No.772461

【F-ZERO】The legend must revive!! Vol.3【ファルコン伝説】

何を血迷ったのか、今から約10年前に発行した同人誌「ファルコンハウスへようこそ ~MEMORIAL~」(2005.8.12発行)の中から、小説「The legend must revive!!」をお送りします。

推奨閲覧時期 アニメのファル伝 全51話 視聴後 (じゃないと意味が通じません)

Vol.1→http://www.tinami.com/view/772454

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2015-04-20 20:23:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:569

★ファルコンハウスへようこそ ~MEMORIAL~ より F-ZEROファルコン伝説後日談★

 

「The legend must revive!!」Vol.3

 

ゾーダ「へへへ…何もしないで出てくると思ったのかよ??通信はしっかり妨害させてもらってるぜ。

 そのマシン一台になるのを待ってたんだよ…リアクターマイトを搭載している、そのマシンだけになるのをなぁ」

 ゾーダはじりじりと近づいてくる。二年前に戦法からして、このまま奴に体当たりを仕掛けられるのは目に見えていた。

 

 俺はブーストで逃げ切ろうと考え、それを実行に移したケド、その程度で逃してもらえる程、甘い相手ではなかった。

 ゾーダも同時にブーストを使ってぴったりと横に着き、俺のマシンから離れようとしない。

 

ゾーダ「ほれほれ…どうした?二年前より随分遅くなったんじゃねぇか?」

クランク「くそぉ!!」

 

 俺のマシンが遅くなった…確かに、リアクターマイトの力を封じたこの状態では、そう言われても仕方ないだろう。遅くなったと言う言葉に引っ掛かり、再びブーストを使おうとした自分を慌てて静止する…

 そもそもスピード勝負じゃないんだ…このままブーストし続けたらエンジンが持たない……何とかして、奴を止めないと……

 

 俺はとにかく何とかしようと、レーダーに目を通した。

 この先は…断崖絶壁だ。真っ直ぐ走っていたら奈落の底へ落ちてしまう。

 左側には氷山が迫り、右側にはゾーダがいる…逃げられる状態ではない。

 多分ゾーダは、この崖から俺を突き落とす気でいるんだろう。

 

 だったらそれを、逆手に取ってやろうじゃないか…俺は覚悟を決め、ステアリングを握り直す。

 

 ここならまだ、ブースト全開で飛ばしても、崖に転落する事は無い。

 俺は再びブーストレバーを引き、猛スピードで吹雪の中を突っ走る!!

 そして予想通り、ゾーダもブーストを使って俺のマシンと並走を続ける。

 

ゾーダ「だーから逃げられないって言ってるだろ~?」

クランク「誰も逃げたりしねぇよ」

ゾーダ「カー!!可愛くねぇ~!!」

 

 そのゾーダの台詞が言い終わるか、終わらないかの時だった。

 背後にマシンのエンジン音がする…

 ルーシー?いや、ジャック??誰なんだよ!?

 視界が悪い上、パルスが追えない以上、相手が何者かを確認する事が出来なかっ……

 

 って、あれ?何だ?この感じ……

 

 俺はステアリングの感触から、マシンに何か変化が始まった事を感じる。

 突如、制御装置が切れたかと思うと……

 

ゾーダ「ぅお!?何だこの感触は!!」

 

 この力…これは…

 

 リアクターマイトの反応だ!!それも……共鳴してる!!

 俺のリアクターマイトと……後ろのマシンの、リアクターマイトが!!

 

クランク「ぅわ…ちょっと待ってくれよ!!」

 制御装置が切れたマシンを操る事は至難の業…それは十分に分かっていた。ブーストを吹かし、高速を保っている今はまだいい。ブーストが切れて速度が落ちてん最悪失速した時に、俺にマシンを制御出来るかは分からない!!

 俺はその時の為に、神経の全てをハンドリングに集中させる。無意識のうちに歯ぎしりし、息をするのももどかしくなる。

 

 後ろにいたマシンは、突如ブーストを吹かしながら、俺の隣…いや、ゾーダを挟んで俺の隣に来る。

 三台のマシンが、フルブーストで突っ走りながら並んでいる、この状態……

 

 これは…!!

