No.78183

真・恋姫無双~魏・外史伝12

梅雨の時期に入り、ここ最近晴れの日が少なく、洗濯するチャンスが無くて困っているアンドレカンドレです。
やっと第六章・後編を投稿。
今回、戦闘シーンを盛り込んでみましたが、漫画やイラストで表現するのと異なり、文字でその状況を説明するのはかなり大変でした。そのため、表現が分かりにくいかもしれませんが、そこはご了承の程を。

2009-06-09 22:49:27 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6605   閲覧ユーザー数:5648

第六章~朱色の君よ・後編~

 

  建業から西に5里ほどの所、そこは木々、草が茂る未開拓の森。

 そこに、臣下・思春と数十名の部下を率いている蓮華の姿があった。

  「蓮華様、あまり奥へ向かわれない方がよろしいのでは?」

  獣道同然の道を進む自分の主に進言する臣下・思春。先刻、近隣の村々に

 立ち寄り、不審人物・行方不明者に関する情報を聴取した結果、多くの目撃証言

 から二つの事件が、近隣に住む者達でも立ち寄らない、この未開の森を中心に

 発生している事が判明した。

  この結果から、蓮華はその森の更なる調査を決定したのであった。

 そして、今に至る。日が傾きかけ始めたにも関わらず、蓮華は森の奥へと足を

 止める気配の無いその姿を懸念しての、思春の進言であった。

  「・・・思春。だけど、今の所目ぼしい情報を得られていないわ。ならば、

  もう少し奥まで行ってみた方がよいと思うのだけれど・・・。」

  蓮華の言う通り、この森に入ってから一刻と半、これと言った発見が無い。

 とはいえ、調査開始早々から飛ばせば、後の調査にも影響を及ぼすことになる。

  「ですが、何も期限が今日までというわけではありません。最初から

  無理をされては後に響きます。」

  そう指摘された蓮華は、後ろに付いて来ていた兵達の様子をうかがう。

 兵の多くが、疲弊の色を顔に示している事に今初めて気が付いた。

  「・・・・・・ふう。思春の言う通りね。」

  「蓮華様・・・。」

  「皆の事を考えず、ただ自分事しか見てなかったなんて、私は、皆の上に立つ者

  だと言うのに、恥ずかしい・・・。」

  「いえ、蓮華様の心中を考えれば、致し方ないとかと・・・。私も蓮華同様、

  今回の騒動の実態の全てを受け入れられずにおります。」

  「思春・・・。そう、私だけじゃないのよね?」

  改めて、思春に聞きなおす。

  「はい。」

  その問いに、二言で力強く返す。

  「思春、皆に来た道を戻る様、指示してくれるかしら?」

  「はい。ではこのまま・・・」

  ビュンッ!!

  「か、は・・・。」

  何処からともなく飛んできた小刀が、一人の兵士の首を横から貫いた。傷口と

 兵の口から大量の血が流れ、口を金魚のようにぱくぱくと開閉させながら、その場

 に崩れ去ってしまった。

  「思春!」

  「蓮華様、自分の傍を離れないよう!お前達も周囲を警戒するんだ!」

  そう言われ、すぐに戦闘態勢に移る兵達。思春はすかさず、愛刀『鈴音』を携え、

 戦闘時の構えで周囲に目を光らせる。彼女の周囲に人影はない、乱立する木々の

 合間の闇を見透かすように見る。聞こえるのは風で木々の葉、草が擦れる音のみ・・・。

 神経を研ぎ澄まし、その音に紛れる、異なる存在を・・・探し出す。

  ビュンッ!!

  空を切る音。

  カキンッ!!!

