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ALO~妖精郷の黄昏・UW決戦編~ 第38-18話 激闘

本郷 刃さん

第18話目です。
今回はアウトロードとか原作組の戦闘になります。

どうぞ・・・。

2016-08-02 14:41:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5345   閲覧ユーザー数:4902

 

 

 

 

第38-18話 激闘

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

UWコンバート軍&UW軍による連合軍と不正アクセス軍による戦闘が開始され、一時間以上の時間が経過していた。

ただゲームをしているだけならば短くすら感じる時間だが、VRMMOであり痛覚などの感覚がONになっている戦闘である。

恐怖、焦燥、高揚などによる精神的消耗、戦闘行動による肉体的消耗はこのUWでは行われてしまう。

それにより、当然ながら敗北してしまうプレイヤーもおり、

被害を0に抑えることは仮想世界とはいえ戦争である以上はほぼ無理な話なのだ。

 

それでも、連合軍のプレイヤーの多くは退かない。

確かに少ないながらもそれなりの人数が逃げ、戦闘により敗北してしまった者もいるが、

多くの者達がどれほど傷付いてもなお戦い続けている。

退けない理由がある、譲れないモノがある、故に彼ら彼女らは戦う。

その多くのプレイヤーの活躍もあって、連合軍は僅かに被害を受けながらも多くの敵を倒してきた。

当初、アクセス軍は三万もの人数であったが、

戦闘前のキリトによる警告や戦闘開始直後の攻撃のダメージによる痛みや恐怖で一部がログアウト、

キリト達を始めとした様々なゲームの猛者達やUW軍の猛者や兵達の戦争慣れした戦いにより大半がHPを無くして消滅していった。

その人数も間もなく一万人程度になる、その時だった。

 

再び空に赤い血のような線が引かれた。

そこから無数に降り注ぐ液体のようなものは、最初の時と同じように人の形だけを成した。

連合軍の全員が瞬時に悟る、敵の援軍だと。

敵の援軍の正体、それは中国と韓国のプレイヤーである。

敵の援軍、それに逸早く気付いたのはキリトを主とした《神霆流》の面々、

次にアスナを始めとしたゲームでもトップクラスのプレイヤー達、

ユージオとアリス達人界の整合騎士や暗黒界の騎士団長ビクスルや拳闘王のイスカーンである。

彼らはすぐさま敵の援軍が来たことを知らせ、そのお陰か混乱は大きくならずにすんだ。

しかし、敵の援軍が来たことに変わりは無く、中国から約五千と韓国からも約五千、総数約一万というほどだ。

この中国と韓国のプレイヤー達もネットで扇動された者達であり、やはり日頃の日本プレイヤーへの負の感情を煽られた者達が多い。

元通りとは行かないがそれでもまた増えた敵に対し、精神面で負担がないわけではない。

だが、彼らは戦うことを諦めない。

 

アメリカ勢約一万人、中国勢約五千人、韓国勢約約五千人、計約二万人となったアクセス軍。

そこでキリトとアスナ、人界守備軍以外にとっては思いもよらない事態が発生した。

アクセス軍の背後、崖の方から広範囲に亘る凄まじい劫火が彼らに襲い掛かったのだ。

援軍は何も敵にだけとは限らない。

 

「お主らのような者らにこの世界はやらせんよ。この者達も、この世界の命達も」

 

その場所、空中に浮かび語りかけるのは眼鏡を掛けた小柄な少女。

(おごそ)かな雰囲気、鋭い視線はアクセス軍に向けられ、少女の周りには神聖力が集い渦巻く。

彼女の名はカーディナル、人界の守護者の頂点に立つ最高司祭である。

カーディナルの隣には【地神テラリア】として降り立ったリーファがおり、

彼女らは人界守備軍とリルピリン率いる亜人族部隊と共にここへ到着した。

最早戦力差は大きなものではなく、その差すら連合軍は質で埋めている。

 

コンバート軍・人界守備軍・暗黒界軍、三つの総戦力とアクセス軍が再び激突し、最後の決戦の幕が上がる。

 

 

 

ALOのプレイヤーであり風妖精族(シルフ)の領主であるサクヤと猫妖精族(ケットシー)の領主であるアリシャ・ルー、

この二人もまた友人であるリーファや恩のあるアスナ達の力になれればと思いUWへコンバートした。

同じ種族で領地に所属している者達を指揮して戦っていた二人だが、肉体的と精神的な疲労により危機が迫っていた。

 

