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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第七十九回 第五章A:御遣処刑編⑧・一刀は、死んでない

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は成都に訃報がもたらされ、怒り悲しみと感情が渦巻く中、諦めていない人物が一人・・・

北郷死体回収班も本格始動!はたして、、、!

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2015-12-06 00:00:01 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3513   閲覧ユーザー数:3019

 

<す、すぐに助けに行かな―――!>

 

 

<待たぬか霞!ちゃんと伝令の話を最後まで聞け!ななは動かぬようにと言っておるのだろう!?ここで動いてはななの策が潰れるやも

 

しれぬのだぞ!?>

 

 

<しかし桔梗様、いくらなんでも、ねねとななだけでは曹操軍からお館を奪還できるとは思えません!やはり、ここは多少騒ぎが大きく

 

なろうともすぐに兵を差し向けるべきです!>

 

 

<阿呆!もしここで考えなしに跳び出して、それでお館様を盾にでもされてみよ!それこそ万事休すだろうに!>

 

 

<それに、ねねちゃんがななちゃんの考えを否定していないようですから、ここはご主人様をお助けしたい気持ちをぐっと我慢し、機を

 

待つべきところだと思います>

 

 

<くっ・・・!>

 

<せやけど・・・!>

 

<・・・・・・恋はななを信じる>

 

<わんわんっ!>

 

<恋・・・>

 

<・・・・・・仲間の言うこと信じるのは当然>

 

 

<・・・せやな・・・恋の言う通りや。仲間の言うこと信じひんとか、ちょっと一刀のことになって頭に血上ってしまっとったわ。堪忍な

 

桔梗はん、もうウチは大丈夫や>

 

 

<ワタシも、腹をくくって待ちます>

 

<うむ、お主らのそのやり切れぬ思いは、お館様が無事お戻りになってから、存分に曹操軍にぶつけるがいい>

 

<準備をするだけなら、いくらでもできますしね>

 

<・・・ななからの報告を待つ>

 

 

 

それから2週間ほどが経過した後、高順から遣わされた2度目の伝令は、誰もが恐れていた最悪の情報を持ち帰ったのであった。

 

 

 

 

 

 

【益州、成都城】

 

 

高順からの知らせを受けた一同は広間で静まり返っていた。

 

 

 

呂布「・・・・・・・・・」

 

セキト「くーん・・・」

 

厳顔「お、お館様が・・・・・・」

 

鳳統「ぁ・・・ぁわ・・・・・・」

 

張遼「う、ウソや・・・ウソやウソやウソやッ!一刀はすぐ戻るって言っとったんや!アンタ適当なこと抜かしとんちゃうぞコラァ!?」

 

 

 

そのような驚愕と絶望が入り交ざった静寂の中、心の底から叫ぶように衛兵の言葉を否定した張遼は、

 

その怒りの矛先を衛兵に向け、胸ぐらをつかみ吊し上げた。

 

 

 

厳顔「霞、落ち着かぬか!そやつはただ報告の任を果たしただけだ!」

 

 

 

張遼の暴走を見ることで絶望から一時的に復活した厳顔が急いで止めに入った。

 

すると、厳顔の横を無言で通り過ぎ、誰かが部屋を出ていこうとする影が見えた。

 

魏延である。

 

 

 

厳顔「焔耶、どこへ行く!?」

 

魏延「決まってます、曹操の首を獲りに行くのですよ!」

 

 

 

魏延は立ち止まると、厳顔の方など見向きもせずその目的を告げた。

 

その後姿を見ているだけで背筋が凍りつきそうになるほどの圧倒的な怒気。

 

魏延の怒りは、かつて劉璋に抱いていたそれとは比べ物にならないほどのものであった。

 

 

 

張遼「よっしゃ、焔耶、ウチも行く!同じように曹操拉致って、民衆の前で首刎ねたる!」

 

 

 

魏延の意見に同調した張遼は、目をギラつかせながら吊るし上げていた衛兵を落とすと、

 

厳顔がつかむ手を引きはがし、同じように部屋を出ていこうと歩き出した。

 

 

 

厳顔「お主ら、落ち着かんか!無暗に行っても、何も出来ぬぞ!!」

 

 

魏延「桔梗様、出来る出来ないの問題ではありません!やるのです!これはお館の弔い合戦です!皆も気持ちは同じはず!張任や黄権、

 