  鈴音で叩き落とす。

  小刀が地面に刺さる。

  その小刀が飛んできた方向を見る。そこは自分の真正面、

 障害物が存在しない道のど真ん中であった。

 その先に人が立っていた。白い装束で身を包み、顔を隠した人物が立っていた。

  「蓮華様、お下がりください!」

  思春の言葉に、黙ってうなづく蓮華。

  「貴様、何者だ!」

  その白装束の人物に、尋問する。

  「・・・・・・。」

  その者はその尋問に、沈黙で返した。

  「私の部下をやったのは貴様か!」

  「・・・・・・。」

  またしても、沈黙で返す。そして、左手を高く上に伸ばす。

 伸ばしきった瞬間、その者の横を二つの影が横切る。

 その影は、その手に剣を携え、思春に襲いかかる。

  「思春!」「「「甘寧様!」」」

  「ちっ!」

  思春は二つの影と距離を取るべく、後ろに飛ぶ。

 彼女が立っていた位置に、二刀の剣が振り落とされる。

 その二つの影正体は、顔を包帯状の布で顔を隠すように巻かれており、

 その片方の腕には方から手の甲まで覆われた大型な篭手、その手の甲の部位には

 一本の剣が備わっており、全体的に機動力を考慮された武装で身を包んでいた。

  「成程・・・、それが貴様の答えか?」

  「・・・・・・。」

  またしても、沈黙で答える白装束の人物。

 その沈黙を、思春は答えと認識した。

  「良かろう・・・。ならばこの甘興覇が、貴様等を黄泉地へと誘おう!」

  思春は、その者達を『敵』と断定した。

  

  とある場所で、男はこの様子を覗っていた。

 机の上に置かれた、四角い箱。前面から光が発せられており、そこに思春、蓮華達が映っていた。

 彼は椅子に座りながら、その箱に映るものを見ていた。

  「さあて、始まったようだね?『この甘興覇が、貴様等を黄泉地へと誘おう!』とか!

  カッコいいじゃな~い、甘寧ちゃん♪」

  回転式なのか、その座っている椅子をぐるぐる回す。次第に回転の速度が下がり、再び静止する。

  「で・も・・・、その余裕、一体どこまで続くかな~。果たして、甘寧ちゃんは孫権ちゃんを

  守りきれるのでしょうか!?僕はここから、ゆっくりと見せてもらうよ・・・。」 

  そして再びその映像を見る。そこには、謎の戦闘集団と白兵戦を展開する蓮華と彼女の部下達の

 姿が映っていた。

  「はああっ!」

   ビュンッ!!

   ザシュッ!!

  「・・・ッ!?」

  何とか敵の攻撃を受け流し、倒していく。が、敵の勢いは決して衰えず、彼女を襲ってくる。

  「孫権様、ご無事ですか!」

  兵数名が蓮華を守るように陣形を取り、群がってくる敵達と対峙する。

  「ええ、何とか・・・。しかし、こいつら・・・一体今まで何処に?」

  倒しても倒しても、次から次へと襲いかかって来る敵達に次第に焦り始める。

  「・・・思春、思春は何処にいるの?!」

  ガキンッ!

  ガキンッ!!

  ガキンッ!!!

  木と木の合間を颯爽と駆ける二つの影。その影交わる度、火花が散り、高い金属音が響く。

 何度も、何度も・・・。一つの影が木の枝に捕まり、一回転して枝に足着く。もう一方の影は、

 木を踏み台にし、その影に飛びかかる。

  「はあああっ!!」

  その手に握られた『鈴音』で枝を切り落とす。二つの影は、互いに背を向けながら地に降り立つ。

  枝を切り落とした影は思春、枝から降り立った影は白装束に身に纏う者であった。

 何処からともなく、先程の敵と同じ恰好した敵二人が、思春に襲いかかる。

 だが、思春はそれを難なく返り討ちにする。思春の後ろに、二つの亡骸が出来る。

  ビュンッ!!!

  そしてまた風を切る音。

  三本の小刀が同時に思春に飛んでくる。

  カキンッ!!!