「ニャッ!?」「アリシャ! くっ、邪魔をするな…!」

 

複数人からの攻撃を受けたアリシャは痛みや衝撃でバランスを崩して倒れ、

サクヤは友の危機に援護に向かおうとするが他の敵に行く手を阻まれて彼女の許へ向かえない。

そこへふわりとした風が吹いた…いや、次の瞬間にそれは突風か暴風のように変わり、

アリシャに止めを刺そうとしていた赤いプレイヤー達全員の胴体を真っ二つにした。

 

「大丈夫ですか、アリシャさん! ポーションです、飲んでください」

「シリカちゃん、助けに来てくれたノ…?」

「はい、でもいまのはあたしじゃなくてヴァルくんです」

 

砂煙が立ち込めていたところが振られた薙刀によって起きた風で晴れ、そこにはシルフの少年が立っていた。

右手には龍の頭部を模した装飾が施されている薙刀『神龍偃月刀』、左手には直槍の『アルスライベン』を持っている。

アリシャの知るヴァルという少年は基本的に温厚で優しい性格であり、

戦闘でも単純に強い者と戦えることが楽しいと思う程度であること。

一方でギルド『アウトロード』の男性陣の中では沸点が低い方であり、

アウトロードが結成以前にシリカにケットシー領のある幹部が独断で執拗な勧誘を行いその結果ヴァルがキレ、

その幹部と一派を一人で殲滅したことがある。

この一件こそアウトロードが結成される後押しとなったのは余談だ。

 

目前のヴァルの背中を見て敵を一薙ぎで殲滅した彼にアリシャは背筋が冷えるのを感じた。

 

「アリシャさん、いまの内に下がってください。少しでも休憩してこのあとに備えた方がいいです。

 それに、ヴァルくんに巻き込まれますよ?」

「シ、シリカちゃんハ…?」

「あたしは大丈夫です。ヴァルくんが合わせてくれますし、命懸けの戦いは慣れてます」

「っ……分かったヨ、任せるネ…」

 

それは僅かながら足手纏いだと、覚悟が足りないという意味が含まれた言葉であり、アリシャは従うしかなかった。

実力で言えば確かにシリカよりもアリシャの方が上だが、消耗しきったアリシャとシリカではシリカの方に軍配が上がり、

彼女はヴァルと連携を行うこともでき、何よりも命を懸けた戦い(SAO)に身を投じていたこともある。

シリカ自身は意識して言ったわけではないが無意識下でそう言った意味合いにも取れるように言ってしまったのだろう。

アリシャは痛みも治まったこともあり足早に味方を率いて自陣に撤退していった。

 

「シリカ、一緒に行くよ」

「うん、いつでも行けるよ」

 

ヴァルとシリカは自身の得物を構えて敵と相対する、そこからこの二人に会話はない。

システム外スキル《接続》、この現象の発生要因は未だに判明していないが、

ただ一つ判明しているとすればそれは“心を通わせた者同士”であることだろう。

会話をせずしての無意識下での意志疎通、戦場でこれほど有利なものはない。

 

先に動いたのはシリカ、彼女に合わせるようにヴァルも動く。

シリカは素早い動きで短剣を振るい敵を斬り、

そんな彼女を守りながら戦うべくヴァルは薙刀を振るって敵を薙ぎ、直槍で強烈な突きを繰り出し貫く。

ヴァルの攻撃に繋げるようにシリカがスイッチを行い次々と二人で敵を倒し進んでいく。

 

「神霆流闘技《双・需貫(そう・じゅかん)》」

 

薙刀と直槍、二本の得物の柄を短く持ち、ヴァルは三段突きを放った。

得物の柄を短く持ってから強烈な突きを放ち、前に出た柄を中辺りで持ち再び突き、

そして最後に柄の最後を放さないように突きを放つ、これが槍の型の闘技《需貫(じゅかん)》である。

これを今回二本の得物で行った為、《双・需貫》となったわけだ。

 

現在のヴァルの動きは神速ではない、それはシリカに合わせ彼女を守る為。

しかし、繰り出される攻撃は確かに神速の一撃である。

神速の少年とそれが巻き起こす風で共に舞う少女、風の如き二人を捉えられるものはいない。

 

 

 

 

