No.742228

ALO~妖精郷の黄昏~ 第51話 海と空を統べる御子

本郷 刃さん

第51話です。
ハーフタイムその2ですが、キリトからもたらされた情報を元にアスナ達がクエストに挑みます。

どうぞ・・・。

2014-12-07 22:40:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5924   閲覧ユーザー数:5447

 

 

第51話 海と空を統べる御子

 

 

 

 

 

 

 

アスナSide

 

「アスナ、来たわよ」

「お待たせしました」

「到着だよ!」

「シノのん、リーファちゃん、リンクちゃん。来てくれてありがとう」

 

キリトくんについての話が終わって、少ししたら3人が来てくれた。

『転移結晶』を使用しないできたから、結構な速さで飛んできたみたい。

 

「んじゃ、アスナちゃん。俺達はアースガルズの方に行くよ」

「そっちの方はお願いしますね」

「頑張ってこいよ」

 

入れ替わるようにシャインさんとヴァル君とハクヤ君が家を後にして、アースガルズに向かっていった。

戦力の入れ替えの意味も込めているからね。

一応だけど、ユイちゃんを含めてみんなに改めて詳しい状況の説明をした方が良いかもね。

 

「それじゃあ、3人も来てくれたから一度状況を纏めるね。

 まず、みんなも知っての通り、少し前にヨツンヘイムの防衛拠点が全て陥落したわ。

 そして、それらの報告を受けている時にキリト君からメッセージが届いて、

 シルフ領のトゥーレ島でリヴァイアサンに関係するクエストが発生することを教えられたわ。

 よって、私達はトゥーレ島へ向かい、そのクエストをクリアすることになります、ここまでで質問は?」

「……このメンバーの主な役割分担は?」

「キリト君に次いで剣士の実力が高いハジメ君と一番パワーのあるルナリオ君が前衛、弓の技量が高いシノのんが攻撃型後衛、

 《音楽》スキルを扱えるリンクちゃんが支援型後衛、ヴァル君に次ぐ速さを誇るクーハ君が遊撃、

 剣士でもあり魔法も扱える私とリーファちゃんが中衛を担当、そしてユイちゃんが情報担当、こんな感じね」

 

この8人での役割分担ならこれが最適だと思う、訊ねてきたハジメ君も満足そうだから答え合わせをさせられたかな。

 

それに残らせたメンバーにも理由はある。

シャインさんは指揮も出来る上で防御型でもあるから防衛に回したいし、

キリト君に次ぐ実力のハクヤ君は主力にするべきで、ヴァル君の実力と速さも残した方がいい。

さらに支援要員としての能力が高いティアさん、私と同格かそれ以上のカノンさんは勿論、

ビーストテイマーのシリカちゃんとマスタースミスのリズは本隊のサポートに回すべきだからね。

 

「行くこと自体には反対はないんだけど、以前の事情を聴かせてもらってもいいかしら?」

「「オレ(僕)も知りたい」」

「そっか、去年の夏っすからシノンさんもクーハもリンクも知らないんすよね」

 

そうだった、3人はその時のことを知らないからそれについて説明しておかないと…。

 

「去年の夏休みの終わり頃、私達はあるクエストを受けたの。

 シルフ領の南方、トゥーレ島のさらに南にある海底遺跡、そこで受けたクエストでクラーケンに襲われて、

 危ないところをリヴァイアサンが助けてくれた、というわけなの。詳しい話しも聞く?」

「大体分かったわ、詳しい話は『神々の黄昏(ラグナロク)』が片付いてからに聞かせてもらうことにしておくわね」

「なら、その話はまた今度ね。時間もあまりないから、そろそろ行きましょうか」

 

シノのんが頷いて、クーハ君とリンクちゃんも納得しているから話しを切り上げる。

既に準備は整えていたから、あとはトゥーレ島に向かうだけだね。

 

「それじゃあ、行くわよ」

「「「「「「「ああ(はい)」」」」」」」

 

イグシティの家を後にして、各自で『転移結晶』を使用してシルフ領の主都であるスイルベーンに転移しました。

 

 

 

スイルベーンの転移場に着いた私達をサクヤさんが出迎えてくれた。

執務室だと急な戦闘になった時に即座に動くことが出来ないから、

スイルベーンの中央広場に作戦支部を作り、そこで指揮を執っていたみたい。

いまは侵攻も落ち着いているから、出向いてくれたということだね。

 

