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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百四十七話 狐と鬼襲来

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2016-01-11 09:11:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10655   閲覧ユーザー数:9752

 「じゃあフェイト、気を付けて帰れよ」

 

 「うん…」

 

 あの後、すぐに目覚めたフェイトと共に生き残った管理局員を本局に連行し、他の執務官や捜査官に事情聴取を引き継いでから俺とフェイトは海鳴市に戻って来た。

 既に海鳴市はうっすらと空が明るくなり始めている時間帯だった。

 フェイトは目覚めてから元気が無い。それはディオスの仲間の1人、リアラという女に負けたのが原因だった。

 

 「相手の切り札は初見だった訳だし、防ぎようがなかったんだろ?仕方ないって」

 

 「けど実践ではそんなの理由にならないから…」

 

 「……………………」

 

 うー……ネガティブに陥ってるなぁ。

 確かに『相手の切り札に何の対策も出来ず負けた』のは事実で悔しいんだろうけど、逆に『相手に切り札を使わせる状況まで追い込んだ』ってポジティブに捉えてくれたら良いんだが…。

 

 「しかしリンカーコアを完全に停止させて魔法を封じる『魔封煙』か…」

 

 確かに魔導師にとっちゃAMF以上の脅威だな。

 

 「吸い込むのが駄目なら息を止めて戦うかガスマスクでも装備して体内に吸い込まない様にするか…」

 

 「後者はともかく前者は厳しいよ。私、機動力を軸にして戦う魔導師だから余計に」

 

 だねー。

 フェイトやレヴィみたいに機動力が戦闘スタイルの主軸になってる魔導師にはホント天敵だ。

 

 「…っと、もう着いたな」

 

 フェイトの家に着くまでの間、何とか暗い雰囲気から脱出させようとしたけど結局無理だった。

 最後に『今日はもうゆっくり休んで英気を養ってくれ』と言い残し、俺も家路についた………。

 

 

 

 家に帰って来ても何故か眠気が訪れず、気付けば太陽もしっかりと見える朝の時間帯になっていた。

 

 「「「「「いただきます」」」」」

 

 長谷川家のリビングにて俺、ジーク、ルーテシア、メガーヌさん、アギトの面子が揃って朝食タイム。

 今日の朝食担当はメガーヌさん。用意されたのは鮭の塩焼きに出し巻き玉子、豆腐とワカメのみそ汁に漬物、白米という日本人にとってお馴染みの献立が並ぶ。

 皆して和気藹々な雰囲気の中、ルーテシアがふと言った。

 

 「そう言えばお兄ちゃん、聖帝軍に新しい子が入隊したんだよ」

 

 「え?マジで?」

 

 鮭の身を箸で切り、ご飯の上に乗せて一緒に口の中に運ぶ。

 美味ーい。

 

 「その子、お兄ちゃんの文化祭にきてたんだ。で、スカウトされて入隊したみたいだよ。この辺では見掛けない子だったから遠くから来た子だと思うけど」

 

 その子を勧誘したのは雄真君らしい。

 サウザーはもう知ってるんだろうか?

 

 「一体何処の子なんだ?不幸にも聖帝軍に巻き込まれた子は…」

 

 頭下げに行かなきゃいけないかもしれないじゃないか。

 箸で切った出し巻き玉子を一切れ摘まんだ時に、ルーテシアがその子の名前を教えてくれた。

 

 「確か『エリオ・モンディアル』っていう名前だったかな」

 

 「……………………」

 

 俺は箸で摘まんだ出し巻き玉子を口に入れる直前で固まった。それはもう『凍れる時間(とき)の秘法』を掛けられたみたいに。

 …聞き違いだろう。

 少しの間を置いて硬直が解けた俺はルーテシアに確認する。

 

 「すまんルー。少し考え事してて聞き逃した。もう一回その子の名前教えてくれ」

 

 「『エリオ・モンディアル』君だよ」

 

 「……………………」

 

 聞き違いでは無かった。

 ……いや、まだそうと決めつけるのは早計だ。

 俺の知っている『エリオ・モンディアル』という少年はフェイトに連れられ、今地球に来ているし、文化祭にも遊びに来てくれていた。

 だが、全く同姓同名の別の少年が遊びに来ていて聖帝軍に入隊したっていう可能性もあるんだ。

 てかそうだと信じたい。俺の知ってるエリオだとフェイトに余計な心労与えちまうんだよ間違い無く。

 

 「そ、その子の特徴とか聞いてないか?」

 

 「確か……赤毛の少年って言ってた様な…」

 

