No.78702

青年北郷一刀の物語④

ミッチーさん

桃香と一刀のラブストーリーっぽい話です。

一応、戦闘シーンがメインなつもりです。

桃香が好きな人、注意して!!

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2009-06-13 00:40:38 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:26517   閲覧ユーザー数:18127

「うぉおおおおお―――――――――!!」

 

 

関羽が雄叫びと共に、青龍偃月刀を振り下ろす。

 

刀で受け止めるも、刀は軋み、腕は痺れる。

 

 

「―――っ!(あの細身で……なんて馬鹿力だよ!)」

 

 

真正面から打ち合うなんて駄目だ。関羽の重い一撃は、軌道を逸らし、捌いていかなければあっという間に刀が折れてしまうだろう。

 

 

「はぁああああああ――――――!!!」

 

次々と襲い掛かってくる斬撃の軌跡に、刀をあわせて払いのける。

 

「――――――――ふっ!」

 

 

キィン、キンと、鋼のぶつかり合う音が絶え間なく響く。

 

 

防戦一方だが、俺にとっては大きな前進だ。

“あの”関雲長とやり合えているんだ。7年前に憧れて、だけど見ている事したできなかった領域に、俺は足を踏み出せたのだから。

 

 

しかし、それを数十と繰り返していると、突然攻撃が止む。

 

 

「守りは達者のようだが……それだけなのか?」

 

 

関羽を見る。その顔は『打って来い』と言っている。

解り易すぎる挑発。だが、これに乗らない訳にはいかない。

なにより、守るだけなのは趣味じゃない!

 

 

間合いを詰め、上段に構えた刀を振り下ろす。

 

 

関羽は右足を後ろに引いて半歩下がり、斬撃をかわす。しかし、本命はここからだ。

 

 

途中、地面近くまで刀が下がった状態から刃を返す。

 

 

そして、斜め上に切り上げる―――――――!!

 

 

返す刀は速度を増し、関羽の首皮を裂かんと翻る。

 

 

“燕返し”一段目の斬撃はかわされることが前提。かわしやすい偽装攻撃で相手を油断させ、二段目の斬撃でその油断をつき、敵を切り裂く。

 

 

押し潰すように斬る剣にはなく、切り裂く刀ならではの軌跡だ。

きっと、こんな太刀筋は味わったことは無いはず。

人は初めて見るものには、どうしても対処が遅れるもの。

これなら―――――――。

 

 

「くっ―――――!!!」

 

 

だが、関羽は上体を反らしてそれをかわす。

 

 

「――――――っ!!!(簡単にかわしてくれる!!)」

 

「せぇええええええええええええ―――――――――い!!!」

 

 

関羽が青龍刀を一閃する。

 

体勢が崩れていた為、刀で受け止めるのが精一杯。

力を逸らすことができずに、先ほど同様、刃は軋みを上げる。

 

 

(―――折れる!!!)

 

 

そう思い。握力を緩めると、刀は手から離れ、弾き飛ばされていた。

 

そして、青龍偃月刀が首筋に突き付けられる。

 

 

「………参りました」

 

 

勝敗は決した。元々、関羽に勝てるとは思ってはいなかった。善戦した方だろう。

 

 

「……なるほど。桃香様がいきなり親衛隊に加えたいと言われるので、どれほどの腕かと思ったのだが、それなりの実力は有るようだな。それに、お前は桃香様暗殺を防いだ功をもある。ならば私に異論はない」

 

 

「本当?愛紗ちゃん?」

 

 

「はい。桃香様………確か、戯志才といったな。これから、お前は親衛隊の一員だ。しっかり桃香様をお守りするのだぞ」

 

「はっ!この戯志才。その任、承りました。」

 

「うん!!よろしくね~♪―――か・ず・と」

 

 

うぜぇ。……あの一件以来、劉備はやたらと俺に構ってくる。

吊り橋効果でも起ったのかね?

この親衛隊への昇格だって、彼女の一声からだ。

 

 

「よろしくお願いします………桃香様」

 

 

しかも、真名で呼んでくれと言われ、こちらもいつの間にか真名で呼ばれている。

前から思っていたが、馴れ馴れしい女だ。

 

 

「もぉ~!違うよぉ~!!」

 

 

劉備が駆け寄ってきて、俺の腕を抱く。豊満な乳房に肘が埋まる。

……べ、別にうれしくなんかない。

 

 

「と・う・か、だよ~!『様』はいらないって何度も言ったでしょ~?」

 

「は、はぁ……しかし、桃香様は王です。皆に示しをつけなければならないですから」

 

 

それに……ほら、サイドポニーのお姉さんがとても恐ろしい顔してこっちを見ているからさ、早く離れてくれないかな?

 

 

「ぶーっ!!ぶーっ!!一刀は私のことを『桃香』って呼ぶのは嫌なんだ!……もしかして、私のこと嫌いなのかなぁ?」

 

 

瞳を潤ませ、上目づかいで聞いてくる。

 

 

「まさか!桃香様を嫌いになる人なんていませんよ!!」

 

「ほんとぉ?じゃあ……『桃香』って呼んでくれる?」

 

「え、え~と……」

 

 

 

こいつ、めんどくせぇえええええええええ―――――――!!!

大体、“じゃあ”ってなんだよ?あんたのことが嫌いじゃないと『桃香』と呼ばなくてはならない理由を論理的に述べろ―――。

 

――――はぁ…まぁ、そこまで言うのなら、お望み通りに呼んでやるよ。

 

 

「………桃香」

 

「うん!!えへへ♪(ニコニコ)」

 

 

桃香はとても満足です!って顔して笑っている。

しかし、なんだろう?

この放課後の教室に流れるような、甘酸っぱい雰囲気は?

 

 

無理!!こんな“青春”真っ盛りの様な空気は耐えられません!!!

