No.714857

義輝記 星霜の章 その十七

いたさん

義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい。

2014-09-09 22:35:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:788   閲覧ユーザー数:697

【 次の一手 の件 】

 

〖 徐州 下邳 曹操軍陣営 中央 にて 〗

 

日が天に高く昇る頃、地上も、燃え盛る火が……地面を舐めるように徘徊をする。 晋軍に放った火矢が種火となり、罠に嵌まった哀れな獲物を味見していた。 先に『前菜』である天幕を焼き、次の『主食』を狙い始める。

 

濛々とした黒煙が辺り包み込み、踊り狂う『炎』が、曹操陣営であった物を駆け回る。 鳥黐(とりもち)で拘束、強烈な悪臭で五体が麻痺し、混乱のあまり将棋倒し状態になった哀れなる者達を、優しく抱く………。

 

晋兵「だ、誰かぁ────────!」

 

晋兵「死にたく─────!?」

 

恐怖のあまり叫び続ける晋兵達を、たおやかな焔の手で……二度、三度撫でると……安心したかのように……目を閉じる。

 

全員の寝顔を確認した……『炎』は、最後の仕上げとばかりに、紅蓮に棚引く大火焔の布団を用意して、全ての者を覆い隠した。

 

ーーーーーー

 

華琳「桃香! 急いで周辺の残存兵、及び延焼の確認、消化活動をなさい! 春蘭! 五万の兵力を指揮し、先行している部隊の救援、及び敵本営を撃破せよ!!」

 

春蘭「はっ! お任せを!!」

 

桃香「はいっ! 鈴々ちゃん! 季衣ちゃん! 一緒にお願い! 猪々子ちゃんは残存兵力の確認を!!」

 

鈴々「桃香お姉ちゃんに、付いて行けばいいのだなぁ!?」

 

季衣「うん! 行こう桃香ちゃん!!」

 

猪々子「任せておきなぁ……て、アタイの活躍これだけぇ!?」

 

華琳「え~とぉ……麗羽はどこ!? 麗羽に命じたい事が………」

 

曹兵「袁将軍は、別働隊を率いて敵軍に向かっております! その数三万!」

 

華琳「………人が命じる前に行動するなんて、いつの間に鋭くなったのかしら。 多分……秋蘭も付いてくれているから大丈夫だと思うけど……」

 

ーーーーー

 

華琳「朱里! 雛里と共に、貴女達の部隊で負傷兵達の収容、看護を!! 別の離れた天幕に、流琉が一刀達の看病をしているから、合流して指示を受けなさい!! 真桜、沙和は朱里達の護衛!」

 

朱里「わかりました! 至急とりかかりましゅ!」

 

雛里「あわわっ! か、一刀さんがぁっ!」

 

華琳「それから……今回の策は大成功よ! 予断は……まだ許さないけど、罰で死ね事は、これで無くなった! ……良かったわね、二人共」

 

『あ、ありがとうございましゅ~!!』

 

真桜「あぁ~華琳様? ウチらも……これで………」

 

沙和「臭いがキツいのぉ~!!」

 

華琳「貴女達は、今から兵に命令し、湯を沸かすようにしなさい。 身体を拭くだけでも違うわ? 今回の沙和の隊にも同様の処置を!!」

 

真桜「流石ぁ大将! 話がぁ─よぉう分かるぅ!!」

 

沙和「聞いたか蛆虫共ぉ! 華琳様が、腐敗臭のする身体から、加齢臭のする身体に磨きを掛けろとの命令なの! しっかり身体を拭いて、華琳様に蛆虫共の忠誠をお見せしろなのぉぉ!!」

 

『サー•イエー•サー!!!』

 

華琳「それと………斗詩! 貴女は別の要件をお願いしたいの!」

 

斗詩「はい! どんな要件でしょうか?」

 

華琳「貴女に………一刀を任せたいの………」

 

斗詩「はっ? …………はいっ!?」

 

◆◇◆

 

【 鬼道雪……始動 の件 】

 

〖 徐州 下邳 下邳城 にて 〗

 

《 晋軍と曹操軍がぶつかる数日前……… 》

 

 

曹兵長「立花様! 皆、集結致しました!」

 

道雪「分かりました! 案内をお願いします」

 

曹兵士長「はっ! 此方で御座います!」

 

ーーーーーー

 

道雪「私が董仲穎の将『立花道雪』と申します! 以後お見知り置きを……」

 

道雪は、『失礼ですが……この体勢で挨拶を……』と、車椅子『黒戸次』の上より頭を下げる。 

 

道雪の眼下には、曹兵二万が………不安げな表情で見詰めていた。

 

曹孟徳配下、彼らの上官に当たる『夏侯元譲』を、難なく動きを封じる『天の御遣い』にして『鬼』! 

