No.990834

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第032話

どうも皆さんこんにち"は"。

前作は王冠をいただき、また小説週間ランキングでは31話が1位取っていました。私が思っていた以上に、呂北伝を読んで下さる方がいて、大変うれしく思います。

さて今回は軽い打ち上げ回です。

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2019-04-22 14:06:44 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:980   閲覧ユーザー数:875

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第032話「宴の始まり」

 義勇軍の食糧問題は夢音が受け持つこととなり、天幕内に残るのは一刀と張宝のみとなった。

張宝には今の状況が理解できていなかった。姉や妹、自分は討ち取られた。しかし自分は生きている。だが死んでいる。逸れた姉や妹も生きているかも知れない。だが討ち取られたかもしれない。何処かで捕まっているかも知れない、自分はどうすればいいのか。何が正解なのか。

そんなことを考えていると、一刀が話しかける。

「張宝。今君が関羽から聞いたセリフで何を考えているかは大まかに想像が付く。だが一旦落ち着け。その疑問に全て答えてやるから」

一刀は点てなおした新しい茶を張宝の前に置くと、冬でもないのに震える張宝は、そっと湯呑みを手に持って茶を啜った。

「まず君たちが討ち取られた件だが、君たちは自分たちの手配書を見たことがあるか?」

張宝は首を横に振らせると、一刀は手配書を取り出し机に広げて見せる。

「ちょっと、なによこれ‼こんな毛むくじゃらな男たちがちー達だっていうの‼?」

手配書に書かれた人相は、似ても似つかぬ毛むくじゃらの大男達であり、その下にはそれぞれ張角、張宝、張梁と書かれていた。そのあまりさ加減に、今し方震えていた張宝も声を反論する様に声を挙げ荒げてしまう。

「そういうことだ。今張宝生存の事実を知っているのは、俺とさっき出ていった成簾だけだ。だが言ったように、君の命は俺の手の内。俺が今からでも申請すれば、手柄は俺の物。君は都に送られ処刑される」

その言葉に張宝はまた絶望を感じ、肩を落とす。一刀は手を後ろに組んで立ち上がり、歩き回る。

「張宝。君は何の為に歌っていた?」

そんな何気ない言葉に、張宝は素直に答える。

「......ちー達は、大陸一の歌手になる為に歌っていたのよ。三人で歌の天下を取る為に。みんなの記憶にちー達の歌を記憶させる為に歌っていたのよ」

「だったらその願い、俺の下で叶える気はないか?」

その一刀の提案に、彼女は彼の方に向き直る。

「いいや、大陸なんて小さい。大陸を越えた全ての民族に君の歌を記憶させる気はないか?」

「大陸を越えた、全ての民族に?」

それから張宝は一刀の語る理想と計画。それに伴う準備の一部を聞かされた。あまりにも無茶で、あまりにも壮大で、想像するのもままならない考えの前に、張宝は放心した後に気持ちが高揚していく。そして一つの問いを呂北に投げかけた。

「ねぇ呂北、一つ聞いていい。ちー達を襲った官軍達、あいつらはアンタの仲間だったのでしょ。何故殺したの?」

「なんだそんなことか。あいつらはお前の部下を。そして俺の部下を”決して言ってはならない言葉”で揶揄した。言葉という暴力で人の尊厳を犯した。それだけだ」

一刀の言葉通り、張宝が連れていた韓仲は、鮮卑人と匈奴人の子で奴隷として売られていたが、奴隷商から脱獄し、やがて生きる為に腕を磨いているうちに、その腕を見込まれて張三姉妹の護衛となった。歌一つで這い上がってきた三姉妹は、腕一つで這い上がってきた韓仲に対しある種の共感を覚えて、他の支援者と分け隔てなく彼女と接した。そんな三姉妹に恩義を感じ、やがて韓仲も三姉妹に忠誠を尽くすようになる。

「......いいわ。......わかった、ちーの歌声、呂北、あんたに貸してあげる。感謝なさい。その代わり条件があるわ。ちーの姉さんと妹の行方を捜して欲しいの。そして平和(ピンフ)・韓仲を引き続き私の護衛に。それが条件よ」

「いいだろう。だがな、護衛なんて生温いことなんてさせない。いずれはお前の正式な将として重用してやろう。あれ程の主君の為に生きる忠臣だ。多少の無茶は耐えきって立派な将に育ってくれる筈だ。君が俺の下に来てくれるのであれば、正式に俺の仲間だ。俺の真名は一刀だ。受け取ってくれ」

「ちーの真名は地和(ちーほう)よ。覚悟しなさい一刀。すぐに私の歌でメロメロにしてあげるのだから」

「あぁ、楽しみにしているよ。まずはな地和、君と韓仲には身割れを防ぐために今の名を捨てて、新たな名前を与えなければならない」

一刀は顎に手を置いて少し考えた後に口を開いた。

袁渙(えんかん)。姓を袁、名を渙、字を曜卿(ようけい)と名乗れ。韓仲は魏続(ぎぞく)、字を元明と名乗ると言い」

「袁渙......魏続......。良い名前ね。いいわ、ちーの姓は袁、名を渙、字を曜卿。これからは主、呂北の為に働いてあげる。だからアンタも早く領土を広げて、ちーの歌う場所を用意してね」

