手紙が、相応の地位の人物から彼に宛てられた私信であると直感させた。

 

(もう、紙はきちんと保管しておかねばならないというのに……)

 

つまり、蓋の開いた箱こそが、一刀に宛てられた私信・手紙を保管するものであろうと考えたのだ。

届けられる時には、紙製の手紙は木製の箱に詰められて送られて来るので、これらは一旦箱から出して、一刀専用の保管箱に入れられていたのだろう。

 

愛紗は、机の上に放り出された紙束を箱に仕舞おうとした。

その行動自体は、世話女房的性質の強い彼女らしい行動だったが。

 

一番上に置かれた紙に書かれている言葉が、ちらと目に映ってしまったのだ。

 

 

『愛しい一刀へ♪』

 

 

(――こ、これはまさか……恋文!?)

 

見てはいけない――咄嗟にそう思い、首を横へ向けようとするが。

そんな意識に反して、愛紗の首……目線は手紙から動かなかった。

 

(し、私信を勝手に読むなど、あってはならない!……けれど……)

 

愛紗の頭上でミニ桃香とミニ鈴々が口論を始めていた。

 

『中身がすっごい気になるのだ!読んじゃえ、読んじゃえ!』

『ええー? でもご主人様宛の私信だし。勝手に読んだら悪いよぅ、鈴々ちゃん』

『お兄ちゃんは女には滅法だらしがないのだ! 誰から迫られてるのか、知っておくのは重要なのだ!』

『そ、それは確かにそうだけど~……』

『これ以上、お兄ちゃんの側に女が増えるのはヤなのだ! 傾向と対策は重要なのだ!』 

『でもでも、ご主人様の節操なしは今に始まったことじゃないし……あれ?鈴々ちゃんって“ご主人様独占派”だったっけ……?』

『“敵を知り己れを知らば、百戦して危うからず”なのだ! お兄ちゃんを狙うのが誰か分かれば、対策だって立てられるのだ! 只でさえ、最近は魏からも呉からも誘致ばっかり来ているから、危険が一杯なのだ!』

『ほえ~!鈴々ちゃん、頭いいね~!』

『この鈴々は愛紗の中の鈴々だから、実際の鈴々とは関係ないのだ。知識も愛紗のものなのだ』

『ああ、そうなんだ。色々納得~。だから“ご主人様独占派”なんだねぇ』

『とにかく! そういう訳で、この手紙を読む必要があるのだ!』

『それじゃあしょうがないね。どれどれ?』

 

あっさり説得されたミニ桃香であった。

 

(う、うむ、そうだ。他国の官僚に対して、ご主人様に節度ある待遇をして戴く為、だ……うん)

 

自己弁護完了。

綺麗に揃えて机に置いた手紙の束から、一枚目を手に取る――

 

バタン!

 

「ひょえっ!?」

 

その瞬間、部屋の扉を乱暴に開けたのは……鈴々だった。

思わず情けない声を上げた愛紗だったが、鈴々は気付かなかったようだ。

 

「おはよーなのだ!お兄ちゃーーーん!!」

 

ぴょ~ん……ドスーン!

扉を開けてから、間髪入れずに寝台へフライングボディアタック。

 

「おいおい、ご主人様が別の意味で寝ちまうぞ……あれ?愛紗もいたのか」

「お、おおおおう。おは、おは、よう、翠。鈴々」

「?? どうしたんだ、愛紗。何か様子おかしくないか?」

「そそそ、そんなことはないぞ!?」

「って、あれ~?お兄ちゃん、いないのだ。もう起きちゃってたのかー。ちぇっ……ん?」

 

翠に対して、後ろ手に手紙を隠していた愛紗だったが。

それでは、寝台まで移動していた鈴々からは丸見えだった。

 

「愛紗ー。その紙っぺらは何なのだ?」

「はぅっ!?」

「紙? ああ、机に置いてあるこれじゃないのか?」

「ああっ!?」

「どれどれ。『これからどんどん暑くなるね。川遊びが楽しい季節だよ♪ あ、そうだ! 成都の近くにも川があったよね? 一刀も一緒に川で泳ぎましょ! 一刀が望むなら……脱いで泳いでもいいよ? えへ♪』……あぁ!? な、なんだよ、これ!////」

 

少々過激なことが書いてあったが、純な翠には刺激的過ぎたようで。すっかり顔が真っ赤になっていた。

愛紗も、こうなっては観念するしかない。渋々と答える

 

「どうも、ご主人様宛の私信で……恋文らしい」

「ええっ!? だ、誰だよ、こんなイヤらしい手紙送ってくるのは!」

 

翠が手にしたのは二枚目であったらしく、署名はなかった。

 