 

その者が、わざわざ『曹操軍の荷物』と言われる、弱兵の自分達を集めた理由が判断付かなかった。 どのような、ムチャクチャな命令をしてくるか不安もある。 怯える事は………当然の事だった。

 

道雪「私が曹孟徳殿にお願いして、貴方達を集まって貰いました! まず、貴方達に問い掛けましょう! 貴方達が活躍できない理由……私に教えて頂きませんか? 別に叱るつもりはなど、毛頭ありませんので御自由に………」

 

道雪が問うと……集まった兵達が様々な理由を述べ始めた。

 

ーーーーーー

 

『 心に『恐怖』と『後悔』が混ざり合い、戦いが出来なくなった者 』

 

曹兵「はっ、はいっ! わ、私は………数々の戦いで……戦から逃げ出したり、功を立てた覚えも無い弱卒兵……。 元譲様の訓練にも付いて行けず、孟徳様の信頼にも応えられない……不忠者なんです……」

 

曹兵「はぃ……て、手柄を挙げたいので…ですが、戦うのが怖くてならないのです! いつ、殺されるか……残された者はどうなるのか? それを、考えると……身体が動かなくてぇ…………!」

 

ーーーーーー

 

『 身体の欠損の為と……原因を示す者 』

 

曹兵「私は………ほらっ、ご覧の通りでして……手首が無いんです……」

 

曹兵「……前の戦で片腕を失いました。 それまでは、強いと言われ……いい気になっていたのですが……。 今では、馬鹿にしていた者でさえ簡単に負けてしまい………情けない事でございます!」

 

ーーーーー

 

次々に自分が弱い理由を、口々に言い始める曹兵達。

 

それを、優雅な手振りで抑え、道雪が口にする。

 

道雪「貴方達の苦労は……だいたい分かりました! されど、逆に聞きましょう! 貴方達の中で……『下半身が麻痺』している御仁は、いらっしゃるでしょうか!?」

 

 

曹兵『………………………?』

 

 

道雪は……ゆっくり辺りを見渡すが、誰も返事をしない。 

 

道雪「誰も居ませんか……。 それでしたら、貴方達は私より遥かに強い筈なんですよ? 私の足は……ご覧のように、動く事などありませんので……」

 

道雪は、自分の足をゆっくりと撫でる。 

 

 

曹兵『────────!』

 

 

彼女が……何故、移動する椅子に座っているのかを、始めて知る者も勿論、知っていた者も……改めて愕然とする。

 

余りにも……彼女の動作が自然の為、その事を忘れていたのだ!

 

道雪「私は……子供の頃、雷に打たれ……両足が動かなくなりました! 勿論、子供といえど武人の端くれ! 私を打ちすえた雷に、一太刀を浴びせ撃退しました! お陰で命長らえ……貴方達との会話が楽しめますが……」クスクス

 

道雪の話を聞き、ある者は驚き、ある者は疑念を抱き、またある者は……可愛いらしい笑顔に魅せられ、顔を赤くする。

 

道雪「貴方達は、自分の意のままに動ける! これが、どのような幸運であるか! 戦場の真ん中で、置き去りに去れた私と貴方達。 生き残れる確率がどちらが高いのかは、お分かりのはずですが?」

 

曹兵「し、しかし……私達は、他の兵より見放された弱兵ですよ? 戦の功も立てた事が無い……欠陥兵なんですよ………!!」

 

曹兵は、力無く……自分達を蔑んだ……。 幾ら動ける足が有っても『逃走する事』を目指している!! 逆に足が無い方が良さそうだ!

