No.886099

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第十四話


 お待たせしました!

 一刀達が放った焙烙玉によって命を落とした孫堅。

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2016-12-30 20:54:49 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:5151   閲覧ユーザー数:3810

 

 ~反董卓連合の陣にて~

 

「ごめんなさい…私達が不甲斐ないばかりに。でも、どう攻めてもあれを突破する事が出来

 

 なかった。母様の仇があの向こうにいると分かっているのに…」

 

 そう沈んだ顔で皆に謝るのは孫策であった。

 

 孫策は孫堅が焙烙玉で爆死した後、孫家の当主となり孫堅の弔い合戦とばかりに軍勢を虎

 

 牢関に差し向けたのだが、結果は焙烙玉と連弩の猛射にあって兵の四割余りを失って退却

 

 を余儀なくされたのであった。

 

(ちなみに周瑜は孫策に『攻めかけたい気持ちは分かるが、軽挙妄動は慎むように』と言っ

 

 ていたのだが、孫策はその周瑜に孫堅の遺体を孫家の根拠地である建業へ送る任を与えて

 

 しまったが為に此処にはおらず、血気に逸る孫策は董卓軍が虎牢関の前に数十人程の軍が

 

 現れたのを見ると黄蓋が止めるのも聞かずに打って出てしまい、あえなくやられてしまっ

 

 たのであった)

 

「仕方ないわよ。でも、幸い…と言っては死んでいったあなたの所の兵には悪いけど、虎牢

 

 関にあれだけの備えがあったのが確認出来たのだけが収穫という事になるのかしらね。こ

 

 れでもかとばかりに飛んで来ては爆発するあの玉を潜り抜けたら、とてつもない量の矢が

 

 飛んで来るなんて…あの矢、連弩だとは思うけど、どれだけの量を配備しているのやら」

 

「ああ、それは確かにな。しかし、ただでさえ門の前のあの半円の壁のせいで正面突破が難

 

 しいのに、あれだけの規模の兵器が備えてあるとはな…少なくとも、このままじゃ虎牢関

 

 を突破するのは困難だぞ」

 

 孫策を慰めるように声をかける曹操に公孫賛がそう言い添えると、その場に沈んだ空気が

 

 流れる。

 

「でも、このまま董卓軍の好きなままにさせておく事は出来ないよ!早く此処を突破して洛

 

 陽に行って洛陽の人達を助けてあげないと!!しかも、あんな卑怯な武器を使って孫堅さ

 

 んや孫策さんの兵を殺す人達なんて許しておけない!!」

 

 その沈んだ空気を打破するかのように劉備がそう声をあげる。

 

 

 

「ねぇ、公孫賛…もしかして劉備って、麗羽の檄文をそのまま信じているわけ?」

 

「…私もまさかとは思っていたけどな。あいつは昔から一度信じたら、こう…まっすぐ過ぎ

 

 るというか、他に眼がいかないというか…純粋なのは純粋なんだけどな」

 

 曹操は公孫賛のその言葉を聞くと、呆れた顔を見せる。しかし…。

 

「さすがは劉備さんですわ!あなたのように真に国の為・民の為に考えてくださる方がいる

 

 限り我らが正義が敗れる事はありませんわね!!」

 

 袁紹が劉備のその言葉に乗っかってしまい、場の混乱に拍車がかかる。

 

「…で、あれをどうするわけ?現実問題としてそれを解決しない限りは何も進まないって事

 

 位分かるわよね?」

 

 曹操は完全に呆れた表情のまま、壁の方を指差してそう問いかける。

 

「それについては、この三公を輩した袁家の当主たるこの私がありったけの火薬を用意させ

 

 ていただきましたから、これであの忌々しい壁を破壊してしまいましょう」

 

 袁紹がそう言って指差した先には山のように置いてある火薬の入った壺があった。

 

「あれ全部火薬なの!?」

 

「ええ、我が袁家の財力を以てすればあの程度大した事はございませんでしてよ。お~っほ

 

 っほっほっほっほっほ!」

 

(ちなみに袁紹はそう言っているものの、それだけの火薬を用意するのに持っている財産の

 

 半分以上を使用してしまい、これからの領地や軍の運営をどうしようと顔良が頭を痛めて

 

 いたりするのだが)

 

