No.959807

紫閃の軌跡

kelvinさん

第119話 退くことも勇気(第六章END)

2018-07-13 13:10:09 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2242   閲覧ユーザー数:1872

『そぉらっ!!』

 

 クロウの駆るオルディーネはその手に持つダブルセイバーを振るう。だが、アスベルとルドガーはそれを難なく躱し、懐にあっさりと潜り込む。試しに軽く衝撃を加えてみるが、傷一つつかない。その感触からアスベルは内心で溜息を吐く。

 

『ちっ、ちょこまかと! おらぁ!!』

 

「おっと! アスベル、やっぱこいつの装甲は……」

 

「十中八九だな。おそらく武器もワンオフだろう」

 

 具体的な名前は出さずとも、ルドガーはその意図を察したように真剣な表情を見せる。装甲だけでなく武器までもゼムリアストーン製とは如何に贅沢というほかない。そんなことなど知らずと言わんばかりにオルディーネは二人に向けてダブルセイバーを振り下ろす。

 

『何をごちゃごちゃ言っているのかは知らねえが、まずは自分達の命の保証からしたらどうだ!!』

 

 後ろからは『避けろ!』と叫ぶ声も聞こえるが、アスベルは一息吐くと右手だけでその刃を止めた。そして、いつになく挑発も交えた口調で言い放つ。

 

「おい、クロウ・アームブラスト。ご自慢の『蒼の騎士』の一撃が人間如きに止められて悲しくないのか? しかも、こっちは武器すら使ってないんだぞ?」

 

『ぐ、ぐっ!? ば、バカな!? ビクともしないだと!?』

 

(守護騎士の連中は化物と揶揄されるが……そら、そういわれても仕方ないよな)

 

 アスベルの地に着いた地面にヒビすら入れられていない。しかも、彼自身の特殊能力や<神衣無縫>を一切発動させていない状態でだ。守護騎士の長であるアイン・セルナートはそれこそ“化物”と言われているが、下手するとそれすら凌駕しうるのかもしれないとルドガーは苦笑を浮かべた。

 だが、これで終わらない。アスベルは<神衣無縫>を発動させると、ダブルセイバーの刃に左手も添えて、街道脇にダブルセイバーごとオルディーネを叩き付けた。騎神が人間に圧倒されているということなど聞いたことはないため、エマは自分の知っている知識が彼らに通用していないと苦笑を浮かべた。

 

「し、信じられない……」

 

「あれが、あの二人の実力だというのか……」

 

 オルディーネは素早く立ち上がって技を放つも、二人はその軌道が見えているかのごとく超高速の機動で回避していく。確かにオルディーネの放つ技一つ取っても常人がまともに食らえば死に至る技。だが、その動きの速さなど二人からすれば止まっているも同然。日頃からその一端を感じ取っていたⅦ組の面々ですら驚きを隠せなかった。だが、それをある意味否定するかのようにセリカは呟いた。

 

「ううん、あの程度の動きなら精々『準備運動』とか『遊び』でしょう」

 

「ええっ!? だってクロウは少なくともリィンを圧倒したあの状態で戦ってるんだよ!?」

 

「フィーちゃんなら、感じ取れるんじゃない?」

 

「……悔しいことにね。私たちとあの二人、それにセリカやリーゼ、それとそこにいる人では決定的に差がある」

 

「フィー……」

 

 フィーは<百日事変>と<影の国>で戦闘経験がある。一緒に戦ったこともあるが故、その実力は解っていた。実際のところ、フィーもⅦ組の中では卓越した戦闘技術を持ち合わせているが、いまだに本気を出すことはできない。それはとある事情が関わっているが、今は置いておく。

 オルディーネは隙を見てリーゼロッテに向けて攻撃を加えるが、それをすぐに察したセリカは大剣を振るってその攻撃を打ち消した。このワンシーンだけでも実力の差を思い知らされる。

 

