No.822777

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~ 其ノ三十四

お久しぶりです!
明けましておめでとうございます!

あと、あとがきが長くなってます!すみません!

2016-01-03 16:03:29 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7508   閲覧ユーザー数:5581

 

 

 

 

 

 

【 本当の更に奥 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人知れず息を飲んだ。

見透かされたと、そう思ってしまった。

 

どこか冷たささえ感じる二つの瞳は私を見続ける。

今は閉じられたその口から数瞬前に発された言葉が木霊する。

 

 

 

――家の再興とかどうでもいいって思ってるでしょ――

 

 

 

ドクン、と心臓が跳ねた。

 

簡単な話だ。そんなことはないと一言否定すればいい。それだけの話だ。その簡単な一言が出てこない。

 

 

どうでもいいなどと思っているわけでは無い。だが私にはそれ以上に、大事なものがある。

 

家の再興。そして唯一無二の大事なものである、妹。

 

その二つを天秤に掛けても、常に答えは変わらない。そんなことは当たり前だ。

私にとっては息をするぐらいに当たり前のことだ。天秤になんて掛けなくても分かる。

 

例えそれが彼女の意思に沿わずとも。彼女の期待を裏切ることになろうとも。それだけは譲れない。

そう思っているにも関わらず私は彼女の意に、期待に沿う姉を演じている。家の再興を一に望んでいる姉という像を。

 

 

 

「答えられない?」

 

 

 

――その声に我に返った。

 

 

見れば声の主、公達とやらが軽く首を傾げている。

別段攻めているわけでも無く、嘲笑っているわけでもない。試されている、というのもなんだか違う気はする。

 

そこにはただ純然たる疑問があるだけ。直感でしかないがそんな気がした。

 

 

「……答える義務は無いな」

 

 

吐き捨てるようにそれだけを絞り出した。

スッと公達の眼が細くなる。傾げていた首を元に戻し、再び口を開く――つもりだったのだろうがそれは叶わなかった。なぜなら

 

 

「あいたあっ!?」

 

 

背にしていた扉が徐に開き、その扉が見事に公達を押しのけたからだった。

唐突過ぎる背後からの思わぬ攻撃にまったく防御体制の取れなかった公達は情けない感想と共にビタンっ!と床に倒れ、突っ伏すことになった。

 

 

「あ」

 

 

間の抜けた声を上げたのは扉を開けた男、北郷一刀。

やっちまった、とでも言う風に表情を引き攣らせながら固まっていた。

 

 

 

――その顔を見た瞬間、心の中に言い知れぬ妙な感情が湧き上がるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでこういう時に限っていつもやってる“のっく”とやらをしないのかな君は……」

 

 

倒れた状態からゆっくりと起き上がりながら恨めしそうな声を発する楓を前に、俺は扉に手を掛けたまま固まっていることしかできなかった。ギャグ要素でも入れるのであればここは“失礼しましたー……”とか言って扉を閉めでもするのだろう。しかしそんなことは出来るはずもない。

 

 

「わ、悪い。その……まさか扉の前にいるとは思ってなくてさ」

 

 

既に時遅しとは理解しながらも、まだ完全には起き上がっていない楓に手を貸した。

 

 

「正確には扉に寄り掛かってたんだけどね。まあ、あの“のっく”っていうやつこの村の中じゃ私達しかやらないだろうし。北――じゃなかった、一刀くんを責めるのは筋違いかな」

 

「ああいや、普通に俺が悪いよ。ごめんな、楓」

 

「……なんていうかやっぱり基本的に善人だよねー、一刀くんはさ」

 

 

呆れたような苦笑を浮かべられた。

気にしないで、というふうに手をヒラヒラと振った楓はそのまま俺の脇をすり抜けて、外へ出ようとする。

 

 

「楓」

 

 

取り敢えず呼び止めた。

 

 

「んにゃ?」

 

「いや、夏候惇と話してたんじゃないのか?」

 

 

