No.972827

【エピローグ・後編】

01_yumiyaさん

覇星神イベベース。続きもののようななにか。独自解釈、独自世界観。捏造耐性ある人向け。後編【シリーズ完結】

2018-11-06 00:00:06 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:670   閲覧ユーザー数:668

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【●月28日】

 

風隠の族長さんのところに救援依頼して、何日経ったでしょうか。

陽に照らされ輝く海を眺めながら、浜風に靡く己の青い髪を目の端に捉えつつ、そんなことをふと思いました。

指折り数えるともう10日は経過していたようで、少しばかり驚きます。

疾風の如き友人から他大陸の状態を聞いて一度は救援を取り下げましたが、呆れたような表情の彼に叱責され、僕は次の日来てくれた援軍に頭を下げていました。

「よろしくお願いします」と。

頼りになる人たちだからと微笑む友人に釣られ、僕も安堵とともに笑顔になったことを覚えています。

そしてその友人の言葉は正しかったと、我が身を持って理解しました。

 

「おお、竜は逃げていったな。怪我人は雨神に任せるぞー!」

 

「霊薬は惜しまん、並べ」

 

闘ったすぐあとだというのに元気な大声で周囲の人々を労わるこのおふたかた。雷神と雨神のコンビが来てくださり、物凄く余裕ができました。

それだけではなく。

 

「強き戦士は、良い」

 

「運命の貴方、大丈夫?」

 

片目の髭が立派な方や、戦乙女と名乗るふわりとした女性も積極的に手伝ってくださり、僕は海を眺める余裕すらできました。

彼らのあまりの強さに戦力過剰ではないかと友人に問い掛けたら、得意げな顔で「よくばり神様チーム」と告げられた際には多少の目眩がしたものです。

凄まじさに戸惑っていると友人は頭を掻き「…事情は本人たちに」と言葉を濁しました。

流石に来てくださった当日にそんなことを問うのは失礼かと思い先送りにしていましたが、件の竜人が弱り出現が少なくなった今ならば、疑問をぶつけるのに良いタイミングではないかと彼らに声を掛けてみました。

 

「ん?ああ、そのことか」

 

初めに声を掛けたのは雨神と雷神の二人組。戟を扱う腕前もさることながら、霊薬による回復にも、底抜けの明るさにも助けられています。

僕の問いを聞いて雨神は何故か少し楽しそうに笑い、雷神になにか耳打ちをしました。すると雷神も楽しげに笑い「ちょっと待ってろ」とどこかへ姿を消します。

僕が首を傾げると残った雨神は「阿呆らしい話だ、笑ってやってくれ」とクスクス笑みを浮かべました。

 

しばらくして雷神は、色の白い大人しそうな方を引き摺って戻り、その方をぽいと僕の前に放り投げます。

この方も援軍に来てくれた方で、確か、調和神だとか。戦いに積極的な方が多い中彼だけは比較的消極的で、やりたがる方の少ない後方支援や非戦闘員の保護、つまるところ非戦闘地域の維持をしてくださっていました。

正直、自分たちでは手の回らない箇所を補助してもらえるため凄く助かっているのですが、この方が、なにか?

 

「我らが此処に来たのは此奴が原因でなぁ。…なあ、調和神?」

 

「南にいる破壊神と少ーし相性が悪くてな。この騒ぎにも関わらず、顔を合わせると竜人そっちのけでドンパチやらかすんで必然的に此処に。…なあ、調和神?」

 

雷神と雨神のお二方が何故か「調和」を強調しつつ、楽しげに調和神の背中をペシペシ叩きました。

背中を叩かれる当の調和神は、バツの悪そうな顔で手をモジモジさせつつ口をつぐみます。

大人しそうな方ですが、意外と好戦的なのでしょうか。そういえば以前、非戦闘地域が襲われた時涼しい顔で軽々と追い払っていましたが。

僕の表情を見てか、雷神が豪快に「破壊神とやりあえるくらいだからな。此奴は見目に似合わず意外と怪力だ」と笑いました。

 

「普段は大人しいんだがなぁ。此処での働きもきっちりしとるだろう?」

 

「破壊神と関わるときだけ、調和すべき全てをかなぐり捨てて妙に突っかかる」

 

「……っ、……」

 

あ、調和神が俯いて口をモゴモゴ動かします。しかしその口からは「…戻ります」という言葉だけが放たれ、彼はふわりと逃げるように立ち去っていきました。

耳が真っ赤でした。

ふむ、つまり彼らは仲間内で小競り合いさせないためにここに来てくれたようです。

もう少し話を聞くと、雷神は雷神で南に因縁ある相手がいるらしく、そちらにいると喧嘩吹っかけられるからそれの回避のために北を選択したらしく。雨神はこの二人のお目付役だそうです。

「この修行馬鹿から目を離すと、騒ぎそっちのけで修行に走るからな」とこっそり耳打ちしてくれました。

少しすると神鳥が雷神たちを呼びに来ます。「…調和神の様子がおかしいのだが、何かあったのか?」とクチバシを傾け問いかけますが雷神は笑うだけ。

持ち場に戻る雷神たちを見送り、僕は次の方々を探すことにしました。

 

休憩中の戦士たちを片目で見守る真っ白な髭の方。髭のせいでしょうか、少しばかりお歳を召しているように思えます。

…僕の父も、生きていたら、彼のような瞳で、彼のように穏やかに、仲間たちを見守ってくれたでしょうか。

少し感傷的になりつつも声を掛ければ、彼はゆるりと視線を向けてくださいました。

その瞳がやはり父と似ているような気がして言葉が詰まります。

 

「…何かあったか」

 

その言葉に首を振り、まずは遅ればせながら救援の礼とともに頭を下げました。すると彼は「良い」という短い言葉と軽く僕の頭を撫でます。

昔、父にしてもらったように。

少し熱くなった目を堪え顔を上げると父を思い出す穏やかな笑みが目に映りました。

 

「…此処に来た理由?」

 

抑えきれなくなりそうな感情を飲み込み、僕は彼に問います。すると彼は休憩中の戦士たちの輪を指差し、ぽつりと言いました。

「あれが、『ここが良い』と願ったのでな」と指差す先には戦乙女の姿。

当の戦乙女はひとりの戦士に寄り添い微笑んでいます。

彼女の傍らには、黄緑色の鎧を全身に身につけたふわふわした戦士。確か竜殺しの異名を持つ方だったと思います。

彼らが仲良く寄り添う姿は、僕の友人の幻獣騎士の姿と重なり、……あれ、重ならないな?

幻獣騎士たちはいつも一緒にいてニコニコと幸せそうにしていたのに対し、彼らはぎこちないというか、戦乙女がグイグイ迫り竜殺しが戸惑うという不思議な構図。仲睦まじいとは掛け離れていました。

これが謂わゆる片想いというものだろうかと首を傾けると、髭の彼は少しばかりため息を漏らします。

「ええと…」と話しかけると手で制されてしまいました。

少し気まずくなっていると、大きな声が響いて来ます。色黒の大きな棍を片手にひとりの大男が姿を現しました。

彼は元々この大陸に住んでいますから、救援部隊の案内人としてそちらに同行してもらっています。

親しげに髭の彼に近寄る棍の彼の目には僕が映ったらしく、「お?水の王子さんか」と声を掛けてくださいました。

 

「なんかあったか?」

 

その問いに首を振ると「そうか!何もないなら僥倖!」と白い歯を見せ、彼は明るく笑います。

笑顔に釣られて僕も微笑むと「もう一息って感じだな、お前さんもよく頑張った!」と頭をぽんと叩かれました。

気まずい雰囲気を搔き消してくれた彼に感謝し、ぺこりと頭を下げ彼らに別れを告げます。

僕もそろそろ戻らなくては。

 

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拠点に顔を出せば氷海騎士か出迎えてくれました。「おかえりー」と微笑む彼は数日前より落ち着いたような雰囲気を纏っています。

どうだった?と問われたので「…ええまあ」と曖昧に答えておきました。援助してくださったり、助けてくださる方々を悪くいうのは良くないですし。

神と言えどもなにかしら問題抱えてんだなあとは口が裂けても言えません。

氷海騎士が淹れてくれたお茶を前に、こんな余裕が出来たのはやはり東からの救援のおかげですねと、誤魔化すように僕は微笑みます。

 

「そうだね」

 

氷海騎士も柔らかく微笑み、最近落ち着いてきたし、と僕に視線を合わせました。

「そろそろお友達のとこに行ってもいいよ、ここは僕らがなんとかするから」と力強く胸を叩きます。

その言葉に笑みを返し僕は頷きました。

たくさんたくさん助けてもらいましたから、そろそろそれを返す番。

なんせ東には本体が現れ、そこにいる疾風の友人も日に日に土気色になってきているのですから。

数日前にバタバタしながら報告に来て「だから、あまり長居出来ない」と言うだけ言って名の通り風の如く立ち去った友人の姿を思い出します。

慌ただしいながらも定期的に、各地の情報を届けてはくれるのですがね。

ここはもう大丈夫。だから僕もそちらに行こうと思います。

 

「無理はしないように。今君に死なれたらこの大陸は困る」

 

「善処します」

 

クスクス笑って僕は自慢の槍を手に取りました。

さあ、決戦の場所に挑みましょうか。

 

 

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報告

 

本日、夜。

北の大陸に現れた「神の杖」を持つ竜人の体力が尽きたらしく、出現が激減。

しかしまだ分身体は出現するため救援部隊は残り、この地の防衛に努める模様。

 

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重ねて報告

 

東の小島にて出現する竜人本体に変化あり。

対峙した際の不可解な魔法の発動が行われなくなり、明らかに弱体しているとのこと。

分身体を撃破したため弱化した可能性が高い。

分身体を叩くことは有効である。

今後も各個撃破願う。

 

以上

 

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連絡です

 

これより僕含め北から数人、竜人本体のいる小島に向かいます。

分身体は叩いても手応えが薄いですが、追い払う事は無駄ではありません。

よろしくお願いします。

 

p.s

こちらで火っぽいオーブと魔っぽいエレメントを入手しました。

使い道がわかる方ご連絡お願いします。

 

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【●月29日】

 

この砂漠にこんなに人がウヨウヨしてんのは、珍しい光景だなと思う。ワイワイと賑やかな砂原を眺め、俺は重い棍を担ぎ上げた。

うお、見たことない白くてデカいロボが機械音鳴らしながら砂山闊歩してる。あのロボキョロキョロしてるがなんか探してんのかね。この大陸なんざ、砂くらいしかないだろーに。

未だ見慣れない風貌のヤツらを視界に収めながら、俺はこの砂漠がこんなことになった日のことを振り返っていた。

風のヤツが顔を見せてから11日は経ったかな、と。

 

あの時のアイツの提案を「わざわざ厄介事に首突っ込むな」と跳ね除けたが、案の定伝わらなかったらしく、次の日、東から大量の援軍が送られてきた。「よくばりだいたい全部チーム」とよくわからんことを言われたので「なんだそれ」と突っ込んだ記憶がある。

とはいえ、ココは必要ないと断るつもりだった。が、仲間たちが「わざわざ来てくれたのに追い返すとか酷いわー」と散々オレを罵り、俺の方を悪者に仕立て上げ、有耶無耶のうちに援軍を受け入れ今に至る。

俺は悪くない。

不貞腐れていると「じゃ、オレたちは案内してくるから」だの「オアシス近くに簡素だけど拠点作ってあるからそこに」だの「あいつは放っといていいから」だのあれよあれよという間に竜人に対抗するための組織が組み上がっていった。

お前らいつの間に。

受け入れ用の拠点とかいつの間に。

あの短期間で援軍ウェルカム体制を整えていた仲間たちの手際の良さに呆気にとられていると、いつしか俺は全員出払った静かな本拠地にぽつんと取り残されていた。

なんか置いてけぼりくらって淋しい。

そんな気持ちになっていたところ、ほどなくして誰かの声が聞こえてきた。

 