孟達や法正たちにも声をかけます!何なら、張松だって強引に部屋から引きずり出してでも―――!」

 

 

厳顔「だから一度頭を冷やさぬか阿呆め!事は気合いでどうこうできる次元の問題ではないのだぞ!?」

 

 

 

厳顔の制止の言葉に、聞く耳を持たない魏延であったが、それでも厳顔は懸命に言葉を投げかけ続ける。

 

 

 

鳳統「・・・私のせいです・・・このようなことになる可能性は少なからずあったはずです・・・私がもっとあらゆる可能性を熟慮出来て

 

いれば・・・何か手を打てていたかもしれません・・・・・・私がご主人様を・・・・・・軍師失格です・・・」

 

 

 

すると、厳顔や魏延たちが言い争いを続ける中、鳳統が焦点の合わない瞳を揺らしながら、自身を責め始めた。

 

体は震え、呼吸は浅く早く、そして揺れた瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちていく。

 

 

 

魏延「いや、雛里は悪くない。もちろん、ねねも、ななもだ。アイツらだって、最善を尽くしての結果のはずだ。選択は間違いだったかも

 

しれないが、それはワタシ達にも言えることだ。悪いのは曹操だ!曹操さえ余計なことをしなければ、こんなことにはならなかったんだ!

 

だから、ワタシは今すぐ諸悪の根源を叩き潰しに行く!」

 

 

 

しかし、そのような鳳統の言葉を魏延は真っ向から否定した。

 

北郷が拉致された時に動くなという判断をした高順や陳宮も責めない。

 

ただ矛先は曹操一人に向けられるべきだと主張した。

 

 

 

張遼「よう言った焔耶!ウチは虎をすぐに呼んでくるわ!必ず一刀の仇を取ったる!」

 

 

 

魏延の言葉が決め手になり、張遼も厳顔の言葉に耳を傾けることを完全に放棄し、張虎を呼びに行くべく厳顔に背を向けた。

 

 

厳顔(・・・いかん、霞と焔耶の怒りが収まりきらぬ・・・このままでは、下手をすれば全滅だぞ・・・)

 

 

 

怒りで頭に血が上ってしまってる張遼と魏延、そして、悲しみと後悔の念で我ここにあらずの鳳統、無言を貫く呂布。

 

北郷という一人の人物の死が、国の根幹を担う人物たちにこれほどの影響を与えるのかと厳顔はギリリと強く噛みしめた。

 

嫌な汗が全身から吹き出す。

 

もはや自分ではどうすることもできないのか、そのように厳顔が半ばあきらめかけたしかしその時、

 

衛兵の伝令を聞いて以来、ずっと沈黙を保っていた呂布が口を開いた。

 

 

 

呂布「・・・一刀は、死んでない」

 

 

 

短い一言であったが、しかし、その言葉は魏延と張遼の足を止め、この場の全員の注目を集めるのに十分すぎるものであった。

 

 

 

<・・・一刀には死んでほしくない。ずっと恋たちと・・・恋と一緒にいてほしい。だから―――>

 

 

<ごめんな、恋にまで心配かけてたなんて…。でも大丈夫、オレは死なない。というか死にたくないし、恋たちとずっと一緒にいたい。

 

だから・・・必ずこの乱世を生き抜こう。みんな、誰ひとりかけることなく>

 

 

 

 

 

 

<・・・ん??じゃ、じゃあ、二人とも気をつけてな>

 

<・・・(コクッ)・・・一刀も気をつけて>

 

<任しときっ!一刀も長居せんと、ちゃっちゃと帰って来ーや!>

 

<おう、話だけだし、すぐ戻るよ>

 

 

 

呂布「・・・一刀は死なないって、恋に約束した・・・この前もすぐ戻って来るって・・・一刀は、死んでない」

 

 

 

呂布はかつての北郷の言葉を頭の中に浮かべながらゆっくりと言葉を紡いだ。

 

一見、願望にも聞こえる呂布の言葉であるが、しかし、呂布の表情は、

 

かつて、虎牢関で董卓を失った時の、生気を失った、絶望に満ちたそれではない。

 

 

 

張遼「恋・・・アンタ・・・」

 

魏延「・・・クソッ!」

 

 

 