俺が入る直前、中から会話をしているような声が微かに聞こえていた。扉をぶつけてしまった挙句に話まで中断させてしまったんじゃないかと思っていたのだが――

 

 

「ああ、いいのいいの。そんな大した話じゃなかったし。しかも話っていうか私が一方的に喋ってただけだもん。ね、夏候惇ちゃん」

 

 

予想に反して楓の返答は軽かった。

少しだけ拍子抜けしつつも安堵し、話を振られた夏候惇に目を向ける。

 

 

「……」

 

 

しかし夏候惇は渋い表情のまま楓を凝視しているだけで何も答えない。

訝しげに思って首を捻り、楓にむかって視線で問い掛ける。案の定というか、楓は曖昧に笑うだけだった。

 

 

「夏候惇ちゃん、年上のお姉さんが一つだけ助言するよ」

 

 

唐突に言って、楓は微笑みながら人差し指をピンと立てる。

 

 

「自分っていうのはとっても大事なものだよ。今の君はちょっと見てて痛々しい。……まあ、それは夏侯淵ちゃんにも言えることだけどね」

 

 

少し驚いた。

俺が夏候姉妹に感じている違和感そのものを楓は的確に言い当てていた。

 

自分を出せていない――否、ある程度の自己認識があっての、敢えて自分を出していないような雰囲気。でもそれは多分、俺や華琳にとってだけなんだと思っていた。自分が知っている少女達とのただの祖語。

 

 

「人間観察得意なんだな、楓」

 

 

気付けば感想が自然に口から洩れていた。

 

 

「あんまり褒められたもんじゃないんだけどね。一刀くんも観察してあげよっか、有料で」

 

「有料かよ!!」

 

 

ほぼ脊髄反射でツッコんでしまった。

 

 

「そうだなー……むこう七日間くらいの仕事全部請け負ってもらえる権利とかで手を打ってあげてもいいよ?」

 

「悪質過ぎる! しかもなんで若干上から目線だ!?」

 

「あっははー! 冗談だよ冗談!」

 

 

シリアスな雰囲気はどこへやら、快活な笑い声を上げながら楓は笑顔で走り去っていった。

 

一瞬。

 

ほんの一瞬だけだが、その笑顔がどこかぎこちない作り物めいて見えたのは恐らく気のせいだろう。

 

 

「まったく……煙に巻かれたんだか、それともからかわれただけなんだか分かんないな」

 

 

小さくなっていく後ろ姿を見ながら苦笑して肩を竦め――ここに来た目的を不意に思い出す。

 

 

「そうだ、夏候惇」

 

「なんだ」

 

素っ気ない返答に再度苦笑する。懐かしさすら覚える対応だった。

どうやら少し機嫌が悪いらしい。早く話せ、という催促が空気感で伝わってくる。初めて会ってしばらくはこんな感じだったなー、とか前の外史でのことを懐かしく思い出しながらも用件を伝えるために口を開いた。

 

 

「昨日の夜中くらいから村長さんの姿が見えないらしいんだ。なにか知ってるかと思って聞きに来たんだけど……」

 

「なに?」

 

 

用件を聞くなり眉間に皺を寄せて困惑した表情になる夏候惇。

 

 

「……わかった。兵に言って探させよう」

 

「俺達も手伝うよ。人手は多い方が良いだろ」

 

「む、そうか。すまないが頼んだ。私も心当たりを探ってみる」

 

 

心当たり、という言葉とその素直さに若干の引っ掛かりを覚えた。だから

 

 

 

 

 

 

 

 

夏候惇は森の中を慣れた足取りで歩いていた。

真剣な顔で辺りを見回し、何か聞こえないかと耳を欹てながら(そばだてながら)歩を先に先にと進めていく。

 

やがて少しだけ開けた場所に出て、彼女は立ち止まった。そして眉間に皺を寄せて、後ろを振り返る。

 

 