「僭越ながら護衛部隊を1パーティー分だが用意させてもらった。

 クエストも共にとは言わないが、せめて移動の間くらいはと思ってな」

「ありがとうございます、サクヤさん」

「ありがとう、サクヤ」

「ふふ、気にしないでくれ、世話になったことも多いからな。では、入ってきてくれ」

 

サクヤさんからの申し出には勿論、快諾しておく。

敵に襲われないとも限らないし、可能な限り時間を掛けたくないし。彼女の声が響くと転移場に7人組の人達が入ってきた。

 

「レコン!? ルクスさん!?」

 

リーファちゃんが驚きながら見知った2人の名前を呼んだ。

1人は先程までイグシティの作戦本部で派遣スタッフを務めていたはずのレコン君、

もう1人は私達と同じ『SAO生還者(SAOサバイバー)』のルクスちゃんだった。

ルクスちゃんはウチの学校に編入してきて、リズ達の紹介で知り合ったんだよね。

その他の5人ももう1つのアバターであるエリカの時に会ったことのある人達だったから、安心できるね。

 

「いきなり呼ばれたから何かと思ったんだけど、ルナリオ君達の護衛だったなんてね…」

「えっと、足を引っ張らないように頑張ります」

 

苦笑しているレコン君に対して、ルクスちゃんは緊張気味。

そこまで大役じゃないと思うけど、サクヤさんからのご指名だし、ハジメ君達が居るからっていうのもあるかも。

 

「護衛よろしくお願いしますね。それではサクヤさん、行ってきます」

「ああ、気を付けて」

 

シルフのパーティーに声を掛け、サクヤさんに見送られながら私達は南方のトゥーレ島に向かいました。

 

 

 

 

トゥーレ島まで到着した私達は以前にクエスト前に海水浴を楽しんだ砂浜に来ています。

移動途中に邪神型や狼型、アンデッド型のMobに襲われることはあったけど、特に問題もなく蹴散らして辿り着けた。

だけど、辿り着いたその砂浜から見た海は、やっぱり景色が変わっている。

 

「海が凍っていないことは、まぁ良かったっすけど…」

「まさかの流氷だね…」

「海底遺跡のところは大丈夫かな…?」

 

さすがのルナリオ君も呆然としていて、レコン君とリーファちゃんはこの先の展開が少し心配な様子。

他のシルフの人達もこの状況は不安みたいだし、このあとのことを聞いておいた方がいいかも。

 

「クー君、流氷だよ、流氷! ゲームだけど僕初めて見たぁ!」

「本当に凄いですね!」

「はいはい、少しは落ち着けって……ったく、ユイちゃんは解るとして、お前は高1にもなってはしゃぎ過ぎだぞ」

「むっ、クー君が落ち着き過ぎなんだと思うよ!」

「キリトさんやヴァルさん達はオレくらいの時には十分落ち着いていただろ」

 

いや、クーハ君。

リンクちゃんくらいが女子高生としては普通だと思うんだけど、むしろキリト君達やキミが落ち着き過ぎだと思うよ、うん。

 

「クーハとリンクは相変わらずマイペースね」

「2人は揃うことでマイペースになるんだよ。

 まぁルナリオ君は驚いているけど、いつも通りだし、リーファちゃんも修羅場は潜ってきたからね。

 レコン君もアレで肝が据わる方だって、キリト君も言ってたし」

「そうね……ただ、やっぱりシルフ組はここに残しておくつもり?」

「う~ん、微妙なところかな…。

 VRMMOプレイヤーとしては古参のメンバーだけど、今回の海中とか特殊な状況下でのアクシデントに対応できるか分からないし…。

 ハジメ君にも意見を聞いて…って、ハジメ君は?」

「あれ、そういえば何処に……あっ…」

「シノのん? あっ…」

 

シノのんと話していて、見当たらないハジメ君の姿を探そうと周囲を見渡したら、確かに彼は居た……ルクスちゃんと一緒に。

あぁ、それでシノのんの頬が少し膨れているんだね、シノのんの嫉妬可愛いなぁ。

 

