No.758439

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

迫り来る夜

2015-02-14 20:15:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3262   閲覧ユーザー数:1001

「あらあら……私の出番はまるでなさそうね、アレクシー」

 

「…えぇ、確かに」

 

葵はしゃがんだまま面白そうな笑みを浮かべながら、アレクシーは無表情ながらも斧型デバイスを構えながら、目の前の光景を眺めている。二人の眼前では…

 

「が…げほ、ごほ…!?」

 

「く…!!」

 

「おいおい……マジかよ、この野郎…!!」

 

腹部を押さえながら苦しそうに咳き込んでいるロキ。膝を突きつつも構えを解かない二百式。大の字になって床に倒れているBlaz。そして…

 

「―――ふぅ。3対1は、なかなかに疲れる」

 

盾に剣が収納されている専用デバイス―――ゾルディアスを構え、三人の前で堂々と仁王立ちしているレイモンズの姿があった。レイモンズが纏っている重騎士のような鎧はほとんど傷がついていないのに対し、対峙している三人は全身のあちこちが傷だらけになっており、戦況がどうなっているのかは一目で分かる。

 

「レイモンズ、ちょっとやり過ぎじゃないかしら? あなたが本気で暴れたらアジトが壊れるわよ」

 

「あぁ、すまない。これでも手加減はしてるつもりだったんだが…」

 

「んな……手加減しといてそれかよ…!?」

 

「くそ……嘗めたマネをぉ!!」

 

「む…!!」

 

二百式は太刀を杖代わりにして立ち上がり、その場から大きく跳躍してレイモンズに斬りかかる。しかしレイモンズは盾で二百式の攻撃を防いだ後も盾から剣を抜かないまま、盾だけで二百式の攻撃を捌いてみせる。

 

「ッ……おちょくってるのか!!」

 

「そんなつもりは無いよ。君達の攻撃が速過ぎて、剣を抜く余裕が無いだけ…さ!!」

 

「がぁっ!?」

 

二百式の太刀を右手ではたき落とし、シールドバッシュで二百式を吹き飛ばす。それと同時にレイモンズの背後からロキが飛びかかる。

 

「うらぁ!!」

 

≪Reflection≫

 

 

 

-ガギィンッ!!-

 

 

 

「うぉ!?」

 

しかしロキのデュランダルが振り下ろされた瞬間、レイモンズの背後にシールド状のエネルギーが出現。デュランダルを防ぐと同時にデュランダルをロキごと大きく弾き返し、吹き飛んだロキが床を転がる。

 

「いってぇ~……全身に、ビリビリ…衝撃が…!?」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

攻撃を弾かれた反動で全身が痺れているロキを他所に、太刀を鞘に納めた二百式が再び大きく跳び、居合い斬りでレイモンズに攻撃を仕掛ける。

 

「む、居合いの使い手か…?」

 

「飛燕!!」

 

突き、切り払い、振り下ろしが一瞬の内に繰り出されるも、レイモンズはそれらを盾で防ぎつつ後退し、少しずつ壁際まで近付いて行く。

 

「そこっ!!」

 

「!? これは…!」

 

壁際まで下がったレイモンズに、二百式が電磁クナイを投擲。それすらも盾で防ぐも、その直後にゾルディアスが一時的に麻痺を起こした事でレイモンズが驚き、その隙を突くべく二百式が太刀を突き立てる。

 

「貰ったぁ!!」

 

「ぐ、ぅ……ぬぅんっ!!!」

 

「な…ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「んな!? ちょ…おぶぅ!!」

 

しかし詰めが甘かった。即座にゾルディアスを床に放り捨てたレイモンズが、二百式の鳩尾に拳を力いっぱい叩きつけたのだ。勢い良く飛びかかったのもあってか二百式にとっては致命傷とも言えるほどのダメージとなり、ちょうど吹き飛んだ先にいたBlazを巻き込む形になる。

 

「ふぅん、容赦ないわね」

 

「流石です、レイモンズさん」

 

葵とアレクシーが賞賛する中、鳩尾を押さえて咳き込む二百式をBlazが押し退け、ロキと共に立ち上がる。

 

「くそ……何なんだよアイツの強さ、おかしいだろ…!?」

 