「っとと、危ない危ない。戦いでならともかく、その辺の木の枝に引っ掛けて服が破れましたとか言ったら華琳に殺されかねないな。……ん、いや待てよ。今の華琳ならもしかすると、仕方ないわねとか言って縫ってくれるかもしれないな。それはそれでありだからこの際わざと木の枝に引っ掛かるって手も……無いな」

 

 

そこにはガサガサと音を立てながら森から出て来た一人の男がいた。言うまでも無く北郷一刀である。

 

 

「なぜお前が私に着いてくる……」

 

「ん? なんか言った?」

 

 

少しの間ガサガサという音を立て小枝と格闘していたせいなのか、夏候惇の台詞が聞こえなかったらしい。一刀は無垢な表情を浮かべて首を傾げた。それを見た夏候惇はどうやら文句を言う気も失せたのか特に何も言わず、しかし眉間に皺は寄せたままで前を向き歩き出す。

 

 

「なんでって言われてもな。ほら、俺はこの辺の地理に疎いし。あの村に駐留してる夏候惇と行動するなら迷う心配も無いだろ?」

 

「聞こえているではないか貴様!」

 

 

吠える夏候惇。

 

 

「まあまあ、大きい声出すと色々迷惑だぞ。ほら」

 

 

素知らぬ顔で一刀が示す先には、十数歩も行かない場所に立つ木から飛び立つ鳥の群れ。

さすがに罪の無い鳥たちの憩いを邪魔したことが少し気になったのか、夏候惇は口を噤む。しかし一刀にある意味で謀られたことには納得がいっていないようで、半眼で一刀のことを睨んでいた。

 

ついでに言うと、腰の得物に伸びかけた手がうずうずと動いていた。

 

 

「あ、あはは……」

 

 

少し引き攣った表情を浮かべた一刀はそのことに多少の戦慄を覚えながらも、すぐに剣を抜いて斬りかかってこない夏候惇に違和感を覚えた。もっとも、その違和感は主に一刀と華琳しか感じることは無いのだが。

 

どうあっても自分の知っている夏候惇と、目の前の夏候惇とを重ねてしまうことに一刀は辟易していた。

 

 

「地理に疎い、か。それでよく釣りに行こうと思ったものだな」

 

「ある程度の場所は村の人から教えてもらってたから。あとは水の音とかを頼りにね」

 

「ならばこの捜索もそういう感覚を頼りにやればいいだろう。なぜ私に着いてくる必要が……ぶつぶつ」

 

 

やはり一刀の行動というか同行に納得は言っていないようで、夏候惇は唇をへの字に曲げながら何かしら文句を呟いていた。

 

 

「まあまあ。他も大体二人一組とかで捜索に当たってるんだし」

 

「それで何故私に着いてくるのがお前なのかと言っているんだがな」

 

「ま、確かに。夏侯淵辺りが妥当だよな」

 

「ふん……」

 

 

一刀の肩を竦めながらの応えに夏候惇は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

夏侯淵は村に駐留している兵を率い、紫苑と共に村長の捜索及び周囲の警戒に当たっていた。

 

この辺りの地理に明るい自分と妹を編成として分散させたのは間違いでは無い。

だがそれを決めたのが自分自身である辺りが気になり、そういう意味でも現状が面白くないのだろう。

 

 

「気を使ったってことなんだろうけど・・・やっぱり、らしくないよなあ」

 

 

それは勝手な“らしさ”の押しつけ。

それでもそう思わずにはいられなかった。

 

しばらくぶりに会った妹。

この外史の夏候姉妹。その絆の深さは傍から見ていても、俺の知っている夏候姉妹と遜色ない。

 

だからこそそれを我慢することは“らしく”ないと感じてしまう。

もっとも、将として状況を優先したと言われでもしてしまえばそれまでなのだろうが。

 

 

「ところでさ」

 

 

ふと、思い出したような口調。

まるでこちらの言葉が聞こえていないかのように無言で突き進む背中を少し微笑ましく思いながらも、何の気なしに一刀は言葉の続きを口にする。

 

 