だけど、もう一度ハジメ君とルクスちゃんに視線を向けると、会話している2人の様子がなんだかおかしい。

ううん、正しくはルクスちゃんの様子がおかしくて、ハジメ君は何かに警戒しているみたいな、そんな感じがする。

そして、会話が終わったのか2人が離れたところからこっちに戻ってきた。

 

「なにを話してたの…?」

「……少し注意を、な……それがどうかしたのか?」

「別に…」

「……なるほど、妬いているのか」

「なっ、ち、ちがっ……わな、い…けど…///」

「……可愛いな、シノンは」

「うぅ、ハジメの、ばか…///」

 

良いなぁ、シノのん……わたしもキリトくんに可愛がられたいなぁ…。

って、そんな場合じゃないね、ルクスちゃんを見てみれば顔色が悪い、これは体調が悪いとかじゃないと思うけど…。

 

「ルクスちゃん、どうしたの?」

「アスナ、さん……私は、大丈夫です…」

「どうみても大丈夫じゃないわよ。ハジメ君に何か言われたのよね?」

「…これは、私が自分で解決しないといけないんです…。

 ハジメさんは、それを注意してきただけですから、ハジメさんは悪くありません…」

「でも………分かったわ、だけどなにかあったらすぐに話してね…」

 

ルクスちゃんはSAO時代に友達を亡くしているから、もしかしたらそのことなのかもしれない。

その事情なら踏み込まない方が良いと判断する…だけど、それならハジメ君が注意する理由が分からない。

もしかしたら、ハジメ君は彼女のSAO時代について何か知っているかもしれない、その点だけは彼に聴いておこう。

 

「ありがとうございます、アスナさん。必ず、話しますから…」

「うん、みんな待ってるから、安心してね…」

 

取り敢えず、この話はここまでね。

ルクスちゃんがこの様子なら、シルフ部隊にはトゥーレ島に残ってもらう方がいいわね。

みんなを集めてからシルフ部隊にこの島での待機をお願いして、私達は海底遺跡に向かうことを決めた。

 

 

 

シルフ部隊をトゥーレ島に残して、私達は空へ飛び上がり、南方の海底遺跡に向けて飛行を始めた。

けど、飛行を始めて少ししてから、私達は海の異変に気が付いた。

流氷の隙間、その下の海に巨大な黒い影が見える。

 

「敵、かな?」

「……分からん。だが警戒しておくに越したことはない」

 

シノのんとハジメ君が警戒しながら言葉を交わす。そんな中、ユイちゃんが嬉しそうな声を上げた。

 

「ママ、みなさん、あの影は敵じゃないですよ」

「ユイちゃん? それってどういう「来ますよ!」え…あっ!」

 

ユイちゃんの言葉を聞いて海面を見てみる。すると、巨大な影が浮き上がってきて、その白い巨体を見せつけた。

 

「あの時の、白いクジラじゃないっすか!」

「ホントだ! だからユイちゃんは敵じゃないって言ったんだね!」

「流氷の次は白いクジラ! しかもすっごく大きいよ、クー君!」

「これに関しちゃ同感だな……図鑑で見たシロナガスクジラみたいだ…」

「もしかして、去年の夏のクエストに関係しているの?」

「……あぁ、クエストの最後で俺達を地上に送ってくれたことがある」

 

みんなは驚きと感動に包まれた様子、私だってあの時のことを思い出している。

ただ、同時に意味があることも理解している。

あの時はクエストが終了して送り帰される為だったけど、いまはその逆になるかもしれない。

そう考えて注意深く観察してみると、クジラの背中に人のような姿が見えた。

 

「みんな、クジラの背中に誰か居るわ。私としてはクエストに関係すると思うから、行ってみようと思うんだけど」

 

そう言うとみんなも頷いて応えてくれた。トゥーレ島では何も起こらなかった以上、ここで動くのが一番良いと考えたからだね。

一応警戒しながらも、私達はクジラの背に向けてゆっくりと降りていく。

クジラの背中に降り立つことでその誰かが女性であり、青い洋風の巫女装束のような服に身を包んだ綺麗な人だと分かった。

イベントNPCのアイコンとHPが表示されていて、私が代表して話し掛ける。

 

「貴女は一体何者ですか?」

「私は海の王であらせられるリヴァイアサン様に仕える巫女の1人です。

 現在、海底神殿をクラーケンの眷属から守るべく、1人戦っておられるリヴァイアサン様に代わり、

 妖精様方にお頼み申し上げたいことがあるのです。どうか、御力を貸しては頂けないでしょうか?」

 