もう……いい歳なんですよ…………7年という歳月が僕を大人に変えてしまった……。

 

 

「ゴホンッ。桃香様、お戯れはそこまでにしてください」

 

「もぉ~。愛紗ちゃんはすぐそうやって邪魔をするんだからぁ~」

 

「ふむ、愛紗よ。あまり野暮なことばかりしていると桃香様に嫌われてしまうぞ?」

 

「なっ!!星、私がいつそんな事をしたというのだ!!!」

 

「愛紗ちゃんは、私と一刀がいい雰囲気になるといつも間に入ってきまぁ~す!」

 

「と、桃香様!?」

 

 

……なんか俺、置いてきぼりだな。

それに、いい雰囲気とかなってねぇよ。捏造すんな。

 

 

 

―――しかし、趙雲か……彼女と出会ったのは、俺がこの世界に初めて来た時だよな。

 

 

趙雲と目が合う………含み笑いを浮かべられた。

 

さすがに気づくか……『戯志才』という名は、稟が彼女と旅をしていたときに名乗っていたみたいだしね。

 

 

「戯志才殿……でよかったかな?」

 

「……えぇ」

 

「これから宜しく頼む」

 

「はい、宜しくお願いします。趙雲将軍」

 

「星と呼んでくれて構わない。……そちらもそうして貰えるとありがたいのだが?どうもお主を『戯志才』と呼ぶのは違和感があるのでな」

 

「なら一刀と呼んでください」

 

「うむ。一刀、改めて宜しく頼む」

 

「宜しく、星」

 

 

どうやら偽名を名乗る理由を聞く気はないようだな。

 

 

「一刀~~~!!」

 

「ちっ、なんですか?」

 

「舌打ちされた!?なんだか、一刀って私に対しての扱いがヒドイと思うなぁ?」

 

「……気のせいですよ」

 

「まぁ、いいけどぉ~。それより、星ちゃんと何を話していたのぉ?なんだかとっても親しげだったけどぉ~?」

 

「いや……挨拶をしていただけですぞ。なぁ、一刀?」

 

「あぁ。そうだね、星」

 

「え、えぇええええ――――!!!もう真名で呼び合っているの!?私のときは中々呼んでくれなかったのにぃ!……なんか妬けちゃうなぁ……一刀、待遇の改善を要求します!!」

 

「桃香様、ご安心を。これは天の言葉で……確か、そう『ツンデレ』というのです!一刀はツンデレなのです!!今はツン期……照れくさくてわざと桃香様に対してぶっきらぼうに振舞っていますが、じきにデレることになるでしょう」

 

 

目の前で人をジャンル分けするなよ。

 

 

「そっかぁ~♪一刀ってば照れ屋さんなんだねぇ~♪このこの~♪」

 

 

なんて戯言を言い、桃香が肘で脇を突いてくる。

 

 

「うむ。今は多くの時間を共にすごし、好感度を上げていくことですな」

 

 

星、会うだけで好感度が上がるのはエロゲだけだ、それに俺はツンデレではありません。

 

 

 

 

 

……つか…もう、帰っていいスか?

 

 

 

 

 

「――――はぁっ!!」

 

 

刀で空間を薙ぐ。

 

ひとつ、ひとつをゆっくりとした動きで、丁寧な体捌で型を確認するように刀を振る。

 

桃香の近衛兵になったのが数日前、今日も自らの武芸を磨くため鍛練は欠かさない。

 

 

「――――――ふぅ~」

 

 

息を吐ききり、身体の動きを止める。

 

 

刀身に目を向ける。

刃は、欠けてしまったところ、疵がついたところが幾つか見えた。

 

手入れは欠かしてはいないのだが、やはり、刀鍛冶の手でないと修復しきれないものも増えてきた。

 

 

肉を裂き、骨を絶つ。

そうしてできた疵は、俺が人を殺す度に増えていく罪の証。

 

 

この疵は、これからも増えていくことになるのだろうか?

罪の重さに俺は耐えられるだろうか?

 

 

初めて人を殺した時のことを思い出す。

 

あの晩、汚れを落としに泉に行った。

月明かりに照らされ水面に自分の顔が映ったとき、口元がつり上がり、ひどく醜い薄笑いを浮かべている自分を見た。

 

 

あのとき湧き上がってきた感情、あれは受け入れてはいけないものだ。

自分をしっかりと持たなければ、心が黒く塗りつぶされ鬼になってしまうだろう。

 

 

「………あ、あの…」

 

 

思考に没頭していたら、ためらいがちに声を掛けられる。

 

振り向くとそこには、侍女の服装をした小柄な少女がそこに居た。

 

 

「戯志才さん……ですか?」

 

「はい、なにかご用でしょうか?」

 

「あの、桃香様がお呼びです……」

 

「そうですか……わざわざありがとう」

 

 

少女の瞳を見つめてお礼をいう。

 

 

「へぅ……」

 

 

異性になれていないのか、少女は目が合っただけで恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

 

「あ、あの。桃香様は玉座にて御待ちです………それでは、失礼します(ペコリ)」

 

 

お辞儀をして、少女は立ち去る。

 

少女の仕草はとても初々しいものだ………なんだか癒されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――玉座の間

 

 

 

「戯志才、只今参上いたしました」

 

「来たか、戯志才」

 

 

桃香の隣にいる、関羽が声を掛けてくる。

 

 

「はい………それで、いったいなんの御用で?」

 

 

この場には、桃香、星、関羽、諸葛亮、賈駆がいる。どうやら桃香の私用で呼び出されたわけではないようだ。

……ならば一体なんの用があるのだろうか?

 

 

「うむ、実はな。一刀、お主が捕らえた暗殺者なのだが……いろいろと吐いたぞ」

 

 

星が答える。しかし、いろいろとは……誰が桃香を狙ったのかを判明したということかな?

 

 

「それで?どんな人物が桃香様の命を狙ったのですか?」

 

「はい、この地の有力な豪族……のようです」

 

「軍議で、軍をあげ討伐することが決まったわ。指揮はボクが執る」

 

 

軍師のふたりが答えてくれる。

賈駆が討伐軍の指揮を執るらしく、やる気を見せていた。

 

 

「………そうですか。がんばってください」

 

「がんばって――――ではない!!!戯志才、お前も将として同行してもらうぞ」

 

「え?……関羽将軍、私は桃香様の近衛兵なのですが?」

 

「うぅ~ん。私は反対したんだけどね……一刀には私の傍にいて欲しいし……でも、愛紗ちゃんが……ていうか、“様”はいらないよぉ~」

 

 

なぜ、そこまで『桃香』という呼び方に拘るのだろうか?