「さすが袁紹さんですね!なら、あの壁を破壊したら私達が虎牢関の門を破ります!」

 

「ちょっ、桃香!あの壁を壊したら終わりじゃないんだぞ!どうやって虎牢関を突破するっ

 

 ていうんだ!?」

 

「大丈夫、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんなら必ずやってくれるから!!」

 

 その劉備の宣言の後、方針が決まり皆それぞれに進軍の準備の為に自陣へと戻っていった

 

 のだが…。

 

 

 

 ~劉備の陣にて~

 

「…朱里ちゃん、今の話どういう意味なのかな?」

 

「何度も申し上げる程の物ではありませんが、今の桃香様の御命令には賛同しかねます。向

 

 こうが火薬を使うからこっちも火薬なんて発想がうまくいくと本気でお思いですか?我ら

 

 がそれをする間、他の方々の軍はどう動くのですか?後詰や援護はどのような形に?」

 

 劉備が陣へと戻り、軍議での方針を伝えると、諸葛亮が反対意見を述べた為、劉備の顔に

 

 は不満の色が表れていたのであったが、諸葛亮にそう言われると言葉に詰まる。

 

「そ、それはそうかもしれないけど…軍議で決まった事だよ?今更反対されても…反対意見

 

 があるならその場で…『呼ばれてもない者がどうやって反対意見を述べられるのですか?』

 

 …まあ、そう言われればそうなんだけど。でも、もう決まった事、だからどうやって成功

 

 させるかを考えるのがこれからの朱里ちゃんの仕事でしょ?」

 

「…その御命令は強制的な物という事ですか?」

 

「私はそんなつもりは無いけど…朱里ちゃんがそう受け取るんだったらそうなっちゃうのか

 

 な?でも、このまま此処で私達が立ち往生したままだったら何時まで経っても洛陽の民の

 

 みんなを助ける事なんて出来ない、それにあんな卑怯な武器で孫堅さんを殺したあっちが

 

 悪いって事位、朱里ちゃんも分かるよね?」

 

 劉備がそう言うと、諸葛亮は少し考え込む表情を見せるが…。

 

「…申し訳ございません、どうやら私は桃k…いえ、劉備様のお役には立てないようです」

 

「えっ、朱里ちゃん?それってどういう…しかも劉備って今更他人行儀な…って、あれ?」

 

 畏まった表情でそう告げた為、劉備の表情に戸惑いの色が見える。

 

「どういうもこういうも言った言葉の通りです。今の劉備様の為にこの諸葛孔明がお役に立

 

 てる事は一つも無いという事です。ですので、私はもう何も申しませんからどうぞご自由

 

 に。気に入らないというのであれば追放でも処刑でもお好きに…とりあえず私はしばらく

 

 謹慎させていただきますので」

 

 諸葛亮はそう言い残すと、戸惑う劉備を尻目に陣の外に出ていってしまう。

 

「何で…どうして、朱里ちゃん?」

 

 何が何だか分かっていない劉備はただ呆然とそれを見送るだけであった。

 

 

 

「朱里、一体どうしたのだ?桃香様が困っておられるぞ。今なら私が間に入るからすぐに桃

 

 香様の所に…」

 

 一刻程後、劉備より話を聞いた関羽が陣の横に置かれた檻車の中に自ら入った諸葛亮の所

 

 にやってきていた。

 

(ちなみに自ら檻車の中に入ったのはそこ以外に謹慎を示す場所が無いからである)

 

「愛紗さんは劉備様より作戦の事についてお聞きになりましたか?」

 

「ああ、一応はな」

 

「では、あんな作戦などと呼べない物を容認出来るのですか?仮にそれが成功したにしても、

 

 多くの…いえ、ほとんど全ての兵を犠牲にする事になるでしょう。あの御方はそれを理解

 

 されていない。あの壁を破壊しなければならないのは分かります。そして、火薬でも使わ

 

 ない限りあれの破壊が難しい事も。ですが、今回の作戦では壁を破壊したらそのまま我ら

 

 の軍が正面攻撃としか決められていないのですよ?向こうの備えは壁だけじゃありません。

 

 あの爆発する玉やとてつもない量の矢を放ってくる連弩、それに虎牢関そのものもあの壁

 

 に負けず劣らず強固に固められています。そこまでをどう突破するか、そしてそこまで如

 

