No.962806

紫閃の軌跡

kelvinさん

第120話 見知らぬ草原(断章~偽りの楽園を越えて~)

2018-08-07 01:51:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:595   閲覧ユーザー数:505

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 ―――七耀暦1204年10月30日。

 

 エレボニア帝国にてクーデターが発生。その主犯たる貴族派は皇族を保護という名目で拘束し、カレル離宮へと護送した後、帝国正規軍を“反乱軍”と名指しして各地の鎮圧に乗り出す。革新派トップである帝国宰相ギリアス・オズボーンは心臓部を撃ち抜かれた後、近衛の兵士らによって運ばれた後の消息は不明。

 帝都の東にあるトリスタではトールズ士官学院に対して教員や生徒の拘束を図る。だが、特科クラスⅦ組については全員がその手を逃れる。また、他の一部の生徒や教官などの学院関係者も貴族派の拘束を免れた。

 帝都に聳え立つバルフレイム宮。その玉座に座ってご機嫌なカイエン公を見つつ、オルディーネの起動者であるクロウ・アームブラストは深い溜息を吐いた。

 

「随分とご機嫌だな。それで、俺はどんな罰を受けることとなるんだ?」

 

「何を言っているのかね? “蒼の騎士”殿にはこれからも働いてもらわねばならない。我らの旗頭としてな。これは、総参謀殿の意向でもある」

 

「それはありがてえが、いいのか? Ⅶ組の連中もそうだが、アンタの娘を保護できなかったのは紛れもなく俺の責任だ。言い逃れするつもりもないが」

 

「あくまでも魔女殿や協力者たちは『裏』の存在。『表』の存在をオーレリア将軍やウォレス准将だけで埋めるのは些か不釣合いというものよ」

 

 元々他のⅦ組の面々を拘束できなかった責は負うつもりだった。本来目の前にいる御仁は平気でそれを実行するだろう。だが、そうしなかったのはオルディーネという騎神の存在を内外に知らしめるためであると、ここにはいない総参謀が入れ知恵したのだろう。それを察してクロウは一息吐く。

 

「それに、娘のことなど気にはせぬ。如何にどうなろうと、長男が生きてさえいれば構わぬ。まぁ、もし生き延びれば皇太子妃として推し進めるつもりよ」

 

 どう転んだとしても、長男以外のことなど気に留めていなかった。この男とは協力関係を結んでいるが、野心はどうにも気に入らぬ部分がある。それを察したのか、適当に切り上げてその場を去った。

 

「……協力はしてやる。だがな、それはアンタのためじゃねえ」

 

 

 クロスベル自治州西にある拘置所。その一室でロイド・バニングスは眠っていた。

 ディーター・クロイス大統領によるクロスベル独立国の宣言。アリオス・マクレインが国の防衛を担う国防軍の長官。そして、大事に育ててきたキーアが……今の事態へと至る引き金を引く役割になってしまった。

 

(みんな、無事なんだろうか……)

 

 あの場で突入したのはロイド以外にエリィ、ティオ、ランディの3人。ノエルは国防軍の兵士となり、ワジとティーダ、ルヴィアゼリッタは用事があって同行していなかった。キーアのことがある手前、いきなり殺すという手段はないだろうが……でも、ロイドの中に自然と焦りはなかった。

 

『いいか、ロイド。焦りそうになったら一呼吸置いてみろ。そういう時こそが自分の視界を狭めているんだ』

 

 兄の言葉。それは捜査官となって色々な事件に関わってからそれをより痛感した。だからこそ、まずは一呼吸入れることを癖のように定着させた。時には警察の捜査官らしからぬ発想に至ることもあったが、それは上司で元猟兵の人がいたからこそのものだろうと苦笑した。

 

 夜中、ふと目が覚める。拘置所に入ってから何度も目の当たりにしてきたはずの光景なのだが、何か空気が違うとロイドは感じて扉に触れる。すると、本来鍵がかかっているはずの扉が開いた。更に、扉の前には拘束された際に取り上げられた装備や所持品が木製の箱に入っておかれていた。

 

「……夢? それとも罠、なのか?」

 

 こうなったら後はなるようになれと思いつつ、ロイドはそれらを素早く身に着け、拘置所の中を駆け出す。本来見張りの兵士がいるはずなのに、誰もいるような気配がない。更には、拘置所で拘束されているはずの他の犯罪人の気配もない。一体何が起きているのかを確かめるため、ロイドは拘置所の外に出た。