「すまない、助かる」

 

「まぁ、クワトロにしてみれば色々あるでしょうが、ここは耐えてください」

 

「……そうですね」

 

 その間もオルディーネとアスベル・ルドガーの戦闘は続く。すると、アスベルとルドガーの表情が満面の笑みへと変わったことに気づき、それを見たセリカはこうポツリと零した。

 

「……ご愁傷様」

 

『ぐあああああああっ!? て、てめえらああああああ! 加減という言葉を知らねえのか!? き、急所狙いとか、ひ、卑怯だろうが!!』

 

 どうせ装甲の関係で傷がつかないのなら、衝撃を加えまくって操縦者本人にフィードバックでダイレクトアタックしたほうが効率的と考え、頭部や股間、関節といった人間の急所と呼ばれる個所を重点的に痛めつけていく。いくら常識外れの力とはいえ、重力といった自然の理を無視できない以上、それを利用する。さながら打撃の雨に晒されるサンドバッグ。もはや戦いというより一方的な嫌がらせであり、それを目の当たりにしている面々は引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「加減? 卑怯? 騎神に頼ってるてめえが言えた筋か、阿呆が」

 

「降りて戦うんならタイマンでもいいぞ。その時は地面に這い蹲らせて、リィンのところまで引き摺った上で五体投地土下座させてやる」

 

『上から目線で語るんじゃねえ!! 死ね、デッドリークロス!!!』

 

 本気の本気で放たれたオルディーネのクラフト。だが、それに臆することなくアスベルは抜刀術の構えを見せる。そして、その技を放つ。

 

「八葉一刀流五の型が極式、『天神絢爛』」

 

 たった一合。目にも映らぬ速さの刃は蒼き騎神の凶刃を霧散させた。これに目を見開く暇もなく、オルディーネのモニターの眼前には、二刀流の構えをするルドガーの姿があった。

 

「這い蹲って敗北を知れ、『影縫疾走(クレセントドライブ)』」

 

 関節部分をピンポイントで破壊し、行動不能にさせた。そのついでに近くで倒れている機甲兵の関節も破壊。これでこれ以上の余計な邪魔はできない。オルディーネは技を受けた衝撃でそのまま地に伏した。

 

『ぐ、がっ、て、てめえらっ……!!』

 

「さて、これで余計な邪魔は入らなくなった。リーゼ、あとどれくらいだ?」

 

「あと3分。もう、アスベルってば本当に強いよね。ルドガーもだけれど」

 

「ねえ、敵は倒したんでしょ? ならどうしてボク達を覆っているこれを解除してくれないの!?」

 

 すると、さすがにじれったくなったのかミリアムが声を上げた。その疑問は至極尤もと思いつつ、アスベルは一息吐いてから真剣な表情で問いかけた。

 

「なぁ、お前ら。誰かに頼ったままでいいのか? 仮にリィンが戻ってきたとして、今のままなら100%死ぬぞ。その時俺達が傍にいる保障なんてない」

 

「それは……」

 

「軍人や軍事力に準ずるような立場なら、これから帝国に起こりうることなんて解っているはずだ。士官学院生という軍人の末席にいる以上、無関係にすることなんてできない。貴族派の連中は間違いなくお前らを捕まえるだろう。現にそうなったわけだし」

 

 会話の邪魔は入らないよう処置はしている。それは置いといて、こうなってしまった以上はⅦ組を危険視して最悪の場合は殺害も已む無しと見られる可能性だってある。リィンは騎神ヴァリマールという力を有しているが、それ以外の面々は一部を除いて超常的な力など持っていない。

 

「だが、敵はそれだけじゃない。<身喰らう蛇>も彼らに協力している。最早正道だけでは敵わぬ戦争に、そんな甘ったれた考えでい続けるつもりなら、これ以上関わらずに大人しくしていろ。リィンのことは代わりにどうにかしてやる」

 