アリシャが助けられた時とほぼ同時刻頃、サクヤもまた複数人を相手に危機に陥っていたところを助けられた。

それは自身の友にして力になりたいと思った少女だった。

 

「ごめんサクヤ、遅くなった!」

「助かった、リーファ! すまない、助けに来ておいて逆に助けられるなんて…!」

「そんなことないよ。サクヤが来てくれるって知った時、あたし凄く嬉しかったんだから。

 領地のみんなと一緒に来てくれて、本当にありがとう!」

 

テラリアの姿で長刀を振るうリーファに助けられ、サクヤは申し訳ない気持ちで一杯だ。

しかし、リーファにとっては友達が来てくれたこと、こんなにも大勢の人達が助けに来てくれたことが何よりも嬉しいのである。

 

「それで、もう戦えないってわけじゃないわよね?」

「っ、当然だ! 全員、まだやれるな!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

領主の彼女の周りにシルフの部隊が集まり、周囲の敵へ再度の攻撃を仕掛けようとする。

そこへ上空から影が落ち、轟音と共に凄まじい衝撃が敵の集団を襲った。

こちらでも舞う砂煙、しかし晴れることはなく砂煙の中で影が動き衝撃と轟音は止まず、

次々と敵が砂煙の中から吹き飛ばされていく。

軽く十メル(10m)は人が飛ばされているため、アクセス軍は勿論だがコンバート軍でさえもその光景に呆然とする。

そして自然に砂煙が晴れ、その場の光景が明らかになった。

 

「一先ずいまので全員吹き飛ばせたっすかね。リーファもサクヤさん達も無事っすか?」

「ルナくん!」

 

敵を吹き飛ばしていたのは巨大な鎚『ヴェンダイヤ』を振るう工匠妖精族(レプラコーン)のルナリオだった。

鎚の下に剛撃に叩きつけられたからか潰れている赤いプレイヤー、HPが尽きたのか消滅していく。

勿論、吹き飛ばされていった敵達も全員が消滅していった。

周囲に敵がいないことを確認し、鎚から破砕球の『ロードメテオ』に装備を変更した。

 

「サクヤさん。アリシャさんの方にはヴァル君が行ったから大丈夫っすよ。

 ケットシーの部隊と合流して態勢を立て直してくださいっす」

「ここはあたし達に任せてよ!」

「し、しかし…!」

 

サクヤが言葉を紡ぐよりも早く、ルナリオは何かに気付いたようでロードメテオを振り回した。

彼らに接近してきたアクセス軍だったが、全員揃ってルナリオの攻撃で破砕球と持ち手を繋ぐ鎖によって薙ぎ飛ばされた。

リーファもまた、テラリアのステータスを存分に活かして長刀による強烈な斬撃を迫っていた敵にお見舞いする。

 

「アリシャ達と合流して態勢を立て直したらすぐに戻る…!」

「うん、待ってるね」

「んじゃ、ボクらもやるっすよ、リーファ」

 

サクヤはシルフ達を引き連れてその場を離れ、ルナリオとリーファは向かってくる敵を見据える。

ルナリオは再び武器の入れ替えを行う、今度は古代級武器で棒の『神珍鉄』だ。

そもそも、ルナリオは一度リーファと別れてファナティオ達整合騎士と共に先行してこの場に来た。

ではいつか、それは騎士長であるベルクーリが【暗黒神ベクタ】ことガブリエル・ミラーと戦闘している時であり、

その時にヴェンダイヤに装備を変えて地上に降り立ったのだ。

あの二人の戦闘時の轟音と衝撃波の正体は地上の敵に突撃を行ったルナリオである。

 

ルナリオとリーファも戦闘を開始する。

まずは速さでルナリオを上回るリーファが長刀を振るって斬り込み、

彼女に続いてきたルナリオが自在に神珍鉄を振るうことで敵を薙ぐ。

棒を振るう際はただ薙ぎ飛ばすだけではなく、上から叩き付け、下から振り上げ、

正面から突きを放つこともでき、扱い方としては槍に近いものだ。

この二人も《接続》を用い、上手く言葉要らずに連携を行う。

 

「神霆流闘技《霖進(りんしん)》」

 

棒を横向きにして中央を持ち右側から攻撃し、次に左側、その次は上、続けて下から、

最後に棒の前と後ろ部分による突きの六連撃、これが棒の型の闘技《霖進》である。

圧倒的な破壊者と疾風の如く舞う女神、剛と柔の共演に敵う者はあるのか。

 