 もはや疑い様が無いかもしれない。

 

 「(フェイトに心労与えちまうよな)」

 

 ただでさえ意気消沈気味のフェイトの精神状態が激しく不安になる。

 そんな現状を娘LOVEのプレシアさんが知れば動くのは必定。次元跳躍魔法で俺に雷が降り注ぐ未来しか見えない。

 

 「…常に天目反射(サードアイ)を発動させとくか」

 

 俺はしばらくの間、究極の回避系レアスキルの常時発動させておこうと即決したのだった………。

 

 

 

 昼食を食べた後も一向に眠気が訪れない俺は外出する事にした。

 昨日の事件に関する報告書等は昼食までの時間内に作成し、既に地上本部にメールで送信しておいた。

 で、家を出た時に

 

 「あれ~?勇兄じゃないッスか~?」

 

 「ん?ああ、ウェンディか」

 

 丁度お隣さんのウェンディとエンカウントした。

 

 「どっか行くんスか?」

 

 「特に目的は無いな。適当にブラブラしようかなあと思ってる程度だし」

 

 逆にウェンディは何処か行くのか尋ねてみたけど

 

 「あー…ウーノ姉が『家中掃除するから』って理由で追い出されたんス」

 

 「手伝わないのか?」

 

 「あたしがいても戦力にはならないッスよ~」

 

 何だ?逆に散らかしてしまうとか?

 

 「それにウーノ姉以外は皆外出しててドクターも寝てるんで正直ヒマなんスよね~」

 

 ほほう。ナンバーズは皆いないのか。

 

 「家でゴロゴロしたかったんスけど、ウーノ姉怒らせたら怖いんで素直に言う事聞いて家を出たら勇兄を見掛けたって訳ッスよ」

 

 ウーノさん、もう完全にお母さんポジションだしねぇ。

 

 「まあ表で出会ったのも何かの縁って事で、あたしの目的は『適当にブラブラ』から『勇兄にご同行』へ変更ッス!」

 

 「…着いて来るのは良いけど、さっきも言った様に俺も適当にブラブラするだけだから目的地とか無いぞ」

 

 「問題無いッス。1人でいるより2人の方が楽しいに決まってるッスよ」

 

 まあ、道中の話し相手にはなるよな。

 

 「ホラホラ、こんなトコにいつまでもいないで散歩へGOッス」

 

 「はいはい。だから引っ張るな~」

 

 隣に並んだかと思うと腕を絡めて来てグイグイと引っ張り出す。

 さてさて……一体何処に行こうかね~………。

 

 

 

 「……何だかんだで来てしまったのは翠屋」

 

 「勇兄、ゴチになるッス~♪」

 

 しかも俺にタカる気満々の未だに俺の腕に自分の腕を絡め、目を輝かせながら若干涎を垂らしている11番目(ウェンディ)

 まあ、別に良いんだけどね。外出する時はちゃんと財布持ち歩いてるし、翠屋で何か食べるぐらいの金額はあるし。

 俺は空いている片手で入り口の扉を開け

 

 「いらっしゃいませ~♪」

 

 パタン

 

 静かに扉を閉めた。

 

 「???勇兄、何で入らないんスか?」

 

 「いや……」

 

 ……どうやら俺は眠気はこないのに想像以上に疲れているのかもしれない。

 扉を開けた瞬間、物凄いモノが視界に入ったんだ。

 

 「何かよく分かんないッスけど早く入るッス」

 

 ウェンディは脳内で食べるものを選定していたからなのか、俺の隣にいるのにも関わらず、扉を開けた瞬間、視界に映った存在に気付いた様子は無い。

 

 「スー…ハー…スー…ハー…」

 

 少し深呼吸して気を落ち着かせる。

 ……よし!

 俺は意を決して再び扉を開ける。

 

 「いらっしゃいませ~」

 

 「……………………」

 

 やはり目に映る。

 

 「ゆ、勇兄……アレ、何なんスか?」

 

 ウェンディが声を震わせながら聞いてくる。

 てかコイツに見えてるって事は俺が疲れてるという訳じゃないのか。

 

 「アレはこの店で働いてる看板娘の紅茶の精(メイドさん)……の筈なのだが」

 

 俺とウェンディの前にいるのはメイド服に身を包み、俺達を出迎えてくれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドレッドヘアーの巨体マッチョマンだった。

 

 「2名様ですか?カウンター席とテーブル席どちらにいたしますか?」

 

 「「……………………」」

 

 「???どうかしましたか?」

 

 マッチョマンが首を傾げながら尋ねて来て

 

