No.969595

紫閃の軌跡

kelvinさん

第127話 力のあり方と悩み、所により女たらし

2018-10-07 23:07:27 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1727   閲覧ユーザー数:1516

~リベール王国 グランセル城~

 

「すまないな、アスベル」

 

「気にしないでくれ、シオン」

 

 リィンが復活してユミルに向かっていたその頃、アスベルはグランセル城にいた。先日就任したシュトレオン・フォン・アウスレーゼ王太子と対面するためだ。

 アスベルに託された王国軍の指揮系統はモルガン将軍が取る。そして、現場に即した対応力の要員として王太子自身が総指揮官補佐という立場に収まっていた。実質的トップであるカシウス中将もなのだが、王国軍屈指の実力者である方々が自身の力を過小評価しがちという点も問題ではある。

 城の宰相執務室において、シュトレオン王太子は改めてアスベルを呼んだ。

 

「クワトロから齎された『原史』の情報。それを起点として様々な対策を立てていくつもりだが……アスベル。お前が以前教えてくれた<焔の矢>の原案だが、そこに至った経緯を教えてくれるか?」

 

「まあ、そうなるよな……きっかけは12年前の<百日戦役>、その直前のハーメル村襲撃まで遡る」

 

 アスベルは協力者とともにハーメル村の襲撃を偽装した。そして完全な情報統制のもとハーメル村出身者を『精神的疲労による記憶喪失のため、出自不明の難民』という形で書き換えた。こんな芸当ができたこと自体完全な偶然の産物によるものだが、それはこの際置いておく。

 

「最初はそれを一つの点ではなく、結社の計画の起点だと思っていた。でも、その2年後に起きたシオンの両親が“殺された”件。これは本来の歴史からすると『なかった事』になる」

 

「そもそも俺という存在自体イレギュラーに近いからな。その時点でギリアス・オズボーンは黒だと?」

 

「黒ね……ま、概ね合ってはいるかな。その後、『十三工房』の潜入や帝国内で過去に起きた事件の調査をしていた。その際はジェニス王立学園に協力してもらって考古学専攻の助手ということで帝国内に入ってた。正直、<白面>みたいな肩書を名乗るのは癪だったが」

 

 シュトレオン王太子の両親が殺された時点で何らかの『強制的な力』が働いていると推測し、エレボニア帝国に存在していたであろう<七の至宝(セプトテリオン)>、その行方を調べた。幸いにして『守護騎士』という立場を得たことでその調査自体は順調に進んだ。そんな時に遊撃士や星杯騎士として活動すれば否応にも目を付けられる。だから核心的な部分は全て潜入捜査という形で忍び込み、表面的な部分は考古学のレポートのためにフィールドワークをしているという建前を取った。

 

「そこから得た推測は、エレボニア帝国で過去に起きた全ての悲劇や国家の存亡に関わる事件……その全てに何らかの『強制力を有する不可視の存在』があったとしたら……可能性があるなら、クワトロが言っていた鉄血宰相の駆る黒い騎神―――黒の騎神<イシュメルガ>」

 

「イシュメルガ……どこでその名を?」

 

「『天壌の劫火(アラストール)』関わりの古代遺跡を調査したときだ。この古代遺物は、どうやら女神が至宝によって生じた高次元の負の概念を消滅させるための手段の一つとして残されていた。シルフィアの持つ『氷霧の騎士(ライン・ヴァイスリッター)』やカリンさんの持つ『熾天使の輪(エンジェルハイロゥ)』もその一つだ。そして、おそらくは<聖天兵装>もその一つだと思われる」

 

 リベール王国はアルテリア法国と盟約を結んでいるし、この先を考えるとその情報は知るべき人が知っておいた方がよいと考えた。アスベルの言葉に少し考え込み、シュトレオン王太子は改めて問いかけた。

 

「まさか、本来<百日戦役>での対価がもらえなかったのに、これを覆したのは」

 

「当初の予定はエレボニア帝国との軍事力差を縮めるものだったけれどな、俺もマリクさん―――リューヴェンシス皇帝も。だが、偶然知った黒の騎神の存在と、先ほど言った王太子夫妻殺害の一件は再考するに値した。幸いにして俺たちのような存在は強制力の影響を受けることはなかった。だから、連中の<福音計画>をそのままそっくり利用させてもらうこととした。今だからこそ言うが、<天の鎖>と<水の鏡>はその先のための最終実証実験でもあった」

 

「あれが実験だと? じゃあ本番は」

 

