No.99701

恋姫†無双 真・北郷√12 前編

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
2009・11・09修正。

2009-10-08 17:40:15 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:53879   閲覧ユーザー数:35056

 読む前の注意! ここまでの変更点

 

 オリジナル要素 一覧 

 

 まず一刀含むほぼ全員。互いの呼び方。人間的に成長している。特に麗羽と猪々子。

 

一刀

 知識と人材を活かす才能あり。前外史大陸統一者としての経験あり。武勇は一般人。

 

 大きさ璃々位。少し舌足らず。武器が如意棒。仮面雷弾好き。赤兎馬キントが相棒。

 

如意棒

 有名すぎるが、殴打武器としての堅牢さと、超重量(30kg)による当たった時の衝撃と

 威力は計り知れない。重い得物を軽々と扱う恋にはうってつけ。

 遠近可能で手加減まで出来る優れもの。(幅10cm長さ3mの平均台と同じ位の重量)

 

赤兎馬キント

 真紅の汗血馬。恋やクロに鍛えられており、馬外のキントと呼ばれる名馬。

 

麗羽

 袁家の宝刀→指揮特化レイピア琢刀に。髪先が足の踵まである超ロングストレート。

 高笑い無し。(一刀が止めさせた)→髪を掻き揚げ流す仕草を多用する。

 サラリ(縦ロール時)→サラサラ(ストレート時)←華琳が毎日セットしているらしい。

 

猪々子

 展開式長弓を隠し持っており遠近両方戦える。兵法を学び、駆け引きも上手い。

 

斗詩

 歩兵のみでなく騎馬の用兵も巧みになっている。但しほんの少し黒い?

 

雛里

 武器? 雛羽扇(ひよこうせん)が追加されている。それを持つと冷静モードに移行。

 

数え役満☆姉妹

 芸名が天地人☆姉妹になっている。目的も、徴兵→夢と希望を与える。

 

 鼻血は噴かないが、きぐるみを自作して着るほど歌に夢中。右の腕輪の髑髏→十文字に

 

真桜

 髪留めの髑髏→十文字 蒸気機関に燃えている。人を殺すための兵器を作らない。

 

沙和

 髪留め、ベルトのアクセント、ポーチ、二天の装飾の髑髏→それぞれ十文字へ

 

華琳

 メイドになっている。M気質。一刀にベタ惚れで覇王でなく少女として生きている。

 茶菓子を始め、色々な服や詩(うた)等を好んで作る。(正史でも曹操は高名な詩人)

 一刀の前だと言葉遣いが一変。ただ完全ではなく地に戻る事も多い。麗羽と親友。

 

春蘭 秋蘭

 肩当ての髑髏→十文字に 春蘭は両目共健在。更に戦闘時サングラス着用。

 

一般兵士武装

 一刀が作らせた物。兵士達は、あめりか海兵式訓練で愛紗に仕込まれている。

 

白苦

 パイク、15~17世紀、銃剣が登場するまでの欧州全土で使用された全長7mに及ぶ、

 超長槍。騎兵に対し隙間無く並べて待ち構え、歩兵に対しては上から叩きつける等、

 絶大な威力を誇る。作成も容易だが、集団戦且つ敵よりも数が多い事が条件となる。

 

大盾

 15世紀頃に決闘用で使用された攻撃も防御も出来るソードシールド。全長は1.8m

 幅は0.9m程、重すぎる為(重さは約10kg)弩弓兵と二人組みで行動させ、

 攻撃用の爪部分を固定設置用にして防御特化にしている。作成には豊富な資金と鉄資源、

 更に集団戦の為にも数を揃える事が必要と、北郷軍以外では難しい仕様となっている。

 

 結構説明多いですね。以上です。では……ニヤニヤしていってね!

 

 

恋姫†無双 真・北郷√12

 

 

 

朱き(あかき)揺らめき、浅き(あさき)夢見し。

 

 

 

鄴城 政務室

 

/一刀視点

 

「だぁぁぁぁい好きなご主人様♪ お茶にしますか? お菓子にしますか? それとも華琳にしますぅ♪」

 

「華琳も大好きだけど、とりあえずお茶で!」

 

 あの桃園での再会から数ヶ月、今日も甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれる華琳。

 

 その華琳に用事があって来た俺の左には……愛紗が自然な笑顔で腕を組んで立っている。何でこの部屋にいるのか。いつのまに側に? ちび恋はいつも通り俺の肩の上だけど。

 

「えへへ、はーい♪ 愛紗と恋はどうする?」

 

「すみません、華琳殿。では私もお茶を」

「……おかし」

 

「すぐ用意するね♪」

 

 華琳は一旦部屋を出、俺達は席に着く……自然だ。俺が首を傾げていると頭上から、

 

「……やくそくした」

 

「はい、私と恋の二人より、華琳殿も含めて三人でご主人様を守ろうと誓い合いました」

 

 恋の言葉に続く愛紗の説明に驚愕する。いつのまにそんな誓いが出来たのかと。

 

 すると人数分のお茶と茶菓子を持った華琳が戻ってきていて、

 

「うん! 華琳が提案したの。護衛は一人だけじゃなくても良いって。恋は肩の上だし、ご主人様の腕だって左右で二本あるんだもの♪」

「ええ! 華琳殿の言う通りです」

「……なかよし」

 

 そう言いながら華琳も空いている右腕に抱き付いてくる。これではお茶を飲めないんですけど?

 

「♪~ はい、恋」」

「……ごしゅじんさま、あーん」

「あーん(もぐもぐ)」

「お茶をどうぞ♪ ん……」

 

 華琳が茶菓子を一口大に切り分けて恋に渡し、自分も次の準備をする。恋は茶菓子を俺の口の前に持ってきて、顔を覗きこみながら食べさせてくれる。愛紗は俺が食べ終わった頃にお茶を口移しで、まあ飲むけど! 柔らかい唇から直接お茶を飲む。これってハーレム?

 

「ん、(ごく)……積極的だね」

 

「はい♪ 私はご主人様に対し、いつでも積極的です!」

 

 俺の呟きに笑顔で肯定を返す愛紗。

 

「次は華琳の番です! ご主人様、あ~ん♪」

「あーん」

 

 華琳が甘い声で自分の番を主張するのに答え、差し出されたお菓子を口にする。既に愛紗は次の菓子を切り分け始めていて、恋も準備している。以下繰り返しらしい。

 

 ……イチャイチャ中の為。しばらくお待ちください……。

 

 おっと……余りに自然な流れで用事を忘れるところだった。腕を組んだのは逃がさない為か……なんという連携攻撃! いやじゃないけど!

 

「華琳。これを君に」

 

 そう言いながら長さ三尺(約70cm)程の品物が入った……手が使えないな。視線で右手に持っている袋を指し示す。腕を放した華琳はそれを大切そうに胸に抱いて、

 

「ご主人様が華琳に贈り物を……嬉しい♪」

「私だけなにも……」

「……れんは、きんともらった」

 

 笑顔で喜ぶ。反対に愛紗の顔が一瞬悲しそうに。

 

「そこまで笑顔で喜ぶと……ごめん。それは武器なんだ、気に入ってくれるといいけど」

 

「華琳殿の?(武器ならば仕方が無いですね)」

 

 鍛冶屋で俺の意匠を基に鋼で骨組みを作らせて、真桜に布地を工夫してもらい、沙和に全体的に可愛く仕上げてもらった。いわゆるフリフリのレースがついた日傘だ。

 

 武器って言った途端、愛紗は笑顔に戻ったけど……何か考えておこう。

 

「可愛いらしい武器ですね♪ どうやって使うんですか、ご主人様♪」

 

 袖を引いてねだる華琳に使い方を説明する。

 

 まず開くと鋼糸が編みこまれたカバー(傘生地)で矢や刃を防ぐ事が出来る。そのまま回転させれば親骨に刃が仕込んであり反撃に使用可能。畳めば中棒が太目の鋼鉄で出来ている為、カバー部分で殴ったり鋭い石突(いしづき)で敵を突き刺したり出来る。更に手元の柄の部分には取り外せる短刀が仕込んであったりと、身を守る事、カウンターに特化している。

 

 華琳は確かに強いけど、やはり素手では危ないと思い用意した。また違和感の無い形を考えてこの形態にした。メイドに日傘。うん普通だ!

