No.826709

司馬日記外伝 白蓮のしくじり先生

hujisaiさん

お久しぶりで御座います、皆様のポチり振りに安心して白蓮いじめをさせて頂きました。
その後の、とある武将の講義を聞く司馬馗(季達、四女)ちゃんと司馬恂(顕達、五女)ちゃんのお話です。

ところで相変わらずネタには飢えております…御採用させて頂いて面白いものが書けるかどうかは分かりませんが、ネタは常時お受付致しております…

2016-01-24 22:04:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8482   閲覧ユーザー数:5849

人混みの中、見慣れた髪留めで両脇にぴょこぴょこと跳ねる髪を見つけて手を振った。

「季達お姉ちゃん、こっちこっち!」

「あ、いた顕達!ごめんごめん」

小走りに向かってくる姉を見て、隣席に置いた荷物を自分の膝の上に置いて一人分の席を空ける。

「午後休取るって言ってたじゃん」

 

「ごめんごめん、第三小講義室って分かんなくってさ。私らが在学してた頃まだここ建ってなかったでしょ?」

「ちゃんと案内図見ればいいのに」

「まあ間に合ったんだし勘弁してよ」

「まあね」

 

間もなく講義開始だ、周囲の人もだいぶ着席して立ってる人もまばらになってざわめきも小さくなって来た。周囲を見回すと、卒業からそれ程経った訳でもないけど懐かしい制服。賢そうな娘や、如何にも腕利きですって感じの娘達がそれなりにピシッとした姿で前を向いている。

「(ねえ顕達)」

「(何?)」

「(ちょっと恥ずかしくない?この学生服の中で役所の制服とか)」

「(卒業生招待私達だけじゃないじゃん、気にしなくてもいいんじゃない?それよかなんか皆凄く出来る娘っぽく見える方が私気になるけど)」

「(あ、それは私も気になった。てか璃々ちゃんいないの璃々ちゃん)」

「(この講義高等部だけらしいしあの子確か飛び級…あ、先生来た)」

 

教室の前の扉が開く音と共に室内が静まり返り、笑顔の水鏡先生とその後ろについて赤髪の女性が入室して来た。水鏡先生は相変わらず老けない、あれは絶対何かおかしい。仲達姉様に水鏡先生って幾つなのか聞いてみたけど、「私が幼達位の時には既に荊州の女学院の院長をされていたと思うので、それなりではある筈だが」って首を捻る位だ。きっと妖怪の一味なんだろう。

「それでは本日は特別講義で公孫瓚先生に来て頂きました、貴重なお話が頂けるので拝聴して下さいね。では公孫瓚先生」

「どうも、公孫瓚伯珪です」

 

「(普通に可愛いね)」

「(うんまあ、普通の可愛さだね)」

会釈とともにぴょこんと揺れる後ろ髪。まあ鬼神の様じゃないし、鋭利な刃の様でもない。なんつーか、オーラが無い。仲達姉様が『白蓮殿は立派な方なので是非拝聴するといい』って勧めるのでじゃあと思って季達お姉ちゃんと休暇取って聞きに来たけど、こりゃハズレだったかな。仕事忙しいのになぁ、と思ってちょっと肩の力が抜けてしまう。

 

「じゃまず、簡単に自己紹介から。名前は公孫瓚伯珪、今は蜀で別駕やってます。けどま、実態は何でも屋だな。他の事務方や軍の事業を補佐したり、桃香…蜀王や丞相から直接降りてきた仕事を本国向けに詳細を決めたりとかだ」

事業体系がかなりはっきりしてるうち(魏)には多分無い仕事だ、ものすごい高位の人たちは分かんないけど。そういえば蜀の同期の新人の娘がうち(蜀)は人材まだまだ足りないからなんでもありで大変とか言ってたっけ。

「今日話すのはどっちかって言うと今の事よりも、いや今の事もあるんだが、まあ今まで歩んできた方の話だな。じゃ今日の資料の一頁開いて。私の元々の役職って言うか立場、後漢末期の頃は右北平とか薊郡だか啄郡だかの太守とか、まはっきりしませんがそんなもんでした。そこで一つ転機が訪れます、そう【董卓打倒】。皆知ってると思うけど今の総務室副室長、月―――董卓だな。の討伐戦が始まった、その檄文を見て私は愕然とした。その理由は何か?」

 