「<焔の矢>―――いや、本来の作戦名は<天壌の神槍(グングニール)>。万が一『巨イナル黄昏』が発動してしまった場合、そこから始まるであろうクロスベル・旧カルバード方面への侵攻作戦に対抗する最後の対抗策……尤も、それが発動したら最悪エレボニア帝国が跡形も無くなるだろうが」

 

「………<百日事変>での導力停止状態がまだ生易しかったってことか。じゃあ以前話した作戦内容は?」

 

「それは<焔の矢>の初動作戦。ややこしくなってしまったが、前の時点で本当のことを言わなかったのはまだ推測の領域を出なかった『机上の空論』だったからだ」

 

 敵が常識外を持ち出すのなら、こちらだって常識外を以て当たる。いわば戦場における最善の手段を策として用いるわけだが、無論これは最後の対抗策。技術の優位による不均衡を秘匿したのは、この先起こりうる災厄を阻止するため。

 

「無論、『黄昏』を起こさせないために<天の鎖>―――<天神の檻(アルカトラズ)>と<水の鏡>―――<水鏡の雫(エリクシード)>、この二つの策も使う。そのためにも“カルバードの方々”には頑張ってもらわないとな」

 

「それを言うなら“心あるクロスベルの人々”だがな。しかし、<福音計画>ですら実験台とはある意味<白面>への意趣返しもあったのか?」

 

「それもある。だがこの先、神機の改良機が出ないなんて保証はない。連中の手足と五感を奪い完全に無力化して叩き潰す―――ルドガーも本格的に動くと決めたそうだ。詳しい話はその局面を乗り切ってからだと言っていたから、無理に聞き出すことはしてない」

 

 何だかんだでこの世界に愛着がある。影の連中に世界の行く末を良い様に使われるなんて納得がいかない。詳しいことは聞いていないが、ルドガーの協力を得られたのは僥倖。

 <天壌の神槍>―――これはエレボニア帝国ならびに結社『身喰らう蛇』攻略作戦。だが、使わずに済めば僥倖の代物であるため、この内戦をトリガーとする形で“楔”を打ち込む。その役目はクロスベル帝国に担ってもらうのだが、場合によってはリベール王国軍も動くこととなるだろう。

 

「積極的な侵攻は是じゃないが、国を守るために出来ることは全てやる。経済協定は“楔”のひとつであり、囮でもある。クロスベル帝国との水面下交渉の段取りには色々骨が折れたが」

 

「キリカさんとも会ったらしいな?」

 

「ああ。色々忙しそうに動いていたよ。だが、その忙しさも年が明ければカルバード方面は一気に落ち着く」

 

 民族問題を棚に上げるわけではなく、既に『民族の共存』を主体として様々な法制定をクロスベル帝国は実施している。そして、クロスベル独立国の象徴であるオルキスタワー攻略後、クロスベル帝国が正式に発足する手筈。

 さらに、『列車砲』発射によるクロスベルへの大量破壊未遂行為を名分として、新生クロスベル帝国軍約80万による帝国東部制圧作戦が発令する。これに対する正当性を遊撃士協会総本部とアルテリア法王が与えることにもなっている。各方面の繋ぎを完全に秘密裏で行えたのはシルフィアの力あってこそだが。

 

「『氷霧の騎士』の能力。それと彼女自身が持ちうる特典か。“紅耀石”以上の傑物にして怪物とはよく言ったものだ」

 

「ま、オズボーン宰相以外に『盤面』の名乗り上げをしたい奴もいるようだが、俺は別に『指し手』なんて目指していない。そんなことするぐらいなら盤面に隕石でも落とすことぐらいはするさ」

 

「目論見すら遊戯盤ごと全部吹き飛ばす、か。簡単じゃないが、それが一番考えなくて済む解決法だな」

 

 遊戯盤そのものを粉砕してしまえば、いかに相手が何手先まで読もうとも関係ない。そもそも、この戦いのルールに駒以外のものを盤上に持ち込んではいけない記載がないのなら、隕石に匹敵するような物を置いてもルール違反ではない。最低限のルールさえ守れば『何をしてもいい』のなら、それをすべて使わせてもらうだけのことだ。

 

「だから『黄昏』の前にエレボニアの力を削ぐこととした。さっき話した存在の目論見も大体予測は付くが、その力を最低でも半分以上は削り取る。少なくとも最低半年程の猶予は稼げるだろう」

 

「それでも半年か……いや、半年もあれば十分か。お祖母様には、年明けの王位継承を言い渡された。本人は20歳で継承しているから、それに近い歳の俺も問題ないと判断したのだろう……一応『起動者』として動かねばならんから、内戦が出張れる最後のチャンスかな」