「あぁ、完全に防御に徹してる。それなのに俺達がこんな様とはな…」

 

二人が立っているだけでもやっとな状態の中、レイモンズはまだ麻痺の収まっていないゾルディアスを拾い上げてからロキ逹に呼びかける。

 

「どうする? まだ続けるかい?」

 

「…レイモンズさんよぉ。俺達って、割と……というかだいぶ負けず嫌いな部分があるからさ。ここまで何も出来ずにいる以上、黙って敗北を認めるほど人間が出来ちゃいない」

 

「ほう」

 

「だから、たぶんまだまだ続ける事になると思う……それから」

 

「―――ッ!?」

 

ロキの投げたデュランダルが、葵とアレクシー目掛けて飛来。葵がすぐさま高嶺舞で防ぎ、アレクシーも改めて斧型デバイスを構え直す。

 

「最初に言った通り、これは3対3であって別に3対1じゃねぇ。もし良かったらよ、アンタ等二人にもしばらく付き合って欲しいんだ。無理にとは言わないけどな(・・・・・・・・・・・・)

 

「…!!」

 

「…生意気な事を言ってくれるじゃない、キリー」

 

アレクシーの目付きがギンと鋭くなり、葵も不敵な笑みを浮かべてから高嶺舞を発動する。今のロキの台詞が「自信が無けりゃ参加しなくても良いぜ?」という意味の挑発である事を理解し、理解した上で二人は敢えてその挑発に乗る事にしたようだ。

 

「踊るわよ。この私の舞いに、あなた達は付いて来れるかしら?」

 

「意地でも喰らいついてやるさ……Blaz!!」

 

「たく……仕方ねぇな。一度乗った船だ、途中で降りるのも癪だわな」

 

「ッ……俺を忘れるなよ…!!」

 

「って、おいおい。大丈夫かよお前」

 

「この程度、どうって事は無い…!!」

 

「…はぁ、変に意地を張るよな。お前って」

 

フラフラであるにも関わらず立ち上がる二百式。Blazの心配すらも無視し、彼は自身の首元にボロボロのマントを纏わせる。

 

「レイモンズ……まずは貴様のその剣、意地でも抜かせてやる…!!」

 

「…良いだろう。何時でもかかって来たまえ」

 

レイモンズは右手拳をゴキンと鳴らし、二百式と相対。離れた位置ではロキとBlazの二人が、葵とアレクシーの二人と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――んで、結局負けたんだな?」

 

「しかもレイモンズさんに剣を抜かせる事も出来なかったと」

 

「「はい、その通りでございます」」

 

「…ふん」

 

結局、レイモンズ逹との模擬戦で負けてしまったロキ、Blaz、二百式の三人。レイモンズ、葵、アレクシーの連携を前に三人は瞬く間に追い詰められてしまい、まともに連携も取れないまま負けてしまったのだ。そのまま仲良く医務室に送り込まれる羽目になり、話を聞いたmiriや支配人、刃からは呆れられる始末である。

 

「…決めたぞ。レイモンズに剣を抜かせるまで、俺は何度でも模擬戦を挑んでやる」

 

「レイモンズからすりゃ、たまったもんじゃないだろうなぁ。本人が普段忙しい事を考慮した上での話か? 二百式よ」

 

「まぁ、二百式の気持ちは分からなくもねぇな。何せレイモンズや葵だけじゃなく、あのアレクシーって女もかなり強かったしよぉ」

 

「あぁ。あの三人はかなり強かった。出来る事なら、また模擬戦を願いたいところだ」

 

「何かヤケに張り切ってんなお前等……ま、無理し過ぎない程度に頑張るこったな」

 

「あ、ところでmiri。何人か姿が見えないが…?」

 

「何かよく知らねぇが、ディアは暴漢から助けた娘と色々話をしてる。蒼崎はそれに付いてった。んでもってげんぶは、白野って子と一緒にまた何処かに行っちまったよ」

 

「げんぶが? そりゃまた何で?」

 

「さぁ、俺もよく知らん。まぁもしもの時は念話で連絡するって言ってたし、問題ねぇだろ」

 

「そっか……よし」

 

「ん、もう良いのかよ?」

 

「あぁ、おちおち寝てもいられねぇ。またレイモンズさんに模擬戦の時間が取れないかどうか聞いてくるよ」

 