「おー、斉天大聖さんじょー」

 

声のした方に顔を向ければそこには猿と牛が並んでおり、猿のほうがヒラヒラと手を振っている。

若干不審な二人組に怪訝な目を向けると、猿がなんだその顔と言わんばかりにガンつけてきた。

睨み合う俺と猿。

あ、猿と目を合わせちゃいけないんだっけか?しかしここで引いたらなんか負けた気がすると睨み合いを続けていたら、牛のほうが俺と猿の頭を掴み、互いの頭をガツンとぶつけ合う。

なんだこの猿、石みてえに硬い。

痛みに若干目に涙を浮かべながら頭を摩ると、それは向こうも同じだったようで、猿も痛そうに頭を抑え涙目になっていた。

呻く俺たちを見て呆れたようにブモーと息を吐き、牛は口を開く。

 

「お前さんはこれくらい強引にやらんとひとりで突っ走るからー、とツギハギ鎧の赤い奴が言っとったが本当じゃの」

 

「やーい、無鉄砲の考えなしー」

 

さっきまで痛がってたにも関わらず、すぐさま煽ってくる猿に拳を放ったが避けられた。

遅い遅いとヒラヒラ逃げ回り更に煽る猿に殺意を覚えつつ追撃を試みたが、その前に牛が「こら」と叱りながらガインと猿を叩き落とす。

猿が吹き飛んだ。

「義弟に悪気はないぞ、ただ単に遊んどるだけじゃ。しっかしお前さんも喧嘩っ早いのー」とため息混じりに牛がモーと鳴く。

転げながら半身を起こし「まだ兄貴ヅラすんのかよ」と心底不満気な表情で猿が頬を膨らませた。

 

「お前は黙っとれ。 赤いツギハギ鎧の奴から『あいつ不貞腐れてるだろーからよろしく』と言われとる」

 

「そーゆーこと。ま、ちょいとばかし本気で遊んでやるよ」

 

そう言って、牛と猿は楽しげに笑う。

「つっても、誰にするかな。土地勘ありそうなヤツのがいーだろ?」と猿が首を傾げ部屋の中を見回した。

ぐるりと部屋を眺めた猿は、片隅に置いてあったガラクタに目を向け「いいもの見っけ」と呟く。

 

「んじゃまー、驚いていいぜ?ついでに褒め称えろ敬え斉天大聖様ステキーってな」

 

「ああ?」

 

俺の苛ついた声を無視して、猿はガラクタのひとつを手に取った。

「かわってやるから、優しくしろよ?」と猿はニッと笑う。「気の流れが妙だしのー、普段よりかはモー少し保つじゃろ」と牛もガラクタを片手に微笑んだ。

 

「は?…」

 

と俺が言葉を並べる前に牛と猿は声を揃え、それと同時にポンと白い煙が部屋の中に充満した。

突然視界が煙に覆われ、俺が驚き戸惑っている間にゆっくりと煙は薄れていく。

霞んだ目を擦りながら「何すんだテメェら」と苦情を口に出したが、薄れた煙の隙間から見えた場所には猿も牛もおらず、何故か別の人影が映った。

新たに現れたその人影たちも、煙のせいか目を擦り咳き込みながら声を漏らす。

「な、なにこれ!」という甲高い、言うなれば女の声と「なに、何が、起こった?」と凜とした、言うなれば若い男の声。

あれ?と目をパチクリさせる間に煙は晴れ、元通りの部屋の中にはやはり猿と牛の姿はない。代わりに聞こえた声の通り、ふたりの男女が立ちすくんでいた。

キョロキョロと周囲を見渡す女は茶色の髪を揺らし水色の衣服をヒラヒラさせており、警戒し剣に手を掛けている男は金色の髪を立て黄色い衣服で青いマントを翻している。

牛とも猿とも違う、見知らぬ男女がそこにいた。

俺は猿の言葉を反芻する。

 

あのクソ猿は言っていた。

「驚いていいぜ」ってな。

 

じゃあ素直にその言葉通り驚いてやろうじゃねーの。

猿と牛が、見知らぬ女と男にかわった、ってな!

 

「誰だお前らぁああああ!」

「えええええ、何ここドコぉお!?」

「な、えっ?誰だ君は!?」

 

3人分の驚きの声ってのは喧しいな。

魔神だのなんだのに出会ってからは不思議なことに慣れた気持ちになってたが、やっぱ驚くことには驚くわ。

戻ってこい猿。説明しろ牛。

そして一発殴らせろ。

 

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そんなこんなで、度肝を抜かれたがお互い訳のわからないままとりあえず、現状を受け入れようと話し合った。

外見だけが変わっているのかと思ったが、どうやら外見も中身も完全に別人のようだ。「セイテンタイセイサマ」と声を掛けてみたが「? 誰かの名前?」と首を傾げられた。このふたりに猿と牛の意識はないっぽい。

女のほうは光の戦士だと名乗り、意外とあっさり現状を受け入れた。「不思議なことってよくあるわよね」とふんわり笑ったこの女は、見た目より割と修羅場潜ってる気がする。

対して男のほうは、天地騎士だと名乗りはしたが未だウンウン唸って頭を抱えている。女のほうに比べて無駄に悩むタイプらしい。

 

「そんなに悩んで疲れねーの?」

 

「そうそう!変に悩むのは良くないわよ?」

 

「…いや普通に考えて奇妙すぎることだろうこれは…。何で私が少数派になっているんだ…」

 

天地騎士が酷え顔してるが、不思議なことに対しては考えるだけ無駄だと思う。俺はそれを魔神で痛いほど思い知らされた。

魔神に比べりゃ話が通じる分、コイツらのほうがマシ。

そう思ったのは、記憶に新しい。

 

 

「ああいたいた。もう、勝手にどっかいかないでよー」

 

光の戦士が天地騎士の手を引きながら、少しばかり頬を膨らませて駆けてきた。

なんだかんだで結局俺たちは、各所を回る遊軍としてこの砂漠を走り回っている。

一緒に行動するにあたり、色々話をしてみたがふたりの話は結構オモロイものが多かった。ので、共に行動するのは苦ではない。

現状の敵が竜人だと話せば、光の戦士に「竜?わたし友達の竜がいるんだけどな…」と少し悲しげな顔をされたが実際対峙してみて「これ放っといたらダメなやつ」と理解したのか妙に張り切ってくれた。

まあ代わりに「わたしの友達の竜はね」と竜トークをされることが増えたケド。

そんなこんなで初めに「どこここ?」と困惑していた割に「砂漠なんて初めてだ」と驚いていた割に、何故か不思議なことにふたりともあっさりすんなりとこの砂漠に馴染んでいた。

 

「なんか私の居た場所と似てるのよね。ほら、あの山とか形がそっくり」

 

3人で見回りながら光の戦士が遠くに見える山を指差し笑う。まあ、山なんざ大体みんな似たような形だろう。

「私のとこだと、あんな感じの山の中腹辺りに神殿があってね」という言葉に俺は「ああ、あそこも中腹に変な神殿みたいな遺跡があるな」と返す。

 

「そんなとこまで似てるんだ。あ、あと私のとこだと…山があっちだから、向こうのほうにピラミッドがあったわ」

 

「奇遇だな、ここもそのあたりにクソイカれたピラミッドがあるぞ」

 

俺がそう答えると、光の戦士は「そうなの?凄いね!」とニコニコしながら驚いて、他にも色々と話をしてくれた。

その話を聞く限り、ふたりの住んで居た場所は建物や山の形はここと似ているらしいが、砂漠ではなくジメジメとした沼地らしい。

「だからこんなに砂ばっかのカラカラした所新鮮。それなのになんか似てて面白いわ」と軽く空を見上げ、光の戦士は柔らかく笑った。

そうだな、世の中には似通った地理もあるもんなんだなと俺も釣られて笑う。

そんな俺たちの会話を聞いていた天地騎士は、怪訝な表情を浮かべていた。

 

「…神殿みたいな遺跡にピラミッド…。なんか、なんだか、…なんだろう、なんとなく…」

 

ぽつりとそう呟いておもむろに空を見上げる。そのまま「翼が残っていたら、空から確認出来ただろうに。…ああ、捨てたことを後悔するときが来るとは」と深いため息を吐いた。

意味不明の呟きに首を傾げると「…なんでも、ない」と目を逸らされた。なんでもないようには見えねーけど。

妙な態度の天地騎士を尻目に、光の戦士はその場にひょいと屈み込み何かを拾う。

 

「また見っけ。なんだろうね、このピカピカしたオーブ」

 

拾い上げたそれを太陽に照らし、光の戦士はピカピカしてて綺麗だよねと微笑んだ。同感だ気が合うな。

そういや水の友人が種類は違うがオーブを拾ったとか連絡してきてたが、なんか関係あるんだろうか。

持ってってみるかと俺はいくつか集めたピカピカしたものを確認し、懐にしまい込む。

東からの援軍のおかげで、こいつらのおかげで、なんとかこの騒ぎでの犠牲は出さずに耐えることができた。

落ち着いてきたことだし、俺もそろそろあっちに行くかと東の空に視線を送る。

 

「あ、お友達のとこ行くの?ずっと大変そうな連絡ばっかきてたもんね、毎回凄い顔してた」

 

俺の表情を見た光の戦士が察したのかクスクス笑った。「私にも大事な友達がいるからわかるわ」とぽふぽふ俺の頭を撫でる。

ガキ扱いされた気分になって、つい口をへの字に曲げた。同い年くらいだろ。

「さあ?どうかしら」と光の戦士は微笑み、ついでに横にいた天地騎士は「…私は年上だろうな。恐らくとても」と複雑そうな表情を浮かべる。

あれ、こいつら見た目と年齢がズレてる種族か?人間だと思ってたけど。確かあの魔王も見た目より長く生きてたはずだし、その類か。

まあ気にしないけどと俺が頬を掻くと、天地騎士は意を決したかのように口を開く。

 

「その、もしかしたら、」

 

この大地が砂漠になったのは、君たちが光に苦しんでいるのは、もしかしたら私たちのせいかもしれない。

そう、不思議な言葉を並べ立てた。

並べ立てたはずだ。

天地騎士が口を開いた瞬間、はじめにふたりが現れたときと同じく、ポンと白い煙が広がりこの砂漠を一瞬だけ真っ白に染め上げたため、あいつの言葉は虚空へと溶けて行った。

 

「…え…」

 

「お?ただいまー、…って暑ゥ!なんで外にいるんだよ!」

 

「モー、戻ったか」

 

代わりに現れたのは猿と牛。

暑さに対して過剰に騒ぐ猿の姿は、光の戦士とも天地騎士とも似つかない。

彼らはもうここにはいないのだと、いなくなってしまったのだと実感した。

天地騎士の言葉を最後まで聞き取れなかったのが、妙に心残りだ。

ああ、あと、

 

「…礼を言いそびれちまった」

 

散々助けてもらったのに、四六時中一緒にいて色々と励ましてもらったのに、礼も挨拶も何もしていない。

流石にそれは失礼だろうと、牛と猿にもう一度あいつらにかわってくれと伝えると、少し妙な間を経て「無理もう出来ない」と猿はべっと舌を出す。

猿の態度にイラっとし、つい殴ろうと棍を構えた俺を牛が止める。

それの言うことは本当だ、と。

普段ならば一瞬だけ、技を1発放つ程度の時間しか変化はしないのだ、と。

そして、同じ相手はしばらく間をおかないと変化出来ないのだ、と。

 

「今回は竜人のせいか気の流れが乱れとったから、普段より長く変化できそうだと思っとったが、ここまでとは」

 

「竜人が弱って気の流れが元に戻ってきたんだろ。あー、良かった戻れてー!」

 