ゾーダ「うわぁ!?何だ~!?!?」

クランク「サンドイッチバースト……!!」

 

 二台のマシンのブーストの波動に押し出され、真ん中にいたゾーダのマシンは勢い良く飛び出して行き……そして視界から消えた。

 あのスピードと崖までの距離を考えると…急ブレーキも急ハンドルも、間に合わなかったんじゃないかな……

 

 と同時に、これで俺もフルブーストで飛ばしている目的が無くなった。とにかくブレーキを踏み、自分が崖に落ちないように注意を払う。

 幸い、崖の手前で俺達のマシンは止まり、事泣きを得た。

 マシンが停止したと同時に、リアクターマイトの共鳴も止まった。

 良かった…このまま共鳴していたら、周囲の氷山を全て吹き飛ばしていたかも知れない…それくらいこいつは、強力なパワーを秘めたものなんだ。だから悪党は、この力を欲しがるんだ。

 

クランク「ふぅ……」

 極寒の惑星だと言うのに、俺は汗だくになっていた。

 一息ついて、やっと隣にいるマシンを見るだけの余裕が出てくる。

 

 隣にいたマシンは、案の定と言うか…何と言うか。

 予測はしていたケド、まさか、本当に…ここで会えるなんて!!

 

クランク「リュウ…??リュウなんだろ!?」

 俺は慌てて、そのマシンと通信を繋ぐ。

 妨害電波を発していたのはゾーダのマシンそのものだったみたいだ…そのマシンが無くなった今なら、問題無く通信が取れる。

 

 リアクターマイトを搭載しているマシンは、今の所、ドラゴンバードと、ブルーファルコンしかない筈だ。

 当然、隣にいたのは…ブルーファルコンだった。

 

 この酷い吹雪のせいで、マシンの中のリュウの姿を伺う事は出来ない。

クランク「あ…もぅファルコンって呼ぶべきか」

リュウ「リュウでいいよ…その名前で呼ばれるのは、まだ早いからな」

 通信機から聞こえてきた声のトーンは、意外と明るかった…それと、元気そうだった。悲壮な感じは、何もなかった。

 先ずはその事を確認出来て、俺は安堵する。

 

リュウ「俺はまだ、ファルコンの出す課題を完全にクリア出来た訳じゃないからな」

クランク「課題…???」

 

 リュウの話はこんな感じだった。

 キャプテン・ファルコンの指示でこの惑星に降り立ち、ずっと訓練を続けていたらしい。

 でも、この惑星に来たのは、訓練とやらの為だけじゃないようなんだ。

 

 その答えと言うのが……

リュウ「……囮だよ」

クランク「囮!?囮って、ゾーダの!?」

リュウ「いや、奴に限った話じゃない…俺だって、まさかゾーダが、まだ生きているとは思ってなかった」

 

 さっきも言ったケド、リアクターマイトの力は強大で、あらゆる悪党が狙っている品物だ。

 アルカトランドには誰も住んでおらず、そんな波動があれば、簡単に感知出来る。波動を妨害するようなものが、何もないから。

 そこにわざわざ侵入してくる輩は…そう、餌に釣られてトラップに入るネズミと同じLvだ。

 

 ゾーダが生きていて、今、ここで活動を再開しようとしている…

 俺もその事には危機感を持っていたケド、リュウの持っている危機感は更に深く、重大だったみたい。

 ゾーダの話に変わった途端、通信の向こうからでも、重苦しい空気が満ちているのを俺は感じ取る。

 

 重い沈黙の後に、リュウが、これまた俺が想像だにしなかった事を告げたんだ。

 

リュウ「ゾーダが生きていると言う事は、ブラックシャドーも生きている可能性がある…」

クランク「え?どう言う事??」

 

 俺は驚きを隠せなかった。

 だって奴は二年前に、俺達の前から姿を消し……

リュウ「そうか…お前は、ダークマターリアクターを間近で見た事がなかったんだな。

 ゾーダは、そのダークマターリアクターの中に幽閉されていた。

 …つまり、あの時の大爆発があった時、最も爆心に近い所にいた筈なんだ…普通に考えたら、生き延びる事が出来る訳がないんだ。

 だが、奴は生きて帰って来た…

 その方法までは、俺も知らないが」

 

