No.934216

九番目の熾天使・外伝 ~短編30~

竜神丸さん

偽りの聖王 その3

2017-12-23 01:58:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2876   閲覧ユーザー数:1486

「さてさて、ZEROさんが暴れてくれている内にデータを回収しなければ…」

 

聖王に関連するデータを回収するべく、研究所にこっそり侵入した竜神丸。研究室のパソコンにUSBメモリを挿し込んでパソコン内のデータを吸収している竜神丸のすぐ傍には、彼によって叩きのめされた研究員達が山のように積まれており、金髪の少女はオドオドした様子で研究員達と竜神丸を交互に見ている。

 

「こ、この人達は…」

 

「ん? あぁ、ご心配なく。気絶させてるだけですから……いつもなら、邪魔者のお相手はイワンにでも任せていたんですけどねぇ。やれやれ、助手や護衛がいないだけで非常に面倒です」

 

「き、貴様、そこで何をしている!!」

 

「ッ!?」

 

「んむ?」

 

そんな時、研究所の主任と思われる男が警備員を引き連れて入り込んできた。金髪の少女は怯えた表情ですぐに竜神丸の後ろに身を隠す。

 

「おや、あなたがここの責任者ですかね?」

 

「そのデータとその娘は返して貰おう。聖王の存在が、外部に漏れるような事があっては困るのだよ」

 

「それほどまでに隠し通したい研究……興味深いですねぇ。ぜひとも、データを譲って頂けませんか?」

 

「忠告が聞こえないほどに耳が悪いようだな……おい、取り押さえろ!!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

主任の命令で警備員達が竜神丸と少女を取り囲み、一斉に銃を構えた。しかし…

 

「はぁ……下らないですねぇ、この流れ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

竜神丸が右手の指を動かした瞬間、警備員達が構えていた銃が次々と手元を離れていく。

 

「そういうのは良いんで、さっさとご退場願います」

 

「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」」

 

「な…ぐぁっ!?」

 

竜神丸が指を鳴らし、空中に浮遊した全ての銃が一斉に警備員達目掛けて銃撃し始めた。無数の弾丸に貫かれた警備員達は次々とその命を落とし、一発の弾丸が主任の右肩を撃ち抜いた。竜神丸の後ろに隠れていた少女は聞こえて来る銃声に思わずビクッと反応する。

 

「ば、馬鹿な……おごぉ!?」

 

「さて、あなたに少し聞きたい事があります」

 

負傷した右肩を押さえる主任の顔を、竜神丸が左手で強く掴む。

 

「な、なにほ……!?」

 

「ここで聖王オリヴィエのクローンが量産されているのは既に把握しているのですが、少し気になっている事があるんですよねぇ……クローンの製作には、オリジナルのDNAが必要不可欠な筈です。一体どうやって聖王のDNAを手に入れたのですか?」

 

「ぬ、ぐ……誰が、教えるものか…!!」

 

「そうですか。では、あなたの口ではなく脳に聞くとしましょう」

 

「何…!?」

 

過去視(サイコメトリー)

 

竜神丸は主任の頭を右手で掴み、彼の記憶を覗き込もうと能力を発動した……しかし。

 

「…!?」

 

突如、目を大きく開いた竜神丸は右手を離し、主任を左手で突き飛ばした。竜神丸は自身の右手を見据える。

 

(…記憶を覗き込めない? 対策を打たれていたという事か…?)

 

「ゲホ……く、くくく、はははははははは!! 馬鹿め、油断したな!! やれ、2号機!!」

 

『了解』

 

「ッ…!!」

 

「ひゃう!?」

 

主任の命令と共に、黒いボディスーツの女性が竜神丸の背後から接近。それに気付いた竜神丸は金髪の少女を庇うように右腕で女性の繰り出してきたパンチを防ぎ、金髪の少女を抱きかかえてボディスーツの女性から大きく距離離す。

 

「2号機、奴を始末しろ!!」

 

『了解。これより2号機は、侵入者の排除を開始する』

 

「…やれやれ、面倒事は全てZEROさんに押し付けられたと思ったんですがねぇ」

 