呂布の言葉で、急激に頭の血の気が引いた張遼と魏延はその場に立ち尽くしてしまい、魏延はやり場のない怒りを壁にぶち当てた。

 

 

 

魏延「お館ぁ・・・!」

 

 

 

そして、拳からにじむ血液を感じながら膝から崩れ落ちた。

 

 

 

鳳統「そ、そうです・・・恋さんの仰る通りです・・・まだ、この目で真偽を確認するまで・・・私は、信じません・・・」

 

 

 

一方、呂布とは対照的に鳳統の声は涙交じりに震え、焦点も未だ定まっていない。

 

 

 

厳顔「雛里・・・」

 

 

 

厳顔は見かねて震える鳳統を抱きしめてやった。

 

その瞬間、堰を切ったかのように鳳統は厳顔の胸で嗚咽交じりに泣き出してしまう。

 

 

 

厳顔「・・・とにかく、感情に任せて行動しようとするな。そのようなことをして無暗に特攻しても、何もできずにつかまり、処刑される

 

のがオチだぞ。それこそまさに無駄死にだ」

 

 

張遼「何やと!?」

 

 

 

厳顔の冷静な指摘に、張遼はやりきれない怒りの矛先を厳顔に向けるべく詰め寄る。

 

 

 

厳顔「だから!お館様が討たれたのならば、確実に仇を取らねばならぬということだ!」

 

張遼「どういうことや!?」

 

 

厳顔「先日の話をもう忘れたのか!?わざわざ劉備や孫策が共に曹操を討とうと持ちかけてきたのだぞ!なぜそれを利用しようと思わん

 

のだ!」

 

 

張遼「あァ!?」

 

 

 

鳳統を抱きながら説明する厳顔に対して、しかし興奮からか意図するところが理解できない張遼は訳も分からずとりあえず声を上げる。

 

 

 

鳳統「・・・ぐすん、つまり、機を待ち、万全の準備を整えた後、弔い合戦をせよ、ということですか?」

 

 

 

すかさず、鳳統が鼻をすすりながらも厳顔の意図するところを代弁する。

 

 

 

厳顔「そういうことだ!」

 

 

張遼「せやかて!・・・せやかて、今ウチの中でぐちゃぐちゃに渦巻いとるこの怒りは何処にぶつけたらええんや・・・ウチは、桔梗はん

 

みたいにすぐには切り替えられへん・・・」

 

 

 

しかし、徐々に張遼の興奮は納まっていき、やがて歯を食いしばりながらうなだれるように膝を折った。

 

 

 

張遼「一刀・・・せやから、早う帰ってこいって言うたやんか・・・」

 

 

 

そして、涙を浮かべながらひねり出すように恨み言をつぶやいた。

 

 

 

厳顔(阿呆・・・霞よ、お館様が討たれたのだぞ・・・わしだって、腹が煮えくり返っておるわ・・・)

 

 

 

張遼の恨み言を聞き、厳顔は額に青筋を浮かべ、ミシミシと色が変色するほど拳を強く握りしめる。

 

室内により一層重い空気が漂う。

 

一人の人間の消滅で、これほどまで国の中心人物たちが脆くなるのは、

 

ひとえに、北郷一刀が彼女たちにとっていかに大きな存在だったかを物語っていた。

 

 

 

呂布「・・・一刀は、死んでない」

 

 

 

しかし、この部屋の中で、呂布だけが、絶望に彩られていない、無表情の中にも毅然とした核のある、落ち着いた表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

【豫州、潁川郡、許県、町はずれ】

 

 

公孫賛「本当にここで間違いないのか?」

 

 

 

公孫賛が不安そうに見るそこは許のはずれにある小さなあばら屋。

 

かつては誰かが使っていたのかもしれないが、今となっては人が住んでいた気配は一切見られず、ボロボロで、今にも潰れそうである。

 

 

 

高順「ええ、あの状況であの兵士に嘘などつけるとは考えにくいですし、ねねの予想通り、処刑された罪人は、首を晒すまでの準備期間、

 

皆ここの地下に入れられるとのことで間違いないでしょう」

 

 

陳宮「まぁ、見た目はあれですが、このような誰も近づきたがらない外観の方がむしろそれっぽいのです」

 

公孫賛「そ、そうだよな・・・」

 

 

 

高順や陳宮が何事もなかったかのように平然と話している様子を、公孫賛は冷や汗をかきながら見ていた。

 