「恐らく、私の持っている此方が一枚目だろう……うむ。小蓮殿からだな」

「あー、如何にも言いそうなのだ!あははは!」

「笑い事か!……まさかとは思うが、この紙束……全て恋文ではなかろうな……」

「うえぇ!? あんのエロエロ魔神め!」

 

思わず叫んだ翠の声を聞きつけたか、蒲公英がやって来た。

 

「お姉様? ご主人様、まだ起きないの?……三人して何やってるの?」

 

斯く斯く然然。翠が従妹へ説明した。

 

「やぁん、面白そう♪ 早く読もうよぉ!」

 

流石は蜀の小悪魔。一切躊躇無しであった。

 

「でも、こんなの独り占めは良くないよね。みんなを呼んでくるね~~♪」

「「ええ!?」」

 

愛紗や翠から制止が掛かる前に、持ち前の俊敏さで蒲公英は一刀の私室から飛び出して行った。

 

「……愛紗ぁ~、どうすんだよ……」

「…………」

「勝手に他人の手紙を読むなんて、愛紗は悪い子なのだ!」

 

ぐさっ!!

 

「い、いや、これはだな……」

「でも、面白そうだから、鈴々も一緒に読むのだ!にしし~♪」

「…………」

「……覚悟を決めようぜ、愛紗……」

 

その頃。

北郷一刀は、紫苑の愛娘である璃々と共に、とある一室を訪れていた。

扉には木札が貼り付けられており、『南蛮王、及びご配下様』と書かれている。

要するに、美以と南蛮兵ミケ・トラ・シャムに宛がわれた城内の部屋である。

 

「おーい、美以! ミケ、トラ、シャムー?」

 

扉の前から呼びかけるが一向に出て来ない。それどころか何かが動く気配すらしない。

 

「よっぽど熟睡してるのかな? 仕方ない、部屋に入るか」

「みーいーちゃーん! お部屋、お邪魔するよー!」

 

二人は扉を開けて、部屋へと入った。

見れば、寝台に四人が丸まって寝ている。

 

「もう夏だっつーのに、こんなにくっ付きあって、暑苦しくないのかな……」

「美以ちゃんは、蜀は涼しいって言ってたよ?」

「そっか。南蛮は蒸し暑かったからなぁ……とにかく起こそう」

 

一刀は美以の身体を揺すり、声を掛ける。

 

「起きろー、美以。約束の時間だぞー?」

「起きてー!ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃん!」

 

「ふみゅうぅ~……兄(にぃ)、何の用だじょ?」

「「「……眠いにゃ~……」」」

 

「おいおい。今日は早朝の内にカブトムシを捕りに行くんだろう?」

 

一刀が普段よりも早く起きた理由がこれだった。

現在は三国同盟一周年記念祭典の準備の為、誰もが多忙を極めている。

そうなると、どうしても璃々の相手は(政務や準備に役立たない)美以たちに限られてしまう。

しかし、一刀としては璃々をほったらかしにはしたくない。この年頃の子は、寂しさを強く感じる頃なのだから。

 

という訳で、早朝を使って璃々と遊ぼう、という計画なのだ。因みに、捕獲場所は、ここ数日でアタリをつけてある。……休憩がてら、裏山で良さげな樹木を見つけてあるのだ。

 

幸い、璃々は大喜びで提案に乗ってくれた。……女の子相手だったので、多少不安があったのだが。

すると、その話を彼女から聞いた美以や、南蛮兵のミケ、トラ、シャムも付いて来ることになったのだ。

 

「おおっ!そうだったじょ!よーし、出発にゃ!ゆくぞ、ものどもーー!」

「「「おー!」」」

 

一旦目が覚めれば、姦しい四人組である。まるで騒ぎながらじゃれつく子猫のようだ。

 

(あ~……癒される~~……)

 

と、和んでいたら、璃々が痺れを切らしてしまったようだ。

 

「もう、ご主人様! 先に行っちゃうよ~~!」

「わわ、待ってくれよ、璃々ちゃーん!」

 

駆け出した璃々と南蛮四人組を追いかけて、一刀も部屋を飛び出した。

 

……

 

…………

 

成都城の裏山の森。

早朝の涼しい空気に、濃い森林の香り。時折聞こえる鳥や虫の鳴き声。

一刀はちょっとした森林浴気分であった。が。

 

「「「にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー!」」」

 

森に入ったことで野性に戻ったのか、南蛮兵三人(匹?)は大騒ぎ。

 

「カブトムシはどこにゃーーー!」

 

美以は木々の間を走り回る。

 

「こらー!落ち着け、お前等! カブトムシはこの時間、食事中なんだよ」

 