見回されるけど、蜀の歴史までは知らんがな。

「蜀の娘なら聞いて知ってる娘いるかな。蜀の娘居る?…うん、じゃそこの子。…そうか、知らないか。まあ知らないよな。答えは次の頁、【私の名前が無かった】。十七鎮まで皆役職と名前が書かれてるのに、私のところだけ【第十四鎮 北平太守】」

 

あるのそんなの。よその部局に文書送るのにだって姓名と役職(兼務があったりすると厄介だ)はうるさく言われるのに。

「その当時はまあこれ書いたの麗羽だから、当時の麗羽だからしょうがないよなって思ってたけど、今思えばこれが見過ごしちゃいけない危険信号だったんだな。ただその頃から私に警鐘を鳴らしてくれていた奴はいた、そいつの名は星、趙雲な。その頃星は事ある毎に私が英雄の器じゃない事をからかい半分に何度も教えてくれていた、しかし私はそれが周囲から完全に埋没するほどだと言う事に気づけなかった。それはしょうがなかったと言えばしょうがなかったかもしれない、腕は無茶苦茶立つけど食客だった星の言う事をどれほど真に受けて行動出来るか?ただここが最初にして最大の【しくじり】だったかな、と思う」

「(それこの人悪くないよね?)」

「(うん)」

季達お姉ちゃんが小声で囁くのに答える。こんなのがしくじりでたまるかとか思うけど。

 

「で、次の頁。【麗羽に敗れ桃香の元へ】まあ汜水関でも虎牢関でも大した活躍も無くその後、私の勢力は麗羽…袁紹に滅ぼされる。問題はその後だ」

滅ぼされるって、そこ重要なとこじゃないの?

「星に助けてもらい身を寄せた桃香の配下になったのは全く問題なかった、むしろ有難い位だった。桃香はおつむはちょっとアレだが、君主としての器は私よりはあると思ったしな。問題はそこでの役割だ、そこで与えられた私の仕事は何だったか」

 

今別駕なんだからそれなりじゃないの?

「ん?」

あ、目が合った。やば。

「じゃ、そこの君」

指された。やばいこの格好社会人ってばれてるし魏の人間だけどあんまり大外れ出来ないし水鏡先生ニコニコしてるし。

でもこれ程よく外す事が期待されてるんだよね?えーとえーと、その頃劉備が確か徐州牧?だっけ?ってことは…

「…広陵太守、とかでしょうか」

「うん、まあ前職まがりなりにも州牧だからその辺でもおかしくないが正解は次頁」

良かった、期待通りっぽい?水鏡先生の方をチラ見すると、笑顔のまま声を出さずに口元が動いていた。

 

「(ち)」

「(ん)」

「(と)」

「(う)」

 

「」

あかんやらかした、思いっきりうちの先輩が王都来る前にずっといた職場だった…東側で知ってる郡の名前をつい適当に言っちゃった私ってほんとバカ。まあ陳登さん余りそういうの気にしない人だけど。

「(それ陳登さんだよ)」

「(わかってる!言った瞬間気づいた!)」

 

暫く水鏡先生の方見れない。お姉ちゃんに小声で答えながら資料をめくると、【雑用】と大きく書かれていた。

「待っていた仕事は雑用だった。帳簿の整理、装備品の発注、戸籍の調査、軍兵の班決め、もう何でもありだった」

蜀は人が足りない足りないってよく聞くけど昔からだったの?か、ひょっとしてこの人すごく仕事出来ない人なのか。

でもあの仲達姉様が褒めるんだからなぁ…まあ仲達姉様もよくズレてるけど。

「今でもある程度そうだけど、その頃まぁ確かに桃香の陣営は領有面積に比べても人材が不足してたし、当時から天才の呼び声の高かった朱里雛里…諸葛亮と龐統から是非って言われたらまあ嫌な気はしないし、立場も立場だししょうがないかなと思ってそれなりに真面目に取り組んでた。しかしもう、この頃既に私の位置は決まり始めてたんだな。更に後に霞…張遼から聞いた衝撃の一言。これが次の頁」

 