  鈴音のひと振りで三本同時に叩き落とす。

  「ふ・・・、貴様も出来るようだな!」

  「・・・・・・。」

  相手が沈黙を破らない限り、駆け引きは始まらない。

  「ちっ・・・。」 

  相手が乗って来ない事から生じる苛立ちが舌打ちという形で現れる。

 その苛立ちのせいなのか、目の前で無構えの姿をさらす敵に突っ込む。

  「はああっ!!」

  鈴音で横薙ぎを払う。

 が、その一撃は親指と人差し指で遮られてしまう。

  「く!?」

  鈴音に力を込めるが、全く微動だにしない。

 と思った瞬間、いきなり体がぐるんと一回転する。そして背中から地面に落ちる。

  「がはっ!?」

  受け身を取れなかったため、呼吸が出来ず、思春の表情は苦しみに歪む。

 それでも自分の愛刀だけは決して離さなかった。

  「やれやれ・・・、慣れぬ事をしよるから裏目に出るのだ。」

  初めて聞いた、その白装束の人物の声・・・。その声に反応し、ふと顔を見上げる。

  「な・・・!?」

  白装束で隠された顔が一瞬垣間見える。そこにあったものは・・・。

  「きゃあ!」

  その悲鳴に反応する思春。彼女の眼に映った光景。

  「蓮華様・・・!」

  虚をつかれた敵の一撃に体勢を崩して地に伏せ、敵の凶刃が今にも襲われそうに

 なっている愛しき我が主の姿であった。

  地に伏せた体勢から立ち上がる際、周囲を一薙ぎする。その一薙ぎを避ける様に

 後ろへと高く飛びあがる。その先には木の枝があった。不敵に笑う唇が見える事に

 思春は苛立ちを覚えたが、今はそれ所ではなかった。

  「蓮華様!」

  急ぎ、蓮華の元に向かう。だが、次々と襲いかかる敵が思春の行く道を阻む。

  「蓮華様!くそぉっ!どけ、貴様等ぁっ!!」

  鈴音で、次々と敵をなぎ払うも、蓮華に近づく事が出来ない。そうしている間にも、

 蓮華は追い詰められていく。

  「えいっ!!はあっ!!」

  鈴音で敵の一撃を受け止める。

  「く、おのれ・・・!」

  敵と敵の合間から、蓮華の姿を見つける。

  「蓮華様・・・蓮華様ーーー!!!」

  愛しき主の名を呼ぶも、彼女には届かない・・・。

  蓮華に、敵が襲いかかる。

  「っ!!」

  「蓮華様ーーーーーーー!!!!」

  思春の叫びは、虚しく響き渡る。一瞬、二人は力が及ばず、何か諦めた・・・。

 そして、敵の一撃が・・・蓮華に向かって落とされる。

  

  「なっ!?」

  思春は、状況を理解できずにいた。一体何が起こったのだ?

 今、彼女の頭をその言葉のみが駆け巡る。

  ・・・いくら待っても、敵の一撃が降りかかって来ない。

 恐る恐るその目を再び、開いて行く蓮華。

  「え・・・?」

  そこには、敵などいなかった。敵は地に倒れており、動く事は無かった。

  剣の一撃も無かった。その剣は、敵もろとも叩き折られていた。

  そこにあったモノは・・・。

  自分を守るように剣を構える男の・・・とても冷たい、されどとても頼もしく

 思える様な背中であった。

  その身を、血の様な朱色に染められた外套を身に纏い、両眼は鉢巻状の細長い布で隠され、

 左目にはそれでは隠せないほどの大きな傷跡が残っていた。

  「・・・誰あれ?」

  予想外の第三者の介入に、驚きを隠せない。

  「何さ・・・何さ、何さぁあああーーー!ほんとに誰よ、あいつ?!」

  驚きは怒りに変わる。

  「ラスボスをあと一撃で倒せるって所で、ゲーム機の電源が切れた時

  の気分にそっくりだよぉぉおおーーー!」

  映像が映る箱の上の両角を乱暴につかみ、まじかでその不快の元凶を睨みつける。

  「・・・・・・。」

  何かに気づいたようで、先程まで怒りは一瞬にして消えた。

  「・・・・・・う・そ。ほんとに?でも、あの目の傷は確かに・・・。でも、

  あり得ないよ。だって彼は・・・彼はあの時に・・・僕がこの手で!」

  何かを理解したようだが、その結論を肯定と否定の繰返しをする。

  「・・・・・・そうか、あいつらか。あいつ等の仕業か・・・!?

