No.780799

オール・ヨシノ・ニード・イズ・キル(前編)

見月七蓮さん

多くは語りません。マリみて由乃&菜々メインSF小説です。
完全なパロディです。苦情は受け付けます。
長いので前編、中編 http://www.tinami.com/view/780804 、後編 http://www.tinami.com/view/780849 の3つに分けてます。
全てを収録した電子書籍版をBOOTH他、各DLショップにて頒布中です。 https://32ki.booth.pm/

2015-05-31 17:06:31 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:539   閲覧ユーザー数:538

オール・ヨシノ・ニード・イズ・キル(前編)

 

 マリア様の庭に(つど)乙女(おとめ)たちが、今日も戦士のような無粋(ぶすい)な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。

 (おそ)れを知らない心身を包むのは、深い色の軍服。

 フォースの隊列は乱さないように、白いセーラーカラーは(ひるがえ)さないように、じっくりと(さば)くのがここでのたしなみ。

 私立リリアン女学園。ここは地獄(じごく)の底。

 

 緊急事態が発生した。閃光(せんこう)が走り、空がウルトラオレンジ色に染まる。

 地球がエイリアンに攻撃され、侵略は拡大の一途(いっと)辿(たど)る。死者はすでに数百万。

 侵略を阻止する(すべ)はゼロ。特に女子校の被害は甚大(じんだい)。人類の危機だ。

 だが、人類は諦めない。やっと五戦目にして初勝利。戦死者と損害の低さは異例、圧倒的な勝利だった。

「この戦争、正直勝てると言い切れますか?」

「もちろん。宇宙人の侵略に対し、私たちは機動(きどう)スーツ着用のスーパー戦士を(つく)った」

 番組インタビューにて。リリアン女学園、メディア担当の島津由乃(しまづよしの)は自信たっぷりに答え、こう続けた。

「リリアン勝利の女神、菜々(なな)。彼女こそが希望の星」

 番組でインタビュアーは、スーパー戦士をこう紹介する。

驚異(きょうい)です。新型の機動スーツで、菜々は参戦一日目に数百体の敵を倒しました」

 再びインタビュアーは由乃に質問をする。

「戦況は変わります?」

「我々は戦い、必ず勝利します」

 由乃が答えた後、番組の最後は入隊を勧める宣伝で締めくくった。

「さあ、あなたも今すぐリリアン女学園・統合防衛軍へ!」

 リリアン女学園・統合防衛軍本部。通称『薔薇(ばら)(やかた)』にて。

殲滅(せんめつ)大作戦、略してKO(ケーオー)大作戦』

 あまり略になってないような気もするが、将軍の一人、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)である祐巳(ゆみ)さんの作戦説明を、私こと島津由乃は聞いていた。

 内容はこうだ。統合防衛軍はK市E海岸線から上陸作戦を敢行(かんこう)。その間に田倉沢(たくらざわ)高校・月見ヶ丘(つきみがおか)高校の部隊が東部前線から侵攻して、敵を殲滅しつつ合流する。