 

 

「桃香様!先ほども言ったではありませんか!………戯志才、お前はこれから桃香様をお守りする人間だ。ならば、将として兵を率いる経験を積んでおく必要もある。今回はいい機会だろう」

 

「……わかりました。それで出立はいつ頃ですか?」

 

「明朝だ。準備を怠るなよ」

 

「はっ!!」

 

 

……こうして、俺は討伐軍に加わることになった。

 

 

―――――――――――――――――自室

 

 

 

早朝、俺は昨日会った侍女の手をかりて、自らの身を真紅に染められた鎧で着飾っていく。

 

 

「……戦にいかれるのですね」

 

「あぁ。相手は王に弓を引いた謀叛人さ、すぐに成敗してみせるよ」

 

「その人を……殺してしまうのですか?」

 

「――さて、大人しく投降するのならばそれなりの対応はするだろうが……」

 

「そんな人は、桃香様の命を狙ったりはしない………ですか?」

 

「……他人の命を奪おうとするのなら、自分が同じことをされても文句はない筈。俺は、そう考えているよ」

 

「……でも、私はあなたに助けて貰いました」

 

 

「えっ?」

 

 

「洛陽が反董卓連合軍に占領されてしまったときに、私と詠ちゃんはあなたに……」

 

 

なんのことだ?

……『詠ちゃん』って確か賈駆の真名だったよな?

 

そういえば、宮城で董卓を探しているときにこの子を見たような記憶がある。

城がなくなり居場所がなく、だけど曹魏では引き取れないからって劉備軍に預けた子だったかな。あの時、一緒にいたのが賈駆ならばこの子はまさか……。

 

 

「……思いだして頂けましたか?……私は董卓、字は仲穎と申します。私は……董卓軍は大きな争乱を起こしてしまいました。……でも、あなたはそんな私や詠ちゃんを助けてくれました」

 

 

「……君が董卓だったのか。でも、俺は何もしていないよ。君を保護したのは桃香だ。それに君達のことは侍女かなにかだと勘違いしていたしね。君が董卓だと知っていれば、俺は君を殺していたかもしれない」

 

 

「……例え、私が董卓だと知っていたとしても、あなたはそんなことはしなかったと思います。……それに…あのとき、北郷さんに出会えたから、私はこうして生きていられるのだと思っています」

 

 

「北郷か……君は、俺が“天の御遣い”だと……北郷一刀だと、気づいていたのか?」

 

「はい……皆さんは気づいていない様子ですが……内緒…なんですか?」

 

「……あぁ。だから、黙っていて貰えると助かるな」

 

「わかりました。ほん……いえ、戯志才さんがそう言うのなら」

 

「……一刀って呼んでくれないか?戯志才は偽名だ。それを知っている人間に呼ばせるのは心苦しいのでね」

 

「はい、一刀さん。私のことは、月と……私も董卓であることは内緒ですから」

 

「わかったよ。月」

 

「あ、あの……すみません。いきなりこんな話をして。………ただ…私は、一刀さんに変わって欲しくないと思って……」

 

「変わる?…俺がかい?」

 

「はい。……私も桃香様の命を狙ったことは許せないです。でも……それ以上に……敵だから殺してしまうなんてことを……一刀さんにはして欲しくないと……そう、思ってしまって……」

 

 

以前の俺、月を助けた(彼女はそう信じている)『北郷一刀』ならば、敵だからといえ簡単に殺すなど口にしない、そういうことかな。

 

だが、良くも悪くも人は変わる……時の流れと共に変わっていくものだ。

 

もう、昔とは違う。

 

俺は、殺しを躊躇わない。甘い考えでは、戦場で死ぬだけだ。

 

だけど、月の言ったことは覚えておこう。これは彼女の真摯な願いだと思うから。

 

 

「月。君の言う通り、簡単に人を殺すなんてしてはいけないね。心に留めておくよ」

 

「……すみません。今から、戦場に行く一刀さんに人を殺さないでなんて……おかしなことを言っていますね……あ、あの……どうかご無事で……一刀さんが無事に帰ってこられることを祈っています」

 

「……ありがとう、月。きっと無事に帰ってくるよ」

 

 

月の手を握り、彼女の瞳を見つめながらお礼を言う。

 

 

「へぅ……」

 

 

月は顔を赤らめ、俯いてしまう………月の初々しい仕草を見ていると、とても癒されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――成都・宮城

 

 

 

準備を整え、討伐軍の集合場所に向かっていると桃香に声を掛けられた。

 

 

「一刀~~~~♪」

 

「ちっ。桃香、どうかしましたか?」

 

「ぶーっ!ぶーっ!なんでいつも一刀は私が声を掛けると舌打ちするのかなぁ~?もぉー!相変わらずツンデレなんだからぁ~!」

 

 

ツンデレではない。

 

 

「桃香に舌打ちなんてするわけがないでしょう?勘違いですよ」

 

「もぉ~。嘘吐きぃ」

 

 

唇を尖らせ拗ねたような顔してそう言うのは、ちょっと可愛い。

好感度が少し上昇した。

 

 

「あの、自分はもういかなくてはいけないのですが……」

 

「うん!だから、お見送り。……気をつけてね……えっと…それから――――」

 

 

桃香はそう言うと、顔を俯かせ、なんかモジモジする

 

 

「それから……なんです?」

 

 

桃香が顔を上げる。そして、意を決したような顔をして近づいてきた。

 

 

「―――――ちゅっ!」

 

 

重なる唇。しかし、彼女の柔らかい唇の感触はすぐに離れていく。

 

 

「えへへ♪……一刀が無事に戻ってこられるおまじないです!」

 

 

真っ赤な顔で、そんなことを言う。

 

 

「きゃ~~♪」

 

 

なんて乙女っぷりを発揮し、背を向け走り出す。……その背中はすぐに見えなくなった。

 

 

「………………」

 

 