  ・・・うふ、うふふふふふふ・・・ふふははははははははははははは!!!!」

  頭を肩より深く下げると、両肩を震わせながら笑いだす。

 深く下げた頭をグルンッと、背中が反るまで後ろまで倒し、上を見上げる、それでも

 笑うのを止めない。

  「あははははははははははははは・・・。最高だ・・・。最高だぁぁああ!

  面白いよ、この展開!!いいじゃん、いいじゃん。いい感じじゃーーん!!

   あはははははっはっははははははははは!!!!」

  「・・・お、お前は・・・?」

  「・・・・・・。」

  蓮華の問いに答える様子が無い。彼の目前には数人の敵が彼を殺すべく、隙を

 窺っている。しかし、今だ襲いかかって来ない。隙がないのだ、彼に。

  「!!」

  男は敵に突っ込む。と思った時には既に敵の一人が倒されていた。その横から別の敵が

 襲いかかる。男は敵の一撃を軽やかに受け流し、逆に一撃を返す。さらに、彼の後ろを

 取った敵が剣を振り上げながら突っ込んでくる。そして、剣が振り落とされる。が、

 その剣は空を斬った。敵は男を探す。そして、何の前触れも無く、背中から大量の血が飛び出す。

 そのまま倒れていく敵のその向こうに男はいた。

  「す、凄い・・・。」

  蓮華はその光景を、ただ見ている事しか出来なかった。

 そして彼の周りを、先程以上の数の敵が囲みだした。

  「「「「・・・!」」」」

  しかし、突然、敵達は何か合図を送るように、首と顎を使って、伝達する。

 そう思った瞬間、あるの者は木の枝の上を、ある者は木々の隙間を、ある者は草原の名へと

 他の兵達と対峙していた敵達もまた同様に、その場を離脱していった。

  謎の戦闘集団の突然の撤退に、残された者達は困惑する。そんな中、彼一人は平然と、剣を鞘に戻す。

  「く・・・。」

  地面に突き刺した剣を杖代わりに、倒れた時に強打した箇所を手で押さえながら、

 ゆっくりと立ち上がる。

  「蓮華様!」

  「思春・・・!」

  自分の名を呼びながら近づいてくる思春に気付く。

  「蓮華様・・・、よくぞご無事で!」

  「ええ・・・、あの男に助けられたから。」

  そう言って、目の前の人物を見る。

  「・・・何処の誰か存ぜぬが、蓮華様を救って頂き、真に感しゃ・・・。」

  「奴等には気を付けろ・・・。」

  思春が話している途中で、気に掛かる言葉を挟む男。

  「何?」

  「特に・・・、女渦は孫権を狙っている・・・。」

  「奴等とは・・・先程の連中の事を言っているのか?」

  「・・・・・・。」

  蓮華のその問いに、男は沈黙で返し、その場を立ち去ろうとする。

  「!待て、貴様は何も・・・。」

  思春の言葉を待たず、男は木の枝に飛び移り、次の瞬間、その姿を消した。

  「・・・全く、言いたい事だけ言っておきながら、人の話を聞かん奴だ。」

  思春は、彼のそんな態度に怒りを示す。

  「じょか・・・。」

  一方、蓮華は彼の話の中に出てきた一つ単語をポツリと呟いた。

 

  結局の所・・・今回の調査は、北郷一刀の行方、建業襲撃に関する情報を得る処か、

 謎の白装束が率いる謎の武装集団の登場によって、さらに謎を増やす結果となったのであった。


 
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