そう言ってベッドから起き上がったロキはレイモンズの下に向かうべく、医務室から出て行こうと扉のドアノブへと手を伸ばしたその時…

 

「失礼します。タカナシさん達はいらっしゃいま―――」

 

「!?」

 

ロキが触れるよりも前に、扉が開かれアレクシーが医務室に入って来た。しかしタイミングが悪過ぎた。何故ならば、ドアノブを掴めず空振りに終わったロキの右手が…

 

 

 

-ムニッ-

 

 

 

「…あ」

 

そのまま、アレクシーの胸を触る形になってしまったからだ。

 

「「「「…あっちゃあ」」」」

 

二百式以外のメンバー達が思わず顔を両手で覆う中で、ロキは今の状況にデジャブを感じつつも顔がどんどん青ざめていき、逆にアレクシーは無言ながらもその顔がどんどん赤くなっていく。そうなれば当然…

 

「……」

 

「…え、えっと、すみませんでし―――」

 

 

 

-バキィッ!!-

 

 

 

鈍い音が医務室に響き渡るのも、そう時間はかからないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇえ、まは出てひっはってひひの?(ねぇ、また出て行っちゃって良いの?)」

 

「あぁ、問題ない」

 

アジトの外では、げんぶと白野の二人が街中へと歩き続けていた。げんぶはアジトで貰ったパンを食べながら、白野は骨付き肉に噛り付きながら歩いている。

 

「アジトには他のメンバーがいれば問題ないだろうさ。いざという時は念話での伝達を支配人に頼んでるし。それにまだ合流出来てないメンバーもいるからな、早くそいつ等と合流しなきゃならん」

 

「ふぅん……ねぇ、私もそれに付いてって良いかな? 私もやる事ないし」

 

「構わんが……そんな食い方だと喉に詰まるぞ?」

 

「だいほぶだいほぶ(大丈夫大丈夫)……んむぐ、ぐぅっ!?」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

案の定、喉に詰まらせてしまった白野。げんぶから水の入ったペットボトルを貰い、グビグビと勢い良く飲み続け、あっという間にペットボトルが空っぽになる。

 

「おいおい、また一瞬で水がなくなったな。この野郎がよぉ……ッ!?」

 

「えへへ、ごめんごめん…」

 

「てへ☆」と舌を出す白野を他所に、げんぶは自分の口調が一瞬だけ変化した事に驚きを隠せずにいた。

 

(…どういう事なんだ…? 最近の俺は何かがおかしい……まるで、俺の中にもう一人の俺(・・・・・・)がいるみたいな……そんな感じだ…)

 

「んむ? どうしたの?」

 

「…あ、いや。何でもないぞ」

 

「?」

 

白野が不思議そうに見る中で、げんぶは訳が分からなさそうに頭をポリポリ掻く。これから先、彼は自身の中での異変に悩まされ続ける事になるのだが、それはまた別の話になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、しばらくはモンスター狩りになるだろうな。白野、付き合えるか?」

 

「ラジャー、美味しい肉がいっぱい食べられる!」

 

「…肉しか頭に無いのか、お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、アジト屋上。サイガに変身したユイが上空からアジトの周囲を監視して回っている中で…

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……確か、佳弥さんでしたよね」

 

「はい。良かった、覚えていてくれたんですね」

 

「えぇっと、まぁ……流石にそんなアッサリ忘れたら酷いですしね」

 

ディアーリーズは、自身が助けた女性―――佳弥と話をしている最中だった。少し離れた位置では楓、愛華、蒼崎の三人が二人の様子を眺めている。

 

「ほほぉ~う? あの二人、何だか良い雰囲気だねぇ~♪ もしかして佳弥ちゃん、ウル君に惚れちゃった感じなのかなぁ~?」

 

「え、そうなんですか? 私には普通に仲良く離してるだけに見えますけど…」

 

「愛華ちゃんにはまだ難しいかな? ま、人生長生きしてれば自然と分かるものだよ。あぁ畜生、俺ももっと出会いが欲しいんだけどなぁ~…」

 

 

 

 

 

 

 

 

三人がそんな話をしている中、ディアーリーズと佳弥の会話も非常に楽しそうだった。

 