 敵は<帝国解放戦線>だけでなく<身喰らう蛇>も関わっている。使徒第二柱<蒼の深淵>と執行者<怪盗紳士>の存在がそれを如実に示しているのだ。<百日事変>の時はエステルの爆発的な成長などがあったからこそ大丈夫であった。だが、今回はおそらく帝国全土を巻き込んだ戦争となる。そうなれば、Ⅶ組全員の生存を保障できなくなる。何せ、帝国だけでなく王国出身者もいるのだ。

 

「確かに学院生活を通して強くはなっている。だが、サラ教官やスコール教官もやっぱり身内とかが絡むと甘くなっていたようだ……一つ聞く。お前たちは強くなりたいか?」

 

 誰かに頼るのは構わない。一人でできることなど限界がある。でも、だからと言って他人に頼り切って自分が強くなることを放棄したいなどと本気で考えているのなら、この先の戦いに関わってほしくなどない。安全な場所まで逃げれるようにそのための手筈ぐらいは整える。幸いにもⅦ組は戦闘能力の資質を有しているので、これ以上の強さを追い求めることは可能。

 

 これはあえて口に出さなかったが、頭のいい連中や勘の鋭い連中は多い。この程度の深読みなんてできないようなら、この内戦に関わるな。どう言い訳しようとも、一歩踏み出した時点で『戦争』に足を踏み入れるのだから。

 

 この問いかけに対し、最初に口を開いたのはアリサだった。

 

「私は……どこか甘えてたのかもしれない。貴方が近くにいるってことに。学院祭の後に貴方がいなくなっても、きっと助けに来てくれるって甘えてた。バカよね、私。アスベルだってアスベルの事情があるというのに、私の事情しか考えてなかった」

 

「アリサさん……」

 

「ねぇ、アスベル。私、変われるかしら? もっと強くなって、貴方の隣に並び立ちたい。シルフィやレイア、セリカやあの子のように」

 

「変わりたいという意思があるのなら、それを忘れるな。その気持ちこそが、自分自身という存在を諦めていない証左なのだから」

 

 本来なら恋愛感情も含んだ展開に発展しそうなものだが、リーゼロッテの展開している結界は内外を隔絶しているので、そういうことにはできない。それに、これはⅦ組全員を無事に逃がすための手段なのだから。

 

 そして、その時は訪れた。

 

「アスベル、いつでもいけるよ」

 

「解った。……手筈は打った。お前たちが強くなりたいと願うのなら、その者達を頼れ。今日の悔しさを決して忘れるなよ……さよならではなく、また会おう。リーゼ!」

 

「うん。『七耀の精霊よ。我が願いに応え、かの者らに試練と祝福を』」

 

 結界は白く光り輝き、その光の道は天高く貫く。その光景を周囲の者は目撃する。

 

 トリスタ郊外で突如発生したその光。そして、その光が収まると……そこにいたはずのⅦ組の面々はまるで存在していなかったかのように忽然と姿を消したのであった。

 

 

 一方その頃、リベール王国内を南に向かって飛ぶ一隻の真紅の艦。名はアルセイユ級巡洋艦Ⅳ番艦『カレイジャス』。その執務室では、深々と頭を下げるアルフィン・ライゼ・アルノール皇女の姿があった。

 

「ありがとうございます、叔父様。態々乗せていただき、感謝に堪えません」

 

「お気になさらず、アルフィン殿下。此度のことは宰相殿下よりのご要請でもありますゆえ」

 

 この艦を指揮しているのはヴィクター・S・アルゼイド侯爵その人。シュトレオン王子にしてみればヴィクターの姪でもある彼女がリベール王国を頼ったことも含め、できる限りかかわりのある人に任せるのが筋だと思い、彼を抜擢した。レグラムについては緊急時ということでカシウス・ブライト中将が詰めている。帝国だけでなく共和国やクロスベル方面への迅速な対応をするための措置であり、英雄としての存在価値を国外に示す狙いもある。