そう言いながら猿はぽふんと白い雲を喚び出し「帰るぞ!」と牛をひっ掴み慌ただしく雲に乗る。

風のように立ち去る猿が「あの竜人気の流れを乱しただけじゃねーぞ、多分次元もだ。だから妙なヤツらに変化出来たっぽい」と牛に語り掛けているのが聞こえたが、意味はよくわからなかった。

それは微かに聞こえた言葉もだ。

 

「変化した相手が見つからねえ。今この世界にいないぞ、あんなヤツら」

 

 

……ああそういや"沼地"。

どこかで聞いた覚えがあったが、そうだ、確か大昔、気の遠くなるほどの昔に、

この砂漠は沼地だった可能性がある、と。

 

聞いた、ことが

 

 

 

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報告

 

本日、夕方。

西の大陸に現れた「覇の翼」を持つ竜人の体力が尽きたらしく、出現が激減。

しかしまだ分身体は出現するため救援部隊は残り、この地の防衛に努める模様。

 

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重ねて報告

 

東の小島にて出現する竜人本体に変化あり。

翼の分身体を撃破したためか機動力が落ちたとのこと。

分身体を撃破すると本体の弱化が確定。

分身体を叩くことは有効である。

今後も各個撃破願う。

 

以上

 

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ご連絡ー。

 

あー、うん。

ちょっと混乱してっけど、これから俺含め数人が竜人本体のいる小島に行く。

他んとこは任せた。

これ以上大地を哭かすなヨロシク。

あの竜人、石投げるのがよく効く。

出てきたら石投げつけてやれ。

あ、魔王とか攻めて来たらこの忙しいのにはしゃぐなって殴っといてくれ。

 

あと、

茶髪の女と金髪の男のコンビに見覚えがあるヤツは教えてくれ。

 

 

追記

こっちは風な感じのマテリアルと竜な感じのオーブが落ちてた。

とりあえず持ってく。

 

 

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連絡です。

 

オーブ同士掛け合わせたら赤色の玉、レッドスフィアなるものが出来ました。

種類が同じだと何かできるみたいです。

 

…なんか大地の彼が機嫌悪いんですが、誰か理由知りませんか。

 

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【▲月1日】

 

今日も、地上の騒ぎとは裏腹に太陽は昇り城を照らす。朝の光に包まれたこの城は穏やかな姿を見せていた。

騒ぎが起きて、バタバタしはじめ、森のやつが言伝を持ってきたときから早12日。

どうなることかと思ったが、騎士団の頑張りと援軍の協力のおかげでここ最近はゆっくり休む暇が生まれている。

まあつい癖で早めに目覚めてしまうのだけれど。

ぼんやりと窓から朝日が昇る様を眺めていると上の方から逆さまに、黄緑色のニンジャが顔を出した。

 

「はよー。報告するか?」

 

「………おう」

 

これにも慣れた。

一瞬ビビるけど慣れた。

素知らぬ顔で風忍からの報告を聞く。また夜中に竜人が現れ、ニンジャたちが追い払ったらしい。

「毎度思うがオマエらいつ寝てんの?」と口を挟めば「心配サンキュー、ちゃんと交代で休んでるよ」とケタケタ笑われる。

こいつはニンジャにしてはよく笑う方だなと逆さまな笑顔を見ながら思った。

 

数日前、森のやつが連れてきた援軍は見た目にわかりやすくニンジャの集団。「よくばり忍者チーム」と胸を張り、ひとりのニンジャをオレの前に引っ張り出す。

「友達、頼れる」とニコニコしながら紹介されたその彼は風忍と名乗り「こいつの友達ー、よろしく!」と満面の笑みを見せてきた。

話に聞いていたニンジャとも、聖騎士の友人である白黒のニンジャとも違ったため、非常に驚いたのを覚えている。

よく笑いよく喋りとても元気な明るいニンジャ。

どこか陰を背負ったニンジャたちとは違う風貌に戸惑いつつも宜しくと意味を込め手を伸ばせば、嬉しそうに手を握り返されブンブン振り回された。

…まあ、変わり者の友達は、多少変わり者なんだろう。

その後はご覧の通り、お互い援軍と騎士団の中継役として行動を共にすることが多い。

 

「やー、落ち着いてきたな!良かった良かった」

 

するんとオレの部屋に入り込んだ風忍は、ぽふんと椅子の上に腰を落とした。とはいえ座る向きは逆、つまり背もたれに腕を乗せ顎を乗せる型ではあったが。

ちょこんと部屋に居着いた風忍を横目で見つつ、軽く欠伸を漏らしながら身だしなみを整えていると妙に視線を感じた。

「人の身支度見て面白いか?」と問うたら「割と」と返される。そう言われるとやりにくいな。

少し困ったように頭を掻けば、風忍は己の頭をトントン叩きながら「そこそこ。月の一族の波動剣士もアンタと同じ赤髪だったなーと思って」と笑った。

そういやそうだったかなと思い浮かべつつ、波動剣士とは初日に挨拶しただけでその後顔を合わせていない。

今何してんだろあの人。それを問うと風忍はケタケタ笑った。

 

「義賊と一緒に、楽しそーにそこら中飛び回ってるよ」

 

守り玉連れてるから怪我の心配ないだろうし、と宙に円を描く。そのまま話を聞くと夜中に現れた竜人を追い払ったのも彼らだったらしい。

ただまあ最近は竜人の出現が穏やかになって来たせいか、義賊が用意したオニギリ片手に観光気分でウロついてるようだが。

どうやら白黒のニンジャを取っ捕まえて「他の奴等に見付かると面倒だろお前。よしこの土地詳しいだろ案内しろ」と引っ張り回しているとかいないとか。

自由だなとぼんやり思いつつ、身支度を終えたオレは伸びをして再度窓の外を眺めた。

すると朝も早よから外を歩く人影が見える。三つ頭の破壊神と四つ頭の、…誰だアレ。

見覚えのない人影に首を傾げれば、風忍も「どした?」と窓のそばへと寄ってきた。ふたりの人影を観察すれば、外を歩く、ふたり合わせて七つの頭が賑やかに言い合いをしている。

 

「いやいやいや、いいじゃないですかそんな邪険にしなくとも。このワタクシがわざわざ!ひとりぼっちのアナタをお手伝いしにきたというのに。ホラ、ちゃーんとお手伝いしておりますでしょう?」

 

「喧しいです頼んでません!」

 

遠目からもイライラしているのが丸わかりの破壊神の背後を、ふよふよと四つ頭の誰かが追いかけていた。

「他の方々は皆向こう行ってしまいまして?これはアナタが寂しいだろうと!ワタクシ気を使ってあげましたのにぃ」とすこぶる楽しげな声が四つ頭から放たれ、それに合わせて破壊神の機嫌がすこぶる悪くなっていく。

あの人をあまり怒らせないで欲しいとオレがハラハラ見守っていると、四つ頭は「そもそもアナタが素直に防衛に回るとは思いもしておりませんでしたよ。これ幸いと一緒になって壊し回るかと、」と言葉を続けた。その言葉が言い終わる前に破壊神はひゅんと槍を振り下ろし「黙りなさい。ワタシ以外が、ワタシの目の届く所で好き勝手破壊を行うなど我慢ならないだけです!」と牙を剥く。

 

「グダグダそれっぽい理由並べてますが、アナタ大方、ここらの騒ぎを察知して物見遊山気分で賑やかしに来ただけでしょう!」

 

「おや、酷いことを。ワタクシの創造の源泉は、ワタクシが愛する人々ですよ?」

 

それを守るお手伝いくらい致しますよ、と四つ頭は自身の周囲に浮かぶいくつかの玉をくるくる弄んだ。

じゃあアナタも向こう行けばいいでしょう、と破壊神が怒鳴りつけると四つ頭は微笑みながら人差し指を立て揺らす。

 

「いえいえ。いかなる創造活動も、はじめは破壊活動です。そりゃまあ、造ったそばから壊されてしまうのは堪りませんが、創造には破壊が必要ですからねぇ。そういうの、アナタのほうが得意でしょう?」

 

ですからドサクサに紛れて少し壊すといいですよ!と楽しそうな表情を変えず凄いことを言い放ち、四つ頭は八つの瞳で辺りを見回した。

彼の目に映るは多少荒れた原っぱと多少削れた木々、あとはこの城も見えているだろうか。

世界を見渡し満足げに頷いた四つ頭はさも当たり前のようにケロッと笑う。

 

「というか、こんなお祭り騒ぎ、一瞬で終わってしまいますしー」

 

「アナタの物差しでモノ言わないでください」

 

破壊神は呆れた表情を見せるが、四つ頭はどこ吹く風で「ウフフフフ、しかしこういった騒ぎは楽しいですね。皆さんがワチャワチャとゴチャゴチャと…」と笑みを浮かべた。

しばらく微笑んだ後、突然四つ頭は思案げな表情となりパチンと指を鳴らす。

 

「良い事思いつきました!ワタクシも皆さんを楽しませる一大イベントを開きましょう!」

 

「………はい?」

 

突然の宣言に、先ほどまで怒っていた破壊神の表情がピタリと固まる。

たっぷりの間をとって破壊神はなんとか声を漏らしたが、四つ頭は「そうと決まれば舞台の準備しなくてはなりませんね!ウフフフフ、これは忙しくなりそうです。いえいえワタクシ、プロデュースは得意ですし完璧に出来ますよ。そう!できると思えばできる、できないと思えばできない。そう!これは、ゆるぎない絶対的な原理です!」と一息に捲したてた。

機嫌良さそうに四つ頭は呆気にとられている破壊神の手を握り言い放つ。

 

「ええ勿論、破壊神にも手伝っていただきますよ!今回ワタクシお手伝い致しましたし、そのお返しはこれで良いです!」

 

完全に困惑している破壊神を無視して四つ頭は「アナタ方もスッキリ。皆さんもワイワイ。ワタクシは楽しい。一石三鳥ですね!」と彼の周囲に浮かぶ玉を嬉しげにくるくる回した。

そのまま四つ頭は掴んでいた破壊神の手を離し、それではワタクシはこれで!とふわり背を向ける。破壊神が我に返り「ちょっと待ちなさい!」と矢を放ったが、その矢はヒラリと避けられた。

そんな一部始終を窓から見ていたオレは、ヒラヒラ逃げる四つ頭とそれを追いかける破壊神の姿が小さくなったのを確認し、朝っぱらから何か凄えもん見た、と息を吐いた。

しかしまあ、いつも余裕綽々なあの破壊神があそこまで呆然としあそこまで慌てるなど珍しい。あの四つ頭只者じゃない。

東には凄いヤツがいるなと、オレと同じように一部始終を見て目を丸くしていた風忍に言うとキョトンとした顔を向けられる。

 

「…え?アレここの奴じゃねーの?東にあんな奴いないぞ?」

 

「…えっ?」

 

じゃあドコのダレだアレ。

この騒ぎだ、他の大陸から来たとも思えない。ここに住むヤツなら見回りのとき見てるだろうし、そもそもあんな目立つ風貌の輩、一度見たら忘れないだろうし。

風忍と互いに顔を見合わせ小首を傾げ合う。

 

うん。

竜人騒ぎが起きているのに、これ以上ややこしい問題を引っ張り出すのは、

よくない。

 

互いにコクリと頷いて、互いに見なかったことにした。

オレは風忍に声を掛け部屋の外に出る。とりあえず朝メシ食いに行こう。

ここ最近は、風忍たちが持って来た東の食材がふんだんに使われた料理が出てくるから楽しみだ。

そうウキウキとした気分で食堂に行けば、見慣れない美味そうな料理を渡される。

東国の料理は見た目も綺麗なのがイイよなと満足げにプレートを眺めると、端にちょこんと緑色の食い物が乗っていた。

これはどんな味だろうかと口に運ぶと物凄い苦味が口内に広がる。何だこの、何? 味の形容が出来ないくらい苦い。苦いとしか言いようがない。ひとくち食っただけなのに。

思わず水で流し込みんだがまだ口の中がニガニガしている。

口元を抑えつつナンダコレと漏らしたら、風忍は「あー、それなー、大樹竜の根っこ」と教えてくれた。お前ら普段何つーもん食ってんだとついドン引いたが、よくよく見れば風忍は緑色の苦い根っこには手を付けていない。