 「り……」

 

 俺は

 

 「リズがグレたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

 

 店内の迷惑になると分かりつつも叫ばずにはいられない。

 

 「勇紀さん!私はここにいますよ!!」

 

 横からそんな声が聞こえてきたのは俺が叫んだ直後の事だった………。

 

 

 

 「シュークリームセット2人前、どうぞ♪」

 

 「「いただきます」」

 

 カウンター席で注文したシュークリームセットが届き、俺もウェンディもシュークリームにかぶりつく。

 

 「ホント、酷いですよ!私と別人を見間違えるなんて!」

 

 「うん、マジゴメン」

 

 俺の横で立っているリズは頬を膨らませてプンプンしている。

 

 「てかあの人誰?何でリズと同じメイド服着てんの?」

 

 現在は他のお客さんの対応をしてるマッチョマンに視線を向け、すぐにリズへと視線を戻す。

 女装趣味でもあるのだろうか?

 正直あの容姿だと需要は全く無いと思えるのだが…。

 

 「彼は美作君って言ってね、桃子が昔通っていた学園に現在通っている生徒なんだよ。三日前から翠屋で働いてくれてるんだ」

 

 リズが答える前に士郎さんが教えてくれた。

 何でその生徒さんが翠屋で働いてるんだろうか?バイト?

 

 「何でもその学園の授業の一環の一つで実地研修(スタジエール)って言うらしいよ。桃子が言うには『現場で働きながら学び、現場の空気を肌で感じてこい』って事らしいよ」

 

 スタジエール………研修生、ねぇ。

 

 「ちなみに彼がメイド服を着てるのは趣味とかじゃないよ」

 

 士郎さん曰く『本人になりきろうとする事で対象の人物の思考を読み取り、技術を盗み、更にオリジナル要素を加える事で昇華させる』事が出来るんだそうだ。

 つまり美作君とやらはリズの思考や技術を盗んでいる最中ってとこか。

 

 「あはは…おかげで今の私より紅茶の淹れ方が格段に上なんですよ……ハァ」

 

 うわー……。

 つい先程まで怒っていたリズに今度は哀愁が漂って周囲の空気がどんよりとしている。

 まあ、自分の十八番である紅茶の淹れ方で上回られたんだ。ショックだろうな。

 『紅茶の精』の異名も形無しである。

 

 「まあまあリズちゃん。そう落ち込まないで」

 

 あ、桃子さん登場。

 

 「リズちゃんにはリズちゃんだけの良い所がいっぱいあるんだから、深く気にしちゃダメよ」

 

 「うぅ…本当ですか?」

 

 桃子さんは頷く。

 まあ接客に関しちゃ彼よりリズにして貰った方が嬉しいし、警戒とかもしないで良いだろう。

 現に他のお客さんも彼に担当されてる時はそこそこ引いているし。

 

 「初見であの人に対応されたらキツいッスよ多分」

 

 …ウェンディ、そう思っても口に出しちゃいけません。

 

 「お母さーん、牛乳の残りが少ないんだけどー」

 

 今度は美由希さんが奥から出てきた。

 

 「そう…なら買い足しに行く必要があるわね」

 

 「美由希、美作君を連れて買い足しに行ってくれ。ついでに牛乳以外にも何か買い足す物があるなら一緒に買ってきてくれ」

 

 「りょうかーい。美作くーん、買い物行くから着いて来てー」

 

 「はーい♪」

 

 荷物持ちとして同行させるのだろう。美作君とやらは美由希さんに着いて行く事に返事していた。

 

 「あの容姿で可愛らしく返事されても怖さしか感じないッスよねぇ」

 

 …だからウェンディ、そういう事は胸の内にだけ秘めておきなさい。

 入り口から出て行く2人を見送った後、リズは再び働き始める。

 

 「しかし美作君を見てると昔の私を思い出すわぁ」

 

 「学生時代の頃ッスか?」

 

 「ええ。あの頃は色々な料理を学んだし、ライバルと言える様な子も沢山いたから辛くも楽しくて充実した学園生活だったもの」

 

 「「へー」」

 

 俺とウェンディはその話に耳を傾ける。

 『地獄の合宿』『秋の選抜』と言われるイベント行事や『食戟』なる勝負事等々、昔話に花を咲かせる桃子さん。

 で、桃子さんは学園を卒業する時は『十傑第一席』なる立場だったとか。

 その意味はよく分からんが桃子さんの事だ。凄い称号なのだろうと俺は思う。一通り思い出話を話し終え、区切りが良いタイミングで新しい客が入って来た。

 スーツにネクタイと言ったサラリーマンっぽい中年男性と…

 