 機動スーツを装備した部隊で押し切るというシンプルな作戦だ。当然、多くの犠牲者が出る。

「となると『責任者』として世の非難を浴びるのは私だ」

 祐巳さんは困った顔をして、私を見つめていた。

「回避したいシナリオなのよ。まあ、()けて」

 立ったまま聞いていた私を気遣って、祐巳さんは椅子に掛けるように(うなが)し、自身も椅子に腰掛けた。

「運命の声に応えた行動だったと言えばいいんじゃない。人類を救うという」

 私の助言を聞いて、それでも渋い顔をする祐巳さん。いつ見ても反応が分かりやすい。

「使命感のもとに弾丸作戦を実施したと」

「ううん、私のことはいい。由乃さんは作戦をPRして」

「了解」

「写真部とすぐ出発して。それから海岸で上陸部隊と合流ね」

「海岸? 上陸部隊? つまり前線へ?」

「そう、K市よ。(かつら)さんデータによるとE沿岸の敵勢力は手薄だって。成功すれば(まご)の代まで自慢できるよ」

「嬉しい話ね……と、言いたいところだけど、私は実戦が苦手だからメディア担当になったのを忘れてない?」

 祐巳さんはきょとんとした顔で、私を見つめていた。

「人にはそれぞれ役割があるのよ。私は正直言って、戦士には向いてないわ」

「そのようね。安心して、数十万の戦士が一緒だから」

「名誉ではあるけれど、お断りします」

 私は懸命(けんめい)に抵抗した。前線送りなんてまっぴらごめんよ。

「じゃあ、折衷案(せっちゅうあん)を出そうじゃない。私に代わる適任者を紹介すればいいんでしょう?」

「紹介? これは命令よ」

「私は黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)よ。同じ薔薇さまの祐巳さんに命令権は無いわ」

「由乃さんのお姉さま、支倉令(はせくられい)さまの了承を()てるんだわ」

 ここで令ちゃんの名前を出すとは卑怯(ひきょう)な。しかも、なんで勝手に了承してるのよ! 

黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)の地位は据え置くから。詳細は志摩子(しまこ)さんから聞いてちょうだい。あとは頑張ってね。話はそれだけ」

 言いたいことを言い切った祐巳さんは、書類を取り出しサインをしていた。どうやら私が作戦に承諾(しょうだく)した(むね)を伝える書類のようだ。

「祐巳さん。私のPRで大勢の女子高生が軍に志願したわ」

 祐巳さんは次から次へと書類に目を向けたまま、サインを続けていた。

「彼女らが戦死すると家族は責任者を追求する。私があなたの名を()げたら、どうなるかしら?」

 そこで祐巳さんは手を止め、書類から目を離した。

()けたい事態じゃない?」

「それは脅迫(きょうはく)してるの?」

「明日の戦闘を、海岸で撮影する任務は辞退させてもらうわ」

「分かった」

「分かって頂けて何より。では、これで……(いた)っ」

 去り(ぎわ)に椅子に足をぶつけて、つまづきそうになった。

「失礼」

 私がビスケット扉を開けて去ろうとすると、扉の向こうには大勢が待ち構えていた。

「拘束して」

 祐巳さんの号令で一斉に襲いかかる手下たち。

 私は陣中突破を試みたが、通路を(ふさ)がれ、誰かが持っていた麻酔で眠らされてしまった。

太仲(おおなか)女子高等学校』

 大勢の軍志願者が集う乙女の(その)。現在は統合防衛軍の訓練施設として使われていた。

 校内を走るバスには、英雄『菜々』のイラストが大きく描かれていた。『戦場のデコちん』という文字と共に。誰かがイタズラで書いたのだろうか。

 目を覚ました由乃は、この光景を目にし、眠っている間にここへ連れ込まれた事を理解した。

 私はグラウンドの隅っこに、荷物と一緒に置きっぱなしにされていたのだ。

「立て、三つ編み!」

(いた)っ!」 

 ()り飛ばされて振り向くと、見覚えのある二年生がそこにいた。

「上級生に向かって何?」

「たてつくのか新入生め! バレエシューズを(くち)に突っ込むぞ!」

「待って、乃梨子(のりこ)

 優雅(ゆうが)に頭の(たて)ロールを二つ揺らしながら、その人は近づいてきた。 

「どうしました?」

「ここはどこ?」

「太仲女子高等学校です。あなたは新入生ですね」

「新入生に見えるわけ?」

 縦ロールは、私を見て頭の天辺(てっぺん)からつま先まで、スキャンするように視線を動かした。

「見えません」

「私は島津由乃。リリアン女学園の黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)よ」

黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)? ここは新入生の訓練施設ですよ」

 縦ロールは、首を傾げていた。

黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)が新入生の訓練施設に? 徹夜(てつや)百人一首(ひゃくにんいっしゅ)? どんちゃん騒ぎ?」