……せ、青春してるね~。

なんだか、とてもこそばゆい……。

 

 

―――――――――――――――そして、進軍の最中

 

 

 

全軍の数は3,000。将は、関羽、星、俺。軍師は賈駆。

 

道中、俺と星は男のロマンについて語り合っていた。

 

 

「お~。やはり、すごいな。関羽将軍のアレは」

 

「うむ。大きさでは紫苑や桔梗に負けてしまうが、弾力性とツンと上を向いた造形の美しさはまさに至高。アレは桃香様のモノと双璧をなす、蜀の至宝だからな」

 

「し、至宝!?……なるほど。警備隊にいる友人も『あれは……いいものだ~』って言っていたな。そうか……アレは至宝なのか……」

 

「それに、今は騎乗している。あの揺れ方を見られるのは貴重だぞ。普段はあそこまで揺れることはないのだからな」

 

「……なるほど。俺は今、猛烈に感動して―『お前達!!いい加減にしろぉおおお――――!!!』

 

 

「お?」「む?」

 

 

「おや?どうかしたのか?愛紗よ」

 

「どうかしたか―――ではない!!まったく、お前達はなんて話をしているんだ!!これから戦だというのに……もっと緊張感を持て!!」

 

 

若干、手で胸を隠しながら関羽が俺達を叱る。

 

 

「戯志才!お前はこれが初陣だというのに……随分と余裕があるのだな?」

 

「まさか、余裕なんてありませんよ。……えぇ、とても緊張しています」

 

「嘘をつけ!!緊張をしている輩が、あんな破廉恥な話で盛り上がれるものか!!」

 

「まぁ、男の子ですから……それに、あれですよ。虚勢を張っているんですよ。かっこ悪いところを見せたくない生物なんです、男の子ってのはね」

 

「ほぉ。ならば、お前に大役を与える。皆にいいところを見せてくれ」

 

 

「…………」

 

 

なんですって?

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――敵城・城門前

 

 

 

「私は!!戯志才!!!蜀の王、劉備直属の近衛兵だ!!!」

 

 

敵、城門の前にひとり赴き、宣戦布告をする。

 

 

「貴殿らには、劉備暗殺の手引きをした容疑が掛かっている!!ただちに武装を解除し、投降されよ!!!この警告に従わぬ場合、軍事力をもってこの城を制圧し貴殿らの身柄を拘束、あるいは殺害する!!!」

 

 

初陣の奴にこんな大役を押し付けるなんて、関羽は鬼だと思います。

 

 

「投降せよ!!申し開きがあるのならば成都にて聞こうではないか!!!それとも、謀叛人として後の世に名を残すのをよしとするか!?」

 

 

城門は固く閉ざされ、出でくる気配はない。

だが、城壁の上になにやら人影が見えた。

 

 

「―――っ!!!」

 

 

上から矢が飛んでくる。

持っていた槍で弾くと飛んできた矢は、俺が乗っている馬の足もとに墜ちていった。

 

 

「これが貴殿らの回答か!?ならば、軍事力を行使し、この城を制圧させてもらう!!覚悟されよ!!!」

 

 

こうして、戦が始まることになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――討伐軍・天幕

 

 

 

「戻ったか。……どうやら、敵は大人しく投降する気はないようだな」

 

「―――そう、みたいですね。それにしても……いきなり矢が飛んでくるとは思いませんでしたよ」

 

「……なにやら、不満そうだな。戯志才」

 

「それはそうでしょう……大体、初陣の人間にあんな大役を任せるなんて関羽将軍、あなたは酷い人だ。小心者の私には荷が重すぎますよ」

 

「よく言う……私は、お前の様なふてぶてしい態度をした小心者は見たことがないぞ」

 

 

関羽に不満をぶつけていると、賈駆がその間に入ってくる。

 

 

「あんたの不満なんてどうでもいいわ。それより、どう軍を動かすかを決めるわよ」

 

 

―――――そうして、軍議が始まる。

 

 

……………………。

 

…………。

 

 

「敵は籠城を選択したわ。愛紗は先鋒を率いて正門から突破。星は、城を包囲して後方から援護。ボクは後詰として後方で待機する」

 

 

「応!」「うむ!」

 

 

「戯志才。あんたには、遊撃部隊として300の兵を任せるわね。まぁ、これが初陣みたいだし、適当にやって頂戴。……ボクの邪魔をしなければ、なんだっていいわ」

 

「……了解しました」

 

 

期待……されてないね。

自由にできるのは有難いが……なんだか涙がでちゃう。

 

 

「しかし、籠城とはね……援軍がくるアテでもあるのですか?」

 

「それはないわよ。でも桃香を殺そうとするぐらいだもの、敵もなにかしらの信念があるんじゃない?それとも、私達に大人しく捕まるぐらいなら戦って死ぬっていう矜持とか…」

 

「……援軍はない。それだけわかっていれば十分ですよ」

 

 

これから殺し合う者達のことなんて、知っても迷いしか生まれない。

 

 

「詠!戯志才!これから攻撃を開始するぞ!!お前達も持場に急げよ!!」

 

「わかってるわよ!」「うぃ~す」

 

 

 

 

「敵は桃香様の御命を狙った謀叛人!!容赦する必要はない!!!我々で奴らを成敗するのだ!!関羽隊でるぞ!!我に続けぇええええええええ―――――――!!!」

 

 

関羽が先鋒として突撃する。

 

 

俺の部隊はどう動くか……。

部隊の士気は高くはない。まぁ、関羽、超雲といるなかで実績のない俺の部隊に配属されたら士気が上がらないは当然かな。

 

ならば……。

 

 

「我が部隊もでるぞ!!私が先陣をきる!!皆、私についてきてくれ―――!!!」

 

 

上の者が動かなければ、部下はついてこない。自ら先陣をきり、馬を走らせ、敵城に向かう。

 

 

敵軍は城壁の上から矢の雨を降らせていた。

身を屈め、矢が当たらないことを祈り、馬を走らせる。

 

 

「なんとか、城壁までこられたか……………っ!……おっと……」

 

 