パンチの衝撃で痺れたのか、右腕をブンブン振りながら竜神丸は2号機と呼ばれたボディスーツの女性を厄介そうに睨み付ける。2号機は青いゴーグルを装着しており、ゴーグルの下の表情は見えない。

 

(クローンとはいえ、聖王が相手となると少々厄介……妥協している暇はありませんか)

 

竜神丸は金髪の少女を左手で抱きかかえたまま、自身の両足を足元の床と同化させ、少しずつ下半身を床の中へと沈めていく。そこへ2号機が素早く迫り、再び竜神丸に向かってパンチを繰り出そうとした。

 

『排除する…ッ!?』

 

潜航師(ゾーンダイバー)傀儡(フリークドール)

 

しかし2号機のパンチは、竜神丸に命中する前で突然ストップした。何事かと思った2号機が足元を見ると、床から竜神丸の物と思われる腕が出現しており、2号機の両足を掴んで動きを停止させていたのだ。

 

「この手の相手は、搦め手でさっさと封じるに限ります」

 

『ッ……破壊する』

 

竜神丸が右手をかざし、床から竜神丸の腕が次々と伸びるように生え始め、2号機を捕まえようとする。2号機は両足を掴んでいる腕を素早く破壊し、四方八方から伸びて来る腕をかわしながら再度竜神丸に接近。それを見た竜神丸は複数の腕を床から生やして2号機の攻撃を防御しようとしたが、2号機は魔力を纏わせた右足で複数の腕を一撃で蹴り砕き、そのまま竜神丸の胸部を貫くようにキックを命中させた。

 

「が、は…………なんて嘘です♪」

 

『ッ!?』

 

2号機が繰り出したキックは確かに竜神丸の胸部を貫通していた。しかし貫通しているだけだった。2号機の右足は竜神丸の胸部を貫通した状態のまま、竜神丸の胸部と無理やり同化させられていたのだ。当然、竜神丸の血など一滴も流れてはおらず、竜神丸もニヤリと笑みを浮かべる。

 

「捕まえましたよ」

 

『ッ…!!』

 

そして後方から伸びてきた腕が2号機を捕縛し、彼女の手足を掴んだ状態で空中に固定。2号機は手足に魔力を収束させて掴んでいる腕を破壊しようとするが、それよりも前に竜神丸は開いた右手で床を叩き、床だけでなく壁や天井すらもグニャリと変形させ、ドーム状に覆い込んで2号機を生き埋めにする。

 

「な、何だと……くそ!!」

 

「おっと、逃がしませんよ」

 

「ぶっ!?」

 

2号機が生き埋めにされたのを見た主任は逃走しようとしたが、床から生えてきた竜神丸の腕に足を掴まれ、転倒して思いきり顔面を床に強打する。

 

「さて、これで邪魔者はいなくなって…」

 

――ビキビキビキ……

 

「…くれませんねぇ。はぁ、実に面倒です」

 

――ドゴォォォォォォォンッ!!

 

しかし、2号機を生き埋めにしたドームはすぐに破壊され、中から2号機がピンピンした様子で現れる。竜神丸はめんどくさそうな表情で溜め息をつきつつ、潜航師(ゾーンダイバー)を解除し同化していた床から離脱。今度は右手に神刃(カミキリ)を出現させ、迫って来た2号機の回し蹴りを防ぐ。

 

『出力、上昇』

 

「!? チィ…!!」

 

2号機の右足に纏われていた魔力の出力が上昇し、竜神丸の神刃(カミキリ)が少しずつ罅割れ始めた。それを見た竜神丸は舌打ちし、神刃(カミキリ)の刀身をズラして2号機の蹴りを受け流す。しかし今度は2号機の左足によるローリングソバットが竜神丸の右腕に命中し、竜神丸を大きく後退させる。

 

「あ……血が……!!」

 

「どうって事ありませんよ、この程度」

 

竜神丸の右腕からは僅かに血が流れ、左腕に抱きかかえられている金髪の少女が青ざめる。竜神丸は特に何ともなさそうな表情で右腕をプラプラ揺らすも、内心では2号機の攻撃力の高さを忌々しく感じていた。

 

(イマイチやりにくいですねぇ……出来る事なら手数は見せたくないのですが、止むを得ませんか)

 

『排除…!!』

 