 私が不祥事(ふしょうじ)を起こして、ここに放り込まれたとでも思ったのだろうか。目つきが明らかに(うたが)っている。

「説明してもムダのようね。令ちゃ……お姉さまと話がしたい。電話どこ?」

「上陸作戦が秒読み段階なんですよ。K市への侵攻直前です。この施設は封鎖中で、通信は禁止です」

 縦ロールが持っているノートに目を向けると、学年と名前が書いてあった。この子は二年生だ。

瞳子(とうこ)ちゃんか」

紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)です」

小笠原(おがさわら)家の者?」

「いいえ、松平(まつだいら)家の者です」

「なるほど」

 ここで手をこまねいても(らち)が明かない。何としてでも電話をかけなければ。

「私をよく見て。何かの間違いでここに送られたの。見れば分かるでしょう?」

 私は瞳子ちゃんを(にら)みつけて、強い口調で迫った。

「どこかで電話をかけられるはずよ」

 すると瞳子ちゃんは軽く溜息(ためいき)をついて、こう言った。

「何とかしましょう。こちらへ」

 私は瞳子ちゃんと雑談を()わしながら、案内されるまま校内を進んでいった。

「どうぞ」

 着いた先は体育館だった。どうみても電話があるようには見えない。

「電話は(うそ)ね?」

「そのとおり。あなたも嘘でなかったのは名前だけ」

 瞳子ちゃんは手に持っていたノートを広げ、(はさ)んであったプリントを私に見せた。

「島津由乃。この者は『脱走者』で黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)(よそお)い、拘束された。外部に電話をかけ、作戦の機密を漏洩(ろうえい)する恐れあり」

 なんてこと。祐巳さんここまでやる?

「明日の出撃を(のが)れたいらしいけれど、そうはさせないわ。絶対にね」

 瞳子ちゃんは(けわ)しい顔で(にら)みつけて、私に告げた。

()()()、島津由乃ちゃん」

 私は無言のまま、一方的に喋る瞳子ちゃんの話を聞きながら、体育館の中を突き進んだ。

「人の噂は怖いわよ。夜までに、ここの方たちは結論を出す『あなたは保身第一の卑怯者(ひきょうもの)』と」

「でも、まだ望みはある。戦場で手柄を立てればね。戦いは(つぐな)いとなるから」

「地獄の戦場が(しん)の英雄を生み出す。薄汚(うすぎたな)寄生虫(きせいちゅう)レズも、戦場で戦う時だけは(みな)、同格よ」

 体育館の(すみ)っこにいた集団の前で、瞳子ちゃんは足を止めた。

「聞きなさい! この子は一年生、由乃ちゃん」

「由乃ちゃん、L分隊よ」

 紹介された分隊は、六人で構成されているようだ。みんな私を奇怪なものを見るような目で見ていた。

「上級生じゃないの?」

「変わったお下げだ」

「意義ある朝を過ごしたようね」

 各々に私の感想を述べる戦士たち。言われて気が付いたが、三つ編みが変な形になっていた。拘束された時に(ほど)けて崩れたのだろう。

 構わず瞳子ちゃんは周りを物色しながら、話を始めた。

「明日の先陣を切るのは、あなたたち精鋭(せいえい)よ。私の胸は感動に(ふる)える、何たる(ほこ)り、何たる栄誉(えいよ)、ヘソまで涙するわ」

 瞳子ちゃんは、マットの下からトランプを見つけ、そのトランプを1枚ずつ、その場にいた精鋭たちの胸元に挿し込んでいく。

「可南子さん、私のギャンブル(かん)は?」

「『地獄()ち』と」

「それはなぜ?」

「『運命を人に(ゆだ)ねる行為だから』」

「私は『運命』をどう定義していて?」

「『戦士たるもの運命は自らが支配せよ』」

 瞳子ちゃんは、可南子ちゃんの胸元に挿し込んだトランプを、さらに深く押し込んだ。可南子ちゃんは(わず)かに震えていた。

「今は皮肉(ひにく)に思えても、やがてその正しさが分かるわ」

 そう言って瞳子ちゃんは、私に笑顔を向けた。

「由乃ちゃんは脱走者よ。あなたたちの責任において監視するように」

「出撃は明朝六時ちょうど」

「彼女は間違ってここに来たという妄想を(いだ)いてる。逃亡を(はか)ったらボコボコに叩きのめしなさい」

 瞳子ちゃんは必要事項を告げ終わると、後ろを向いた。

「出撃なんてムリよ」

 私が抗議すると、瞳子ちゃんは私の肩を叩いた。

「感謝してよ。明日、あなたの新しい人生が始まるんだから」

 背筋が凍りつくような物言いに少し(ひる)んでしまったが、瞳子ちゃんはそれだけ言うと、去っていった。

『訓練開始まで一〇分!』

「この服はよくない。着替えて」

 私に着替えを差し出してくれた彼女は『ちさと』と名乗った。

「さあ、新しい日よ」

 翌日早朝。お日様も昇らない内から、施設は出撃の準備で慌ただしかった。

「運命の声に応えて勝利しなさい。それが、あなたたちの任務よ」

 瞳子ちゃんは見回りながら、精鋭たちに発破(はっぱ)をかけていた。

 私は、ちさとさんから剣道着そっくりな機動スーツを着せられ、身動きが取れずにいた。

「行くわ、ショータイムよ」

 機動スーツが作動し、まるで風船から空気が抜けるような、奇妙な音が出た。

「な、何の音?」

 ちさとさんは答えてくれない。気になるじゃない!

