No.872478

九番目の熾天使・外伝 ~ポケモン短編EX~

竜神丸さん

シンクロ

2016-10-02 00:53:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3637   閲覧ユーザー数:1133

メガシンカ。

 

 

 

 

それはカロス地方で初めて確認された、進化を超えた進化の事。

 

 

 

 

全てのポケモンがメガシンカ出来るという訳ではなく、現時点では46種類のポケモンがメガシンカ可能である事が確認されている(その内、一部は2種類のメガシンカを行えるようだ)。

 

 

 

 

メガシンカを行うには、謎の紋章が描かれた虹色の宝玉“キーストーン”を鍵として、そのポケモンに対応した色の宝玉“メガストーン”を反応させる必要がある。

 

 

 

 

しかしメガストーン・キーストーンは共に数がそれほど多くなく、この世界では大変希少である。メガシンカポケモンを連れたトレーナーは、それだけでこの世界では大会で有名になれる事だろう。

 

 

 

 

しかし、もしもだ。

 

 

 

 

もしもメガシンカに匹敵するほどの力を持った現象が、他にも存在していたとしたら?

 

 

 

 

これは、カロス地方のとある忍者達が暮らす村で言い伝えられていたとされる、トレーナーとポケモンの絆が試される現象の話である…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっほっよっほっ…」

 

「ゲッコッゲッコッ…」

 

ここはOTAKU旅団ナンバーズメンバーの一人―――竜神丸が所有する地下巨大アリーナ。

 

草原、森林、岩山、海岸、洞窟、雪原など、大自然の何もかもが忠実に再現されたこのエリア内には、竜神丸やその部下達によって管理されたポケモン達が豊かに過ごしていた。そして現在、そのいくつも存在するエリアの内の一つ、トレーニングルームにて、同じく旅団ナンバーズメンバーの一人―――okakaと、その隣に立っている青い人型カエルのようなポケモン―――ゲコガシラは今、これから待ち受けている試練に備えて準備運動をしている真っ最中だった。彼等の目の前には、何の障害物も転がっていない平凡なバトルフィールドが存在している。

 

≪okakaさん、ゲコガシラさん、準備はよろしいですか?≫

 

「あぁ、いつでも構わない」

 

「ゲコッ!」

 

≪それでは、トレーナーバトル10連戦……開始と行きましょう≫

 

聞こえて来るアナウンスは、竜神丸の声だ。高所にある小部屋からバトルフィールドを見下ろしている彼は、パネルを操作してアリーナ全体を照明で照らし、バトルフィールド全体を明るい状態にさせる。それと同時に準備運動を完了したのか、ゲコガシラがバトルフィールド内へと立ち、okakaもトレーナーが立つべき定位置へ立つ。

 

 

 

 

-ガラララララ…-

 

 

 

 

そしてokakaの立っている位置とは逆の方角にある門が開き、そこから黒スーツにサングラスを身に着けた坊主頭の男性が登場。彼もokakaと同じように、バトルフィールドの定位置まで来て立ち止まる。

 

「それではokaka様。最初はこの私―――ベルダがお相手を務めさせて頂きます」

 

「あぁ、頼む」

 

「ゲコガッ!!」

 

okakaの言葉に、ゲコガシラもやる気満々な様子で鳴き声を上げる。それを見た坊主頭の男性―――ベルダは懐から取り出したモンスターボールを構え、それを高く放り投げた。

 

「行け、ファイアロー!」

 

「ファーイッ!」

 

モンスターボールから飛び出したのは、赤いハヤブサ型ポケモン―――ファイアローだ。ファイアローが高く鳴きながら羽ばたく中、対峙するゲコガシラも姿勢を低くした状態でファイアローをギロリと睨みつける。

 

「さぁ、始めようか……ゲコガシラ!!」

 

「ゲコガァアッ!!」

 

そう叫ぶと共に、ゲコガシラvsファイアローのバトルが開戦。まずはベルダがファイアローに指示を下す。

 

「ファイアロー、『ブレイブバード』だ!!」

 

「ファアァァァァァァァッ!!」

 

「ゲコガシラ、待ち構えて攻撃準備!!」

 

「ゲコッガァ…!!」

 

ベルダの指示と共に、ファイアローが全身にエネルギーを纏った一撃『ブレイブバード』を発動。特性『はやてのつばさ』の効果でスピードの大きく上がった一撃が、ゲコガシラ目掛けて勢い良く飛来していく……そんな彼等の様子を、竜神丸は強化ガラス越しに見下ろす。

 

(…やれやれ。今日は長い一日になりそうですね)

 

竜神丸はめんどくさそうな表情で溜め息をつきつつ、このような状況に至った経緯を思い出す―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修行に付き合って欲しいんだ」

 

「部屋に入って早々何を言いやがりますか」

 

数時間前。いつものように研究室に籠って実験を繰り返していた竜神丸。今回は自身の手持ちポケモンの1体である紫色のヘドロ型ポケモン―――ベトベトンが持つ毒の成分について実験中のようだ。

 

そんな彼の前に、ゲコガシラを連れたokakaが突然やって来た。

 

「ポケモンを鍛えたいのなら他を当たって下さい。そういうのは支配人さんに頼むのが一番でしょうに」

 

「休みなく鍛えたいからな。今アイツに頼んだら無理やり休養を取らされる」

 

「ほぉ? そんな状態で、まだ修行を続けたいと言うんですか」

 

竜神丸は後ろに立っているであろうokakaとゲコガシラには見向きもせず、フラスコの中に入った毒々しい紫色の液体を興味深げに見続ける。彼からすれば、okaka逹の修行に付き合うなど何のメリットも無い為、それっぽい理由でも付けて適当にあしらってしまおうと頭の中で考えていた。

 

「そこまで私に頼むのであれば、誠意という物が足りないんじゃないですかねぇ? 『私に修行を付けて下さいお願いします』とか、土下座しながら頼むのであれば、私も考えてやらない事も無いのですが―――」

 

 

 

 

 

 

-ガァンッ!!-

 

 

 

 

 

 

「―――!」

 

聞こえてきた鈍い音の正体を確かめるべく、竜神丸は後ろを振り返る。振り返った先には、okakaとゲコガシラが床に頭を付けたまま土下座をしている姿があった。彼等が頭を付けている床に少々の皹が生えていた事から、先程の鈍い音は彼等が頭を床に叩きつけたのが原因だと竜神丸は把握出来た。

