No.740632

ALO~妖精郷の黄昏~ 第50話 報告会

本郷 刃さん

第50になります。
ヨツンヘイムでの戦いが終わり、第二幕に移るまでのハーフタイムです。

どうぞ・・・。

2014-11-30 16:31:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6260   閲覧ユーザー数:5698

 

 

 

第50話 報告会

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

「ヨツンヘイムの拠点が、全滅…?」

「バカな、ボスとの戦闘が始まって30分が経ったばかりだぞ…」

 

ヨツンヘイムの防衛拠点であるミズガルズ、北方階段、南方階段、西方階段、東方階段、

これらが陥落したという報告に思わずアスナは呆然として、ユージーン将軍でさえも同じ反応だ。

しかし、それも仕方が無い……将軍の言葉通り、ボスとの戦闘開始報告を受けて、まだ30分しか経過してないからだ。

 

「残存部隊からのメッセージですので間違いないかと。

 戦闘は順調だったようですが、HPゲージを1,2本削ったところで特殊攻撃らしい範囲技が発動して各部隊が大損害を受け、

 そのあとにボス同士による連携技らしきスキルが発動、その連携技で各拠点が一撃で陥落したそうです。

 なお、ミズガルズにおいてはフェンリルの単独だそうですが…」

 

ミズガルズとの連絡を担当していた女性連絡員さんが厳しい面持ちで報告をする。

当然、他の者達、《月光鏡》を通した先に居る各種族領主、ギルドリーダー達も表情は暗い。

だが、そんな中でもアスナはすぐに表情を引き締めると聞くべきことを聞き始めた。

 

「ミズガルズにはハクヤ君達が居たはずですが、彼らも?」

「は、はい。キリト殿を相手に全員で互角に渡り合っていたようですが、

 フェンリルの急襲によって出来た隙を突かれて全滅したと…」

 

キリトを相手に戦うもフェンリルの襲撃で全滅、その報告に一時は空気がさらに重くなるも、

全員でならば抑える事が、もしくは倒すことも可能なのだと思い、安心する。

けれど、アスナだけはそうは思っていなかった。

 

「キリト君を相手に全員で、ですか?」

「はい、全員です。えっと、なにか…?」

「いえ、ありがとうございます。

 (おかしい。いくらあのキリト君が隙を突けたといっても、ハクヤ君達全員を相手に1人で勝つなんて…。

 でもナーヴギアは被れないし……ユイちゃんに聴いておかなくちゃ)」

 

アスナは聞き及んだだけでキリトの様子の変化を察した。

意図的に《接続》を切り離しているため、彼女から彼の様子を知ることは出来ない。

そのことから、キリトの状況をいま最も把握できるのは自分達の愛娘しかいないと判断している。

そんな風に考えていると、少し暗くなっていた作戦本部にやや明るめの声が響き渡った。

 

「いや~、盛大に負けた……って、なんか暗くね?」

「……戦局的に見れば初戦を落としたわけだから当然だろう」

 

キリトに敗北し、セーブ地点であるイグドラシル・シティに戻されたハクヤ達一行がこの作戦本部にやってきたのだ。

負けたにしては明るいハクヤの様に呆れるハジメ、そんな2人のやり取りを他の4人は苦笑して見ている。

 

「お疲れさま、みんな。キリト君はどうだった?」

「いつも以上の強さだったぜ。次も楽しみだ」

「……アイツの力の程も分かったからな」

「相変わらずの滅茶苦茶ぶりでしたよ」

「というかキリトさんのバーサーカーモードなんて久しぶりっすね」

「理性がある分に余計厄介だけどな」

「まぁ、どうにかするしかないさ」

 

アスナは負けたにしては清々しい6人に問いかけ、彼らはそれぞれに応えた。

いつも通りの様子をみせている彼らを見て集まっている者達は少しばかりホッとした。

深刻な様子を見せていればこの場の士気にも関わっていただろうが、彼らはその様を見せない。

そこに10人ほどのプレイヤー達が歩み寄ってきた、ヨツンヘイムでレイドパーティーのリーダーを務めていたメンバーだ。

 