「機動スーツは初体験なのよ」

「私は二股(ふたまた)は未経験だけれど、やれって言われたらやるわよ」

 答えになっていない。というか、そんなこと聞いてないし。

「私、慣れてないから味方を攻撃するかも」

「安全装置があるよ」

「どこに?」

「どこかな」

 まともに相手する気は無さそうだった。

『立入厳禁』

 この学校のどこかにある訓練場の一室。そこで彼女は筋トレに励んでいた。

「時間よ」

 出撃の時を告げられた彼女は、機動スーツを身にまとい、大勢が見守る中、外の飛行艇(ひこうてい)へ向かっていく。

「『戦場のデコちん』のお出ましだ。(いた)っ!」

 彼女が歩く途中、余計な事を口走った戦士が、彼女――菜々に張り倒された。

 同じく出撃するL分隊も、英雄の出撃を見守っていた。

 瞳子は由乃を(にら)みながら、ちさとにそっと耳打ちした。

「ちさとさん、由乃ちゃんの面倒を見て」

「一日中?」

「あの子は一日モタないわ」

 次々に飛行艇に乗り込む戦士たち。その中で一人、逆方向へ進む戦士がいた。

「ちさとさん、捕まえて!」

「由乃ぉ!」

 あっけなく捕まった私は、飛行艇内で固定され、瞳子ちゃんの最終説明を聞いていた。

「今日(やぶ)れたら次の戦いはないわ。あなたたちの責任は重大よ」

『降下二分前』

「ビビっても構わない。勇気と恐怖は表裏一体よ」

「あら、あなたのスーツ何か変よ」

 誰か私を見て言っているようだ。

「そうか、死人が着てるのね」

 何の冗談か理解に苦しむけど、みんな笑っていた。

「自分の身は自分で守りなさい。助けは来ない」

 瞳子ちゃんも機動スーツ着用で、一緒にスタンバイに入っている。

『一分前! 降下まで一分!』

「ねぇ! ねぇ! 安全装置の外し方は?」

 この期になっても、私は機動スーツの安全装置について解除方法が分からずにいた。必死に隣のちさとさんに尋ねる。

「え? 何言ってるの?」

 騒音が大きくて聞こえてないようだった。私の全身から血の気が引いていくのが分かる。

「嘘でしょ……」

『降下開始まで三〇秒!』

「合図を待って、スタンバイ! 降下ケーブル確認!」 

 ドオォォォォン!

 瞳子ちゃんが号令を言い終わると同時に、飛行艇内で爆発が起きた。敵襲だ!

「降下! 行け!」

「行け! 行け! モタモタしないで!」

 次々に降下ケーブルを使って落下していく戦士たち。もう待ったは無しだ。

「由乃ちゃんどうしたの!」

 瞳子ちゃんに怒鳴られる。黙っていたら強制的に突き落とされかねない。私は決意して降下した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 降下中に他の人とぶつかったりしたけど、なんとか着地に成功。他の戦士たちも次々に着地していた。