空から人が降ってくる。

どうやら、城壁に掛けたハシゴを上り、城内に侵入を試みた兵が敵兵に地面へと叩き落とされてしまったようだ。

 

 

守りは固く、いまだ城内への侵入は許していない。

ならば……一番乗りをさせて貰うとしよう。

 

 

馬を降り、ハシゴを駆け上って城壁の上を目指す。

 

 

「―――ちっ」

 

 

無数の矢が飛んでくる。

自らに当たると思われる軌跡の矢を見極めて、槍で。また、身体をずらして甲冑に当ててやり過ごす。

 

 

「ふっ―――――――――――!!!」

 

 

城壁の上にたどり着くと、槍を一閃し、弓兵共を薙ぎ払う。

槍の長い間合いから、突きではなく柄で殴打し、敵兵の腕や肋骨を粉砕する。

 

 

そして、この場所を死守し、進入路を確保して友軍兵の侵入を助ける。

 

 

「はぁっ―――――!!!」

 

 

群がってくる敵兵の眉間や喉など、急所を槍で穿つ。

数人を仕留めると、俺の部隊の兵が5~6人ほど城壁の上にたどり着いていた。

 

 

「何人かは、ここに残り進入路を確保!!残りは私に続け!!!正門を制圧し、門を開き、城内に関羽隊を引き入れるぞ!!!」

 

「「「応!!!」」」

 

 

俺は、部下を率いて正門へ向かう。

 

立ちはだかる敵兵を槍で退ける。

射程範囲に入った敵兵を高速の打突で一刺しにして、絶命させる。

 

 

屍を量産しながら、足を進める。

暫く進むと正門まで辿り着くことができた。

 

 

正門を守護する敵兵を一掃し、門を開け放つ。

開け放たれた門には、関羽の部隊が流れ込んでいく。

 

 

「ここは任せる!!私は領主を討つ!!!」

 

 

門は部下に任せ、俺はこの城の主を捜し戦場を駆け抜ける。

 

 

「……くく……まるで、一騎当千の活躍だな」

 

 

嫌な笑いが口から出てくる。

 

それに、身体が熱い。

 

(熱い……喉がカラカラだ。)

 

熱をもった身体は、疲れを感じないかのように次々と槍で敵を抉る。

槍を引き抜くと、傷口から鮮血が飛び散り、俺を血で染めていく。

 

(……もっとだ……これでは全然たりない……)

 

以前感じたドス黒い感情が、俺の心を塗り潰す。

次々と血の雨を降らせていく―――。

 

(もっと……もっとだ!!!………この渇きを鮮血で満たすんだ――――!!!)

 

精神は高揚し、自らの所業……人殺しに酔いしれていく。

 

 

敵兵の急所を貫かんと槍を突き出す。

しかし、剣で柄を打ち、槍を跳ね上げることで軌道を逸らされる。

懐に入られるが、斬り返しで槍を振り下ろし、柄で頭蓋を殴打して撲殺する。

 

 

横から敵兵が迫ってくる。

身体ごと槍を真横に半回転させ払いのける。

敵兵は、後退するも槍の間合いからは逃れられず、穂についた刃に腹を引裂かれた。

 

「――――ぐ、がぁ!」

 

胸を一突きし、心臓を抉ることで止めを刺す。

 

 

今度は背後からだ。

迎え討とうと槍を引き抜こうとするが、深く抉ってしまったのか抜けない。

 

 

「ちっ――――――!!」

 

 

槍を手放し、体当たりで地面に押し倒す。

馬乗りになり相手の持っていた剣を奪い、それを敵兵の喉元に振り下ろす。

 

 

突き刺さった剣を引き抜くと、大量の血液が噴き出し、俺の顔を赤く染めた。

 

 

「………くくく…」

 

 

口元がつり上がる。

 

 

「……くく、ははははは――――――――――!!!」

 

 

自然と嘲笑が喉から発せられる。

 

 

俺は、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

―――さて、次の獲物を狩りにいくとしようか。

 

―――――――――――――成都・宮城

 

 

 

「桃香様。お茶、いかがですか?」

 

「あっ、うん!いただきます!ありがとう~。月ちゃん」

 

「なんだか難しい顔をしていましたが、どうかしましたか?」

 

「うぅ~ん。愛紗ちゃん達は、大丈夫かなぁ~って考えてたんだぁ」

 

「……そうですか、確かに心配ですね。皆さん……怪我とかしてなければいいですけど」

 

「……私達は、心配することしかできないもんね。……あ~。心配だなぁ~」

 

「……桃香様、大丈夫ですよ。一刀さんが私に、ちゃんと無事に帰ってくるって約束してくれましたから……きっと、皆さん無事に戻ってきますよ」

 

「一刀さん!?月ちゃん、いつの間に真名で呼ぶようになったの?」

 

「ふわわ…。あ、あの出立前に着付けを手伝わせて頂いたときに……」

 

「一刀ったら、月ちゃんにまで手を出してたんだ~。もぉ~!油断も隙もないよぉ」

 

「……あ、あの…別にそういうのでは……」

 

「一刀って、愛想が悪いのに油断ならないよねぇ~。白蓮ちゃんとは、いつもふたりでお酒を飲むくらい仲良しみたいだしぃ~。そのくせ、私のことはいつも鬱陶しそうな目で見るんだからぁ~」

 

「……そんなことはない…と思いますよ」

 

「うぅん。一刀は絶対、私のことウザいぃ~って、思ってるよぉ。―――でも、私は気にしないもぉ~ん♪私の気持ちをぶつけていって、必ず振り向かせてやるんだからぁ」

 

「……桃香様はすごいですね…」

 

「え!?どうしてぇ~?」

 

「私なら…そんなふうにできないと思うから……」

 

「えぇ~?私は、自分の気持ちに正直になっているだけだよぉ~」

 

「……それは…中々できるものではないですよ…」

 

「月ちゃん……そうだ!一刀達が帰ってきたら、笑顔でお迎えしよう。とびっきりの笑顔で『おかえり』って言うの!!」

 

「……はい!…いい考えだと思います」

 

「ふふっ♪一刀は私達を見たら、どんな顔するかなぁ~?」

 

「……きっと笑顔になってくれますよ。……楽しみですね」

 

「うん!!……あ~ぁ。みんな、早く帰ってこないかなぁ~」

 

 

―――――――――――敵城内

 

 

 

「……くくっ…」

 

 

(……見つけた)

 

 

獲物を見つけ、口が綻ぶ。

 

1、2、3………8人か……。

 

物陰から様子を窺う。

 

(む?あれはこの城の主か?)

