No.883056

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第十三話


 お待たせしました!

 今回は一刀による汜水関の破壊工作により、

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2016-12-11 21:44:01 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:4595   閲覧ユーザー数:3492

 

 汜水関の破壊から三日、連合は未だ汜水関の残骸の除去と生存者の救出及び犠牲者の埋葬に

 

 忙殺されて軍を進める事が出来ずにいた。特に汜水関の中にほとんどの兵がいた袁紹・袁術

 

 の両軍の犠牲は大きく、死者は全体の8割に及び、生き残った者もほとんどが何らかの手傷

 

 を負っていた為、軍としての立て直しが遅々として進んでいないのが現状だったのである。

 

 そんな中でも袁紹本人だけが『すぐにでも虎牢関に軍を進めて董卓の首を取る』と喚き散ら

 

 しており、さすがの顔良・文醜も辟易していたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 ~孫堅の陣にて~

 

「今戻った」

 

「お帰りなさいませ、炎蓮様。軍議の方は如何でしたか?」

 

「おそらくは冥琳も予想済だとは思うが、結局また袁紹が一人ですぐに軍を進めろとの一点張

 

 りでな…今の所は彼奴めの側近や曹操が何とか押し留めてはいるが、あれは時間の問題だろ

 

 うな…ふぅ」

 

 周瑜の問いに孫堅はそうため息混じりに答える。

 

「しかし、このまま何もせずにいるのも我々にとって得にはならないのも事実です。持久戦と

 

 いう事になれば董卓側の方に利がありますので」

 

「ああ、皆もそれは分かっている…分かってはいるが、どの軍も兵の士気が著しく落ちてしま

 

 っていてな。皆恐れているのさ『またこの先にも何か罠があるんじゃないか』とな」

 

「確かにそう皆に思わせる程の衝撃でしたからね、これは」

 

 周瑜はそう言ってようやく三割程が片づけられた汜水関の残骸を見上げる。

 

「それだけじゃない、あれも皆に重圧を与えているんだ」

 

 孫堅はそう言って前方にある壁を指差す。

 

 

 

「確かにあれもそうですね…あの隙間の向こうの様子を見に行った者は誰一人帰ってきていま

 

 せんからね」

 

「ああ、前方にあの壁、後方に汜水関の残骸、どちらも打開するにはあまりにも大き過ぎる」

 

「炎蓮様…この戦、我々は間違ったのd『それは言うな、冥琳。連合に参加する事を決めた以

 

 上、もはや引き返す道など無いんだよ』…そうですね。我々は何としてもこれを打開する方

 

 法を考えなければならないのですね」

 

 周瑜は孫堅にたしなめられ、そう思い直しながらも心の片隅に居座る疑念が決して消える事

 

 が無いであろう事を感じていたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 ~曹操の陣にて~

 

「華琳様、戦はこれからどうなるのですか?」

 

「どうなるも何も、とりあえずは袁紹・袁術軍の立て直しが完了したら再び進軍開始、それだ

 

 けよ…ふぅ」

 

 戻って来た曹操は荀彧の問いにそう答えて一つため息をつく。実際、そのため息が戦をこれ

 

 からどう進めるつもりなのかの袁紹からの問いがそれである事を聞いた彼女の心情を表して

 

 いるかのようでもあった。

 

「それはともかく…どう、あの壁は?」

 

「孫堅軍や劉備軍や公孫賛軍の面々と色々試しましたが、一体何で出来ているのか、通常の道

 

 具ではまったくと言って良い程壊れません。しかも手をかける場所も無い上にあの急角度で

 

 は登って越えるというわけにもいきません」

 

 荀彧からのその回答に曹操は眉間の皺を深くする。実際の話、此処から虎牢関へ進軍する為

 

 には眼の前にある壁を越えていかなければならないのは皆も認識しており、軍議の間に各軍

 

 の将が総出で壊す方法や越える方法を考えていたのだが、此処までまったく成果は現れてい

 

 なかったのである。

 

 

 

「季衣でもダメだったの?」

 