「申し訳ない、まさかこんな短時間で陥落させてしまうなんて…」

「気にしないでください。

 HPゲージを1,2本削ることが出来たのは十分な成果ですし、次の戦闘に向けた準備もしなければいけませんから。

 ボスの行動パターンや技、あとは壊滅時の報告をしてもらえませんか?」

「確かに、まずは次の戦闘だな……報告をさせてもらう」

 

リーダーを務めた責任からか、謝罪を行ってきたがアスナはそれを敢えて流した。

指揮を取る者の責任感を彼女は誰よりも知っている、

それはSAO時代に『血盟騎士団』の副団長として人の命を預かっていた彼女だからこそ分かる。

だからこそ、全てが終わっておらず、ましてや“死”がないこのALOで責任云々を問うべきではないと、アスナは考えている。

この場において一時的にだが指揮官を任せられているアスナが何も問わない以上、周囲が反論することもない。

よって、恙なくレイドリーダー達による報告が行われた。

 

北方のスコルとハティ、南方のガルムとスィアチ、西方のスルトとシンモラ、東方のニーズヘッグとファフニール、

そして中央のフェンリル、以上のボス達の行動パターンと技、連携技と特殊攻撃が報告された。

報告された内容は纏められると即座にメッセージとして各所のプレイヤー達に届けられる。

また、ヨツンヘイムにてボスと交戦中だった残存部隊からボス達が階段に入ると姿が消えたとの報告が上がってきた。

すると、ほぼ同じタイミングでメッセージが入ってきた。

 

『現在の時刻、午後1時をお知らせします。ヨツンヘイム陥落に伴い、1時間後の午後2時よりロキ軍の再侵攻が行われます。

 各階段よりボスが出現すると同時にオーディン軍の神々も出現します。以上のことを踏まえ、次の戦闘に備えてください』

 

 

 

 

「再侵攻……現在の各拠点での戦闘はどんな状態ですか?」

 

メッセージを読んだアスナは即座に各拠点の戦闘状況を訊ね、それぞれが答えていく。

未だにMobの侵攻は続いているが、リポップ率が減少しているとのこと。

レプラコーン領とスプリガン領では戦闘が続いており、どちらも拠点を落とさないで拮抗を保っているという。

一方、ウンディーネ領は状況が違う。

 

『こちらは少々厳しいです。クラーケンとの戦いは未だに本格化しておらず、スプリガン領との戦いが展開中ですね。

 クラーケンは水棲のMobを前面に押し出し、ロキ軍の攻撃によって徐々に押されています』

「そうですか……アルン、並びにイグシティに居るプレイヤーからウンディーネ領への援軍を編成しましょう。

 ヨツンヘイムから戻った人達はこのままアルン周辺の防衛に向かわせて、

 まだ残っている人達には階段を通るか『転移結晶』を使用して戻ってきてもらいましょう」

「うむ、それがいいだろう」

 

ウンディーネ領主のアリアからの報告を聞いたアスナは即座に提案し、将軍が賛同する。

現在において適切な判断といえるため、周囲も反論はない。

早急に部隊編成が行われると部隊は対クラーケンの援護部隊と対スプリガン領の迎撃部隊として派遣された。

また、ヨツンヘイムより帰還したプレイヤー達の報告により、ヨツンヘイムがムスペルの炎に焼きつくされていることが判明した。

 

「ふぅ……どういう展開になるか掴めない以上、後手に周るしかないのは厳しいですね」

「それも仕方が無いだろう。だが、次はこちらにも援軍が来るのならば少しは戦い易くなるだろうな」

「そうですね…あれ、またメッセージ……えっ!?」

「む、どうした?」

 

小さく息を吐くアスナに将軍も同意する。

さすがに押されているこの展開をなんとしても打破したいのだから、2人の感情も当然のことだろう。

そこに届いたメッセージはある意味で驚くべき相手からだった。

 

「キリト君から、です…」

「なん、だと…」

「え、マジでキリトから…?」

 

まさかの人物からのメッセージに将軍だけでなくハクヤも驚愕する。

キリトと敵対しているいま、戦闘中に話すことはともかく、

ハーフタイムとも言えるタイミングでメッセージが送られてきたためさすがに驚いたのだ。

とはいえ、アスナは前日の夜にキリトと端末を通して言葉を交わしていたため、すぐに気を取り直してメッセージを読んだ。

 