 

「エリゼ嬢もご苦労であった」

 

「いえ、これも職務でありますから……コホン。アルフィン、どうして私を頼ったのか、教えてもらえるかしら?」

 

「なっ!? 皇女殿下にそのような」

 

「構いませんよ、クルトさん。エリゼは友人である故敬語を使うなと強く言いましたから。……これは、私の思惑と兄様の願いが一致したからこそなのですが」

 

 アルフィン皇女は既に聖アストライア女学院を退学したことを打ち明けた。そして、グランセル城に着き次第、皇室典範に従い皇位継承権を放棄、降嫁することも併せて打ち明けた。この辺の手続きは既に書状として残しており、その許可自体は前もって皇帝本人から取り付けたものだと説明した。

 

「ほ、本当なのですか!?」

 

「……エレボニア帝国はリベール王国に対して三度も……いえ、それ以前からも帝国の野心によって少なくない被害を与えてきました。このまま進めば、内戦の影響をリベールが受けることもお兄様は懸念なさっておりました。民の怒りを鎮めるため、この身を捧げる所存です」

 

「文言と誠意はいいとしても、最後に笑顔を浮かべた時点で台無しです」

 

 王国民、とりわけ元帝国民の心情を逆撫でするような行動は裏切り者扱いのような状態。これを速やかに緩和させるためには、自身の降嫁が一番良いと判断した。とはいえ、この発表自体はエレボニア帝国が内戦中のため、内戦終結後に正式発表となる。

 本来なら政略結婚も含んだ形だが、『この身を』の辺りから笑顔を浮かべたアルフィン皇女にエリゼはジト目で突っ込みを入れた。これにはヴィクターも思わず笑いを堪え切れず、その豪胆さを称賛した。

 

「はは、流石はあのオリヴァルト皇子の妹君だ。肝がよく据わっていらっしゃる。いや、この場合は『金獅子』と謳われたウォルフガング前皇帝の孫娘と言うべきかもしれませぬ」

 

「それに、私の初恋を奪ったお方ですから。一生賭けてでも捕まえるつもりです」

 

「あ、あははは……」

 

 逃避行とは思えず、逆に押しかけ嫁入りの有り様にクルトは苦笑しか出てこなかったのであった。それを察したのか、ヴィクターはクルトに話しかける。

 

「クルト、両親からは何か言われたか?」

 

「え? 父からは『確りと励むように』と言われただけで、母からは『リベールから学べ』とだけです」

 

「そうか……君の兄や姉もリベールでの行動を通して成長した。考えすぎればただの毒でしかないことを覚えておくとよい」

 

「……はい。肝に銘じておきます」

 

 カレイジャスはその日の夕方にはグランセル城に到着。アリシア女王はアルフィン皇女の心情に最大限配慮すると発言、離宮にて王太妃とほぼ同等の扱いを受けることとなる。護衛として同行したクルトは自らのスランプを克服したいと願い出て、アラン・リシャール大佐をはじめとした武術などの手解きを受けることとなる。

 

 

 この日を境として、エレボニア帝国は貴族派と革新派による大規模な内戦状態へと突入していくこととなった。そして、旧帝国領を擁するリベール王国もそれに巻き込まれることとなるのだが、これによって一番胃を痛めて仕事をすることになったのは帝国の駐リベール大使であるダヴィル・クライナッハその人であると付け加えておく。

 

 

戦闘面はアッサリ目に仕上げました。

そもそも、<パテル=マテル>を一本背負いできるエステルを妹に持つアスベルと、ヨシュア以上の速力を有するルドガーに至宝の3割弱の出力しか持たない騎神が勝てるのかと……股間へのあんまり執拗な攻撃はトラウマを掘り起こしてしまうので若干優し目に。

 

次章ですが、以前より告知していた通り断章に入ります。

リベールとクロスベルの連中がメインとなりますので、あしからず。

 


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