 

 

「ロック、右から来てるぞ!」

「テツこそ、左注意しろ!」

「二人ともカバーは僕とサチがするから大丈夫!」

「ヤマトはテツをお願い、私はロックをカバーする!」

「よし、このまま行くぞ!エギル、援護ありがとう!」

「気にするな。みんなで戦うんだ、生き残るのも一緒さ」

 

ALOの妖精の姿で戦うギルド『月夜の黒猫団』と土妖精族(ノーム)のエギル。

SAO時代の終盤で攻略組となった黒猫団、そこへ常に攻略組であったエギルがサポートする形で共に戦っている。

黒猫団の五人は連携を主として戦い、その五人を守るようにエギルはサポートする同然で前衛を行う。

 

「コイツら、強さはそうでもないけどとにかく数がヤバい!」

「なんだ、もう泣きごとか?」

「俺なんかまだまだいけるぜ!」

「それじゃあこっちの数人頼むわ(笑)」

「喋る前に手ぇ動かそうぜ!」

 

軽快に話しながら敵と戦っているのはギルド『風林火山』のメンバー達。

こちらは連携もしているがどちらかというとほぼ全員が前衛的な戦闘行動であり、一人が魔法などで強化と回復でサポートしている。

 

「お前ら、気張っていくぞ!」

「回復は私が請け負います!」

「おっしゃぁっ! やってやるぜ!」

「シャイン、壁役(タンク)任せるわ! ティアも回復お願いね!」

 

全身を鎧で纏い大盾の『アイギアス』と片手剣の『ダークリパルサー』を構えて最前衛を務めるのはノームのシャイン。

水妖精族(ウンディーネ)のティアは魔法杖をその手に、回復魔法を発動し、強化魔法も掛けて味方を援護する。

火妖精族(サラマンダー)のクラインは敵の攻撃を掻い潜りながら接近し、刀を振るって一刀両断にする。

闇妖精族(インプ)のカノンは親友の二人に援護を任せ、自身も下級魔法を使い援護魔法を行い、

しかし本領である細剣の『ヴァントゥール』での近接攻撃も忘れていない。

 

「手強そうな奴らもいるな。行けるよな、カノン」

「勿論です、クラインさん!」

 

カノンは所属こそアウトロードであるが、恋人のクラインと行動を共にしているため風林火山との行動が多い。

そのクラインとカノンはやはり《接続》による攻撃的な連携を行う。

クラインは力押しの攻撃を、カノンはアスナに次ぐ細剣の技術で連撃を、お互いをカバーし合い敵を倒していく。

 

「俺達は守って助ける側だ。一緒に頼むぜ、ティア」

「はい、シャイン。貴方とならどんな困難でも立ち向かえます」

 

黒猫団と風林火山の前に出て大盾を構えて剣を強く握るシャイン。

彼にはティアが多重に強化魔法を施しており、装備もあってか敵からの攻撃はほぼ全てにダメージがない。

アイギアスでの防御は勿論だがダークリパルサーでの武器防御も行い、

赤いプレイヤー達は鉄壁の要塞と化した一人のプレイヤーに傷一つ付けることができないでいる。

そのシャインの反撃は思わぬ一撃となって襲い掛かる。

 

「神霆流闘技《瞬霎(しゅんそう)》」

 

シャインに斬りかかった敵が居たが、彼は片手剣で受け止めるとその力を流した。

攻撃したアクセス軍のプレイヤーは自分の力が抜けたかのように感じ、しかし次の瞬間に自身の体を真っ二つに斬り裂かれた。

シャインは攻撃してきた敵の力を受け流し、その力を地面に逃がさずに自身の剣に再び流し、

自身の力も合わせた二重の力で反撃したのである。

神霆流における反の型《瞬霎》、普通の仮想世界ではいまのところ行えないがUWや現実では行える達人クラスの技術だ。

そしてこれは盾でも行える。

 

鉄壁の個人要塞とそれを癒す水妖精の舞姫、炎の侍と闇の戦姫、

彼ら彼女らと共に戦う妖精達、この少数精鋭の部隊を超える者達もまた少ない。

 

 

 

 

奮闘しているのは何もコンバートしてきた者達だけではない。

命懸けの戦いにおいては連合軍、特に整合騎士や十候は幾度も経験してきたことであり、

援軍が来たこともあってその力を存分に揮っていた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァッ!」

「柔らかいから、駄目…!」

 