 

道雪「私は……そうは思いません! 貴方達こそ真の強者! 貴方達が弱いのは、貴方達の所為(せい)ではありません! 貴方達を率いる将の励ましが、少ない為だと愚考致します!!」

 

曹兵「──────!?」

 

道雪「私は思うのです───!」

 

道雪は、力強く励ますように……皆に語る。

 

『貴方達が大怪我を負った。 だけど、こうして生きているのは、貴方達の対応が的確だったからではないですか! 怪我の治療に精通していたからこそ、このように活躍できるまで、身体の力が戻ったのではないですか?』 

 

『今まで手柄が立てれなかった。 それは、機会に恵まれなかったから! 同じ将の下ならば、攻めも守りも同様な事が多いから、一部の役割の者に手柄が集中するのは当たり前の事! 

 

されど、功を焦るのは愚の骨頂! 生きてこそ……立つ瀬があるのです!』

 

『貴方が死んだら家族がどうなる? それを心配するのは当然です!! 兵に後の心配を抱かせて、戦わせるなど言語道断!! 私が孟徳殿に掛け合い、もしかの時には、安心して貰うよう動くまで!!』

 

曹兵「ーーーーーーーー!!!」

 

道雪は、最後に述べる!

 

道雪「貴方達が、私に付いてきてくれるなら、私は自分だけ安全な場所には居ません! 私を『 輿 』に乗せて、皆と共に突撃します!!!」

 

曹兵「なっ─────!!!!!!」

 

流石に────これには全員驚愕を隠せない!!

 

『天の御遣い』……洛陽の董仲穎配下。 もしかすると、曹孟徳様より上の立場の者が、弱卒呼ばわりされている自分達に、身柄を預けるだと!?

 

曹兵達は思う……。 ここまで我々を厚遇するのは何の為か?

 

その答えは直ぐに出た! 

 

我々の本分を全うさせる為、我々の力が必要なのだ!! 

 

『 士は己を知る者の為に死す 』という! 

 

 

ならば─────尽くしがいのある将に、命を預けよう!!!

 

───────────────────

 

こうして、曹孟徳配下の弱卒は………立花道雪の指揮を受け、奮戦を続けるのである。 後に……道雪が去り……隊が解散された際には、どこの将も……道雪の采配を受けた、元弱卒達を取り合ったという。

 

◆◇◆

 

【 噂の鬼道雪 の件 】

 

〖 徐州 下邳 晋軍陣営 にて 〗

 

伝令兵「で、伝令! 対岸に渡りました晋軍ですが………」

 

韓馥「遅かったの! まぁ……それだけ分捕りが多く、皆が奪い合ったという事だろう。 ぐふふふふ………」

 

伝令兵「ぜ、全軍………壊滅しましたぁぁぁ!!!」

 

韓馥「ぐふっ!! グホッゲホッ!? 馬鹿な! 儂等の兵のかなりを送り出したのだぞぉ!? 三十万の大軍なんじゃぞぉ!!!」

 

伝令兵「しかし、これは………事実でして………」

 

韓馥「じゃかましい!! もう一度確認して参れ!!!」  

 

伝令兵「伝令!! 急進な話です!! 是非、私の話を先に!!」

 

韓馥「うむぅ! 聞いてやろう……。 ゆっくりと話せ!!」

 

伝令兵「此方に……敵の軍勢が押し寄せてきます!! その数……二万!!」

 

韓馥「何を恐れるに足る事があるか! 我らは十万ぞ!!」

 

伝令兵「し、しかし……異様な迫力と妙な行動をする軍勢でして………」

 

韓馥「もういいっ!! 何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も役に立たない奴らめ!! 儂が出陣する! 儂の力と…この食べ物(おにぎり)があれば!!」

 

韓馥は、全軍出陣の命令を出した!

 

★☆☆

 

道雪「私達の軍勢は、闇雲に突っ込み……敵を倒すだけでは勝てません! 味方の援軍は必ず来ます! 包囲されないよう、私の指揮に従うように!」

 

曹兵『はっ!!』

 

『輿』の上より、道雪は指示を与える。 『黒戸次』は約束通り陣中に置いてきた。 この者達に生死を預けて………。

 

曹兵には、全員鉢巻きを渡し、味方である事を示すため結ばせる。

 

ただ、道雪の輿を担ぐ者や輿を守護する者達は『赤』、それ以外は『白』を結ばせて、簡単な役割も分かるように施してあるのだ。

 

曹兵達は、左手に楯を持ち右手に剣を持つ。 

 

敵勢発見の報が入ると『エイトウ! エイトウ!』と叫び気合いを入れる!