 

「…私に修行を付けて下さい。お願いします」

 

「ゲコガッ」

 

そして竜神丸の言葉を、okakaはそっくりそのまま告げてみせた。イーリスを始め、竜神丸と共に実験に参加していた研究員逹から動揺の声が上がる。

 

「…まさか本当にやってみせるとは思いませんでしたね」

 

「…意地でも強くならなきゃいけない理由が出来た。今のままじゃ駄目だ……俺とゲコガシラで、もっともっと高みに上がらなければならない。その為に、お前の力を借りたいんだ」

 

「私の力を、ねぇ……こんな私に、一体何を要求なさるつもりで?」

 

「桃花から話を聞いた。お前の手持ち……特にドダイトスとギャラドスが、負け無しの強さを持っていると」

 

(…余計な事を言ってくれましたね、あの人形め)

 

「その2体と戦わせて欲しい。その為なら、お前の要求も俺は呑んでみせる。相応の代価を支払うつもりだ」

 

その一言に、竜神丸の眉がピクッと反応する。

 

「…どうしても、引き下がるつもりは無いと?」

 

「全く無い」

 

断言してまで、自身に対して修行を付けるよう求めて来るokaka。自身の記憶が正しければ、okakaという人間はこんな研究欲まみれな人間に対して、安易に自分の身を売りかねないような発言はしない男だった筈。そんな彼が何の躊躇も無く、自身の前で土下座までして来た。

 

(…謎ですねぇ)

 

少しばかり、興味が湧いてきた。

 

「イーリスさん」

 

「え? は、はい、何でしょうか…?」

 

「部下を数名ほど集めて下さい。トレーナーバトル10連戦を実施します」

 

「…!!」

 

その言葉に、okakaとゲコガシラが同時に頭を上げる。それを見た竜神丸はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ドダイトスとギャラドスは、私の手持ちにおいて最高戦力と呼べる存在。そう簡単にバトル出来ると思ったら大間違いです……この2体と戦いたいのであれば、その前にいくつかの試練は乗り越えて貰いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲコガシラ、かわして『みずのはどう』!!」

 

「ゲコゥ……ガァッ!!」

 

そして、現在に至る。高速で飛んで来るファイアローの『ブレイブバード』を寸前でヒラリとかわしたゲコガシラは水分から生成された波動『みずのはどう』を構え、それをファイアロー目掛けて連続で投げつける。しかしファイアローは持ち前のスピードで『みずのはどう』を難なくかわし、再びゲコガシラに迫り来る。

 

「スピードを上げろファイアロー、『ニトロチャージ』だ!!」

 

「相手に付き合う必要は無いぞゲコガシラ、『かげぶんしん』で撹乱!!」

 

炎に全身を包んだファイアローは『ニトロチャージ』で素早く接近するも、ゲコガシラは『かげぶんしん』で瞬時に複数の分身を生成。『ニトロチャージ』は一部の分身を掻き消すのみに留まり、残ったゲコガシラの分身逹は一斉に空中へと跳躍しながら、首元を包んでいる白い泡に手をつける。

 

「動きを封じろ!!」

 

「「「「「ゲコガッ!!」」」」」

 

「!? ファ、ファイ…ッ!?」

 

「な、何…!?」

 

ゲコガシラの分身逹は首元の白い泡“ケロムース”を掴んで伸ばし、ファイアローの全身に巻きつける事で動きを完全に封じてみせる。粘着性の強いケロムースで両翼を封じられたファイアローに、薄紫色の短刀型エネルギーを手に構えたゲコガシラの本体が迫り…

 

「『つじぎり』だぁ!!」

 

「ゲッコォッ!!」

 

「ファ、ァア…ッ!?」

 

一閃。

 

『つじぎり』の一撃がファイアローに決まり、ゲコガシラの本体が着地すると共に分身逹も消滅。トドメの一撃を受けたファイアローは地面に落下し、目を回したまま動かなくなった。

 

「な、ファイアローッ!?」

 

『ファイアロー、戦闘不能。ゲコガシラの勝ち』

 

「…うし、まずは一勝!」

 

「ゲコッ!」

 

鳴り響く審判の声に、okakaとゲコガシラは同時にガッツポーズ。その一部始終を見ていた竜神丸は「ほぉ」と感心の声を上げる。

 

(まだ1体目で体力がバリバリとはいえ、あのファイアローを瞬殺とは……いや、確か彼も手持ちにファイアローがいた筈ですし、それで戦い方が一通り把握出来ていたんでしょうね。1番手はファイアローではなく、他のポケモンに変えておくべきでしたねぇ)

 

竜神丸がそんな風に評する中、ベルダはファイアローをモンスターボールに戻してすぐさま退場。それに入れ替わる形で、白衣と眼鏡を身に着けた黒髪ポニーテールの女性がokaka逹の前に姿を現した。

 

「それではokaka様。お次はこのイプシーがお相手致します……出なさい、ノクタス!」

 

「ノクッ!」

 

黒髪ポニーテールの女性―――イプシーが繰り出したのは、サボテンとカカシを模した緑色の人型ポケモン―――ノクタスだ。ノクタスはやる気に満ちた様子で両腕をブンブンを回転させ、それを見たokakaはすぐさまゲコガシラに指示を出す。

 

「先手必勝と行こうか……『みずのはどう』!!」

 

「ゲコガッ!!」

 

ゲコガシラの投げた『みずのはどう』が、ノクタス目掛けて飛来。そのままノクタスのボディに直撃―――するかと思いきや、命中した『みずのはどう』がただの水分に環り、そのままノクタスのボディへ吸収されてしまった。

 

「!? 何…!!」

 

「残念ですが、私のノクタスの特性は『ちょすい』……水タイプの技は効きませんよ」

 

「ッ…2体目も夢特性持ちか……ケロムースで拘束しろ!!」

 

「ゲコゥガ…!!」

 

「無駄です、『かみなりパンチ』!!」

 

「ノクゥゥゥゥゥッ!!」

 