「やった! 着地したわ!」

 その直後、可南子ちゃんは落下してきた飛行艇の下敷きとなった。

 寸前のところで避けて助かった私の額には冷や汗が出ていた。

「救援()う! 誰か!」

 菜々が叫んでいた。それでも菜々は敵を次々に撃破していく。さすがは初日に数百体を殲滅した英雄。

 その戦いっぷりに見とれていると、菜々と一瞬目が合った。その直後に菜々の背後にいた飛行艇が大爆発を起こし、菜々は爆風の直撃を受けて私の目前へ吹っ飛んできた。

「ひどい!」

 息絶えた菜々を見て、私は叫んだ。無茶だ、こんなの絶対に生き残れない。

「どこへ行くの! そっちは逆方向でしょ」

 戦場から離れようとしたが、瞳子ちゃんに食い止められてしまった。

「話が違う。なぜ敵が待ち伏せを?」

 ちさとさんが疑問を投げかけた。

「これじゃ全滅よ。全滅だわ!」

「落ち着いて!」

「しっかり立って!」

「まとまって」

「モモッチ、戦況は?」

「ちさとさん、側面を守って」

 誰が何を喋ってるのか、全然わからない。敵の待ち伏せという想定外の状況に前線は大混乱していた。

「安全装置が……こいつの外し方は?」

 この際、誰でもいいから教えて。そう願うも(むな)しく無視され続けた。

「モモッチ!」

「五百メートル先に敵です!」

「もうっ!」

「あなたたち、死にたいの!?」

「攻撃準備! 構えて!」

「ギタイどもが襲ってくるわ」

「数秒待って! 近くに引き寄せるのよ」

 私は偶然この時、地面から這い出ようとするギタイを見つけた。

「いたわ! ここよ!」

 繊維(せんい)で造られた獣のような姿のギタイが飛び出し暴れ、味方を次々に吹っ飛ばしていく。

「うわあああああ!」

 サイレンのように響く仲間の悲鳴。安全装置が外れず、私は何もできない。こうしてる間にも次々とやられていく仲間たち。もう後が無い。

『安全装置解除しました』

 やった! どうやったか分からないけれど、思いつく限りの事をやっていたら安全装置が外れた。

 籠手(こて)に装着された竹刀(しない)型のマシンガンが火を()き、次々にギタイを殲滅していった。

 マシンガンの反動で私は倒れてしまい、仰向(あおむ)けになって空を(あお)いだ。

「ははっ、はははは!」

 やれば出来るじゃない私。だけれど、そう思ったのも(つか)の間。目の前に新たなギタイが出現した。

 マシンガンにもう弾は残っていない。何か武器は……私は横に転がっていた対人地雷と書かれた箱を見つけ、握りしめた。

 箱を手に取る動きに気付いたギタイは、私の上から襲いかかってくる。

 来るなぁ! 私は箱を手にしたままギタイに叩きつけた。

 ドオォォォォン!