「了解した。呆れられないようせいぜい精進するさ。さて地和、早速だが君の望みを叶えてやろう。君の姉と妹は無事だ」

「え?」

一刀の言葉で、地和の頭では安堵と喜びが駆け巡る。

「俺らの軍とは別に、曹操軍が保護した。先の君たちの顔が割れていた件で、本当に情報を掴んでいたのは俺たちと曹操軍だけらしい。頭首である曹操自身も賢明な人物。君の姉妹を邪険に扱うことはしない」

「.........よかった。お姉ちゃん達が生きていてくれて......」

地和はハラハラと涙を流してその場に膝をついて腰を抜かせる。一刀は膝をついて地和に向かいなおす。

「だがな、地和心して聞けよ。今はまだ、君は姉妹に会うことは叶わないぞ。如何せん君達姉妹は有名になり過ぎた。いくら黄巾首謀者が盗伐されたとの報が巡ったとしても、いつどこで君たちが生きているという情報が流れるかもわからない。そういう意味で君達姉妹が分断して別れたことはある意味好条件でもある。今は耐え忍んで、いつか巡り合うその日に備えておけ」

一刀の言葉に何処かやるせなさを感じつつも、そこは地和も我慢して素直に頷いてみせた。

「だがな地和、これはある意味いい機会でもあるぞ」

「.........どういう意味?」

「いいか、君達姉妹は今まで一つの歌い手組織として活動をしていた。だが別れたということは、君と姉と妹は歌において好手敵になるということだ。好手敵というのは、ただ戦いあえばいいという関係ではない。互いの技量を競い、そして高めあう関係でもある。君が再び姉妹と会った時は、彼女たちは歌で高めあう好手的になり得る。その時、自分がどれ程成長したかを姉や妹に見せればと思うと......それも一つの会う楽しみになるとは思わないか?」

地和は考えた。今までは自分を褒めてくれる姉や、我儘を聞いてくれる妹がいる環境に居て、二人に頼りっぱなしであった。今回、二人と逸れ、自分の力で逃げて、自分の力で交渉し、自分の力で生き残った。初めて誰にも頼らずことを運ぶことが出来た。なればこそこれからも自らの力でどうにか出来るのではないか。歌手としても成長できるのではないかと思った。

「......それもそうね。今はまだ二人に会うのはよしておくわ。でもね一刀、せめて二人に私が無事でいることだけは伝えてくれない?心配性な姉さんと妹だから」

「それぐらいならお安い御用だ。地和これからもよろしく頼む」

こうして一刀は目的である黄巾軍首謀者の一人、袁渙こと張宝・地和とその部下韓仲・魏続を呂北軍に迎え入れたのであった。

 

そして一時を過ぎたころ、何進を筆頭とする黄巾盗伐軍は洛陽に凱旋すると、洛陽の民が軍を総出で迎える。民の称賛の声に、さも当然の如く威張っている者もいれば、大した手柄も起こしていないにも関わらず、自分の手柄の如く振る舞う輩。特に気にせずに闊歩する者もいれば、迎えられることに慣れていなく狼狽する者もいる。

17万の軍である為に、主な人材を除き残りは洛陽の外にて待機となったが、それでも洛陽は普段の不況を感じさせない程沸きに沸いていた。

その日軍は都に駐屯し、後日恩賞の贈呈の為に改めて昇ることになる。この時、駐屯する盗伐軍諸将の兵の殆どは、都外にて待機か、最低限護衛を残してそれぞれに副将に命じて国に帰還させた。その理由としては資金と兵糧不足である。名を挙げたさにただでさえジリ貧の状態にて連合に参加した者も少なくない。

現に名こそ出てきてはいないが、劉備軍の様に各諸将の下に付き、義勇軍として参加した者達もいる。だが大した手柄を出せなかった軍や、実際に雇いられなかった軍は早々に撤退している。その様な理由もあり、現在洛陽に駐屯している軍は10万程であるだろう。

無論、資金や兵糧が潤沢な呂北軍や曹操軍、王朝軍はそのまま駐屯を続けている。一刀は洛陽にて土地を持っている為に、呂北軍をその地に駐屯させている。また前祝と称して、連合に参加した主だった将を招待して宴会を催していた。

「皆さん今回はよく戦ってくれました。皆さんの武勇にて群れた賊徒共は蹂躙され、再びこの大陸に安堵と栄華、繁栄が齎されることでしょう。今宵は英気を養い、しっとりと飲み明かしてください。それでは.........乾杯‼‼」