 

一般兵に交じって、上等な衣服を着た男が見えた。

 

(これはこれは……どうやら、この戦のヒーローは俺で決まりのようだな)

 

腰の刀に手を掛ける。鞘から刀を抜き好機を窺う

 

(俺に気づいた様子はないか………ならば―――!!!)

 

物陰から飛び出し、間合いを一瞬で詰め、すれ違いざまに敵兵を斬りつける。

 

一息つく間に、6人をも斬り伏せて見せる。

 

敵兵は気づいたときには、すでに斬りつけられており、後は死に向かうのみだ。

 

 

―――身体が軽い。

 

戦場を経験し、経験値が溜まることで、技量が上がったのか。

今まででは考えられないような動きを容易に行うことが出来るようになっていた。

 

 

しかし、残りが2人(領主+兵1)となったとき、反撃を受ける。

 

 

斬りつけた刀を左手に持つ剣で弾くことでいなされ、右手に持つ剣がハラワタを引裂かんと翻る。

 

 

「――――――くっ!!」

 

 

バックステップで剣戟をかわす、しかし、腹を守る鎧が引き裂かれていた。

 

(……双剣)

 

 

距離をとり、相手を観察する。

 

(……女か…この世界の女の武将は油断できない)

 

長身で細身の体は、しなやかでよく鍛えられていることが窺えた。

 

(…俺と同レベル……或いはそれ以上の実力か?……)

 

 

「………くくっ」

 

面白いじゃないか。もう雑魚と遊ぶのは飽きていたところだ。

 

 

「戦闘狂め。……貴様は…確か、戯志才だったか?宣戦布告をしにきた奴だな」

 

 

女が口を開く。

 

 

「あぁ、そうだ。それにしても、戦闘狂とは酷い言いぐさだな。この平和主義者にむかって…」

 

 

そう言う俺の口元は大きくつり上がっている。強敵と巡り逢い、気分が高揚していく。

 

 

「戯言を……まぁ、自分の顔は見られないものだな。……しかし、そんな返り血まみれのなりで平和主義者などと、よく言えるな」

 

「俺は、君達のように暗殺などといった、暴力に訴えることはしないが?」

 

「―――くっ!だが、こうして軍で我らを制圧している」

 

「警告はしたはずだ。それに、最初に劉備を殺そうとしたのは君達だ。それを忘れ、こちらを非難するのか?」

 

「―――――これ以上、貴様と言葉を交わしても意味はないようだな」

 

「それは同感だ。気が合うな」

 

「ふんっ!聞け!!戯志才!!私の名は―『必要ない!』

 

「――なに?」

 

「これから、死に逝く者の名など知ってどうする?……だが、君は覚えておくといい。戯志才という名は、

―――君を殺す名だ」

 

「傲慢だな。……その余裕、いつまでもつかな――――――!!!」

 

 

女が双剣を構え、こちらに向かって突進する。

 

 

―――右の剣が、頸動脈を目掛け振り下ろされる。

 

 

「はぁああ―――――!!」

 

「―――――ふんっ!」

 

刀で払いのけていなすと、左の剣が脇腹へと迫ってくる。

 

返す刀で、剣を叩き落とす。

 

 

すると、今度は右の剣が眉間を狙う。

 

 

左足を後ろに引き、身体を捻ってそれをかわす。

 

そして、女の肩を目掛けて、腰の位置に構えている刀を振り上げ斬りつける。

 

 

ガッ、ギィイン!!!

 

 

金属音がする。

 

左の剣で受け止められた。

 

 

「――――っ!」

 

 

後退して、間合いを離す。

 

 

こちらは、スピード。

 

あちらは、手数。

 

その力は拮抗している。

 

なら、こちらの最速の一撃でその均衡を崩す。

 

 

――――刀を鞘に納め、右足を前にだして腰をおとし、前傾姿勢をとり、力を溜める。

 

 

「―――――すぅ」

 

 

息を吸い―――。

 

 

大地を蹴る。一瞬で間合いを詰め、抜刀!!

鞘から高速で放たれる斬撃は、横一文字の軌跡をとる。

 

 

対する女は右手を振り上げ、上段から剣を縦に一閃させた。

 

 

刀と剣。ふたつの凶器がぶつかり合う。

 

横と縦の軌道の重なりにより、両者の間に十字が描かれる。

 

 

だが、それも一瞬。

鋼の引き裂かれる音と共に、一筋の閃光が奔っていく。

 

 

「―――――ぐっ!!」

 

 

女が声を上げ、後ろに下がる。

胸から血を流し、後ろによろめいていく。

 

 

(―――ちっ、浅かったか)

 

 

突進の勢いを刃に集約して放った渾身の一撃は、交差した剣を切り裂き,

その勢いのまま女に迫ったが、皮一枚を裂くに止まった。

 

 

しかし、女は武器をひとつ失った。

これは好機だ。追撃し、このまま畳みかける。

 

 

女を追い、上段から振り下ろし、剣を持たない右側面にぬるい縦の斬撃を浴びせる。

 

 

――――斬撃はかわされてしまう。

 

 

刀を振り下ろした為、頭上に隙が生じる。その隙を狙い、女が剣を振り上げる。

 

 

「―――詰めが甘かったな!!はぁああああ―――――!!!」

 

 

女は播いたエサに食いついてくる。

 

 

―――――燕返し。

 

刃を返し、女が剣を振り上げた結果生じた胴体の隙へ、横薙ぎの斬撃をお見舞いする。

 

 

地面近くから、扇型の軌跡を描く刀は、女の振り下ろした剣を弾き飛ばし、胴を切り裂いて

――――その動きを止めた。

 

 

 