 

 半年というのは最短の時間稼ぎ。帝国正規軍だけならばともかく結社『身喰らう蛇』や猟兵団もあるため、出来ることなら味方と敵の兵力差を3:1にまで広げる。尤も、連中の常識外の技術を考えるなら、兵力差がいくら優位でも意味がない。だからこそ、転生者組も各自で動くこととなる。

 

「クロスベル方面は?」

 

「ロイドが本格的に動き出した。他の特務支援課メンバーも動き出したからな。早ければ1週間以内でクロスベル市の結界は解ける」

 

「いや、早すぎないか? 本来の計算だと約1ヶ月は掛かるはずだぞ? ……まさか」

 

「ああ。リィン絡みの情報がないか一度ユミルには立ち寄るが、俺とセリカとリーゼロッテ、そしてルドガーもクロスベル解放作戦に協力する。シオンには悪いが、お前は帝国方面絡みで忙しくなるだろうし、英気を養ってほしい。それに、“北”の連中がアルバレア家に雇われて何かしようとしてるみたいだからな。モルガン将軍には優秀な副官もいるし、問題はないだろう。彼も歴戦の勇士の一人なのだから」

 

 結社の連中が入り込む可能性もあるが、危険性を限りなく排除した上で今回のクロスベル遠征を立案した。保険として第六位と<天剣>がリベールに残る手筈で、第十二位もリベールに入ってくれたので、これでひとまずの布石は打てたこととなる。

 その後、『北の猟兵』によるユミル襲撃の一報を聞きまだまだ研鑽不足だとアスベルは嘆いたが、これに対するカシウスの評価はというと、こうであった。

 

「多方面、多分野の布石を打っていれば漏れは生まれてくる。寧ろ自分ですらここまで隙のない作戦立案はできない。何より、それすらも策として組み込み、更に大きな利を得る恙無さは、文字通りの『千里眼』とも評するべき慧眼である」

 

 そう褒めてくれることはうれしいものの、アスベルには一つ悩みを抱えている。ある意味リィンのことを言えなくなるような悩みが一つ。言っておくが女性関係がどうこうということではない。

 

 それは、八葉一刀流皆伝と筆頭継承者の目録を受け取っていても、その為の『試し』が先送りにされて未だにその機会を得られていないことにある。

 これは、<百日戦役>の直前という事情から短期間で全ての型の皆伝に至らせるため、ユン師父が一気に八葉の技術だけを叩き込んだことに起因する。師父としても剣術の資質があるために己と向き合うのもそう遠くないと考え、そこまで深くは考えなかったのだろう。これが『自分はまだ未熟である』と述べた理由である。

 

 八葉としての技量は十分、静の極致『理』と動の極致『天帝』、静動極一『神衣無縫』まで会得しているのに、彼自身<剣聖>の称号は与えられていない。自分で名乗るときは職業名か筆頭継承者という肩書きでしか名乗っていない。

 ユン師父がアスベルに筆頭継承者の目録を渡したのは、恐らく万が一のことがあったとき、その保険とする意味合いがあったのかもしれない。悪く言えば、楽をしたい(自由気ままに旅をしたい)からその見極めができる人を急ピッチで見繕った、とも言えてしまうのだが。

 

 世間から言われている<紫炎の剣聖>は、リベール王国出身のカシウス中将が<剣聖>と呼ばれていたことから同国の稀代の剣士という意味を込めた“二つ名”であり、ユン師父から貰った称号ではないのだ。

 

 筆頭継承者なので弟子を取ったり目録を渡したりできるのだが、その当人が『試し』を受けていないという武術なら完全にチグハグな状態になってしまっている。なので、弟子は今のところ強引に押しかけてきたエリゼだけである。

 エリゼの『試し』に関しては一応カシウスやユン師父に相談しているが、師事された人間が受け持つべきと判断されて『試し』の相手を務めた。審判はカシウスが入り、終わった後に不安で問題ないか尋ねたところ、逆に苦笑された覚えがある。 

 

 一応原因は解っている。それはアスベルが会得している“前世の剣術”にある。以前届いたユン師父からの手紙にはこう記されてあった。

 

『光と闇。その二つを束ねて道を成せ。全てを断ち、全てを切り開く無の一太刀を』

 

 これについては早い段階で答えを出さねばならない。流石にリィンの兄弟子でもあるため、この問題は早々に決着させるべきと考えた。だが、肝心の皆伝を渡した相手であるユン・カーファイ師父は自分との手合いを避けている。こうなると、頼める相手で最も師父に近い人間は自分の身内ということになる。