 地雷が大爆発し、ギタイと共に致命傷を負った私は、ギタイの青い血を大量に浴びながら、息絶えた。

「うわああああっ!」

 気が付くと、見覚えのある景色が広がっていた。

 目の前を走るバスには、英雄『菜々』のイラストが大きく描かれていた。『戦場のデコちん』という文字と共に。

 私はグラウンドの隅っこに、荷物と一緒に置きっぱなしにされていたのだ。

「立て、三つ編み!」

 肩を()飛ばされ、痛みが走る。

「バレエシューズを(くち)にねじ込むぞ!」

「待って、乃梨子」

 優雅に縦ロールを二つ揺らしながら、その人は近づいてきた。 

「どうなさいました?」

「瞳子ちゃん……」

「私の名前ですね。分かった、何です? 徹夜百人一首? どんちゃん騒ぎ?」

「分からない」

「なるほど。何とかしましょう、それを私に」

 瞳子ちゃんは、私に押し付けられたバレエシューズを寄越すように促した。いや、そんな事より気になる事がある。

「今日の日付は?」

「あなたには――」

 瞳子ちゃんは手に持ったノートからプリントを取り出し、私に見せて告げた。

審判(しんぱん)の日よ」

 私は瞳子ちゃんに言われるままに付いていった。

「でも、まだ望みはある。戦場で手柄を立てればね。戦いは償いとなるから」

「地獄の戦場が――」

「「(しん)の英雄を生み出す」」

 私は瞳子ちゃんと同じ台詞を言い放ちハモった。

「話の腰を折るの?」

 瞳子ちゃんは不機嫌(ふきげん)そうに私を睨んだ。

「あなたは、私の話を信じないでしょ」

「そのとおり。どこまで話したかしら?」

「地獄の戦場が……」

「地獄の戦場が、真の英雄を生み出す」

 面倒なので今度は(だま)る事にした。

「薄汚い寄生虫レズも、戦場で戦う時だけは皆、同格よ」

 体育館の隅っこにいた集団の前で、瞳子ちゃんは足を止めた。

「聞きなさい! この子は一年生、由乃ちゃん」

「由乃ちゃん、L分隊よ」

 紹介された分隊は見覚えのある人たちばかりだった。みんな私を奇怪なものを見るような目で見ていた。

「上級生じゃないの?」

「変わったお下げだ」

「明日の先陣を切るのは、あなたたち精鋭よ。私の胸は感動に震える、何たる誇り、何たる栄誉、ヘソまで涙するわ」

 瞳子ちゃんは、マットの下からトランプを見つけ、そのトランプを1枚ずつ、その場にいた精鋭たちの胸元に挿し込んでいく。

「可南子さん、私のギャンブル観は?」

「『地獄()ち』と」

「それはなぜ?」

「『運命を人に委ねる行為だから』」

「私は『運命』をどう定義していて?」

「「『戦士たるもの運命は自らが支配せよ』」」

 私は一字一句、間違うことなく同じ台詞を言った。この場面を私は知っている。(ひたい)から嫌な汗がにじみ出た。

 瞳子ちゃんは可南子ちゃんの胸元に、トランプを深く押し込んだ。

「今は皮肉に思えても、やがてその正しさが分かるわ」

 瞳子ちゃんは、笑顔で私に答えた。

「行くわ、ショータイムよ」

 ちさとさんの合図で、私が機動スーツを操作すると、作動した竹刀(しない)型のアームが、ちさとさんに当たりそうになった。

「もう、気をつけて。着たことないの?」

「かもね」

「安全装置は?」

「分かんない」

 ちさとさんは、一瞬呆気(あっけ)に取られたが、いいねって言って私の肩を叩いた。何がいいのやら。

 それから成すがままに機動スーツを着て、飛行艇に乗った。艇内で瞳子ちゃんが語る。

「あなたたちの責任は重大よ」

『降下二分前』

「ビビっても構わない。勇気と恐怖は表裏一体よ」

「ねぇ! ねぇ、あなた! そのスーツ変よ」

「そうか、死人が着てるのね」

 みんな笑っていた。何がおかしいのか全然わからないけれど、あらゆる意味で私は笑えなかった。

「自分の身は自分で守りなさい」

「「助けは来ない」」

 私は台詞をハモらせた。

「ハモった!」

 ちさとさんのツボだったらしく、ウケていた。

「合図を待って。スタンバイ!」

 瞳子ちゃんも機動スーツ着用で、一緒にスタンバイに入っていた。

『降下ロープ確認、三〇秒前!』

 ドオォォォォン!

 飛行艇が敵襲を受けて爆発する。周りは大混乱に陥った。

「モタつかないの!」

 次々にロープで降下していく戦士たち。あの時と同じなら、ここは降りるしかない。意を決して私は降下した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 私は水浸(みずびた)しの(どろ)の上に着地した。

「着地したわ!」

 続けて着地を喜ぶ可南子ちゃん。

「危ない! 後ろ!」

 私は叫んだが、間に合わなかった。可南子ちゃんは落下してきた飛行艇の下敷きとなった。

 私はひょっとしてと思い、辺りを見渡した。そこには菜々の姿があり、敵を次々に撃破していた。

「よけて!」

 菜々に向かって叫んだ。だが、爆風は菜々の背後から迫ってくる。私は菜々の身を(かば)って一緒にふっ飛ばされた。

「んもうっ、やられた」

 体中が痛い。私は重傷を負ってしまった。菜々の方も、かろうじて一命を取り()めたようだ。

「重傷? 血が……血が出てる?」

 私が心配して菜々の様子を見ると、機動スーツが損傷していて、血が出ていた。

「胸に穴が開いてます」

 菜々は苦しそうに答えた。

「穴が?」

 私が驚いたその(すき)に、菜々は私の機動スーツからバッテリーパックを抜き取った。バッテリーが無いスーツは重く微動(びどう)だにしない。

「私のバッテリーを取ったの?」

 菜々は大きな木刀(ぼくとう)を手に取り、無言で去っていった。その直後、身動きが取れない私にギタイが襲いかかってくる。

「来るな! やめて!」

 衝撃と共に、私の視界が真っ暗闇になった。

「うわああっ!」

 気が付くと、見覚えのある光景だった。

 目の前を走るバスには、英雄『菜々』のイラストが大きく描かれていて、『戦場のデコちん』という文字も書かれている。

 私はグラウンドの隅っこで、荷物と一緒に寝転がっていた。

「立て、三つ編み!」

 乃梨子ちゃんを無視して走り、私はグラウンドに向かってくる縦ロールを呼び止めた。

「瞳子ちゃん」

 縦ロールは、いきなり名前を呼ばれて戸惑っていた。

「私はリリアン女学園の黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)、島津由乃。メディア担当をしているわ」