 何に兵の損害を抑えるか、それを含めて始めて作戦といえる物になるのです。そして何よ

 

 りも…劉備様は未だに董相国が洛陽で暴政を敷いていると信じておられる。私が此処まで

 

 調べて来た事に何一つ眼を通していないと宣言しているような物です。ですから、もはや

 

 私の言など取り入れてはくださらない以上は私の居場所など此処には無いと…」

 

「お前が調べてくれた洛陽の現状や董卓の人となりについては私も見させてもらった。袁紹

 

 の檄文の内容とはあまりにもかけ離れている事についてもな。しかし、此処まで来て『や

 

 っぱり董卓に付きましょう』などとは言えぬのではないのか?」

 

 

 

「何も董相国側に寝返れなどと申すつもりはありません。ですが、劉備様はあまりにもご自

 

 分のお考えだけに囚われ過ぎておられます。洛陽の民を救うという目的の為であれば、此

 

 処まで付いて来てくれた兵がどれだけ死のうが一向に構わないというその作戦をそのまま

 

 通すのであれば、そんな方の為に揮える知恵など何処にも無い…ただそれだけです」

 

 諸葛亮はそれだけ言うと眼を閉じてしまい、それ以上関羽が何を話しかけても反応しなか

 

 ったのであった。

 

「愛紗さん…」

 

「雛里か…すまぬ、どうやら朱里は自分から引き下がるつもりは無いようだ」

 

「いえ、愛紗さんが謝る事ではありません…でも、これからどうするんです?朱里ちゃんが

 

 いない状態でどうやって作戦とか…『お前が考えてはくれんのか?』…無理でしゅ!私一

 

 人でなんて考えただけで…朱里ちゃんがいなかったら私…ごめんなさい!!」

 

 鳳統は関羽の問いにそう答えると脱兎の如くに駆け出していってしまう。

 

「やれやれ、我らが軍師殿達にも困ったものだな」

 

「星…本当に困ってると思うのなら、もっと困ったような顔をしろ」

 

「いや、すまない。私の顔はそもそもこういう顔なものでな…自分でも色々損してると常々

 

 思わんでもないのだが」

 

 そこに現れた趙雲はそう言って肩をすくめていたが…どう見ても本当に困った風には見え

 

 ていなかったりする。

 

「だが、愛紗よ。朱里の言う事にも理はあるのではないか?私も今更向こうに寝返れなどと

 

 言うつもりは無いがな」

 

「…無論、そんな事は言われんでも分かっている。だが、此処で我ら家臣が異を唱えていて

 

 はそれこそ軍が瓦解してしまうだけではないのか?それでは桃香様が理想の為に此処まで

 

 走って来られた事が全て無意味になってしまう。私は家臣として、義妹としてそれだけは

 

 避けたいだけだ」

 

 

 

 関羽は趙雲にそう言っていたが…それはまるで自分に言い聞かせるかのような言葉である

 

 のは趙雲にも分かっていたので、さすがの彼女もそれ以上は何も言えなかったのであった。

 

「それはそうと愛紗、天和は見なかったか?」

 

「天和?いや、私は知らないが…桃香様の所にいるのではないのか?」

 

「私はその桃香様に、天和の姿が見えないので捜してくれと言われて此処に来たのだが」

 

「む、それは捨ておけぬ話だな。私も捜そう」

 

 ・・・・・・・

 

 その頃、劉備の陣より少し後方にて。

 

「どうしよう…桃香ちゃんの陣って絶対此処じゃないよね。旗印に『曹』って書いてあるし」

 

 そう言いながら曹操の陣の近くを歩いていたのは張角であった。

 

 彼女は陣の中の空気が少し重たくなっていた事に耐え切れず、気晴らしに散歩をしていた

 

 のだが…何処をどう間違えばそうなるのか、気が付けば曹操の陣に迷い込んでしまってい

 

 たのであった。

 

「おい、そこのお前!こんな所で何をしている!」

 

「えっ、ええっと…ごめんなさい、ちょっとみt『曹操様はこっちだ、早く来い!』…えっ、

 

 あの、一体何のはn『つべこべ言わず黙ってついて来い!!』…あ~れ~~」

 

 そして何やら勘違いをしたらしき夏侯惇に中へと引っ張り込まれたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「華琳様、例の者を連れて参りました!」

 

