No.97926

真・恋姫†無双~江東の花嫁達・娘達~(ゴマ団子と猫)

minazukiさん

江東の花嫁シリーズもいよいよ佳境。
今回から十回に渡って娘編です。

まず初めを飾るのは亞莎と明命の娘達です。
子供だから寂しいと感じる時もあります。

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2009-09-29 00:49:06 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:17745   閲覧ユーザー数:12990

・オリジナルキャラクター紹介

 

 呂琮(りょそう)・・・・・・一刀と亞莎の娘にて真名が早莎(さーしぇ)。

 

            母親に似て父親である一刀が大好きであり、ゴマ団子をよく差し入れにとつくっていく。

            笑顔を絶やすことのない明るい子だが、寂しさを内に秘める事が多く人知れず悲しんでいる事もあった。

            同じ姉妹である明怜と大の仲良しさん。

 

 周邵(しゅうしょう)・・・・・・一刀と明命の娘にて真名は明怜(みんれい)。

              

              母親の明命同様、猫が大好きだが母親ほどデレることはない。

              早莎とは違って言いたい事は口に出す方で、ツンな部分が見え隠れする。

              休日のだらしない明命には少々飽きれるものがあるが大好きな母親には違いなかった。

              ちなみに大好きな食べ物は早莎が作るゴマ団子。

(ゴマ団子と猫)

 

「「~♪」」

 

 屋敷の厨房から楽しげな鼻歌が聞こえてきた。

 

 そこには亞莎と十一才になる彼女の娘である呂琮こと真名が早莎(さーしぇ)が仲良くゴマ団子を作っていた。

 

「ははさま、ちちさまは喜んでくれるでしょうか?」

 

 手馴れた手つきでゴマ団子を作っていく亞莎にどこか嬉しそうに話していく早莎。

 

 呉の大都督として多忙な日々を送っている一刀への差し入れは今日が初めてというわけではなかった。

 

「もちろんです。父様にはたくさんゴマ団子を召し上がってもらいましょう」

 

「はい♪」

 

 亞莎とお揃いの帽子を被っている早莎は母親を真似てゴマ団子をこねていく。

 

「亞莎、早莎ちゃん、いますか~?」

 

 そこへ現れたのは明命とその娘である周邵こと真名が明怜(みんれい)が入ってきた。

 

 明怜の両手には猫の縫いぐるみが抱かれており、母娘そろって猫好きなのが伺えた。

 

「あら、明命に明怜ちゃん、どうかしたのですか?」

 

 今日は二人そろって公務が休みなのは知っていたが、休みの日はぐっすりと休んでおり、酷い時は夜まで起きてこない明命を不思議そうに眺める亞莎。

 

「お腹が空いて目が覚めちゃったんです。何かありませんか?」

 

「もうお昼を過ぎていますよ?あるわけがないでしょう」

 

 昼餉にも起きてこなかっただけにすでに片付けられており、あるとすれば今、亞莎達が作っている一刀へのゴマ団子だけだった。

 

「だから起きてくださいって言ったんです」

 

 猫が絡んでもあまり表情を変えない大人しい明怜はしっかりと昼餉を食べていた。

 

「明命、少しは明怜ちゃんを見習ったらどうですか?」

 

 亞莎からすれば長年の友人であり同じ愛する人を夫に持つ妻として少々呆れていた。

 

「明怜ちゃんは少し真面目すぎるんです。適度に力を抜かないといざというときに失敗してしまいます」

 

 それには亞莎も賛同できたが、力を抜きすぎている休日の明命の姿はどうかと思っていた。

 

「ところでこのゴマ団子は一刀様のですか?」

 

「ええ。今夜も戻られないそうで早莎ちゃんと差し入れにと思いまして」

 

「亞莎のゴマ団子は絶品だってこの前、一刀様が褒めていましたよ」

 

 愛する人にそう言われると亞莎は顔を紅く染めていく。

 

「だからその絶品を私にも食べさせてもらえたら嬉しいです」

 

「明命……、貴女という人は」

 

 一刀の名を出された後に要求してくる明命に苦笑する亞莎は先に作っていた自分達のお茶用のゴマ団子を差し出した。

 

「どうぞ。あとで何か軽いものを作りますからそれで我慢してくださいね」

 