 転生したときに決めた割り切りが己の『試し』にも影響したことに、こればかりはリィンに強く言えたものではないと苦笑を浮かべたアスベルであった。

 

 

~リベール王国 センティラール自治州 ユミル近郊~

 

 その頃、リィンらを乗せたヴァリマールはユミル近郊に着陸して、リィンとアリーシャ、セリーヌは外に出た。すると、ヴァリマールは片膝をついて光が消えた。どうやら霊力充填モードに移行したようだ。リィンは周囲を見当たすと、背後には見覚えのある石碑があった。リィンが『鬼の力』に目覚めたきっかけとなるその石碑。少し前にユミルを訪れた時もこの石碑から化け物が発生したが、今はなりを潜めていてセリーヌも特に乱れはないと話す。

 

「ここからなら順調に下っていけば里に辿り着けるはずだ。それで……アリーシャは大丈夫か? 結構山道を歩くことになるけれど」

 

「はい。里では人手不足なので、私も長距離を歩くことが結構。ユミルまで歩いたこともありますよ」

 

『やれやれ、逞しすぎやしない? ま、足手纏いになるよりはマシね』

 

「直球だな、セリーヌは」

 

 どうしてこうも自分の身の回りの女性は行動力のある人たちが集まるのだろうか、と思いながらもリィン達は道中魔物を対峙しつつ、日没前にはユミルに無事到着した。時期は既に冬なので、里には雪が降り積もっていた。麓はともかく、この時間帯となると殆ど人影はなかったので、リィン達はそのままシュバルツァー侯爵家領主館へと足を向ける。リィンが先頭で中に入ると、鉢合わせする形でソフィアが丁度食堂に向かっていたからだ。

 

「えっ……お兄……様……?」

 

「えと、色々あるんだけれど……ただいま、ソフィア。心配かけてすまなかった」

 

「っ……!!」

 

 すると、ソフィアは涙を零しながらリィンに抱き付いた。アリーシャは空気を読んで開いたままの扉を閉めて、ソフィアの視界に入らないよう隅に移動していた。余計に気を使われたようで気疲れしたような表情を浮かべつつ、笑みを零してソフィアの頭を撫でた。

 

「心配、したんですからっ……! 父様や母様、姉様も行方の知れない兄様のことを心配していたんです……! もしものことがあったらと思うと、私、は……」

 

「ごめんな、ソフィア。でも、こうしてちゃんと帰ってこれたから、安心してくれ」

 

「も、もう……ところで、セリーヌさんはともかくそちらの女性は……アリーシャ!?」

 

「お久しぶりです、ソフィア。折角の兄妹の再会ですから、私達のことはどうかお気遣いなく」

 

「アリーシャ! もう、姫様の悪いところばかり影響を受けちゃって……兄様?」

 

「あー、ええと、何と言ったらいいのか」

 

 まさか妹とアリーシャが知己という事実を知りつつ、ソフィアを弄るアリーシャ。そして妹がジト目で兄に視線を向けると、リィンは困ったようにどう説明したものか困っていると、それに手を差し伸べたのはリィンにとって聞きなれた声であった。

 

「おかえりだな、リィン」

 

「リィン、おかえりなさい」

 

「父さん、母さん……はい、ただいま帰りました」

 

「さて、丁度夕食の準備もできていてな。アリーシャ嬢の分もあるから、安心するといい」

 

「では、お言葉に甘えまして」

 

 色々聞きたいことや話したいことはあるが、まずは皆揃って夕食の時間と相成った。山道を歩いてきたせいか思った以上に空腹となっていたようで、いつも以上の食欲を満たすように……リィンにとっては温かい家族の団欒を楽しんでいた。そして、居間に移動するとシュバルツァー侯爵家当主であるテオが話し始めた。

 

「実は、リィンの生存のことはシルフィル男爵より直接聞いていた。だが、お前も帝国では色々大変な目に遭っただろうから、里の皆には隠していたのだ。ルシアにも今朝方伝えたばかりだ。そして、男爵家の令嬢であるアリーシャ嬢のことも聞き及んでいる」

 

「そうだったんですか。ありがとう、父さん」

 

「ありがとうございます、侯爵閣下」

 

「父様が隠されていた理由は理解しましたが……アリーシャ、いつの間に故郷へ帰ってたの?」

 

 帝都の警備体制はかなり厳重で、地下水路にも当然警備網が張り巡らされていたはず。ソフィアの問いかけにアリーシャは平然と答えた。

 