毘沙門(びしゃもん)八咫羽(やたのばね)

 

2号機が殴りつけた床の破片が飛来し、竜神丸は再度出現させた神刃(カミキリ)で破片を相殺。そのまま神刃(カミキリ)の剣先から刀身が複数に分裂し、鳥の羽根のように形成される。

 

「少しだけ、本気を出すとしましょうか」

 

『ッ…!!』

 

刀身の羽根から無数の斬撃が放たれ、2号機は両手の拳で斬撃を撃ち払う。しかし全ての斬撃を防ぎ切れた訳ではなく、2号機の腕や足から僅かにだが血が噴き出し、2号機は初めて口元を歪める。その一方、竜神丸は金髪の少女を床に下ろした後、自身の手元に1本の刀を転移させ、鞘から刀を抜き取った。

 

毘沙門(びしゃもん)(むら)

 

居合いの一撃。

 

竜神丸が刀を鞘に納めると同時に、部屋全体に大量の刀が出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

『『ッ…!?』』

 

一方、培養カプセルが並ぶ部屋ではZEROが咆哮を上げながら、2人のボディスーツの女性を圧倒していた。それぞれ3号機、6号機と呼ばれる彼女達は頭部に装着しているゴーグルが罅割れ、ボディスーツが破けて白い肌を露出させており、血を流している状態でありながらもZEROとの戦闘を続行させようとする。

 

しかしZEROは現時点で、満身創痍な彼女達には既に興味をなくしていた。少し戦っただけで簡単に追い詰められるようならば、自身の渇きなど到底満たせはしない。

 

「つまんねぇな、もっと本気で戦えよ……!!」

 

『ッ……3号機、ダメージが危険域に到達……撤退を―――』

 

「させると思うかよぉっ!!!」

 

『ガ、ァ…ッ!?』

 

撤退しようとした3号機の頭をZEROの左手が掴み、ゴーグルを力ずくで握り砕いた。ゴーグルが破壊された事で3号機の素顔が露わになるも、ZEROは素顔になど興味は無く、そのまま3号機の体内の魔力を吸収していく。3号機どれだけZEROを殴りつけても、ZEROは微動だにしない。

 

『3号機……ッ……魔力、残り10%まで到達……回復、を―――』

 

「フンッ!!」

 

ほとんどの魔力を吸い取ったZEROは、つまらなそうな表情で3号機を投げ捨てる。投げ捨てられた3号機は培養カプセルに直撃し、ガラスが割れる音と共に培養液が流れ出ていく。

 

「つまらねぇ……つまらねぇんだよぉっ!!」

 

『ぐ……ガハッ!?』

 

「オアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

――ズブシャァァァァァァァァッ!!

 

ZEROは右手をゴキンと鳴らし、後ろに振り返ると同時に右手を突き出し、後方から不意打ちで殴りかかろうとしていた6号機の腹部を貫手でぶち抜いてみせた。腹部を貫かれた6号機が盛大に血を吐くのも気にせず、ZEROはそのまま右手を真横に振るって6号機の胴体を真っ二つに両断。上半身と下半身がお別れをしてしまった6号機は床に崩れ落ち、ピクピク痙攣したまま絶命してしまった。

 

「う、嘘だ!? 3号機と6号機がやられただと…!?」

 

「失敗作とはいえ、聖王オリヴィエの戦闘データをインプットしてるんだぞ!? それがあんな簡単に…」

 

「おい…」

 

「「ひぃっ!?」」

 

3号機と6号機に興味をなくしたZEROは、6号機の胴体を切断した際に掴み取った臓物らしきナニカを口に頬張りながら、今の戦いを見ていた警備員達の方に視線を向ける。臓物を喰らいながら睨みつけてくるZEROの顔は、まさに血に飢えた一匹の獣だった。

 

「これだけじゃ満たせねぇんだよぉ、俺の渇きが……もっと強い奴はいねぇのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「「ひ…ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」」

 

その場に居合わせてしまったのが運の尽き。ZEROに睨みつけられた警備員達は数秒後、部屋全体に断末魔を響かせる事になってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!? 3号機と6号機が…!?」

 

『や、奴は危険です!! このままでは、研究所は何もかも破壊され…ギャアアアアアアアアアアアッ!!?』

 