実際には、そろそろ食事時間が終わろうかという時間帯だが。

 

「カブトムシさんって、何食べるの?」

「木の樹液だよ。木から出てる茶色い蜜みたいなのを見たことない?」

「うん、あるよ! あれっておいしいの?」

「カブトムシにはね。人間には苦くて食べられないよ」

「なーんだ、残念」

 

璃々とのこんな何でもない会話が嬉しくて堪らない一刀だった。

 

(ほんと、父親気分だな~……)

 

「兄、兄! カブトムシの居所を教えて欲しいじょ!」

「もうすぐそこだよ。ほら、あのでっかい木があるだろう? 樹液に色んな虫が集まってる筈だ」

「分かったじょ! ゆくぞ、ものども~~~!」

「「「にゃーーー!」」」

「あー!璃々も行くー!」

「森なんだから、走ったら転ぶぞ! 気をつけてよ、璃々ちゃん!」

「はーい!」

 

璃々を含め、五人の子供を引率している気分である。

 

「わー!一杯いるよ、ご主人様!……でも、カブトムシ以外にも一杯いるね?」

「そうだね。樹液をご飯にする虫って結構いるから。んー、ちょっと璃々ちゃんには高いか。じゃ、肩車しよっか」

「わーい!ご主人様の肩車ー♪」

 

璃々を肩に乗せて一刀が立ち上がる。

 

「捕るときは、首や横腹を持っちゃ駄目だよ。角を上手く摘んで、力を入れないようにね」

「分かった!……捕れた!捕れたよ、ご主人様!」

「お、初めてにしては上手いなぁ。はいはい、じゃあ取り敢えず、この箱に入れてね~」

「はーい!」

 

持ってきた、木箱に入れる。蓋は網になっているから、上からなら覗くことが出来る。

 

「わー、動いてるよ。……足、ギザギザで痛そう……」

「そうだね。指とか腕に止まらせると、引き剥がす時、結構痛いんだよねぇ」

 

子供時代の思い出を語る一刀だったのだが。

肩車から降りた璃々と一緒に木箱を除いていると、何やら背後から視線を感じる……

 

「ど、どうした?美以」

「……兄。みぃも肩車して欲しいじょ!」

「ああ、そっか。美以の背丈じゃ、ちょっと届かないよな。うっし、来ーい!」

「……うにゃぁぁぁぁん♪」

 

という訳で、美以を肩車。

 

「おー!高い、高いじょー!にゃはははは!」

「おいおい、カブトムシはいいのかよ」

「虫より、肩車が気に入ったじょ! 兄、兄、あっちまで歩くのにゃ!」

「はいはい」

 

美以の短パンはファーがついていて、ちょっと首周りが暑いけれど。

取り敢えず言われた通りに歩いてみる。すると……

 

ぷに。ぷに。ぷに。ぷに。

 

(おおっ!?頭に、乗せられた両手の肉球の感触が……!)

 

一歩踏み出すごとに、バランスを取ろうと美以が頭に乗せた手に力を入れる。

その度に、肉球が一刀の頭へ押し付けられるのだ。

 

ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……

ぷに。ぷに。ぷに。ぷに……

 

(こ、これはある種のパラダイス!?)

 

一刀がトリップしていると、トラが走ってきた。

 

「だいおー!だいおー! ほら、シロイモムシにゃ! 一杯にゃ!」

「おぉ!よくやったじょ、トラ! 兄、降ろしてくれにゃ!」

「(ちぇっ)はいよ~。で、シロイモムシって何だ?」

「にぃにぃ、これにょ!」

 

と、トラが見せてくれたのは、両手一杯の白い芋虫。一見すると、カブトムシの幼虫にも見えたが、流石に一刀も細かい判別は出来なかった。

 

「確かに芋虫だけど……そんなに沢山、どうするんだ?」

「「食うにゃ!」」

「え゛!?」

 

言うが早いか。美以はその大きな手で器用に芋虫を一匹摘み上げ。

 

「(パクリ)」

「ぎょえーーーー!?」

「「??」」

 

芋虫の固い“口”の部分を摘み、その白い胴体をまるでミニバナナかフライドポテトのように噛み切った。

そして手に残った、芋虫の“口”をぽいと投げ捨てる。

 

「んぐんぐんぐ。んまーいじょ!」

「だいおー、トラは手が塞がってるにゃ。食べさせてくれにゃ~」

「よしよし。……ほれ」

「(パクッ)」

「ひょえーーーー!?」

 

平均的な現代日本人であるところの一刀は、芋虫を生で食うというカルチャーショックに、呆然。

芋虫が食いちぎられる度に悲鳴を上げる。

 