 

「これで華琳のご主人様をお守りできます♪ 名前は決めてあるんですか?」

 

「壊れたのは絶だったっけ?……倚天の剣、倚天でどうかな? いま考えたんだけど」

 

 倚天の剣……曹操が愛用していた剣として有名だ。倚天とは天すらも貫くという意味。華琳が使うこの武器に相応しいと思うんだけど、あと史実的にも。まあ日傘だけどね。

 

「倚天……いてん。天すら貫く、天はご主人様。名前が良くないかも、むー……いてん」

 

 華琳は俺が考えた名前を気に入らなかったようだ、そのまま考え込む。

 

 

「あ! ご主人様のお名前から『一』を頂いて、一天(いてん)が良いです。この『天』下に華琳のご主人様は『一』刀様ただひとりと言う意味で! うん! 良い名前。決まりです♪」

 

「……」

「(ご主人様?)」

 

「まあいいけど。気に入ってくれて良かった」

 

「もう返しません♪ えへへ(一刀様と言った一瞬……とても悲しそうだったわ)」

 

 なぜか一刀と聞いた瞬間、思考が止まってしまった……なにかを忘れているような。

 

 それにしても自分の事を華琳って言ったり性格変わったなぁ。でも幸せそうな華琳の笑顔を見ていると、少女としての生き方にも後悔は無いとも取れる。全てにおいて潔い華琳らしいかもしれない。

 

 その夜は愛紗のご機嫌をとる事にした。ホントに何か考えなくちゃ、体が持……つけど!

 

……

 

玉座の間

 

 翌日、降伏を勧める使者を呉に送り出す。が……水軍の強化が思うようにいかない。愛紗も前外史でそんなに水上戦は経験して無いしなぁ。適性が高い(船酔いに強い)兵士の数は集められたが、水軍に長けた武将がいない。この外史に蔡瑁はいないし……少し困ったな。

 

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 蔡瑁……演義で曹操が呉の孫権を攻める際に水軍都督として指揮を任せた有能な武将。だが水軍に長けている蔡瑁を恐れた周瑜の離間の計に嵌り、周瑜に内通しているとあらぬ疑いをかけられ、曹操によって処刑されてしまう。優秀だったのに不運な人。

 

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 それとこの外史に大喬と小喬がいるかどうかも情報網を駆使して桂花に探らせる。

 

 何故かというと、愛紗、恋は勿論。星、華琳、秋蘭、そして麗羽と春蘭も少し、前外史の記憶がある。

 

 この事から俺は、あの時貂蝉が消える瞬間に残した言葉を思い返していた。

 

『ご主人様、役者は大体同じみたいよ? がんばって……』04話参照

 

 あれは役者達、登場人物の顔ぶれが似ているという意味かと思ったが、どうやら記憶が無いだけで、言葉通りの意味、役者自体が同じ人物という意味ではないだろうかと……。

 

 大体の意味を、細部を除いた主な部分とした場合。分かりやすくする為『達』を付けると

 

『役者達』は細部を除いた主な部分が同じ……って全然違う。俺が居るのに劉備はいるし、桃園三姉妹も趙雲が混じっているし、呉の王は孫策……いや行方不明でいまは孫権か。あと見つかってこちらに向かっているらしいが袁術、美羽と七乃さん……違いすぎる。

 

 国の主な部分、中心人物が前の外史と違いすぎる。これが勘違いしてた方。

 

『役者』は細部を除いた主な部分が同じ……愛紗と恋は同じだ。華琳達も同じだった。記憶が無いという部分が細部だとして、それを除けば主な部分、中身が同じ……。

 

 辻褄が合う。雛里達は新しく出会ったので同じからは除外。こちらが今考えた方。

 

 つまり簡単に言うと、俺が知っているこの外史の人物は、前外史と『同じ』人物と言う事だ。

 

 気付くのが遅すぎたが……大喬と小喬がいれば、ほぼ確実になる。

 

 また考え込んでしまったようだ。

 

 

 最近忙しかった事もあって、みんなは俺の顔を見ると積極的に話しかけてきてくれる。

 

 勿論、相手が好意を持っているのは分かっているのでちゃんと対応する。俺だっていつまでも鈍感な男じゃない……はずだ。この外史に来てから体を重ねてないのは前外史を除けば恋だけ。(種馬です)恋は今、璃々位の大きさだし、心は大人のままでも流石に……。

 

 そういえば、恋のおでこや頬にはキスしたけど、唇同士ではした事が無いな……? 昨日のお茶の時間もずっと俺に食べさせてくれていただけだったし。

 

 でも、なんというか自分の娘みたいで滅茶苦茶可愛い! しかも違和感が無い! 和む! そして癒される! 恋自身も不満はないようだし、……まあいいか。

 

 まずは呉との駆け引きだな。

 

……

 

 そう結論を出すと、色々準備を開始する為に玉座の間へ。(後半、関係ない気が)そんな俺の顔を見るなり、

 

「ご主人様。真桜が工房の方に顔を出して欲しいという事です」

 

 と、伝えてくれた愛紗に礼を言った後。今度は忙しく真桜の実験工房に向かう……遂に出来たか。

 

 現在、領地内にある油田から原油を採掘し、試験的に建設した石油精製工場で利用を始めている。

 

 工場の中で原油を熱して、気体になる温度の差を利用し、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油、アスファルトに分ける。石炭からも出来るが、こちらは蒸気機関用と加熱用に回している。その蒸気機関ポンプを活用している為、効率良く石油の採掘が進行中。灯油、軽油、重油、アスファルトに関しては、暖房や灯り、加熱燃料、道の舗装等、既に実用化に入っている。ガソリンは取り扱いが難しい為、エンジンと共に長期的に研究中。最後にナフサ、これはプラスチック等の原料。このナフサを更に熱して、エチレン、プロピレン等、原料の素を作り、これに硫黄等の添加剤を加えて原料ペレットにする。ここまで出来れば、ポリエチレン、塩化ビニール、ポリエステルや合成ゴム、塗料、溶剤などが作れるが……まだ試行錯誤の段階だ。添加剤に付いては好奇心旺盛な真桜に任せている。たまに爆発しているようだが……。

 

 まずは容易な塩化ビニールでフリーサイズの軍用品として外套(合羽)を作らせている。研究を無駄にしないためにも、改良を重ねつつ何度も……どうせ使い捨てのつもりだし。他にもポリエステルは無理だったが、添加剤が硫黄の合成ゴムなどはすぐに再現できた。輜重車のタイヤからポンプのパッキン(それまでは皮や粘土等で代用していた)チューブやホース、果てはパンツのひもなど、恐ろしい速度で開発させている。

 

 ……始まりの外史では資金が無かった為、知識があっても色々出来ない事もあったが、現在は豊富な資金と優秀な人材を生かして出来得る限り実現している。これは特に真桜の才能によるところが大きいと断言できる。

 

 北郷の技術は怒涛の勢いで発展して行く……。

 