『愛しのアスナへ。

 初戦は俺達が取らせてもらった、次の戦いも俺達が取るつもりだから心しておくように。

 さて、ここからが本題だ……1時間後の再侵攻について、俺から情報を与えておく。

 まず、四方階段を制圧したボス達は同じくアルン平原の四方階段から同時刻で出現する。

 また、スプリガン領を除く8つの領地へ向けて海上から船が侵攻し、陸へ到達すると船からMobが出現するので注意するように。

 なお種類は巨人族と死人、船は『ナグルファル』だと言っておこう。

 ロキ、フェンリル、ヨルムンガンドはアースガルズに出現すると思うが、何処に出現するかは確証がないのであしからず。

 あとはシルフ領南方のトゥーレ島へ行くことをおススメする、リヴァイアサンと彼の御子に関するクエストが発生するはずだからな。

 信じるか信じないかはそちらの采配に任せるよ、それじゃあ次の戦いで』

 

情報漏洩とも取れる本来ならば信じられないようなメッセージだが、読み終えたアスナは一息吐く頬を赤く染め、

 

「やだもぅ、キリトくんてば~/// 愛しのアスナ、だなんて///♪」

 

嬉しさと照れを含ませてそう言った。

その様を見て友人であるハクヤ達は苦笑し、それ以外の人物達は呆れるか驚くといった様子、当然の反応だろう。

僅かな時間で悦に浸っていたアスナだが、気を取り直すとすぐに真剣な表情に戻った、早業である。

 

「さて、まずはこの情報をどう判断するか、ですね。私としては信頼できると思います」

「……情報の信憑性は高いだろうな」

「その根拠は?」

 

即座にキリトからの情報を信じたアスナとハジメ、他のアウトロードのメンバーも同じ反応だ。

将軍としてはなぜ敵からの情報を信じられるのか、と思うところがあるためにそれを問う。

しかし、アスナもアウトロードの面々も即答した。

 

「「「「「「「キリト(君)(さん)、だからな(ですから)(っすから)」」」」」」」

「……ハッハッハッ!いや、その通りだな」

 

『覇王』と呼ばれるキリトは正面から相手を叩きのめすことは勿論、策を弄することも厭わない。

情報戦は当然ながら、罠を仕掛けることもあり、奇襲とて行う。

その一方で彼自身は冗談ならばともかく嘘を吐くことはあまりない、特に恋人のアスナと愛娘のユイにはそれが顕著だ。

よって、キリトの仲間であるアウトロードは嘘ではなく、信じるに値する情報だと判断した。

その考えをある程度は察することが出来たユージーンは納得したのである。

 

そして、キリトからの情報を元にヨツンヘイムでそれぞれのボスと戦闘したプレイヤー達の中で、

もう一度戦っても良いという者達を中心とした部隊も再編成され、午後2時までに階段へ派遣されることになる。

また、現在アースガルズの主要都市である『ユーダリル』においても、

対ロキ、対フェンリル、対ヨルムンガンドの部隊を編成が行われる。

さらに、戦闘が激化していないアインクラッドから部隊を各領地へ派遣し、沿岸部からの侵攻に備えることが決定した。

 

「アインクラッドでの戦闘は相変わらずのMobによる攻撃だけみたいですね」

「ああ。プレイヤーの姿も少しは確認されているが、おそらくは世界樹侵攻に戦力をほぼつぎ込むのだろう」

「未だにスプリガン領からそれらの戦力が現れていないこともありますからね」

 

唯一の不安要素はアインクラッドであり、アスナも将軍も他の幹部達それを懸念している。

キリトからの指摘もないため、戦力減らすべきか、しかしスプリガン領に全ての戦力が居るとも限らない。

難しいところなのだ……そして、不確定要素はもう1つある。

 

「まぁそれに関しては戦闘時に臨機応変に対応するしかないとして、問題はトゥーレ島の件ですね。

 シルフ領ですから、やはりシルフのみなさんに任せるのが妥当だと思いますけど…」

「だが、キミ達は以前にあの島の近海にある神殿でリヴァイアサンに遭遇したのだろう?