「は~い」

 

 嬉しそうに明命がゴマ団子に手を伸ばして美味しそうに頬張っていった。

 その日の夜。

 

 亞莎と明命は急な用事が入ったため、早莎が一人で一刀へ差し入れをすることになった。

 

 すぐ近くで巡回している兵士達もいるため安全だとはいえ、夜の道を一人で歩かすのは不安があった亞莎に明怜が一緒に行くと言った。

 

「ではお願いしますね」

 

 頷いて応える明怜は腰に小剣を差して早莎と一緒に城へ向かっていた。

 

「明怜ちゃん、ありがとうございます」

 

 両手には一生懸命作ったゴマ団子をしっかり持って歩く早莎は一緒に行ってくれる明怜に感謝をした。

 

「早莎一人だと不安だからです」

 

 口が悪いわけではないが、どういうわけか素っ気無く応えてしまう明怜。

 

 同じ日に産まれた二人は他の姉妹よりも一緒にいることが多く、早莎も彼女がいてくれるのが当たり前だと思っていた。

 

「しかし、とうさまも少しは休まれたらいいのにこのところずっと戻ってきてくれません」

 

 平和になってから一刀はさら国をよくしようと呉王である蓮華のもとでその手腕をふるってきていたが、決して自分達を疎かにしているわけではないことぐらいは早莎と明怜でもわかっていた。

 

 だが、子供さゆえかやはり寂しいものは寂しかった。

 

「でもちちさまのおかげでみんなが幸せに暮らせているんだってこの前、蓮華様が言っていました」

 

 忙しくても自分達の尊敬できる父親であり大好きな父親にはかわりないだけに、早莎は自分の寂しさを表に出さないようにしていた。

 

「早莎」

 

「はい?」

 

「早莎だって本当は寂しいと思っているはずです。なのにどうしてそんなに明るく振るえるのですか?」

 

 明怜はその寂しさを紛らわせるために祭や華雄達が師範となっている武芸教室にほぼ毎日のように通っていた。

 

 少しでも身体を動かして寂しさを消そうとするが不可能だった。

 

 一度、長期の荊州滞在の時、その寂しさに押しつぶされそうになり一刀が戻ってきても部屋に引き篭もったこともあった。

 

 そのとき、一刀が仕事の合間に月から編み物を教えてもらい、不器用ながら猫の縫いぐるみを作り上げてそれを明怜にプレゼントした。

 

 指が傷だらけなのを見た明怜は猫の縫いぐるみをしっかりと抱きしめて、一刀に今まで我慢していた分、甘えることが出来た。

 

 そして今も寂しくなればその縫いぐるみを抱きしめているが、それでも寂しさ完全に消えるわけではなかった。

 

「明怜ちゃん、私だって寂しいです。でも、ちちさまを困らせたらダメだから」

 

 自分達ばかりにかまっていて国政を疎かにしてしまえば、それこそ自分達が我侭で迷惑を掛けてしまうと思っていた。

 

「でもとうさまに甘えてはダメなわけはないはずです」

 その言葉に早莎は足を止めた。

 

「早莎、とうさまは私達にとって大切なとうさまです。だから寂しければそう言えばいいのです」

 

 かつて自分がしたように態度に出せばいい。

 

 明怜の言葉に早莎は顔を横に振った。

 

「どうしてですか?」

 

「ちちさまを困らせたくないです」

 

 利口過ぎている早莎は自分が我慢すればいいと思っていた。

 

 甘えられる時にはたくさん甘えればいい。

 

 その代わり我慢しなければならないときは寂しいという表情はしてはならないと硬く自分に戒めていた。

 

「損な性格です」

 

「そうですね」

 

 再び歩き出す二人。

 

 夏が終わり秋の夜が静かに彼女達を見守っている。

 

 何回か巡回の兵士に声を掛けては城へ近づいていく。

 

「早莎」

 

「はい?」

 

「とうさま、喜んでくれるといいですね」

 

「はい」

 

 どんなものでも娘達が作ったものを受け取ってくれる一刀。

 

 美味しそうに食べてくれる一刀を想像する早莎は手に持つゴマ団子の包みを見る。

 

「さ、早莎!」

 

「え?」

 

 明怜の声に反応した早莎だが遅く、何かにぶつかって尻餅をついてしまった。

 