「君達夏候姉妹はどうして家の再興を目的にしているんだ?」

 

 

夏候惇の足がピタリと止まる。

ニュアンスこそ違ったものの、夏候惇にとってそれは先刻問われたことだった。

 

だがそれを一刀は知らない。

突然と言えば突然の制止に少しだけ戸惑いながらも、夏候惇の口から出るであろう言葉を待った。

 

夏候惇の、心の内の動揺を知らずに。

 

 

 

 

 

 

自然と足が止まった。

止めようとして止めたわけでは無い。だが止まった。一瞬、思考が停止した。

 

それは先刻と同じ。荀攸とかいう女からも問われたこと。

だが私の心の内の動揺はその時の比では無かった。何故だ。これは、なんだ。

 

内心の動揺を悟られぬよう、静かに背後を振り返る。

そこに立つ青年の表情は純粋な興味、疑問によって無垢とも言えるようなものになっていた。

 

 

「……家名を途絶えさせたくはない。父母や先祖に、申し訳が立たんからな」

 

 

口の中が乾いていた。

それ以上、言葉は出てこなかった。

 

 

「へえ…」

 

 

一刀は感心したように眼を見開き、そう声を漏らす。

こんな問答に意味など無い。先刻と同様に。私は顔を背け、歩みを再開――

 

 

 

 

「それ本当か?」

 

 

 

 

することができなかった。

 

何でもない言葉の筈なのに。ドクン、と心臓が跳ねた。

それは自分でも予期していなかったこと。明らかに想像の埒外から来たものだった。

 

 

止まった思考の中で二つの言葉が渦を巻く。

 

 

 

『……家名を途絶えさせたくはない。父母や先祖に、申し訳が立たんからな』

 

『それ本当か?』

 

 

 

何に対して真を問われているのか。それすら混乱の渦中にある私には分からない。

 

無論、家名を途絶えさせたくないというのも嘘ではないのだ。

ただ理由の一つというだけ。ただ優先されるべき理由では無いというだけ。

 

秋蘭の顔が思い浮かぶ。

夏候家の生き残り。私の妹。私よりも出来る妹。

私に期待を寄せてくれている妹。そしておそらく、私よりも当主に余程向いているであろう妹。

 

その妹の期待を裏切りたくない。だから私はその期待に応えるために、家名を護る。当主であろうとする。

 

私の心の中の真はそれだったはずだ。家名の存続は手段。目的は期待への応えと達成。

 

 

……だが、なんだ?

なんなのだ。この、胸のざわめきは。

 

 

 

――そうではないだろう。

 

 

 

そう誰かが囁く。

 

家名では無く、期待では無く。

あの『陳留』という街にこそ、意味があったのではなかったか。

 

なぜならあそこは私達姉妹と、そして――

 

 

 

「む?」

 

 

 

――唐突にその思考は本能によって寸断された。これは

 

 

「血の匂い、だな」

 

 

小さく鼻を鳴らす音と共に一刀はそう口にした。

 

 

「ああ」

 

 

短く応える夏候惇。そしてしばし逡巡した後に再び歩き出した。

 

捜索から警戒へ頭を切り替える。

 

既にその頭の中には先ほどの不可解な疑問や葛藤は残っていない。

 

何度か茂みを掻き分け前に進む。その度に強くなる血の匂い。

 

やがて少し開けた場所に出た。そう思った矢先に見つけた。見つけてしまった。

 

血塗れで倒れている、村長を。

 

 

 

 

 

 

「村長!」

 

 

声を上げて一刀は駆け寄る。

棒立ちになっていた夏候惇を追い越して。

 

浅い呼吸を繰り返してはいるが、それでも確かに息があることを確認する。まだ生きている。

 

殴打されたのか、打撲の跡。痣。切り傷、刺し傷。

明らかに命を奪う目的では無く、傷つけることを、嬲ることを、苦しめることを目的としたような傷だった。

 