「!? ゲコ、ガァ…!?」

 

okakaの指示通り、ゲコガシラは首元のケロムースを複数に分けて投げつけ、そのごく一部がノクタスの両腕に張りついた。しかしノクタスは動じず、両腕に電流を纏わせて『かみなりパンチ』を発動し、両腕に張りついていたケロムースを蒸発させる形で掻き消しながらゲコガシラに命中させる。ゲコガシラは大きく後退した後、『かみなりパンチ』の追加効果で麻痺状態になり、痺れの所為でその場に膝を突いてしまう。

 

「麻痺っちまったか……ゲコガシラ、まだやれるか?」

 

「ッ……ゲコ、ガァァァァッ!!」

 

「よし、頑張って乗り越えるぞ……『つじぎり』だ!!」

 

「『ニードルアーム』、続いて『タネばくだん』!!」

 

ゲコガシラの『つじぎり』、ノクタスの棘の生えた右腕による一撃『ニードルアーム』がぶつかり合い相殺。しかし攻撃の手を緩めるつもりは毛頭ないようで、ノクタスは緑色のエネルギー弾『タネばくだん』を真上に高く打ち上げ、それが分裂してバトルフィールド全体に降り注いでいく。

 

「めんどくせぇ……ゲコガシラ、『かげぶんしん』からの『みずのはどう』!!」

 

「「「「「ゲコォッ!!」」」」」

 

分身したゲコガシラ逹は一斉に『みずのはどう』を投げ、降り注いで来る『タネばくだん』を次々と相殺。しかも相殺した事によって複数の『みずのはどう』が一瞬で水蒸気となり、バトルフィールド内が大きな水蒸気に包まれていく。

 

「ッ…しまった、視界が封じられて……『かみなりパンチ』で迎撃して!!」

 

「ノ、ノク…!!」

 

ゲコガシラの姿が見えない中、『かみなりパンチ』で迎え撃とうとするノクタス。すると僅かに気配を感じ取ったのか、ノクタスが振り返った瞬間にゲコガシラが目の前まで接近。ノクタスは振り上げた『かみなりパンチ』を振り下ろそうとしたが…

 

「『つばめがえし』だ!!」

 

「ゲコォッ!!!」

 

「ノクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?」

 

「!? ノクタスッ!!」

 

それよりも、ゲコガシラの『つばめがえし』の方が早かった。右手に構えていた短刀で素早く切り上げ、打ち上げられたノクタスはしばらく宙に舞ってから地面に勢い良く落ちた後、目を回して瀕死になった。

 

『ノクタス、戦闘不能。ゲコガシラの勝ち』

 

「そんな、どうして? ゲコガシラは麻痺していた筈なのに…」

 

「コイツを持たせておいたおかげさ」

 

okakaが取り出した物を見て、イプシーはハッと気付いた。

 

「…なるほど、ラムの実ですね」

 

「そう。コイツは持たせておく事で、ポケモンの状態異常を治す事が出来るのさ……さて。ゲコガシラ、これでひとまず回復しろ」

 

「ゲコガ…!」

 

2体目も無事に撃破し、okakaは取り出した回復の薬でゲコガシラの体力を回復する……が、それ以上の休み時間は与えられなかった。すぐに次のトレーナーが現れるからだ。

 

「今度はこの僕、ルシィが相手をするよ…!」

 

ノクタスを連れて下がったイプシーに代わり、今度は口元をマスクで覆った不気味な雰囲気の男性―――ルシィが姿を現した。連戦である以上、ゲコガシラに必要以上に疲れを取らせるつもりは無いのだろう。

 

「シザリガー、行け…!」

 

「シザッ!」

 

ルシィが繰り出したザリガニ型ポケモン―――シザリガーは暴れるのが好きなのか、両腕のハサミをブンブン振り回しながらゲコガシラと対峙。そしてすぐにバトルは開始される。

 

「シザリガー、『アクアジェット』…!」

 

「『つじぎり』で防御!!」

 

開始早々、『アクアジェット』を発動したシザリガーが猛スピードでゲコガシラに接近し、ゲコガシラも素早く繰り出した『つじぎり』でシザリガーを真正面から受け止める。それを見たルシィは、マスクの下で小さな笑みを浮かべる。

 

「シザリガー、『ハサミギロチン』…!」

 

「!? マズい、下がって避けろ!!」

 

「シィィィィィィィ…ザァッ!!」

 

「ッ……ゲコッガァ!!」

 

まさかいきなり一撃必殺技が飛んで来るとは思わなかったのか、okakaは少しだけ焦った表情でゲコガシラに指示を出し、ゲコガシラも素早く後方に下がる事でシザリガーの振り下ろして来た『ハサミギロチン』を回避する事に成功した。

 

「たく、いきなり一撃必殺技なんて怖い事しやがるな…!!」

 

「何を言ってるんだい…? これはポケモン勝負だよ…? 中には最初から一撃必殺技で決めに来るトレーナーもいるという事さ……それに竜神丸博士も言ってたよ…」

 

「…?」

 

「『この程度のバトルに勝てないようでは、私が戦ってやる価値も無い』……とね」

 

「…へぇ」

 

嫌らしい笑みを浮かべている竜神丸の顔が浮かび上がったのか、okakaはちょっとだけカチンと来たようだ。しかし今の彼にとっては、その少ない苛立ちすらも原動力と成り得た。

 

「上等だ、何が何でも勝ち抜いてやる……ゲコガシラ、『つばめがえし』だ!!」

 

「ゲコッガ!!」

 

「無駄さ、『ハサミギロチン』だ…!」

 

「シ、シザ…ッ!?」

 

「? どうした、シザリ…ッ!?」

 

迎え撃とうとするルシィだったが、シザリガーは何やら慌てている様子だ。何事かと思ったルシィだったが、シザリガーの両腕を見てある事に気付いた。シザリガーの両腕のハサミが、ゲコガシラのケロムースに張りつかれた所為で開けなくなっていたのだ。

 

「まさか、さっき後退した時に張りつけた…!?」

 

「行け、ゲコガシラ!!」

 

「ッ…ならば『はたきおとす』!!」

 

「シッザァァァァァッ!!」

 

「!? ゲゴァ…ッ!!」

 

「ッ……しまった、ラムの実が…!!」

 