巫女の女性がそう言ったらクエストウインドウが出現した、クエスト名は『海と空を統べる御子』。

みんなを見渡して、頷き応えてくれてからクエストを引き受ける。

 

「ありがとうございます、妖精様。それでは、時間が差し迫っておりますので、説明をさせていただきます。

 先程もお話ししました通り、現在リヴァイアサン様はクラーケンの眷属から海底神殿を守る為、御一人で戦っておられます。

 しかし、数に押し切られてしまい、何十もの敵が既に神殿内に侵入してしまいました。

 海底神殿には全ての海と空を統べる御子様がいらっしゃるのですが、

 このままでは神殿最奥部まで到達されてしまうかもしれません。

 そうなっては御子様の命が危ないため、御子様をお助けしていただきたいのです。

 及ばずながら、私も同行させていただきます。私が赴けば、御子様の力を解放させることが出来ますから」

 

説明を聞き終えるとパーティーリストの一番下に彼女の名前が加入した。

ocean medium(オーシャン・メディウム)』、直訳すれば“海の巫女”、そのままだね。

 

「それで、海底神殿は海底遺跡とはまた別の場所なんですか?」

「はい。海底遺跡はあくまでも表面上の物、神殿は遺跡最奥部から転移した先にあります」

 

前に海底遺跡に行った時、遺跡の最奥部にあったのはあの卵(・・・)だけだったけど、その先があったなんて…。

 

「ママ。その海底神殿なのですが、どうやらアップデートの際に新たに追加されたダンジョンのようです。

 既に一部のエリアはプレイヤーが探索済みのようですが、その最奥部周辺は封鎖されていたようです」

「ということは、これから行くのはその場所になるのね」

 

それなら納得ね。新ダンジョンだから不安もあるけど、そこはユイちゃんにナビゲートを任せよう。

 

「では、これより皆様をご案内いたします……参りましょう」

 

メディウムさんは私達にそう告げると魔法を発動した、《ウォーターブレッシング》だね。

それにHPのUPなどを含めた強化魔法も掛けられている。そしてクジラさんが体を動かして、私達は水中へと入って行った。

 

 

 

クジラさんの背中に乗って少し経ち、私達は以前にも訪れた海底遺跡を目の当たりにした。

ただ、遺跡は結界のような物で覆われていて、その周りを大量の水棲型Mobがまとわりついている。

 

「なによ、この数…」

「……なるほど、これならボス級のNPCであるリヴァイアサンが守りにつくのも納得だ」

「うぅ…僕、気持ち悪くなりそう」

「見ていて良い気分にはならないだろうな」

「結界は張ってるっすけど、クジラは十分に入れそうっすね」

「問題はどうやって突破するか、かな?」

 

シノのんとハジメ君は呆れと納得の表情を浮かべながら、リンクちゃんとクーハ君はその数が蠢いている様子に顔を歪めて、

一方でルナリオ君とこんな状況にも慣れてきたのだと思うリーファちゃんは対処法を考えているね。

 

「皆様、しっかりと掴まっていてください。いまから結界内へと突入しますので」

「「「「「「「「えっ?・はっ?」」」」」」」」

 

メディウムさんの言葉に思わず呆然としたけど、クジラさんの動きが変化したことに気付いて、私達はすぐにしがみ付く。

その直後、一気に加速したクジラさんはMobを弾き飛ばしながら進んで、私達は結界内への突入に成功した。

着いた先は以前にクラーケンと戦った場所で、そこにはリヴァイアサンが立っていた。

 

「妖精達よ、よくぞ手を貸してくれた。見ての通り、私は結界を張り奴らの侵入を防がねばならない。

 そなたらには申し訳ないが、どうか御子様を頼むぞ」

「はい、任せてください」

「頼む。御子様は遺跡の最奥、以前の御室(みむろ)から転移した先の神殿にいらっしゃる。

 恐らく、既に突破したクラーケンの眷属共は神殿内に侵入しているだろう。くれぐれも気を付けてくれ」

 

その言葉を最後にリヴァイアサンは結界の外に出て、Mob達を蹴散らし始めた。

彼に続くようにクジラさんも結界外に行き、体当たりなどをしてMobに攻撃を行っていく。

 