確かにあの兵士は仕事をさぼっていたのだから自業自得なのだが、それにしたって、命はとらないまでもあの仕打ち。

 

普通であれば、あのようなことをやられた方は勿論だが、やる方もいろいろ思うところがあるはずだ。

 

なのに、傍で見ていただけの自分がこれだけ思うところがあるのに、高順や陳宮にそのような様子は一切見られない。

 

この行動力の源が皆御遣いによるものなのかと思うと、公孫賛は二人にとって御遣いという存在は、

 

ただの救世主とはまったく別の、特別な絆で結ばれているのかと感じていた。

 

 

 

高順「では、まず私が侵入して、見張りの兵の数にもよりますが、基本は先ほどと同じ要領で兵士を無力化します。完了後合図をします

 

ので、ねねは中で一緒に一刀様の御遺体の捜索を手伝ってください。ただ、もし人数が多いようでしたら、多少騒がしくなりますがやむ

 

をえません。その時は白蓮様、援護をお願いします。特に問題ないようでしたら、白蓮様は衛兵と外の警戒をお願いします。念のために

 

先ほどの兵士から頂いた制服を着ておいてください。それで、誰かが近づいてきたらすぐ連絡してください」

 

 

 

ここで陳宮ではなく高順が指揮を執っているのは、ひとえに高順が陥陣営の名を冠するように、

 

一つの陣営を崩すならば高順に任せておけばまず間違いないという陳宮の信頼によるところも大きかった。

 

 

 

陳宮「了解なのです!」

公孫賛「ああ、わかった!」

衛兵1「はっ!」

 

 

 

三人の了承の返事を合図に、高順は一人あばら家へと侵入した。

 

 

 

 

 

 

若兵士「あーあ、何で死体の見張りなんてしないといけないんスかね?」

 

 

 

あばら家の地下にある薄暗い隠し部屋で、見張りの若い兵士はそのような愚痴を言いながらふて腐れていた。

 

 

 

老兵士「そんりゃおんめぇ、罪人なんてな、恨みさ買われまくっちょる。晒す前にぐっちゃぐちゃにされたら困んべ」

 

 

 

対して、老齢の兵士は独特のなまった口調でその訳をゆったりと説明した。

 

 

 

若兵士「あーあ、ヤだなこんな日蔭仕事。やっぱ元袁紹様んとの兵だからなんスかね。はぁ、こんな雑用みたいな仕事するよりも、文醜

 

将軍と一緒に前線で暴れてた時の方がよかったっスわ。こう、斬山斬ッ!みたいに、どーん!みたいな」

 

 

 

それでも、若い兵士の不満は解消されないのか、ため息交じりに、手にしたやや刃こぼれの目立つ槍を大剣でも振り下ろすかのように、

 

文醜がよく口にしていた技名らしきものを叫びながら縦に大きく振り下ろした。

 

 

 

老兵士「なーに言っとんだ、こんのお役目も、新しい主、曹操様から仰せつかった立派なお勤めだ、どんな仕事にも誇りを持て誇りを」

 

若兵士「はぁ、おやっさんは欲がねぇ―――」

 

 

 

そのような不真面目な若い兵士に対して、真面目に説教をする老齢の兵士。

 

言っていることはもっともなのだが、それでも、若い兵士は若いなりにやりたいことや憧れも持っているし、

 

このままでも終わるつもりはなかった。

 

だから、老齢の兵士に対して欲がないとため息交じりに一蹴しようとしたのだが、しかし・・・

 

 

 

プスップスッ。

 

 

 

謎の異音が二人の耳に届いたかと思うと、

 

 

 

若兵士「ァ・・・rぇ・・・・・・」

 

老兵士「・・・カ・・・らダ・・・g・・・」

 

 

 

突然、金縛りの如く全身が痺れるような感覚に襲われたのであった。

 

さらに、混乱した二人が自身の侵された状況を言葉で表そうとするが、口から出てきたのは、意味をなさない音。

 

体の自由ばかりか、言語機能すら失われた突然の状況に、一層の混乱が二人を襲う。

 

そして、一歩遅れて感じる違和感。

 

その正体を探るべく、恐る恐る二人は自身の首筋に手をあてがうと、何か針のようなものが刺さっていた。

 

 

 

??「どうやら、見張りはあなた方だけのようですね」

 