一撃必殺技が出来ないのなら、戦法を変えるしかない。すぐに冷静さを取り戻したルシィの指示で、落ち着きを取り戻したシザリガーは右腕のハサミで『はたきおとす』を繰り出し、『つばめがえし』で迫って来ていたゲコガシラを地面に叩きつける。その衝撃が原因で、ゲコガシラは持っていたラムの実を落としてしまった。おまけにシザリガーの特性『てきおうりょく』の効果もあり、威力はかなりの物だ。

 

「悪いけど、簡単には勝たせないよ…!!」

 

「はん、良いぜ。その方が修行になるからなぁ……ゲコガシラ、『かげぶんしん』!!」

 

「「「「「ゲコォッ!!」」」」」

 

その後も、okakaとゲコガシラのバトルは更に続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロズレイド、『マジカルリーフ』よ!!」

 

「ロォ~ズレェ~イッ!!」

 

「ゲコガシラ、『つばめがえし』で突破しろ!!」

 

「ゲコォォォォォォォォ…ガァアッ!!!」

 

3体目のシザリガーを何とか撃破した後、4番目の相手は薔薇を模したポケモン―――ロズレイドが登場。特性『テクニシャン』で威力の上昇したロズレイドの技を強引に突破し、『つばめがえし』を決めた事でゲコガシラが勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴルーグ、『ばくれつパンチ』!!」

 

「□△&%$#*@…!!」

 

「ッ…やっぱ『ノーガード』持ちは面倒だな……『みずのはどう』で反撃だ!!」

 

「ゲコォォォォォォォッ!!」

 

5体目は巨大なゴーレム型ポケモン―――ゴルーグが登場。特性『ノーガード』の効果で必中技となった『ばくれつパンチ』や『ストーンエッジ』が何度も飛び交う中、okakaはその特性を逆に利用する事でゲコガシラの『みずのはどう』を連続で命中させ、怯ませた隙に『つじぎり』を炸裂させる事で見事ゴルーグを撃破してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レパルダス、『でんじは』!!」

 

「フシャアッ!!」

 

「ゲコガシラ、ケロムースで防御だ!!」

 

「ゲコガッ!!」

 

6体目は紫色の豹型ポケモン―――レパルダス。特性『いたずらごころ』の効果で変化技である『でんじは』を先制で発動する事が出来るレパルダスだったが、ゲコガシラはケロムースを一ヵ所に収束させる事で疑似的に『みがわり』人形を生成。それによって『でんじは』を防がれた挙句、レパルダス自身もケロムースで両前足を地面に押さえられた事で『ねこだまし』と『シャドークロー』を同時に封じられてしまい、その後はゲコガシラが『つばめがえし』や『つじぎり』で畳み掛けて勝利してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマルルガ、『フリーズドライ』!!」

 

「ルルゥ~ッ!!」

 

「ッ…喰らうとマズい、『みずのはどう』で相殺!!」

 

「ゲッコォ!!」

 

7体目はアマルガサウルスのような姿のポケモン―――アマルルガ。特性『ゆきふらし』の影響でフィールド全体に『あられ』が降り注ぐ中、アマルルガは『ふぶき』や『フリーズドライ』でひたすらゲコガシラを狙い続け、ゲコガシラは寒さに耐えながらも最後は『つじぎり』を命中させてアマルルガに勝利したが、okakaから見てもかなり苦しい戦況だった事に間違いは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リングマ、『どくどく』です!!」

 

「グマァァァァァァッ!!」

 

「ゲ、コァ…ッ!?」

 

「しまった、ラムの実が使えない…!?」

 

8体目は大熊ポケモン―――リングマ。レパルダスの時と同じく、開始直後に『どくどく』で動きを封じられたゲコガシラだったが、今回はレパルダスの時と違い、リングマの特性『きんちょうかん』の影響でゲコガシラはラムの実を使えない。かなりギリギリで苦しい戦況ではあったが、ゲコガシラは己の気力で持ち応え、何とかリングマを撃破するに至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして9体目は…

 

 

 

 

 

 

「ジャローダ、『リーフストーム』!!」

 

「ジャアァァァ…ロォッ!!」

 

「避けろゲコガシラ!!」

 

「ゲコォ!!」

 

イーリスが繰り出した、高貴な雰囲気を醸し出した緑色の蛇型ポケモン―――ジャローダが相手となった。ジャローダの特性『あまのじゃく』の効果による物か、『リーフストーム』を繰り出したジャローダは特攻が大きく低下するどころか、逆にどんどん特攻が上昇していき、それ以降も強力な特殊技がゲコガシラを狙い続ける。

 

(マズいな、既に『リーフストーム』は二発目を撃たれて、ジャローダの特攻は凄い事になってる……一発でも喰らえば即アウトだ…!!)

 

「考える暇なんて与えませんよ……『りゅうのはどう』!!」

 

「ジャロォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「いや、ノープロブレムだ……『かげぶんしん』!!」

 

「「「「「ゲコッガ!!」」」」」

 

ジャローダが繰り出したドラゴンのような形状の波動技『りゅうのはどう』が襲いかかる中、『かげぶんしん』で再び分身逹を生成するゲコガシラ。分身逹は一斉に突撃し、何体かは『りゅうのはどう』で消滅し、残った分身逹が一斉にジャローダ目掛けて飛びかかる。

 

「無駄です、『アイアンテール』!!」

 

「ジャロォッ!!」

 

残った分身逹も、ジャローダが尻尾から繰り出す『アイアンテール』で次々と打ち消されていく。しかしokakaはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「まずは尻尾を封じろ!!」

 

「「ゲコッ!!」」

 

「!? ジャロッ!?」

 

その時、残った二体の分身がケロムースを伸ばし、ジャローダの尻尾に巻きつけた。これにより、まずはジャローダの『アイアンテール』が封じられた。

 

「ッ……まだこちらには特殊技があります、『リーフストーム』!!」

 

「ジャロォォォォ―――」

 

「足元を崩せ!!」

 

「ゲコガァ!!」

 

「「!?」」

 

『リーフストーム』で一掃しようとするジャローダだったが、一体の分身が『みずのはどう』でジャローダの足元の地面を粉砕し、それによりジャローダはバランスが崩れて『リーフストーム』の狙いがズレてしまった。これこそがokakaの狙いだった。

 

「今だ、口元も封じろ!!」

 

「ジャロ……ムグッ!?」

 