「オレもソレ苦手ー。アイツの兄ちゃんはモリモリ食ってたけどさ」と風忍は笑う。

ニンジャが好き嫌いしていいのか東は。

 

「いや、オレも普段は大体食うよ?でもこういう"食事"のときは美味いもんだけ食いたい」

 

しれっと言い放ち、風忍はのんびり茶を啜った。忍者食とか物によってはヒデーもんあるからさと若干虚無の眼差しを見せる。

大変だなと当たり障りのない言葉を贈り、オレも茶に手を伸ばした。

食後の一服、ほっとひと息。ニガい食べ物のことは忘れよう。

最近落ち着いて来たおかげで一服する間が出来たことは嬉しく思う。数日前までは食い物詰めるだけ詰めて早々に出陣していたからな。

他の大陸と同じように、ここも多少余裕が生まれた。なら、オレも向こうに行く頃合いだろう。

 

「おー、アイツのことよろしく」

 

風忍がへらっと笑いながら手をひらつかせた。アイツの口調は小難しいが内容はストレートだから深く考えなくていいよ、とアドバイスを貰う。まあ、付き合いは短いがそこら辺は把握してるから大丈夫だ。

とはいえ、騎士隊から抜けるからには誰かに相談しないとな。聖騎士でいいか。

そう考えていると、風忍は突然「そういやあの白くて金髪の聖騎士さん、 」とオレが思い描いている人物と同じ人物のことを口に出した。

 

「あの人、どっかに身内とか居る?」

 

ちょっと前に森の中で似た感じの白い鎧の金髪戦士を見かけたんだけどさ、と風忍は小首を傾げる。風忍は、そいつの鎧がボロボロだったから漂流でもしたのかと思ったらしい。

「それにしちゃ元気そうだったからスルーしたんだけど、ここ来てあの聖騎士さん見かけてさ」と頭を掻いた。

行方不明の身内とかなら今からでも保護しとくけど、と提案してくる風忍に首を振る。そうかアイツ今東にいるのか。

 

「それ含めて相談してくるよ」

 

そう言ってオレは席を立った。そう?と小首を傾げ風忍もひょいと立ち上がる。

んじゃ今日も元気に斥候行って来ますかと笑う風忍に、次から報告は聖騎士のほうに頼むと言葉を投げれば「りょーかいー」と返され、その言葉が終わる頃にはもう風忍の姿は見えなくなっていた。

相変わらず早い。まあ、森の友人と子供の頃から駈け回っていたらしいから素早いのも納得ではあるが。

さてとオレも食堂から離れた。今の時間なら目的の相手は部屋にいるだろう。

 

■■

 

ひとつの部屋の前に辿り着き、コンコンコンとノックを奏でた。すぐさま中から返事が聞こえ、家主の在宅を告げる。

扉を開けばキラキラとした白銀の鎧と金色の鎧の男がふたり、太陽に照らされ輝いていた。朝っぱらからまぶしい。

つい目を細めたが当人たちはそれに気付かず「どうした?」とのんびりとした声を掛けてくる。

「いや、…取り込み中なら後にするけど」となんとか声を返すが「少し休んでいただけだ」とやんわり微笑み、金色の鎧、黄金騎士が紫色の長く結った頭飾りを揺らした。動かれるとチカチカしてまぶしい。

そんな言葉を飲み込みつつ、そろそろ東に行きたいことを伝えると意外とあっさり「いいと思うぞ?」と返される。

 

「最近落ち着いて来たからな。向こうも大変そうだし、他の場所も何人か救援に向かったようだし」

 

流石に自分たちは動けないけれど、と黄金騎士は頬を掻き「君ならこちらの代表として申し分ない」とぽふんと軽くオレの頭を叩いた。

ああそうかそういう形になるのか。オレとしては単に友人たちの救援なんだけど、形的に「王国騎士団からの代表」みたくなっちまうのか。

少しばかりのプレッシャーを感じつつ、それを気取られないように「思いっきり燃やしてくる」と笑みを作れば黄金騎士は苦笑しつつ頼もしいなと呟き、真面目な声をオレに向けた。

 

「ああ、…。火で殺してもいいが、不死鳥は火から生まれることを忘れるな」

 

油断するなってことかな。

意味がよくわからないなりに頷き、オレは白銀の鎧、聖騎士のほうに顔を向ける。

「あ、あとさあいつが東にいるっぽいんだけど、どーする?」と声をかければ誰ことを話しているのか察したらしい聖騎士は少し悩むような素振りを見せた。

 

「あいつのことだから、微妙にハズレた所で元気に勇者やってそうなんだよな…」

 

今一番大変な場所は東。最前線は竜人のいる小島。

オレとしては、あいつのことだから最前線の近くに寄っていそうだと思っていたのだが、聖騎士の予想だとあいつはそこにはいないらしい。

キョトンとするオレを見て聖騎士は「いや、首突っ込んでいるとは思う。あいつそういうの目ざといから」となんとも言えない表情を浮かべ、腕を組み小さく声を漏らした。

 

「例えば、そうだな…。あいつがいそうなのは、真っ当な人間では見つけられない、でもこの騒ぎの原点、みたいな場所、かな」

 

なんせあいつは自分と違って、真の勇者だから。

そう言って聖騎士は柔らかく笑った。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

本日、昼。

南の大陸に現れた「星の剣」を持つ竜人の体力が尽きたらしく、出現が激減。

しかしまだ分身体は出現するため救援部隊は残り、この地の防衛に努める模様。

 

これにより、各大陸の騒動は一旦落ち着いたと思われる。

 

ーーーーーーーーーー

 

重ねて報告

 

東の小島にて出現する竜人本体に変化あり。

剣の分身体を撃破したためか攻撃力が落ちたとのこと。

戦いやすくなったとの報告。

 

以上

 

ーーーーーーーーーー

 

重ねて報告【緊急】

 

各所の分身体が再度出現

最盛期よりは出現が低いものの変わらず出現中

各個対応は任せる

 

ーーーーーーーーーー

 

伝達。

 

え、これオレたちここ離れていいの?

と、とりあえずオレ含め数人が竜人本体のいる小島に行くから、その、他の所は任せた!

本体叩けばまた落ち着くよな、落ち着け!

なんかあったら申し訳ないが戻る。

 

 

追伸

 

海風のエレメントと戦士風のジェム発見。

これで全部か?

 

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連絡です。

 

各地に落ちていた謎の物体、南からのアイテムにより全部集まったようです。

オーブ同士でレッドスフィア

エレメント同士でブルースフィア

ジェム同士でイエロースフィア

マテリアル同士でグリーンスフィア

が完成しました。

追って効果を報告します。

 

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ご連絡ー。

 

赤いピカピカしたのは火のヤツ

青いピカピカしたのは水のヤツ

黄色いピカピカしたのは俺

緑のピカピカしたのは風のヤツ

が超馴染んだ。

気質によってなんかいい感じになるみてーだな。

 

早く先発隊に渡して、…え?もう渡してある?

ちゃんと緑のを?

効果わからなかったってのに?

 

何お前怖っ

 

ーーーーーーーーーー

 

伝達。

 

えっと…。オマエら喧嘩すんなよ…。

 

落ちてた物体の報告は以上。

作って頼んで各大陸に流すから活用してくれ。

いなくなったオレらの分の戦力の代わりにはなると思う。

持ってるとなんか力湧いてくる。

 

 

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私信・兄上へ

 

強化の球多い重い

 

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私信・愚弟へ

 

黙って運べ

 

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私信・兄上へ

 

わたしおわった

………みんなのとこいきたい

 

ーーーーーーーーーー

 

私信・愚弟へ

 

……………

…好きにしろ

 

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【▲月6日】

 

森に、オレの口から漏れる唄が静かに流れていた。

いや、つい歌いたくなったのだ。この賑やかな報告書を読んでいたら。

ワイワイとした、楽しげな明るい勇者たちからの報告。

切羽詰まっていたのも、世界の危機であったのと事実。しかしどうだこの報告書たちは。

竜人の島に救援が増えるたびにじわじわと賑やかになっていく文章を眺め、ゴチャゴチャして楽しそうだなと思いながら眩しそうに目を細める。

さて、とオレは眼下に広がる森を見下ろし、そろそろ動こうかと大きな木から飛び降りた。

少しばかり期待していたのだけれどもと小さく笑う。これだけ騒ぎになっているのだから、竜人なるものも外に出てくるだろう、と。

残念ながらそんな気配は微塵もなく、竜人の郷は無言を貫いていた。

 

「んじゃ、行くか」

 

そうひとり声を発し、愛用の剣を握り直してオレは森の奥へと駆け出して行く。

さってさて、竜人の郷とはどんなとこかな?

 

■■■

 

始まりは数日前。なんかいやに騒がしいなと夜中に外を見上げれば、そこにいたのは大きな竜人。

その姿を見た瞬間オレはその竜人を追いかけ、途中己の頭の上を2体の竜が追い越して行ったものの、無事変な小島に到着した。

岩場だらけの殺風景な島。どんよりとした空には雷が走る。

多少警戒しつつ辺りを散策すれば、見つかったのは先ほど空に現れた竜人と、倒れこんでる人影みっつ。

その3人に向けて、竜人が大きな剣を振り下ろそうとしていた。

無抵抗の相手に武器を振るう場面を見たら、まあ、反射的に倒れてるほうを助けるよね。

周囲に雷鳴ってるしイケるだろうとオレは竜人に向けて雷を落とす。予想外の所から攻撃されたせいか、竜人が怯んだその隙を狙って無事3人組を回収出来た。

さすがに3人抱えるのは無理だったけど、どうやらその内のひとりは目が見えなくなっていただけのようで「こっち!」と声を掛ければ己の足で立ち上がり素直について来てくれる。よかった。

彼らを竜人の目の届かないところに運び込み、状態を確認する。

ひとりは剣士風の青年で、目が見えないだけで外傷はなし。

もうひとりは黄緑色の耳が妙な形をしている青年で、麻痺ってるのか時折ビクビクしつつも「耐えるぞ…」と声を漏らしていた。

最後のひとりは緑色の竜騎士風の青年で、とても気持ち良さそうに眠っている。

起こしたほうがいいよなこれと頬をペシペシ叩いてみるが、一向に目覚める気配がない。

困っているとどこからともなく赤い竜が降りて来て、オレが驚く暇もなく、ヒュンと尾を振るい竜騎士風の青年を吹き飛ばした。

ほぼ同時にゴギャッと凄まじい音が響き、近くにあった岩の壁がパラパラと崩れる音が聞こえてくる。

一瞬の出来事に呆気に取られつつも、オレは目の前にいる赤い竜から目を離さず一応剣に手を伸ばした。

この赤い竜は、攻撃してきたし、敵かな。

しかし敵ならオレも同時に吹き飛ばせば良いだろうに、それはせず的確に彼だけ弾き飛ばした。なんというか、言うなれば「とっとと起きろ」と、文字通り叩き起こしたかのように。

赤い竜の行動から敵意を見出せず戸惑うオレの耳に、おずおずと言葉が掛けられた。

 

「…何時ものことだから、気にしないでいただきたい」

 

今の騒ぎの最中、視力が戻った剣士風の青年が心配そうに見やりつつ「あの赤い竜は、今吹き飛んだ竜騎士の相棒だ」と説明してくれた。

ああやっぱ竜騎士か。なら相棒の竜がいるのは理解できる。まあそのちょっと、相棒に容赦無さすぎる気がするけども。

そうこうしている間に竜騎士は目が覚めたのか「???なんか全身イタイ…」と涙目で身体を起こし周囲をキョロキョロと見回していた。

麻痺ってた青年も回復したのか「うー…」と呻きながらプルプルと首を振っている。

3人とも不調は戻ったらしい。

さて、何が何だかわからないまま助けちゃったけど、よかったのかな?