「だ、誰です!」

 

 腰に手を当てて小剣を抜こうとする明怜の前にいたのは思春だった。

 

「し、思春さま!」

 

「何をしている、二人とも」

 

 どこか眠たそうな表情をしている思春は二人を不審そうに見る。

 

「思春さまこそなぜここに?」

 

「私は今から屋敷に戻るところだ。このところ忙しくてろくに休んでいなかったのだが、蓮華様に休むようにと言われてな」

 

 平和になってもやらなければならないことは山積みだった。

 

「ところで今度はこちらの質問に答えてもらおう。二人してこのような夜になにをしているのだ?」

 

「ちちさまにゴマ団子を届けようとおもいまし…………あれ?」

 

 さっきまで持っていたゴマ団子の入った包みを探す早莎はふと、思春の足元を見て悲しそうな表情をした。

「あっ!」

 

「うん?」

 

 明怜の声に思春は自分の足元を見るとそこには踏まれた包みがあった。

 

「これは?」

 

 手にとる思春に声を失って見上げる早莎と明怜。

 

「それは…………ちちさまに食べてもらうと思っていましたゴマ団子です」

 

 包みを開けるとほとんどが踏み潰されて形を変えていた。

 

「す、すまない」

 

 これにはさすがに思春も申し訳なく思い二人に謝罪をする。

 

「いえ、早莎がきちんと前を見ていなかったからいけなかったのです」

 

 思春は何も悪くない、悪いのは自分だと早莎はつぶれたゴマ団子を受け取った。

 

「しかし、それではもう食べられないな」

 

「早莎」

 

 じっと潰れたゴマ団子を見つめる早莎を見守る二人。

 

「仕方ないです」

 

 再び包んだゴマ団子に早莎は誰にも文句など言わずに引き返そうとしたが母親である亞莎に何ていえばいいのか悩んだ。

 

 二人で作ったゴマ団子だから悲しい顔をしてしまうのではないのか、差し入れすら一人で満足も出来ないと嘆くのか、どちらにしても早莎は母親が悲しむことには違いないと思った。

 

「帰りますね」

 

 これ以上、ここにいる必要のなくなったと感じた早莎は屋敷へ足速く戻っていった。

 

「思春さま……」

 

「困ったな」

 

 自分も悪いと自覚している思春はどうにかしてやりたいと思ったが、よい方法が思いつかなかった。

 

「思春さま、とうさまにお願いをしてみませんか?」

 

「一刀に?」

 

 次の日に早莎に会ってもどこか我慢しているであろうその表情を見たくなかった明怜はこの解決策に自分達の父親の名を上げた。

 

「ダメでしょうか?」

 

 ある意味、身勝手な願いだとは十分承知しているが、それでも早莎のことを考えればと明怜は思春に賛同をせまった。

 

「わかった。私から話をしておく。お前は早莎のところにいってもらえるか?」

 

「はい」

 

 一礼をして早莎の後を追いかけていく明怜。

 

「私も何か詫びをしなければな」

 

 思春はそう思いながら城へまた戻っていき、書類の山に埋もれているであろう、一刀の元へ行った。

 屋敷に戻った早莎は潰れたゴマ団子を自室の机の上に置いて寝台に潜り込んだ。

 

「早莎」

 

 そこへ明怜が入ってきたが彼女を見ようとしなかった。

 

 大切な父親の為に作ったゴマ団子を渡せなくなった辛さを明怜もわかっていた。

 

「早莎、仕方ないですよ。また作ればいいと思いますが」

 

「…………ダメです」

 

「どうしてですか?」

 

 今日が何か特別な日かと明怜は思ったがそういう日でもなかった。

 

「たしかに潰れてしまってもったいないとは思います。でも、とうさまに渡すのであればまた作ればいいと思います」

 

 そのほうが何倍も喜んでくれると明怜は知っていた。

 

 だが、早莎はそれでは納得できなかった。

 

 いや、したくなかった。

 

「早莎「出て行ってください」え?」

 

「聞こえませんでしたか?出て行ってください」

 

 今まで自分を突き放すようなことなど言わなかった早莎に驚く明怜。

 

「お願いですから今は出て行ってください」

 