「!? しまった…!!」

 

更には口元もケロムースで封じられてしまい、これでジャローダは反撃が出来なくなった。ここまでされてしまえば後は…

 

「『つばめがえし』だぁっ!!」

 

「ゲコガァァァァァァァァァッ!!!」

 

『つばめがえし』を喰らうのを待つしかなかった。ゲコガシラが着地して短刀を消すと共に、ジャローダは地面ズシンと倒れ伏した。

 

「ジャローダッ!!」

 

『ジャローダ、戦闘不能。ゲコガシラの勝ち』

 

「うっしゃあ!!」

 

「ゲコガァッ!!」

 

見事9体目まで勝ち抜く事が出来たからか、okakaとゲコガシラはハイタッチで勝利の喜びを分かち合う。するとそんな時、パチパチと拍手する音が聞こえてきた。

 

「お見事でした、okakaさん」

 

「! 竜神丸…」

 

拍手をしているのは竜神丸だった。彼がバトルフィールドまでやって来た際、ジャローダをモンスターボールに戻したイーリスは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「申し訳ありません博士、負けてしまいました…」

 

「まさか本当に10人目まで到達しうるとは、私も想定してませんでしたからねぇ……よくまぁ、ここまで戦い抜いたものです」

 

「まだまだこんなもんじゃ足りない。俺達はもっと戦いたいんだ」

 

「ゲコッ!」

 

「…その威勢が、いつまで続くか見物ですねぇ」

 

竜神丸は怪しげな笑みを浮かべつつ、手に持っていたモンスターボールを高く放り投げる。

 

「キリキザン、実験開始」

 

「―――キザァン…!!」

 

出現したのは、両腕、腹部、頭部のあちこちに鋭利な刃を持った全身凶器な人型ポケモン―――キリキザンだ。キリキザンは両腕の刃をシャキンシャキンと研ぎつつ、まるで極上の獲物を見つけたかのような目付きでゲコガシラを見据えている。

 

(!? まさか博士、よりによってあのキリキザン(・・・・・・・)で戦うつもりで…!?)

 

後ろに下がっていたイーリスが驚愕した表情を浮かべる中、okakaも既に感じ取っていた。

 

(なるほどな。俺も見ただけで分かる……気を抜けば、その瞬間に刻み殺される(・・・・・・)!!)

 

「さぁ、用意は良いですか?」

 

「あぁ、絶対に勝たせて貰う……ゲコガシラ!!」

 

「ゲッコォ…!!」

 

「行きなさい、キリキザン」

 

「キィザン…!!」

 

二体は同時に動き出す。ゲコガシラは右手に短刀を出現させ、キリキザンは右腕の鋭利な刃を伸ばし、二体は擦れ違う寸前まで駆け出して行き…

 

「「『つじぎり』だ/です!!」」

 

「ゲコォ…ガァッ!!!」

 

「キィ…ザァンッ!!!」

 

互いの『つじぎり』が切り結び合い、二体のバトルが開戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲコガシラ、続けて『みずのはどう』だ!!」

 

「ゲコガァ!!」

 

「かわして『アイアンヘッド』」

 

「キザンッ!!」

 

ゲコガシラが放つ『みずのはどう』を華麗なジャンプでかわし、着地と同時に『アイアンヘッド』を発動するキリキザン。頭部の巨大な刃を更に鋭利化させ、ゲコガシラに向かって突撃していく。

 

「ケロムースで受け止めろ!!」

 

「ゲッコォ……ゲコァッ!?」

 

「な、ゲコガシラ…!?」

 

ゲコガシラはケロムースを利用し、キリキザンの『アイアンヘッド』を止めようとする。しかしキリキザンは止まるどころか物凄い速度で突撃してゲコガシラ吹き飛ばし、ゲコガシラも宙に舞いながら態勢を上手く立て直す。

 

「無駄です。その程度の小細工で、私のキリキザンを止められはしない……『つじぎり』です」

 

「キザァッ!!」

 

「チィ……もう一度『つじぎり』だ!!」

 

「ッ……ゲコガァッ!!」

 

両者共に『つじぎり』を再度発動。ゲコガシラは両手の短刀で、キリキザンは両腕から伸ばした刃で何度も切り結び合う。そんな中、ゲコガシラの振り下ろした短刀をキリキザンは両腕の刃でガードした際に、竜神丸が次の指示を下した。

 

「キリキザン、『くさむすび』です」

 

「キザン…!!」

 

「!? ゲコ…ッ!?」

 

キリキザンが両目を緑色に光らせた瞬間、ゲコガシラの足元の地面から生えた数本の植物が、ゲコガシラの両足を縛りつけて拘束してしまった。これでゲコガシラはその場から動けなくなった。

 

「!? マズい―――」

 

「『アイアンヘッド』」

 

「キィ…ザァンッ!!!」

 

「!? ゲ、コガ…ァ…!!」

 

ゲコガシラの短刀を両腕の刃で受け止めつつ、頭を振り下ろして繰り出した『アイアンヘッド』がゲコガシラの額部分に直撃。その強烈な一撃から発生する追加効果で、怯んだゲコガシラは両手から短刀が消滅してしまう。

 

「ゲコガシラッ!!」

 

「『つじぎり』で痛めつけなさい」

 

「キザンッキザンッキザンッキザンッ!!」

 

「ゲコッゲゴッ…ガァッ…ゲ、ゴ…!?」

 

「マズい……ゲコガシラァッ!!!」

 

キリキザンは素早い動きで周囲を駆け回り、四方八方からゲコガシラを『つじぎり』で斬りつけ始める。ゲコガシラが苦しげな表情を示す一方で、キリキザンはそんなゲコガシラを見ながら獰猛な笑みを浮かべ、まるで反撃の隙を与えずに一方的にゲコガシラを痛めつけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、okakaさんでも苦戦させられますか…」

 

ゲコガシラが苦戦させられている光景を、イーリスは少し離れた位置から見届けていた。そんな彼女が次に視線を映したのは、そんなゲコガシラを圧倒しているキリキザンの姿。

 

(博士も人が悪いですね。あくまで修行の一環だと言うのに、よりによって…)

 

竜神丸のキリキザンはかつて野生だった頃、悪い方の意味で(・・・・・・・)有名だった。何故ならこのキリキザンは…

 