「じゃあ、あの変態共はいつもあんな感じで…?」

 

「はい……ディラック・バーサイグとその取り巻きの所為で、戦えない人達は皆して魔導師を恐れてるんです。魔導師にだって良い人達はいるのに……でも最低とはいえ仮にも魔導師だったから、レイモンズさんですら彼等の扱いにはかなり手を焼いていたようで…」

 

「そうだったんですか……あの屑、もっと徹底的に痛めつけるべきでしたね…」

 

「でも、そんなディラックをあなたはやっつけてくれた。おかげで私だけじゃない、他の皆も少しだけですが安心してるんです。本当にありがとうございました」

 

「いえ、僕は僕に出来る事をやったまでの事です。ああいうのは見ていて腹が立ちますからね。それに…」

 

「それに?」

 

「…いえ、やっぱり何でもありません。気にしないで下さい」

 

佳弥に対して笑顔を見せるディアーリーズだったが、その顔は何処か浮かない物だった。現時点で、彼の愛する者達は凛を除いてほとんどが行方不明の状態なのだ。本当なら今すぐ探しに行きたくて仕方が無い。

 

(大丈夫……皆きっと、無事でいる筈だ…)

 

「…強いですのね、ウルさんは」

 

「え?」

 

佳弥の発言でディアーリーズは考え事を一旦中断し、佳弥の方に視線を向ける。

 

「私にはウルさんのような勇気も無ければ、力もありません。だからいざという時に限って、誰の役に立つ事も出来ないんです。そう……私の両親が、管理局の魔導師に殺された時も」

 

「ッ!!」

 

「私は管理局が憎かった……私から父と母を奪った管理局が…!! そして何より……そんな管理局に対して、何も出来なかった自分が一番憎かった!! 無力で弱い自分が憎たらしくて仕方なかった!!!」

 

佳弥は段々口調が荒くなっていき、そしてすぐに落ち着いた口調に戻る。

 

「…でも、今はもう関係の無い話です。結局、私は管理局に対して復讐も成し遂げられないまま、管理局はヴァリアントによって滅ぼされた。復讐する機会を失った私は一人、ただ空しく生きる事しか出来ない…」

 

「佳弥さん…」

 

「どうですか? ウルさん……滑稽でしょう? こんな私が……無力で小さ過ぎる私の存在が…」

 

「…僕だって、無力で勇気の無い、臆病な存在ですよ。」

 

「……」

 

両者共に無言になり、数秒経った後にディアーリーズの口が開く。

 

「…僕もですね、昔は中身の無い空っぽな存在でした」

 

「え…?」

 

佳弥がディアーリーズの方に振り向き、ディアーリーズは話を続ける。

 

「でも、そんな空っぽな僕に、中身を注ぎこんでくれた人たちがいたんです。その人たちのおかげで、僕は力と意思を手に入れました……でも、まだ足りないんです」

 

「まだ、足りない…?」

 

「えぇ」

 

「…!?」

 

ディアーリーズの両手が佳弥の右手を優しくギュッと握り、佳弥は彼の突然の行動に顔を赤らめる。

 

「ウ、ウルさん…?」

 

「僕は何者からも、彼女達を守りたい……佳弥さん。力が無いというのなら、僕が手を貸します。勇気が無いというのなら、僕が一緒に手を添えます。だから佳弥さん……僕にも、貴女の力を貸して貰えませんか?」

 

「!! …む、無理ですわ……こんな私に、出来る事なんて…」

 

「あなたはそれほどまでに、他人の事を思う事が出来る。たったそれだけの事で、僕みたいに精神的に救われる人だっている。それが、あなたにとっての力です」

 

「私にとっての、力…」

 

ディアーリーズが投げかけた言葉。その一つ一つは、他者からすればまさに綺麗事と言っても過言ではないだろう。しかし今の佳弥の心には、その綺麗事のような言葉が何故か強く響き渡っていた。同時に、その目からは僅かに雫が流れ落ちる。

 

「…ウルさん」

 

「? はい、何ですか…ッ!?」

 

ガバッと佳弥がディアーリーズに抱き着き、ディアーリーズも同じように顔が赤くなる。

 

「か、佳弥さん…!?」

 