 「……優人?」

 

 クラスメイトの優人、野井原、そして天河家に同居してる静水久だった………。

 

 

 

 「警備局公安4課の鏑木さん…ですか?」

 

 「ええ、幽霊や化け物といった人知を超えた存在(モノ)に対処する組織です。(おおやけ)にはされませんがいつの時代にもあるんですよ。こういうのは」

 

 現在翠屋は一般客が俺達以外誰もいなくなったタイミングで入り口に『準備中』のプレートを掛け、貸切状態になっている。これから話す内容が一般人には聞かせられない内容だからだ。

 公安の人も俺や士郎さんには席を外す様促さなかったって事はそれなりに俺達の事を知っているからだと思われる。

 士郎さんの妻である桃子さんや、俺の側にいるウェンディやリズも関係者だと思われてるっぽいし。

 窓際のテーブル席に優人、公安の人がテーブルを挟んで向かい合わせで座っており、野井原と静水久はその隣のテーブル席。士郎さん、桃子さんはカウンターの向こう側で俺は相変わらずカウンター席に座りながら身体を優人達の方へ向け、ウェンディとリズはそれぞれ俺を挟んで隣に座っている。

 士郎さんは貸切にする事にあまり良い表情を浮かべなかったけど『すぐに話を済ませる』という相手の言い分で渋々ながら頷いた。

 で、優人達が公安の人と一緒にいるのは街中で声を掛けられたかららしい。

 多分偶然じゃなく接触する機会を以前から窺っており、今日にしたんだろう。

 にしても公安ねぇ。『武偵』とはまた違う系統の組織で構成されてんだよなぁ。

 

 「……その公安の人が俺に何か?」

 

 「時間の無駄ですのでそういった質問は止めましょう」

 

 優人、この場でその問いは意味を成さんぞ。

 

 「我々は君が鬼斬り役である『天河家』の直系である事、その能力である『光渡し』を有し、既にその能力を開眼している事も知っていますしウラも取っています」

 

 「っ!!」

 

 「(あらら…)」

 

 優人のヤツ、軽く動揺してるけどそういう態度や表情は基本出さない様、また相手に悟られぬ様にするもんだぞ。

 ……って言いたいがまだまだ裏の世界を知って日の浅い優人だから経験が乏しいのは仕方ないか。

 

 「鬼斬り役十二家と言えばそこら辺の民間の御払い屋や退魔師などとは格が違います。とても野放しに出来る存在ではないのですよ」

 

 「……………………」

 

 古来より時の権力者に仕えていた鬼斬り役十二家は確かにどの家系も優れた能力を発現させてた。

 けど民間の退魔師にも充分な実績を出してる家系もあるんだがな。那美さんや薫さんの神咲家がその筆頭だ。

 

 「君の場合、幼少期に源之介氏から離され、力の封印も施されていたようですから自覚も少ないでしょうが…中々のVIP(・・・)ですよ」

 

 「……それで俺も管理下に?」

 

 「本来なら判明直後に監視をつけるつもりだったのですが、コチラにも色々とありましてね」

 

 色々……。

 判明直後の時期が俺達が高校生になった頃なんだとすると、くえすか飛白さん辺りが手を回したのかねぇ?

 

 「君はまだ若いし今は学生の身。しかし一度直接会って今後の事等を聞いてみたいと思ったのですよ」

 

 「今後の事…ですか?」

 

 「鬼斬り役として活動するなら我々の許へ来て頂きたいですね」

 

 「……活動しないのであれば?」

 

 「…生涯、監視付きの人生を送る事になるでしょう」

 

 ハッキリ言うねぇあの人。

 俺が優人達の様子を観察していると隣の席に座っている野井原が口を開く。

 

 「公儀の狗となるか咎人の如く見張られるか……いつの時代もやり方は変わらぬな」

 

 「それが力を受け継ぐ者の運命というやつでしょう」

 

 傍迷惑な運命もあったものだ。

 

 「《勇兄、あたしもう何が何だかチンプンカンプンなんスけど…》」

 

 「《別に無理して理解しなくても良いぞ。アレだったらシュークリームのお代わりでも頼んどけ》」

 

 ウェンディは桃子さんにシュークリームの追加を注文した。

 そもそもウェンディは妖が存在するって信じてるのだろうか?