 俺としてはキミ達が適任だと思う。

 それに再侵攻の午後2時までに戻れば良いだろうし、間に合いそうもなければ途中で戻るのもいいだろう。どうだろうか?」

 

アスナとしては指揮官権限を委譲されている身であるため、現状で作戦本部を離れることはあまりしたくない。

一方、ユージーンは以前にも対応したことのあるアスナ達が対処する方が良いと感じた。

また、アスナ達であれば緊急の事態にも素早く対処することが出来、

少数精鋭での行動で身内ということもあれば成果も期待できるからである。

その旨を伝え、各領主達にも意見を聞いてみれば賛成した。

 

「分かりました。パーティーを組んでトゥーレ島へ向かい、情報を確かめてきます」

 

アスナは敢えて向かうことを決めた。

当然ながら領主達の中には打算的な者が居る、サラマンダー領主のモーティマーとインプ領主のクラウドだ。

キリトに対して信用が無いわけではないが、敵対状況にある中で与えられた情報を容易に信用するわけにもいかない。

よって、身内の情報は身内で確認しろ、それが2人の領主の考えである。

アスナもそれを理解しているからこそ、愛する男の情報が正しい物と判明させようと考えたわけだ。

 

「では、ハジメ君とルナリオ君とクーハ君に同行してもらいます。

 あとの3人はアースガルズに居るメンバーから選びますね」

「ああ、この場は任せてくれ。元々、キミだけに任せるつもりはないからな」

「お願いします。可能な限り早く済ませて戻ってきますね」

 

ユージーン将軍や幹部連に作戦本部を任せ、アスナは準備を整えるためにこの場を離れた。

 

 

 

 

イグシティにあるほうの自宅へ戻ったアスナとユイはハジメとルナリオとクーハに同行を願い、彼らは快く承諾した。

また、メッセージを飛ばしてハジメのパートナーであるシノン、ルナリオのパートナーのリーファ、

クーハの双子の妹であるリンクの招集を行った。

 

「アスナちゃん、3人が来る前にキリトについて話しておきたいことがあるんだ」

「キリトくんのこと、ですか?」

「ああ、割と…っていうか、かなり重要なことだな」

 

付いてきていたシャインが真剣な様子で声を掛け、それがキリトについてということもあり、

アスナと彼女の傍に子供の姿に戻って休憩しているユイも心配げな表情を浮かべる。

 

「取り敢えずは命に係わるようなことじゃないから安心してくれ。

 ただ、なんて言えばいいか……元のキリトに戻るにはアスナちゃんの力が必要だと思う」

元のキリトくんに戻る(・・・・・・・・・・)って、どういうことなんですか!?」

 

安心しろという言葉を聞いたにも関わらず、アスナは動揺するように声を荒げた。

戦闘中でも動揺することが少なく、そんなことがあってもそれを滅多に表には出さない彼女が表に出してしまう、

彼女にとってキリトのことはそれほど心の深いところにあるのだ。

 

「……落ち着け、アスナ。シャインが説明できない」

「っ、ごめんなさい…」

「いや、俺こそいきなり悪かった」

 

ハジメが宥めたことで落ち着きを取り戻したアスナはユイの隣に座り、シャインも言い方が悪かったのだろうと頭を下げた。

そして、シャインはキリトから聞いた言葉で得た確信を話す。

 

「いまのキリトは精神的に箍が外れている状態にあると分かった」

「なっ、おい、それって…」

「……本当、なのか…?」

 

シャインの言葉にハクヤとハジメは困惑と驚愕を織り交ぜた表情で呟いた。

 

「キリトの性格的な変化、それにアイツ自身にも確認を取った。間違いないさ」

「そう、ですか…」

「大丈夫、っすかね…?」

「う~ん、初めてのこと、だからな……どんなものか…」

 

ハッキリと言われ、ヴァルとルナリオとクーハも困惑と動揺を織り交ぜた表情を浮かべる。

そんな中、少々話についていけないのが重要であるはずのアスナとユイだ。

 

「あの、どういう意味か説明してもらっても…」

「さすがについていけないです~」

「おっと、ごめんな。先にそれを話さないといけないよな」

 

まずは話の主軸である事柄について説明することにした。

 