 

 

すると、どこからともなくそのような声が聞こえてきたかと思うと、二人の目の前に何かの影が飛び降りてきた。

 

薄暗い地下室の中、僅かな蝋燭の火の明かりに照らされたその影は、

 

ブロンドのポニーテイルに黒を基調にした無駄に袖の長い着物を身につけた、小柄な少女。

 

二人の瞳に映った氷点下の眼差しを持つその少女は高順である。

 

さらに、続けてエメラルドのおさげにパンダ柄のワンポイントの入った黒の学生帽、

 

白い服に黒のホットパンツ、黒の外套を羽織った小柄な少女。

 

ボロボロの縄梯子をビクビクしながら慎重に降りていくその少女は陳宮である。

 

 

 

陳宮「こ、これは知らなければ絶対に気づきませんな・・・このようなボロ小屋の地下に、こんなに広い空間が広がっていようとは」

 

 

 

陳宮はゆっくりと地面に着地すると、辺りを見回しながらそのようなことをつぶやいた。

 

地上部のあばら家自体はせいぜいワンルーム程度の小さなものであるが、

 

そこの壁際の床に巧妙にカモフラージュされていた隠し扉を開けてみると、縄梯子がかかっており、

 

そこから地下へと降りてみると、体感的には地上部の2~3倍ほどの広大な空間が広がっていたのであった。

 

 

 

陳宮「ぅ・・・ですが・・・これは・・・」

 

 

 

そして、陳宮が顔をしかめ、口元を抑えながらうめき声をあげたのは、地上部にいるときから染み出てきていた不快な臭いが、

 

地下に降り立った瞬間に強烈な腐臭となって襲い、また、そこら中に何やら壺やら木箱のようなもの

 

(ここは棺桶と言った方がしっくりくるかもしれないが)が散乱しており、

 

それらすべてに人間の死体が入っているさまを連想してしまったせいであった。

 

 

 

高順「さて、それではお聞きしますが、本日処刑された天の御遣いの御遺体はどこにありますか?」

 

 

 

しかし、高順はそのようなことを一切気にすることなく、感情のない絶対零度の瞳で動けぬ兵士たちを睨みながら、

 

目的を達するために北郷の遺体の場所を問い詰めた。

 

 

 

老兵士「・・・し・・・タぃ・・・ァラ・・・sh」

 

若兵士「・・・ほnト・・・ニ・・・くる・・・nぁンテ・・・」

 

 

 

首に刺さっている針のようなものに毒でも塗りつけられていたのか、

 

兵士たちは高順の質問に口を開けたまま何か言葉らしきものを発しようとしているようであったが、

 

やはり言語機能の低下が見られ、意味をなしていない。

 

 

 

高順「質問に答えてください。次はありませんよ?天の御遣いの御遺体は何処だと聞いているのです!」

 

 

 

しかし、それでも高順は質問を続ける。

 

毒針によって上手く話せないことは本人が一番よく知っているにもかかわらず。

 

答えられないようにしたのは自分にもかかわらず。

 

高順は若い兵士の鼻先数センチの距離まで肉薄して問い詰めた。

 

感情を一切殺した、血に飢えた絶対零度の瞳。

 

かつては袁紹軍の一番槍たる文醜隊で、董卓、公孫賛、曹操といった名立たる軍といくつもの激戦を繰り広げ、

 

そして生き抜いてきたにもかかわらず、本能的にかつて経験したこともないような圧倒的恐怖を若い兵士は感じていた。

 

命の危機。

 

死の接近。

 

 

 

若兵士「hぃ・・・・・・!」

 

 

 

それらのことが頭を埋め尽くした若い兵士は、ただ自身の瞳を埋め尽くす恐怖の塊に当てられ、

 

泡を吹く勢いで、辛うじてしぼり出てきた小さな悲鳴を上げることしかできなかった。

 

 

 

陳宮「なな、もうそれ以上は無用なのです・・・」

 

 

 

頭の理解が追いつかないほどの速さで突然恐怖に陥れ、

 

有無を言わせない理不尽なまでの怒涛の尋問ラッシュでこちらの求めるものを吐かせる。

 

陳宮は高順の陥陣営モード時のやり口を知っているにもかかわらず、しかし、それ以上は無意味と言い放った。

 