「はい、本当に何で出来ているのか、季衣曰く『岩より硬い』との事で…何回かやってようや

 

 く表面に多少といった所です。やり続けていれば或いはという所ですが、それでは突破する

 

 までにどれだけ時間がかかるのか見当もつきません」

 

「そこまでだなんて…一体何で造ったというのよ、あの壁」

 

 ・・・・・・・

 

 ~虎牢関にて~

 

「一刀、どうやらあいつら、まだあの壁に悪戦苦闘しとるみたいやで」

 

「そうか、あの隙間からこっちに入り込んでくる奴らは?」

 

「今の所、全て排除済ですぞ!まさか、あいつらもあの壁のこっち側にあんな物があるなどと

 

 夢にも思っていないようですぞ。面白いように下に落ちては連弩で狙い撃ちですぞ!」

 

「まあ、普通は壁のすぐ内側に堀があるなんて考えへんわな…でも、どうやったらあんな事が

 

 可能になるん?地盤が崩れへんのって、やっぱあの三和土とかいうのの効果なん?」

 

「ああ、霞の言う通り、壁もこっち側の堀の所も全て三和土で固めてあるから崩れないんだよ。

 

 まあ、あの壁の上に二千人位上ったら分からないけどね」

 

 一応、強度の計算をした上でやったのだけど、今の所はうまくいっているようで何よりだな。

 

 いずれは全ての城壁を固めてしまいたい所だ。

 

「でも、このままでええんか?戦が長引くんはこっちに有利なのも確かやけど、こんな状況や

 

 ったらいっそ向こうに攻撃を仕掛けた方が一気に終わるんちゃうの?袁紹の兵は大分減った

 

 んやし」

 

「そううまくいけば万々歳だけど、打って出るにはまだ早いと思う。袁紹・袁術軍はともかく、

 

 他の諸侯の軍勢は基本無傷なわけだし、おそらく警戒は強めているだろうしね」

 

 

 

「そうね、こっちから攻撃を仕掛けるのは向こうがもっと疲弊してからよ。それまでは虎牢関

 

 を中心に迎撃戦を展開する、それに変わり無しよ」

 

「そう、詠がそう言うんやったらウチはそれに従うだけや」

 

 そこにやって来た詠がそう言うと、霞はおとなしくそれに従う。とりあえず此処にいるのが

 

 霞と恋で良かった。華雄だったらとっくの昔に勝手に飛び出していきかねなかっただろうし。

 

「でも、疲弊させるってどないするんや?このまま待ってたら勝手に疲弊するんかいな?」

 

「それでも疲弊はしてくれるだろうけど、少し位は早めてみようと思っているわ。折角こっち

 

 には馬騰軍って味方もいるんだし」

 

 馬騰軍を使う…なるほどね。まあ、俺としてはあくまでも此処の備えを万全な状態に保って

 

 何時敵が来ても大丈夫なようにしておくだけだな。

 

 ・・・・・・・

 

 それから数日後、連合の陣の中ではとある噂がまことしやかに囁かれていた。

 

「おい、聞いたか?」

 

「ああ、董卓が味方に付いた馬騰軍に各諸侯の城を攻めさせるってやつだろ?」

 

「お前らも聞いてるのか…それじゃ本当なのか?」

 

「実際、馬騰軍は音に聞こえた騎馬軍団、一気に長い距離を誰よりも早く進む事が出来るはず

 

 …やろうと思えばすぐにでも出来るって寸法だ」

 

「そんな…それじゃ、こんな所に何時までもいたんじゃ、俺達帰る家を失っちまうんじゃねぇ

 

 のか?」

 

「こうしちゃいられねぇ、すぐに帰り支度をしとかねぇと」

 

 こうして兵達の中では馬騰軍が連合に与した諸侯の城を攻め落とすという噂がもはや噂の域

 

 を越える程に広まり、ただでさえ弛緩しかかっていた空気に疑心が加わりさらに悪化の一途

 

 を辿り始めていたのであった。

 

 当然、それは袁紹の耳にも届いており、事態の打開を図る為に諸侯を招集させたのだが…。

 