 …知っていた所で、どうにかなる訳でもない。

 リュウは口にはしなかったケド、そんな感じに取れる口調で話をしてた。

 奴は宿命の敵…自分が倒すべき相手である事には変わらないと。

 

 そんなリュウを前に、何か話そう、何か話そうと俺は思うんだケド、会話が、続かなかった。

 重い空気に全てが飲み込まれ、口をきくのも許されるような雰囲気じゃなくなっていたんだ。

 

 リュウの背負っている使命がそうさせるのか、それに対する威圧感がそうさせるのか、ゾーダを目の当たりにしたと言う緊迫感が、そうさせるのか…それは全然分からないケド…俺が踏み入れる領域じゃないって、誰かに告げられているような感じがするんだ。

 

クランク「リュウ…あの……」

 それでも俺は必死で口を開く。こんな雰囲気の中で話すような事じゃない…それは分かっていた。ケド、どうしても、言っておきたい、伝えておきたい事があったんだ…

 

クランク「…今日は、ジャックとルーシーも来てるんだよ。

 時期に、俺のパルスを追って、ここに来るんじゃないかな?

 それまで、ちょっと待っててくれよ…」

 …何か、それを言わないと…リュウは、とっとと立ち去る雰囲気が出来始めていて……

 別に、リュウはルーシー達の事を嫌って立ち去ろうとしている訳じゃない…それも、分かるんだ。何て言うのかな…雰囲気で感じるんだ。俺達を振り切って、無理して走り出そうとする、その姿勢を。本当は会いたいケド、会っちゃいけないとリュウ本人が決めているような、そんな空気を。

 

リュウ「……」

 

 実際、リュウは返事に困っているみたいだ。

 別にリュウを困らせる気は無いんだ、無いんだケド…やっぱり、いきなり「ハイさようなら」されたルーシーとジャックが会いたがってるって…その気持ちも、凄く分かるんだよ。

 

 …こんな事、リュウには言わない方が、良かったかも知れない。

 でも、言わずにはいられなかったんだ…

 だって、二年も経っているんだぜ?この気持ちを溜め込んだままで……

 

リュウ「…ごめんよ」

クランク「え??」

 …??

 不意をつかれたその言葉に、俺の思考回路は、一瞬真っ白になった。

リュウ「…俺のわがままと言えばわがままなんだが、今はまだ、会えない……」

 

 とてもか細い、その声を聞いた時…俺は、言いようのない感情に襲われる。

 そう…だよな……

 置いて行かれた俺達も辛いケド…一番辛いのはリュウ…なんだよね…

 

リュウ「ファルコンが、命がけで俺を救い…世界を救った。

 そんなファルコンの名前を名乗り、ファルコンのマシンを駆る……

 俺が、自分の腕が自分で納得のいくLvに達しない限りは…会う訳にはいかない……

 彼の名を、汚してしまいかねないから」

 

 俺は胸が熱くなり、言葉に詰まる。

 ある日突然“跡を継げ”と言われて……その継ぐものが、リュウの中では、あまりに大きい存在で……

 その偉大さ、プレッシャーに押し潰されないように、必死で戦っているんだ……

 

 リュウは、そんな俺の様子に気付いているのかいないのか、止めていたマシンのアクセルを再び踏み込もうとしている。

クランク「待って!!ちょっと待ってくれよ!!」

 俺は思わず風防(キャノピー)を開け、極寒惑星の外へと飛び出す。

クランク「リュウ、開けてよ!!ジャック達の事じゃなくて別件で!!」

 俺はブルーファルコンの前に立ちはだかり、彼が立ち去ろうとするのを阻んだ。

 …いや、俺は別に、嫌がらせで飛び出した訳じゃない。

 

 渡したいもの…いや、渡さなきゃいけないものがあるんだ。

 

 リュウは黙ったまま、ブルーファルコンの風防(キャノピー)を開ける。

 俺はコックピットに座ったリュウの姿を見て、驚きを隠せなかった…

 