「…信じても良いんですね? あなたが私にとって……縋りつける存在である事を」

 

「!」

 

ここで、ディアーリーズは気付いた。抱き着いている佳弥の身体が震えている事に。佳弥の口元から嗚咽の声が小さく漏れている事に。そうだと分かった以上、彼女を無理やり引き離す理由は無かった。

 

「…お望みであれば、ご自由に」

 

それだけ言って、ディアーリーズも佳弥を抱き締め返す。彼女が落ち着きを取り戻せるまでの間、ディアーリーズは何も言わず彼女の頭を優しく撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堕ちた」

 

「うん、堕ちたね。あれは」

 

「…?」

 

もちろん、その光景も蒼崎達に見られていた訳なのだが。蒼崎と楓はニヤニヤ笑みを浮かべており、愛華だけはよく分からなさそうな顔をしている。

 

「何、アイツはいつもあんな風に女の子を堕として回ってるのかい?」

 

「あっはっは~……何一つ否定出来る要素が無いのがディアの恐ろしいところだね、うん。君等も一応、堕とされないように気を付けてみたら? 何だったら俺が堕としてやっても―――」

 

「いやぁ、あり得ないって! あたしゃそう簡単には堕とされないよ」

 

「あ、そう?」

 

(堕とすとか、堕とされないとか……二人は何の話をしてるんだろう…?)

 

さりげなく蒼崎がアプローチを仕掛けるも、楓はそれをバッサリと両断。愛華が未だにクエスチョンマークを頭に浮かべている中、楓は「自分は異性に惚れたりはしない」とハッキリ豪語してみせる……後にその言葉も簡単に覆される事となってしまうのだが、彼女はまだ知る由も無いだろう。

 

「楓さ~ん、愛華ちゃ~ん!」

 

「んにゃ?」

 

「…!?」

 

その時、三人の下に帰還したばかりのスバルとティアナが駆け寄って来た。楓と愛華はスバルの方に振り向き、蒼崎はスバルの姿を見て驚く表情を見せる。

 

「おぉ、二人共おかえり~!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「ねぇ二人共、アジトにウルって人はいないかしら? 妹さんが、その人の事を探してるんだけど…」

 

「ウル? あぁ、それならちょうど―――」

 

「ウル兄ちゃーん!」

 

「ん? え…咲良!?」

 

楓が言いかけたその時、彼女達の真横を咲良が猛スピードで走り、ディアーリーズと佳弥のいる方向へと大きくジャンプ。彼女の存在に気付いたディアーリーズは一旦佳弥から離れ、飛びかかって来た咲良をその両腕でしっかり受け止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、地上本部前にある廃屋…

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……あぁ~助かったぁ~…」

 

地上本部内でやたらモンスターに追われ続けていたハルトだったが、現在はそういった状況から脱出していた。というのも、彼一人の力ではなく…

 

「また色々と災難だったわね、ハルト」

 

「ゆっくり休むと良いさ~」

 

たまたま地上本部の近くまで来ていた、アスナや響の助けもあったのだが。

 

「いやぁ、サンキュー二人共……俺一人じゃ流石に、あの数のモンスターは捌き切れなかったわ」

 

「アンタもアンタで、あんな所で一体何してたの? あんなたくさんのモンスターに追われてるだなんて」

 

「あぁ、それが…」

 

「話さなくて良い。お前の事情は大体分かっている」

 

「「「!」」」

 

ハルト逹が話していたその時、廃屋に一人の男性が入って来た。男の顔は目と鼻と口以外を包帯で巻いており、その目は何処か濁ったような瞳をしている。

 

「あ、頼忠さん」

 

「頼忠?」

 

「南頼忠さん。レジスタンスっていう組織の一員で、モンスターと戦ってた私達を助けてくれたの」

 

「要するに、恩人って事だね」

 

アスナと響が説明するが、包帯の男性―――南頼忠(みなみよりただ)はフンと鼻を鳴らす。

 

「そう言っている割には、雑魚のモンスター共はお前達二人で殲滅していたがな……おかげで、お前達をわざわざ女性として丁重に扱う必要も無かった」

 

「おぉっと、頼忠さん冷たい!」

 

「事実を言ってのけたまでだ……さて」

 