見ているだけで怒りが込み上げてくる傷の数々。

傷の深さと出血の量を確認していた一刀に反応したのか、村長の閉じていた眼が開き、微かに身じろぐ。

 

 

「……おお、あなたは」

 

「喋らないでくれ、村長さん。傷に障る」

 

 

一見して致命傷は無い。

そこにはただ苦痛があった。もっとも、重症なのは確実だ。村長は一刀の言葉に弱く笑った。

 

 

「申し訳…ない。罰が当たったのかも、しれませんなぁ……」

 

 

そのまま一刀の顔から視線を外し、空を見上げる。

俺とは数度しか面識がないはずの村長。だが言葉を残したいという思いからなのか、その言葉は止まらない。

 

 

「どちら…も敵にせず、かと…いってどち…らにも明確には、味方せず……村、を護ろうとは…虫のいい…話でした」

 

「それは……」

 

 

一刀は言葉に詰まる。

少なくとも村長には、その自覚はあったのか。

 

どちらも敵にせず、味方にもしない。

その言葉は太守の部下である夏候惇達と賊達を差しているのだろう。

 

村に派遣された夏候惇達は村を護ろうとしているのかもしれない。

だがその上に立つ王肱は、おそらくひとつの小さい村のことなどどうでもいいと思っている。判明している賊の人数に対して、夏候惇達と少数の兵を送り込んだのはそういうことなのだろう。

 

対するのは、賊と称されてしまった大梁義勇軍。

ひとつの小さな村を食い物にする太守の横暴を見過ごせなかった者達。

 

――いや、その想いの始まりは三人の少女か。

 

各地からの流れ者や賊の残党を受け入れ、むやみに肥大化した組織には綻びが生まれる。

黒山賊という名で敵視された彼らは既に一枚岩では無く、一部の者達は村人を襲い略奪をもするようになってきている。村人に達にとって、そうなってしまえばそれはただの害毒だ。

三人の少女が村を巻き込むまいとして、村の為に、村と無関係の賊を演じたことが皮肉にも本当になったのだ。

 

 

そして村長を含めた村人達。

もっとも弱く、それゆえに利己的にならざるをえない者達。

 

王肱に表立って叛意を示さず、かといってその王肱から村を護った義勇軍――今や黒山賊と呼ばれる者達に明確に味方することもしない。ただ現状が過ぎることを待つ。それが一番被害の少ない方法故に。

 

 

確かに虫のいい話ではあるのかもしれない。

だが、村を護ろうとした村長の選択を間違っていると一蹴にできないのも事実だ。

 

 

言葉に詰まる一刀。

唐突にその顔が何かに気付いたように前へと向けられる。

 

数秒遅れて、一刀の視線の先にある茂みから三人のガラの悪い男達が下簸た笑いを浮かべて姿を現した。その手に、血に濡れた剣や棒を携えて。

 

 

 

 

 

 

――こいつらだ。

 

誰に示されることも無く、一刀はそう直感した。

 

言葉はなくとも男達の笑みと、手に持つ血に濡れた得物が雄弁に語っている。村長を痛めつけ、苦しめた者達が誰であるのかを。

 

 

『へっ、このジジイこんなところまで逃げてやがった』

 

『ちょっと目ぇ離した隙に逃げられちまった時はまさかと思ったもんだけどなあ。くくっ、さすがに村までは逃げらんなかったか』

 

『いやいや、この怪我でよくもまあここまで逃げたってもんだろ。結局俺達に追いつかれちまったけどなあ……ひひっ』

 

 

男達の会話に、一刀は自分の頭が一周回って冷静になるのを感じていた。

 

 

「おい」

 

『……ああ?』

 

 

男達の一人が声を発した一刀を睨みつけ、不機嫌な声を上げる。

威嚇するような声と表情。無意識的にだろうが意識的にだろうが、今の一刀相手には何の意味もなさない。

 

 

「村長さんをこんなことにしたのはお前らか?」

 

 

『はっ……だったらなんだよ?』

 

『まさかこのガキ、ジジイの仇でも取るつもりかあ?』

 