 地球出身者はともかくミッドを始めとする異世界の人達って基本幽霊とか否定するからなぁ。

 ウェンディと念話での短い会話を終え、向こうの会話の続きを聞く。

 

 「隣の席に座っている可愛いお嬢さん方は私が不穏な動きを見せれば即座にこの首を斬り落とす事でしょう。ですがこの街の人間は誰1人そんな危険な存在が自分の生活圏内に住んでいるとは知らないのです。それは危険な事だとは思いませんか?」

 

 ここ海鳴市に限って言えばそれは無いと俺は断言出来るね。

 カウンターの向こうにいる士郎さんや買い物に行った美由希さん。さざなみ寮の面々にくえす、各務森姉妹の鬼斬り役。

 遥達ツインエンジェルとテスラ、ナインのツインファントム。

 俺の家の両隣であるフローリアン姉妹とゴットバルト家のナンバーズ。

 後は我が家に住むジーク、ルーテシア、メガーヌさん。

 ユニゾンデバイスのサウザー、レスティア。アギトも俺とユニゾンしたら戦力として数えられる。

 で、俺も一応戦えるから……

 

 「(十分すぎる戦力だなオイ)」

 

 数えてみて改めて思う。海鳴市は人外魔境過ぎだと。

 

 「俺は…………」

 

 優人は一旦間を置く。

 

 「妖だからといって討つのは嫌です。むしろ共に生きて行きたい」

 

 …優人ならそう言うと思った。

 

 「お互いに戦って滅ぼし合うなんて馬鹿げてる!人間も妖も共に暮らす事だって出来る筈なんです!」

 

 少し語尾を強めて発言する優人に対し、公安の人は静かに優人の言葉を聞き入れる。。

 

 「静水久だって最初は俺の命を狙ってやって来ましたが今では仲間です!共存は出来ます!!」

 

 優人の目は本気だ。本気で共存は出来ると思っている。

 しかし公安の人は肯定も否定もせぬまま口を開く。

 

 「……3ヶ月前、新潟の山中で1人の女性が食い殺されました」

 

 「…………え?」

 

 その言葉を聞き優人は硬直する。

 公安の人は固まった優人を無視して更に続ける。

 

 「『狒々(ひひ)』の仕業です。彼女には7歳になる娘さんがいたのですが、その彼女に君は同じ事が言えますか?」

 

 「……………………」

 

 そう言えばそんなニュースが当時報道されてたな。

 あの時は『山中で野生の動物に襲われた』と記憶にあるけど、成る程……ありゃ妖が関わった一件だったのか。

 

 「犯人が人間なら法の裁きで罰する事が出来ます。しかし相手が妖なら法での裁きはおろか、普通の人間では太刀打ちすら叶わないでしょう」

 

 「……………………」

 

 優人は反論しようにも出来ないでいる。

 …ここで現実というモノを否が応にも認識させれられるか。

 

 「君にはそれが出来る(・・・・・・)。しかし君はそれをせず、自分の周りが平穏ならそれを共存と言う」

 

 優人が当たり前の様に『妖との共存』を言えるのはこれまで本当に危険な妖の存在を知らないから。身内であれ他人であれ誰かが妖に殺される(・・・・・・・・・)という現場に出くわしていないからだ。

 だが現実はそうじゃない。

 確かに静水久とか、ここにはいないけど明夏羽みたいに話の通じる妖もいるだろうが、実際には人に害を為す妖の方が多いのだ。

 多分先程公安の人が言った一件以外にも現代で妖が関わってる事件はかなりある筈だ。

 それらの事件が公になっていないのは政府が情報操作を行って世間に妖の存在を知らしめていないからだろう。

 

 「共存……良い言葉です。実に崇高ですね。しかし『人間』と『妖』、異なる2種族が共存するには種族間の狭間に立って統べる王が必要です。その王は誰になるんです?君ですか?」

 

 「それは…………」

 

 「ならば尚の事、罪を犯した者を裁き、断罪するのは義務ではありませんか?」

 

 「う…………」

 

 押されてるなぁ優人のヤツ。

 ……このまま見てるだけってのもアレだし、そろそろ助けに入るかな。このまま流されて政府の配下にされるのも親友としては見ていられないしな。

 俺がそう思うのと同時に隣のテーブル席に座っていた筈の野井原が一瞬で優人の横に移動し、耳打ちする。

 

 「呑まれるな若殿。今はまだ決断の時ではない」(ボソッ)

 

 野井原の奴が動いた姿を視線で追いつつ、今まで傍観に徹していた俺は口を開く。

 

 「鏑木さん……でしたっけ?少し解せない事があるんですが」

 

 「……何でしょう?」

 

 「それは「何故『今』なのじゃ?」……って」

 