わやわや話し合っている3人を眺めていると、オレの存在を思い出したのか彼らは三者三様に名を名乗り礼を口に出す。

そのまま、彼らの話を聞くことになった。

 

 

「…そんなことになってたのか」

 

話を聞いてオレはつい声を漏らす。東の大陸をウロウロしていたから、他大陸の騒ぎに気付かなかった。

確かにここ最近住人が少ない気がするなとは思ったが、他大陸のヘルプに行っていたとは。

南のほうは無事かなと祖国を思う。

…まあ騎士団のみんなが居るなら大丈夫か。心配するだけ無駄だなとひとり頷き、オレはひょいと立ち上がった。

 

「さっきの竜人が大ボスなんだね?じゃ、ちょっと偵察してくるよ。君らはまだ休んでて」

 

彼らの答えを聞かずオレは走り去った。背後から「あれ?おれら竜人だって話したっけ?」という不思議そうな声が聞こえたがスルーして。

小さな島だ、見回り自体はすぐに終わった。ぐるりと見回してみたけれど、何故か例の竜人の姿はどこにもない。

首を傾げつつ、ふと島の外に目を向けた。緑に覆われた東の大陸が目に映り込む。

 

あの大陸に初めて訪れたとき、広い森で見事に迷子となった。当てもなく森を徘徊し、これは遭難して死ぬと諦めかけたことを思い出す。

幸い、住人であろうふわふわした青年に助けられたが、その時に聞いた「竜の郷」の話に興味を持った。

まあ、当人はおとぎ話だと言っていたが、なんとなく気になり街や道場、迷わない程度の浅い森に住む人々にさりげなく聞いてみれば、面白いことに皆その「おとぎ話」を知っていた。

しかし、内容はてんでバラバラ。登場人物も、舞台も、恐らく時代でえ、全てが違う。

共通しているのは「登場人物に竜人と呼ばれるモノが出てくる」「竜の郷という単語が出てくる」くらいだった。

普通ならば「この大陸にはそんなおとぎ話があるのか」程度で終わるのだろうが、共通項にブレがないのに話そのものはバラバラ、という点がどうにも引っかかる。

得てして物語というものは地域によって差異が出てくるものだ。それは、残虐すぎるからマイルドに変化させてみたり、聞き慣れぬものだから身近なものに置き換える等、理由は様々ではあるが、話の根本を変えることはあまりない。

しかし例の「おとぎ話」は真逆。

物語そのものが丸切り違うにも関わらず、竜人・竜の郷に関しての設定はどれも一切変わらないのだ。

それ故オレはこう結論付けた。

「もしや、おとぎ話に出てくる竜人や竜の郷というものには元ネタがあり、大昔に実際に起こったことを物語としているのではないか」と。

それならば、聞く人聞く人全員が全く違う「竜人のおとぎ話」を語るのも頷ける。

仮定に過ぎないけれどとさらにおとぎ話を追っていくと、おとぎ話の内容自体は大体2パターンに分かれることに気付いた。

ひとつは、良い者がピンチに陥っていると竜の化身が手助けしてくれるパターン。

もうひとつは、悪い者が悪事を成功させてひと息つくと竜人に仕置きされるパターン。

内容そのものはかなり違うが、大まかに分けるとこのふたつとなる。

そして、どちらとも竜人が出てくる場所は街の中か森の中だった。

 

「…だから、本当に竜人の住む竜の郷があるならば、その入り口は街か森のどちらかかな?と、思ったんだけどねー」

 

実際、竜人が現れたのはこの小島だったわけだ。近いからと街中を探していたのは無駄足だったらしい。

おとぎ話を調べ、竜人というものが実在するのではと考えていたからあの竜人が出て来た時驚きよりも「うわマジで居たよオレすげー!」が先にきて、とるもとりあえず追いかけたのだけれども。

おとぎ話では竜人の外見は特に描かれていなかった。"そこにはヒトとも竜ともつかない男が〜"とか、"竜のような威厳を放つ者が〜"とか濁らされていた、けれど、実際見て竜人とは「竜だがヒトのように言葉を操り、ヒトのように道具を扱える」のだろうと。

だからあれが竜人なのだろう、と。

 

「あ、そういや竜人追い掛けて来た時に2体の竜に追い越されたな。1体は竜騎士の相棒のあの赤い竜だろうけど、もう1体はどこ行ったんだ?」

 

ふいに思い出し小首を傾げる。

まあ、竜騎士に聞いたらわかるか。

これ以上偵察しても無意味だろうと、オレは3人のいる場所に戻ることにした。

ちゃんと休んでるかなあいつら。見たこともない竜人と早々に対峙し、抵抗も出来ず全滅寸前だったのだから、負荷はかなりのものだろう。

大丈夫かなと心配したのは、割りかし無駄だった。

 

「オレが止める!」

 

とてもとても大きな声が、辺りに響き渡る。この声は、確か迅竜剣士だっけかな。

揉めているのか喧嘩でもしているのか。

そう思い、影からこっそりと3人組を覗き見る。どうやら、妙に焦っている迅竜剣士を、剣聖と竜騎士が宥めているみたいだ。

「しかし、先ほどのように動きを封じられては」「少し考えないとー…」というふたりの声を遮って、迅竜剣士は「だって!」と再度声を張り上げた。

少しばかり涙ぐみながら迅竜剣士はふるふると首を振る。話も聞いてくれないし、オレに剣振り下ろすし、とついにポロポロ涙を落とした。

「だからこれ以上させないために、オレが止めなきゃ、早く止めなきゃ」と迅竜剣士は泣きじゃくりながらもそう繰り返す。

なんだろう、口ぶりから迅竜剣士はあの竜人の知り合いみたいだけど、と怪訝に思っていると、不意に迅竜剣士の身体が光った。

 

「あ」

 

「感情昂ぶると変幻しちまうのか。やっぱ不安定だな」

 

苦笑しながらそれを撫でる竜騎士は、それに「ダイジョーブダイジョーブ、おれらもいるから」と優しく話しかけ、剣聖も「彼を止めたいと思っているのは俺らも同じ」とぽふんとそれの翼を撫でる。

剣聖と竜騎士に宥められているそれは、先ほどまで迅竜剣士が居た場所に急に現れた大きな竜は、先ほどの迅竜剣士と同じようにぐすぐす涙ぐんでいた。

え。

いや、えっ?

うん?

呆気にとられたオレの耳に、竜騎士たちの言葉が届く。

 

「ほら、落ち着け落ち着け。さっきのやつが戻って来たら驚くだろ?」

 

「悪い方ではなさそうだが、竜人騒ぎの最中、君が竜人だとバレれば最悪の事態になりかねない。もうしばらくは黙っていよう」

 

そうだね驚いた。どうこうする気は微塵もないけども。

彼らの言葉に心の中で返しつつ、すっと岩陰に身体を隠す。

オレハ ナニモ ミテマセン。キイテマセン。

生きているなら隠し事のひとつやふたつやみっつあるよね、うん。

 

「しっかし、そうかー、あの子竜人かー」

 

小さな声でぽつりと呟く。

ああいうタイプもいるんだな。普段の外見はヒトとほとんど変わらず、ここぞという時に竜に変幻するタイプ。

竜主体なタイプと、ヒト主体なタイプがいるんだな竜人って。

そっかー、と空を見上げオレは迅竜剣士がヒトに戻るまで、しばらくひとり寂しく時間を潰した。

 

そろそろいいかなと軽く覗き込むと迅竜剣士は迅竜剣士の姿に戻っており、「遅いな」「何かあったのだろうか」と心配され始めていたので慌てて何食わぬ顔で合流する。

遅くなった理由は、そうだな「何故かあの竜人の姿がどこにも無くて、妙だと思い探していた」でいいか。

そう伝えると迅竜剣士はキョトンとしながら「…?郷に帰ったのかな」と言葉を放つ。

…この子自分が竜人だっての、隠す気あるのかな!?

竜人が出て来てるこのタイミングで「郷」なんて単語出したら、竜の郷のこと連想しちゃうでしょーが!

しかも「帰った」って!一応こっちとしてはあの竜人の住処はこの小島だってことになってんだから!

他に住処がありますー、みたいな言い方ダメでしょ!

あと多分これ自分が竜人かつ故郷が竜の郷だから「帰った」つったな!?

もう一回言うけど、隠す気あるのかな!?

オレは表情には出さず、心の中で盛大に突っ込んだ。

まあ、剣聖や竜騎士もそれに気付いたのか慌ててスパンと迅竜剣士の口を塞ぎ「そうだなもしかしたら他の大陸に偵察にでもいったのかもな!」だの「気付かれない隠れ場所があるのかもな!この島にな!」だの、迅竜剣士の言葉を上書きするように畳み掛けてくる。

彼らの誤魔化そうとする必死な行動に対して、つい返答が「ウンソウダネー」とカタコトになってしまったが、オレは悪くないと思った。

 

■■

 

その後数日、厳密には他の大陸が落ち着いてくるまでの10日間ほど。彼らと行動を共にすることとなった。

まあ、行動を共にするといっても、彼らには「迅竜剣士の正体はまだ隠す」という前提があるせいか若干よそよそしく、またオレも「隠しときたいなら気付かないフリしとく」と積極的には近付いていない。

じゃあ何をしているかと問われれば、主に物資の補給と供給。何故かは知らないが3人とも妙に強いから「じゃあオレサポートに回るよ」と自分から志願した。そのため事あるごとに東の大陸に戻り、物資を買い込み彼らに届けている。

救援物資の他に、甘味とか暇つぶしの道具とかをお土産に持って行くと迅竜剣士が妙に喜ぶのがちょっと面白い。キラキラした目で「ナニコレ郷には無かったー」とか、うん。もうちょっと隠す努力しよう?

まあ竜人である迅竜剣士はともかく、彼らの強さは実際不思議だ。軽く手合わせしたときはフツーの強さだったのに、あの竜人と戦うときだけ妙に威力が上がってるから。なんかあるのかな?