 リュウが着ていたのは、見慣れたいつものTシャツでもジャケットでもなかった…

 ファルコンの、あのレーススーツ…あれを着ていたんだ。

 あのヘルメットは、被ってなかったケド……リュウの事だから、堂々とファルコンの名を名乗れるようになるまで、被らないつもりなのだろう。

 リュウも、俺の姿を見て驚いたに違いない。

リュウ「背、伸びたな」

クランク「へへ、成長期なんでね…もう子供じゃないよ」

リュウ「どうだか…?は、いいとして…俺に渡したい物って何だ?」

 

クランク「…これだよ…」

 俺は、あの日以来、ずっと持ち歩く羽目になった“ある物”を手渡す。

リュウ「これは…マグレット??」

クランク「そう…リュウのマグレット。登録は抹消してないから、銀河警察のあらゆる施設に入れるままだよ。

 もう乗らないかも知れないケド、ドラゴンバードのキーも、そのままだから……」

 

 リュウは受け取ったマグレットを、何だか懐かしいものを眺めるように見つめてる。

リュウ「ジョディに返してなかったのか??」

クランク「誰からも返せって言われなかったから、ずっと持ってたよ。

 多分、ジョディの事だから、もし渡したとしても俺に返されたと思う…そのままね。

 誰もリュウに辞めて欲しいだなんて、思ってないよ」

リュウ「でも、俺は……」

 

 口を濁したリュウが、何を言わんとしているのかは分かっている。

 ファルコンを襲名する以上、高機動小隊の一員としては戻れないと言う事…だろ?

 

クランク「…かと言って、高機動小隊に戻って来いって、言ってる訳でもないんだ。

 バートのおっちゃんがやっていたように、俺達を後ろから支えてほしいと思って」

リュウ「クランク……」

クランク「高機動小隊はどうしても大きなチームだから、小回りが効かない。

 何かあった時は、リュウ…いや、ファルコンがピンで行動出来た方がいいだろう?

 今はゾーダだけだケド、この先、何が起こるか分からないし」

リュウ「ああ……」

 

 リュウはそれだけ言うと、そのマグレットを握りしめたまま、黙り込んでしまった。

 俺も、リュウにかけるべき言葉が見つからなくて、そのまま黙って立っていた。

 また、この場が重苦しい雰囲気に包まれていく……

 

 その雰囲気のせいか、どうしても、ゾーダの事を考えずにはいられなくなる。

 ゾーダが復活して……それで、ブラックシャドーも生きているかも知れない、リュウはさっき、そう言ってた。

 

 と、なると…!?

 ひょっとしてリュウは……

 

クランク「ねぇ、リュウ……最期に一つだけ聞かせてくれよ。

 キャプテン・ファルコン…いや、バートのおっちゃんは……生きていると、思う??」

 

 俺は恐々と、そんな質問をした。

 二年前、惑星タンカルに導いた、あのディスプレイ上のファルコンを、リュウはどう見ているんだろう?

 今も特訓の指示を飛ばしていると言う、そのファルコンを、リュウはどう見ているんだろう?

 …それが、妙に気になったんだ…

 

リュウ「俺は、生きてると思ってるよ」

 躊躇なく言うリュウの瞳には、強い輝きが宿っていた。心の底から、そう信じて疑う事がないと言わんばかりの輝きが。

 

リュウ「何か理由があって、帰れなくなっているだけだと思うんだ。もしくは、俺に名前を継がせたくて、どこかに隠れているか、隠居を決め込んでいるか」

クランク「リュウ……あれは……」

リュウ「俺も初めて見た時、ホログラフか何かだと思っていた。けれど、俺達の事をよく知っているし、飛ばしてくる指示もリアルタイムで的確だ。俺の事を直接見て、自分の口で語っているとしか思えない」

 

 …そうか…

 リュウは信じているんだね…おっちゃんの事。

 それを知った時、俺の中に妙な悲壮感が広がってゆく。

 

 俺は…本当の事を知っている。

 リュウは150年前から来た男だから、こっち方面の知識は薄いと思う。

 俺の考えている“信実”を、リュウに告げるのは簡単かも知れない。

 

 ケド……

 

 俺は言葉に詰まり、リュウのその姿だけを眺めていた。

 そのうち、吹雪の風の音に混じって、エンジン音が響いてきた。多分、ジャックとルーシーが、俺のマシンのパルスを追って来たに違いない。

 

クランク「リュウ…!!」

 もう時間はない。

 俺は最後のチャンスであろう今に、リュウを必死で呼び止めて……今度こそ立ち去ろうとする彼に、俺はその“信実”を告げようかと、思ったが……

 

 リュウの、その瞳を見ていると…

 そんな事は、言えなくて…

 言え、なくて……!!!