頼忠はハルトの前で椅子に座り込み、ハルトに視線を合わせる。頼忠自身の雰囲気もあってか、その目付きはかなり不気味な物となっている。

 

「地上本部に人がたくさん囚われている。そいつ等を早く助けたい……違うか?」

 

「!? おぉ、分かっちゃうのか」

 

「俺は魔導師ではない。だが、お前の心を読み取る術は心得ている」

 

「ん? それってつまり、超能力って奴か?」

 

「! 何か知っているかのような口ぶりだな……まぁ良い。囚われてる連中を助けたいと思っているのなら、今はやめておく事だな」

 

「!? そりゃどういう事だ?」

 

「お前達のような中途半端な実力者が挑んで勝てるほど、ヴァリアントという連中は甘くは無い。助けに行ったところで、無惨に殺されて終わるだけの話だ。特に女の場合は、ただ殺されるよりも悲惨な末路を辿る事になるだろうけどな」

 

「…随分と分かってるかのような口を聞くわね。そんなに私達が弱く見えるかしら?」

 

まるで雑魚のような評価をされてしまっている以上、アスナは頼忠に対して不愉快とも取れるような視線を向ける。しかしそんな鋭い目付きにも、頼忠は動じない。

 

「ほう、怒っているか? まぁ少なくとも…」

 

「「「ッ!?」」」

 

突然の殺気に、ハルト逹は一斉に身構える。すると廃屋内の暗い影の中から謎の目が複数出現し、身構えている三人を赤い瞳が捉える。

 

「俺が既に能力を発動しているのをすぐに気付けなかった以上、怪しいところではあるな」

 

「く…!!」

 

思わず頼忠を睨み付けるアスナだったが、彼の言ってる事も最もである以上、反論は出来ない。頼忠が指をパチンと鳴らすと同時に影の中にあった複数の目が消滅し、殺気がなくなった事で三人も警戒を解く。

 

「大人しく俺に付いて来い。今はレジスタンスの戦力を整えるのが先だ。助けるのはその後でも良いだろう?」

 

「だが、何時までも待たせる訳には…」

 

「くどい。何だったら別に、このまま助けに戻ったって構わんのだぞ? まぁ、あの程度のレベルのモンスターに手間取っているようでは、その結果も目に見えているだろうけどな」

 

「ッ…」

 

ハルトが反論しかけても、頼忠の無情な言葉がそれをさせない。その何処か無慈悲な言葉には、彼等がよく知る白衣の男の姿と重なって映る。

 

「もうじき日が暮れる。地上にいるモンスターは夜になると更に活発になるからな、何時までもこんな場所にはいられん」

 

「…アンタって本当に冷たいねぇ。俺等の知ってるドクターとそっくりだ」

 

「ほう? 同じような事でも言われた事があるのか?」

 

「まぁ、否定は出来んね。ドクターもドクターで非常時は人質すらも平気で見殺しにしようとするし、時にはうちの仲間まで問答無用で手にかけようとするし…」

 

「美空ちゃんの件なんかもそうよね。あのマッド、思い出すだけでも本当に腹が立つわ…!!」

 

「ん~確かに怖いよねぇ、あの竜神丸って人も。ちょっと研究室に入るだけですぐ神刃(カミキリ)で斬り刻もうとして来るし」

 

響のその発言に…

 

「…神刃(カミキリ)だと?」

 

頼忠の眉が、一瞬だけピクリと反応するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、レジスタンスのアジト…

 

 

 

 

 

 

 

「タカナシ君……どうしたんだい? その顔は」

 

「…事故があった。そういう認識で頼む」

 

「?」

 

地下5階の指令室にて、レイモンズとロキが再び対面していた。レイモンズはロキの顔に張られているガーゼや絆創膏が気になっていたが、疑問を感じつつも深くは詮索しなかった。ちなみに少し離れた位置で立っているアレクシーは相変わらず無表情……かと思いきや若干顔が赤くなっており、無言のままロキから視線を逸らしている。

 

「まぁ、深くは聞かないでおくよ…」

 

「すまん」

 

「…さて、話を戻そう。ロキ君達にはすまないが、私も常に模擬戦が出来るほど時間に余裕は無くてね。少なくとも今日はもう無理だ」

 