 

 

「何故ですの!?他の方々は何故来ないのです!?」

 

 集まって来たのは袁術・曹操・孫堅・劉備・公孫賛だけであり、他の諸侯は『長の滞陣で体

 

 調を崩した』などと言って来なかったのである。

 

「皆、例の噂のせいで気が気でないのだろう。我が軍は何とか落ち着いているが」

 

「そうだな…私の所も何とか保ってはいるけど、同じ騎兵主体の軍だし、馬騰軍の機動性の高

 

 さは分かるから皆ピリピリしている。今のままじゃ良くはないな」

 

「まだあなた方の所は洛陽から距離もあるからマシなだけよ…こっちは洛陽から近い分、兵達

 

 の心の負担も大きくなる一方よ」

 

「負担どころではない!妾の所なんか兵のほとんどがやられたから真っ先に攻められると皆が

 

 噂しているのじゃぞ!麗羽姉様の所とてそうじゃろう?」

 

「それもあるから今すぐにでも虎牢関へ攻めかかる準備をと…『あれをどうやって突破するん

 

 だ?』…それはその…」

 

 袁紹は何とか進軍の方向で話を進めようとするも、孫堅の指差す方に見える壁を見るとさす

 

 がの彼女も返答に窮する。

 

「そこは袁家の御威光とやらで何とかしなさいよ」

 

「華琳さん、随分と嫌味な事を仰いますのね」

 

「別に嫌味で言ったわけじゃないわよ。袁家なら火薬とか調達出来るでしょ?それであの壁に

 

 穴を開ければどうにかなるんじゃなくて?」

 

 曹操のその言葉に袁紹と袁術は少し考え込む。そして…。

 

「仕方ありませんわね…斗詩さん」

 

「はい、すぐに南皮に早馬を…『少々お待ちを』…七乃さん?」

 

 袁紹が顔良に火薬の調達を命じた所で張勲が声をかける。

 

「火薬の調達は我々の方で。南皮より南陽の方が近いですから早く準備出来ます」

 

 

 

「あらあら、随分と気前のよろしい事ですわね」

 

「この戦い、我らにも多くの被害が出ました。もはや出し惜しみなどと言っている場合ではあ

 

 りません。向こうが度肝を抜く位の事をやってみせなければ。でなければ、日和見の連中が

 

 今度は寝返りしかねません。馬騰軍が攻め込んで来るというのであれば、こちらはそれより

 

 先に虎牢関を落とし、洛陽を落とすのみです!」

 

 珍しく真面目な表情でそう語る張勲に皆が眼を瞠る。

 

「七乃さん…そうですわね。此処までやられた以上、全力で倍返しですわね。皆さん、此処は

 

 董卓軍や馬騰軍だけでなく、今更日和見を決め込む他の諸侯達にも我らの力を存分に見せつ

 

 けてやりましょう!」

 

『おおっ!』

 

 珍しくやる気を漲らせた袁紹の言葉にその場に集まった者は一斉に応えていた。

 

 ・・・・・・・

 

 二日後。

 

「北郷様、壁が!!」

 

「さっきの音はやっぱりそうか!」

 

 数分程前に敵を阻んでいた壁の方から大きな爆発音が聞こえてきたのでもしやとは思ってい

 

 たのだが、駈け込んで来た兵の指差す方を遠眼鏡で見てそれは確信に変わる。

 

 それは遠眼鏡で見ても小さく見える程の距離だが、それまで此処と汜水関の間を区切るかの

 

 如くにそびえ立っていた壁に大きな穴が開いているのが見える。

 

「あの壊れ方は火薬だな」

 

「一刀と違って向こうが手に入る火薬はえらい値段がするはずやのに…あいつら、なりふり構

 

 わず突破しにかかりよったな。おそらく袁家の財力で調達したんやろ」

 

 

 

 向こうも火薬を使うとなると、決して三和土で固めた防備も万全とは言えなくなったという

 

 事か…?