陳宮が注視しているのは何の変哲もない大きな一つの古ぼけた壺。

 

 

 

陳宮「 “偽天” ・・・この壺で間違いないのです・・・」

 

 

 

高順は陳宮が茫然と見つめる壺にゆっくりと近づいた。

 

壺の蓋には “偽天” と書かれた紙が貼りつけてある。

 

高順は無表情のまま慎重に壺の封を切り、蓋を開けて中をのぞくと、嫌な死臭を放つ、布でくるまれた物体が入っていた。

 

 

 

高順「・・・間違いありません。あの時、一刀様のお顔に巻きつけられていた布です・・・」

 

 

 

次第に高順の冷たい表情が悲しみに変わり、瞳が潤んでいく。

 

そして、ゆっくりと壺から中身を取り出し、布に巻かれたものと対面すると、涙腺が崩壊する。

 

とめどなく涙が零れ落ちる。

 

 

 

陳宮「・・・一刀殿・・・どうしてこのようなお姿に・・・」

 

 

 

壺から取り出されたものを見て、陳宮もまた地に手を突き、涙を流した。

 

 

 

高順「一刀様・・・変わり果てたお姿に・・・」

 

 

 

そして、高順はゆっくりと布をほどき、愛する人との対面を果たした。

 

 

 

高順「あぁ、一刀様、このようにやつれたお姿に・・・・・・頬もこんなにやせ細って・・・・・・・・・髪の毛も寂しく・・・・・・・・・

 

髭もたくさん・・・・・・・・・顎も割れて・・・・・・・・・まるで、別人・・・・・・・・・??」

 

 

 

しかしその時、高順は明らかな違和感を覚えていた。

 

いくら死人を変わり果てた姿と表現することがあろうとも、これはあまりにも変わりすぎている、

 

というよりも、北郷と特徴的に一致する箇所がほとんどない。

 

むしろ、見つけようとしても見当たらない。

 

あえて言うなら、この首は男性の者であろうということ。

 

つまりはそういう次元での一致点しか共通点がないのである。

 

 

 

陳宮「・・・どうしたです?」

 

 

 

陳宮も高順の異変に気づいたようで、未だ涙で視界の揺れる瞳で高順の方を見ながら何事かと尋ねた。

 

 

 

高順「この人、一刀様ではありません!」

 

 

 

そして、高順はこの首に北郷との一致点が一切見いだせないことから、北郷ではないと結論付けた。

 

 

 

陳宮「何ですと!?」

 

 

 

この高順の宣言にはさすがの陳宮も一応今が隠密活動中であるにもかかわらず大声で叫んでしまっていた。

 

この首が北郷のものではない。

 

その事実からいくつかの可能性が推定される。

 

北郷の首は別にありこれは偽物であるということ。

 

本当に北郷の顔が変わり果ててしまったということ。

 

しかし、それらの可能性を思い浮かべていると、どうしても一つの可能性が真実であると思ってしまう。

 

つまり、そもそも北郷は処刑などされていないということ。

 

自分にとって都合のいい解釈だと分かっていても、そう思わずにはいられない。

 

逸る心臓の鼓動がやけに頭によく響く。

 

 

 

公孫賛「おぉ、地下にこんな隠し部屋があったのか。これはすごいな」

 

 

 

すると、外の見張りをしているはずの公孫賛が、先ほど陳宮が呟いていたのと同じような感想を述べながら縄梯子を降りてきた。

 

 

 

陳宮「白蓮殿、上で何かあったですか?」

 

公孫賛「何かあるのはここだよ。ねねやななの声が外まで丸聞こえなんだ。せめてもう少し声を小さくだな―――」

 

 

 

何か上で問題でも起きたのかと陳宮はやや不安げな表情を作って見せるが、

 

どうやら騒ぎ過ぎだからもう少し穏便にしろと諌めに来ただけだったようであった。

 

しかし、公孫賛がそのような小言を言っている最中、高順は全く構うことなくすごい勢いで倒れている兵士たちに歩み寄り、

 

片手ずつで胸ぐらをつかみ、大の大人二人を持ち上げその可能性の確証を得るべく現状の説明を求めた。

 

 

 

高順「これはどういうことですか!?」

 

若兵士「ァばばバ・・・バばばb・・・」

 

老兵士「し、しらナぃ・・・」

 

 

 