「【当時、(蜀で)まだ一刀に心の股開いてなさそうなんはあんただけやったで】」

うわぁ。えぐ。

「ちょっと具体的過ぎる話だけど、…えと、水鏡さん、いいんだよな?この娘達」

教室の隅に立つ水鏡先生に伺いを立てるように振ると、笑顔を崩さず先生が会釈した。

「(あれってこういう話していいかって事?)」

「(じゃない?今日講義聞きに来てる娘達って全員後宮入り希望者らしいよ)」

うへぇ…

改めて周りを見回してその人数に軽く眩暈を起こす。さっきよりも周りが美人でいい体してるような気がしてきたし。

もう何年かすれば今の人達が女引退して、そうすれば競争率少し下がるからそこからがあたし達の時代だとか思ってた自分の甘さが木っ端微塵に打ち砕かれる。せめてもう早く引退してくれないかな水鏡先生とか。

 

と思った瞬間、眉間を殴られたような、バチンという衝撃を受けてのけぞった。

「(っ!?)」

目から火花が出て、反射的に涙腺が緩む。カラン、コロコロという何かが転がるような音がする方を見ると白墨が転がっていた。

「先生はお忙しい時間を割いて講義においで下さっています。静かに講義に集中して下さいね」

笑顔のままの水鏡先生が、指の間に予備の白墨を挟んでこっちを見ていた。くわんくわんするおでこを抑えながら涙目で黙礼する。

考えただけで察知するとはなんてババ…お姉様だ。剣の腕も相当だって言う蜀の徐庶さんが、新人合同研修の指導員で来てくれた時の打ち上げで『女学院卒と三国塾の最近の卒業生はあの妖怪ババァにだけは逆らうな』と真顔で言っていたのを思い出す。

「(余計な事考えなければいいのに)」

「(つい…)」

 

「桃香はもう会った瞬間そうだったってのはよく言われてたし、これはと思ったら物凄く思い切りがいいのは桃香の短所でもあるけど長所でもある。ただ他の連中も、一刀とはそれなり以上に接触はあったとは思うけど既にそこまでってのは私は思いもしなかった。あんまり露骨に好きそうにしない星でさえ霞に言わせれば『あないなちょっかいのかけ方、パンツ降ろして尻振っとるようにしか見えへん』て言われたし、蜀以外の連中に聞いても余り大差ない答えだった。まぁ、魏も呉も大概だったらしいけどな。なにしろ、仕事でも頭角は現れず、一刀との仲も多分に遅れを取っていたんだな。それがそのまま現在まで尾を引くことになる。その後の私の埋没路線が以下の通りだ」

 

「【後宮入りほぼ最後尾】統一前からの付き合いがある奴らの中で少なくとも蜀では私が一刀と結ばれるのが遅かった、旧蜀の連中は分からないけどな。【会議出席者名札が席に無い】これももう当たり前になって、自分で持参するようになった。【総務室担当部長就任→即解任】一刀との接点が多くて超人気職場の総務室の担当部長に就任したが、事業が取りやめになって数日で解任。【夜枠削減】一刀も女の数が増えてきたんで、一人当たりの頻度を下げる話になったら真っ先に私の枠が減らされた。【料理大会優勝も効果なし】料理大会で優勝したんだが結局華琳、月、流琉で殆ど回して残りを祭さんとか他の女が偶に作ってる。【幻の一着】馬にはそこそこ自信あったんだけど、競馬大会で珍しく一着になったかと思ったら麗羽の力が絡んでたらしくて無効試合になったりな。まあそれでも一刀と縁が全く無くなった訳でもないし、仕事も成果はそれなりに自分では納得いく程度には残っているから自分では今の暮らしにもう納得し始めてる」

 

「(ひょっとしてこの人いじめられっ子なんじゃない?)」

「(私もそう思う)」

季達お姉ちゃんの小さな相槌。ところでこういう打たれ強さが必要だって授業だったのこれ?あと蜀って割とギスギスしてないって聞いてたんだけど、聞くと見るではってやつなのかな。

 

で、私の出した答えが最後の頁。【割り切る】。まあ人生諦めが肝心だ。昼食会で自分の分が無ければ持って来る、点呼で呼ばれなければ自分で居るって言う、会議の案内来なければ事務局に問い合わせる、名前忘れられてそうだったら自分から名乗る。いちいち怒ったり凹んだりしたって疲れるだけだからな」

「(この人聖人?)」

「(か、すごい小さい人かどっちか)」

偉い人たちって大体ギラギラしてるかキラキラしてるかどっちかなんだけど、こんな人もいるんだなー。尤も私はこんな扱い御免だけど。

 

「・・・御講義中横からすみません、ですが一刀さんは公孫瓚先生の事を忘れたりする事は無いと聞いておりますが」

流石に余りに痛い話に水鏡先生が笑顔を僅かに困り顔にさせてフォローした、あの水鏡先生の表情を変えさせるとは(悪い意味で)やるな、この先生。

「…ん、まあそうだな、あ、そうですね。誕生日とか、出会った日とか、おにぎり記念日とかは、ん、まああいつ色々気ぃ使ってくれるんで、そこはまあ私も不満無いって言うか」

お、デレた。てかおにぎり記念日って何?