 

クランク「……えーっと……おっちゃんに伝えて欲しいんだ!!

 俺の親父…ロイの事なんだケド、ドクターが、何とかなるって、この間言っていたって。

 もし、もしもミュートシティに戻ってくる事があったら、親父にも会ってくれって…!!」

 俺は必死に、その事を伝えた。

 

 そうだよ……

 リュウの中では、おっちゃんは、ずっと生きているんだ…ずっと…

 

 リュウは右手を上げて“分かった”と合図をすると、猛スピードで、吹雪の中に消えていった。

 レーダーからも姿を消し、彼の後を追う事は出来なくなってしまう。

 

ジャック「クランク…クランク~!?オ~イ、お前は凍死する気か!?何でマシンから降りてるんだよ??」

 案の定、その二台のマシンはジャックとルーシーだった。

クランク「…あ……」

 外の気温が異様に低い場所である事が、俺の頭の中から抜けていた。

 それでも俺は暫くの間、その場所から動く事が出来なかった。

 

 俺はマシンに戻り、二人に一部始終を話した。

 ゾーダと戦った事、リュウに会った事、そしてリュウは、まだ会える状態じゃない事……

 そしてリュウは、おっちゃんが生きてるって信じている事も。

 

ジャック「…クランク…リュウを導いているファルコンって言うのは…」

クランク「……分かってるよ、俺には……

 おっちゃんはきっと、決戦に出る直前に、自分の思考回路をバックアップしてたんだろ…?」

 

 ジャック…そんな事をハッキリ俺に言わせないでくれよ……150年前には、そんなシステムは無いから、リュウには分からないんだよ、きっと…

 この時代じゃ、優秀な軍人や個人の脳内のデータを全てPCの中に写し、本人が亡くなった後でも、オペレーターとして利用する事は、よくある事なんだよ……!!

 

ジャック「…それ、リュウに言ったのか…?」

クランク「言える訳がないだろ!!」

 俺は思わず憤慨した。

 あの様子を見たら、そんな話をする気なんか起こらなくなる……とてもじゃないが、俺には言えなかった……

 

 俺は思わず頭を抱える。

 俺だって、おっちゃんが生きている事は信じたいよ、信じたいケド…ケド…!!

 

ルーシー「生きているって事実が、嘘だとしても構わないじゃない?」

 妙に取り乱し、落ち着きを失った俺に、静かに彼女がこう言った。

ルーシー「例えそれが嘘であったとしても、リュウさんは、キャプテン・ファルコンが生きている事を信じているのよね…

 生きているって事実が嘘だったとしても、生きている事を信じてあげれば……

 その信じているリュウさんを、クランクが信じてあげたら?」

 その瞳は優しさに満ち、混乱していた俺の心の中にも染み渡っていくようだった。

 

クランク「…信じる…??」

 

 あの時のリュウの姿を思い返す。

 確かに、あのリュウの瞳に、嘘なんか無かった。

 

 事実を無視し、あの瞳だけを信じれば……

 

 確かに、バートのおっちゃんは、どこかで生きているんじゃないか?

 そんな希望が、湧いてくる。

 

 希望が湧くのと同時に胸の中が熱くなり、思わずステアリングを握りしめる。

 俺は…俺は……

 

 もっと早く、強くなりたい。

 

 ゾーダと対等に戦えるだけの、仲間達を守るだけの、リュウ…いや、ファルコンの力になれるだけの…強さが、欲しい。

 もしも、何か有事が起こった時に、仲間の前でぶざまに傷つかないくらいの、強さが、欲しい。

 もしも…もしも、おっちゃんが戻って来た時に…堂々とレーサーを名乗れるだけの、強さが、欲しい。

 

 そう、だよな…

 リュウはブルーファルコンの名に相応しい走りを目指している。

 俺だって、このマシン…ドラゴンバードに相応しい走りを、目指さないといけない。

 