あとまあ、初日のように全員行動不能になったときの回収。結構な確率で全員行動不能になるから、あの竜人ガチで殺しに来てるよね。

そんなこんなで、またあの竜人がどっか行ったので今はちょっとひと休みしている。

 

「どうやら、北の大陸がひと段落して援軍が来るらしい」

 

パチパチと爆ぜる焚き火の音が鳴る中、その火を頼りに通達を読みながら剣聖が語る。

少しは楽になるかなと全員が破顔したが、その笑みを遮って大きな咆哮が響き渡った。こんな夜中にお出ましのようだ。

全員一瞬で表情を引き締め、現れた竜人に飛びかかる。

ここまではいつも通り。

けれど、いつもと違って竜人は、あの行動を制限するような異常をバラ撒かなかった。

 

「?」

 

飛びかかった3人の顔が怪訝そうに歪む。まあそれも一瞬で、すぐさま戦闘を開始したのだけれど。

なんというか、状態異常ってホンット性格悪いギミックだったんだな、と実感するレベルで今までの比ではないくらいあっさりと竜人を退かせることに成功した。

またどこかへ姿を消した竜人を無言で見送り、オレたちは顔を見合わせる。

 

「…なんか、あれっ?」

 

「うっわ、スゲー楽。うわー」

 

「異常を付与されないだけで、こうも違うとは」

 

3人とも目をパチクリさせながら先ほどの戦闘を振り返った。状態異常は悪い文明、ハッキリわかんだね。

さて、あとは「何故急にそれを使わなくなったか」だけど。

タイミング的に、北の分身竜人を弱らせまくったから本体も技を使えなくなった、が一番可能性が高いよな。

つまり、分身竜人を倒せば倒すほど本体竜人が弱体化するのかな。

 

その仮説を通達してもらい、オレはやって来た北からの援軍と入れ替わるように東の大陸に移動した。

いや、物資供給はちまちま続けるけど、人手増えたし竜人弱体化したし、オレひとりくらい多少離れても大丈夫かなと思って。

ここ数日、物資供給のため東の大陸を回るついでにやっていたことを主軸にしても大丈夫だろうと思って。

そうしてオレは、深い深い森の中へと足を踏み入れた。

 

この大陸に「竜人」がいたならば「竜の郷」もこの大陸にあるだろうと。

その竜の郷には、迅竜剣士の話から考えると、他の竜人が多数いるのだろうと。

まあそれは良いのだが、問題はその竜人たちが、迅竜剣士と同じ思考だとは言い切れないことだ。

つまり、迅竜剣士のような「止める」側ではなく、あの大きな竜人のように「壊す」側の可能性がある。

一番最悪のケースは、あの大きな竜人がこちらの人間たちに押されていることに気付き、背後から他の竜人が襲ってくることだ。

小島では大きな竜人と闘い、他の大陸では分身竜人と闘い、この大陸にいる腕の立つものは他大陸の救援に行ってしまいここにはいない。

つまるところ、この東の大陸自体はノーガード状態。

剣聖の話によると、この大陸にいる風隠の族長は、多少の心得はあるものの前線で戦うタイプではないらしい。

そんな場所に、竜の郷の竜人たちが一挙に押し寄せて来たならば、あっという間に占拠されるだろう。

 

「竜の郷の竜人たちが、迅竜剣士みたいな考えならいいんだけどね」

 

あの大きな竜人を止めなきゃ、と息巻くようなタイプならもう既にこちらに出て来ているだろうからその可能性は低い。

今現在まで無言を貫いているということは、共倒れを狙って様子見をしているか、大きな竜人の指示でいつでも侵略出来るよう待機しているか、我関せずを貫いているのか。

いずれにせよこちらの味方とは言い難いと思う。

先行して潰しに行くか、もしくは真意を聞きに行くか。どうであれ、誰かは竜の郷に向かう必要があった。

 

「現状、敵寄りの敵、だよね。迅竜剣士には悪いけどさ」

 

あの子は、若干迂闊な良い子ではあるのだが、郷の竜人が全員そうだとは限らない。

実際、竜人の迅竜剣士は救援に来た人間と対面した際一瞬顔を強張らせていた。「人間」に対して少し怯えるというのか、不安げな顔をする。

 

「あの大きな竜人の言葉は憎しみに満ち溢れてるしなー…。竜人的には人間って憎悪か恐怖の対象なんだろうか…」

 

オレら人間は特に竜人に悪いことしてないと思うのだが。なんせ竜人なんてものはおとぎ話の世界だったのだから。

そのおとぎ話でも、手助けするか、罰を与える役割で人間と争うものは無かったはずだし。

よくわからんなあと小首を傾げつつ、オレは森の中を彷徨い続けた。

まあ、警戒しておいて損はない。疑うことも大事なのだから。

 

■■■

 

そんなこんなで、森の中を歩き回り、1日1回は小島に戻り、通達を貰い受け現在の状況を把握する。

まああの小島も賑やかになったこと。

流水の勇者、大地の勇者、火炎の勇者が揃い、連絡係していた疾風の勇者も合流したらしい。

というか火炎の勇者も来てるのか、久しぶりだな。元気かな?

物資届けて通達だけ貰いに行ってるからまだ会ってないや。

人間が増え、竜人である迅竜剣士が若干心配ではある。警戒はするだろうがうっかり気を抜いて竜化見られそうだ。

というか確実にうっかり発動しそうである、あの迂闊さでは。

まあバレたとしても、

流水は「…いえあの、ボロボロになるまで頑張って下さってますし、あの、泣かないでください…」

大地は「…もう驚いてやんねー!不思議なことはよくある不思議なモノはよくいる!」

火炎は「もっかい竜になってくれ格好いい」

程度で済む気がするが。

そして疾風は連絡係してた関係上たぶんもう知ってるし知らなかったとしても動じない。竜人話は東の大陸ではありふれたものだし。

どうであれ、まあなんとかなるだろ。

恐らく通達の文面以上にワチャワチャしているだろう現場に想いを馳せつつ、オレは森のとある場所に足を踏み入れた。

 

見覚えのない場所に出た、と思う。

未だ森の中であるため確証はないが、木々と草花の形が風隠の森とは違う気がする。

成功かなと周囲を探りながらオレはさらに足を進めた。

少しばかり歩くと森の終わりが目に入る。ここから先は見通しの良い原っぱ。ようやく歩きやすくなったと安堵の息を吐いた。

とはいえ、見通しが良いということは相手からも索敵しやすくなったということだ。森の中で死角から不意打ちされるよりはマシだが、広ければそれ相応の大技を扱いやすくなる。

相手は竜人だし、ド派手なブレスや体当たりを使えるに違いない。ならば警戒すべきはこの森を抜けた今だろう。

剣を握り直し左右に視線を巡らせる、と、ちょっと離れた場所から人の声が聞こえて来た。

人の声というか、厳密にはきっと多分恐らくメイビー、竜人の声なのだろうけど。

声のした方へと迷わず進み、声の主を視界に収める。

そこでは派手な羽根飾りを付けた青年と、ドッシリとした色黒の青年が言い争っていた。

 

「もう2週間以上だぞ!おかしいだろ!」

 

「だからと言って外に出るのはアカンじゃろ!」

 

睨み合うふたりだったが、オレの存在に気付いたのだろう。不意にこちらに顔を向け、目を見開いた。

そしてすぐさま、羽根飾りを付けたほうが眉を吊り上げ杖を掲げ持つ。

 

「ッ!あいつを攫ったのはお前か!」

 

「へ?」

 

よくわからん言い掛かりを叫ぶや否や、羽根飾りはポンと鳥竜の形に変わりその鋭いクチバシを持って突撃してきた。

ワオ。

避けはしたがそれが気に食わなかったのか、羽根飾り、いや、鳥竜?はぽひゅんと人の形に変わりこちらを睨み付け杖を向ける。

竜人確定かつ竜の郷確定、そして敵意確認、と。

話は通じるかなー、言葉は同じだったから言葉は通じるだろうけど、話が通じるかはわかんないなー。

まあともあれ、ここでくたばるのも面白くないとオレは声を張り上げた。

 

「攫ったってのは誰のことかな、オレ心当たりないぞ?」

 

「しらばっくれんな!」

 

怒鳴られた。

まあ、多分、拾った言葉たちを繋ぎ合わせればなんとなく、彼が拐われたと思っているのは十中八九迅竜剣士のことなのだろう。向こうにいる竜人は迅竜剣士とあの大きな竜人だが、彼があそこまで心配するのは同年代くらいの迅竜剣士だろうし。

ただまあ、

 

「…あの子なら自分の意思でここから出たっぽいぞ?確か『郷が襲われる前に倒せばいいと思った』とか言ってた」

 

「ンなワケ、……、あいつなら有り得るけど、嘘つくんじゃねえよ!どうせお前ら人間が攫ったんだ!」

 

うん、凄く人間嫌ってんなー。

証拠もなく言い掛かりつけちゃうレベルかー。

 

「弱いくせに悪知恵ばっか働く人間のいる外にあいつが行くわけないし、そんな人間に身の上をペラペラ喋るワケ…、あいつならやるかもしんないけど!」

 

偏見が凄いなー。

まあ確かに竜や竜人と比べたら人間なんざ脆いだろうけどさ。

 

「うちらは、他のやつらとは違うんだ!だから外行ったら狙われちまう。そんな場所に、あいつが行くワケないし、いや迷わずうちらに黙ってこっそりと行く気がするけど、…あああああもう!」

 

なおかつ若干選民意識ありかー。

実際、迅竜剣士を見てる限り力やそのほか諸々は竜人のが上だし、ふたつの姿を持つ自分たちは特別な種族感はあるんだろうけど。

 

「とにかく!おれらは捕まらねえぞ!あいつ返せ!」

 

そして妙に被害者意識ありかー。

オレたちなんかしたかなー。

呆れながら見つめるオレを威嚇し羽根飾りは「おれらより短命の人間なんかに負けるか」と杖を振るう。

それを防ぎながらオレはつい声を漏らした。

…うん?あ、そうか竜か。竜だからオレらより長生きなんだな、あれ?

ということは、

 

「………、君らもだけど、あの子オレより年上?」

 

「おー、多分人間よりは年上じゃのー」

 

オレと羽根飾りの攻防を見ていたドッシリが口を挟んだ。

ドッシリは闘えるよう構えをとってはいるが、こちらに攻撃はしてこない。とはいえ、警戒と敵意は痛いほど伝わってくる。

これはあれだな、なんか動きが重装騎士に似てるな。恐らくドッシリはオレが攻撃したら庇いにくる壁役か。

つーことは反撃さえしなけりゃ問題ない。そう考え、オレはふたりに問いかける。

 

「…えっとあの、ニコニコしながら肉頬張って、ニコニコしながら『今日のお土産なに?』って寄って来て、ニコニコしながら菓子詰め込んで、ニコニコしながら玩具とか弄ってたあの子、年上?」

 

「…お…ぉ…、そう、じゃ」

 

「……。…堂々と餌付けされてんじゃねーよあの馬鹿…」

 

羽根飾りが崩れ落ち、ドッシリが目を丸くした。

色々騒いだが結果「迅竜剣士は人間に拐われたわけではなく、自らの意思で外に飛び出し、自らの意思で人間に懐き、今でも無事かつ元気に生きてる」という結論に至ったらしい。

散々人間が攫った人間のせいだ人間が悪いと騒いだ分、茶番感は強かった。

 

「ホントあいつ馬鹿だろ…、じゃねえ!おれは信用しねーからな、ここ最近地面が揺れるのはお前らのせいだろ!?」

 

「ん…?」

 

この世界が崩壊しかけている理由を、知らない?

竜人がこの世界を壊そうとしていることを知らない?