「ありがとう、春蘭。早かったわね…って、誰?その娘?」

 

「えっ…この者が華琳様が連れて来いと言った者ではないのですか?」

 

「ええ、全然違うわね」

 

「こ、これは失礼しました…こら、何をぼうっとしている!さっさと出て行かぬか!」

 

 

 

「えっ、えっ、何、何なの?話も聞かずに引っ張り込まれたり、出て行けって言われたり…」

 

 さすがに張角も憮然とした表情を浮かべたまま出て行こうとしたのだが…。

 

「…待ちなさい。あなた、名は?」

 

「……………」

 

「貴様、華琳様の問いに答えんか!」

 

 曹操に名を聞かれ、返答に窮していると夏侯惇が苛立ちの声をあげる。

 

「春蘭、脅かさないの。ねぇ、私は名前を聞いただけなのに何故答えられないのかしら?別

 

 に真名を聞いたわけじゃないのよ?それとも…名前を言えない理由でもあるとか?例えば

 

 …張角とか?」

 

「!?」

 

 曹操に自分の名前を当てられるとは予想していなかった張角は驚きを顔に出してしまう。

 

「へぇ…どうやら本当だったみたいね。ふふ…まさか捜していた張角が自分から私の所に迷

 

 い込んでくるとはね。まさに僥倖とはこの事ね」

 

 そう言いながら張角を見つめる曹操の眼に怪しい色が混ざる。

 

「わ、私が張角だったら何だと…処刑するとでも言うのですか?」

 

 そしてその少々不気味さが混じる迫力に張角は少し後じさりしつつそう問いかける。

 

「まさか…そんなもったいない真似なんか誰がするものですか。ふふふ…」

 

 そしてそう答える曹操の眼は張角の身体を嘗め回すかのように見つめる。

 

「ちょっ…あの、何を…っていうか、私に何かあったら桃香ちゃんが…」

 

「あら?あなた劉備の所にいたわけ…なるほど、たかだか平原の相が何故二万を超える軍勢

 

 を率いて来れたのかとずっと不思議だったけど…そう、そういう事だったわけね。さすが

 

 は黄巾の首領、妹達がいなくとも単独でそれ位は可能だったというわけね」

 

 

 

 そう言う曹操の眼はさらに怪しさを増す。

 

「か、華琳様?一体どうされたのです?」

 

 そのあまりにもの怪しさにさすがの夏侯惇もたじろぐ。

 

「ふふふ…このままじゃジリ貧かと思っていた状況がほんの少しだけマシになりそうな芽が

 

 出て来たわ。張角、悪いけどこのまま劉備の所に帰すわけにはいかないわ」

 

「えっ!?」

 

「安心して良いわよ、その代わりに妹と会わせてあげるから」

 

 いきなりの曹操の『帰さない発言』に顔色を変えた張角であったが、それに続いて『妹に

 

 会わせる』という言葉を聞き、さらに驚きを見せる。

 

「…本当に妹達に会えるんですか?」

 

「正確に言うと、私が行方を知っているのは張梁の方だけだけどね。でも、必ず会わせてあ

 

 げる。曹孟徳の名にかけてね」

 

「人和ちゃんが…そうなんだ、無事だったんだ」

 

「さて、そういうわけで…張角、しばらくあなたには此処にいてもらうわよ。無論、劉備に

 

 も内緒でね」

 

「…何故、内緒なのですか?」

 

「言えば妹とは再会出来なくなる。今は詳しい事は言えないけど」

 

 さすがに劉備に何も言わずに此処にいるという話には張角も迷いを見せたものの、妹に会

 

 えなくなるという言葉を聞き、最後には曹操に従う意を見せる。

 

「大人しく従ってくれて何よりだわ…今日は良い日だわ、こんなに良いものに出会えたのだ

 

 から」

 

 曹操はそう言うと張角の手を取り、自分の所に引き寄せる。

 

 

 

「えっ!?あの、孟徳様!?」

 

「ふふ、怖がらなくても良いのよ…優しくしてあげるから」

 

「えっ、優しくって…ふあっ、一体何を…」

 

「さあ、行きましょう…春蘭、しばらく誰も通してはダメよ。私は休憩を取っている、そし

 

 て、他には誰もいない…良いわね?もし、邪魔が入ったらし春蘭はしばらく呼ばないから」

 