 このマシンだって、F-ZERO界の中じゃ、立派に伝説になっているんだ…無名のパイロット、リュウ・スザクが駆っていたマシン…たった一年足らずで、ファルコンには及ばなかったものの、それでも相当数の優勝経験を誇る…ダークマターの世界崩壊の危機が無ければ、確実に新人賞は取れていたであろう、このマシン……

 

 俺は今まで、余り深く考えずに、このマシンを駆っていたけれど……

 

 自然に手に力が入り、神経が研ぎ澄まされる。

クランク「ジャック!!帰ったら、俺の走行練習付き合ってもらえる?

 やっぱり、スピンブースターを習得しておかないと…ゾーダと直接対決になった時に分が悪いからね!!」

ジャック「ああ、いいぜ!!

 いいねえ~、その強い瞳…今のお前なら、出来ない事は何もないんじゃないか?」

ルーシー「フフフ。マシンの整備は私に任せてね」

 

 俺達はアルカトランドを後にし、ミュートシティに戻った。

 戦うと言う、強い意志を秘めた状態で……

 

 

【そして、ゾーダとリュウ、高機動小隊の小競り合いは続いた。

 しかし、互いに今だ傷ついた身体を抱え、思うような本領を発揮出来ずにいた。

 

 だが、更に三年の月日が流れ、最も傷が深かったであろうF-ZEROグランプリも癒えたようで、五年振りに、レースが再開される事になった。

 そこに高機動小隊の面々が来る事も、そしてリュウが……ファルコンとして戻って来る事も、この喫茶店の女主人、ハルカは事前に知っていた。

 恐らく、ゾーダが姿を見せるのではないか?と言う事も……

 

 実は彼女、リュウと密かにメールで互いの状況を報告しあっていたのだ。

 ただ、リュウの強い希望でそれを公にしていなかっただけである…今後もその事は、誰の耳にも入れる事はないだろう。

 

 甲斐甲斐しく接客をしながら、彼女はモニターを見つめている。

 そこにはドラゴンバードと、ブルーファルコン…二台のマシンが映し出されていた。】

 

 モニターと風防(キャノピー)越しに、クランクとリュウの表情が見えるわ。

 クランクはここ数年で、立派にパイロットとして成長した。顔つきまで見違えるようになって…昔のリュウそっくりね…でも、要領の良さは、クランクの方が上かしら?

 リュウも…以前よりたくましく感じるのは気のせいかしら?そのメットも、よく似合ってる。

 

 もう少ししたら、レースは開始されるわ。

 お客さんも、モニターに視線が集中してる…そうよね、この喫茶店は、本来はそんな場所だった。

 店に飾られている色々なF-ZERO関係のグッズが、それを物語っているわ。

 リュウの希望もあって、店の内装とかはそのままにしてあるの。思い出の場所だから、下手にいじってほしくなかったのでしょうね。

 

 そのうちの、壁に飾ってある写真を見て思うのよ……

 今の世の中では五年も経過していれば、全てが過去の事…遠い昔の事になってしまう。

 この店に飾ってあるファルコンの写真と、今、モニターの向こうにする貴方…それが別人だと気付く人は、何人いるのかしらね?

 

 …最も、私にとっては、ファルコンでもリュウでもなく、貴方は最愛の人。それに変わりはないわ。

 

 私もお客さんにつられてモニターに視線を向けていたら、別のお客さんからオーダーが入ったの。

 そうね…レースがあると言っても、店は立派な営業時間内なんだわ。

 

ハルカ「ブレンドと、アレのカレーですね?ハイ、かしこまりました」

 

 この方はここ最近、うちのお店に来てくれるようになったお客さんなの。

 毎回注文が固定なのよ…よほどこのカレーが好きなのね。

 

 顔に傷がある、とても紳士な叔父様よ。いつもカウンターに座っては、モニターの方をじっと見てる。

 …何故かしら…この人を見ていると、とても、懐かしい感じがする。

 

 あ、レースがそろそろ始まりそうね。

 …リュウ、頑張って…

 貴方は貴方が信じた道を、真っ直ぐに、歩み続けて……

 

~Fin~


 
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