「兄はどうしたにょ?」

「にぃにぃ、ヘンだにょ」

 

そこへとことこと歩いてきたのは璃々。

 

「ご主人様、さっきから大きな声出して、どうしたの?」

「え?あ、う……なんというか……」

「?」

 

なんと説明したものやらと、一刀が悩んでいると。

 

「りりも食うかにゃ?甘くて美味いじょ?」

「ちょっ!?」

「へぇ~、甘いんだぁ。……いただきまーす(ぱくり)」

「ひょおーーーー!?」

 

なんと璃々は、大した躊躇もせず、芋虫を頬張る。

 

「むぐむぐ……確かに甘いけど。璃々はお菓子やお団子の方が好き~」

「むぅ。確かにショクのオカシやダンゴはすっごい美味いじょ!」

「だよねー♪」

 

(流石は『曲張比肩』黄漢升の娘……パネェぜ……。て言うか俺、今日は朝飯食えないかも……)

 

一人戦慄する一刀であった。

 

 

蒲公英が一刀の部屋から飛び出してから待つこと暫し。

一刀の私室には、蜀の主たる武将・軍師が勢揃いしていた。……美以と南蛮兵を除いて。

 

「こんな面白げなことに声を掛けてくれるとは。蒲公英に感謝せねばな」

超乗り気の星。

 

「い、いいのかなぁ。ご主人様、怒らないかなぁ……(ちらちら)」

と口では言いつつも、興味津々の桃香。

 

「流石にご主人様へ直接宛てられた私信までは確認出来ませんから……これは千載一遇の好機と考えましょう!」

意外にも積極的に調査を望む朱里。

 

「あぅぅ~~。怒られるのは怖いけど……朱里ちゃんの言う通りです」

多少ビクつきつつも、朱里に追随する雛里。

 

「こういうのは良くありませんよう……止めましょうよ~……」

唯一、本気で皆を止めようとする月。だが誰も聞き入れてくれない(なお、月は身重の為、寝台に座っている)。

 

「いいのよ、月。晒されて恥を掻けばいいのよ、あの馬鹿ち●こが!」

内容自体よりも、これそのものを一刀への“罰”と(表向き)捉えている詠。

 

「…………ご主人様、奪うの許さない」

蒲公英から“恋文とは宛てた相手を他の誰かから奪う手段”と嘘(とも言い切れないが)を教えられてしまった恋。

 

「ふっふっふ。あのへぼ太守の弱みを握る、絶好の機会なのです!」

一刀への“切り札”としての情報を欲している音々音。

 

「くっくっく。皆、乗り気じゃのう。……無論、わしもじゃがな♪」

楽しげに悪~い笑みを浮かべる桔梗。

 

「あらあら。せめて一緒に怒られてあげましょうね。……わたくしも興味がありますし♪」

本来なら制止する側だが、今回は遊び心が勝ったらしい紫苑。

 

「ふん。物好きもいたものだ……」

毎度の如く、口では反発しても、内心は穏やかでない焔耶。

 

「……いいのかなぁ。そりゃ、恋文だなんて気になるけどさ……」

生来の人の良さと一刀への想い、良心と嫉妬心で揺れている白蓮。

 

「おーっほっほっほっほ!……で、何の集まりですの、これは?」

何も考えていない麗羽。

 

「ご主人様宛の恋文をみんなで読もうってことらしいです……後で怒られないかなぁ」

麗羽に説明しつつも、不安げな斗詩。

 

「なぁに。アニキが怒ったら逃げればいいさ。斗詩はあたいが守ってやるから♪」

騒動が好きなだけで、恋文自体には余り興味なさげな猪々子。

 

 

どんだけ物見高いのか、蜀の者達よ。

狭い私室に総勢十九名の女性達。

 

流石にこの人数では全員が一時に手紙を読むのは無理である為、代表者が朗読することとなった。

寧ろ恥ずかしい気がするが、何故か誰も止めなかった。場の空気がそうさせたのか……

 

 

※恋文を朗読している娘の声で、送り主の物真似しているとしてお読み下さい。

 

 

愛紗が一通目を手に取る。

 

「で、では一通目だ。これは、小蓮殿からだな」

 

『愛しの一刀へ♪ 元気にしてる? シャオは元気だよ! でも、一刀に会えなくて寂しいの。偶に、夜泣いちゃうくらいなんだから……。でも、あと半月で同盟一周年記念の三国会談だね! 一刀にやっと逢えるかと思うと、もう身体がうずうずしちゃって困っちゃう☆ 準備は大変だろうけど、頑張ってね! これからどんどん暑くなるね。川遊びが楽しい季節だよ♪ あ、そうだ! 成都の近くにも川があったよね? 一刀も一緒に川で泳ぎましょ! 一刀が望むなら……脱いで泳いでもいいよ? えへ♪ 約束だからね! 一刀の妻、シャオより』