「“箍が外れている”っていうのは、あくまでも表現の1つなんだ。

 一般的に例えるなら“火事場の馬鹿力”、あとは“脳の枷を外す”とかだな。

 ただ、“火事場の馬鹿力”は知っての通り、一時的なリミッターの解除で極僅かな時間に力が発揮されることを言う。

 それに“脳の枷を外す”っていうのが爆発的な力を発揮させる代わりに肉体に掛かる負担が激しく、

 幼い子供がそんなことを事故的にとはいえしてしまえば肉体が破壊される。

 その一方で今回のキリトの“箍が外れている”なんだが、これは前者2つの中間的なものでさ、不安定な状態のことなんだ。

 キリトがアンダー・ワールド(UW)に居たのは2年間、アスナやユイちゃんと離れていたことで緩まった鎖と枷が外れ、

 さらにはUWでの戦争で自分自身の奥にある闘争本能を刺激され、抑えが利かなくなっちまったわけだ」

 

これを要約するならば、キリトは大事な人と離れることで枷が外れ、封じていた戦いへの歓びを解放されたということだ。

 

「本当に、キリトくんの体に影響はないんですか…?」

「ああ、かなり単純に言えば精神的に抑えが利かなくなっているだけだからな。

 とはいえ、それを抑えるというか、治めるためにはキリトが満足しなけりゃならねぇ」

「もしかして、キリトくんの目的の1つは…」

「多分、俺達と戦って闘争本能を満足させることで治めて、箍を嵌め直そうとしているんだろうな」

 

幾つか真意を隠しているだろうキリトの目的の1つが明らかになり、アスナは少しだけホッとした。

なにも解らなかったが、少しでも明らかになる方が安心するのだ。

 

「……つまり、キリトがロキ側を選んだ理由は他の目的に加えて私達とも闘えるから、ということだな?」

「さらに言うなら僕達以外にも強いプレイヤーは居ますし、強者には困らないということでもありますね」

 

ハジメとヴァルもキリトの意図の1つを理解し、納得した様子である。

 

「それじゃ、俺達も全力かつ本気でいくべきだよな」

「そういうことになるっすね、楽しみっす」

「キリトさんと本気で戦うのか……なんか楽しくなってきた」

 

ハクヤは獰猛な笑みを、ルナリオは心底楽しそうな笑みを、

クーハは初めての本気の戦いに若干の緊張を含ませながらも笑みを浮かべる。

彼らもまた、UWで自身の闘争本能を刺激された者なのだ。

 

「まぁそんなわけで、俺達はキリトと戦うに当たって1つ知っておきたいことがある。

 キリトがどれを使ってALOにフルダイブしているかだ……まぁ、予想はつくけどさ」

「どれって、アミュスフィアじゃないとすれば、ナーヴギアじゃないのか?」

「……ナーヴギアの使用は7月に入った時に禁止されるようになっただろ、使えば逆探知されて罰金になる」

 

クーハはアミュスフィア以外のフルダイブマシンといえばナーヴギアだと判断したが、

ハジメが法的に使用不可となったことを伝えることでその線は無くなった。

 

「アミュスフィアじゃないとして、ナーヴギアでもなければ………っ、まさか…」

 

そこでアスナはある考えに至った。

『ナーヴギア』と『アミュスフィア』、医療目的の『メディキュボイド』を除けば、あの(・・・)フルダイブマシンしかないと。

 

「アスナちゃんは気付いたか…」

「ええ、確かにアレ(・・・)なら…。でも、そう簡単に使って良い物じゃないはずだけど…」

 

彼女が考えに至った物こそ、シャインも考えた物である。

だからこそ、確認を取る為にアスナはユイに言葉を掛けた。

 

「ユイちゃん。いますぐキリトくんのことを調べて、お願い」

「分かりました!」

 

ユイはすぐさま集中すると思考をネットの海へ送り出した。

 

父であるキリトのダイブ状況を確認し、アミュスフィアとナーヴギアを使用していないことを認識。

今度は本人の現在箇所を捜索、キリト(和人)の携帯端末の場所を特定してその場所を把握。

推定されるフルダイブ状況を理解し、どのマシンを使用しているのかを特定。

それをアスナ達に報告する。

 