 

「えっ……」

 

 絶句した。何故なら、ロイドの眼前に広がるのは草原であった。自分の後ろには警察学校と先ほど出てきた拘置所がある。自分が連れて来られたのはクロスベルにある拘置所ではなかったのか? そう思慮しているロイドのもとに一人の人物が話しかけてきた。

 

「ロイド君、大丈夫かい?」

 

「貴方は、エドウィンさん! 無事だったんですか?」

 

「まあね。さて、色々聞きたいこともあるだろうけれど、付いてきてくれるか?」

 

 この状況で知り合いと会えたのは僥倖だが、この状況を把握するためには従うほかなく、ロイドはエドウィンの案内でその場を後にした。歩くこと十数分……ロイドの目に映ったのは宿営地と呼べるようなテント群。その隣には戦車や映像で見たものとは異なる人型兵器。案内された一つのテントで、ロイドはそれらを統括している人物を見て、一つ息を吐く。

 

「……やはりですか、署長」

 

「どうやら、気付いていたか」

 

「流石にエドウィンさんが来た時点で察していました。ところで、ここはどこなのですか?」

 

 これだけの軍隊を構築していたことは置いといて、ロイドは率直な質問を投げかけた。少なくともクロスベル自治州内ではないだろうと推測はしていたが、土地勘がない以上結論は出せずにいた。その疑問に答えるべくその人物もといマリク・スヴェンドが答える。

 

「ここはアルタイル市の郊外だ。共和国国内が混乱に陥っているドサクサで空白地となった場所を占領したわけだ」

 

「……」

 

「非難はしないのか?」

 

「正直に言えば、非難したくはありますが……生憎、それを堂々と言える立場ではないかと。どの道、警察官として動くのは厳しいと理解しています。署長、あれからどれぐらい経ちました?」

 

「そうだな。お前らが拘束されてから今日でざっと一か月だ。その間、この辺りを含めた西ゼムリア地方がどういう状況になったのかを説明しておこう」

 

「……お願いします」

 

 今のクロスベルを支配している面々からすれば、ロイドの存在は厄介極まりない。とはいえ、下手に排除すればキーアの動揺を招く。今すぐにでもクロスベルに戻りたい気持ちはあるが、まずは今の置かれた状況を把握することが先決だと割り切った。それを見やりつつ、マリクは話し始めた。

 

 

 エレボニア帝国で内戦が始まってから7日後。電撃的作戦を敢行して正規軍を圧倒した貴族連合軍。その結果を聞いて満足そうなカイエン公は一つの提案をした。

 

『リベール王国には我々の土地を返してもらわねばなるまい。ハイアームズとアルバレア伝来の地である以上、その帰属権は主張してしかるべきである』

 

 連日の勝利の余勢を駆る……勢いに乗るのは確かに上策だが、これには貴族連合の総参謀であるルーファス・アルバレアも苦言を漏らした。現状帝国正規軍を完全に制圧したとは言えない以上、下手な二方面作戦は戦力の消耗を早めるだけだと。これに対してカイエン公は『なんだったら、影の協力者たちに頼めばいい。共和国の連中も喜んで協力してくれるだろう』と述べ、ルーファスは当初の計画変更を余儀なくされた。

 

 北から<身喰らう蛇>の協力者を含めた貴族連合軍、東からは共和国軍……いくら導力技術に優れているとはいっても、埒外の実力者相手には為す術もないであろう。貴族連合軍の大半はそう思った。だが、その程度のことなどリベールにとってみれば想定の範囲内でしかなかった。

 

『己の欲のために力を揮う……もはや、語るに及ばず』

 

 『フェンリル』の電磁加速砲によるアウトレンジからの一方的な殲滅。宣戦布告と同時に攻撃を開始する目論見であった帝国と共和国を正面から粉砕した。<身喰らう蛇>の面々に対しても、クルル・スヴェンド、レオンハルト・メルティヴェルスやアスベル・フォストレイト、レイア・オルランド、シルフィア・セルナートなどといった面々が戦線に参加して彼らを完全に抑え込んだ。そして、貴族連合の切り札ともいうべき蒼の騎神オルディーネに対し、シュトレオンの駆る騎神イクスヴェリアで圧倒。当初の予測が完全に裏目に出たのだ。

 

