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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第033話

どうも皆さんこんにち"は"。
二連休でしたので、新作仕上げました。
昨日は1日の大半を寝て過ごしてしまい、若干無駄にした気分でした。
疲れていたのかな?私......。

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2019-04-26 19:06:13 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:790   閲覧ユーザー数:700

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第033話「淡い目覚め」

 黄巾軍が盗伐され、盗伐連合が洛陽にて前祝に酔いしれている頃、呂北軍の将達は洛陽の呂北亭にて滞在しており、その一室にて郷里は一人滞在している部屋にて姿見を利用して自身の顔を見つめており、未だに白華(パイファ)に戦場で貰った仮面を付けている。今回宴会に参加しなかったのは、白華が郷里の体に気を使ったことに他ならない。

宴席では大抵酒が出てくる。体の一部が化膿していたり、腫れていたり、内出血や骨折を起していれば、基本的にアルコールは控えなければならない。

この時代の酒のアルコール度数は低くはあるが、それでも基本的には酒の摂取は控えなければならない。そういった理由も相まって控えさせた。無論これは郷里に限ったことではないが、今日の郷里にとってはその命令はありがたかった。

郷里は震える手でそっと仮面を取り外す。固まった血痕の影響で、顔に張り付いた仮面から完全に水分を無くし、乾ききった枯葉を踏み鳴らす様な音が聞こえてくる。

額から瞼、頬にかけて化膿して晴れ上がり充血しており、郷里は震える手で傷口をなぞる。下唇を噛んで、感情をわななかせながら瞳に涙を浮かべるが、自身で用意した手ぬぐいと水桶で治療を施そうとした時、外から部屋の扉が叩かれる。

「郷里いるか?俺だが」

「ご、ご主人様!?」

慌てふためく郷里は咄嗟に先程外した仮面を取り付けると、一刀に返答する。

「し、失礼しました‼‼どうぞ」

通常であれば主の訪問には自らが出迎える郷里であったが、意表をつくその登場にていつもの流れを忘れてしまいジッと椅子で固まっていた。

入ってきた一刀の手には、出来立てなのか湯気の立った料理があった。

「よう。飯まだだったろ。適当に作ってきたぞ」

自らの主が自分の為に料理を作ってきてくれることなど、主従関係の世が常である臣下としてはこれ以上の無い名誉であり、”臣下としては”喜ばしいことであったが、今は遠慮して欲しかった。

「あ、ありがとうございます。後で頂きますので、適当な場所に置いて下さいませんか」

小さく会釈しそう告げるが、一刀は小さく呆れた様にため息を吐いた。

「あのなぁ、なんで俺が二人分の料理を持ってきていると思っているんだ?」

たしかに一刀の片手には、執事の様に手の指と手のひらを器用に使い二人分の料理を持たれている。そんな一刀の行動に、如何にして断わろうかと言葉を考えるも、何も思いつかなかった為に、郷里が意味の分からない単語を呟いている間に、一刀は了承も取らず部屋に入り机に料理を置く。

「郷里、傷はどうだ?」

「え、あ、いや、特に問題な、く」

「本当か?見せろ」

「え、い、嫌っ‼‼」

郷里は顔の仮面に手をかけようとした一刀の手を拒絶した。咄嗟に出た行動に、深い後悔を抱えながらも、自身の体を抱き留める様にして背中を丸くした。

そんな郷里の体を強引に自身の方向を向かせ、そして無理に仮面を剥ぎ取る強硬策を一刀は実行した。武将としてそれなりの場数を踏んできた郷里であったが、歴戦の強者である一刀に力でかなうはずも無く、両手を抑えられた郷里は自身の顔を伏せることも不可能になり、絶対に見せたくない人物にその腫れあがった顔を見せることになった。

その瞬間、郷里の目から頬にかけて涙が伝う。自身は軍師である前に、一刀に仕える一人の兵士でもある。戦場に出れば傷つくこともあるのは、郷里自身覚悟はしている。だが、女性としては、一刀にこの様な姿を見せたくは無かった。自身の主として、また人として、異性として敬愛し、尊敬している彼にだけは、醜い自身の姿だけは一番見せたく無かった。咄嗟に最後の抵抗とばかりに一刀には傷ついている姿を見せない様に顔を背けるが、それでも一刀は無理に顔を引き寄せる。

郷里は耐えきれなくなり、自身の瞼を閉じる。軽蔑されたのではないだろうか。嫌われたのではないだろうか。鼻で笑われるのではないだろうか。そんな負の感情が思考を埋め尽くす中、一刀は予想外の一言を言う。

「......奇麗だ――」

そう聞こえた瞬間、郷里は片眼をそっと開けて、一刀の方を見た。その時、一刀は郷里を拘束から解放すると、彼女に頭を下げる。

「郷里.........すまん.........」

彼女が見た初めての光景である。基本的に誰かが一刀に対して頭を下げる光景は幾度も目撃してきたが、一刀が頭を下げて来るのを見たのはこの時が初めてである。

「......女性にとって、顔と髪は命も同然。白華を守るためとはいえ、お前にこの様な仕打ちを与えてしまった。......本当に申し訳ない」

深々と頭を下げる一刀の行動に対し、普段であれば咄嗟に出てくる様な主を気遣う言葉が出てこない。郷里の内心は未だに主の予想外の行動に狼狽しつつ、ただ行動を見守るだけであり、一刀は言葉を続ける。