「どうした!? おい、応答しろ!! おいっ!!」

 

部下の通信を通じて3号機と6号機の敗北を知った主任は、通信機から聞こえる部下の断末魔を聞いて、表情が青ざめていた。現在、自身の目の前で起こっている状況を見ていた彼は、もうじき2号機が敗北するであろう事を何となく予感し始めていた。

 

(間違いない!! 先程監視カメラに映っていた男、アレは凶獣ZERO!! そして目の前で戦っている銀髪の男はアルファ・リバインズ!! どちらもOTAKU旅団に属している次元犯罪者だ!! よりによってそんな危険過ぎる中に目を付けられるとは…!!)

 

主任が焦りに焦っている中、部屋全体に無数の刀剣を出現させた竜神丸は金髪の少女を抱き寄せたまま、自分達の周囲にドーム状の頑強な障壁を展開させる。一方、2号機は全身に魔力を纏わせ、身体能力を向上させる事で全ての刀剣を回避しようと考えていた。

 

『魔力の出力、最大まで上昇……これより、標的を排除する…!!』

 

「あぁ、言い忘れていましたが…」

 

竜神丸が言いかけている途中で2号機が駆け出し、同時に無数の刀剣が一斉に2号機に斬りかかる。2号機は襲い来る刀剣をかわしながら、竜神丸と金髪の少女を守っている障壁を破壊するべく強力なパンチを繰り出すも、パンチは障壁を前に防がれ、大きな衝撃が部屋全体に広がっていく。

 

「この刀剣は非常に脆く出来ていましてね。ちょっとした衝撃を受けただけで、呆気なくバラバラに砕け散ってしまうんですよ」

 

「な、何? ……ッ!?」

 

竜神丸の言葉を聞いて、主任は気付いた。よく見れば、2号機が障壁を殴った時の衝撃を受けた無数の刀剣が、カタカタと震えているのが見えた。そして刀剣達は1本ずつ、ピシピシと罅割れ始めていく。

 

(ま、まさか…!?)

 

「それ故、下手に衝撃を与えない事をオススメしますよ。でないと―――」

 

『ッ……これより、障壁を破壊する…!!』

 

「ま、待て2号機!? 止まれぇっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀が爆ぜますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――バリィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

 

一瞬だった。

 

全ての刀剣が同時に砕け散り、無数の刃となって2号機の全身を斬り刻んだ。ボディスーツは斬り裂かれ、ゴーグルは破壊され、長い金髪が空中に舞い、噴き上がる血飛沫と共に2号機の体がその場に崩れ落ちる。障壁で身の安全を確保していた竜神丸は「あらら」と呆けた口調で呟き、金髪の少女は2号機が斬り刻まれる光景を見て恐怖で震え上がっている。

 

「せっかく警告して差し上げたというのに、呆気ない終わり方ですねぇ」

 

「う、あぅ……!!」

 

砕けた刀剣の刃が消滅した後、部屋のあちこちに刃物で斬りつけられた形跡が残っていた。部屋の中央には2号機が血まみれの状態で床に倒れ伏している。

 

「あ~あ、せっかく貴重なクローンだというのに。もったいない」

 

「ッ……」

 

「む?」

 

その時、金髪の少女は竜神丸の傍から離れ、倒れている2号機の前まで駆け寄った。金髪の少女が血に染まっている2号機の頬に触れると、2号機の全身が光に包まれ、一瞬で金髪の少女と同じような幼い姿に戻る。

 

「ほぉ…?」

 

『……ぃ』

 

「!」

 

『……た、ぃ……よ』

 

その時、2号機がほんの僅かに言葉を発し始めた。

 

『……いた、い……痛い、よ……助け、て……マ、マ……パ、パ……!』

 

「……大丈夫、大丈夫だから……痛いの、痛いの、飛んでいけぇ……痛いの痛いの、飛んでいけ……!」

 

2号機の目から一筋の涙が零れ落ちる。そんな2号機の哀れな姿を見て何かを感じ取ったのか、金髪の少女は2号機の頭を撫で、少しでも彼女の痛みをなくそうと「痛いの痛いの飛んでいけ」という言葉をひたすら繰り返す。その様子を見ていた竜神丸は首を傾げる。