 この翌日、リベール王国はこの事実を国内外に発表。<不戦条約>の明確な違反行為を非難した。これと同時に、リベール王国はエレボニア帝国が通商会議の時とディーター大統領の就任式の際、列車砲が起動してオルキスタワーが一時的に危機に瀕したことを公表。帝国軍と共和国軍がクロスベル独立国への攻撃のため軍を派遣した事実まで併せて公表した。

 

 とはいえ、クロスベル独立国側にも<身喰らう蛇>の協力者がいることも掴んでいるため、『クロスベル独立国については、誠意ある行動を見せるかどうか推移を見守る』に留めた。どの道、彼らが協力関係を切るとは到底思えないため、水面下では敵対することも想定のうちである。

 

 

~リベール王国 グランセル城~

 

 大規模な戦闘から二日後、会議室にはシュトレオン王子と二人の人物がいる。その人物らは本来いがみ合うような関係なのに、この時ばかりは二人とも沈痛な表情を浮かべている。

 

「今回のことでそなた等を本国へ送還することはしない。大使館の職員も同様とする。我々は今までの方針を鑑みて対話のチャンネルを放棄しない。我々があくまでも戦っているのは両国の軍と現政権であること。よって、貴殿らに危害を加えないよう言明を下しているので安心して職務に当たってほしい」

 

「「……」」

 

 シュトレオン王子の言葉にカルバード共和国大使であるエルザ・コクランとエレボニア帝国大使であるダヴィル・クライナッハは押し黙ることしかできなかった。帝国の内戦も問題ではあるが、それ以上の問題へと発展しているのだ。しかも、宣戦布告なしの一方的侵攻。<不戦条約>締結国が揃って違反行為を犯した。三大国の一角となったリベールの名誉に泥どころか爆弾を投げつけるような始末。

 

 だが、彼らを罰しても何の解決にならないことは理解している。元帝国民や共和国民を抱えているからこそ、市井の人間にもそれがしっかりと根付いていた。何より、<百日戦役>のように下手に追い詰めて自爆行為などされたら困るのは軍のトップであるカシウス中将が一番理解していることだ。

 

「ダヴィル大使。エレボニア帝国は我が国からトールズ士官学院に留学したリィン・シュバルツァー、ラウラ・S・アルゼイド、そしてアスベル・フォストレイトの3名を犯罪人として引き渡しを要求しているが、学院の常任理事として彼らの罪状はあまりにも荒唐無稽と言わざるを得ない。寧ろ、我々が賠償を要求する立場であることを彼らは理解しているのかな?」

 

「個人的な見解を述べさせて頂くならば……少なくとも、その素振りは見られませんでした」

 

「エルザ大使。我が国は共和国との間で<不戦条約>と不可侵条約を結んでいる。今回の侵攻は大統領自らそれらの一方的破棄をしたと認識してよろしいのかな?」

 

「……いち個人としては、そういう風に見えるものと思われます」

 

 優れた導力技術、強靭となった経済資本、盤石ともいえる政治体制。いち早く経済混乱を収束せしめたリベールを『宝の山』だと思い込んだ両陣営の阿呆どもの制御ができていないことにシュトレオン王子は内心溜息を吐きたくなった。それを堪えつつ、真剣な表情で声に出した。

 

「とはいえ、我々は積極的侵攻を是としていない。両国の現政権に対して今回の侵攻に対する賠償を支払うのなら、今回のことは水に流そうと思っている」

 

「……いくらでしょう?」

 

「各々10兆ミラ、と言ったらどうかな?」

 

「しょ、正気で言っているのですか、シュトレオン殿下!?」

 

「エレボニア帝国側には結社<身喰らう蛇>の連中が紛れ込んでいました。本来ならば現場で即処刑の扱いをせねばならない連中を国家が雇い入れている……それを黙れと仰るので? 共和国側についても、<黒月>の残党が軍に紛れ込んでいたとの報告を受けました。我が国にとって害を為す者を見逃せ……そう仰りたいので?」

 

 別に法外的な価格設定ではない。国益を冒してまでも侵攻をしてきたのだ。当然二国間の貿易経済はストップし、それに付随する損益も発生する。加えて風評による損害も発生し、試算では一ヶ月でトータル5兆ミラの損失を予想している。なので、今のところは二ヶ月の損失補填分に上乗せで済ませているだけなのだ。

 そんな事情など外交窓口を担当している両大使にしてみればある程度は理解できること。なので一々論ずるまでもないとシュトレオン王子は結論付けた上で、両大使に言い放った。

 