 野井原が割り込んだ。

 アイツも俺と同じ疑問を抱いてるんだとは思うが、出来れば俺が言い終わってからにしてほしかった。

 

 「くえすや飛白殿の差し金と言う訳ではなさそうじゃが…どうにも解せぬのでな」

 

 「うんうん。ソチラの事情とやらで優人の事を監視できない状況にあるっぽいですけど、今優人を政府側(ソチラ)に引き込もうとする理由が読めないんですよね。むしろ光渡しに開眼してると言っても、実力的に未熟者のへっぽこで戦場での経験なんてほとんど無い優人を引き込んでも大した戦力にならないでしょうに」

 

 「……うおーい、言葉に棘があるぞ勇紀ぃ」

 

 いや事実じゃん。

 優人の現状なんてくえすか飛鈴ちゃんを通して飛白さん辺りが報告してそうだし。

 なのにこのタイミングで優人に接触し、鬼斬り役としての決断をさせようとしてる向こう側の意図が読めんのだよ。

 

 「ひょっとして何か想定外の事態(・・・・・・)でも起きたんですかね?未熟者の優人を戦力として取り込まなければいけない程の切迫した事情とか」

 

 さあ、そこら辺の理由を語ってもらおうか。

 

 「……コチラの会話だけでそこまで推察するとはその知能、噂に違わぬものですね。長谷川勇紀君」

 

 「そりゃどーも。で、理由は何なんです?」

 

 「…そうですね。お話します」

 

 この状況で嘘を言うとは思わないが念のため、日輪庭園(ヘリオスガーデン)使っとくか。

 

 「実はここから西……正確に言うなら西日本の妖の数が減っているんです」

 

 「「「減ってる?」」」

 

 俺と優人、野井原は同時に反応する。

 

 「はい」

 

 「何じゃ、減っておるなら若殿を無理にでも引き込む事等無いではないか」

 

 野井原の言う通りだ。

 くえすも日本に戻ってきている今、優人を加えなくても深刻な問題にはならないだろうに。

 にも関わらず優人を引き込む理由(ワケ)……

 

 「減ってる理由が自然的なものではなく意図的なものだとか?」

 

 「そうです。自然消滅などではなく喰われているんです(・・・・・・・・・)

 

 喰われてるだと?

 

 「何かが妖を喰い殺しながら西から東(コチラ)に向かって移動しているんです。この様な芸当、雑魚の妖にはとても出来る事ではありません」

 

 何かっていうけど、どう考えてもそれなりの実力を誇る妖って事だろ?

 

 「あの!ひ…人も襲われてるんですか?」

 

 「既に民間の霊能者や退魔師がやられてます」

 

 「そんな…」

 

 「ただ可笑しな点が1つありまして。襲われた現場で残っている妖気の残滓が追跡する途中で切れてしまい、それ以降新たに襲われるまで全く妖気を感知出来ず…」

 

 そう公安の人が語っている時だった。

 

 「……………………」

 

 優人と公安の人が座っている席のテーブルの真上に突然何かが姿を現したのは(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「「「…………は?」」」

 

 カウンター席にいた俺、ウェンディ、リズは目を疑った。

 声には出さないものの、優人や野井原、静水久も目を見開いたままの状態で静止しており

 

 「あら?新しいお客様かしら?」

 

 桃子さんだけが呑気にそんな事を言っていた。

 

 「……………………」

 

 宙に浮いている少女は静かに真下の優人達を見下ろしていた。

 

 「っ!!あ、天河君!!こ、この()も君の!?」

 

 「ち、違いますよ!」

 

 「若殿下がれ!」

 

 困惑気味の公安の人、優人を他所に野井原が優人を護る様に前に出る……が、すぐさま声を上げたのは静水久だった。

 

 「違う、なの猫!!コイツの狙いは私達妖、なの!!」

 

 「なっ!?」

 

 静水久の言う通り、宙に浮いている少女は突如野井原に襲い掛かり

 

 「ぐぅっ!!」

 

 野井原はフロアに押し倒された。

 

 「緋鞠!」

 

 野井原をフロアに押し付けマウントポジションを取る少女の姿を見て優人が叫ぶ。

 

 「……………………」

 

 が、野井原は少女を押し退け様にも、押し退けられず

 

 ビリイッ!!

 

 少女に服を引き裂かれ、野井原の豊満な胸が露わになった。

 そのまま少女は露わになった胸元に顔を近付け

 

 ガブッ!!