 

「多分、向こうはそんなに火薬は無い」

 

 俺の懸念を払拭するかのように恋がそう口を開く。

 

「どういう意味?」

 

「火薬が一杯あったらあの壁もっと壊してる。でも、あの穴を開けたら後は普通に兵が出てき

 

 ているだけ…もしかしたら多少は持っているかもしれないけど、後は此処の破壊用に取って

 

 置くと思う」

 

 珍しく恋が長く話したので皆驚いていたが…確かにそう言われればそうだな。少なくとも俺

 

 なら壁の残骸で堀を埋められる位は破壊する。それは無いという事は如何に袁家といえども

 

 火薬を大量に投入するには限界があったという所か。

 

「ねね、壁近くにいる兵達に向けて退却の狼煙を。霞、恋、悪いけど兵達が無事に此処に入れ

 

 るまでの護衛を頼めるかな?」

 

「分かったのです!」

 

「うん」

 

「任せとき!」

 

 ・・・・・・・

 

「ようやく壁を突破したかと思いきやすぐに大きな堀があって、壁や汜水関の残骸を使って最

 

 低限に軍を通せるだけの道を造って…ようやく虎牢関まで来たと思ったら、またあんな壁が

 

 あるわけ?」

 

 四日後、遂に虎牢関の近くへと兵を進めた連合軍であったが、その前に再び現れた壁(馬出

 

 の事である)に憔悴しきった眼を向ける。曹操の一言はまさに連合軍全ての者に共通する意

 

 見でもあった。

 

 

 

「ちっ、次から次へと…しかもこの壁のせいで虎牢関へ正面から攻撃を仕掛ける事が出来ない。

 

 これはちょっとやそっとじゃ突破出来ないぞ」

 

 そう忌々し気に言うのは孫堅であった。

 

「炎蓮様、袁紹から…『どうせ、雄々しく攻め落とせとか言って来たんだろう?』…まさにそ

 

 の通りで」

 

「冥琳、此処は任せる。俺は少し本陣へ行ってくる」

 

 ・・・・・・・

 

 一刻後。

 

「何をするのです!私は総大将…『だったら、総大将らしく戦場の様子をちゃんと確認しろ!』

 

 …何ですの、まったく…」

 

 孫堅が袁紹を無理やりまさに首に縄を付けたかの如くに引っ張って来る。

 

「あれを見て、どうやったら雄々しく攻め落とせるのか、はっきりとこの場で答えろ!返答次

 

 第ではこっちにも考えがある!」

 

「それは、どういう事ですの!?まさか連合を抜けるとでも!?」

 

「ああ、そうかもな。お前の所は袁術と合わせても動ける兵は精々三千、俺らがどう動いた所

 

 で何も出来まい?我らとて無能な大将の下で戦って死ねなどと兵達に言えないからな。嫌な

 

 らさっさとあれを何とかする方法を考えろ、今すぐ!!」

 

 孫堅はそう言って虎牢関の前にある壁を指差す。さすがの袁紹もそれがある為に正面突破が

 

 難しいのは見て理解する。

 

「くっ…確かにあれは難儀ですわね。もう一回火薬を…『麗羽様、さすがにもう無理ですよ~』

 

 …どういう事ですの、七乃さん?」

 

 袁紹が火薬の使用を言い出すも、それは袁紹を追いかけてやってきた張勲に否定される。

 

(ちなみに袁術・文醜・顔良も一緒に来ている)

 

 

 

「先程の壁を破壊するのに調達した火薬は全て使用してしまいました。あれを調達するのにか

 

 かった金額は兵士を雇うならばおよそ五千人位に匹敵する程の物です。今の私達の台所事情

 

 ではさすがにそこまでの金額を再びとは…ねぇ、斗詩さん?」

 

「はい、こちらも汜水関で出した損害・負傷者の後送・新たな兵の補充を考えるとさすがに火

 

 薬に使うお金までは無いのが現状です。正確に言えば、七乃さんが調達してくれた火薬はま

 

 だほんの少しだけ残っていますが、あの壁を破壊出来るとはとても…」

 

 張勲と顔良にそう言われ、さすがの袁紹も言葉に詰まる。そこに…。

 