……

 

真桜実験工房

 

「大将! 頼まれてたもんのひとつ、出来ましたわ~。大将の意匠を忠実に再現した至高の一品や! それで……あの、ご褒美なんですけど……(大将と……ごにょごにょ)」

 

「ありがとう、真桜。ご褒美はそれで良いよ。色々頼んですまないね」

 

 真桜のおねだりを承諾した後、色々研究やら知識の再現やらでこき使ってすまないと労うと、

 

「大将に頼まれたもんは全部えらい便利な代物やし、ウチの才能をどんどん開花させてもろて……お礼を言いたいのはこっちですわ。最高のご褒美も貰とりますし♪」

 

「そっか。じゃあもうひとつも引き続きお願いね」

 

「はいな♪」

 

 そう言いながら工房に固定してある、大掛かりな絡繰を眺める。……ほぼ完成のようだ。

 

「期待以上の出来だけど、蒸気機関と共に数は揃えられそうかい?」

 

「任せとってください! 大将の為なら例え火の中水の中! 必ず仕上げて見せます!」

 

 真桜に感謝した後、作って貰った小さな品物を受け取って、俺は春蘭の部屋に向かった。彼女にきっと似合うだろう。目を守るために必要だし。

 

 

玉座の間

 

「御遣い様。楽進様とお客様がお見えです」

 

「通してくれ」

 

「御意」

 

 侍女が来客を告げ、暫くして見知った顔、凪、美羽、七乃さん……。早馬の知らせで知ってはいたが、無事な姿を見て安心する。あと、格好良いお姉さんは好きですか? みたいな美女……誰?

 

「急いで麗羽を呼んできてくれ」

 

「御意」

「……美羽、七乃さん、無事で良かった」

 

 美羽を心配していた麗羽をすぐ侍女に呼びに行かせ、小さな美羽の頭を優しく撫でる。

 

「一刀兄様、妾はもう少しで殺されるところだったのじゃ。それを孫策が助けてくれて」

タッタッタッタッタッ

「美羽さんっ! あぁ良く無事で……」

ギュ

「麗羽姉様! ……ぐす、うあーんっ」

「本当に良かった……」

 

 小さく震えていた美羽を玉座の間に飛び込んできた麗羽が強く抱き締めると、感極まったのか二人とも泣き出してしまう。七乃さんも涙ぐんでいるし……本当に良かった。

 

 凪が挨拶の後、すぐに俺と面識がないもう一人を紹介する。先程美羽が孫策って言っていた様な?

 

「ご主人様。こちらは袁術様達をひとりで保護していた元呉王、孫策様です。……あ! それと、お二人を発見したのは天地人☆姉妹です。(伝えないと地和に怒られる)」

 

「直接会うのは初めてね。私が孫策よ。天の御遣い……貴方を殺しにきたわ♪」

 

……

 

建業 玉座の間

 

/周瑜視点

 

「北郷の使者から降伏勧告が届いております。そして、こちらが孫策様捜索隊の報告書です」

 

「雪蓮達の行方は依然として分からずか……全く心配ばかりさせて。いや、私が悪かったのか……」

 

 親友が行方不明になった後、国中を探し回らせた捜索隊の報告に最初に目を通して、私は小さく呟いた。

 

……

 

 あの英傑曹操を……いや、連合全てを巻き込んだ策。曹操が手も足も出ずに倒された衝撃の事実。私は軍師として北郷に恐怖した。全ての計略を思いどうりに運び、予言とも取れるあの手紙。勝てるわけが無いと心を折られそうになった。が、私は呉の大都督。北郷の武器を研究して対策を考え、取り入れようと思ったのだが……。

 

 あの長い槍は作る事は出来ても、集団戦に特化した兵士達の一糸乱れぬ統率が必要な上に、相手よりも数を多く揃えなければならない。少ない数では近付かれた時にその長さが逆に仇となり、近くの味方に当たって反撃する事さえできなくなる。

 

 大きな鉄製の盾も、やはり壁を作るためには纏まった数が必要で、数を揃えるためにはこれも莫大な軍資金と鉄資源が要る。数が少なければ後方に回りこまれ、その重さで身動きも出来ずに殲滅されるだけだ。

 

 つまり北郷軍は、その統率と数を生かした特殊な武器を使いこなす、巧みに計算された軍隊ということだ。知れば知るほどに恐ろしい……最早、勝利するには水上戦しかない。水上戦ならば矢での戦闘が主になり、呉の水軍は大陸一の精強さを誇る。対して北郷軍は大将軍関羽がいるものの水上戦まで得意では無いだろう。

 

 私は水上での開戦を決意していた。それに気になる噂もある……。

 

 

 その後、蓮華様と皆を集めて軍議を行う。文官の大部分は降伏を主張し、武将は決戦を主張している。

 

 蓮華様は迷っているようだった。私はかすかに掴んだあの情報をお伝えする。

 

「北郷は江東の二喬の所在を探していると噂に聞いております。大層女好きだとか……」

 

「な!? 姉様と冥琳の大切なあの二人を? ……許さない! これより降伏を口にした者は、この机と同じくなると思え!」

 

 現在の呉王、蓮華様は目の前の机を南海覇王で切り付け開戦を宣言する。

 

 翌日、小蓮様は劉備への同盟締結の使者として蜀に向かった。

 

 雪蓮、あなたはどこに行ったの……? 私を一人にしないで……二人も心配しているわ……。

 

 

蜀 益州 成都城 玉座の間

 

 

/語り視点

 

「……為、呉軍だけでは北郷軍に対抗できません。姉、孫権は蜀との同盟を望んでいます。呉がこの戦いに破れれば、次に北郷は蜀を飲み込もうとするでしょう。劉備様、どうか同盟に御承諾を……」

 

 劉備を説得しているのは孫呉の姫君、孫尚香。

 

 ……当初、劉備は北郷を敬愛していた。

 

 出会いは憧れからだった。大きな徳を持ち、大陸に比肩する者が無い程の国力を有する凄い人物。人々を平和に導く心優しき天の御遣い。次第に惹かれていく劉備。照れ隠しに肩に乗る小さな女の子を引き合いに出して近付いてみたりもした。

 

 でもすぐに諦めた。義妹の星と彼が愛し合っているところを見てしまったから……。別れ際に見た星の彼を信頼しきった顔、星を真名で呼ぶ北郷の慈愛の表情。劉備は二人を応援しようと思った。だから一歩引いて自分の真名は預けなかった。自分には無いものを全て持ち、仲間も全員仲が良く、義妹の星さえ心を許している。彼は自分以上に徳がある理想の王だと信じた。武力よりも話し合いを重んじる仁君と。

 

 だが彼女の回りは少しずつおかしくなっていく。諸葛亮も張飛も溜息を吐き、悩んでいる姿を見かける様になった。彼の名を呟きながら。劉備は焦る。自分の仲間がいなくなってしまうのではないか……と。それでも彼は民達に優しかったし、諸葛亮に内政の助言をしてくれたりしていたから、冀州の平原に本拠地を構える劉備達に気を使ってくれていたからだと自分を納得させた。

 

 そして反董卓連合の帰路、彼は曹操を、話し合いではなく武力を使い屈服させた。劉備の感情は遂に爆発する……許せないと。だが劉備が抗議をする前に北郷軍は帰ってしまった。

 

 その後、劉協に与えられた徐州に引越し距離を置いたが、袁術に攻め込まれてしまう。そこでより遠い益州に拠点を移す事を決意、領地を通らせてもらう為、星と白蓮が赴く。待ち合わせ場所でお礼を言い、今度こそ話し合おうと思った。でも彼は来なかった。