 

「……は、恥ずかしい……////」

 

愛紗は身を縮みこませ、顔を赤らめていた。物真似する必要がどこにあったのかは誰にも分からない。

 

「いやいや、中々に見事な朗読であったぞ、愛紗よ」

「うむ。それにしても見事に恋文……というか、既に恋人を通り越して妻からの文、となっておるのう」

「はぅぅ……如何にも小蓮ちゃんが書きそうな手紙ですね……堂々と妻宣言ですか……」

 

 

次に、月に手紙が渡された。

 

「へぅぅ、私ですか!? ……えっと。華琳さんからです」

 

『謹啓。一応謹んであげる。曹孟徳、華琳よ。同盟締結一周年記念の祭典は七日間の長丁場。

事前の準備も大切だけれど、万一の際の緊急避難や騒動に対応する為の心積もりもしっかりしておくことね。

失敗して恥を掻くのがあなただけなら、気にもしないのだけれど。桃香や愛紗たちにまで迷惑を掛けないように。

そんなことになったら、あなたの首を斬り落とすから、その積もりでいなさい。

春蘭は愛紗への雪辱に燃えているし、季衣や流琉はあなたに逢いたがっているわ。

あと、霞が上質の酒を欲しがっていたけれど、蜀には星や紫苑、桔梗がいるのだから、問題ないかしらね。

凪たちもどこか落ち着かないし、風や稟はあなたを褒めるばかりだし。

いつの間にやら、私の可愛い娘たちにまで随分懐かれたものね! 私の味方は桂花だけなのかしら……。

……稟と言えば。あなた、私に相談もなく稟を華佗に診察させたらしいじゃない。

しかも、もう一年近く前の話と聞いたわよ!結局、異常なしなんて、あなたの天の知識も案外役に立たないわね。

……あの鼻血は……病気ではないのね。まあ、私の愛する配下を心配してくれたことには感謝してあげる。

準備に忙しいからと体調管理を疎かにしないように。また三国会談で逢いましょう。敬白』

 

「へぅ~、こんな感じですか?」

 

見事に読み切った月の迫力に、周囲は少々押されていた。

 

「い、意外と似合ってたのだ……」

「そ、そうだな。かすれ声が迫力あったというか……いや、驚いたぞ」

「確かに迫力はあったけど……恋文って感じじゃなかったね、これ」

 

 

今度は雛里が手紙を受け取った。のだが……

 

「えーっと……。……!? ……。…………」

「どうした、雛里」

「よ、読めましぇぇぇぇん! うえぇぇぇぇん!」

 

手紙を見て、首を捻り。手にした手紙を縦横変えて見たり。不思議な動作をした雛里に愛紗が問い掛けると、とうとう雛里は泣き出してしまった。

 

「なんと。『鳳雛』鳳士元が読めない文字があるというのか」

「ひ、雛里ちゃん!私にも読ませて下さい!」

「あ、ボクも見たい!」

「ねねもなのです!」

 

蜀の頭脳とも言える軍師四人が、問題の手紙をじっと読む……というか見る。

 

「「「「…………(汗」」」」

「やっぱり読めましぇぇぇぇん! 私、私……役立たずでしゅか……?」

「そんなことないよ、雛里ちゃん! ほら、ここ……」

「あ……名前、かな? ……どうも季衣ちゃんと流琉ちゃんからの手紙みたいです……」

「くっ……この賈文和が読めないなんて……!」

「ねねも、全く読めないのです。そもそも、これは字なのですか?」

 

実はこの手紙、魏領の一部の人間にしか通じない崩し文字……所謂『地和語』で書かれていたのであった。

なお、『地和語』の詳細については、原作の魏ルートを参照されたし。

 

 

「読めないものは仕方あるまい。次にゆこうではないか……おっと、これは風からか」

 

星は読めない手紙に見切りをつけ、次の手紙を手に取った。

 

『お元気ですか、お兄さん。それともお元気なのは下半身だけですか、お兄さん。ああ、そうですかー。

 いつもの定例報告なのです。おぉっ。そう言えば署名を忘れていました。風なのです。

 いつものように皆と交流を持とうと鋭意努力中なのです。しかし未だ言語の壁は厚く。

 メス猫の扱いはお手の物であるお兄さんに追いつくべく、風は更なる努力をするのです。

 春蘭は相変わらず食っちゃ寝るを繰り返しているのですー。全く困ったものですねー。

 以前お兄さんに易々と心を許した稟は、夏が近づき暑くなったからか、ご機嫌斜めなのです。

 しかし、たまの雨で涼しくなると風に寄って来てくれるようになりましたー。なんという至福。

 もう尻軽な稟はお兄さんのことなど忘れてしまったのですよー。ふふふ。

 霞は最近見なくなってしまいました。きっとどこか遠くへ旅に出たのでしょう。

 そういえば今年の春に季衣は流琉と交尾して一刀四号を生んだと報告しましたが。

 一刀四号は今ではすっかり大きくなったのですよー。でも、風に構ってくれないのです。残念無念。

 お兄さんは風に何か不満でもあるのですかー?