「皆、何を言っておるのじゃ?あの壁の横の方に隙間があるじゃろうが、そこからなら虎牢関

 

 の方へ攻めかけられるであろうが」

 

 明らかに何一つ状況を理解していないであろう袁術が、アホな…もとい、おかしな発言をし

 

 てくる。その発言にはさすがの袁紹も開いた口が塞がらない。

 

「あの~、美羽様?今の発言は皆さん参考にさせていただくそうなので、此処は一旦陣に帰り

 

 ましょう」

 

「ふぇ?何でじゃ、絶対あの隙間は向こうが塞ぐのを忘れたかr…『私達はこれで一旦失礼し

 

 ま~す』…おい、七乃、妾の話を…」

 

 さすがにその発言はまずいと思った張勲が袁術を強引に連れ帰るのを冷ややかな眼で見てい

 

 た孫堅は改めて袁紹に問いただす。

 

「さて、今の与太話は置いといてだな…あれをどう攻略するんだ?バカな俺達ではどうにも分

 

 からないから、是非とも高貴なる袁家の御方の御高説を拝聴させていただきたい」

 

 さすがに眼の前の状況を認識した以上、袁紹もただ攻めただけでは落とせないのは分かるの

 

 で、どうすれば良いか顔良や文醜の方を見るが、二人ともただ首を横に振るのみであった。

 

 

 

「どうした?何時までも黙ってたままでは何も進展しないぞ?早く答え…うん、何だこの音?」

 

 黙ったままの袁紹に痺れを切らした孫堅が再度詰め寄ったその時、彼女の耳に何かが飛んで

 

 来る音が聞こえる。当然、それは周りの者にも聞こえており…。

 

「炎蓮様、あれを!」

 

「うん、何だあr『全員避けて!!』…雪蓮、どうし『良いから!』…だから一体何があると

 

 …なっ!?」

 

 飛んで来る物体を孫堅が訝し気に眺めようとした瞬間、孫策が全員に避けるように声をあげ

 

 る。それにすぐ従えば大丈夫だったかもしれないのだが、孫堅は不覚にもその真意を訪ねよ

 

 うとしてしまった為に既にそれはすぐ眼の前まで来ていた。そしてその瞬間…。

 

 ドドォーーーーーーーーン!!

 

 その物体…焙烙玉が炸裂して辺り一帯に爆風が吹き荒れる。

 

「母様!!」

 

「雪蓮、待て!今行ったらお前まで無事じゃ済まないぞ!!」

 

 巻き込まれた孫堅の安否を確かめようと近付こうとする孫策を周瑜が必死で止める。

 

 そして数十秒後、煙がはれてきたのを確認した孫策達が駆け寄る。そこで見た物は…。

 

「母様…嘘でしょ?」

 

「そんな…炎蓮様が…」

 

「堅殿!!」

 

 爆風に吹き飛ばされた十数人の兵の死体と、まるで袁紹を庇うかのように覆いかぶさった状

 

 態のままピクリとも動かない孫堅の姿であった。しかも、その凄まじい爆発を受けたらしい

 

 その背中は完全に焼けただれ、肉も完全に裂けていた。

 

「な、何でしたの…今のは。えっ…孫堅さん?孫堅さん!!」

 

 孫堅が庇った形になった袁紹は多くのかすり傷は負ってはいるものの何とか無事であったが、

 

 自分の眼の前の孫堅の変わり果てた姿に顔色を変えていた。

 

 

 

 一方その頃、虎牢関にて。

 

「焙烙玉の試射、大成功ですぞ!!ふっふ~ん、どうやら誰かがやられたようですが、我らの

 

 眼の前でウロウロしているのが悪いのです!良い的なのです!!」

 

 投石器による焙烙玉の試験発射を兼ねて、ねねに馬出から少し離れた所まで来ていた敵に向

 

 かって発射してもらったのだが…どうやらうまくいったようだ。あの辺りはギリギリ届くか

 

 どうかといった所であったが、あの分ならばもうちょっと遠くまで飛ばせそうだな。

 