「みんな、行くわよ!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

みんなに声を掛けて、返事がきたことでそれぞれに武器を執り、遺跡内部へと向かった。

 

 

 

 

遺跡の中をユイちゃんにナビゲートしてもらい、Mobを倒しながら進んでいく。

そして、以前に卵が保管されていた、御室と呼ばれていた部屋の前に辿り着いたけど、そこには

大きな蟹型のモンスターが居た、HPゲージが3本だから中ボスクラスだね。

 

「……ふっ!」

 

一閃、ハジメ君の刀による剣閃が蟹の鋏のある腕、その甲殻の隙間をいとも簡単に斬り裂いて、大きなダメージを与えた。

速度そのものならヴァル君が一番だけど、剣速だけを見ればヴァル君もキリト君も超える一閃。

その一閃を続けざまに行って、ダメージをさらに与える。蟹は空いている鋏で彼に攻撃しようとするが…。

 

「らぁっ!」

 

一撃、ルナリオ君のハンマーによる剛撃が空いていた鋏を砕いた。

耐久値削りのソードスキルを発動しての攻撃は強固な甲殻を粉砕するほどで、パワーでは随一のルナリオ君による一撃。

ただ、ソードスキルを使用すれば技後硬直も発生する。その隙を突くかのように、蟹の口元に泡が集まって行く。

シリカちゃんのピナよりも強力な《バブルブレス》!

 

「やらせないわよ!」

 

そこでシノのんが矢のソードスキルを放った。

雷を纏う風属性の矢は蟹の口に直撃すると爆散して、放電を行って蟹のブレスを止めた。

さすがはシノのんだね、普通なら外れる可能性もあるけれど、

彼女は的確に蟹の口を攻撃して奴の攻撃を止め、さらにはダメージも与えた。

後衛攻撃でこれだけの正確さは凄くありがたいよね。

だけど、蟹は動きそのものは止めずに私達目掛けて走り出してきた。

 

「いやいや、通すわけがないだろ」

 

一瞬、クーハ君が影を残像として置くかのように即座に駆け抜け、蟹の胴体の下を潜り抜けながらその脚を斬り裂いた。

関節部分の甲殻が少ない箇所を連続して斬り裂いたことで再び怯んだ蟹。この隙を突かなくちゃいけないよね。

 

「リーファちゃん! 動きを止めるよ!」

「ハイ、アスナさん!」

 

そこで私とリーファちゃんは詠唱を行い、魔法を発動する。

まずは私が高速詠唱で準備を完了し、水系の拘束魔法《流水縛鎖》を使用して動きを止める。

海中であるこの場所なら、地面だけではなく壁からも流水によるバインドを形成できるから便利よね。

全ての足を絡められた蟹は動きが止まり、バインドを壊そうともがくけれどそれは出来ない。

今度はリーファちゃんの風魔法《封雷網(サンダーウェブ)》が発動されて、多重のバインドに引っ掛かった。

動きが取れなくなった蟹、あとは止めだけど…。

 

「みんな、僕の音楽を聞けぇっ!」

 

リンクちゃんは音楽を奏でた。ハープから奏でられているとは思えないくらい、熱く燃え上がるような激しい音楽。

だけど、それは不快な音じゃなくて、むしろ闘争心を掻き立てていくような感じがする。

そしてHPゲージを見て気が付いた、攻撃力上昇のアイコンが付いている。

なるほど、この音楽の効果は攻撃力UPにあったんだね。

私と同じく、それに気が付いた前衛のハジメ君とルナリオ君、遊撃のクーハ君、後衛攻撃型のシノのんが一気に攻撃を行い、

バインドが破られる直前には私とリーファちゃんも剣を抜いて斬りかかる。

間もなくして、蟹型モンスターはHPが無くなり、砕け散った。

 

戦闘を終えるとメディウムさんが回復魔法を発動して、私達のHPを全回復してくれた。

閉じられていた扉を開いた先は前にも来た御室だけど、以前とは違って水の膜が張られたような扉があった。

 

「もしかして、これが…」

「ええ、この先が海底神殿となっています。ここまでの道のりの眷属達の数よりも多いと思われます」

 

既に神殿にまで敵が到達しているって言っていたから、ここまで来る時よりも敵との遭遇率やリポップ数は高いかもしれない。

 