 これ以上何を言っても受け付けないという態度に明怜はかける言葉がなくなり肩を落として部屋を出て行った。

 

 一人、寝台の上に蹲る早莎の目からは涙の雫が溢れ出ていった。

 

 今まで我慢していたものが限界を超え始めた。

 

「ははさま…………早莎はダメな子です」

 

 これまで二人で一刀の為に作っていたゴマ団子だが、今日は初めから終わりまで自分一人で作ったものだった。

 

 亞莎の作り方を見ながら作り、形や大きさこそ違っていたが一生懸命に作った。

 

 そしてそれを食べてもらおうと思っていただけに、自分の不注意さを悔やんでも悔やみきれなかった。

 

「ちちさま、ごめんなさいです」

 

 寂しくても泣かないようにしていたのも周りの者に余計な心配をかけさせたくなかった。

 

 その気丈さゆえに一度弱くなると自分では歯止めが効かなくなっていた。

 

「明日には思春さまやははさま、それに明怜にきちんと謝らないとダメですね」

 

 涙を流しながらも自分よりも明怜達を気遣う早莎。

 

 机の上に置かれたゴマ団子の入った包みを見ると余計に悲しみがこみ上げてきて一人寂しく声を殺して泣いた。

 

 しばらくして泣き疲れた早莎はそのまま寝台に身体を丸めて眠ってしまった。

 

「ちち……さま……」

 

 夢の中でも一刀のことを考えている早莎の表情は悲しみと寂しさが色めいていた。

 

 そして自室に戻った明怜も一刀からもらった猫の縫い包みを抱きしめて、自分の力の無さに落ち込んでいた。

 翌朝。

 

 早莎は目を覚ますと椅子に座って自分を見ている一刀の姿を見つけた。

 

「ちちさま!?」

 

「おはよう、早莎」

 

 優しい笑顔で娘に朝の挨拶をする一刀。

 

 何度見ても決して飽きることのないその笑顔が早莎は大好きだったが、この時ばかりは昨夜の出来事もあったせいで素直に喜べなかった。

 

「おはようございます……」

 

 身体を起こして挨拶をするも元気が出ない早莎はふと一刀の膝元に視線が動いた。

 

「ちちさま、それは……」

 

 そこにあったのは潰れたゴマ団子だった。

 

 しかも半分ほどなくなっており、一刀の口元を見るとわずかにその食べかすがついていた。

 

「ちちさま、そんなものを食べたらダメです」

 

 慌ててゴマ団子を取ろうとしたがあっさりと避けられて奪取できなかった。

 

「そんなものなんて言い方は良くないぞ。せっかく早莎が作ってくれたゴマ団子なんだからもったいないじゃないか」

 

「でも……それは……」

 

「思春から聞いたよ。自分のせいで早莎を傷つけてしまったってね」

 

「し、思春さまのせいではないです。早莎がいけないのです」

 

 きちんとしたものを食べてもらいたかった早莎は申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

 そんな娘の気持ちを知っている一刀は優しく彼女の頭を撫でた。

 

「早莎も思春も悪くない。悪いのは寂しい思いをさせている俺の方だよ」

 

 父親として彼女達ともっと接していたい気持ちはある。

 

 だが国のことを思うとついそっちに力を入れてしまい、何かと寂しい思いをさせていることはよくわかっていた。

 

「それに潰れてしまっても早莎が俺のために作ってくれたゴマ団子、凄く美味しいよ」

 

 心を込めて作ったゴマ団子を一刀は一つ口に運んでさも美味しそうに食べていく。

 

「ありがとうな、早莎」

 

 どこまでも優しく自分達のことを愛してくれている父親に早莎は我慢できなくなり、泣きながら彼に抱きついていった。

 

「明怜もおいで」

 

「えっ?」

 

 いつしか一刀の後ろに立っていた明怜もゆっくりと近づいてきた。

 

「とうさま……」

 

「二人とも寂しい思いをさせてごめんな」

 

 明怜も優しく抱きしめる一刀にしがみついた。

 

「今日と明日は蓮華からお休みをもらったから一緒にいようか?」

 

 その言葉に二人は顔を上げて父親を見る。

「よろしいですか?」

 

 自分達の我侭で仕事を休むというのであれば断るべきだろうと思っていた。

 