 

 「ぐうぅ……あああっっ!!!」

 

 躊躇なく齧り付いた。

 苦悶の声を上げた野井原と

 

 バシャッ!!!

 

 「うぎゃああぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

 ほぼ同時のタイミングに俺の顔面に何か熱い液体が掛けられる。

 

 「駄目です!!勇紀さんが見ちゃ駄目な光景です!!」

 

 「勇兄、しばらく目を瞑ってるッス!!」

 

 どうやら熱い液体は紅茶で、俺はリズとウェンディに同時に紅茶を顔面に掛けられたみたいだ。

 

 「超アッチィ!超アッチィィ!!超アッチィィィィィィ!!!」

 

 両手で顔を抑え俺も叫ぶ。

 淹れたての紅茶をぶちまけるとか、この仕打ちはあんまりじゃないですかねぇ!?

 

 「このっ!緋鞠から離れ「来るでない若殿!!」……緋鞠!?」

 

 うううぅぅぅぅ…目を開けられない今、聞こえて来る会話と見聞色の覇気で状況を察するしかない。

 

 「こやつの注意が私に向いている間は若殿は安全じゃ」

 

 「そんな事言われても!」

 

 「猫…その傷、後で治してやるからソイツを押さえてろ…なの」

 

 静水久の気配が優人の傍にあるのを感じる限り、優人がそうそう傷付く事は無い……ん?

 俺はここで現状が可笑しくなっているのに気付く。

 店の外には公安の人が連れて来たと思われる数人の部下の気配がしてたのに、その気配が弱くなっているのを感じ…

 

 「(…誰かいる?)」

 

 一際強い気配が店の外から1つ感じられた。

 その気配がコチラ…翠屋の入り口前に移動したのを感じる。

 店内に入って来る気か。

 部下の人達でこんな強い気配の持ち主はいなかったから、外にいるのはおそらく野井原を襲った少女の仲間だろう。

 

 「土屋!中村!どうした?応答しろ!」

 

 「呼びかけても誰も来ませんよ」

 

 「うお!?また誰か来たッスよ勇兄!」

 

 ウェンディが服の裾を引っ張りながら言う。

 俺は現在冷たいおしぼりで顔を拭いている最中だ。

 

 「このお店はノンアルコールみたいですねぇ、残念です」

 

 ふうぅぅ…顔を拭き終えてようやく目を開けられる。

 新たな乱入者の方へ顔を向けると俺達より年上のイケメンがいた。

 

 「貴様は!?」

 

 「ああ、ご心配なく。外にいた方々には眠ってもらっているだけなので。殺しても良いのですが現代人の血は臭いとタマさんが嫌がりますからね」

 

 イケメンはゆっくりと俺達を無視して優人の方へ歩み寄る。

 

 「ふーん……君が現代の鬼斬り役さんの1人ですか」

 

 イケメンは興味津々といった様子で優人の顔を見る。

 

 「《勇兄勇兄、お友達さん助けなくて良いんスか?》」

 

 「《まあ野井原が襲われてるから、普通は助力してやるんだが俺が手を貸すのはもう少し様子見てからかな》」

 

 優人を護ろうと動いたのは他にもいるし。

 

 「中々元気そうな男の子じゃないですか。………ねぇ?」

 

 背後から奇襲した静水久の一撃を背を向けたままで軽々と受け止めた。

 

 「ちっ!」

 

 「貴女はミズチさんですか。……格の高い妖気だ。水神さんと呼んでも過言ではありませんね」

 

 静水久は一旦距離を取り、イケメンを強く睨みつける。

 

 「……………………」

 

 「……何?おいこら待て……痛っ!」

 

 おや?

 少女が野井原の上から退き、イケメンの方へ近寄っていく。

 

 「おや?どうしたんですか?」

 

 「……………………」

 

 「はあ……成る程。ちょっと残念ですね」

 

 何が残念なんだ?

 

 「命拾いしましたね皆さん。タマさん『今日は食べるのは()す』と言ってます」

 

 ニッコリと微笑みながらイケメンが言う。

 

 「いやはや…僕は腹ペコなんですけどタマさんがどうしてもと言いますので。ホントまいったなー、はっはっは」

 

 「あら?パーティーに出遅れてしまいましたか」

 

 「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 また現れる新たな乱入者の声に反応したのは優人、野井原、静水久、公安の人、リズ、ウェンディ。

 俺は見聞色の覇気で近付いて来てるのを察知してたし、士郎さんも気配を読んだのだろう。特に反応はしなかった。

 

 「せっかくゆう……コホン。長谷川勇紀のエスコートで妖狩り(ダンス)が出来ると思いましたのに、もうお開きですの?」

 

