No.956516

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第7話

小次郎さん

許での大粛清に動揺する蜀と呉。
だがそれは序の口に過ぎない。

2018-06-15 17:25:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4891   閲覧ユーザー数:3046

(建業)

呉国本拠地の留守役を任されましたが、周囲の目が冷たいですね~。

裏切り者、不忠者、他にも色々と言われていますし。

まぁ、最後まで戦に反対の立場を取っていましたから、荊州と合肥への兵站責任者を担っていませんでしたら何時刺されても不思議では無い事です。

唯一呑んで頂けた進言は不利と思われましたら即時退却。

それが精一杯でした。

・・私とて魏国に対し、口惜しい気持ちは胸に残っています。

祭様や失った将兵達の仇を取りたいと思わない訳ではありません。

これまでに脳の中で様々な戦術を練り、魏国と呉国の戦いを巡らせていた事でしょうか。

・・どれほど考えても勝てない戦を。

・・緒戦で一時的な勝利は得られましても、どうしても後が続きません。

大陸の殆んどを支配している魏国との国力差は明白で、ましてや先の敗戦で私達呉国は失ったものが大きすぎます。

一度の戦で王を討つ、もしくは大軍を失わせる等といった考え?

戦を知らない者の妄想に過ぎませんよ、本の物語じゃないんです。

それでも自軍の勝利を疑わない人達が多数、羨ましいくらいですよ~。

・・祭様、祭様が呉国に遺したものとは一体何なのでしょうか?

決して誰にも膝を屈さずに、最後の最後まで抵抗するという事なのでしょうか?

戦を選択する蓮華様や他の方達こそ正しく、頭を下げてでも国の存続を最優先とする私は間違っているのでしょうか?

・・雪蓮様、冥琳様、・・御二人も酷いですよ。

全て分かっていながら、私一人に重過ぎる荷を背負わせるんですから。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第7話

 

 

(荊州)

「一体何を考えているの、曹操は!」

「だよね~、あれだけ蓮華お姉ちゃんに馬鹿にされてるのに顔も見せないんだもん」

どんなに挑発しても全く反応を見せない魏軍に、蓮華様が苛立ちを隠せなくなっています。

いえ、むしろ私と同様に恐怖が抑えきれなくなっているのかもしれません。

「亞莎、何か手立ては無いのですか?」

明命の問いに私は首を振ります。

魏軍が私達呉蜀連合軍よりも兵数が上回る以上、下手な手出しは出来ません。

此方から動くのは猛獣の口に手を突っ込むようなもので、攻勢を掛けるには変化が必要です。

蜀軍の方達とも協議していますが、他戦場の動きを待つしかない結論。

既に蜀軍には独断先行を行ない飛び出した将、華雄なる将が一矢はおろか敵陣に辿り着くまでに大量の矢を受け戦死し部隊が全滅しました。

砦に等しい防御陣を見せ付けられ、せめて遺体の回収をと思っていましたら、魏軍は火矢と油を用いて部隊を焼き払ってしまったのです。

この暴挙に連合軍の士気は怒りで一時大きく高まりましたが、根底には全ての兵に拭い去れない恐怖が植え付けられました。

魏国の姿勢が以前と明らかに違うと。

・・ですが此れは序の口でしかなかったのです。

蜀軍重臣の方達が急遽訪れて来られ、許にて漢臣の大粛清が行なわれた事を伝えられました。

万を越える人達が処刑され、皇帝陛下すら投獄されたと。

「も、最早こうなりましては退却する事を考慮すべきだと思います。魏国を内外から攻略する計画でしたが、内憂を無くした魏国は外患のみに専念できる様になってしまったんです」

鳳統さんの意見は尤もで、ですが蓮華様は反論されます。

「今更そんな事出来る訳ないわ!むしろ我等の正義は万人の認めるところに成った、歓迎すべき事態よ」

「れ、蓮華様。仰る通りではありますが、なればこそ退く事を考慮すべきかと」

苛烈な行いは時が経てば経つほどに民の心を魏国より離し、それこそ処刑された人達よりも大きな力が呉蜀に与する事となるでしょう。

許での粛清は劇薬です、効果は抜群ですが副作用も確実に現れます。

ですが今はいけません、単純な力の差が明確に出てしまいます。

改めて現状の認識を全員で共有すべく、これまでの感情で凝り固まっていた軍略に一石を投じます。

私の進言に蓮華様をはじめ他の皆さんも考え込まれ、戦略の見直しが検討され始めました。

穏様に代わって軍師としての役目を果たせた事に安堵したのですが、続き届いた報により全ては水泡と化します。

・・既に、遅かったんです。

 

 

(合肥)

合肥城を包囲中の私と雪蓮の下に、渡河地点であり後方拠点としている濡須が襲撃された報が入った。

「冥琳、こっちは私に任せて急いで向かって!」

「分かった。雪蓮、頼んだぞ」

本心では全軍で戻り急行したいところだが、合肥城への攻勢を緩める訳にもいかず、軍の動揺を抑える為に緘口令を敷き、物資運搬を装い一軍を割いて慌てず離脱する。

ある程度に本軍から距離を取れた後に全速で軍を進めながら、最早最悪の状況になっている事に身体が震える。

今の事態から出される結論は、魏は此方の進軍を掌握していて渡河時には既に兵を伏せていたのだと。

無論、渡河前から斥候は出している。

察知出来なかった以上そこまで多くは無いのだろうが、万の兵で守っている濡須を襲撃出来る位にはいるという事だ。

濡須を失えば我等は陸に打ち上げられた魚だ、急ぎ防衛せねば逃げ場さえ失い呉軍は全滅する!