「どうしても休めって言われたんだ。それにこのところ二人とはほとんど遊んでいなかったからな。だからこの二日間は何でも我侭を聞いてやるぞ」

 

 優しく抱きしめてくれる一刀に二人は喜びを感じた。

 

「ちちさま」

 

「うん?」

 

「ごめんなさいです」

 

 自分のせいで大切な人達に迷惑をかけてしまった早莎は謝った。

 

「それは俺にではなく明怜や思春に言うんだ。いいね?」

 

「はい」

 

「それと、もう一つ。また美味しい早莎のゴマ団子を作ってくれるかな?」

 

 何個食べても美味しいゴマ団子をまた作って欲しいと願う一刀に早莎は寂しさなど吹き飛んでいた。

 

「もちろんです。もっと上手になってちちさまに喜んでもらいたいです」

 

 そのためなら少しの寂しさなど大した問題ではなかった。

 

 一生懸命作って喜んでくれるならば、早莎にとってこれほど嬉しいことはない。

 

「楽しみにしているよ。あと、明怜」

 

「はい」

 

「祭さん達から聞いたよ。寂しさを紛らわすために鍛えていたんだよな」

 

「はい……」

 

「明怜にも寂しい思いをさせてごめんな」

 

 早莎に寂しければ口に出して言えばいいと言っていた明怜だったが、実際には一刀には寂しいとは言えなかった。

 

 だが自分達の考えていることなど父親である一刀にはお見通しだった。

 

「とうさま」

 

「うん?」

 

「私と早莎はとうさまが大好きです」

 

「うん。俺も大好きだよ」

 

 それは何よりも貴重な物だと感じていただけに、娘からの次の言葉を待つ一刀。

 

「だから今回のお休みは私と早莎とかあさま達と過ごしてくれますか?」

 

「もちろんだよ。それにあれから裁縫の腕が少し上がったからまた猫の縫いぐるみを作ってあげるよ」

 

 一刀と明命、それに早莎の次に大好きな猫のことを言われると嬉しくなる。

 

「では二人分作ってください」

 

「明命にもあげるのかい?」

 

「違います。早莎にです」

 

 母親よりも姉妹にあげたいという明怜の気持ちに一刀は大きく頷いた。

 この二日間は今までの寂しさを吹き飛ばすには十分過ぎるほど充実したものだった。

 

 朝、昼、晩、それにおやつまでゴマ団子一色の北郷家の食卓に当事者達以外は文句を口にしなかったが表情はさすがにげっそりしていた。

 

「たくさんあるからどんどん食べてください♪」

 

 嬉しそうに次々とゴマ団子を作っていく早莎の笑顔に一刀はゴマ団子を頬張っては「美味しいよ」と言いながら心の中で亞莎に助けを求めた。

 

「諦めてください。早莎ちゃんがあんなに嬉しそうにしているんですよ?」

 

 愛妻からも援軍拒否を受けた一刀はしばらくの間、夢にまでゴマ団子が出てくるようになったがそれは別の話。

 

 一方の明怜は一刀が猫の縫いぐるみを一から作り始めるところから離れず見ていた。

 

 すでにもらっている猫の縫いぐるみをしっかりと抱きしめて、その二号が出来るのを真剣な眼差しで見守っていた。

 

 一日半かけて出来上がった時、明怜は嬉しそうにその猫の縫いぐるみを抱きしめ、もう一匹を早莎に手渡しすと同じように抱きしめた。

 

「明怜ちゃんとお揃いです♪」

 

「当然です。私と早莎はいつもお揃いです」

 

 二人の愛娘と三匹の猫の縫いぐるみを見ていると一刀は疲れなど吹き飛ぶ思いだった。

 

 あと、五人で出かけたときも亞莎と明命が羨ましがるぐらいに早莎と明怜は一刀にべったりとくっついていた。

 

「ちちさま、あそこの出店に行ってみたいです」

 

「とうさま、あそこに今、猫さんがいたです」

 

 遠慮なく連れまわす二人に苦笑する一刀達。

 

 普段では考えられえないほど活発に動き、笑顔を溢れさせていた。

 

「楽しそうで何よりです」

 

 亞莎と明命も娘達の楽しそうにしている姿を見て微笑みを絶やさなかった。

 

「ところで一刀様」

 