「…なっ!?わ、分かりました!!例え誰が入って来ようとも絶対に通しません!!」

 

 曹操はそう言うと張角の身体をまさぐり始め、夏侯惇に一言そう言うとそのまま奥へ消え

 

 る。そして、張角はいきなりの展開に混乱したまま連れて行かれたのであった。

 

 そして、その半刻程後…。

 

「だから、何度も言っている通り此処には誰もおらぬ!曹操様は今は奥でお休み中だ!!」

 

「しかし、確かにこっちの方で見たという者が…」

 

「だからその天何とかとかいう者は此処には来ていない!他を当たれ!!」

 

 張角を捜しに来た関羽と夏侯惇の間でそんな押し問答があったとの事であった。

 

 ・・・・・・・

 

 数刻後。

 

「ふふ、素晴らしかったわ…天和。さて、誰かある!」

 

「お呼びですか、華琳様?」

 

 曹操の声に反応して荀彧が現れる。

 

「あら、桂花。丁度良かった、是非あなたに任せたい仕事があるのだけど良いかしら?」

 

「は、はい!!華琳様の御命令とあればどのような事でも!!」

 

「そう、今言ったわね…私の命令ならば何でもすると?間違いないわね?」

 

「はい、一体どうされたのです?急にそのような念押しなど?そのような事を言われず

 

 とも、この荀文若が華琳様の命に逆らうなど例え天地が裂けようともあり得ぬ事です」

 

「そう、それじゃ…」

 

 

 

「え、えええええええっ!?何故、私があいつに連絡なんか取らなければならないので

 

 すか!?そもそもあいつと直接連絡を取る手段なんて…」

 

「あら、今言ったわよね『私の命に逆らうなど天地が裂けてもあり得ない』って。それ

 

 に連絡を取る手段だって、直接無くても一族の中には宮中で働いている者もいるので

 

 しょう?ちょっと遠まわしだけど、そこからだったら行けるわよね?」

 

 曹操の命令に荀彧は難色を示すものの、自分が命令に逆らわないと明言してしまった

 

 以上、抗う事など出来ようも無かったりする。

 

「………………分かりました。それで、連絡を取って一体どのような事を?」

 

「それはね…」

 

 ・・・・・・・

 

 その四日後、虎牢関にて。

 

「おい、北郷!大変だ…って、あれ?北郷は此処じゃないのか?」

 

 公達が息を切らして入って来たのだが、そこにいたのは霞だけであった。

 

「何や、公達かいな。一刀やったら、今ちょっと寝込んでてな。洛陽に帰そう思うてん

 

 やけど、それは出来ないって本人が頑として拒んどって、ちょっと困っとったとこな

 

 んよ」

 

「寝込んでる?そりゃまたどうして?」

 

「お前さんも聞いとるとは思うけど、孫堅がこっちが放った焙烙玉で死んだやろ。何や

 

 それから一刀の顔色が悪うてな。一昨日になってとうとう倒れてしもうたんや。だか

 

 ら今は寝室におるで。多分起きてるとは思うけどな」

 

「なるほど…なら、そっちにいってみる」  

 

 

 

「ほぅ…こりゃ、なかなかひどいな。さすがに此処までとは予想以上だ」

 

「うるさいな…俺だって色々とあるんだよ」

 

 寝室に入った公達が一刀の顔を見るなり、そのあまりにもの顔色の悪さに驚いていた。

 

「色々ねぇ…なぁ、北郷。確かお前さんの元いた世界じゃ戦は無かったとか言っていた

 

 よな?」

 

「…ああ、少なくとも俺の住んでいた国ではな」

 

「そりゃ、そんなに平和な所から来たのなら人の死に耐性なんざありゃしねぇだろうけ

 

 どさ」

 

「…何が言いたい?」

 

「もう俺もお前も戦とは無縁に生きるなんて不可能なんだし、いちいち人が死んだ事に

 

 反応してたら、遠からずお前さんがおかしくなっちまうだけだぞ。第一、お前さんは

 

 もう大量殺人者なんだからな」

 

 公達のその言葉に一刀は怪訝な表情を浮かべる。

 

「おや、それは分かってねぇって顔だな…良いか?お前さんの仕掛けた罠で汜水関を破

 

 壊してるんだ。一体その時何人いたんだろうな、あの中に」

 

「!?…それは」

 