「もう一度『アイアンヘッド』」

 

「キィッザァン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よりによって、“イッシュのポケモンキラー”で相手取るだなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獲物を切り刻む快楽に魅入られた、生粋のサイコキラーなのだから。

 

(一時期、イッシュ地方のとある岩山が登山禁止になった事があった……原因はもちろん、あのキリキザン)

 

かつて野生だった頃のキリキザンは、テリトリーの岩山に無断で入り込んだポケモンに狙いを定めては徹底的に切り刻み、幾度となく狩りの犠牲者を増やしてきた。時にはポケモンに飽き足らず、何も知らないトレーナーの前に現れては手持ちポケモンを全滅させた後、身を守る手段を失ったトレーナーすらも重傷を負わせて病院送りにしてしまい、それを切っ掛けに岩山の麓にある街で大騒ぎになったのだ。

 

しかもタチが悪い事に、このキリキザンは非常に執念深い性格だ。獲物にトドメを刺し損ねた際は、確実にトドメを刺す為だけにわざわざ岩山を降りて、その獲物を追いかけ回した事例もあるのだ。

 

(時にはその噂を聞いたトレーナーが、キリキザンを捕まえようと岩山に登った事もあった。当然、実力差も碌に分からない馬鹿なトレーナーは皆、キリキザンの錆となる運命(さだめ)でしかなかった)

 

この事を問題に思った街の住民達によって、キリキザンのいる岩山は登山禁止となった。この件はもちろんポケモンリーグ協会にも伝わり、一度はokakaにも緊急要請しようという声もあったほどだ……最も、それより前に竜神丸がその手持ちにキリキザンを収めてしまった為、okakaが出張る事なく事態は解決した訳なのだが。

 

そして何時しか、キリキザンはイッシュ地方を騒がせた恐怖の象徴として、“イッシュのポケモンキラー”として地方全体に知れ渡る事になったのだった。

 

(でも、ただで手持ちに収まるキリキザンじゃない。キリキザンが主人である博士に求めたのは…)

 

強くて狩り甲斐のある獲物。

 

それ以外には何も求めなかった。あくまで欲しいのは切り刻む快楽のみ。それさえ手に入るのなら、特に己の立場を問う事も無かった。

 

「果たして……okakaさんのゲコガシラは、そんなキリキザンに勝てるのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叩き込みなさい、『アイアンヘッド』」

 

「キッザァァァァァァァ…!!」

 

何度も『つじぎり』でゲコガシラを痛めつけた後、キリキザンは再び『アイアンヘッド』を発動し、ゲコガシラ目掛けて飛びかかる。しかし、これで抜け出す隙は出来た。

 

「(隙が出来た!!)…今だゲコガシラ、『かげぶんしん』!!」

 

「「ゲコガッ!!」」

 

「!? キザッ…!!」

 

「! ほぉ…」

 

『アイアンヘッド』が命中する直前、ゲコガシラは『かげぶんしん』で分身を生成。すると植物で拘束されていた方のゲコガシラは『アイアンヘッド』が命中した瞬間、分身として消滅してしまった。

 

「そのまま数を増やせ、『かげぶんしん』!!」

 

「「「「「ゲッコォ!!」」」」」

 

「一斉に『みずのはどう』だぁ!!」

 

「「「「「ゲッコォ……ガァッ!!!」」」」」

 

ゲコガシラは複数の分身を生成し、一斉にジャンプして『みずのはどう』を放出。それでもキリキザンが動揺する様子は見られない。

 

「惑わされる必要はありません…『つじぎり』です」

 

「キッザァン!! キザッキザッキザッキザッ!!」

 

飛んで来る『みずのはどう』を、片っ端から『つじぎり』で掻き消し始めるキリキザン。そして全ての『みずのはどう』を消滅させた瞬間、空中に跳んでいたゲコガシラの分身逹は一斉にキリキザン目掛けて突撃していく。

 

「『つじぎり』だ!!」

 

「「「「「ゲコガァァァァァァァ…!!」」」」」

 

「本物を探り当てなさい、『アイアンヘッド』」

 

「キィッザァ!!」

 

キリキザンも同じく跳躍し、空中にいるゲコガシラの分身逹を『アイアンヘッド』で次々と消滅させていく。しかし最後の分身も消滅させてみせたものの、ゲコガシラの本体は何処にも見当たらず、地面に着地したキリキザンは周囲をキョロキョロ見渡す。

 

「…! キリキザン、左斜め後ろです」

 

「ッ……キィッザン!!」

 

その時、キリキザンの左斜め後ろからゲコガシラが飛び出した。振り返ったキリキザンはすぐさま『つじぎり』で一閃してみせた……が。

 

「キザッ…!?」

 

「!? 『みがわり』人形……違う、ケロムースか…!」

 

キリキザンが斬り裂いたのは、ケロムースで形成された『みがわり』人形もどきだった。それに気付いた時には既に遅く、ケロムースより後ろにいたゲコガシラが『つばめがえし』を仕掛ける態勢に入っていた。

 

「行けゲコガシラ、『つばめがえし』だぁっ!!!」

 

「ゲッコォ……ガァアッ!!!」

 

「キザァッ!?」

 

(! 初めてまともに命中させた…!)

 

もちろん、それだけで終わるゲコガシラではない。

 

「続けて『みずのはどう』!!」

 

「ゲコォオッ!!!」

 

「キッザァァァァァァァ…ッ!?」

 

続けて繰り出された攻撃は『みずのはどう』。直接叩き込むように命中させたその一撃は、キリキザンを大きく後退させるのに充分な威力だった。

 

「ほぉ♪ まだここまでの余力を残しているとは、私も驚きです。ですが……『くさむすび』」

 

「キィッザ!!」

 

「!? ゲコガ…ッ!!」

 

キリキザンが地面に両手を突き刺した瞬間、地面から複数の植物が一斉に生い茂り、それらがゲコガシラを捕まえるべく一斉に伸びて来たのだ。ゲコガシラは素早く逃げようとしたが、伸びた植物はゲコガシラを逃がさず、何処までも追いかけ続ける。

 

「おぉい!? 『くさむすび』ってそんなスケールのデカい技だったか!?」

 

「鍛え方次第では、こういう活用法もあるという事です……キリキザン、捕まえなさい」

 