小さな少女に軽々と片手で持ち上げられ、絶対零度の冷徹な恐怖の無表情で凄まれ、兵士たちは完全に恐怖下に置かれてしまっている。

 

言語能力は徐々に元に戻ってきているとはいえ、恐怖で答えられるはずもない。

 

 

 

公孫賛「おい、だからもう少し声を―――」

 

高順「・・・・・・そうですか・・・」

 

 

 

高順が一層大声で兵士たちを脅すものだから、公孫賛はめげずに諌めるが、

 

諌めている途中で高順は急に声のトーンを落とし、手を放して二人を落とした。

 

そして、おもむろに何か小さな球状のものを無駄に長い袂から取り出したかと思うと、

 

握り拳を作って握りしめ、何のためらいもなく兵士たちの口の中に拳骨をぶち込んだ。

 

 

 

若兵士「ゲぽ・・・ぉえ・・・!?」

 

老兵士「ィったい・・・なニうォ・・・!?」

 

 

 

突然口内に異物をぶち込まれ、嘔吐きながら兵士たちは高順の行動が理解できずにうめき声をあげた。

 

 

 

高順「肉毒杆菌って、御存知ですか?」

 

 

 

そのような哀れな兵士たちを絶対零度の瞳で睥睨しながら、高順は突然何の脈略もなく一言質問した。

 

 

 

老若兵「「・・・?」」

 

 

 

高順の口から出た聞き覚えのない言葉に、兵士たちは恐怖と混乱の中、さらに?を浮かべるほかない。

 

 

 

公孫賛「ロ、ロゥドゥウガンジュン?」

 

 

 

公孫賛も、高順が言った言葉を復唱するものの、どのような漢字を当てるのか、

 

そもそも何のことを言っているのか理解できていないようであった。

 

 

 

陳宮「・・・・・・・・・」

 

 

 

しかし、陳宮はそれが何なのか分かっているようで、険しい表情で口を堅く真一文字に結び、

 

静かに高順と兵士たちのやり取りを見届けていた。

 

 

 

高順「別名、腸詰菌。文字通り、腸詰などから採取できる、自然界最強の毒素を持つ細菌です。今、あなた達の口内に丸薬として加工した

 

ものをぶち込みました」

 

 

老若兵「「――――――ッッ!!??」」

 

公孫賛「なっ・・・!」

 

 

 

“自然界最強の毒素”といういたってシンプルで分かりやすい解説を聞いた兵士たちは、

 

それが今自分たちの体内にぶち込まれたと気づくのに、数秒の時間が必要であった。

 

公孫賛もまた言葉を失っている。

 

 

 

高順「摂取すれば半日から一日で全身麻痺になると共に呼吸困難に陥り死に至ります」

 

老若兵「「!!!???」」

 

 

 

さらに、その効果を懇切丁寧に説明された暁に、 “死” という決定的な単語を耳にし、兵士たちは瞳孔を限界まで開き、

 

ガチガチと歯を鳴らし、体中から嫌な汗が噴き出すと共に声にならない叫び声を上げながら、ただ手元を戦慄かせていた。

 

 

 

公孫賛「おい、なな、まだこいつ等を始末するには早すぎ―――」

 

陳宮「まぁ白蓮殿、ここは黙って成り行きを見守るところですぞ」

 

 

 

高順が兵士たちを始末しようとしていると悟った公孫賛は、まだ兵士たちから情報を搾り取れたのにと言おうとしたが、

 

その時、陳宮が黙って高順のやり方を見守るべきと告げた。

 

 

 

公孫賛「けど―――!」

 

 

 

それでも、公孫賛は何か否定の言葉を言わずにはいられなかった。

 

公孫賛にとって、高順のこのような、人を恐怖の中に叩き落としながら毒でじわじわと殺すようなやり方は、

 

今までの自身の経験の中では見たことのないようなものであり、

 

公孫賛自身内から湧き出る恐怖を覚え、結果生まれた否定の言葉であった。

 

しかし・・・

 

 

 

高順「・・・・・・ここで一つ相談なのですが、私のような毒物を扱う者は、当然解毒剤の類も持っているわけですが、実はこの腸詰菌、

 

すぐに解毒すれば助かる代物です」

 

 

 

公孫賛の否定の言葉を遮るように、高順は長すぎる袂からおもむろに小さな巾着を取り出すと、

 