 

 劉備は諸葛亮の助言通り、劉璋から民を救い益州を攻め落として蜀の国を興し独立する。

 

 全ては誤解と擦れ違い……それでも小さな影はやがて大きくなって闇になり、

 

「……呉との同盟、お受けします。北郷を共に倒しましょう!」

 

 天の光を見失い闇に歪んでいく仁の王……劉備は呉との同盟を決断し北郷と敵対する。

 

「桃香様! 北郷様には色々と世話になっております。恩を仇で返すなど……お考え直し下さい。私は反対ですぞ!」

 

「桃香……北郷は真に平和を願う奴だ。敵対しては我等の方が民達の信を失うぞ」

 

 星と白蓮が反対するが、

 

「力こそが正義って考える北郷さんと手を結ぶ事は出来ないよ! それに助けを求めている呉を放って置けない! 孫尚香さん。孫権さんにお受けしますとお伝えください」

 

「はい。すぐに早馬を出します。私はこの後、蜀に保護して頂いても宜しいでしょうか?」

 

「うん! 呉にいたら危険だもの」

 

「ありがとう♪ 劉備様」

 

……

 

(桃香様が既に下した事か……なれば我が使命は蜀王桃香様の一の矛として前に進むだけ。あの方が私を信じてくれた、私らしく生きよと仰った。私は義の武人、趙子龍也! 義姉を。民を。裏切る等出来ぬ。例えこの趙雲死すとも……星の心は主と共に)

 

 星は蜀を背負って立つ軍神。例え違う道と分かっても進む事しか出来ない。ここで反論し続けたとしても、君主の決めた事。蜀全体は必ず動き出す。そんな事になれば被害は更に大きくなるだろう。それは出来ない。彼女は北郷一刀と約束した。蜀の民を救うと……。

 

(私はどうすれば良い……桃香も北郷も大切な友人だ。一体どうしてこんな事に……)

 

 白蓮は大切な者達が争う事に心を乱す。

 

(北郷さんを想うとなぜか暗い感情が湧きます。関羽さんが側にいると思うと息が出来ないくらいに……それに雛里ちゃん、とうとう戦う事になっちゃったね)

 

 恋さえ知らぬ心に嫉妬心だけが芽生え、親友と戦う事の板ばさみに迷う諸葛亮。

 

(北郷のお兄ちゃんを思い出すとまだ会ったばかりのはずなのに懐かしい気がするのだ。関羽のお姉ちゃんも……大切な事を忘れてるような……にゃにゃ! 頭が痛いのだ!)

 

 忘れている大切な想いを思い出せず苦悩する張飛。

 

 其々の思惑は違う。だが無情な乱世は次第に絆を押し流していく。その先に続く戦いへと……。

 

 

場面は戻り 玉座の間

 

/一刀視点

 

「直接会うのは初めてね。私が孫策よ。天の御遣い……貴方を殺しにきたわ♪」

 

ダダダダダダッ

「待てぃ!」「……あら、孫策じゃない」「……だれ?」

 

 孫策の言葉。殺しに……の辺りで、愛紗、華琳、ちび恋が風のように飛び込んでくる。が、俺は慌てていない。どう見ても冗談だったからだ。殺す相手にこれから殺すなんて普通言うはずも無い。暗殺ならなおさらだ。俺を試しているのだろう。

 

「三人とも下がって」

「ですが!」

「愛紗」

 

「……はい」

 

「華琳と恋も良いね?」

 

「ご主人様がそう仰るなら」

「(コク)」

 

 三人は無言で俺の横に下がる。と思ったら、ちび恋は美羽達の方にとてとて行ってしまう。

 

「まずはお礼を。大切な家族の美羽を助けてくれたと聞いています。ありがとう」

 

「孫策さん、美羽さんを助けて頂き、有難う御座います」

 

 俺は玉座から立ち上がり、孫策と同じ高さまで降りると、感謝を込めて麗羽と一緒に頭を下げる。

 

「……いいのよ。それに私の勘は正しかったわ。連合の時から感じていた何か大きなもの。貴方から感じるの……とても大きな幸せの予感を」10話参照

 

 そう言って目の前の俺にギューっと抱きついてくる孫策。何がなんだか……勘?

 

「凪、ご苦労様。今日はゆっくり休んでくれ。あと歌姫達にもよろしくと伝えて欲しい」

 

「はい! それでは失礼します、ご主人様」

 

 とりあえず話がしたいと言うので人払いした軍議室へ、俺、孫策、愛紗、華琳の四人で向かう。

 

 麗羽は恋を抱き上げ、美羽と七乃さんを連れて自分の部屋に行った様だ。

 

鄴城 軍議室

 

「曹操が侍女ねー……見るまでは信じられなかったけど本当だったのね! 可愛い♪」

 

「メイドよ。この姿も間違いなく私が選んだ道。後悔などしていないわ。私はご主人様の為に生きるの。メイドとして。臣下として。そして妻! として♪」

 

 孫策が開口一番素直に思った事を口にする。なんというか自由奔放な性格だな。しいて言うなら星から武人の義を抜いて、よりフリーダムにした感じ? 空気を読めなそうだし……。

 

 あと華琳さん。最後だけ声が大きいですよ。強調しなくても……

 

「それで孫策殿、ご主人様にどのよう話が?」

 

「あら、ごめんなさい。そうよね……真剣な話よ」

 

 愛紗がとにかく話を進めようと進行役になってくれる。流石付き合いが長いだけあるなぁ。すると孫策は真剣な表情で、

 

「周瑜と呉を助けて欲しいの」

 

「助けてって言ったって、その周瑜が決戦を望んでるわ」

 

 そう告げるが、華琳は先日届いた呉からの返答を孫策に返す。

 

「そうね、私が言ったって止まらないのも分かってるわ。周瑜は大陸統一って言う母様の呪縛に囚われて、北郷を倒す事だけを考えてる。民達に重い税を課して軍資金を無理やり調達したり、力が無くなった袁術ちゃんを見せしめの為だけで殺そうとするくらいに……」

 

 

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孫策回想

 

まだ孫策がいる頃の呉

 

/孫策視点

 

 冥琳は近隣の諸侯を呼んで連日の酒宴。その間に親族を人質にとって武力で脅し、呉に服従を誓わせる。聞かない者達は躊躇無く殺す。冥琳は軍師、国の為には自ら悪になるのは分かる。私だってケダモノには容赦しないわ……でも、焦りすぎよ。

 

「ねえ冥琳? 悩み事なら相談にのるわよ~♪ ほらほら、美味しいお酒もあるの♪」

 

「放せ! 雪蓮、私は一瞬でも時間が惜しい。これもお前の為、孫文台様の野望の為だ! 酒なら祭殿とでも飲んでくれ」

 

 いつもなら止めてくれるのに。冥琳どうしちゃったの……。

 

「……冥琳。私は冥琳の体が心配なの! 全然寝て無いじゃない! 無理しすぎよ。だからたまにはゆっくり休んで、お願いよ」

 

「雪蓮、それでは強大な北郷に勝つ事が出来ない。気持ちは嬉しいが、仕方の無い事なのだ。この後も用事がある。もう行くぞ」

「待って冥琳!」

 

 目の下にクマのできた尋常じゃない様子の親友を私は止める。悲鳴にも似た声を上げ、その腕を引いて。冥琳がなんとか行きかけて止まるけど、妹の蓮華が目の前に……。

 

「姉様、それくらいにしたらどうです? 冥琳、私は諸侯の説得に行ってきます」

「蓮華?」

「申し訳ありません、蓮華様。お願いします」

 

「ええ。一刻も早く呉の勢力をまとめないと……圧倒的な軍事力を誇る北郷に勝つ事は出来ないから」

 

「そうですね、急ぎましょう」

 

「……冥琳、蓮華」

 

 そう言ってふたりは行ってしまう。私をおいて……そうだ! 祭に相談しよう!