地面に横たわる女は、胴体を斜めに引き裂かれた傷から、出血している。

 

致命傷ではないだろうが、このまま血を流し続ければ死にいたるだろう。

 

 

「―――――くっ、くはははっ!!俺の勝ちだな―――」

 

 

女を見下ろし、勝利に歓喜する。

 

 

……それにしても、戦いに夢中になり過ぎて、この城の主のことを忘れていたな。

奴を捜さなければ……。

 

 

 

「おい。なぜ、そんなところに突っ立っているんだ?なぜ逃げなかった――――」

 

領主の男は、少し離れたところで呆然としていた。

 

「―――なぜ、逃げねばならんのだ。私は間違ったことはしていない」

 

 

「暗殺のことか?……ふん!間違っているとか、いないとか。それになんの意味がある?所詮は人間のすることに絶対はない。確かなのは結果だけさ。あなたは劉備を殺そうとし、俺はそれを咎めにきた。そら、非力なあなたのとるべき最善の行動は逃げることのみ。でなければ、あなたは死ぬだけだ」

 

 

領主に武の気配はまるで感じない。もし、戦えば俺に殺されるというのになぜ逃げないのだろうか?

 

 

「劉備の犬め!私は、この国のためを思い、やったというのに!!」

 

「ほぉ。あなたは明確な信念による行動だと?ならば、聞こうではないか。あなたの―――」

 

 

男を蹴り倒す。

そして、地面を這う男を踏みつける。

 

 

「―――――信念とやらをね」

 

 

獲物を前にし、舌舐めずりをする………どうやら、俺は三流らしい。

 

 

「……今の三国同盟によってもたらされた平和は、上から押し付けられたものだ。蜀国は曹魏によって侵略されたんだぞ!あの戦で多くの命が失われた!!家族や大切な人間を失った民が大勢いる!!それを今更、仲良くしろと言うのか!!彼らの感情はどうする?悲しみや憎しみはどこに向ければいいのだ!!!三国の上層部は随分と仲が良いようだが、全ての人間が同じだと思うな!!!」

 

 

「……それが、どうして劉備の暗殺に繋がる?」

 

「劉備は王に相応しくない。他の人間が王になるべきだ」

 

「劉備を否定するのか?彼女は今の蜀を作った英雄だろう」

 

 

「確かに劉備が興した蜀国は見事だ。だが、劉備玄徳が王ではこれ以上の発展は望めない!!……今、蜀では働かず国庫を食いつぶす輩が数多く存在する。それはなぜか?劉備玄徳が施しを与えるからだ!!かわいそうだ、とな!!!それを、税を納めている領民はどう思うか?なぜ、自分たちが汗水流して作ったものを働きもしない者に分け与えるのだ、とそう思うのではないか?」

 

 

「ならば、施しをやめろと?中には本当に働くことが出来ない者もいるだろう?」

 

 

「働けないのでなく、“働かない”者が大半を占めている!人は働かずに生きていけるのならば、わざわざ働こうとは思わない!!蜀は堕落し始めている。それは、劉備のあまい政治の招いた結果だ!!これ以上堕落した民が増えるのならば、蜀は、内側から腐っていく!!―――言っただろう!すべての人間が……三国すべての人間が、馴れ合いをよしとはしていないと!!孫呉は、曹魏に占領されたことを忘れていない!!曹魏は、大陸統一を諦めてはいない!!!国が堕落し、これ以上国力が落ちていけば、蜀はいずれ、他国に飲み込まれてしまう!!」

 

 

正史では蜀漢は曹魏に飲み込まれてしまう。だけど―――。

 

 

「ならば、切り捨てろと!?国の害になるという、劉備と民を切り捨て、国を発展させろと言うのか!?―――なぜ、民は安くない税を納めてまで、国に所属する?それは、自分の力では家族を!財産を!そして、自分自身を守ることができないからだ!!この国ならば自分たちを守ってくれる……そう思えばこそ民は国に集まってくるんだ!!不要なものを切り捨てるやり方では、国家は信頼を失い、その体をなさなくなるぞ!!!」

 

 

「国を成り立たせるためには、非情さも必要だ!国が滅べば、切り捨てた以上の人間が不幸になるのだぞ!!すべての民が幸せに暮らせる世の中をつくるなど、劉備の理想は所詮、幻想!!夢物語だ!!民は夢の中に生きているのではない!現実に生きているのだ!!夢ばかりを見て、現実を見ようとしない劉備は……民を蔑ろにしているも同義!!!奇麗事ばかりでは生きてはいけない!!!」

 

 

まったく、……同感だね。

奇麗事だけでは、すべてが済むはずがない。

でも、皆が幸せに……なんて、綺麗な夢を見たっていいじゃないか……。

 

 

「諸葛亮がいる!鳳統だって……。劉備には、彼女を支える仲間が大勢いる!!……だから…きっと、蜀という国を正しく導いてくれる!!」

 

 

全ての人間とわかり合うことなんて……出来るわけがない。

 

共感する部分もあるが……この男の考えを肯定することは出来ない。

 

俺は……桃香を守る近衛兵だ。

 

だから、殺してしまえばいい……桃香の敵は排除する。

 

 

刀を男の首筋に当てる。

 

 

「……はははっ!!私を殺すのか?私の様な……都合の悪いものは排除する……いくら奇麗事を述べようと…それがお前達の真の姿なのだな!!……いいぞ、それでいい!!私の命が、蜀の礎となるのならば

……私は満足だ―――!!!」

 

 

うぜぇんだよ。

 

 

刀をゆっくりと振り上げる。

 

そして、それを――――。

 

 

「―――――ちっ」

 

 

―――――振り下ろすことができない。

 

 

なぜだ?

 

俺は、なぜ振り下ろすことができないんだ!!

 

 

 

青臭い論議をかわした為なのか……いつの間にか、俺を支配していた黒い感情が消えていた。

 

そのせいか、月の言葉が思い出される。

 

 

『……敵だから殺してしまうなんてことを……一刀さんにはしてほしくない……』

 

 

今更だ……ここに来るまでに、俺は何十人も殺してきたとういのに!!