暗黒界軍の十候の一人にして拳闘士団チャンピオンのイスカーンが拳と脚で次々と敵を打ち砕いていく。

仮にこれがUWの住人や正規コンバートであれば、ミンチという凄惨な光景になっていたことだろう。

彼と共に動いているのは人界が誇る整合騎士のシェータ・シンセシス・トゥエルブ、

彼女は神器『黒百合の剣』を振るい目前に立つ敵を全て切断していく。

こちらも敵が赤い姿でなければ酷い光景になっていただろうが、いまはどうでもいいことかもしれない。

 

「さすがは十候の一人にして拳闘のチャンピオンだ。負けてられないね、テン!」

「その通りだな、シン。俺達も負けていられない!」

 

敵を殴り倒すのならこちらも負けてはいない、

上位整合騎士のコンビで双子のアーシン・シンセシス・エイティーとビステン・シンセシス・ナイティー。

彼らは手甲にして義手型でもある神器『比翼』を用いて敵を殴り倒し、空いている生身の手で持つ騎士剣で斬る。

コンビネーション、連携に関しては双子であり戦闘能力もほぼ同じであるためかなりの精度であり、多くの者がそれに翻弄されていく。

 

「面倒臭いほどの数だね…!」

「でもコイツらはどれだけ殺しても文句言われないから楽かな…!」

 

もう一方の双子で下位整合騎士でもある見習い、リネル・シンセシス・トゥエニエイトとフィゼル・シンセシス・トゥエニナイン。

彼女らも本領である毒を塗った短剣で小さな体を活かして敵の合間を縫うように駆け抜け、

次々に斬ることにより麻痺毒で倒していく。

自分達で止めを刺すこともあれば、味方が倒すこともある。

恐るべき少女らの本領だ。

 

「これ以上ファナティオ様に無理をさせるわけにはいかない!」

「だからと言ってお前が無理をするな、ダキラ」

「先程のようなことがあっては師も悲しまれる」

「今度こそ全員で勝利するのだ!」

 

ダキラ・シンセシス・トゥエニツー、ジェイス・シンセシス・トゥエニスリー、

ホーブレン・シンセシス・トゥエニフォー、ジーロ・シンセシス・トゥエニファイブ。

ファナティオ直轄である四人の下位整合騎士『四穿剣』、この四人は各々の得物である大剣で力強い連携を発揮していた。

自分達の師であるファナティオの懐妊が解り、

その上でなおも戦場で戦うことを続ける彼女を少しでも助けるべく、四人の弟子達は奮闘している。

 

「騎士レンリ! 援護を頼む!」

「お任せを、騎士エルドリエ!」

「「リリース・リコレクション!」」

 

上位騎士であるエルドリエ・シンセシス・サーティワンとレンリ・シンセシス・トゥエニセブン。

二人は各々の神器『霜鱗鞭』と『雙翼刃』の《記憶解放術》を発動する。

霜鱗鞭は無数に分裂した光となり、数百本の光条になるとそれぞれが蛇の形を成し、大きく振るわれることで百人単位の敵を薙ぎ払う。

雙翼刃、二枚の刃は一つとなり、戦場において敵のみを斬り裂いて駆け抜けていく。

守るべき者と勇気を思い出した者、彼らの思いは確かに強い物である。

 

「副長殿、無理だけはしないように頼みますぞ」

「無論だ。だが、やれるだけのことはやらなければな」

「「エンハンス・アーマメント!」」

 

神器『熾焔弓』から紅蓮の鳥を放つのはデュソルバート・シンセシス・セブン。

整合騎士副長であるファナティオ・シンセシス・ツーは神器『天穿剣』から光線を連射する。

現在、ファナティオは妊娠しているため、自身の肉体にもダメージを負うことになる《記憶解放術》は使わない。

そのため、敵と真っ向から戦っているベルクーリに変わり、

デュソルバートがファナティオを守りながら彼女と援護攻撃を行っているのだ。

けれどそれで十分、炎の鳥と光の線は確実に敵を幾人も纏めて焼き貫いていく。

神聖力が減ればカーディナル支給の回復薬を使い、再び二人は紅蓮と光線の砲台と化す。

 