それを兵士たちに見せびらかすようにプラプラさせながら提示した。

 

 

 

高順「もう一度聞きますよ、これはいったいどういうことですか?」

 

 

 

そして、今度は兵士たちを上から見下すようにやや距離を置き、声のトーンも激しく脅すような感じから一転、

 

静かなプレッシャーで押しつぶすような感じで再度先ほどと同じ質問を繰り返した。

 

 

 

若兵士「ほ、ホンとに・・・shラ――」

 

老兵士「わ、わかッた、ハなす・・・!」

 

 

 

すると、先ほどと同じ知らないの一点張りの若い兵とは打って変わり、

 

老兵士は未だ話しにくそうにしながらも、回答内容を変える意思を見せた。

 

 

 

高順「・・・・・・賢明な判断ですね」

 

 

 

老兵士が真相を話す意思を見せたことで、高順は兵士に近づき、長すぎる袂から再度何かを取り出した。

 

それは医療などで使う鍼のようなもの。

 

そして、高順はその鍼を老齢の兵士の喉元に突き刺した。

 

 

老兵士「グへっ!?」

 

若兵士「ひィ・・・」

 

公孫賛「お、おい、本当に大丈夫なのか?」

 

陳宮「ですから、ねね達はただ見守っているだけで大丈夫なのです」

 

 

 

高順の再びの暴挙に、公孫賛は心配そうな声を上げるが、それでも、陳宮は大丈夫だと言い張った。

 

すると、10分ぐらいで老兵士の言語機能が復活した。

 

 

 

高順「さぁ、これで話せるようになったでしょう。詳しく聞かせてもらいますよ」

 

 

 

高順の言うように、老兵士は未だ体の自由は奪われたままであったが、唯一口は動かせるようで、言葉を紡ぐことができた。

 

 

 

老兵士「・・・ぉぇ・・・ゴボァ・・・じ、実はワシも詳しくんは知んねぇが、どうやら、本物の御遣いは殺さずお城ん地下さあるっつう

 

牢に捕えたまんまだっつう話だべ」

 

 

高順「殺さずに捕える?」

 

 

 

老兵士が語る希望に光に、高順は逸る気持ちを抑え再度確認をとる。

 

 

 

老兵士「ワシも所詮末端の兵、それくれぇしか知んねぇ。とにかく、処刑されたのは御遣いとは全くの別人だべ」

 

 

 

詳しくは知らないと話す老兵士であったが、現段階では、高順たちにとってそれだけの情報で十分すぎるほどであった。

 

 

 

公孫賛「おい、ねね、なな!だとしたら御遣い様は・・・!」

 

陳宮「処刑などされていない・・・!」

 

高順「生きていらっしゃる・・・!」

 

 

 

北郷が生きている。

 

それだけの情報が分かっただけで十分であった。

 

陳宮、高順、そして公孫賛はそれぞれ体を震わせながらその場に立ち尽くしていた。

 

ただし、今回は絶望によるものではない。

 

絶望の淵から見えた光明に、三人は喜びに心を震わせた。

 

 

 

【第七十九回 第五章A:御遣処刑編⑧・一刀は、死んでない 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第七十九回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

一刀君という支柱を失うだけで脆く崩れそうになる成都の面々。

 

強すぎるカリスマ性というのは、それだけでメリットなのですが、失った時の反動は大きいという話でした。

 

そのような中、一刀君の生を信じる恋の精神力は相当なものと言えるでしょう。一途ともいいます。素敵です。

 

 

ななの常套手は標的の自由を突然奪い恐怖に落とし、そこから有無を言わせない怒涛の理不尽な尋問ラッシュ。

 

普通はそれでゲロるのですが、稀にしぶとい方がおり、その場合「肉毒杆菌」(ボツリヌス菌)なんて物騒なもの使用し、

 

解毒剤をチラつかせ情報と命を天秤にかけさせるわけです。

 

案外刃物を突き付けられるような直接的な脅しよりも効果的だと思うのですがいかがでしょう?

 

 

ではでは、一刀君生存の光が見えたところで、次回でAパートも終了です!

 

・・・現状Bパートが未定稿のため近々嫌なお知らせをしないといけなくなるかもしれませんが、

 

どうか気長にお読みいただければと思います。

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

白蓮、早く持ち場に戻ろうぜ・・・

 


 
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