「みんな、注意して行こうね……だけど、こんな時だからこそ、楽しんで行くよ」

 

私は敢えて笑顔でそう言う。そんな言葉にみんなも笑顔を以て応えてくれる。

うん、いつも通りのみんなだね。そうして私達は水の膜の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

水の膜を抜けた先の海底神殿、そこは海底遺跡とは違ってなにからなにまで綺麗な造りになっている。

1つの汚れも穢れも淀みも無い、光によって中を照らされている。

 

「最奥部に御子様の御室があります。急ぎましょう」

「わたしがナビゲートします!」

 

メディウムさんの言葉を聞き、私達は駆け出す。

ユイちゃんは私の胸ポケットから顔を出し、道順を教えてくれて、そのままに突き進んでいく。

 

当然だけど、私達の行く道をモンスター達が行く手を阻む。

でも、そんなモンスター達を前衛のハジメ君が斬ります、防がれても斬ります、避けられても斬ります、

寄って斬ります、寄らなくとも斬ります、という風に斬って斬って斬りまくっていく。

 

もう1人の前衛のルナリオ君も潰します、防がれても潰します、避けられても潰します、

寄って潰します、寄らなくとも潰します、という風に潰して潰して潰しまくっていきます。

 

さらに遊撃のクーハ君が裂きます、防がれても裂きます、避けられても裂きます、

寄って裂きます、寄らなくとも裂きます、という風に裂いて裂いて裂きまくりです。

 

誰か止めてあげて、MobのHPは0以前の問題よ!

 

一応、シノのんが援護で弓を射て、私とリーファちゃんで攻撃魔法や補助魔法で援護して、

リンクちゃんが音楽を奏でてステータスUPをするけど、思えばMobの蹂躙もそれが拍車を掛けているのかも。

うん、気にしないようにしよう、だってクラーケンの眷属だもんね、考えるのはやめよう。

 

「ママ。パパがこういう時にはこう言えば良いって言ってました」

「キリト君はなんて…?」

「コホン……見給え、Mobがゴミのようだ!」

 

キリト君にはO・HA・NA・SHIが必要みたいだね…。

 

 

「(ゾクッ)な、なんだ、いまの寒気は…」

 

 

取り敢えず、キリト君のことは後回しにして、私達はユイちゃんのナビゲートを受けながら、無双する3人を先導にして先へ進んだ。

 

 

 

魚、貝、蟹、エビ、鮫、イカ、タコ、数十もの水棲型Mobを男の子達が蹴散らし、

ユイちゃんのナビに従ったお陰で特に迷うこともなく最奥部の御室まで辿り着けた。

HPの回復とステータスUPを行ってから、私は部屋の扉を開けた。

そこは広間となっていたけど、中にはその広間を埋め尽くさんとするほどのMobが溢れている。

 

「御子様!」

 

声を上げるメディウムさん。広間の一番奥には以前とは比べ物にはならない大きさの卵があって、

同じく以前のように珊瑚で積み上げられた巣のような物の上に置いてある。

ただ、卵は躍動していて、もう少しで生まれるんじゃないかと思える。

 

「皆様、私を御子様の許まで連れて行ってください。近づくことが出来れば、私の力で御子様を覚醒させることが出来ます!」

「分かりました……ハジメ君、ルナリオ君、私と一緒に武器の解放を…」

「……ふっ、ようやくか。行くぞ、『カミヤリノマサムネ』」

「これだけの数なら、『ロードメテオ』で行くのが良いっすよね」

 

ハジメ君とルナリオ君がSAO時代の武器を取り出して構える、同時に彼らの雰囲気が一気に変わった。

それを感じたのか、クーハ君も雰囲気が一変して2人と一緒に前に立つ。

私もストレージからSAO時代の愛剣『クロッシングライト』を出して構える。

 

「リーファちゃんとリンクちゃんはメディウムさんの護衛をお願い。

 シノのんは援護射撃に集中して、ユイちゃんはシノのんの射撃をサポートしてね。

 それじゃあ3人共……()くわよ」

 