 

それなのに、なにを躊躇っているんだ―――!!!

 

それは偽善だろう!!

 

もう、俺は……大勢の人間を殺している……殺人鬼だというのに。

なにを今更迷うというのだ――――――。

 

 

 

 

 

 

(――――――――くそぉおおおおおおおお!!!)

 

 

―――――――――――――成都・宮城

 

 

 

あの後、すぐに戦は終焉した。

 

領主を捕縛したお陰で、敵兵の士気は下がり、次々と投降していったからだ。

 

 

はや数日が経ち、俺は成都にたった今、帰還した。

 

 

もう、空は闇に覆われている。

 

 

俺の心も闇に覆われているように沈んでいる。

 

 

罪の意識を感じる。

 

俺は、人殺しを楽しんでいた……数多くの命をこの手で奪ってしまった。

 

そんな俺が、罪の意識に苛まれているなんて、おこがましいことなのかもしれない。

 

だけど、自分を責めなければ、平静が保てない。

 

罪の意識に押し潰されそうだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

身体が重い……もう、すぐにでも休みたい。

自室に向かい足を進めていると、人影が現れる。

 

 

「一刀………」

 

「っ!………桃香」

 

 

「えへへ♪……一刀、おかえりなさい――――」

 

 

桃香は満面の笑みを浮かべ、俺を迎えてくれる。

俺は自然に言葉を返していた。

 

 

「―――――あぁ、だだいま。桃香」

 

 

俺は今、どんな顔をしているのだろうか?

 

彼女に笑顔を返せているだろうか?

 

或いは、人殺しの顔をしているのだろうか……。

 

 

―――月明かりが、射しこんでくる。

 

 

それは、幻想的に辺りを……俺達を照らしていく。

 

 

俺の心を覆っていた闇が消えていくのを感じる。

 

なぜだ?

 

まさか……桃香のお陰なのだろうか?

 

 

「……一刀?」

 

 

桃香が首を傾げる。

 

口を半開きにしているその顔は、とてもマヌケだ。

 

 

「―――――ブッ!!」

 

 

やべっ。笑っちゃったよ。

 

 

「ひど~~~~い!!」

 

 

桃香は不満げだ。

 

 

「すまない。君がとてもマヌケな顔をしていたから、思わず……ね」

 

「―――それ、謝ってないよねぇ!?」

 

 

とても癪だけど、そういうことなのだろう。

 

―――俺は、桃香に救われている。

 

 

桃香は正直、うざい。

 

偽善的な言動が癇にさわる。

 

いつも、俺の周りに纏わりついてくるのが鬱陶しい。

 

正面から、好意をぶつけてくることが煩わしい。

 

 

でも……俺の心は、彼女に救われていた。

 

 

初めて人を殺めたとき……罪の重さに耐えられず、塞ぎこんでいた俺に桃香はやたらと構ってきた。

 

 

うざい……そう感じていたけれど。

彼女と一緒に過ごしていると、自然に笑顔を浮かべていた。

 

 

今だってそうさ。

あんなに思い悩んでいたのに、彼女のマヌケ顔を見ていたら心が晴れていく。

 

 

勿論、罪を忘れたわけではない。

 

だけど……彼女の存在が俺の心を正してくれるんだ。

 

人殺しに溺れそうになる、弱い心を戒めてくれる。

 

 

「……桃香」

 

 

俺はどうやら、君が必要らしい。

 

君が居なくなるなんて考えられない。

 

君はまた、今回の様に命を狙われたりするのだろうか?

 

 

(ならば、俺は――――――)

 

 

桃香を抱きしめる。

 

 

「――――君を守る。君を失いたくなんて、ないから…」

 

「え?………かず…と?」

 

 

桃香を抱きしめる腕に力を込める。俺の想いを伝えるかのように……。

 

 

「…ねぇ?どうして私が、『桃香』って一刀に呼んでもらうことに拘っていたんだと思う?」

 

「ん?………さぁ?」

 

「も~~!!どうしてそこで、興味なさそうに答えるのかなぁ~?」

 

「……なぜだい?」

 

「もぉ!これは重要なんだからねっ!……私はね…王様とかじゃなくて……一刀に…ひとりの女の子として見てもらいたくて……それでね…」

 

 

俺の背中に彼女の腕が回される。

 

そして、互いに見つめあう。

 

 

「あ、あの……私は……一刀のことが―――――」

 

 

 

(俺はこれからも人を殺すのだろうな)

 

この世界であまい考えでいるのなら、大切なモノは目の前から消えてしまうだろう。

 

だから、俺は殺す。

 

桃香のためなどと、責任を押し付けるつもりもない。

 

大切なモノを壊そうとする者をこの手で排除する。

 

俺は俺自身のため刀を振るう。

 

 

――――そう、決意を固める。

 

 

 

「――――――好きです」

 

 

互いの唇が近づいていく。

 

 

そして――――――――。

 

 

二度目のキスは、一度目のようにすぐに離れることはない。

 

いつまでも、彼女の柔らかい感触を俺の唇に刻んでいた……。

 

 

 

 

 

 

……………つづく

 

 

あとがき

 

 

ラブコメちっくなものを書いていると、死にたくなります。

 

ラストのシーンはいらないんじゃないか~とも思ったのですが、いつまでも種馬スキルを発揮しないのならば一刀じゃないな、と思い……いれてみました。

 

 

桃香、なんか最初から好感度マックスですね。

デレる過程を書くのは、メンドくさくて………。

つか、なんだかすごく桃香の悪口言ってますね……好きな方、すいません。

 

 

あと、『ふいうち』のワンシーン。

パクっちゃいました……割と好きなんですよね、あのシーン。

 

 

今回、合戦のシーンを書いてみたんですけど、すごく難しいですね。

厳しいツッコミは御勘弁を……陣形とか、よくわからないんですよ……。

 

 

それにしても、ながかった……2週間位掛かって、やっとできました。

 

あれですね……他の皆さん投稿スピード、メチャ早いですね。

 

自分、文字打つの遅いんですよ……。

 

 

こんなんですけど、ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

 

 

今回は、これで終わります。

 


 
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