「実は女学院から外に抜けられるルートはいくつか押さえてありまして。ソフィア達が帝都を出たのを見計らって脱出しました。そういえば、ソフィア。エルウィンとトヴァルさんと一緒だったはずですよね?」

 

「それなんですが……」

 

『侯爵閣下、失礼してもよろしいでしょうか?』

 

「ああ、入ってくれ」

 

 すると、タイミングよく扉の向こうから聞こえた声。テオが入室を促すと、中に入ってきたのはリィンがレグラムでお世話になった遊撃士<七彩>トヴァル・ランドナーと、そして女学院の制服を身に纏ったエルウィン皇女が姿を見せた。エルウィン皇女はリィンの姿を見つけると、近寄って抱きしめた。

 

「お久しぶりです、リィンさん。無事に再会できたようで何よりです」

 

「お久しぶりです、殿下。それに、トヴァルさんもお久しぶりです。約3ヶ月ぶりですね」

 

「ああ。久しぶりだな、リィン。にしても、相変わらずのモテぶりだな。婚約者がいるのに言い寄られるのも少しは同情するよ」

 

「何か慰めというか妬みを言われてるような気もしますが」

 

「ちょっと、姫様? 兄様にくっ付きですよ?」

 

「あら、ソフィアは兄様成分が足りないのかしら? なら、一緒に寝るというのはどうでしょう?」

 

「姫様!!」

 

 ともあれ、色々と再会の挨拶を済ませたところでテオとトヴァルから事のあらましを聞くこととなった。

 

「内戦勃発時にまで遡る。オリヴァルト皇子から通信を受けて、ソフィアを故郷へ送る代わりにエルウィン皇女殿下をユミルに匿ってほしいとな。本国に話すべきかと悩んだが、皇子がシュトレオン殿下に話を通したようで、王国軍の派遣も検討してくれた。しかし、下手な勘繰りを避けるためにケルディック方面への派遣にとどめるよう要請した」

 

「確かに、この時期の派遣だと何かある……そういう風に見られてしまう、というわけですか」

 

「だから、遊撃士協会から増援をしてもらってる。正直トップクラスの連中が別件で駆り出されてるのは色々大変だがな」

 

 今となっては隣国だが、元帝国貴族として皇室の人間とは良き付き合いをしていた。その関係は崩したくないと思い今回の要請を受けたとテオは述べた。

 

「無論、それによるリスクはあるだろう。殿下の奪還という名分を掲げて侵攻する危険性も解っている。だが、私の父と先帝ウォルフガングは旧知の仲であり、私もよくしていただいたお方だ。だから、これは私の問題ゆえにお前はお前の抱えている問題に集中するとよい」

 

「テオさん……」

 

「……わかりました、父さん。ところで、エリゼの方は?」

 

「今朝方、本国と連絡を取った。向こうも変わりなく元気だそうだ。お前のことを話したら、早いうちにユミルへ顔を出すと言っていた」

 

 エリゼは王族の近衛騎士として忙しい毎日を送っている。特にグランセル城にはアルフィン皇女の存在もいるのだが、これは国家機密級の情報のため、テオにすら秘匿されている。テオからエリゼのことを聞き、早く会えたら嬉しいかなとリィンは感じていた。

 

「エリゼさんには何度かお会いしましたけれど、まるで同い年とは思えないほど立派な方だと感じました。何分殿方の好みも意気投合しまして」

 

(なあ、ソフィア……ひょっとして)

 

(はい。概ね兄様の思っている通りかと)

 

 どうやら、お互いに時間が合えばお忍びで一緒に買い物に行くほど仲が良いらしく、それによる被害を受けていたようでリィンは冷や汗を流した。その矛先は自身であることを本人はまだ気づいていないのだが。それを知ってか知らずかテオが気遣うように呟く。

 

「ともあれ、今日はゆっくり休むとよい。明日は丁度定期連絡が入る日だから、リィンが知りたい情報も入ってくるかもしれない」

 

 リィンはそれに頷き、ひとまずお開きにして一時の休息をとることにしたのであった。

 

 

八葉の『試し』の一件は私自身引っ掛かるところがあったので文章にまとめましたが、アスベルの抱えている状況が本当にややこしい……本来の八葉一刀流は『ある程度教えるけど、後は自力で頑張れ』という印象しか出てきませんでしたが。

 

Ⅳで八葉の型の名が出ましたが、本作は前作からの技の系統自体を変えずにこのままいきます。理由はというと……ここで変えたら投稿したものの殆どに修正がかかるためです。ご了承ください(焼き土下座)。

 


 
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