「それにしても、まさかお前さんと共に戦うことになるなんてなぁ?」

「まったくだ、ベルクーリの親父。だがこういうのもいいものだな」

 

整合騎士長ベルクーリ・シンセシス・ワンは神器『時穿剣』による《武装完全支配技》による《空斬》を使い、

幾つもの空間を斬り裂きそこを通った敵も纏めて斬り裂いていく。

暗黒騎士団長ビクスル・ウル・シャスターもまた長刀の神器『朧霞』による《武装完全支配術》を使い、

発生させた霧で敵を貫通・切断をするという攻撃で纏めて倒していく。

どちらも騎士達を率いる者として、騎士達を指揮しながら戦っている。

 

「お主ら亜人族の強みは元々の能力が人族より強いことじゃ。

 皆で力を合わせれば、即席で心も一つになっていない敵など恐れることはない」

「わ、分がっだ! みんな、一緒に戦うぞ!」

 

カーディナルは広範囲強化神聖術を発動してリルピリンを始めとするオーク族や残存の亜人族達を強化し、力を合わせて戦うように指示する。

さらには指揮を執り、それが連携になることで怪我人は出ても死者は出ないように取り計らう。

大規模神聖術を発動して一気に吹き飛ばすこともあれば、

下級神聖術を大量に同時発動して援護も行うし、治癒術で味方達を回復させることもする。

知略が加わることで凄まじい戦果を残している。

 

それでも、生きている以上消耗は防げないことであり、連合軍の幾つかの部隊で綻びが見え始める。

人界の兵達は勿論、暗黒騎士団の一般騎士達、拳闘士団の通常団員、亜人族の部隊、

整合騎士達や暗黒界軍の幹部勢もこれまでの戦いでの疲労が窺える。

 

「はっ、死神の斬撃、受けてみろよ」

 

上位と下位の整合騎士、暗黒騎士団長と拳闘王、最高司祭が悪寒を感じ取り、

それを理解した次の瞬間には灼熱と零度の斬撃が駆け抜けていった。

二つの斬撃はアクセス軍を悉く呑み込み、焼き尽くすか凍てつかせながら敵を斬り裂く。

アクセス軍だけでなく、連合軍もあまりの出来事に呆然とする者が多くおり、そんな彼らの前に二つの人影が降り立つ。

 

「キリトの奴も俺に大役任せてくれるのはいいんだが、数が他よりもヤバくね?」

「一対多ならキリト以外で最適なのはハクヤだからでしょ。ほら、キリキリ働く!」

 

一人は黒の死神たる男、インプであるハクヤ。

右手に氷の大鎌『アイスエイジ』を、左手に炎の大鎌『コロナリッパー』を持ち、臨戦態勢である。

レプラコーンのリズベットは普段こそメイスをその手に持つが、

いま持っているのは伝説級武器(レジェンダリーウェポン)の『雷鎚ミョルニル』である。

 

「へいへい……ところでさぁ、リズ。俺が頑張ったりしたらなんかある? ご褒美的な?」

「……全部終わったら、ね///?」

「ん、なんか滅茶苦茶やる気出た! ()ってくる!」

 

明るげな笑みから一転、獰猛な笑みを浮かべたハクヤは両手の大鎌を振るいながら敵の集団へと突っ込んだ。

焼き尽くす灼熱の鎌と凍てつかせる零度の鎌が襲い掛かり、一片の慈悲もなく敵を両断していく。

ハクヤに宿る、燃えるような怒りと冷めきった怒り、二つの怒りをコントロールできているからこその隙の無い戦いぶりだ。

 

「煽り過ぎちゃったかなぁ、まぁ嘘は吐いてないからいいわよね///っと、あたしもやることやっちゃわないとね」

 

リズベットにも迫る敵、しかし一対一ならばこの武器を持つ彼女にそう敵う者はいないだろう。

振りかぶって敵に命中させた雷鎚、こちらは灼熱の如き雷が発生して敵を一瞬で消し炭にした。

 

「これ、こっちの世界だとこんな感じなのね…」

 

これには使った本人も驚いた様子。ALOではエフェクトデータに限界があるが、UWはそうではないからだ。

そんな彼女の許へ今度は複数の敵が向かうが、これを見逃すような男ではない。

 

「神霆流闘技《双・霈渦(そう・はいか)》」

 