「やっぱりそうか……すまないな、無理を言って」

 

「いや、構わないよ。それにしても、二百式君はそんなに私が強いと思っているのかい?」

 

「そうだ。まぁ俺も同じ意見だがな」

 

「ははは……私は別に強くは無いよ。模擬戦の時にも言ったけど、君達の攻撃が速過ぎて剣を抜く余裕が無かっただけの事さ」

 

「…その剣を抜けなかった男に、俺達三人は無様に負けた訳なんですが?」

 

「おっと、すまない。気を悪くしたなら謝るよ」

 

「いや、良いんだ。ただ俺からしてみれば、アンタがそこまでして卑下する理由が分からないんだがな」

 

「何度も言うように、私は強くなんてないさ。本当に強いのならば…………私は今頃、大切な人を失ってはいない筈だからね」

 

「!」

 

ロキは察した。レイモンズの表情が暗くなっている事と、レイモンズの視線がとある方向に向いている事に。その方向に向いてみると、壁にかかっている小さな額縁に、一人の女性の写真が収まっているのが見えた。

 

「この人は?」

 

「私の妻だよ。かつては私と同じで、管理局の魔導師だったんだ。管理局が壊滅した後も、私と共にレジスタンスの皆を支えてくれたんだ。誰もが彼女の事を尊敬してた」

 

「へぇ、良い奥さんじゃないの。で、説明が過去形という事は……この人は…」

 

「…生存者を庇って、モンスターの攻撃を受けたんだ。私が駆け付けた頃にはもう手遅れだった」

 

レイモンズが椅子から立ち上がり、額縁の前に立つ。ロキはレイモンズだけでなく、アレクシーも何処か悲しげな表情をしているのに気付き、レイモンズに問いかける。

 

「…辛くなかったのか? 妻を失って」

 

「…レジスタンスを引っ張っていく以上、私が折れる訳にはいかない。それに妻にも言われたんだ。このミッドチルダを何としてでも救ってくれ、とね」

 

左手の薬指にはめられた指輪を見つめてから、レイモンズは改めて椅子に座り直す。

 

「…さて、この話は終わりだ。私はまだ仕事が残っているからね。アレクシー、彼を部屋に案内してあげてくれ」

 

「了解。ではタカナシさん、こちらへ―――」

 

「レイモンズ」

 

アレクシーがロキを案内しようとした時、ロキはレイモンズの方に振り返る。

 

「? 何かな」

 

「アンタは充分強いよ」

 

「!」

 

「強くなかったら、大事な物を失った時点で心が折れる。その点、アンタは断然マシな人間だよ」

 

それだけ言ってから、ロキはアレクシーと共に部屋を退室する。二人が出て行った後も、レイモンズは椅子に座ったまま妻の写真を見据えていた。

 

「私が強い、か。素直に喜ぶべきなのかな……なぁ、サリーシャ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレクシーさん、頼みたい事があるんだ」

 

通路を歩きながら、ロキはアレクシーにある頼み事をしていた。しかしアレクシーは胸を両腕で隠しつつ、ロキに対して警戒心の込められた視線を向ける。

 

「…また触る気ですか?」

 

「誰がセクハラさせてくれと言ったよ!? そうじゃなくて、模擬戦の方だよ。模擬戦」

 

ロキはすぐさま否定し、頼みたかった事をアレクシーに告げる。するとアレクシーは何故かと言いたげな表情を見せる。

 

「模擬戦なら構いませんが……何故また?」

 

「俺自身が納得出来てないからさ。自分が思う強さには、まだまだ程遠い。だからもっと鍛え続けて、自分の守りたい物を守れるだけの力を手に入れたい。その為にも…」

 

ロキはアレクシーを指差す。

 

「まずはアンタに勝つ。負けっぱなしのままだと気が済まんからな」

 

「……」

 

アレクシーはほんの少しだけポカーンとした後、小さくも穏やかな笑みを零す。

 

「本当に負けず嫌いなんですね。あなたという人は」

 

「む、悪いか?」

 

「いえ、そんな事はありません。強くなりたいと思っているのは私も同じです……ただ」

 

「?」

 

「先程の言い方だと、まるで私は前座という認識しかされていないようですね。それだけが気に入りません」

 