 

「…ふむ。今ので自我が戻ったんですかねぇ…? よく分かりませんが、まだ息があるのであれば回収を…」

 

言いかけたところで竜神丸は気付いた。

 

先程自身が潜航師(ゾーンダイバー)で変形させた床や壁の物陰から覗き見ていた主任が、ポケットからスイッチらしき物を取り出していた事に。

 

「…チッ!!」

 

「あ―――」

 

竜神丸が金髪の少女の首根っこを掴み、真後ろに投げた瞬間。

 

――チュドォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

「きゃあっ!?」

 

主任がスイッチを押し、2号機の全身が光ると同時に大爆発を引き起こした。金髪の少女を助けた事で自身の回避間に合わなかった竜神丸は爆風に呑まれ、金髪の少女は目の前で起きた光景を見て顔が青ざめていく。

 

「あ、ぅあ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「…は、ははは、はははははははははははははははははははは!! やった、やったぞぉ!! 跡形も無く消し飛ばしてやった!! あの銀髪め、ざまぁ見ると良い!!」

 

万が一の可能性を考慮していた主任は、たった今自爆させた2号機に限らず、聖王のクローン全員の体内に予め自爆装置を仕込んでいたのだ。

 

「はぁ、はぁ……これで分かっただろう4号機よ!! 2号機だけじゃない、お前の体内にも既に自爆装置は仕込んであるんだ!! 貴重な実験体である故に、可能ならば無駄に犠牲にしたくはなかったが、邪魔者を消す為であれば私は躊躇などしない!!」

 

「あ、ぁ……!!」

 

「さぁ4号機よ、我々の下に戻って来なさい…!! 君を連れ出そうとした男は死んだんだ、これ以上我々を困らせるような真似はやめた方がお前の為だ…!! 君とて、2号機のように爆死はしたくないだろう……?」

 

主任は左手に握っているスイッチを見せびらかしながら、4号機と呼ばれた金髪の少女にジリジリ迫っていく。金髪の少女―――改め4号機は膝を突き、俯いた状態のまま動こうともしなかった。

 

「チッ、聞き分けの悪い奴め…!! 早くこっちに来なさ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に殺して貰っては困りますねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ザシュウッ!!

 

「―――は?」

 

主任のスイッチを握っていた左手が、ゴトリと床に落下する。自身の左手が斬り落とされた事に数秒遅れてから気付いた主任は、斬り落とされた左手の切り口を見て絶叫する。

 

「…ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああっ!!? う、腕が!! 私の腕がああああああああああああああああああああああああっ!!!??」

 

「あぁもう全く、うるさいったらありゃしませんね」

 

未だに燃え盛る炎の中から、右手に神刃(カミキリ)を構えた竜神丸が姿を現した。スーツは爆炎で少し焼け焦げてしまっているが、竜神丸本人は特に大した事の無さそうな表情で叫び続ける主任を見下ろす。

 

「さて。貴重なクローンを爆破した事、それから私がせっかく新調したスーツを台無しにしてくれた事……その分は埋め合わせして貰いますよ? 記憶を覗けない以上、生かす意味もありませんし」

 

「ぬぐ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…!!」

 

竜神丸が神刃(カミキリ)を振り上げ、斬られた左腕を押さえながら苦痛に襲われている主任にトドメを刺そうとした…………その時だった。

 

「…………ッ!?」

 

ゾクリ、と。

 

背後から殺気を感じ取った竜神丸は、すかさず後ろの4号機へと視線を向ける。4号機は俯いたままその場から動く様子は無かったのだが…

 

「……な、い」

 

「あなた、何を……?」

 

「……許、さ……ない」

 

「!?」

 

その瞬間、竜神丸は理解した。

 

今の一瞬に感じ取った殺気は、この少女が発した物である事を。

 

「許、さない……」

 

4号機はその場からゆっくり立ち上がり、ゆっくりと顔を上げる。

 

「許、さ、ない……許、さない……許さない……!!」

 

そんな4号機の瞳は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――許さないっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2号機を爆死させた事への、明確な怒りを露わにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

 

「ごはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ッ……!?」

 

直後、主任は部屋の奥まで一瞬で殴り飛ばされ、そのまま研究所の外まで吹っ飛ばされてしまった。大人の姿で戦闘行為を行っていた2号機とは違い、幼い少女の姿をしたままの4号機によって。

 

(馬鹿な!? ほんの少ない魔力量で、これほどの一撃を……!?)