全速力で敵の背後へ接近し、飛びこみながら両手の大鎌を振るった。

右のアイスエイジにより氷が発生し凍りつきながら一人を切断、左のコロナリッパーで炎が発生し焼きながらもう一人を切断、

鎌を振った勢いで振り返りながら着地して最後に上から両方同時に振り下ろした。

鎌の型の闘技《双・霈渦》、本来は飛び込みながら一本の鎌を両手で振るい、その勢いで振り返り着地して鎌を振り下ろす技である。

この技によりリズベットに向かっていた敵は数人が巻き込まれ、残りが到着する前にハクヤは彼女の許に辿り着いた。

 

「驚いた、キリトの仲間ってのは揃ってああ(・・・)なのか?」

「あの娘が持つ大鎚、神器以上の力を感じる…」

 

ハクヤの無慈悲な殺戮に戦慄するベルクーリ、一方でリズベットの持つミョルニルにカーディナルは興味を示した。

 

キリトに次ぐアウトロードのNo.2であるハクヤとその恋人にして雷鎚を持つリズベット。

死神とその得物を磨く少女に立ち向かう勇気が果たして敵の中にあるものか…。

 

 

 

 

ALOにおけるギルド最強といえばアウトロードであるが、他にも上位ギルドは多くある。

中でもかつて【絶剣】のユウキが所属していた『スリーピング・ナイツ』は彼女が去ったいまでも各々の実力は上位に位置している。

現ギルマスであるシウネーを始めとした面々も仮想世界を愛したユウキや先達の為、

自分達の友であるキリト達の為にとUWへコンバートした。

 

そして発生した中国と韓国のプレイヤー達の不正アクセス。

シウネーこと安施恩(アンシウン)にとっては同郷の者達であり、同時に凄く悲しいと思ったことだった。

彼女は自国の言葉を話して説得に当たり、幾人かは耳を貸してくれた上に説得にも応じて、すぐにログアウトしていった者もいる。

しかし、迷った者やログアウトしようとした者を裏切り者とし、断罪するように耳を傾けた者達を攻撃する奴らがいた。

 

味方を倒した者達は標的を再びスリーピング・ナイツに変えて襲い掛かろうとしてきた。

だが、最も前にいた者達が次から次へと首を掻き斬られていき、

その光景に恐怖して動きを止める者もいるが後ろから押しだされてしまえば暗き刃の餌食になるしかなく、

そこまできてようやく後続も異常な事態に動きを止めた。

 

「シウネー、これ以上は無意味だ。もうコイツらがダイブして五分以上経っているし、ログにも確り残っているはず。

 それに扇動されたからとはいえ、これは知らなかったじゃ済まされないことだ。

 知ろうと思えば、知る手段はたくさんあったんだからな」

「お父さんが言ってた。知らないことそのものは悪いわけじゃない、知ろうとしないことが駄目なんだって。

 知ろうとして調べて知ることが出来なかったらそれは仕方が無いけど、最初から知ろうともしないのは駄目なんだ…!」

「クーハ君、リンクちゃん…」

 

影妖精族(スプリガン)の少年、アウトロードの一人であるクーハは短刀の『宵闇』と『常闇』を構えて鋭く言い放つ。

彼の双子の妹である音楽妖精族(プーカ)のリンクは竪琴を抱え、自身の考えをシウネーに伝える。

そう、最早事態は簡単に収まるところではなく、最後までやり遂げなければならないのだ。

二人とシウネー達の後ろには数百人の妖精や人間が集まっている、SAO・ALO・GGOなどプレイヤー達だ。

 

「オレの愛した人(ユウキ)が愛した世界の一つだ、お前らの好き勝手にはさせない!」

「戦闘、再開だよぉっ!」

 

クーハは先陣を切り、真っ先に敵へと斬りかかった。

彼に続いてシウネー達スリーピング・ナイツや前衛向きのプレイヤー達が続き、

後衛向きの者達は音楽魔法や強化魔法で強化を行い、魔法攻撃の雨が敵陣に降り注ぐ。

 

クーハは最前線における乱戦を利用し、あらゆる死角から確実に一撃で相手を仕留める。

短刀二本で首を掻き斬り、心臓部を突き刺し貫いて抉り、頭部を八つ裂きにし、あらゆる手段を用いて急所などを攻撃する。

死角を妨害するための補助魔法や幻惑魔法も行使しており、

《隠蔽》スキルや彼自身の技能である気配の一体化によりクーハ自身を捉えることは難しい。

 