 

 

 

「もう遅いわ。・・隊長の思いを踏みにじったんや、一兵たりとて逃さへんからな」

 

 

 

そして私が戻って見た光景は、陣も船も炎上し息絶えている多くの兵達。

これでは確認するまでも無く食糧も失ったのが分かり、連れてきた兵も声を出せずに呆然としている。

・・不覚だ、我等は戦が始まる前から後手に回っていたのだ。

駄目だ、こうなってしまっては雪蓮でも軍を維持出来ん。

合肥城の包囲を解き拠点を再構築、後は建業にいる穏の救援を待つしかないと思案していると、

ジャ~ン!!ジャ~ン!!

銅鑼の音と共に左右より兵が現れる、張の紺碧旗、張遼。

陣の生き残っていた兵たちが恐慌状態に陥り逃げ始める、この惨状は張遼によるものだったのか。

私は自軍に指示を出そうとし、

「ゴホッゴホッゴホッゴホッ!!」

最悪に最悪が重なる。

これまでで最大の発作が私を襲い、私は、意識を失った。

 

 

 

「ウチの名は覚えんでええ、死んでいくモンに必要ないやろ!!」

 

 

 

冥琳!

拠点壊滅、冥琳の生死不明、伝者の報告を聞いた私は最大限の自制を強いられたわ。

いま私が慌てて冥琳のところに向かえば、烏合の衆と化した呉軍に合肥城守将の楽進と李典が容赦なく襲ってくる。

そうなれば軍は総崩れ、逃げ場が無く文字通りに全滅してしまう。

一刻も早く冥琳の下へ向かう為に打開策を構築中、更に聞きたくない報告が届く。

・・許可無く勝手に戦線離脱し始めた軍が出た?

それも一つや二つじゃないですって?

陣幕から急ぎ出ると、確かにそれは存在していた。

「・・・・・フゥゥ」

私は大きく溜息を吐く。

逃げ出したのは濡須の事を知った連中でしょうね、これじゃ全軍に広まるのは時間の問題、終わったわね。

次々と本営に豪族たちが来たけど、要は責任取って何とかしろって言いたいだけ。

だったら、・・もういいわ。

私は馬に乗り親衛隊に退却の指示を出す。

豪族たちが色々言ってるけど、無責任?知った事じゃないわよ。

戦いたがってたのはアンタ達でしょ、指揮権なんか呉れてやるわよ。

大体分かってるの?

先手を打たれていたって事は、見た目通りの兵力じゃないって事よ!

 

 

 

「狼煙を上げ伏兵に知らすのだ、・・・城門を開け、全て殲滅せよ!」

 

 

 

あそこ、半ば倒れかけている周の旗が見える。

魏の狩場となった合肥の戦場から、ようやく濡須まで戻ってこれたけど、私に従う兵も既に無くて、悉く蹂躙されたわ。

「冥琳、何処、何処にいるの!」

何処を見渡しても遺体だらけ、呉の兵士だけが大地を埋め尽くしている。

呼びかける声に返答は無くて絶望が私を襲う、膝から崩れ落ちた其の時、

「・・雪蓮・か?」

冥琳の声が折り重なっていた兵の所から聞こえた。

「冥琳!」

駆け寄り兵の遺体を避けて、横たわる冥琳を抱き締める。

「冥琳、良かった、生きていたのね」

「・・護衛の者達が・意識を失っていた私を・匿ってくれたのだろう。・・命を、捨ててまで・・」

「無理に話さなくていいから、とにかく此処から離れましょう」

「フ、分かって・いるのだろう?私は・もう・」

「冥琳!!」

「すまぬ・な・・先に・逝く。・・だが・・お前に逢えて・・私は・・・・・・」

私の腕の中で息を引き取った冥琳。

その死に顔は安らかで、私の好きな笑顔。

・・ええ、分かっていたわよ。

貴女が不治の病に侵されていたのを、二度と呉の地には戻れない覚悟での参戦だったのを。

最期まで私を支えてくれる為に命を燃やし続けてくれた事を。

 

・・・足音が近付いてきて、顔を上げると楽進の姿があった。

でも楽進は私達の姿を見るなり踵を返していったわ。

振り返ることも無く。

・・ねえ、冥琳。

私はね、今回の戦、勝つのも負けるのも興味なかったのよ。

合肥城を陥とせたら呉の延命くらいには為るでしょうし、負けたとしても貴女と私を失ったら豪族たちも頭が冷えて魏に平謝りすると思ってたから。

それなら呉も滅亡を避けられるんじゃないかしらって。

・・でも、無理みたいね。

楽進は私を情けで見逃したんじゃないわ。

私も傷から血が流れすぎてて、もう死ぬから手を下すまでも無いと判断しただけなのよ。

だって私を見ていた、あの目。

何の感情も無かった。

孫伯符も周公瑾も関係無くて、全てが滅ぼす対象でしかないって物語っていたもの。

・呉は、滅ぶわ。

もう・私も・目が霞んできて、感じられるのは・抱き締めている・冥琳の微かな体温くらい・・ね。

・・ごめんね・蓮華・シャオ・みんな・・。

出来れば・・逃げて・・生きてくれれば・それ・だけで・・・。

 

・・・冥・琳・・・ずっと・・一緒・よ・・・・・。


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