「徹夜百人一首はしてない、そこのプリントは私を『脱走者』と、あなたは松平瞳子ちゃん、紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)でしょ? なぜ知ってるかを聞いて。施設全員の命を救えるわ」

「話を聞いて、私は全てを見てるのよ! この目で全てを見たの! 私たちは全滅する!」

「分かったわ、手を離して!」

 矢継ぎ(ばや)に喋る私に圧倒された瞳子ちゃんは、私に言われるままに体育館へ案内した。

「L分隊でしょ?」

「そのとおり」

「よく知ってるでしょ? 私を知ってる者は?」

「知らない」

「でしょ? 知らない!」

「あなたは可南子(かなこ)ちゃん、あなたはモモッチで……本名は(もも)ちゃん。笙子(しょうこ)ちゃん、日出実(ひでみ)ちゃん、ちさとさん、あなたは……あなたは無口(むくち)だわ」

 L分隊の六人全員知っていることをアピールした。最後の一人だけ名前が出てこなかったけど、多分聞いてない。

「体育マット上でポーカーを」

「黙ってよ」

 瞳子ちゃんがうんざりとした表情で頭を抱えていた。

「可南子ちゃんの手はハートのフラッシュ」

「みんなの胸元にカードを挿し込む。そうでしょ?」

 瞳子ちゃんに迫って確認した。

「信じられない話だけれど、本当なのよ。よく聞いてちょうだい、あなたたちの生死に関わる話よ」

「フゴッ、フゴォオ!」

 私は(くち)にガムテープを貼られ、強制的に飛行艇に乗せられていた。機動スーツ着用のまま降下口に固定され、身動きひとつ取れなかった。

『一分前!』

「フゴフゴフゴッ、フグゥゴフゥフゴ、フフフゴフッ!」

「何言ってるの? 日出実さん、何て言ってる?」

 ちさとさんは尋ねたが、日出実さんは首を横に振るだけだった。分からないってジェスチャーらしい。

「フゴォ、フゴォー!」

「合図を待って、スタンバイ!」

 私の口に貼られたテープがやっと外れた。これで喋れる!

「この機は爆発する!」

 言った瞬間、飛行艇は爆発した。

 もう、この展開はどうしようもない。私は戦士たちと共に降下して着地した。

「やった! 着地したわ!」

 可南子ちゃんが危ない!

 私は助けようと向かったが、一緒に飛行艇の下敷きになって死んでしまった。

「あうあっ!?」

 菜々のイラストが描かれたバスが走っていた。見渡せば見覚えのあるグラウンド。また最初に戻ったようだ。

「口にネジ込むぞ!」

 面倒になってきたので途中省略。私は飛行艇から降下し、着地した。

「やった! 着地したわ!」

 今度こそ! 可南子ちゃんが喜び叫んでるところへダッシュ、全力でタックルした。可南子ちゃんはよろけて倒れ、間一髪のところで飛行艇は頭上をかすめて落下。

 救助成功、次は菜々を助けなきゃ。確かこの辺りに……周囲に気を取られ、正面にいた菜々に気付かず衝突してしまった。

 バランスを崩した私たちは、そのまま不時着中の飛行機内へ倒れ込んだ。

「ごめん。助けようと……逃げないと皆殺しになるわ」

 私は振り向きもせず真上に迫ったギタイを撃ち抜き、真横から現れたギタイも粉砕した。どこから出現するのか、もう身体が覚えていた。

「急いで、この機は爆発する」

 菜々の手を取って、飛行機の外へと連れ出す。

「早く来て……待って」

 私は正面から襲ってきたギタイを攻撃。ギタイが怯んで逃げた隙をついて叫んだ。

「今よ!」

 周辺のギタイを撃ちながら菜々に呼びかける。

「早く!」

 菜々は呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた。

「来て! すぐ爆発するんだって!」

 菜々は、なかなか動こうとしない。そして、武器を捨てた。

「どうしたの?」

「目覚めたら、私を(さが)して」

 飛行機が爆発し、私と菜々は爆炎に巻き込まれて死んだ。

 

(つづく)


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