 今回はこのくらいで。お兄さんも交尾は程々に。あらあらかしこ』

 

「ふぅ。どうです、似ておりましたかな?」

 

甲高い声を出して熱演した星も凄いが、手紙の内容はもっと凄かった(?)。

なまじ文章が普通に読める分、尚更に混沌具合が増しているような。星以外の、その場の全員が反応に困っていた。

 

「し、子龍。お前、そんな声も出せたんだな……というか、なあ?」

「内容が訳分かんないわよ……一刀四号とか……てか、魏の武将の名前……これ、本人が読んだら怒るんじゃないの?……でも、相手が風じゃ怒るだけ無駄よね……」

「………………猫」

 

 

続いて、詠が一枚紙を引いた。

 

「これなら一枚だから短そうだし……!?」

 

一枚だけのその手紙を見た詠は、目を見開いた。

 

「な、何よ、これ……」

「どうしたの、詠ちゃん?」

「う、うん。一応、読んでみるわ」

 

『北郷一刀様。一筆申し上げます。お元気ですか。孫仲謀、蓮華です。

 もう三国同盟が成されて一年になるのね。でも、あなたに〓〓〓〓〓〓〓、とても〓〓〓〓〓〓〓〓〓いるの。

 私は、あなたが〓〓〓、あの〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓にして、毎日を過ごしています。

 王族である私と、〓である私。ふふ、結局のところ、これって公私の区別よね。

 公としての私は、孫呉がより一層発展するように、雪蓮姉様を目標に頑張っているわ。

 私としての私は、最近、あの〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓ことが多くなったわ。早く三国会談〓〓〓〓〓〓〓〓〓……。

 私の〓〓〓を、あなたも〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓……とても嬉しく思います。

 もし。もし……時間〓〓〓〓〓〓。私と〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓?

 更に発展した成都の街並みを楽しみにしているわ。それじゃあ、また。

 まずは謹んでお伺いまで。ごめんくださいませ。孫仲謀、蓮華』

 

「……だって」

 

朗読した詠自身、困った顔。

その手紙は、書いた文字の上から、墨で上書きされていたのだ。

 

「あれ?詠ちゃん。裏側にも何か書いてあるよ?」

 

桃香の指摘に、詠は手紙を裏返す。

 

「…………。成る程ね……」

「何て書いてあったのかしら?」

「ええ。“甘興覇将軍、閲覧済み”、だそうよ……」

『…………』

 

部屋に満ちる沈黙。誰もが苦笑いというか、引き攣った笑みをしていた。

 

「相っ変わらず、すっげー過保護振りだなぁ……」

「過保護云々と言うより……これは最早命令違反、或いは越権行為ではないの?」

「蓮華様って、このこと知ってるのかな……?」

「へぅぅ……きっとご存知ないんだと思います……可哀想……」

 

 

「ま、まあ、あたし達がしんみりしても仕方ないしな。じゃあ、次はあたしな」

 

翠が手紙を手に取った。

 

「えーっと。こいつは穏からだな……」

 

『ご無沙汰しております、北郷さん。穏ですぅ。実は折り入ってお願いがありましてぇ。お手紙をお送りしました。

 北郷さんは、魏王・華琳さんが編纂した兵法書『魏武註孫子』と『魏武新書』をご存知ですか?

 何でも、この度の三国会談で展示されるのだとか。実は、穏もこの書が欲しくて欲しくて堪らないんですぅ♪

 何が書かれているのか、想像するだけで……もう、もう毎晩毎晩悶えてしまう程なんですよぉ♪

 北郷さんの伝手(つて)で、この書を入手出来ないでしょうかぁ? もし、穏に下さるのでしたらぁ……

 お礼に、北郷さんのxxxxをxxxxで、xxxxしてxxxx……』

 

「――って、これ以上読めるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?////」

「いやぁ~~~ん♪お姉様、だいったぁぁぁん! ぷっ、あははははは!」

 

大爆笑の蒲公英、星、桔梗。頬に手を当て微笑む紫苑。何のことか分からない鈴々と恋。

……残りのメンバーは残らず顔を赤らめたり、俯いていたりであった。

 