 

……

 

「祭~♪ お酒があるわよ~」

 

「……すまん、策殿。儂はいま手が放せんのじゃ。ほらそこ! しっかりせんか!」

 

 劉備を追いかけていた時に待ち伏せされ、愛紗と春蘭に完膚なきまでに叩きのめされた祭は、真面目に兵の調練をしていた。禁酒までして……母様と誓った悲願の為に。

 

「祭もいつもの余裕が無いわ。あの敗戦が相当堪えたのね……じゃあ穏でもいいか!」

 

 穏も珍しく亞莎と真面目に天の知識の研究をしている。やはり彼女達も余裕が無い。

 

 穏も軍師。北郷の戦いを見たものね。思春は蓮華の護衛。明命は情報収集っと……。

 

 小蓮は蜀との同盟の使者か。みんな忙しそう。そうだ、私も手伝おう!

 

「めーいりん♪ ねぇねぇ、私も何か手伝えない?」

 

「悪いが雪蓮、私は忙しい。仕事は自分で探してきてくれ。自分に出来る事をな」

 

「そう……」

 

 親友に冷たくあしらわれた私は自分の特技を思い浮かべる。戦……今はその準備で忙しい。お酒……ダメ。昼寝……はぁ。

 

 私は肩を落とす。私ってあまり役に立たない? ……あ、勘が鋭い! って、今は役に立たないわ……。

 

 仕方が無いので街を警邏というかお散歩する。民と触れ合うのも王の大切な仕事よね♪

 

「あら? あの人だかりは……」

 

 中心に近付くと可愛い歌声と二胡の綺麗な音色が聞こえてくる。そして人ごみを掻き分け、歌声の主を見ると……。

 

 

「袁術ちゃんか……彼女には悪い事をしちゃったかも」

 

 冥琳の謀略で二人が留守の間、つまり劉備を追撃している間に蓮華達が反乱を起こし、袁術達が逃げ帰っても帰るところなど無いという、空き巣みたいな手口……。

 

 色々と頭に来る事もあったけど、正々堂々勝ち取ったものじゃないだけに罪悪感が湧く。

 

 袁術ちゃんたちの歌を聞きながら、終わるのを待つ。民達は楽しそうに歌を聞いている。これって北郷で流行ってる歌よね? なんだか力が湧いてくるような……良い歌♪

 

「わーーーーっ!」「いいぞー!」「がんばってー」

チャリンチャリンチャリン

「ありがとうなのじゃ♪」「皆さん、ありがとうございます♪」

 

 公演が終って、皆が満足そうに少ないお金や食べ物なんかを置いて行く。二人は笑顔でそんな民達に頭を下げて感謝している。

 

「ねえ、袁術ちゃん」

 

「そ、孫策!? 笑いたければ笑うが良いぞ! 一刀兄様の所に行くにも路銀が足りないから、仕方なくこうして稼いでおるのじゃ」

 

「美羽様~。くすん。それもこれも孫策さん達のせいなんですからね!」

 

 声を掛けると聞いてもいないのに理由を話してくれる。北郷の所……従姉妹の袁紹の所ね?

 

 そのくらいなら私が……。

 

ゴソゴソ

 

 ……あちゃー、さっき冥琳と一緒に飲もうと思ってお酒を買ったから、もうなかった。

 

「んー、分かったわ。そのくらいなら冥琳に頼んで上げる。私も少し後味悪いし♪」

 

「よっ! この太い腹♪ 憎いぞ、このぉ! 美羽様良かったですねぇ♪」

 

「うむ! 孫策、頼むのじゃ」

 

 はぁ……この二人、私がその原因だって事すっかり忘れてるのね。さっき自分達で言ったばかりなのに。ん? いま太いって? 気のせいかしら……。

 

「それにしても良い歌ね。北郷の国の歌でしょ?」

 

「うむ! 民に夢と希望を与える歌なのじゃ♪」

「美羽様が大好きな歌なんですよー♪」

 

 この二人もなんか感じが変わったわね。帰る家さえ今は無いのに。呉の皆とは逆に心に余裕があって楽しそう。結構良い奴だったのね♪

 

 私は二人を城に連れて行き、冥琳に訳を話してお金を貰おうと思ったんだけど……。

 

「でかしたぞ、雪蓮! この二人はいまだに抵抗する諸侯に対し、見せしめの為に処刑する」

 

「え! だめよ、冥琳! 二人はもう何も悪い事していないのよ! 袁紹の所に行くだけって……そう! それに私約束したのよ。路銀をあげるだけ。別に殺さなくっても良いじゃない」

 

「縛り上げろ」

 

 いきなり兵士に囲まれて、二人は縄で縛り上げられる。なんでなの……冥琳。

 

「うあーん、死にたく無いのじゃ。孫策ぅー、話が違うのじゃ~! 麗羽姉様ーっ!」

 

「美羽様を放しなさい! 放せっ! 孫策っ! 貴様ーっ! 純粋な美羽様を騙したのね!」

 

 袁術ちゃんが泣き、いつもニコニコしている張勲が激しい怒りを私にぶつけてくる。

 

「あとは任せてくれ、雪蓮。お陰で少し楽になりそうだ。感謝するぞ」

 

 笑顔でそう言ってくれる冥琳。でも……違う。こんなの私が望んだ国じゃない! 私が望む国は、私が好きな冥琳は……!?

 

『仕事は自分で探してきてくれ。自分に出来る事をな』

 

 私に出来る事。その時、何かが頭の中で弾けた気がした……あの時感じた何か……。

 

回想 了

 

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「……てわけで袁術ちゃん達を連れて逃げてきたってわけなの。旅の途中、あなたの国を見せてもらったわ。民の笑顔、兵士達の目、とても良い国ね」

 

「そうか。孫策、ありがとう。君は美羽の恩人だ。それで俺に何をして欲しい?」

 

 孫策がここに来る経緯を聞いた後、俺は本題にはいる。多分俺と同じ事を考えているはずだ。

 

「さっきも言った通り、冥琳を助けて欲しいの。そして呉の民も」

 

「俺は敵だぞ? 周瑜との断金の交わりに反しないか?」

 

 これは確認。

 

「だからこそ私は冥琳を救うの……絶対に。だってあんなの冥琳じゃないわ」

 

「この戦いで兵士も大勢死ぬ。君は呉を裏切る事になるけど?」

 

 そして儀式。結果が変わるわけじゃない。

 

「このまま戦ったって死ぬわ……いえ、何も残らないし、もっと酷い事になる」

 

「君が周瑜を説得しても無駄か……君を人質にしても、戦いは避けられないと。既に決戦が決まっている現状……やはり戦うしかないのか」

 

 分かっていた。もう引き返さないと決めた。それでも一筋、未練が涙となって落ちる。

 

「北郷? ……貴方泣いてるの?」

 

「ご主人様はこれから失う命を惜しみ嘆いておられるのだ。どちらも民を守る英雄。だからこそ戦わねばならないと知りながらな……」

 

 愛紗……。

 

「そうね……私達が忘れそうになる優しさだわ。仕方の無い事と割り切ってしまう。そんな持ち続ける事が難しい優しさ。孫策、あなたは良い決断をしたわ。ご主人様なら国さえ超えて、必ず貴女の大切な友人と呉の国を救ってくれるでしょう。私の心を救ってくれた時のように……」