そんな中、味方に苦戦する者も現れ、その中でも目に付いてしまった者達がいる。

それはスリーピング・ナイツであり、その中でも魔法による援護を主としているシウネーが危ない。

一人の敵が彼女に斬りかかろうとした時、その敵が腹部から何かで貫かれてHPが無くなり消滅した。

 

「大丈夫カイ、シウネー?」

「アルゴさん、ありがとうございます!」

 

シウネーの前、敵との間に潜り込み武器の爪で敵の腹部を貫いたのはケットシーのアルゴだった。

一先ずホッと息を吐いたクーハだが、それでも彼女達に向かう敵は多く、急ぎその場所へと駆けつけて敵を斬り伏せる。

そこへ分厚い鎧に身を包んだ赤いプレイヤーが迫る、全身鎧であり継ぎ目がほぼないことから苦戦することをクーハは判断する。

味方も厳しい状況、それでも退くわけにも誰かに任せるわけにもいかない。

 

「負けないさ…ユウキの為にも、絶対に…!」

『(クーハは負けないよ。僕が付いてるからね)』

「え…?」

 

クーハがいまは亡きユウキのことを強く想った、その時だった。

少女の声が聞こえてきた、そして自身の目前には粒子状が集い剣の形に成っていく。

それは紛れも無くユウキの愛剣『ダルクブレイド』である。

剣に重なるように一人の少女が姿を現す、インプの姿をした少女の名はユウキ。

 

『(クーハ、行けるよね?)』

「っ、当たり前だろう! オレはユウキの夫だぞ…!」

『(うん、やっぱり嬉しいな/// それじゃ、一緒に行こう!)』

「あぁ、行くぞ!」

 

短刀の宵闇と常闇を鞘に納め、クーハは空中に現れた片手剣ダルクブレイドを手にする。

迫るアクセス軍の強者、それを前にしても揺るがない少年はスキルを発動する。

それはいまやただ一人、アスナだけが持つユウキから受け継いだオリジナル・ソードスキル(OSS)

十一連撃の奥義でもあるその剣技の名は《マザーズ・ロザリオ》。

 

相手の防具を無視したかのような強力な剣技は鎧を粉砕し、そのまま敵を仕留めた。

いまの《マザーズ・ロザリオ》はスキルではなかった、導かれるままにクーハは振るったのだ。

 

「うそ、ユウキ…!」「お義姉ちゃん…!」「「「「ユウキ…!」」」」「こんなことガ…!」

 

シウネーが、リンクが、ジュンとテッチとタルケンとノリが、アルゴが、確かにユウキの姿をクーハに重ねてみた。

いまもなお彼と共に在り、戦場で共に剣を振るう姿が見える。

きっと見えているのはまだ彼らだけだろう、それでもユウキはここへ来た。

 

強い想いがユウキにはあった、ユウキを強く想う者達がいまなおいる、死に去る時もVR世界に在った、

命が消える時にメディキュボイドを使用していた、ザ・シードは繋がっている、そしてこのUWには想いこそが形を成す。

その全ての軌跡が重なりあい、必然として奇跡が起きた、ユウキの残留した意志と遺した剣が形成されたのである。

 

「『行こう、未来(あした)のために』」

 

最愛の者と共に二人の少年少女は戦場に自身の軌跡を刻む。

 

 

 

戦いはまだ続いているが、確実に終わりへと近づいている…。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

今回も二日遅れるという事態になってしまい申し訳ないです、とりあえず完成できてよかったですが…。

 

アウトロードのメンバー、というよりも黒衣衆こと神霆流が大暴れした話でしたねw

 

なお、ユウキに関してはここで絶対に出そうと思っていました、

SAO時代のグリセルダさんの例とSTL並みのダイブ率を出すメディキュボイドが合わせ、

なおかつ想いが力となり形を作るUWだからこそという個人的解釈w!

 

UWでの細かな戦闘は次回で終わりです、ついにラスボスとの戦いになります。

 

キリト&アスナVSPoH(ヴァサゴ・カザルス)、ハジメ&シノンVSサトライザー(ガブリエル・ミラー)の構図。

 

ユージオとアリスの戦闘風景も次回ですね、まぁ結果は分かりやす過ぎますがw

 

それでは次回もなんとか書けるように頑張ります!

 

ではまた・・・。

 

 

 

 


 
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