「(一刀様、記念日関係全部覚えてるって本当なんだね)」

「(みたいね)」

てことはきっと私もなんだよね。うちで初めてお会いした日とか、初めてした日とかか…うわぁちょっと恥ずい。嬉しいけど。

 

「副題で『しくじり先生~私みたいになるな』ってあってしくじった女って言えばまあ私か蓮華かってよく言われるけど、よーく考えれば少なくとも私のしくじりってのは『自分が英雄の一角じゃない』『周りの女達が化物揃いだった』って事に気付くのが少し遅かったって事だけで、ある意味収まるべき位置に収まっただけだと思うんだよな。君らも先輩達見てりゃ分かるだろうけど、化物みたいな連中ばっかだから。どっかで諦めって言うか、割りきりが必要って話。じゃ、私の話は以上」

まぁ伯達姉様や仲達姉様見てもそうだろうなとは思うけど、一国の別駕がさっき聞いたような扱いって流石に軽すぎませんかと心の中だけで突っ込んでおく。

「…公孫瓚先生有難う御座いました。それでは貴重なお話を頂きました公孫瓚先生に拍手を」

水鏡先生の言葉からの皆の拍手に公孫瓚先生が一礼すると資料を纏めて帰ろうとして、ふと顔を上げた。

「あ、君らヤンデレにはなんないでくれよ。恐いから」

そう一言言い残して教室を出て行き、今日の講義はこれで終わりだ。荷物を纏めて季達お姉ちゃんと席を立つ。

 

「ちょっと時間あるけど役所戻る?」

「ううん、休暇取ってるし」

「じゃ、美羽ちゃんの知り合いの人?にやってもらうって言う裏講義ってやつ聞く?第七教室で五分位で終わるらしいよ」

「…んー、いいや。美羽先輩、なんか困ってて出来れば来ないで欲しいって言ってたし。ところで先輩ちゃん付け怒られるよ」

「いいじゃん美羽ちゃん先輩だけど年下だし可愛いし。まいいや、私も帰ろ」

 

 

 

 

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「白蓮さん?…そぉですねぇ、なかなか上手く立ち回ってる人だと思いますよ?ある意味『構わせ上手』って言うんでしょうか、一刀さんの性質を最大限利用してるあたり無自覚な狡猾さは大したもんじゃないですかね?…どうやってって、ほら、一刀さん自分絡みで泣いてたりしょげてたりする女に対する嗅覚とフォロー速度は化物級じゃないですか?逆に言えば、構って欲しけりゃ泣けばいいみたいなとこありますから。自尊心も一刀さんに掛かる迷惑もクソも無くってとにかく構われたい方は積極的にそういう事に走りゃ良いわけですよ。で、あの人はどうも先天的にそういうネタ…一刀さんが寄って慰めに来るネタを引き付ける体質を理解してるのかしてないのかは知りませんけど、結果的にかなり恵まれてる方だと思いますよ。普通に考えれば自尊心ズタボロな講義やらされてるんですから今夜だってどうせ一刀さんが自主的に慰労されるでしょうし、具体的に言っちゃえば国で五番目位には一刀さんに抱かれてるんじゃないですか?…まあそりゃ、それぞれの国王さん達は上位に入ってるんでしょうけど。…4番目?さぁ…色んな方がいますから、そこまでは私も知りませんけど。ま、一刀さんの事が良く理解出来て、上から目線で鬱陶しく無く下から目線で疲れさせたりもせずガツガツしすぎで好意の押し売りがましくもなく、疲れてそうな時は授乳だけしてあげたり平凡な夜の作業に飽きてそうな時は公衆の場で周りに判らない様にスカートめくって見せたりムラムラしてるなって時はM女になって激しく犯させてあげたり、えっちと愛情がある悪友っぽい恋人じゃないですかぁ?

あっ御嬢様!そろそろ明日一刀さんとこに行く時に着ていくブルマとニーソを生協に取りに行く時間ですよ!…いいじゃないですか今更本当の事ですしー。それじゃ皆さん、これで失礼しますねー」

 

 


 
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