 

 華琳……。

 

「へぇ……良い男じゃない♪ 私の真名は雪蓮よ。貴方の事はなんて呼べば良い?」

 

「好きに呼んでくれれば良いよ。俺は北郷一刀。改めてよろしく、雪蓮」

 

「じゃあ♪ かず」「「わぁーーーーっ」」

「え!? か、か」「「わぁーーーーっ」」

「……なんなの?」

 

 雪蓮が俺の名を呼ぼうとすると愛紗と華琳が遮る。何故? 二人は雪蓮になにやら耳打ちしている。そういえば一刀って呼ぶ人いないなぁ。前外史では蓮華、小蓮、大喬だけだったっけ? あー、あと愛紗にここに来る寸前に一刀様って……世界の終わりにか。全てが消える絶望……皆で勝ち取った平和が消えていく。何もかも全て無くなる……。

 

「……」

「「(ご主人様……)」」「(なるほどね……)」

 

 また考え込んでいた。顔を上げると三人とも困惑した顔で俺を見ている、これではいけない、どうやって空気を戻そうかと俺が迷っていると孫策が笑顔で言う。

 

「じゃあ、ご主人様ってのもおかしいから、なにか天の世界で違う呼び方は無いの?」

 

「北郷で良い」

「却下♪ 親しい呼び方が良いわ!」

「マスターはご主人様と一緒か……うーん、親しい呼び方ねぇ。かずピー」

「いまいち♪」

「ダーリンとかハニー?」

「それよ!」

 

「……え」

 

 適当に並べていたらお気に入りがあったみたいだけど、ハニーって少し恥かしいぞ。

 

「ええと、はにぃでいいのかしら?」

 

「もう少し伸ばす感じで」

「はにー」

 

「はきはきと!」

「ハニー」

 

「うん」

 

「ハニーね、わかったわ♪」

 

 それなのに言い方まで指導してしまう俺って一体……。

 

「ちなみにハニーとだぁりんってどうゆう意味なの?」

 

 なぜだろう。だぁりんという言葉に薄ら寒いものを感じた。貂蝉の時のような?

 

「どちらも一緒。愛しい人とか恋人みたいな意味かな。親しい人、親子でも使うよ」

 

「そ、それは、私達にぴったりね……ふふ♪(凄く良い事がありそうな予感♪)」

 

 とても楽しそうに微笑む雪蓮に、俺も嬉しい気持ちになる。

 

 ん、そういえば……雪蓮は、

 

 

「雪蓮。君は水軍の指揮は得意かな?」

 

「ええ! 元孫呉の王よ♪ 思春や祭ほどじゃないけど。得意よ、ハニー♪」

 

 任せて! と、その大きな胸を張る雪蓮。うん、これで悩みは一つ解決した。

 

「ご主人様。雪蓮の事は公表しない方が良いと思うのだけど、どちらにとっても」

 

「確かに……周瑜が何をするか分かりませんね。私も華琳殿の意見に賛成です」

 

「そうだな……」

 

「私はハニーに任せるわ」

 

 華琳の意見に愛紗が同意し俺はどうしようかと考える。雪蓮も俺に任せると全面的に信頼してくれているようだ。たしかにいきなり敵国の元王がきたんじゃ兵達も慌てるか。蔡瑁……水軍都督。うん。

 

「雪蓮。君には水軍都督、蔡瑁の偽名を使ってもらう。愛紗の副官としてつけるけど実質的な調練の主導は雪蓮が行ってくれ。兵士達を始め、一部の人間以外には孫策の名前を伏せる。ただし兵の士気向上の為、水軍の指揮が巧みな武将とだけ伝えて欲しい」

 

「「御意」」「はーい♪(冥琳と同じ都督か……気合を入れないとね!)」

 

 そして雪蓮は凄く目立つ美人なので変装してもらう。髪は後ろで束ねたまま三つ編みにして、髪飾りは外したらいけないようなので三つ編みの先の方に付け直して。変装の定番、眼鏡を掛けさせて。青い水兵服(セーラー服とも言う)を着せて。青い帽子と赤いタイも、スカートは白で。

(要するにドナ○ドダックぽい服装だと思ってください。変装は元のイメージを消すのがポイントですから!似合う似合わないはともかく)

 

 こうして偽蔡瑁、雪蓮が仲間になった。 

 

 しかし俺の単なる思い付きが、この後、更に流れを変える事になんて思ってもみなかった……。

 

……

 

鄴城 軍議室

 

「劉備が呉と同盟を結びました。涼州連合は静観の構えですが、董卓が馬騰を説得しているようです。董卓は現在、北郷に傾きつつあります」

 

「馬騰は母様と同じ漢王室の忠臣だし、朝廷を無視する北郷に尻尾は振らないわね」

 

 桂花が今回の軍議の目的を切り出し、雪蓮が馬騰の性格について説明する。

 

 でも劉備が敵対するとは……この戦いさえ終われば、あとは話し合いだけで済むと思っていたんだけど。

 

 状況的には赤壁と酷似している。北方から呉を攻めるなら、ある意味しょうがない。だから俺も水上戦に備えて色々と準備をしてきた。多分こうなるだろうと……。

 

 違うのは涼州連合がまだ健在なのと、孫策が生きていてこっちにいる事か。

 

 まあ流れの前に武将が全員女の時点でおかしいけど。(それを言ってはいけない)そうすると決戦の場所は限られる。

 

「つまり赤壁で決戦するしかないという事でしゅね、あぅ」

 

「董卓は友好的です。馬騰が何かしようとしても止めてくれるでしょう」

 

「それに馬騰は誇り高い武人だ。空き巣のような汚い真似はしないだろう」「はぅ!」

 

 雛里、愛紗、春蘭が意見を出す。春蘭の言葉に雪蓮が少し傷ついたようだ。一応、水上戦の適性が低かった二十万は留守としておいていくけど、武将は総出撃だ。不安もある。

 

「ご主人様。今回も様々な天の知識を導入されるとか。たいや、ほぉす等、素晴らしい成果を上げています。ぽんぷのお陰で水の調達も容易になり、民からは感謝の声が数多く届いております」

 

「お風呂も沸かしやすくなりましたし、びにぃるという布は水を通さない優れた性質で、雨避けの他、食べ物を包む、水を入れる等、色々応用が出来て風も驚いているのです」

 

 稟と風が最近俺の知識で再現された技術の報告をすれば、

 

 

「大将に頼まれてた絡繰なんですけど、船に積んだら重過ぎて安定せんように……」

 

「そうなのー。蒸気機関と石炭とす「こら! 沙和」むぐぐ、秘密だったね、凪ちゃん」

 

「二人の言った通り重量で船が傾きます。対策を考えねばなりません。ご主人様」

 

 真桜、沙和、凪が問題点を提起する。用意できた蒸気機関は十台だ。

 

「それに特殊な装甲船が一割ほど見受けられます。 お言い付けどうり他の船を前方に近寄らせないように注意していますが……まだ我々に教えて頂けないのですか?」

 

「ありがとう、愛紗。真桜、その重い船を中心にして六隻の同型船で囲み、間を鎖で繋ぎ、船の間を板を渡してくれ。そうすれば浮力も得られ、兵士達の船酔いも軽減する。船を繋ぐ時、愛紗の言っていた特殊な装甲船を前列の二隻に使って欲しい」

 

 愛紗が報告する港の様子に満足した後、俺は重い船の対応策を示し真桜に指示する。

 

「まずは小規模で連結して移動し、決戦の地でひとつの船に……水上要塞化する」

 

「「「「連環の計」」」」

 