「それに、だ。今回の侵攻の際、水際で止めたがアルフィン皇女殿下と我が国の騎士であるエリゼ・シュバルツァー嬢を誘拐しようとした。言っておくが、皇女殿下の保護はオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子から遊撃士協会本部経由で依頼されたものだ。正式に帝国へ帰還してほしいのなら、遊撃士協会本部の説得とオリヴァルト皇子が直々にグランセル城へ赴くこと。それ以外の交渉は認めない」

 

 共和国は関係ないとエルザ大使は反論しようとしたが、帝国の動きに合わせて共和国も動いたのは事実であり、皇女と侯爵令嬢を誘拐しようとした共犯者の立場にある。ここでどう言い繕うともその嫌疑を払拭するのに足る証明は不可能であると悟り、口を噤んだ。

 

 そして、シュトレオン王子の提案はほぼ不可能な状態にあるとダヴィル大使は悟っていた。何せ、貴族派からすれば権力に靡かない遊撃士を忌み嫌って追い出した経緯がある。それに加えてギリアス・オズボーン宰相が帝国内のほとんどの遊撃士協会支部を追い出してしまった。加えて、オリヴァルト皇子は貴族派にも革新派にも属していない第三勢力。つまり、アルフィン皇女に関してはリベール王国での与りとなるのが既定路線となっている事実。

 

「殿下は……いえ、リベール王国はエレボニア帝国の皇位継承に干渉されるおつもりですか?」

 

「現状その気はない。だが、現皇帝であるユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世は私からしたら『仇敵』という他ない。もし、その息子であるセドリックも同じような道を歩んだ場合、私は彼を斬ることも躊躇わない。そのことだけは伝えておこう」

 

 恨みこそすれ、罰することはしない。将来の妻との間に諍いは残したくないと含めつつ、もしその息子であるセドリックが身内を躊躇うことなく手にかけるようなことがあれば、その限りでなくなる。不戦条約を破棄してでも彼を処する覚悟は持っている……その意味も含めてシュトレオン王子はハッキリと宣言した。

 

 話し合いも終わり、シュトレオン王子は立ち上がると近くのメイドに何かを伝えると、会議室を後にした。そしてメイドは両大使に紅茶と茶菓子を振舞ったうえで静かにその場を離れる。

 緊張させてしまった詫びの気持ちもあるのだろう……両大使は紅茶で喉を潤す。そして、最初に口を開いたのはダヴィル大使であった。

 

「今ならオリヴァルト殿下の仰っていた意味が理解できる……この状況になって、それに気付くとは全く情けない限りだ」

 

『いや、最後にこのような有意義な話が出来て良かった。大使殿には、今後も諸国の平和のために、尽力してもらえるとありがたい。できればエルザ大使(カルバード)ルーシー大使(レミフェリア)と協力してね』

 

「エレボニアとカルバードは興亡の岐路に立たされている。どうあろうとも大国から転落は免れないだろう……リベールは更に大国としての格を上げることとなる」

 

「でしょうね。シュトレオン王子……いえ、王太子とも言うべきでしょう。強き王を得た以上、リベールはもはや揺るがない。その反面、我々の国は白隼の怒りを買ってしまった」

 

 周辺国よりも格段に進んだ導力技術。IBCから端を発した経済混乱を物ともしない強靭な経済基盤。加えて先日の戦闘で帝国軍や共和国軍を圧倒せしめるだけの軍事力を示した。誰がどう言おうとも、リベール王国は紛れもなく大国を名乗るに値する実績を挙げたのだ。

 加えて、今は亡き“黒隼”の遺児が次期国王として名乗りを上げた。A級正遊撃士としての実績を有し、政治についても宰相としての実績を打ち立てている。

 

 せめてもの救いは、両国に対しての交渉窓口として大使を含めた大使館職員全員が国外追放となっていないことぐらいだろう。この辺りは現国家元首であるアリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世の温情でもあるのだろうが。この状況に陥ると、お互いに言い争う余裕などなくなっていることに苦笑を零していた。

 

「今になって、其方と言い争っているのが懐かしく感じてしまうよ……せめて、これ以上無意味な犠牲は増えてほしくないと女神(エイドス)に祈るばかりだ」

 

「ええ。せめて共和国の方から歩み寄ってくれれば幸いでしょうが……」

 

 こうなってしまっては大使の出番などあまりない。せめて本国が自省してリベールに講和の交渉を持ちかけてくれればという淡い期待を女神に祈るぐらいしかできなかった。

 


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