アレクシーは待機状態のデバイスを手に取る。

 

「模擬戦ならば受けて立ちます。ですので……思う存分悔しがらせてあげましょう」

 

「…上等だ」

 

ロキも待機状態のユーズを見せつけ、ニヤリと笑みを浮かべてみせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでタカナシさん。模擬戦の最中……ドサクサに紛れて、また触ったりしませんよね?」

 

「いや触らないっての!? 確かにさっきの件は、前をよく見てなかった俺が悪かったけどさぁ!!」

 

「今度は気を付けて下さいね? ……まぁ、人がいない場所でなら…」

 

「ん、何か言った?」

 

「い、いえ、何でもありません!!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「で、結局やり過ぎたと?」

 

「「ごめんなさい」」

 

森林エリアにて、朱音と青竜はawsの前で土下座をかましていた。ちなみにこの二人によってフルボッコにされたであろうUnknownは現在、エリオとキャロの二人に手当てをされている真っ最中である。

 

「全く。彼が好きなのは分かりますが、適度という物を考えたらどうなんですか? アン娘さんだって好きで襲われた訳じゃないんだから」

 

「あらあら、そこまで怒らなくても良いんじゃないかしら? 元々、彼を襲った私達が悪いんだし」

 

「…ナチュラルに後ろから抱き着いて来るのはやめてくれないか? あまり人をからかうものじゃない」

 

「…残念。さっきの子みたいに誘惑してみようと思ったのに」

 

awsに後ろから抱き着いていたサキュバスだったが、彼が欲情していない事を知るとすぐに彼のそばから離れてみせた。awsは呆れたように溜め息をつき、サキュバスをギロリと睨みつける。

 

「それで、お前の目的は何だ? やたら馴れ馴れしく語りかけて来るが……目的次第では容赦はしないぞ」

 

「いやん、暴力は反対よ。安心して頂戴、私は別に人間を殺すようなマネはしないわ。性的には襲うけど」

 

「別の意味でタチが悪いわ!!」

 

awsの突っ込みもスルーし、サキュバスは岩の上に座り込む。

 

「私はサキュバスのナスティ。ヴァリアントを纏める幹部の一人よ。今後ともよろしく」

 

「ヴァリアント……あのモンスター達の事か。奴等に人間を襲わせて、一体何をしようとしている?」

 

「それを話すのは別に良いけど……場所を変えないかしら? ここはそろそろ危ないわよ」

 

「? どういう事だ」

 

「どういう事か? 決まってるじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モンスター達が活発化して、地獄の夜が始まるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジトの地下6階、バリアールーム。

 

ここにはアジトの周囲に結界を張り巡らせる為、専用の特殊なロストロギアが設置されている。もしこのロストロギアが傷付いてしまえば、アジトを守っている結界が弱まり、モンスター達がこのアジトに攻め来る事になる。それ故に、この部屋には関係者以外は一切の立ち入りを禁じられている。

 

しかし、本来なら誰もいない筈のこの部屋にて…

 

「よ、よし……これだな……奴が言ってた通りだ」

 

緑色の光を放っている、エメラルドのような形状の宝石型ロストロギア。そのロストロギアが設置されている巨大なカプセルの前に、ハンマー型デバイスを構えたディラックが立っていた。部屋の入り口付近では、入り口を守っていたであろう魔導師逹が血を流して倒れている。

 

「これさえ壊せば、俺はヴァリアントに寝返って、安息を得る事が出来る……ハハハハハハ…!! 見てろよ、あのクソガキ共……このロストロギアを壊したその瞬間、テメェ等全員が地獄に落ちる事になるぜ…!!」

 

ディラックはデバイスを構える。自分に恥をかかせたディアーリーズと、その仲間達。彼等に対して逆恨みに近い感情を抱いてしまっている為か、今の彼には正常な判断が出来てはいなかった。

 

「さぁ、宴の始まりだ…!!」

 

ディラックはデバイスを高く振り上げた後、思いきりデバイスを振り下ろし…

 

 

 

-ガシャァァァァァァァンッ!!-

 

 

 

ロストロギアの入ったカプセルが、粉々に破壊されてしまった。

 

「カハハハハハ……カーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪夢の夜が、すぐそこまで迫って来ていた。

 


 
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