「くそったれ……『つじぎり』で突破しろ!!」

 

「ゲコッガァ!!」

 

後方から植物が追いかけて来る中、ゲコガシラは正面から伸びて来る植物を二本の短刀で斬り裂き、そのままキリキザンに斬りかかる。しかし、キリキザンはそれを両腕の刃で受け止めた後…

 

「弾き返しなさい」

 

「キィッザァンッ!!」

 

「ゲコガッ!?」

 

「!? 蹴り飛ばしただと…!!」

 

受け止めた二本の短刀を纏めて弾き、そのままゲコガシラを大きく蹴り飛ばしたのだ。当然、蹴り飛ばされたゲコガシラは後方から迫って来ていた植物に捕まった挙句、ゲコガシラを捕まえた植物はゲコガシラを大きく振り上げた後、そのまま振り下ろしてゲコガシラを地面に叩きつけた。

 

「ゲコッガァ…ッ!?」

 

「ゲコガシラッ!!」

 

「さぁ、そろそろ〆に入りましょうか…」

 

別の方向からも伸びて来た植物達によって、ゲコガシラは手足を縛られたまま空中に拘束されてしまう。そんなゲコガシラを見上げながら、キリキザンは両腕の刃を擦り合わせて綺麗に研ぎ澄ます。

 

「私のキリキザンを相手に、よくここまで戦えたものです。ですが終わりにしましょう……キリキザン、『ハサミギロチン』です」

 

「キッザァァァ…!!」

 

「ッ…マズい、ゲコガシラァッ!!!」

 

その命令を待っていたかのように、キリキザンは今まで以上に凶悪な笑みを浮かべた後、刃を伸ばしたまま両腕をクロスさせ、『ハサミギロチン』の準備を完了させる。okakaは今まで以上に焦った表情で叫ぶも、ゲコガシラは既に体力を消耗し切っており、まともに拘束から抜け出せる状態ではない。

 

(駄目だ、ゲコガシラも体力が切れる寸前で、とても回避出来る状態じゃない…!! 竜神丸も言う通り、結局ここまでだってのか…)

 

動けないゲコガシラに、キリキザンが両腕をクロスさせたままジリジリ近付いて行く。諦めかけたokakaは目を閉じかけるが…

 

(…いや、駄目だ)

 

すぐに両目を強く開いてみせる。

 

(駄目だ、ここで終わる訳にはいかない…!! あの事件(・・・・)の時から約束したんだ……俺とゲコガシラの二人で一緒に強くなるって、そう約束したよなゲコガシラ!! だから…)

 

「―――動け、ゲコガシラァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「!? okakaさん…!?」

 

「ッ……ゲッコォォォォォォ…!!」

 

okakaの叫ぶ声。イーリスが思わず怯む中、その叫び声を聞いたゲコガシラも閉じていた目を開く。

 

「おやまぁ、okakaさんらしくない熱い叫びですねぇ……決めなさい、キリキザン!」

 

「キッザァン!!!」

 

無情にも、キリキザンは『ハサミギロチン』を命中させるべく、ゲコガシラ目掛けて跳躍。狂気の刃が極上の獲物を捉えるべく迫り来る。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコォ…ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

ゲコガシラの全身から、白い光が放たれ始めた。

 

「何…!?」

 

「ゲコガシラ…!?」

 

「あの光……まさか、このタイミングで“進化”を…!?」

 

「ッ…キザァッ!?」

 

イーリスの予測は当たっていた。白い光を直視してしまったキリキザンが怯んで後退する中、ゲコガシラの身体は少しずつ変化していく。手足は大きく伸び、首元のケロムースは消滅し、代わりに口元から伸びた長い舌がまるでマフラーのように首元に巻かれていく。そして白い光の勢いが少しずつ弱まっていき、その中から…

 

「コォウ…ガァッ!!!」

 

青色をベースにした、スタイリッシュな忍者ポケモン―――ゲッコウガの姿が現れた。その瞬間、ゲッコウガの手足から伸びた水の刃が植物を斬り裂き、拘束から解かれたゲッコウガは地面にシュタッと着地してみせる。

 

「これが、ゲコガシラの進化系…」

 

okakaはすぐにポケモン図鑑を開いて確認する。

 

『ゲッコウガ しのびポケモン 忍者のように神出鬼没で、素早い動きで敵を翻弄する。水を圧縮して作り出した手裏剣は、金属を簡単に真っ二つにしてしまう』

 

「ゲッコウガ……か」

 

「コウガァ…!!」

 

腕を組んだまま長い舌を靡かせるゲッコウガ……その姿は、まさに忍者その物である。だからだろうか。アサシンの身であるokakaが、ゲッコウガに対して少なからずシンパシーを感じたのは。

 

「ゲッコウガ、まだ戦えるか?」

 

「…コウガッ!!」

 

「…よし!!」

 

力強く頷いたゲッコウガに、okakaも笑みを浮かべてみせる。それに対し、竜神丸は厄介そうな表情でゲッコウガを見据えていた。

 

「このタイミングで進化とはやってくれますねぇ……ですが、既に体力がギリギリな事に変わりありません。早いところ沈めて差し上げましょう」

 

(! そうだ、ゲッコウガは今までの攻撃で体力も残り僅か! とてもじゃないけど、キリキザンに勝てるような状態じゃ…)

 

しかし、イーリスのそんな心配を感じさせないかのように、ゲッコウガはキリキザンを強く睨みつける。キリキザンは歓喜する。狩り甲斐のある獲物が、更に極上な獲物に生まれ変わってくれたのだから。

 

「キリキザン、『アイアンヘッド』!」

 

「キザァンッ!!」

 

「ゲッコウガ、かわせ!!」

 

瞬時に繰り出された『アイアンヘッド』を、ゲッコウガは素早い動きでかわしてみせる。そのスピードはゲコガシラの時よりも大きく上がっていた。

 

「コォウ…」

 

その時、ゲッコウガは両手をパァンと叩き、両手の間に空気中の水分を収束させ始めた。すると彼の両手の間に二枚の手裏剣が生成され…

 

「…ガァッ!!!」

 

「!? キザ…ッ!!」

 