「ご主人様、その状態で、もし敵に火で攻められては逃げ場がありません」

 

 軍師四人の言葉が揃い、秋蘭が連環の計の弱点を進言してくれる。が、軍師達は何も言わない。

 

「なるほど、それであの絡繰なのですね。ご主人様の策に感服しましたわ(サラサラ)」

 

「そして決戦の予定は冬、北西の風が吹く冬なら北に位置する私達に火計は無理ね」

 

 麗羽が髪を掻き流しながら俺の策を理解し、華琳が情報から掴んだ天候の情報を説明しながら自分の考えを述べる。

 

 そう、俺は知っている。東南の風が吹く前に北西の風が吹いて周瑜を悩ませていた事も。そして東南の風がいつ吹くのかを諸葛亮孔明が知っている事も……。

 

「ご主人様、今回はボク達も連れて行ってくれるんですか?」

 

「季衣ったら、あのっ、私も一生懸命頑張ります!」

 

 季衣と流琉が目を輝かせて闘志を燃やす。俺は二人の頭を撫でながら、

 

「ああ! 二人がいないと始まらない。よろしくね」

 

「「はい!」」

 

「アニキ! アタイも頑張るぜ! 水上戦で役に立つ弓も得意だしな♪」

 

「文ちゃん、いいなぁ。私は余り役に立てないかも……」

 

 猪々子が得意そうに胸を反らし、それを羨ましそうに見る斗詩が、自分の人差し指を咥えるて可愛く拗ねる。

 

「そんな事ないよ、斗詩。今回は船での長旅になる。斗詩の美味しい料理を期待してる」

 

「はい♪」

 

「そうだぞ~斗詩」

「私もお料理頑張ります!」「華琳もご主人様の為に♪」「わ、私も頑張ります!」

 

 皆さん集まりすぎです。斗詩に対抗した流琉と華琳と雛里が料理人魂を燃やしていると、

 

「御遣い様、今回はちぃ達も行って良いんですか?」

「余りお役に立てないのでは……」

「私達は歌うだけだよー♪ ね? 御遣い様」

 

「うん、頼むよ。長い旅になるから、君達の歌を聞かせて欲しい」

 

「はい!」「はい」「はーい♪」

 

 天地人☆姉妹が不安そうに同行の許可を求める。長女は相変わらずだが、俺が歌を聞かせて欲しいと頼むと、三人とも嬉しそうに顔を綻ばせる。って、あれ?

 

「腕がなるな、愛紗よ。私達が先陣だ! 船の向こう側まで突き破ってくれるっ!」

 

「ああ! 我等を止められるモノなどいる訳が無い! 存分に春蘭と暴れよう!」

 

「うむ!」

 

 いつの間にか俺のすぐ後ろまで来て、忠臣二人が揃ってアピールするので、両手を使い同時に頭を優しく撫でて上げる。

 

「ああ、頼りにしてるよ」

「(ご主人様ぁ♪)」「(これは癖になりそうだ♪)」

 

「あ、そうだ。春蘭、あれは?」

 

「はい! いつも肌身離さず持っています! このご主人様のお守りですね」

 

 ふと気になったので確認すると、春蘭が嬉々として懐からあの時の品物を取り出す。

 

 

「姉者、それは?」

 

「さんぐらすと言ってとても不思議な眼鏡だ。眩しい日差しを防いでくれる上に、眼も守ってくれる。それに軽く、掛けていて気にならない。この世界で私のために作られた、ただひとつの大切な物だ!」

 

 珍しい眼鏡と聞いてキラリと、稟、沙和、人和の目が光る。真桜は作者な為ニヤニヤ。

 

「それは興味深い」

「かけてみて欲しいのー♪」

「春蘭様、お願いします」

 

「うむ!」

 

 嬉しそうにサングラスを掛ける春蘭。俺の意匠のサングラス……。ぶっちゃけると早い話がガーゴイルのバリスティックサングラス。ターミネーター役のあの方が付けていた目を覆うタイプのものだ。現在研究中のプラスチックを使い、鉄の数十倍の強さを持つと言うポリカーボネイトもどきのレンズの裏に、薄い金属を蒸着してミラータイプにしてある。

 

――――。

 

 静まり返る室内。

 

 ……似合ってるけど、どう見ても悪役。て言うか似合いすぎ……全員の目がそう言っていた。たーみねーちゃん……みたいな? そう言えばあの方も、おでこを全開に出していたっけ。

 

「どうだ?」

「とてもすごくつよそう」

 

「おお! そうか! 恋、ありがとう♪」

 

「春蘭様、カッコイイです!」

「おお! 余りにお似合いで意識が飛んでしまいました」

「……凛々しい姉者」

 

 春蘭の問いに誰よりも早く恋が答える。秋蘭は恍惚としている……大丈夫だろうか?

 

 恋と春蘭の仲も修復されたし、皆に好評な様で良かった。意図的じゃないけど。

 

……

 

 その後、風土病などを雪蓮に詳しく聞き、薬などを十分用意して俺達の船団は出発する。三十万から選抜した兵士十万と秘密を満載した北郷水軍は、南の決戦の地、赤壁へと進む。留守を守るのは桂花と稟、兵士二十万。そして美羽と七乃さん。

 

……

 

「さて、稟。私達の役目を果たしましょうか。呉と蜀の同盟を妨害するわよ」

 

「ふふ。我々北郷に離間の計は効かずとも、寄せ集めの孫呉や、視野の狭い劉備には効果が期待できるでしょう。私はご主人様の為ならば何でもしてみせます」

 

「あら、気が合うわね?」

「仲間ではありませんか。桂花殿」

 

「「ふふふ」」

 

 桂花と稟の離間の計……孫策は周瑜と仲違いをして呉を飛び出した。と、流しただけの初歩的な流言。そしてある意味で事実。それは確実に劉備の弱点を捉える……。

 

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 補足 史実よりペースが速いため、兵士はどの陣営も降伏した兵以外、余り増えていません。これは北郷一刀の狙いの一つであり、計画を急ぐ理由でもあります。演義で赤壁は曹操軍、百万の兵士が動員されました。また大敗したため、かなりの死傷者が出たのです。

 

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建業 玉座の間

 

/周瑜視点

 

十月

 

「呉で出せる兵士は全部で六万、蜀からの援軍が二万。北郷十万に対して八万か……」

 

 現在、孫呉は完全には纏まってはおらず、隙あらば反乱を起こそうとする各地の監視の為にも八万全部を出すわけにも行かない。

 

 戦況を分析し顔を顰める。総数三十万を抱えながら二十万を守りに置くとは……。何か秘策でも……? この程度の差なら何とか押し返せる。水上戦に不慣れな北郷軍など脅威ではない。だが相手はあの天の御遣いだ……。一体どんな策を隠しているのやら。自分の体が震えるのが分かる。

 

 ふと隣を見ても雪蓮はいない……袁術の公開処刑の日、袁術達を連れて行方を眩ませた。気落ちする私を見かねた蓮華様は、雪蓮の部屋に残されていた南海覇王を自ら手に取り、これからは自分が王となり皆を纏めると宣言してくれた。

 

 だから私は、今は全力で蓮華様を支えようと決めた。

 

 大喬と小喬も雪蓮がいなくなってから元気が無い。いや、私が一番落ち込んでいる。

 

「周瑜様、北郷軍に優秀な水軍都督、蔡瑁と言う武将がいるようです。大将軍関羽の副官として、南下中の船上で訓練をしていると情報を掴みました。更に複数の船を鎖で繋ぎ合わせる事で兵士達の船酔いを防ぐ連環の計と言う策を、天の御遣いが考え出したとの事です」

 