「そりゃ、俺だって血なんざ見ずに済むならそうしたいし、今だってこのまま逃げ出せ

 

 るならそうしたいさ。だけど、それはあまりにも無責任な行為だろう?お前さんだっ

 

 て少なくともそれは分かっているから此処に留まってはいるんだろうけどな」

 

「…だから何が言いたい?」

 

「割り切れ、少なくとも戦の間はな。此処はそういう世界だ。お前さんに恨みを向ける

 

 奴がいたからってそれが何だっつう話だ。戦で殺し殺される度にいちいち恨みなんざ

 

 抱いたり受け入れたりなんかしてたら、今頃もうこの世から人なんざいなくなってら

 

 あな」

 

 

 

「…だから、はいそうですかって出来るんだったらとっくにそうしt…『ボゴッ!』…

 

 がっ、公達、何をする!!」

 

「はっ、何時までも腐った事言ってるお前に腹が立っただけだ。ほれ、どうした?俺の

 

 ような文官風情に殴られてそのままか、お前は」

 

「なっ…何w『バキッ!』…痛っ、てめぇ!!」

 

「はっ、何だお前、何発も殴られてそのままか!どうやら根っこまで腐っちまったよう

 

 d…『ボガッ!』…何だ、ちょっとはやれたようだがまだまだだなぁ!殴るってなぁ

 

 こん位腰を入れてやるんだよ!!てめぇは手先は器用でもそういうのは全くなってね

 

 ぇんだよ!!」

 

 そこから公達が再び殴り返すのを皮切りに二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。

 

「ちょっ、二人とも何をしとんのや!!今は戦の最中やで!!」

 

「うるせぇ、文遠!これは俺と北郷の喧嘩だ、邪魔すn『ドゴッ!!』…ごふっ、はっ、

 

 不意打ちったぁ随分正々堂々な真似してくれてんじゃなねぇかよ!」

 

「そもそも不意打ちはそっちからやって来た事だろうが!!」

 

 物音を聞いて駆けつけて来た霞が止めるのも聞かず、二人は殴り合いを続ける。

 

「はぁ、二人とももっと頭のええ奴かと思っとったけど…結局、男ってのはこうなるも

 

 んなんやな…ほれ、皆、見せもんやないで、散った散った」

 

 二人の殴り合いを見ていた霞はそう言って呆れたような笑みを見せると、周りの野次

 

 馬を持ち場に戻らせていたのであった。

 

 

 

 それから一刻後。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ…ははっ、殴り合いなんざしたのは何年ぶりかな?まさかこの歳

 

 になってガキみてぇな殴り合いをするなんざ思ってなかったわ」

 

「それは俺も同じだ。そもそも喧嘩自体もう何年もやってなかったしな」

 

「はっ、随分とすっきりした顔色になってんじゃねぇか。ちったぁ立ち直ったか?」

 

「立ち直ったって言われたらまだまだだって言うしかないけど…まぁ、ゴチャゴチャ考

 

 えてても仕方が無いっていうのは分かったよ」

 

「そうか、だったら喧嘩を吹っかけた甲斐もあったってもんだ」

 

「すまないな、わざわざ…痛たっ、お前、ちょっと強く殴り過ぎだろう」

 

「はっ、それはこっちの台詞だ。見ろ、この俺様の端正な顔立ちがボコボコになってる

 

 じゃねぇか。どうしてくれるんだ、この落とし前」

 

「別にそんなに変わってねぇだろ」

 

「何を~、北郷だって似たようなもんのくせに…くくくっ、はははっ!」

 

「はははははっ!!」

 

 二人とも顔を腫らして床に大の字に寝ころんだまま、しばらく笑い続けていた。

 

「何あれ…男ってああいうものなの?」

 

「まぁ、ええやろ。どうやら一刀も立ち直ったみたいやし。一刀の言う所の『結果おー

 

 らい』とかいうやつやな」

 

「…何それ?」

 

 そしてそれを物陰から見守っていた詠と霞はそんな事を言いながらも、一刀が立ち直

 

 った事に安堵の表情を浮かべていたのであった。

 

 

 

「そういや、公達…お前此処に何か用があって来たんじゃないのか?まさか俺を殴りに

 

 来たとかじゃないよな?」

 

「ああ、そうだった。つい殴り合いに夢中になって忘れる所だった」

 