一刀司会の下、呂北街はお祭り騒ぎに盛り上がった。各諸将の接待に見麗しい遊女や顔の配膳に整った執事を配置することで、さながら現代版ピンクコンパニオンの様である。

しかしながら諸将の中には女性もいれば、その様な会合を楽しめない者もいる。そういった者達には、酒と美食を楽しむ別館を用意していた。

「わわわ、わ、私達がこんなところに来ていいのでしょうか?」

次々と目の前に出されてくる高級料理に、劉備は未だに箸を付けることに躊躇しているが、隣で座っている華琳は、その美食に舌を打っていた。

「いいのではなくて。どうせ皆騒がしい席の方がお好みなのだから、私たちは優雅に美食に酔いしれればいいじゃない。見てみなさい。張飛は気にせずに皿を平らげているわよ」

殆どの者は前記に記した華琳の語る『騒がしい方』に参加した為に、別席の方には大分と言っていいほど空席が目立ってしまった。そこで一刀は、この場に参加した諸将の臣下にも召集をかけた。曹操軍からは華琳を始めとして、夏侯淵と徐晃が出席し、劉備軍も一時的な傘下に加わっている為に、劉備・関羽・張飛が参加していた。ちなみに夢音は地和・平和の護衛と監視の為に参加していない。

多少の遠慮はしつつ、控えめに箸を動かす夏侯淵達に対し、霞の様に酒を樽で飲む者もいれば、張飛や隴の様に大食い勝負を繰り広げる者も出始めた為に、同じように淑やかな席から『騒がしい方』に変わりつつあった。

張飛の行動に、劉備は苦笑いし、関羽は頭を抱えていた。

「どうだ華琳、劉備。楽しんでいるか?」

騒がしい方の司会を終えた一刀が白華を伴って様子を見に来た為に、華琳は平然としており、曹操配下の将と関羽は頭を下げ、釣られて劉備も頭を下げる。

「りょ、呂北様すみません。ウチの妹が騒がしくしてしまい」

「.........?なんの事だ?隅で大人しく隴と料理を食べているが?」

関羽の謝罪を聞いて、首を傾げる一刀を見て、劉備と関羽が二人で首を向けると、淑やかに料理を食べている隴と、隅っこに移動して出来るだけ一刀の視界に入らない様にしている張飛であった。

そんな二人にそれぞれ隴には夜桜と留梨が冷やかしに行き、いきなり大人しくなった張飛には霞が席に引き釣り出そうとする。

そんな光景はやがてエスカレートしていき、淑やかな宴席はより混沌さを増していく。

「関羽ちゃん、今回は大手柄だったな。黄巾軍一の武将を討ち取ったんだ。きっと高い恩賞が期待できるぞ。劉備も鼻が高いだろう」

「はい。流石愛紗ちゃんです」

一刀と劉備のその言葉に、関羽は照れて頬を染める。

「華琳ちゃんの軍も、張角・張梁を討ったのよね。流石だわ」

「当然よ。私とウチの子がいればこれぐらいの成果はどうということはないわ。でしょう?」

「愚問です華琳様」

「ん。シャンも頑張った」

華琳の問いに然もありなんと答える様に、夏侯淵も徐晃も返答する。

「そう。まだまだ料理も沢山あるから、遠慮せずに食べてね。あら霞ちゃん。いm――」

白華はその場を後にし、別の場所に向かった。

一刀は華琳に酌をすると、彼女はそれを素直に受け取る。

「華琳、報酬の分配は手筈通りだな」

「ええ。本当は全て欲しかったのだけども、貴方相手に喧嘩を吹っ掛ける程私も馬鹿ではないわ」

「よく言う。報酬の三分の二は君の懐じゃないか」

「あら、だったら今からでも奪いに来てもいいのよ?」

華琳は返杯をしながら一刀に問うと、彼は一つ含み笑いを零してから答える。

「やめておくさ。君の所とやりあったら、どの様な結果になっても無傷では済まなさそうだ」

「あら、それはどんな結果かしらね」

「それはやりあってみないことにはわからないな」

二人は互いに含み笑いを返しあい、一刀は酒を一気に煽ると華琳は小さく拍手を返す。

「なかなかお強いこと。もう一杯いくかしら?」

「いや、まだ他にも回らなければならない所もあるから、今日は失礼するよ。いつか殺伐とした場の後ではなく、穏やかな時の後で飲みたいものだ」

「そうね。その時は貴方を酔い潰そうかしら」

「おいおい、酔い潰して何をするつもりだ?」

「無論、ナニをするつもりよ」

華琳のどうどうとした誘いに、臣下である夏侯淵と徐晃が驚愕の表情を浮かべ、一刀はまた薄く笑う。

「なるほど。それまでにもっと女を磨いておいてくれよ」

「あら、私程いい女はそうそういなくてよ」

「いるだろう。いつも俺の隣には虞美人も逃げ出す様ないい女が」

「......貴女を篭絡するには時間がかかりそうね」

「大丈夫。仮に出来ても、永遠に一番はウチの女房だから」

一刀の惚気と華琳の挑発。二人は冗談をある程度交わした後、一刀も宴席を去った。

「.........華琳様、もしかして華琳様は――?」

夏侯淵は華琳に酌を施すと、恐る恐ると言った感じで華琳に質問し、盃片手の華琳は微笑を零すと、そのまま酒を煽った。

 

【一刀、私は貴方を欲しくなってしまったわ。大きくなりなさい。欲しい獲物は大きくなればなるほど、捕らえがいがあるという物よ】

華琳は高鳴る欲求と共に、酌された酒を一気に飲み干した。

 


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