 

2号機は攻撃を繰り出す際、それなりの量の魔力を纏わせてから攻撃を繰り出していた。

 

しかし4号機は違う。

 

それよりもかなり少ない量の魔力だけで、主任をたったの一撃で研究所の外部まで殴り飛ばしたのだ。

 

もし、今の一撃に膨大な魔力を纏わせていたとしたら?

 

竜神丸はゾッとしていた。彼にとって、ここまで恐怖を感じたのはこれが久々だった。

 

「許さない……許さない……許さない……許さない……!!」

 

「!? まずい―――」

 

「…許さなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!!」

 

「ぬ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…!?」

 

「ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

4号機は怒りの感情を爆発させると共に、その全身が光に包まれ、大人の女性の姿へと変化する。スタイル抜群な体型となったその体は黒いボディスーツに包まれ、上半身には白いジャケットが着込まれ、長く伸びた金髪は三つ編み状に結ばれ、その容姿は年相応の美しい美貌が露わになる。

 

聖王モードに覚醒した4号機の咆哮で、部屋全体に強力な衝撃波が広まり、竜神丸は両腕で衝撃波を受け止めたものの完全には防ぎ切れず、壁際まで大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

4号機が発揮した強力なパワーは、ZEROにもしっかり届いていた。先程まで渇きを満たせず苛立ちを隠そうともしていなかったZEROは、今の一瞬でその苛立ちが消え失せ、そして歓喜の表情を浮かべる。

 

始末した3号機と6号機に比べて、そのパワーは圧倒的だった。これほどのパワーなら、自身の渇きも満たせるかもしれない。

 

「ク、ハハハ……ハハハハハ、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

凶獣は喜んだ。

 

凶獣は震えた。

 

凶獣は満たしたかった。

 

渇きに渇いた己の欲望を。

 

この強大なパワーの根源を見つけ出すべく、凶獣は本能のままに床を破壊し、地下へと掘り進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふん!!」

 

衝撃波で破壊された研究室は、床も壁も天井も何もかもが破壊されて悲惨な状況だった。瓦礫に埋もれながらも何とか脱出した竜神丸は、2号機が自爆した時よりもダメージが大きく、着ていたスーツはボロボロで眼鏡も破損してしまっていた。

 

「ッ……凄まじいですね。まさか、これほどの魔力を秘めていたとは……しかし」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「…自分でも制御が出来ていない、か。完全に暴走していますねアレは」

 

主任を殴り飛ばした後も、4号機は怒りの感情を抑えられずにひたすら破壊を繰り返していた。下手に近付こうものなら自分も同じように殴り飛ばされてしまう事だろう。

 

「竜神丸ゥッ!!!」

 

「!」

 

その時、天井を破壊したZEROが竜神丸の隣に落ちて来た。

 

「アイツか? アイツなんだな! アイツなんだろう!? あんなデカい魔力を放ちやがったのは!!」

 

「えぇ、その通りです」

 

「ハハハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハ!! これだぁ、これだよぉ!!! 俺はこれを待ち望んでいたんだ!!!! ガッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

「あ、ちょ……!?」

 

竜神丸の言葉も無視し、ZEROは4号機目掛けて猛スピードで突撃し、4号機の頭部に向かって右手の爪を突き立てようとした。

 

その次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

「―――邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

――ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!

 

「「…ッ!!?」」

 

4号機が振り向き様に放った拳が、ZEROの突き立てた爪を弾き、ZEROを殴り飛ばしたのだ。これには竜神丸だけでなく、殴り飛ばされたZEROも驚きを隠せなかった。

 

(ZEROさんを殴り飛ばした!? 聖王の戦闘データをインプットされているとはいえ、まさかこんなにも…!?)