『そのジジイうるさくてなあ……あのお嬢さんたちに会わせろ、だったか? 何度も何度もしつけえから自分の立場ってやつを身体に教え込んでやったんだよ』

 

『大人しく略奪されてりゃあいいってのによ。ったく役に立たねえ頭の悪いジジイだぜ』

 

『まあ、あの大将気取ってる女達のせいで溜まってたイライラを解消できたって意味じゃあ役に立ってくれたけどなあ……ははははっ!』

 

 

前の(さきの)襲撃には参加していなかったのだろうか。

男達に一刀のことを警戒している様子は無い。だが今の一刀にはそんなことはどうでもよかった。

 

 

「そうか。なら、お前達と話すことはなにも、ない」

 

 

生じた感情に突き動かされるように、一刀の手は腰の刀に伸びる。

凄まじい速さで柄を握り――そして、殺気とともにその手も止まった。

 

いや、より正確に言うのなら止められた。

 

 

「――っ!?」

 

 

背後から感じた自分以上の殺気によって。

その殺気の元を確認するよりも早く、一刀の横を一迅の豪風が駆けていく。

 

 

「きっ……さまらああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

獣のような、猛き怒りの咆哮。

 

男達は狼狽えることも出来なかっただろう。

そして、偶然にも横一列に並んでいたことが彼らの不幸でもあった。

 

 

横一閃

 

 

断末魔さえ上げられず、男たちは夏候惇によって横薙ぎに払われ、即死した。

 

 

 

木々や草木に飛んだ血と、既に肉塊と化した物言わぬそれら。

剣を振り抜いた少女はその中心に立っていた。一刀は目を見開く。彼女の背に、かつての残影が重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

其は魏武の大剣――夏候元譲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 あとがき 】

 

 

 

どうも皆さん新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!そしてお久しぶりですみません!

 

弁解は特にないです。というかあり過ぎてキリが無いので上の短い謝罪だけで止めときます。

あとあれです。忙しさにかまけて書き途中の物を放置に放置を重ねて細々書くの止めようと思いました。

ある程度のキリの良いところまで書いておかないと、次に書ける時間が出来た時に凄い大変です。

主に気持ちとか文脈とかの問題で。こういう文にして、こういう解釈で、とか書いてた時の気持ちがリセットされるのは辛い……(;゚Д゚)

 

中途半端なものを書いて出さないためにも頑張ります。

 

 

さて今回は夏候惇中心のお話でした。

夏候惇の心情というか嘘と本当というか、うん。数度それに葛藤する同じような場面が出てきますが、自分の眼から見てもちょっと諄いかな、とか思います。でもそれでいいんです。そういうお話です。

 

話の端々や最後に見せた、一刀や華琳の知っているような【夏候惇】の片鱗。これが何を意味するのか。今後も暖かい目で見守ってくださいますようよろしくお願いします。

 

是非暖かく!冬ですし!寒いですから!

 

 

それではまた近い内に!(願望)

 

 

追伸:そろそろ白蓮さんの方もちゃんとしたいなと思いつつ、原案と序章だけしか書いてない色んなルートのやつ小出しにするかもしれません。それ自体に特に意味は無く、私の自己満足ですのであしからず。気分が乗らない時にまったく別のルートとか構成でちまっと書いたものとか溜まってる……あはは(^^;)

 

 

 

※余談※

恋姫英雄譚やれてないです(^^;)

あと堅ママが登場しましたね。実はキャラクター発表前に呉の話を作成していた時期があったのですがその時にキャラクター設定で堅ママの真名を炎蓮にしてました。まさかの偶然と思うと同時にやっぱりそういうイメージだよなあ、とか変に納得したり。まあ私の方は読み方そのままだったんですけどね。

 

“えんれん”

“いぇんれん”

 

……あれはあのままフォルダの奥底にしまっておこう、うん。

 

というかあとがき長っ!( ゚Д゚)!

 

 

 

 

 
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