「うん?」

 

「本当ならゆっくり休みたかったのではないのですか?」

 

 せっかくの休みを娘達のために使っている一刀を気遣って明命はそれとなく聞く。

 

「あの子達があんなに楽しそうにしているのに、眠るなんてもったいないだろう?」

 

「でも無理だけはしないで欲しいのです。何かあったらあの子達も悲しみますから」

 

 明命や亞莎の心配に一刀は両手で彼女達の頭を優しく撫でた。

 

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。あの子達の笑顔や亞莎達の笑顔が何よりも疲れが取れるよ。無理はしないから安心してくれ」

 

「旦那様「一刀様」」

 

 二人は一刀の笑顔の前ではそれ以上何も言えなかった。

 

「ちちさま、ははさま~」

 

「早く来てください」

 

 出店を前にして早莎と明怜は元気よく一刀達を呼んだ。

 

「今行くよ。ほら、二人とも早莎や明怜を見習って楽しもう」

 

 一刀の言葉に二人は頷き今は余計なことを考えないように楽しむことにした。

 夜になるとさすがに遊び疲れた早莎と明怜だったが、寝台に座って一刀から離れようとしなかった。

 

「とうさま」

 

「なんだ?」

 

「とうさまは猫よりも大好きです」

 

「そうか」

 

 明命であれば散々悩んだ挙句にようやく一刀と答えるところだが、その娘はまっすぐに一刀が一番だと言い張った。

 

「だからずっと、とうさまの傍にいます」

 

「それは嬉しいな」

 

 あと五年もすれば今よりも大人びるであろう愛娘を楽しみにする一刀。

 

「ちちさま、早莎もちちさまの傍にいます」

 

 両方から一刀に寄り添って目を閉じる早莎と明怜。

 

「ありがとうな、二人とも。俺も二人の傍にいるよ」

 

 父娘の固い絆以上のものが存在していた。

 

「ちちさまは早莎達とははさま達、どちらが好きですか?」

 

「どちらって…………困ったな」

 

 父親としては非常に困る質問だった。

 

「その質問の答えを私達も聞いてよろしいでしょうか?」

 

 いつの間にか部屋に亞莎と明命もやって来ていた。

 

「そうです、一刀様は私達と明怜ちゃん達のどっちが好きなのですか?」

 

 妻と娘に囲まれて一刀はどう答えるか困っていたが、その表情にはすでに答えが浮かんでいるように見えた。

 

「そうだな、俺はどっちも同じぐらい大好きだよ」

 

 もし仮に一番をつけるとすればそれは決まっていた。

 

「旦那様らしい答えですね」

 

「そうです。でもそういう一刀様が私達は惹かれたんです」

 

 嬉しそうに亞莎と明命は一刀の後ろに座り、そっと手を添える。

 

「ちちさま、またゴマ団子を食べてくれますか?」

 

「ああ、でも今度はそんなに多くなくてもいいからな」

 

 三食ゴマ団子はさすがに地獄だったためそのあたりは丁重に断りを入れたが、早莎は笑顔で、

 

「ちちさまにもっと食べて欲しいです♪」

 

「とうさま、私ももっと猫さんをお願いします」

 

「だ、旦那様、わ、私もその……食べて欲しいです」

 

「お猫様は我慢できませんけど、一刀様が望むのであれば何でもします!」

 娘達に負けじと自分達とももっと接して欲しいと必死になってアピールをする。

 

「ちちさま!」

 

「とうさま!」

 

「旦那様!」

 

「一刀様!」

 

 引っ張りだこの一刀は逃れようにも逃れられなかった。

 

「わかったわかった。これからゆっくりとみんなの願いを叶えていくよ」

 

 そう言って一刀は勢いよく後ろに倒れこみ、亞莎と明命の膝に頭を乗せてそのまま眠ってしまった。

 

 昨日から一睡もしていなかっただけに限界が訪れていた。

 

「ちちさま?」

 

「とうさま、寝てしまったのですか?」

 

 幸せそうに眠る一刀を見守る四人。

 

「明日からまたお仕事ですから、今はゆっくり寝かせて差し上げましょう」

 

「そうですよ」

 

 亞莎と明命は自分達の膝を枕にしてあっという間に熟睡していった一刀を愛しそうに見下ろしていた。

 