 

「……ハ、ハハハ」

 

殴り飛ばされ、壁に減り込まされたZEROは、それでも歓喜の笑いが止まらなかった。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! そうだぁ、もっと来ぉい!! もっと俺を喜ばせろぉっ!!!」

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

 

「!? チッ!!」

 

4号機とZEROの拳が激突し、更に強力な衝撃波が研究所を崩壊させていく。それを見た竜神丸は舌打ちし、研究所崩壊に飲み込まれる前にPSIを発動。両手を合わせ、手と手の間に小さな球状のエネルギーを生成する。

 

星空間(せいくうかん)重力特異点(グラビテーション)…!!」

 

竜神丸が宙に解き放った球状のエネルギーは、一瞬にして発動した竜神丸だけでなく、4号機とZEROをも飲み込んで一気に巨大化。その数秒後に、研究所は完全に崩壊してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、面倒な事態になったものですね…ッ!!」

 

竜神丸が解き放った星空間(せいくうかん)、そこは周囲に星や銀河といった宇宙を彷彿とさせる空間と化していた。その中央部では4号機とZEROが戦い続けており、その戦いの余波となる衝撃波がいくつも星空間(せいくうかん)の周囲に広がっている。

 

(この空間の時空を切り離したおかげで、何とか時間を引き延ばす事は出来ましたが…)

 

彼が発動した星空間(せいくうかん)の内部は、時間の流れが現実世界と異なっている。故に星空間(せいくうかん)の内部で起きた出来事は、現実世界ではほんの短い出来事として処理される。これで4号機の膨大な魔力を察知したであろう管理局の魔導師部隊の到着を遅らせる事は出来た。

 

「消えろぉ!! 消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「良いぞぉ、もっとだぁ!! ガハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

凶獣と恐れられているZEROに、4号機はさも当然のように喰らいついている。あのZEROですら今の4号機を倒すのは容易ではないのだ。

 

(あれほどの力……)

 

竜神丸は笑みを浮かべた。

 

(欲しい…)

 

(研究したい…)

 

(実験したい…)

 

(解剖したい…)

 

(手中に収めたい…)

 

「良い……実に良い、素晴らしい!! アハハハハハハハハハハハハハハハハ……ブゥンッ!!」

 

≪ガッチョーン…!≫

 

その瞬間、竜神丸の研究欲にも火が点いた。彼はボロボロになったスーツを脱ぎ捨て、上半身に何も纏っていない状態でガシャコンバグライザーを自身の腰に装着する。

 

「ZEROさん、あなた一人に独占はさせませんよ…!!」

 

≪マッドネスタイラント…!≫

 

ズボンのポケットから取り出したマッドネスタイラントガシャットを起動。竜神丸は小さく舌舐めずりをしてからガシャットを勢い良く腰のバグライザーへと装填し、バグライザー上部のスイッチを指で押す。

 

「へぇんしぃぃぃん……!!」

 

≪ガシャット! バグルアップ!≫

 

≪マッド! デンジャー!(デストロイ!)マッドクリーチャー! マッドネスタイラント!(スターズ!)≫

 

「ゥゥゥゥゥゥ……STAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAS!!!!!」

 

「!? ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

「…!」

 

竜神丸の全身が黒い瘴気に包まれた後、出現した巨大なカード状のエフェクトを突き破ると共に仮面ライダーザイエン・タイラントゲーマーレベルXとしての姿が露わになる。ザイエンは高い咆哮の後、その跳躍力を駆使して一瞬で4号機とZEROの所まで跳躍し、4号機を右手で強く殴り飛ばして撃墜する。

 

「おい竜神丸、邪魔をするな……コイツは俺の獲物だ…!!」

 

「彼女に死なれては困るんですよ……喰らいたいのなら、早い者勝ちという事です…!!」

 

「はん、勝手にしやがれ…!!」

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

地面に撃墜された4号機はすぐに立ち上がり、全身から膨大な魔力を放出させ始める。それにZEROとザイエンは一瞬だけ気圧されるも、それはすぐに歓喜の感情に変化し、2人は目の前にいる4号機を自身の獲物として狙いを定める。

 

「良いぞぉ、小娘ェ……もっと俺を楽しませろぉっ!!!」

 

「さぁ、実験開始です…!!」

 

「消えろ……消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

現実から切り離された空間。

 

 

 

 

 

 

その内部では、あまりに危険過ぎる戦いが繰り広げられようとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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