「やっぱり、穏さんは要注意人物だね……////」

「そうだね、雛里ちゃん//// 只でさえ、あの胸だし……」

 

顔全体を赤らめつつも、溜息を吐く『伏龍』『鳳雛』の二人であった。

 

 

「次はワタシか……誰のだ?」

 

と焔耶が手紙を手に取ろうとすると。

 

「うわっ!? どこにもいないと思ったら、俺の部屋にいたのかよ。……つーか、凄い密集具合だな……」

 

一刀が扉を開けて、中を覗いてきた。

 

「こ、これはご主人様! ど、どちらへ行かれていたのですか?」

「ああ。今朝は約束があってさ。ね、璃々ちゃん」

「うん! ご主人様と、美以ちゃん達と、カブトムシを捕まえに行ったんだよ♪」

「あらあら♪よかったわねぇ、璃々」

「うん!」

「ご主人様もお疲れのところ、ありがとうございます」

「いいんだって。忙しいからって璃々ちゃんを放ってなんておけないよ」

 

一刀は優しく璃々の頭を撫でている。璃々も、一刀の愛情を受けて笑顔を絶やさない。

母たる紫苑を初め、その場の誰もが二人の様子に心を和ませていた。

 

が。

 

「……で、キミタチ。俺の部屋に集合して、何をしてたのかな?#」

『!!』

「そして、その手に持っている紙は何なのかな?#」

 

さしもの一刀も、無断で自分宛の手紙が読まれたとあっては、多少の怒りも覚えるらしい。

 

「……鈴々、いっち逃ーげた!」

「ああっ!ずりーぞ、鈴々!」

「怒らないでね、ご主人様♪ じゃあね~~!」

「おっし、あたい達も逃げるぜ斗詩!」

「ご、ごめんなさーい!」

「ちょっ!? 主を置いていくなんて、どういう了見ですの!? お待ちなさーい!」

「むふふふ。確かにお前の弱みは握ったのです!覚悟しておくと良いのです!ささ、行きますぞ、恋殿」

「………………猫」

 

鈴々を初め、数人がどたどたと逃げ出した。

 

「……今逃げたって、結局……“夜”にはいつか逢うのになぁ?#」

「ご、ご主人様……怒ってる?」

 

おずおずと聞く桃香。

 

「そういうことを聞く前に、まず言うことがあるだろう?」

『ごめんなさい』

『申し訳ありません』

 

残った十何人かが声を揃えて頭を下げた。

 

「ふぅ……そっか、机に出しっぱなしにしちゃってたのか。別に読まれて困るようなものはないけどさ」

 

一刀のその一言を契機に、何かが切れた。或いは爆発した。

 

「ほぉ、そうですか? ……随分と他国の娘達からも、おもてになるのですね!?#」

「そうよねー。穏の奴が送ってきたのなんか、破廉恥過ぎて聞いてられなかったわ!#」

「蓮華さんのお手紙も……思春さんの検閲がなかったら、結構な恋文になる気がしますぅ……#」

「小蓮ちゃんは相変わらずですし……#」

「節操のない男め!成敗してくれる!#」

 

愛紗を筆頭に、次々にキレ出す女性達。

 

「……これって、逆ギレって言わない!?」

 

「はっはっは!もてる男は辛いですなぁ、主!」

「全くじゃなぁ、お館様よ!」

「頑張って受け止めて下さいな♪」

 

相変わらず、マイペースにその様子を観覧する星と“老将”二人。

 

「み、みなさぁ~ん……落ち着きましょう、落ち着きましょう~~(> <)」

「…………ふん#」

 

そして、おろおろしながらも皆を抑えようとする月と、敢えて何も言わず関せずの白蓮。そして……

 

「ふふ♪……で。ご主人様はお手紙をくれたみんなに、何てお返事したの?(ゴゴゴ…」

 

「なんで俺が責められる側になってんの~~~~~!?」

 

ついに出た桃香の追求。逆ギレの理不尽に(半分以上自業自得だが)最早叫ぶしかない一刀であった。

 

 

「どうしてご主人様、みんなに怒られてるの?」

 

祭典準備に忙殺される中でも繋がる仲間の輪、そんな日常のひとコマ。

 

/政務室

 

「な、なんとか間に合ったかぁ~……」

 

と、へばり切って机に突っ伏す一刀。

隣りでは、同様に桃香もへたっていた。

 

「間に合ってよかったねぇ~……」

「へぅぅ……お二方とも。お疲れ様でした。お茶、どうぞ……」

 

月がそんな二人にお茶を差し出す。

 