その水で出来た手裏剣を二枚、キリキザン目掛けて投げつけたのだ。想定外の攻撃にキリキザンは驚くも、両腕を眼前でクロスする事で何とか手裏剣を防御する事に成功し、地面を滑るように後退。その光景を見ていたイーリスは驚愕した。

 

「!? 今の攻撃、まさか『みずしゅりけん』…!?」

 

「『みずしゅりけん』……そうか、新しい技を覚えたのか!」

 

「コウガッ!」

 

「チッ面倒な…」

 

ゲッコウガが新たに『みずしゅりけん』を修得した事で歓喜の表情を浮かべるokakaと、面白くなさそうな表情で小さく舌打ちする竜神丸。両者の反応は対照的だ。

 

「よし……ゲッコウガ!! 今のお前ならやれる、俺を信じて進め!! 『みずしゅりけん』連打ぁっ!!」

 

「コォォォォォォォォォウ……ガァアッ!!!」

 

「『つじぎり』です、キリキザン!」

 

「キィザァァァァァンッ!!」

 

ゲッコウガは『みずしゅりけん』を生成し、それを大量に投擲する。しかし、キリキザンはその大量の『みずしゅりけん』すらも全て、『つじぎり』によって易く掻き消してしまった。

 

「まだだ!! 二度と諦めない……俺とゲッコウガは、共に強くなると約束した!!」

 

「コウガァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あれ?)

 

この時、イーリスは気付いた。

 

 

 

 

 

 

okakaが右手を見つめると、ゲッコウガも右手を見つめる。

 

 

 

 

 

 

そしてokakaが右腕を強く振るうと、ゲッコウガも右腕を強く振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(二人の動きが、シンクロしている…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達は、もっともっと強くなる!!!」

 

「コウガッ!!!」

 

(!? 何だ…?)

 

okakaが拳を握り締めれば、ゲッコウガも拳を強く握り締める。そのタイミングが完全に一致している事に気付いたのか、竜神丸も謎の違和感を抱き始めていた。

 

「行くぞゲッコウガァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

「コウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

対峙していたキリキザン、そして竜神丸とイーリスも驚愕した。

 

何故なら、彼等の視界には一瞬だけ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

okakaとゲッコウガ。二人の姿が、一つに重なり合って見えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは…!?」

 

一体何処から発生したのだろうか。突如湧き上がった高圧水流が、ゲッコウガの全身を包み込み始めた。この光景にはイーリスだけでなく、竜神丸も驚きを隠せない。

 

「ッ…さっさと終わらせます、『ハサミギロチン』!!」

 

「キッザァァァァァァァァァン!!!」

 

ならば仕掛けられる前に、さっさと仕留めるべし。そう判断した竜神丸の指示で、キリキザンは再び両腕の刃をクロスさせて『ハサミギロチン』を発動し、ゲッコウガ目掛けて突撃していく。

 

「ゲッコウガァ!! 『つばめがえし』だぁっ!!!!!」

 

「コウッガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

そして高圧水流を纏ったゲッコウガも、キリキザン目掛けて突撃していく。そのまま両者は跳躍して激突し、キリキザンが『ハサミギロチン』で確実に狩ろうとするも、ゲッコウガは手足から伸びた水の刃で『つばめがえし』を発動し、キリキザンが振るう両腕の刃を的確に弾き返していく。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「コォォォォォォォォォォォォウ…ガァアッ!!!!!」

 

「!!? キザ、ァ…ッ!?」

 

 

 

 

 

 

『つばめがえし』の一撃が、キリキザンの顔面に直撃した。

 

「!? キリキザ……ッ!!」

 

「キャアッ!?」

 

吹き飛ばされたキリキザンは竜神丸とイーリスの間を通り過ぎた後、地面を大きく滑りながらその先にある壁に勢い良く突っ込み、轟音と共に土煙が舞い上がった。

 

「ッ…!!」

 

竜神丸も、イーリスも、驚愕の感情が剥き出しになっていた。ゲッコウガの繰り出した『つばめがえし』は飛行タイプの技であり、鋼タイプを持つキリキザンには効果は今一つの筈。

 

それなのに、土煙が晴れたそこには…

 

「キ、リィ……ィッ…」

 

壁に減り込んだまま、目を回して戦闘不能になっているキリキザンの姿があった。

 

『キリキザン、戦闘不能。ゲッコウガの勝ち』

 

審判の機械的な声が響き渡る。そんな中で、地面に着地したゲッコウガは全身の水流が消滅し、何事も無かったかのようにokakaの方へと振り返る。

 

「コウガ!」

 

「…今のは、一体…?」

 

今のokakaは、竜神丸のキリキザンに勝利した喜びよりも、ゲッコウガが見せた現象に対する驚きの方が圧倒的に強かった。

 

(あの姿…)

 

 

 

 

 

 

水流の中、僅かに見えたゲッコウガの姿。

 

 

 

 

 

 

赤い模様が加わった顔。

 

 

 

 

 

 

アサシンの被るフードを彷彿させた、猛禽類の嘴のような頭部。

 

 

 

 

 

 

手首に見えた、アサシンブレードのような白い模様。

 

 

 

 

 

 

その姿は、一般に知られているゲッコウガとはまるで違っていた……否。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿はokaka―――岡島一城の姿に酷似していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッコウガ……お前は一体…」

 

okakaが呆然とする中、竜神丸は戦闘不能になったキリキザンをモンスターボールに戻しつつ、okakaとゲッコウガの方に視線を移す。

 

(メガシンカ…? いや、それにしてはキーストーンもメガストーンも無しに発動させるなど……まさか)

 

竜神丸は笑みを浮かべる。

 

「イーリスさん。実力の高い部下を更に集めて下さい」

 

「え…?」

 

「最初はただの興味本位だったのですが……ますます興味が湧いて来ました。先程のゲッコウガの力……今後も存分に見せて貰うとしましょう」

 

(ねぇ、okakaさん…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後々、okakaはこう思った。

 

 

 

 

 

 

この瞬間こそが、俺達の試練の始まりだったんだと。

 

 

 

 

 

 

当然、二人はこれから先、更なる逆境に立たされる事になるなど知る由も無い。

 

 

 

 

 

 

それでも、二人は諦めず戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

新たに手に入れた力…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“カズキゲッコウガ”を、完全体に導く為に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 


 
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