 「く、くえす!?」

 

 「お嬢さん!?」

 

 優人と公安の人が驚いている中、俺はくえすの手に握られている得物に注視する。

 それは一本の刀だった。

 けどあの刀って…

 

 「お嬢さん、どうしてここに!?」

 

 「それはコチラが聞きたいですわね。天河優人の現状報告は欠かさず行っていた筈ですが?」

 

 くえすは優人にも公安の人にも視線を合わせず、イケメンと少女を視線から外さない様にしながら答える。

 優人の事を報告してたのは飛白さんじゃなくくえすだったか。

 俺達魔導師が使うサーチャーみたいな方法なのか盗聴器、隠しカメラの類を使って優人の現状を把握してたのかちょっと気になるなぁ。

 

 「ま、その事については追々聞くとして……感知不可能な程完全に妖気を消せるとは中々の大物ですわね。確かタマさんとそちらは……」

 

 イケメンがくえすの手にしている刀を見て眉を僅かに吊り上げる。

 

 「安綱!?くえす、何故お主がソレを!?」

 

 野井原の驚き様、やっぱりあの刀は以前野井原が所持していたやつか。

 

 「美しい女性が増えた所、大変残念なのですが今日はこれでお(いとま)させて頂きます。タマさんの妖気で目覚めたとはいえ、僕も彼女もまだまだ欠片であるが故、今はより高く純粋な妖力が欲しいのですよ」

 

 イケメンと少女を中心として妖力が荒れ始める。

 

 「タマさんが言うには貴方達は成長すればもっと美味しくなるそうです。ケーキのイチゴは最後まで取っておくタイプみたいですね彼女は」

 

 暴風の様に荒れる妖気のせいで誰も近付けない模様。

 

 「タマさんの要望通り、美味しくなるように成長するのを期待させていただきますよ。それでは」

 

 妖気の暴風が止むとイケメンと少女の姿は何処にも無かった。

 追跡は……無理か。

 

 「緋鞠!大丈夫か!?」

 

 「傷は静水久に塞いでもらったので大事ない。それより奴等の正体じゃが…」

 

 「タマ…………おそらく『玉藻前(たまものまえ)』と、刀を見た時の男の反応からこっちは『酒呑童子(しゅてんどうじ)』……なの」

 

 玉藻前……『白面金毛九尾(はくめんきんもうきゅうび)の狐』に酒呑童子か。日本三大妖の内の2体が現れるなんてなぁ。

 てか久遠以外の狐の妖初めて見た。可愛さは久遠の方が数段上だけどな!

 正体を知るや否や一部の者に緊張が走る。

 

 「なんですの、もう!欠片共が現れたぐらいで緊張するなんてふがいない。あの様な連中、魔力リミッターを解除すれば私の敵ではありませんわよ!」

 

 臆する事も無く堂々と言い放つくえす。自らの実力に絶対の自信を持ってるからこその態度だね。何とも頼もしい。

 

 「緋鞠」

 

 「何じゃ?」

 

 くえすは野井原を呼ぶ。

 

 「このくえす様がわざわざ貴女の得物を直して差し上げましたわ。今度奴等に遭ったら片方でいいからDeath(デス)って貴女の役目、しっかりと全うなさい!!」

 

 くえすの持つ野井原の刀を差し出し

 

 「ああ、(しか)と」

 

 野井原は得物を受け取り力強く頷いた。

 

 「天河優人も少しはそのゴミで薄っぺらい戦闘力を向上させて最低限自衛出来るぐらいには様精進しなさいな!」

 

 「…勇紀だけじゃなくお前も結構キツく言うねくえす」

 

 肩を落とす優人。

 ま、くえすの言う事には一理ある。常に野井原や静水久が傍にいるとは限らないから自分の身を自分で守るぐらいには力を付けて貰わないと。

 

 「はぁ……お店の片付け大変だわ」

 

 …この状況で尚マイペースを通す桃子さんマジパねえッス。

 

 「…しかし今回は向こうが退いてくれて助かったな」

 

 「???勇兄にしては弱気な発言ッスね」

 

 「そうですね。勇紀さんならパパパーっと解決しそうなもんですけど」

 

 ウェンディもリズもそう言うが、体力も魔力も回復し切ってない今、ここでバトルにならないでホント助かったと思ってるんだよ。

 つーか昨日の今日でどうしてこう……事件が次々と起こってくれるのかね。

 Stsの原作時期になるまでは平和であってほしいもんだよマジで………。

 


 
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