「早莎ちゃん、明怜ちゃん」

 

「「はい?」」

 

「父様と遊べて楽しかったですか?」

 

「「もちろんです」」

 

 この二日間、片時も離れる事のなかった二人にとってとても楽しい時間だった。

 

「では父様を困らせてはいけませんよ?」

 

「「はい」」

 

 国のため、民のため、そして自分達のために一生懸命に働いてくれている一刀が彼女達にとって尊敬できる父親であり、こうして一緒にいてくれる大好きな父親だった。

 

「早莎はもっと頑張ってちちさまのお手伝いをしたいです」

 

「私もとうさまのお役に立ちたいです」

 

 十五になれば国試を受ける資格を得られる。

 

 それまでにしっかりと学問や武芸を見につけて一刀を少しでも助けたいという気持ちがいつしか芽生えていた。

 

「氷蓮お姉様が言っていました。ちちさまの役に立てるのは幸せだって」

 

 自分達の姉である氷蓮は今年、国試をあっさり突破して今では武官候補として、葵の直属の部下になり一刀の護衛兵になっていた。

 

「かあさま、私もとうさまのお役に立つように頑張ります」

 

 自分達にこれまで与えてくれた愛情に応えるためにどんな苦難でも乗り越えるつもりでいる明怜。

 

「そうですね。二人も氷蓮様に負けないように頑張るんですよ」

 

「「はい」」

 

 力強く答えた二人は寂しさなど感じる余裕のないほど、これからの楽しみを見つける事が出来た。

 

 そしてその日は一刀を中心に仲良く親子五人で幸せな夢を見ながら眠った。

 

「ちちさま……大好きです」

 

「とうさま……ずっと傍にいます」

 

 二人の娘の表情はとても幸せだった。

 余談であるが、一刀が二日ほど休んでいる間、大都督の政務を代理していたのは思春となぜか雪蓮と蓮華だった。

 

「なんで私までここにいなくちゃだめなのよ~~~~~」

 

 一つの案件を処理するまでに同じ言葉を数度言わなければ気がすまない雪蓮に対して、思春はゴマ団子を踏みつけてしまったという後ろめたさがあったため、黙々と案件を処理していた。

 

「こうなったら次の休みは絶対に私が独占しちゃうんだから~~~~~!」

 

「お姉様、そんなこという暇があればこの案件もお願いします!」

 

「雪蓮様、申し訳ございません……」

 

 まだまだ子供っ気が残る雪蓮に頭を抱える蓮華と、自分の手伝いをとお願いをしたばかりに多少心苦しいものを感じていた思春。

 

「雪蓮さま~、蓮華さま~、思春ちゃん~まだまだありますからしっかり働いてくださいね~」

 

 そんな三人に容赦なく穏は案件が記されている書簡を山のように持ってきて、三人は悲鳴を上げた。

 

 後日、一刀が問答無用で三人からいろいろと無茶なお願いを突きつけられたのは言うまでもない。

(座談)

 

水無月:娘編第一弾は亞莎と明命の子供達でした~。

 

雪蓮 :早莎は亞莎に似よく似ているけど、明怜は少し違うわね?

 

水無月:どこもかしこも同じにしすぎるとインパクト不足のように思えましたので、色々考えてみました。

 

冥琳 :しかし、次世代を担う者が父親にかまけていて大丈夫なのかしら?

 

水無月:そこはお母さん達が頑張るしかないですね。下手をしたら一刀を娘達が強奪していくかもしれませんよ?

 

雪蓮 :ち、ちょっとそれはまずすぎるわよ!

 

冥琳 :まったく、そんな事を考えていたらろくな目に遭わないわよ?

 

水無月:き、脅迫に屈しません!

 

雪蓮 :ならその根性がどこまで続くか試してみようかしら♪

 

水無月:ヒィィィィィ!(脱走)

 

雪蓮 :あら、根性ないわね~。

 

冥琳 :仕方なかろう。それよりも次回は誰が来るのかしら?

 

雪蓮 :それは次回になってのお楽しみってことで♪

 

冥琳 :とりあえずは感想などをどしどし寄せてもらえれば作者も喜ぶと思うのでよろしくね。

 

雪蓮 :というわけで次回もよろしく♪


 
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