「だがな郷里。俺はお前を、その傷を誇りに思う。それは白華を守る為に出来た傷。いくら武人とはいえ、女性が自身の顔の事を構わず誰かを守る。普通であれば出来ない。改めて言う俺はそんなお前を誇りに思う。その傷は決して恥ずかしい物ではない」

その瞬間、何時もはあまり表情を変えない郷里の顔が歪んでしまう。そして大粒の涙を次々と流す彼女を一刀はそっと抱き留め、嗚咽を漏らし泣く彼女をそっとあやした。

「その傷は決して恥ずかしい物ではない。誰もお前を笑ったりはしない。......いいや、誰であろうと、この俺が笑わせない。他の誰も気づかないとしても、俺はお前の行ない絶対に忘れない。お前の覚悟を。常に弱音を見せず、気丈に振る舞う姿勢を。だがな、もし自身に課した郷に潰されそうになったら、俺の所に来い。その時は俺の胸を貸してやる。幾らでも吐露を聞いてやる。お前は決して一人ではない。だからな、もっと自分を大事にしてくれ」

郷里の嗚咽は号泣へと変わり、胸に蹲っていた体制は、一刀の体へのしがみつきに変わった。それからしばらく、郷里は駄々を捏ねた子供の様に泣き腫らし、そんな彼女の背中を、一刀はそっと抱き留め、背中を撫でながらあやすのであった。

 

 やがて一刀の持ってきた料理が冷めてしまった頃に、ようやく郷里は泣き止み、鼻声になりながらも一刀に謝罪する。

「.........みっどもない姿(ずがだ)()見せして、申し訳(もうじわげ)ありまぜんでじだ」

未だに喉の調子も取り戻さない郷里であったが、一刀は何処か満足した様ににこやかな表情をしている。

「いやいや、郷里の可愛い表情も見れたし、何より腰に当たる柔らかい感触も堪能できたし、いうことなしだったさ」

蝋燭灯る部屋であるのに、何故か一刀の歯は光、郷里は顔じゅうから内出血を起こすのではないであろうかと言うほど赤くなり、そして胸を抑える。郷里は同世代に比べれば、乳房は大きい部類に入る。機敏に動く際も、乳房の重さに重心が歪みかけることも時たまある為に、通常はサラシを巻いてその反動を抑えているものの、それでも体格と合わない大きさの為に、サラシを巻いていても若干その大きさは目立ち、何より最近は肩コリが酷くなってきている。そんな悩ましい思いを持つ19の乙女だが、敬愛する主にそれを指摘され、穴があれば入りたい思いであった。

「郷里、顔を出せ。消毒してやるから」

一刀は薬草を取り出し磨り潰しだす。そして潰した薬草を手ぬぐいに包み、水を含ませ絞り出す。

「.........手慣れていらっしゃいますね」

「まぁな。恋が遊びに行っては、傷だらけになって帰ってきた時に、こうして治療したもんだ。ほら、傷を見せろ」

傷口を濡れた手ぬぐいで抑えていた手を退かせ、郷里は自身の手を膝に乗せる。傷に薬液が染みると、若干苦悶の表情を浮かべるが、それでも動かぬ様に我慢する。扶風に来て数年経ち軍にいるが、自分の顔に異性の吐息が当たることは初めてであった。ごつごつとした男性特有の手の触感と冷たさ。自身の肌がここまで異性に触れられたのは、父親以来であった。その間、不思議な鼓動が郷里の胸を打つ。熱いような苦しいような。それでいて、一刀に触れられている間、苦しい思いは和らいで、しかしより胸は熱くなり、鼓動は早くなり心臓が口から飛び出そうでもあった。

「よし出来たぞ。.........とりあえず、これじゃ包帯女だから、今はこれを付けておけ」

顔半分に包帯を巻かれた郷里の顔に、再び血をふき取った赤い鬼の仮面を付けようと施すが、郷里はそれを手で制す。

「いえ、それは私が奥方様より預かったものです。奥方様にお返し下さい」

「いいから、付けておけ。それに、あいつがお前にと思って渡した物なのだろう。だったらお前が返せ」

そう言われ、郷里は制しを諦めて、素直に仮面を付けさせられる。

「さて、治療完了。冷めてしまったが、晩飯にするか」

一刀は自身と郷里の前に、持ってきた料理をそれぞれ置き、二人揃って合掌して食事を始める。

「......う~ん、やはり冷めた料理はあまり美味くないか......郷里、温めなおすか?」

一刀が持ってきたのは回鍋肉(ホイコーロー)と白ご飯であり、回鍋肉は冷めたせいで油が浮き、白ご飯も粒が固くなっている。眉間に皺を寄せ、首を傾げる主の姿を、何処か可笑しく思え、郷里は小さく笑う。