「ママ、みなさん……パパの現在地とフルダイブ状況を特定しました」

「ユイちゃん、その言い方ってことは…」

 

アスナはユイの言葉と雰囲気を感じ、自分の予想が間違っていなかったことを察した。

 

「パパは現在、防衛省が所有するビルでフルダイブしています。

 使用しているフルダイブマシンは……ソウル・トランスレーター(STL)です」

 

 

 

 

「そろそろ、アスナ達が俺の状況に気付いた頃合いかな…」

 

燃え盛り、焼き尽くされていくヨツンヘイムを、街の瓦礫に座りながら彼、キリトは呟きを漏らした。

自分の現況もある程度は察してくれただろう、同時にそう考えながら。

 

「こんなところに居たのかい」

「なんだ、クリスハイトか…」

 

キリトに声を掛けたのは現実世界でも知人兼協力関係にある菊岡誠二郎ことクリスハイトだった。

彼はぞんざいに扱われたことに苦笑しながらも話しを続ける。

 

「随分な言い方だね。キミがSTLでダイブ出来ているのは僕のお陰だというのに」

「十分に感謝しているさ。STLでダイブさせてほしいと手を貸してほしいという俺の我儘をきいてもらったんだからな」

「はは、さっきのは冗談だよ。僕達の方こそ、キミには大きな借りがあるからね。

 UWのことも、『A.L.I.C.E』のこともね。これくらいのことはお安い御用さ」

「そう言ってもらえると助かる」

 

言葉を交わしていく2人だが、クリスハイトはふと思ったことを口に出した。

 

「それにしても『神々の黄昏(ラグナロク)』ねぇ…。これも彼の茅場先生が関係しているのかな? キミはどう思う、キリト君」

「さぁな……ただ、いくら俺に協力してくれているとはいえ、あまり踏み込むようだと容赦はしないぞ?

 そこら辺は心得てくれていると思うが…」

「は、はは…。これについては聞かないことにするよ…」

 

興味本位か、職業柄か、それでもクリスハイトは訊ねたことを少々後悔した。

キリトの機嫌を損ねるのは非常に危ない、特にいまのキリトは、だ。

 

「それよりも、キミ自身は大丈夫なのかい? 安岐君から聞いていたけど、少しばかり様子が変だったからね。

 まぁ、彼らと戦ってからは落ち着いたようにも見えるけど」

「軍属の看護師である安岐さんは分かるがお前にまで気付かれるなんてな……アスナ達にも隠し通せていたんだが…。

 取り敢えず、割と本気のアイツらと戦ったことで少しは落ち着いたよ。

 このまま全力かつ本気で戦っていれば、完全に落ち着ける」

「なら心配は要らないようだね。それじゃあ、僕はそろそろスプリガン領に向かうとするよ。健闘を祈るよ、キリト君」

「アンタもな……あと、あの人(・・・)の援護も頼む、初心者だからな」

「勿論だよ」

 

クリスハイトは転移結晶を取り出すとそれを使用してスプリガン領の主都へと転移した。

その場に残ったキリトは瓦礫から飛び上がるとそのままウルズの泉へと降り立った。

 

「さぁ、神々と巨人の戦争は第二幕へと舞台を変える。アンタ達も上手くやってくれよ」

 

笑みを浮かべて泉に声を掛ける。

そこでは美しき3人の女性が微笑んでおり、さらに泉から巨大な影が現れ、キリトはさらに笑みを深くした。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

今回はハーフタイム的な話として、サブタイを報告会としました。

 

ナーヴギアの使用も不可能となり、少しばかりピンチなハクヤ達ですがミズガルズではまだ全力ではないのでご理解くださいw

 

キリトはなんとクリスハイトに協力を頼んでいました、この2人が組むと結構厄介だと思うのは自分だけではないはず。

 

次回はオリジナルクエストでリヴァイアサン関連になります、エクストラであった卵こと御子をオリジナルで登場させますよ。

 

アニメの『ソードアート・オンライン』最新話ではキリトさんが《魔法破壊(スペルブラスト)》をやりましたね。

さすがはキリトさん、エクスカリバーも使用しての《二刀流》もあり、貫録がありましたw

 

では次回をお楽しみに・・・。

 

 

 

 


 
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