その言葉と同時にルナリオ君の破砕球であるロードメテオが直進してMobの群れを直線に吹き飛ばした。

中型から大型のMobは居ない為、小型のMob達は倒されるのも当然だけど、そのまま吹き飛ばされていく。

それによって切り開かれた道をハジメ君が刀であるカミヤリノマサムネでMobを斬り裂きながら突き進む。

その後ろをクーハ君が小刀である『宵闇』と『常闇』を扱い、二刀流を以てして討ち漏らしを仕留める。

主にそれを繰り返して進む3人の後に続いてリーファちゃん、リンクちゃん、メディウムさん、シノのんが進む。

そして、私は最後尾から迫る敵を蹴散らしていく。

 

「ふっ! しっ! せぇいっ、はぁっ!」

 

寄られば斬る、斬って、斬って、斬りまくる。自分でも驚くほどに速く、疾く、剣を動かすことができる。

まるで神経の全てが研ぎ澄まされたかのような感覚がする。

 

気付けば、既に広間の中央を過ぎて卵のある場所に到達しつつある。

あとは階段などに張り付いているMobを蹴散らして、メディウムさんを卵に近づけるだけなんだけど…。

 

「おおおぉぉぉぉぉっ!」

 

ルナリオ君が雄叫びを上げながらロードメテオを振り回し、円形に敵を吹き飛ばした。

階段部分の敵の数が薄くなると、ハジメ君が鞘に収めた刀をソードスキルの《抜刀》で一閃、纏めて斬り裂いた。

僅かな敵は一瞬で動き出したクーハ君がクリティカルポイントを突き、ほぼ一撃で沈めていく。

それを援護するようにユイちゃんのナビを受けたシノのんの射撃がMobを撃ちぬき、階段に群れていた敵が一掃された。

階段の前に男の子3人で立ち塞がり、その間をメディウムさんが一番奥まで抜けて、女の子3人も壁を務める。

あとは私が到達するだけなのだけど、その道を塞がんとしてMobが溢れてくる。

 

「邪魔、しないでぇっ!」

 

ソードスキル《フラッシング・ペネトレイター》を使用、勢いを付けたままに塞がった敵を薙ぎ払い、到達した。

 

「御子様、お目覚めの時で御座います……我が身を贄として捧げん、故に我が身を糧として目覚めん!」

「「「なっ!?」」」

「「「「えっ!?」」」」

「メディウムさん!?」

 

“贄として”って、“糧として”って、そんな……そこで彼女は私達の方を向くと、微笑みを浮かべた。

 

「お目覚め下さい……バハムート様!」

 

直後、彼女は光を放ち、その身が粒子となって消えていった。

さらに卵が一段と輝くと、一気に罅が入り、心臓の鼓動が聞こえ、卵の殻が砕け散った。

 

 

――ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!

 

 

巨大な咆哮と共に姿を現したそれは……〈Bahamūt the Behemoth Emperor(バハムート・ザ・ベヒモス・エンペラー)〉という名だった。

 

アスナSide Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

ようやく、完成しました・・・最近はなんだか追い詰められ気味です、気を付けなくては・・・。

 

さて、今回はエクストラのフラグを回収し、オリジナルですが『御子』をバハムートにしました。

 

それについての解説が欲しいなと思う方が多くいらっしゃれば、加筆しますのでご遠慮なく申し付けてください。

 

もう一方の巫女さんことメディウムさんは生贄を担当・・・こういうのって大体が女性で巫女ですので。

 

あとはガルオプのルクスについても一部オリジナル設定を追加しました。

 

ご存知の方もいらっしゃると思いますがルクスにはあのエンブレム(・・・・・)らしき物があると思われ、

様々な方面で推測がされています・・・よって、一番有力な説をこの作品では設定としました。

予測できた方々はそれだけでハジメが警戒した理由が分かったと思いますが、心の内に秘めていただけるようお願いします。

 

彼女のフラグは後で回収しますのでご安心を・・・。

 

個人的にユイちゃんに某大佐ネタを使わせたのは・・・ノリです、切羽詰った際の勢いです、キリトは悪くないw

 

そしてアニメ『ソードアート・オンライン』の最新話ですが今回で既に涙しそうになりました、マザロザはウルウルします。

個人的には落ち込んでいた明日奈を抱き締めて慰め、道を示す和人さんマジイケメン!だったんですけどねw

原作の和人も科学方面は学生という身分からすれば十分に異常だと思うw

 

ではまた、疲れました・・・。

 

 

 

 


 
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