「ふふふ。いいえ、暖かいですよ。......とっても――」

手の甲で口元を抑えて笑う郷里に改めて首を傾げながらも、一刀は満足しているならばと思い冷めた料理を口に含み続けた。

そして食事を終えた時、郷里は提案する。

「ご主人様。お茶でも点れましょうか?」

「あぁ、頼む。熱めで頼むぞ」

「承知しました」

仮面を付けながらも、郷里はその表情が判る程に満面な笑みを浮かべ、一刀の為に茶を点てるのであった。

 

 そして時は少し遡って、さらに場所は変わり宴席にて。

「おう関羽、飲んどるんけ?」

「こ、侯成殿!?は、はい。いただいております。ほら」

酔っぱい、顔を赤くした隴が、しきりに関羽に絡んでおり、盃に酒が満たされていることを主張する様に関羽は隴に盃を差し出すが、反目の隴は酒瓶を片手に傾け、溢れんばかりに追加で関羽の盃に酒を注ぐ。

「いいや、まだまだじゃき。まだまだのんどりゃせん。もっと飲まんかい」

「あ、いえ、侯成殿、酒が溢れてしまいます」

「なら溢れる前に飲まんかい‼‼」

「え、いや、その」

「儂の注いだ酒が飲めんのけ‼‼」

隴に怒られて、関羽は慌てて盃の酒を飲み干す。

「おぉ、いい飲みぷりじゃのぅ。一刀の親分が目にかけることだけはあるわいな。ほれ、駆け付けおかわり」

「あ、いえ、これ以上は――」

「儂の酒g――」

再び隴は関羽に絡み酒を迫るが、そのセリフを言い終える瞬間に、隴は夜桜(やおう)と留梨に捕まり、そのまま引きずられていく。

「何じゃ留梨、夜桜。離さんかい‼‼儂はこのひよっこに鉄砲玉としての心得を教え込んでいるところじゃき。離せや‼‼」

「はいはい充分に伝わったアルヨーー。お姉さんは奥の部屋でうちらと飲むといいヨロシ」

未だに暴れる隴は、酒が入ったせいか上手く力を込めることが出来ない為に、そのまま夜桜一人に拘束されて別の部屋に移される。

「関羽さんウチの同僚が失礼なことをしてすみません。後は私達が相手をしますから、楽しんで下さいね」

留梨の丁寧な姿勢に、対する関羽が何か無礼を働いたのではないかと思い逆に頭を下げ返すが、留梨は一礼して関羽の所を後にした。

「よう関羽。へばっとらんか?」

「......張遼将軍」

三人が去った後に来たのは、瓢箪を持った霞であった。関羽は隴による怒涛の酒の駆け入れにより、若干咽ていた。

「ほれ水や。これでも飲んで気を紛らわし」

「いや......これはどうm―――ゲホッ、何ですかこれは‼?」

張遼が水と称して関羽の盃に注いだのは水ではなく、水の様に透き通った何かであった。

「あははは、引っかかりおった引っかかりおった。そいつは酒は酒でも濁酒のような濁り酒やない。米で作った『清酒』っていうもんや。味も濃くもあるから、濁酒より大分聞くやろ」

ケタケタと笑う霞に対し、咽ていた関羽は顔を赤くして立ち上がり、いきなり張遼を殴り飛ばす。吹き飛ばされた張遼は、何処かの座椅子の束に転がってぶつかり、座椅子の束の下敷きになった。

「あ、愛紗ちゃん?」

突然のその行動に、劉備はわけがわからず、とりあえず義妹の名を呼ぶ。

「あんははひは(あなたたちは)、ひふこい(ひつこい)。もふのへないほ(もうのめないと)......ヒック......いっへいふのひ(いっている)」

千鳥足にになりながらも、舌足らずな言葉で関羽は自分の意見を述べるが、だが次の瞬間。崩れた座椅子の束から一陣の影が出てきて、その影が関羽を蹴り飛ばす。

「ええ拳やな。やけど、ウチには聞かへんで」

その影は顔を拳で腫らしながらも飛び出してきた霞であり、次は関羽が飛ばされる。

「張遼‼貴様ぁ‼‼」

「来いやぁ‼関羽ぅ‼‼」

こうして二人はそれぞれ顔を腫らしながらも殴り合いに発展し、いつの間戻ってきたのか、隴・夜桜・留梨が観客として参加していた。

「にゃにゃにゃ、お前、なかなかやるのだ」

「......シャンも負けない――」

別の場所では、徐晃と張飛が大食い勝負を行なっており、料理を運ぶ使用人の数がいつの間にか増えていた。

「やれやれ、随分と騒がしくなったわね。これじゃああっちの下品な方と変わらないじゃない」

「しかし華琳様、たまにはこういった騒がしいこともいいではありませんか」

華琳のため息に、夏侯淵は宥める。

「あらあら、本当に若いっていいわねぇ」

「あ、あは、あはは」

その騒がしい光景を微笑ましそうに眺める白華に対し、劉備は苦笑いで見つめるのであった。華琳も呆れながらも席を立つことなく、ただ目の前の光景を小さく笑って夏侯淵と共に酒を愉しんだ。

 


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