 間諜からの情報が入り、私は大都督の顔に戻る。連環の計……船を繋ぎ合わせているのは好都合だが……。

 

「やはりか。しかし決戦の予定は冬。北西の風が吹き風下の南である孫呉は圧倒的に不利。頼みの錬度も蔡瑁にひっくり返されてしまう恐れがあるか……幼平」

 

「はいっ!」

 

「北郷軍の蔡瑁を消して欲しい。だが北郷に見つかるな。お前は顔を知られている」

 

「どのような人物なのですか? 特徴等はどうなのでしょう?」

 

「青い服と青い帽子、首に赤い布を巻き、眼鏡を掛けていて髪は長く後ろで三つ編みにしている女の武将ということだ。間諜から似顔絵をもらってくれ」

 

「お任せくださいっ!」シュッ

 

 北郷に離間の計は効かぬ。並大抵の刺客では戻ってこない。だが流石に船の上にまで猫はいないだろう。幼平ならば問題ない。船がある程度繋がっているなら進入もたやすい筈。

 

 北郷を直接消せれば楽なのだが……あの赤い童がいるのでは興覇でも無理だろう。

 

 そして一ヶ月が過ぎる……。

 

……

 

十一月

 

「公謹様、ただいま戻りました。頸は持ち帰れませんでしたが、これを……」

 

「確かに斬ったのか?」

 

「はい」

 

「良くやってくれた。休んでくれ」

 

「失礼します」

 

 厳重な守りの北郷軍から無事生還し命令を実行した隠密幼平に感謝して、袋の中身を確認する。

 

ガサッ

 

「……この匂い。まさか!? まさか、この髪飾り。雪……蓮? あぁ雪蓮!」

 

 袋から出てきた淡い桃色の髪……結われていたから最初は分からなかった。でも体を重ねた私には分かる。……この髪の匂い……そしていつも付けていた髪飾り。答えはひとつしかない……。

 

 髪飾りには血が付いている。刃物でばっさりと無造作に切られた彼女の長い髪。そして黒く変色した血の跡……。

 

「私が殺させたのか……? ああ……なんてこと……だ、雪蓮。雪蓮。しぇれ……ん」

 

 蔡瑁は雪蓮だった? ……理由等分からない。だが殺したのは私……私が雪蓮を……。

 

……

 

 私はこのとき何かが壊れたのかも知れない。涙などもう枯れた。私は一番大切なものを自ら壊したのだから……後は自らを壊すだけ。

 

「……最早、我が祈り果たせず。北郷を打ち倒すのみ。その先などは無い……」

 

 私は雪蓮の髪と髪飾りを大切に自分の胸に抱いた。やっと彼女が自分の許に帰って来たような気がして……。

 

 

 両軍は、長江に沿う赤壁で遂に対峙した。季節は十一月下旬の冬。

 

長江沿い赤壁南 岸辺にある呉の軍営

 

/周瑜視点

 

 蜀から援軍に来たのは、劉備、諸葛亮、張飛、黄忠、厳顔、魏延、兵士二万。

 

 趙雲と公孫賛は蜀の守備か。北郷にはまだ二十万の兵と筆頭軍師荀彧がいるし、仕方が無い。

 

「孫権さん、お久しぶりです。……孫策さんはどうされたんですか?」

 

「良く来てくれたな、劉備。姉、孫策は現在行方不明だ。身内の恥かもしれんが見つからないのだ。だが、今は私が呉の王。姉は関係ない」

 

「……」

 

 雪蓮の死は私の中だけに留めておく……幼平も気付いていないし、戦の前にこの事を話しては衝撃が大きすぎる。それに殺す決断を下したのは……。

 

 対岸に浮かぶ北郷の水上要塞を眺めながら諸葛亮が呟く。

 

「それにしても大きいですね……あれだけ大きければ大波でも揺れないでしょう」

 

「……なんじゃ。また軍議か。下手な軍議、休むに似たりじゃな」

 

 そこに祭殿が一芝居をうちに来る。あの水上要塞を破る『火』計、苦肉の策の為に。

 

「黙れ黄蓋。たかが前線の一指揮官が、偉そうな口を叩くな」

 

「……ほお。公謹よ。この儂に喧嘩を売っているらしいな?」

 

「口の利き方に気を付けろ、下郎。私は呉の大都督。貴様は我が命(めい)を犬コロのように待って居れば良い」

 

「犬コロじゃと!? 我等前線の将が命を的にして戦っていたからこそ、呉は強国としてのし上がったのじゃぞ! それを犬コロとは……公謹! 貴様文官の分際で我等を馬鹿にするなど、傲慢にもほどがあるぞ!」

 

「黙れ! 呉の手足でしか無い貴様等が、呉の頭脳である私に反論するな! 己の身分を弁えろ!」

 

「身分じゃと……汗に濡れ、血を流し……呉の繁栄の為に命を賭けて来た我等武将を犬コロ扱いすることが、貴様の言う身分の違いか! 我等が殿の囲い者が前主の寵愛を笠に着てよくぞ言うた! 頭脳よりも肉体を駆使して策殿に取り入った薄汚い売女風情が! 誇り高き我等武人を愚弄するなど百年早いわ!」

 

「!? ……なんだとぉ、貴様っ!?」

 

「失せろ、売女! 貴様なんぞ、呉には要らん!」

 

「言うに事欠いて私を売女呼ばわりか……! もう良い! 黄蓋! 貴様の役を剥ぐ! 一兵卒として戦場で死ね!」

 

「……儂を一兵卒に落とすじゃと……!」

 

「上官に対する侮辱、命令不服従、前王孫策を冒涜する発言……役を剥ぐには充分な理由だ。失せろ、黄蓋。自分の天幕に戻り謹慎していろ……この戦いが終わった後、貴様に正式な罰を通達する……誰かある!」

 

 互いに打ち合わせた訳でもなく、この策は進む。雪蓮の事で少し感情が入ってしまう。

 

「……は、はいっ!」

 

「あ、あのぉ~……」

 

 幼平が返事をして走り寄ると、劉備が声を掛けてくる。

 

「……何だ?」

 

「この時期に喧嘩するの、良くないと思うんですけど……(孫策さんとも……?)」

 

 味方ですら騙さなければこの策は成功しない。

 

「……劉備よ。いくら同盟したとはいえ、呉の内部の事に口を出さないでもらおう」

 

「……(やっぱりあの噂は本当だったんだ。こんな人達、信用出来ない)」

 

「桃香様になんて口を利く! この不仲が戦況に響くとご心配されているんだぞ!」

 

 私の言葉に黙り込む劉備。それを見た魏延の怒りに蜀の面々がいっせいに頷く。

 

「……今日はこれで軍事行動は終了する。各員は陣地に戻って休養しておいてくれ」

 

……

 

 その夜、諸葛亮が私の天幕に来てこう告げた。

 

「桃香様は……先程の軍議を不服として蜀に戻りました。私と黄忠、厳顔、兵士一万が残ってお手伝いします……私はお止めしたのですが……」

 

 こんなに早く見切りを付けられるとはな。劉備、強かな女だ。だが追いかける事も出来ぬ。

 

 東南の風も吹かぬし、天は我を見放したか。

 

「周瑜さん。貴方の悩みは東南の風が吹かない事ですね?」

 

「!? なぜそれを……」

 

 すると諸葛亮がその掌を私に見せる……そこには『火』の文字。

 

「すぐに祭壇を築いてください。三日後、十一月二十二日に東南の風を吹かせましょう」

 

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 諸説ありますが、東南の風、11月下旬説(20~22日)を使わせて頂きます。

 

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 後編へ続く

 


 
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