「おお~、ありがとうな。月。でも、そろそろ仕事は休まないと駄目だぞ?」

「は、はい。ありがとうございます////」

 

月は出産予定を二ヶ月後辺りに控えていた。

服装の上からでも腹部の膨らみが目立つ頃合である。

 

「……いいなぁ~、月ちゃん……」

 

思わず漏らす桃香。これは蜀の将達全員の気持ちの代弁でもあった。

 

「えへへ……でも、最近夢を見るんです」

「「夢?」」

 

一刀と桃香が重なって聞き返した。

 

「ご主人様を囲む、大勢の子供達と。それを見守る私達。みんながみんな笑顔で……」

 

そう話した月は、本当に幸せそうで。

一刀も桃香もその光景を幻想し、目を細めた。

 

「ああ。いいなぁ……」

「……うん。でも、そうなるよ。きっと!」

 

まあ全員とやることはやってる訳で。

 

「だからご主人様? 以前にも言ったけど、全員を平等に愛してね♪」

 

そう締める桃香だが、

 

 

(全員……どこまでを“全員”って言ってるんだろう、私……)

 

 

内心、そう自問するのであった。

 

三国会談が開催される都では、催される各種イベントを目当てに来訪する観光客、特需を狙った商人など、様々な人種が集まり、一時的に人口が激増する。そういった人々を宿泊させる仮宿なども設置される(一般商人も参画している)。

 

正に国をあげての大イベントである。

しかも今回は三国同盟一周年記念祭典と銘打った過去最大規模の大祭典だ。

 

そして。

 

いよいよ開催期日となり、続々と同盟国の首脳陣がやって来たのだが。

 

「……そりゃ、みんなに逢えるのは嬉しいけど。国許は大丈夫なの……?」

 

思わず零した一刀。

今回の三国会談には、魏も呉も、周知の武将や軍師を全員引き連れて来ていたのだった。

 

「大丈夫よ。あなたの知らない、優秀な子だって大勢いるのよ?」

「そうそう。細かいことを気にしすぎよ、一刀♪」

 

そう断言する魏・呉の国主二人。

 

「そ、うだよご主人様。今回は同盟一周年の祭典なんだから!」

 

桃香もそう同意した。が……どこか笑顔に翳りがあるようにも見えた。

 

「?? 大丈夫なの、桃香。顔色が悪いような……」

「え、えへへ。準備がちょっと大変で。あんまり寝てないからかな?」

「身体を壊すようなことだけはしないことね。あなたは王なのだから」

「そんな理由をつけなくても、華琳さんが心配してくれてるのは分かってるから♪」

 

少々誤魔化された気もした華琳だったが……原因の一端が魏呉による一刀へのアプローチである可能性も考えると、あまり深く突っ込むのは気が引けてしまった。

 

「……ふう。ならいいけれど」

「さ、お祭りを始めましょ!」

 

最後は雪蓮が笑顔でそう締める。けれど、彼女の笑顔にもどこか苦みが含まれていた。

 

 

 

続。

 

【あとがき】

第3話を投稿致しました。四方多撲でございます。

 

これでようやく何かTINAMIの機能が開放されるのだとか? 全然調べてませんw

 

何はともあれ……蜀オールキャストは如何でしたでしょうか! 正直、疲れました……w

ページ量調整が上手く出来ず、長いページと短いページが両極端な話になってしまいましたが。

 

 

●本作の時系列について

本来であれば、本文で表現すべきところですが、未熟故にこの場を借りて解説させて戴きます。

 

・「序」1~2p = “第3話現在”より約12年後の未来のシーンです。

・第一次五胡戦争 = 蜀ルートのラスボス(五胡)戦です。

・第二次五胡戦争 = 時期的には実は蜀ENDと同じ。「序」本文にある通り、第一次五胡戦争から半年後です。

・第3話現在 = 第二次五胡戦争から更に半年後になります。

 

となっております。混乱されてしまった方々、申し訳ございませんでした。

 

 

さてさて、困ったことに既にあとがきのネタがありません。

 

という訳で……次回からはあとがきにちょっとネタを仕込んで、キャラを引っ張り出そうかと考えております。

どう考えても自分の首を絞めることになるのは分かっているのですが……

やはり『スレイヤ●ズ』世代の身としては、一部のキャラがあとがきに出るのはお約束なのですよw

 

また、ここからは流石に毎日投稿は無理ですw

3日~1週間くらいのスパンでの投稿を目指していこうと考えております。

みなさま、どうかお見捨てにならず、長~い目で見て下さいますよう、お願い致しますm(_ _)m

 

 

愚作で本の少しでも読者様の『恋姫熱』が上昇しますように――

 

四方多撲 拝

 


 
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