おや、とオレは剣を下ろした。

この郷に来る前に描いた仮定は全部崩れた。

共倒れを狙って様子見をしているはずがない。知らないのだから。

大きな竜人の指示でいつでも侵略出来るよう待機しているわけがない。知らないのだから。

我関せずを貫いているのではない。何も知らないのだから。

つまりこの竜の郷は、

 

「何も知らないから、何もしないだけか」

 

これまた滑稽だなとつい笑みが漏れた。

世界を荒らしているのは竜人。

最前線で対抗していたのも竜人。

しかし、その竜人たちの巣穴は、何も知らないし何もしていない。

壊れかけた世界を見て、ただ口先だけで騒いでいただけだ。

「人間が何か悪さした。きっと人間が悪い」と。

 

「まあいいや信用してくれなくても構わないし。…今、君たちの言う"外"で何が起きてるか教えとくよ」

 

そう言ってオレは微笑んで、彼ら竜人に全てを話した。

 

■■■

 

話し終わるとふたりとも絶句し動きを止める。

しばらく固まった羽根飾り、もとい龍神主がようやく絞り出した声は「信じ、ねーぞ…」という弱々しい声だった。

あ、途中でふたりの名前聞き出しました。素直に本名教えてくれた辺り、割と純朴。

ともあれ龍神主は「違う、きっとお前ら人間がなんかしたからそれで怒って、ついに人間を懲らしめようと、して、」と未だに目を泳がせてはいる。

そりゃまあ、自分とこの守護者が今まさに世界ぶっ壊してますとか言われたらこんな反応になるだろう。

悪いのは人間のほうだ、と。

ただその理屈だと、この郷にも被害が出てる理由にはならないよな。そう突っ込むと龍神主は完全に押し黙った。

しかしまあ、信用してくれなくても良いが話したことは事実だ。

 

「じゃあ、お前はなんなんだよ!わざわざこの郷にまで来て…、"竜人"がそっちの街を襲ったから、同じ竜人を殺しにでも来たのか!?」

 

「ここに来る前は半分くらいそうだったけど、君らが全く何も一切合切知らないってのがわかったからもう帰るよ?」

 

"君らと違って"オレたちは、こちらの命を脅かした竜人と同じ「竜人」だからという理由で、種族が同じだからという理由でその種族全てを嫌いはしないし拒絶もしないから。

そう言ってオレは微笑んだ。

相手から見たら嫌な笑顔に見えたのかもしれない。彼らふたりが言葉に詰まったのが見えた。

竜太人は困った顔で首を傾け口を開く。

 

「自分らと違うやつが、 突然自分らを滅ぼそうと襲い掛かってきたら、そいつに仲間がいると知ったら、どう思う、かの」

 

「んー…、敵なら倒すよ。でも仲間とやらが何も関わりないならなんとも思わない」

 

憎むのはそれを行なった個人にのみ。種族や仲間を丸ごと嫌悪するのは極々稀なことだろう。

実際オレの国では狂王が襲ってきたらしいが、その姉や家臣を憎みはしていなかったし。

まあ、被害が大きければ親子兄弟等の肉親辺りなら疎ましく思うかもしれないが。そこらへんは人による。

まあだから、襲われたときに抵抗するため、被害を少なくさせるために、戦う力を身に付けるのだけれど。

そして、現状世界がヤバイから、その戦う力を総動員して抗ってるんだけど。

そう答えれば龍神主は「…人間はうちらより脆くて儚く散るんだから、もっと命大事にしろよ…。なんで自ら闘いに行くんだよ…」と呆れたように声を漏らした。

その言葉にオレは首を傾げる。

 

「なんでそこで首傾げるんだよ。おかしいだろ、自ら危険なとこに行くなんてさ!」

 

「そう? …君らはオレらの命が脆い儚いって言ったけどさ、儚いからこそ、必死で生にしがみつくのが生命だろ?」

 

だから、どれだけ苦しくとも生き続けようとするのが"人間"のあるべき姿だ、とオレは思ってるけど。

だからオレらは生きようと闘い、

抗って生き続けようとする。

 

この世界で生きていたいから。

 

それだけだよとオレは笑い、ひと言だけ言葉を放った。

「君らはどう?」と。

 

「外に行くなら案内するよ。本当は何が起きてるかその目で見るのもイイんじゃない?」

 

そう言いながら手を伸ばす。

道を進む者は、踏み出す足の左右を迷いはしない。

無意味に悩むだけでは、絶望だのと宣ってただ嘆くだけでは、何もしないのと変わりがない。

だからきっと

多分恐らく彼らは、

この手を、

 

 

■■■

■■

 

 

 

「この馬鹿野朗ーー!!」

 

東の大陸の近くの小島に、そんな声が響き渡った。

その声とともに、久々に友人と顔を合わせ喜んで駆け寄ってきた迅竜剣士が杖で殴られ吹き飛んで行く。

ブン殴った犯人の龍神主は「色々言いたいことはあったが、トドメはあれだ、迅竜剣士が『持ってきてくれるお土産嬉しいものばっか!』とニコニコ笑顔で、うちらより先にお前に駆け寄ったことだな」などと供述。

うん、オレもあんな反応されるとは思わなかった。

そんな賑やかな騒ぎを聞きつけ、この小島に集まっていた人たちは慌てて竜人たちの一方的な喧嘩を止めに入った。

騒ぎの最中「落ち着け落ち着け、迅竜剣士の友達ならお前らも竜人だな?暴れんなおれらじゃ止められなくなる!」という竜騎士の声が聞こえてくる。

特に隠さないその物言いにオレは苦笑し、比較的落ち着いていた剣聖に話を聞いた。やはりというか案の定、迅竜剣士が竜人だということは早々に、迅竜剣士のうっかりによって、全員にバレたらしい。

「極あっさり受け入れられたので、俺の心配は杞憂だったが」と微笑まれた。オレの予想通りの反応だったんだろうなー…。

それはよかったとオレも笑い返し、騒ぎを鎮めようと声を張る。

 

「君たちさー、年上なら年上らしく落ち着けよー?」

 

「わかってるよ!」

 

そう龍神主が怒鳴り返すと、辺りの人たちは皆ピタリと動きを止めて彼らに視線を送った。

ああそうか、竜だもんな、確かに自分たちより長生きか。そんな空気が流れるなか、全員の視線が竜騎士の背中の影で涙目になっている迅竜剣士に注がれる。

多分全員「あれ?ということはこの子も年上かな?」という疑問を抱いたのだろうと思った。

 

「…な、なんだよ…?」

 

全員の視線を受けて戸惑いながら迅竜剣士が漏らした声は、ここにいる全員と同年代か少し年下にしか聞こえない。

全体的に生暖かい空気が流れる中、剣聖が「そういえば、貴方は彼が竜人だと知っていたんだな」と頬を掻いた。

でないと彼の友人であるあのふたりを連れてくることなど出来ないだろう?と苦笑し、それならば隠し立てなどしなかったのにと息を吐く。

「まあ、勇者ってのは何でも知ってるモノなんだよ」と適当に誤魔化しておいた。

 

「そんな何でも知ってる勇者のオレが教えてあげよう。あの大きな竜人は、竜の郷では守護者かつ巫師みたいな役割をしていたそうだよ」

 

「?」

 

「神託でも受けたんじゃないかな。星が死ぬ、もしくはそれに近い何かが起こる、ってさ」

 

だから終末の預言を知って自暴自棄になってるだけかもしれないね、とオレは笑う。

実際、あと数日で世界が滅ぶと言われたら全財産放り投げる輩や犯罪に走る輩が出てきてもおかしくはないし。

まあその反動が全世界の国も街も人も動物も道連れみたいな暴れ方なのはどうかと思うが、どうやら竜というものは暴走すると規模が大きくなるらしいので妥当な騒ぎなのかもしれない。

元々、竜の郷での役割にも疲れ始めていたようだし、人間に対して並々ならぬ憎しみはあったらしいし。

だからもう少し大人しくさせれば、詳しく話をしてくれるかもとオレは竜人たちに視線を送った。

そのために連れてきたんだしね。

憎い憎い人間たちに取り囲まれたら意固地になるだろうが、自分を慕ってる同族が居れば多少口が軽くなるだろう。

 

さてさて、

役者は揃った、あとはこの大地を守り抜くだけ。

この島に集まった勇者たちに目を向けて、オレはただ口元を緩ませる。

もうすぐ終わるだろう、糸は全てひとつになった。

あとはそれを紡ぐだけ。

紡いで布を造るだけ。

 

 

さあ、

 

立ち上がれよ勇者

はしれ すすめ 未来切り開け!

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

報告。

 

本日、本体の停止が完了。

撃破には至らなかったが、暴走は完全に停止させた。

騒ぎの収束を確認。

彼に対しては事後処理してくれる人たちに任せる。

 

繰り返す。

本日をもって騒ぎの収束を確認。

 

この件に関わった全員に感謝する。

 

ーーーーーーーーーー

 

れんらく

 

オレたちがちょくちょくこっち来て色々やるから任せてくれ

といっても島は隠すからほとんど顔合わせないだろーけど

不安定っちゃ不安定だからたまに島出ちゃうかもしれないけど

えっと、そのときはよろしく?

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

【▲月8日】

 

朝露に濡れる深いこの森に耳を傾けた。どれだけ耳を澄ましても、叫び声も争う音も壊れる音も聞こえない。

聞こえてくるのは明るい人々の声と建物を補修する活気ある音のみ。

あの十数日の騒ぎが嘘のように、この森も他の地も平穏に戻っていた。

 

事態が収束したのは2日前。

騒ぎを起こした竜人は他の竜人たちに任せて、こちらはこちらの事後処理を行うことになった。

この騒ぎでの怪我人や壊れた場所の補修、活躍した者たちへの報酬管理。

この東の大陸はあちらこちらに遠征したため報酬計算が大変だと兄上の眉間のシワが未だかつてないほど深くなったが、兄上な何かする前に他の大陸から援軍の謝礼がポンポン届き事無きを得た。

まだもう少し復興に時間は掛かるかもしれないが、ある程度は落ち着き自由な時間を楽しむ余裕が出来ている。

いつも通りの我が森と、穏やかに揺れる海を見ながらぼんやりと浜辺を歩く、と。

あ、あの船かな。

遠くに見える船影を視界に収め、少し慌てながら港へと足を早めた。

なんとか間に合い船に乗り込むとすぐに、赤色の友人が元気よく手を振り、そして黄色い友人は気怠げに手を上げ己の所在を主張してくる。

そう今日は、兄上に休んでいいって言われたから喜び勇んで友人たちと遊びに行く日。

青色の友人が船にいないのは、これから向かう先が彼の所だからだ。

 

「あー…なんでこんなに足元揺れんだよ…気持ち悪いぃ…」

 

船のデッキにある椅子でくたばっているのは黄色い友人。船の上は苦手らしい。

しっかりと立てる地面が恋しいとばかりに青白い顔をしていた。

それとは反対に赤色の友人は「旅行久々だなー」とすこぶるウキウキしている。とはいえハシャいでいるわけではなく「水でも飲むか?」と具合の悪そうな黄色い友人を気遣う姿を見せていた。

そんなふたりを見て少し安堵する。あの騒ぎの後だ、怪我や疲労が心配だったが大丈夫らしい。

 

「でもなんで北なんだ?や、遠出するのも久しぶりだからオレは嬉しいけどさ」

 

黄色の友人に水を手渡しつつ、赤色の友人が不思議そうに首を傾けた。

その問いにわからないと首を振り、青色の友人に言われた言葉をそのまま伝える。

『事後処理報告ですか?なら皆さんこっち来て報告兼慰労会やりませんか、歓迎しますよ』

その誘いに素直に乗っただけだ。

そう語ると「ふーん?」と納得したようなしてないような、微妙な声が返ってきた。

「まあ、のんびりできて、美味いもん食えるならそれでいいよ」と赤色の友人は笑う。北は水が美味くて海産物が美味いよなと進む先に顔を向けた。

それに頷き自分も同じ方向に目線を流す。のんびり船に乗り、海を眺めつつ移動するのは初めてに近い。だって船に乗るより、風に乗って翔けたほうが早いのだから。

勝手に目的地に着くというのはどんな感じだろう、一番前で見てみたいなと船首に駆け寄ろうとした。が、突然外套を引っ張られぐっと首が締まる。

何事だと目を白黒させながら犯人に首を回すと、青白い顔と目が合った。

 

「…危、ねーだろ。落ちたらどーすんだよ」

 

外套を引っ張ったのは黄色い友人のようだ。船酔い気味の顔のまま若干フラつきつつも、何故か外套から手を離さない。

今回の船は客船に近いものだ。走ったり船首に行った程度で客が落ちるようなヤワな造りではないのだが、黄色い友人は妙に心配そうな表情を見せた。

というか落ちても泳げるし、なんなら登ってこれるし。

そんなに心配されるほどのことではないと不思議に思って首を傾げると、黄色い友人は意外そうな瞳を向けてくる。

 

「…泳げんのか」

 

その問いにコクリと頷けば、微妙に視線を逸らされながらも外套を離してもらえた。

「そっか、いやお前なんかトロいから俺と同じで、」と黄色い友人は口をモゴモゴさせる。

うん?