 俺はそう思いながらもう少し詳しく見ようとそこに遠眼鏡を向けると…。

 

「うわっ!?」

 

「どうしたのです!?」

 

「何か今、桃色の髪の毛の女の人に凄い睨まれた」

 

「どれどれ…おそらくあれは孫策です。おっ、どうやらその横に倒れているのは孫堅のようで

 

 すぞ!確かにこっちをおっかない顔で睨みつけていますな…ふん、お前らが仕掛けた戦なん

 

 だからこっちは悪くないのですぞ!」

 

 ねねはそう言ってはしゃいでいたが…そうすると、もしこのまま孫堅が死んだとなると、俺

 

 が孫堅を殺したって事になるのか?そうだよな…焙烙玉に殺傷能力を持たせたんだからそう

 

 なるよな…。

 

「どうしたのです?顔色がおかしいですぞ?」

 

「ああ、いや…大丈夫。でも、ちょっと疲れたかな?」

 

「一刀はずっと此処で働いていたのですからそれも仕方ないですな。此処はねねに任せてくれ

 

 れば良いですから、少し休んででも良いですぞ」

 

「ああ、そうだな…少し横になる。一刻位したらまた戻るよ」

 

 俺はその場をねねに任せて仮眠の為の部屋に入って横になったのだが…頭の中には『人を殺

 

 した』という言葉がぐるぐる回ってまともに寝る事など出来なかったのであった。

 

 

 

 再び虎牢関の外にて。

 

「どうした、雪蓮?」

 

「今、虎牢関の上からこっちを見ている男がいた」

 

「上?お前、あんな所に人がいるのが見えるのか?」

 

「確かにいたわ、男が」

 

「もしかしたら、それが明命の言っていた『七志野権兵衛』とかいう奴かもしれんな」

 

「そう、あいつが…なら、あいつは私が殺す!母様の仇討ちよ!!」

 

「…雪蓮、少し落ち着け。俺はまだ死んでない」

 

 激昂した孫策にそう声がかかり、孫策達はその人物に駆け寄る。

 

「母様、ご無事なのですね!?」

 

「炎蓮様!」

 

「孫堅さん、大丈夫なのですね!?」

 

「問題無い…と言いたい所だが、正直やばいな…ごふっ」

 

 孫堅の口からは言葉だけでなく血も吐き出される。

 

「炎蓮様!衛生兵…いや、誰か後方にいる金創医を呼んで来い!」

 

「冥琳も落ち着け、此処でお前らが戸惑っていては全体の士気に関わる」

 

「しかし!」

 

「だから、雪蓮…これを」

 

 孫堅は力を振り絞るように腰に佩いた剣を鞘ごと抜いて孫策に渡す。

 

「俺はこの通り不覚を取った…もう指揮を取れん、今後はお前が孫呉の主だ。今後如何なる事

 

 になろうが、全ては孫呉の為に進め。例えそれが自分の心に反する事でもな…江東の民達を、

 

 蓮華と小蓮を頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫堅はその言葉を最期に事切れる。

 

「母様!!」

 

「炎蓮様!!」

 

「堅殿!!」

 

「孫堅さん!!」

 

 皆が呼びかけるが、当然の事ながら孫堅からの返事は無い。

 

「おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれ…七志野権兵衛!!待ってなさい、お前の首は必

 

 ずこの孫伯符が取る!この南海覇王と孫呉の名にかけて!!」

 

 孫策はそう言って南海覇王を虎牢関の方に向けていたのであった。

  

 

                                        続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は虎牢関の戦いの直前までお送りしました。

 

 そして、孫堅がここで退場です。本当はもう少し

 

 華々しく戦わせたりとか、馬騰とのやり取りとか

 

 を考えていたのですが…。

 

 そして、一刀がようやく戦で人が死ぬという実感

 

 に苛まれます。さて、これからどうなる事か?

 

 とりあえず次回から本格的に虎牢関の戦いです。

 

 

 それでは次回、第十四話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 孫堅が死んだ事による馬騰の心情などは次回

 

    にて。

 

 

 

 

 


 
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