 それから小半刻程後、一刀にそう聞かれ、公達は思い出したかのように身体を起こす。

 

「北郷、人和の姉の居所が分かったぞ」

 

「えっ!?張角が見つかったのか?」

 

「ああ、聞いて驚くな、曹操の所だ」

 

「曹操の…まさか」

 

「ああ、まさかのな…でも、此処からは俺の推測だが、張角が曹操の所に来たのは最近

 

 の事だろう。元から自分の所にいるのだったら、もうちょっと何かしら利用してるだ

 

 ろうしな」

 

「それじゃ、張角の身柄を利用して何か言って来たのか?」

 

「ああ、昨日の夕刻位に俺の所に向こうから使者が来て『張角の身柄をこちらで預かっ

 

 ている。そちらに妹がいるはずなので是非とも再会させたいが、それに伴って我が軍

 

 も相国閣下の下に馳せ参じたい。遅まきながら、漢の為に本当に尽くしているのは相

 

 国閣下であると判断しての事である』とか言ってな。とりあえずその使者は月様の方

 

 へ回しておいたがな」

 

 ・・・・・・・

 

 そしてその頃、洛陽にて。

 

「月、どうするんだい?確かに曹操がこっちに付いてくれるっていうのなら心強いけど

 

 ね…何とも裏があるような気がして仕方が無いけどな」

 

「葵様が懸念するまでもなく、華琳さんに何かしらの裏があるのは間違いないでしょう。

 

 あの人が姉妹を再会させたいだの漢の為に本当に働けるのはこちらだのとかいう理由

 

 でいきなり掌を返すわけがありませんから」

 

 

 

「しかし、少なくとも曹操が迷いを見せたのは我らにとって悪い事ではあるまい。孫家

 

 も炎蓮が死んで跡継ぎがあんな体たらくではしばらくうまくはいかないだろうしな。

 

 しかし、炎蓮の娘もバカな真似を…炎蓮が兵を犠牲にしてまですぐに仇を取れなんて

 

 望むものか」

 

 馬騰はそう言うとため息を洩らす。

 

「葵様は孫堅さんとは古くからの仲でしたよね?母からそう聞いています。母も含めて

 

 同じ部隊にいたとか」

 

「ああ、私と炎蓮と十六夜(月の母の真名)は丁度今の月と同じ位の頃に知り合ってな、

 

 同じ部隊に入って散々暴れまわったものだ。やり過ぎて三人まとめて牢にぶち込まれ

 

 たりな…はぁ、今や生き残ったのは私だけか。十六夜の奴はまだ病気だったから送る

 

 覚悟も出来たけど、まさかあの炎蓮がこんなにあっさり死ぬとはな。人生ってな分か

 

 らんものだ。どうせ死ぬなら出来れば私の手で葬ってやりたかった所だがな」

 

「孫堅さんがむざむざ葵様に討ち取られる事を望むようには思えませんけど?」

 

「ああ、それもそうだな、あいつと戦場で敵同士で相見えれたら間違いなく舌なめずり

 

 しながら襲い掛かって来ただろうしな…さて、それはともかく、曹操の事はどうする

 

 んだ?迂闊に中に入り込んで来られてこちらに不利益になるのであれば、それは避け

 

 るべきだろうがな」

 

「確かに…しかし、私はこの話に乗ろうと思っています」

 

「ほほぅ、それはまた大胆な決断だな」

 

 月の決断を聞いた馬騰はそう言いながらも月の横顔を面白そうな顔で眺めていたので

 

 あった。

 

 

                                     続く。

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 とりあえず今回は色々と揺れ動く連合側と初めて実感

 

 した人の死に震える一刀の話をお送りしました。

 

 とりあえず一刀は完全にではありませんが、一応は立

 

 ち直ったという形になります。

 

 そして、劉備陣営でごたごたが起きてその余波(?)

 

 で天和が曹操陣営に取り込まれてしまいました。

 

 しかも曹操は彼女を利用して董卓側に近付こうとして

 

 います。さて、これからどうなる事やら。

 

 とりあえず次回はこの続きから、曹操の誘いに乗る事

 

 にした月がどう動くかお楽しみに。

 

 

 それでは次回、第十五話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 胡車児は一刀の依頼で人和の護衛で虎牢関を離

 

    れていますので。

 

 

 


 
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