 

「…もしや、」

 

「っうるせーな!砂漠に泳げるようなトコねーんだよ!監獄にも無かったし!」

 

黄色い友人は泳げないらしい。それを指摘したら苦手なだけだと怒鳴られた。

まあともあれ、そんな理由で心配してくれたらしい。相変わらず口は乱暴だが面倒見は良い。

少しばかり顔の赤い黄色の友人を宥めつつ、苦笑しながら赤色の友人が「今度王国来たら、波の穏やかな入江連れてってやるよ」と泳ぎの練習に誘った。

いいよ砂漠で生きるなら泳ぐ必要ねーしと黄色い友人はそっぽを向いたが、もしかしたらいつか「ここを海にするさー」とかいう奴が出てくるかもしれないから、個人的には泳げるようになったほうがいいと思う。

 

■■■

 

わちゃわちゃとした船旅も終わり、3人で北の大陸に降り立った。

話をしている間に黄色い友人も調子が戻ったようで、大地に足を下ろしながら安堵したようにぐっと伸びをする。

そんな自分たちの元に青色の友人が駆け寄って来た。

「お疲れ様です。大丈夫でしたか?休みます?」と船旅の労をねぎらいつつ首を傾ける。

三者三様に「大丈夫」と声を並べると、青色の友人はそう?と髪を揺らした。

 

「じゃあ、行きましょうか。少し歩きますが」

 

晴れてよかったですと微笑み、そのまま友人は海とは反対側に向かって歩き出す。

少し歩くというならば、道すが、軽く報告をしておくことにしよう。

騒ぎを起こした竜人の話、彼がみたという世界の終末とも見紛う神託の話を。

 

彼の竜人がみた神託は幾つか種類があり、それがいっぺんに起こるのかそれとも順に起こるのかはわからないという。

ただ彼がみたものは、

光すら吸い込む暗い闇と、融ける大地と、進み戻り廻る時間と、闇を消し去る強い光。

黒く染まった人々と、白く染まった人々と、狂い壊れ続ける世界。

それは彼の拠り所、竜人たちや竜の郷も例外ではなく。

 

「…うわあ…」

 

実際それらが起こるならば今回以上の混乱が世界を襲うだろう。

赤色の友人が苦い声とともに「でも、実際起こるとは限らないんだよな?神託ってだけで」と疑問を口にした。

確かにそうではある。が、例の竜人はこう言っていたらしい。

 

『これらは、箒星が始まりだった。そして、今、…まだヒトには視認ができないだろうが…、空の向こうにそれがある』

 

何故かは知らないが真っ直ぐこの地を目指し、星の世界を駆けている、と。

元より彼は、郷を襲う人間が現れるという神託を受け、事実それが起きたことに起因し、それに対抗するため歪んだものに手を伸ばした。

それに影響されて歪んだ瞳で、この世界が壊れていく神託を受けたらしい。

この時点で半ば暴走しかけたのだが、まだギリギリ保ってはいたという。

その均衡が崩れたのは箒星の存在だった。

この次元には無いはずの、異次元にあるはずだったその箒星が、不意に現れ真っ直ぐ真っ直ぐここに向かっているのを感じ取った。

神託にあった、災いを喚ぶ箒星が実際この世界の空に出現したため、己のみた神託が現実となる可能性が高くなったと思いタガが外れ暴走してしまったようだ。

 

今回の騒ぎの際に緑の竜騎士に聞いたが、竜種の暴走は基本的には今回よりやや控えめになるという。

『普通はだいたい街いっこくらいの規模かな?今回は力の強い竜人だったから世界規模になったんだと思う』とケタケタ笑いながら言われた。

竜も怖いが、さも当然のように笑うあの竜騎士怖い。

一応ずっと最前線で頑張ってもらったからなるべく希望通りの謝礼にしたかったけど「竜の郷へのフリーパスくれ」と言われ困惑した。こいつは郷に放っちゃいけない人種だと思う。

代わりに、竜の集まる巣の話をしたら一目散にどっか行った。あの緑は多分確実に竜の巣に潜り込む。そして恐らくしばらく帰ってこない。

…話が逸れた。

 

「えーっと、…つまりさっき言ってたヤベーのが全部、実際起こるかもしれない、ってことか」

 

話を戻すように呟き、黄色い友人が頭を掻く。

竜人の話を信じるのであれば、そういうことになるだろう。今回のような規模の騒ぎがまた起こる、ということだ。

面倒臭そうに重い息を吐き、黄色い友人は「まあどうであれ、俺は守るために闘うだけだ」と足元の小石を蹴飛ばす。魔王にとっ捕まって玩具扱いされるよりマシ、と吐き捨てた。

魔王…、その単語を耳にして、あの竜人が語ってくれた話を思い出す。

 

「そういえば、他にも」

 

竜人は嫌悪感丸出しで「規模としては小さいのだが」と前置きし言っていた。

『郷を襲った、魔皇だったか?其れに似た者が大勢のヒトを巻き込んで戦争…、いや派閥が分かれていたから、合戦に近いのか。それを起こす、非常に愉しそうに』と露骨に忌々しそうに。

他にも数人、外見を聞くと色合いは違うものの魔王や魔皇たちっぽい人たち、が我も我もと大勢を巻き込んで争い始めるらしい。

それを話すと全員が「あいつらまたなんかやらかすの?」とうんざりした表情を見せた。

うん、我も思ったよ。父上なにやってんの、って。族長の仕事兄上に押し付けて何やらかす気なの?って。兄上忙しそうなのに父上なに遊んでんの?って。

合戦という話が本当なら、父上の軍負けちまえとか若干思ったのは秘密。

 

「…まだ暴れる気ですかあの魔王…」

 

珍しく冷たく厳しい声色で青色の友人は「関わりたくない…」と呟いた。

それはたぶんみんなおもってる。

ただ赤色の友人だけは唯一「魔王と魔皇、なら違うよな?あの四つ頭の話は違うよな?」とぶつぶつ何かを呟いていた。

しばらく無言で足を進める。

そして若干暗くなってしまった空気を掻き消すように、青色の友人は「あ、ここです」と足を止め努めて明るい声をあげた。

声に顔を上げ見渡すと、そこに広がるのは滝の見える広場のような場所。

滝といっても1本の大きな滝が豪快に流れ落ちるものではなく、高所から段ごとに分割された小さな滝が軽やかに溢れ落ちるものだ。

周囲は緑に囲まれており、滝から落ちる飛沫が木々を潤し瑞々しさを増している。

この広場から眺めるよりもっと間近で見たければ案内しますよ、と青色の友人は滝の近くに見える白い人工物を指差した。橋だろうか、細やかな装飾のなされた場所が見える。

 

「少し前に完成したんです。早く皆さんに見せたくて」

 

そう言いながら青色の友人は柔らかく微笑んだ。

元々水の綺麗なこの地で、陽の光をふんだんに浴びながら高所から落下する流水。

それを浴びキラキラと輝く青々とした葉。

それに合わせた自然に溶け込む白い橋。

それを背に微笑む友人。

それはまるでひとつの絵画のように調和し、この地を象徴するかのようだった。

 

「ああ、よかった。ちょうど見えますね」

 

嬉しそうな声で青色の友人は指を伸ばした。その先にあるのは滝、の上に出ている、大きな虹。

太陽の光がたっぷりと差し込む日中ならばこんな風に虹が見えるのだと、少しばかり得意げに説明してくれる。

彼が全員をここに呼び寄せた理由がわかった。

ああ、これは確かに、憩いの場として充分すぎる場所だ。

誰ともなしに感嘆の息を吐き、この光景に見惚れたが、そんな全員を尻目に青色の友人はトテトテと少し慌てたように広場を進む。

広場の端、柵があるとはいえ崖のようになっている箇所。眼下に森の広がる場所でホッとしたように胸を撫で下ろし全員を呼んだ。

 

「あの森に架かる虹は少し違うんですよ」

 

そう笑いながら彼が指差す先にはまたも虹。

しかし、なんだろう、何かが違う。

何かが違うということはわかるが、何が違うのかピンと来ない。

怪訝な顔となってしまったのに気付かれたのか、それとも全員が不思議そうに首を傾けているからか、青色の友人はクスクスと楽しげに、もしくはドッキリ成功と言いたげに答えを口にした。

 

「あの森に架かる虹だけ、何故か色の配色が逆なんですよ」

 

言われてようやく気付く。確かに、今目の前に見える虹は、今さっき滝の側で見た虹と色の順番が違った。

普段見る虹は、外側が赤で1番内側は紫なのだが、今目の前にある虹は逆。外側が紫、そして内側が赤。

うわ、気付いたらなんか変な感じ。

 

「なんで逆なのかはわからないんですが、…まああの森は神秘の森って言われてますから、何かあるのかもしれませんね」

 

そんな軽くていいのだろうか。

なんか少し不気味だけれど、と首を傾げると青色の友人はキョトンとした顔で「そうですか?」と同じ向きに首を傾けた。

 

「元々虹はあまり"良くないもの"ですし。その反対の存在ならば逆に"良いもの"なのかな?と」

 

そう言いながら友人は逆さの色の虹に顔を向ける。僕はあれ割と好きなのであのまま出続けて欲しいです、と笑った。

まあ、不気味ではあるが面白いことは否定しない。

見たことのない虹を目に焼き付けていると、あんなにハッキリ色が出るのは珍しいのだと教えてくれた。

 

「珍しい、か。そういや…」

 

ぼんやり虹を見ていた黄色い友人が、思い出したかのように声を放った。

「手助けしてくれたヤツがさ、自分とこにも珍しい竜がいるらしいって話してくれたんだけどよ」と複雑そうな表情を浮かべる。

その竜は天界の竜なのだという。

気難しいのか隠れ棲んでいるのか、滅多に姿を見せないらしいが。

 

「そいつも見たことないつってたが、お前ら知らねーか?天界の竜。まあ、…もしかしたら大昔の話で今はもういないのかもしれないんだけど、さ」

 

「オレは聞いたことないけど…。竜は長生きだし、あの竜人たちも数百年は生きてるらしいし」

 

黄色い友人の問いに赤色の友人が首を傾けながら頭を掻いた。

竜なら数百、数千年は生きてるだろう。隠れ棲んでるならばなおさら、と言葉を付け足した。

首を傾け青色の友人も言う。

 

「この近くの空に天空神殿が浮かんでますが、天界ですか…」

 

その言葉に、なんとなく全員空を見上げた。果てしなく遠い、青い青い空。

この美しい空のどこかに天界があり、そこに竜がいるという。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…。…探してみるか?」

 

黄色い友人が、全員を代表して若干楽しげな声を出した。

全員なんとなく、そう、なんとなく。

会えそうだと感じていた。

竜人騒ぎも落ち着いたことだし、竜繋がりで珍しい竜を探してみても良いかもしれない。

ここにいる全員頑張ったんだから、少しだけ、自由な冒険に出ても良いと思う。

 

もしかしたらまた世界を騒がす何かが起こるかもしれない。

もしかしたらまた魔王とかが暴れ出すかもしれない。

やらなくちゃいけないことも、やるべきこともあるかもしれない。

 

けれど、

 

少しくらい

友人たちと竜を探す冒険に出掛けても

いいと思う

 

誰が一番初めに走り出したかは覚えていない。

誰かが駆け出して、それに負けじと誰かが追い掛け、全員で笑いながら何処かへ向かって走り去った。

ドコにいるかな。もう全部回ろうぜ。まずは神殿行ってみますか。どんな竜かな。

口々にそう語り合いながら。

出会えるといいなと願った。

きっとこの旅も、竜との出会いも良い思い出になるだろうから。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

さて、

これにて全て終わりと致しましょう

騙るべきことはもう無く

紡ぐ糸は全て巻き終わりました

 

それでは、

長々と、ええ、本当に長々と

お付き合い誠に感謝致します

世界はひとつではありません

ただその内のひとつを

騙って聞かせただけのこと

 

 

ただそれだけの話です

 

 

■■■

 

騙り手は中立。

すべてを聞き、すべてを見て、すべてを残す。

騙り残さん。

これらすべてが夢で終わらぬために。

 

 

 

愛するモノよ。

汝が死すとも、我が愛は永遠に変わらず

 


 
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