 

道雪「来ましたね……! 全員、無駄死に許しません! 生きて名誉を預かり皆を見返し、私達こそが強者である事を示すのです!!! 突撃を!!!」

 

敵勢が怒濤の如く襲撃して来るのを、厚い防壁と化して迎え撃つ道雪勢!!

 

立花道雪……『鬼道雪』『雷神』の二つ名を誇る名将の活躍が始まった!

 

★★☆

 

〖 徐州 下邳 曹操軍 河川付近 にて 〗

 

華琳「少し……話をさせて貰っていいかしら?」

 

歳久「……御自由に」

 

義久「としちゃん、駄目よ~! そんなに素っ気なくしちゃ~!」

 

紹運「申し訳ない! 急ぎの指示だけ済ましてきますので──!」ダッ!

 

家久「丁度終わったから……いいよ!」

 

義弘「こっちも終わり──っと!」

 

宗茂「あれっ? 皆さん……何で集まっているんですか?」

 

ーーーーー

 

『天の御遣い』……大友勢と島津勢は……黄河に橋を掛けている。 勿論、本格的な橋は掛けるには、時間と費用がいるために『船橋』を繋ぐように準備している。

 

小船を対岸から繋げ、その上に板を敷いて多数の人員を渡す方法。 やり方は

簡単たが、準備にかなり手間取った。

 

晋軍も此方を攻める際、船を利用したが策の為に破壊した。 後で考えれば、近隣の船が多数あるはずで、損害賠償の費用も掛かるが、船の調達がかなり遠い所まで行かないと集まらない!

 

修理出来る物は修理、変わりになる物が有ればそれをと……臨機応変で作っていたのだ。 そんな事で八割方出来て、今に至る訳だが………。

 

ーーーーー

 

華琳「立花道雪……私は彼の人物を……よく知らないわ。 ただ、分かるのは春蘭が初見で『鬼』として恐れ、私としても……対面して……かなりの武人として分かるわ! しかし、具体的な事をもっと知りたいのよ!」

 

歳久「……何です? それは道雪殿を臣下に欲しいと……?」

 

宗茂「駄目ぇ! 絶対駄目ですぅよぉ!!」

 

華琳「それが……一度命じてみたけど……丁寧に辞退されたわ。 不本意だけどね……」

 

……………華琳は、悲しそうな顔で呟く。

 

華琳「弱卒と呼ばれた彼らを猛者に変え、その者達の為に私へ直談判する胆力! そして春蘭を恐れさせる器! もし……彼女が居れば、私の国は更に栄えるのに………残念よ………」

 

『それは───元々から無理な話だ!』

 

華琳「………どうしてなの、紹運殿?」

 

紹運「義姉上の名前の『道雪』……それが示している!」

 

華琳「……………………! まさかっ!」

 

紹運「流石だな。 その言葉だけで気付くとは……」

 

義久「お姉ちゃん、わかんなぁ~い!!」

 

義弘「………正直……分かりません!」

 

宗茂「………………」

 

紹運「お前は分かったのか? 宗茂?」

 

宗茂「え~とぉ………多分と……しか………」

 

紹運「なら申してみよ! お前の母の事だから、お前が言うのが筋だ!」

 

宗茂「そ、それなら、失礼しまして……コホン」

 

………宗茂は、改まり推測を説明する。

 

『我が道雪の名は、《道》に被さる《雪》と書きます。 

 

その意味を考えれば道に落ちた雪は、その場所に溶けるまで居続けます。 

 

それを踏まえれば、一度その御家に仕えれば、節度を持ち合わせ、他家に乗り換えせずに生涯仕えたよ!!………と読み説けれます!』

 

歳久、家久「──────!」

 

宗茂「ど、どうでしょうか!?」

 

紹運「正解だ! その意味合い通りだ!」

 

宗茂「良かった!!」

 

義弘「なるほど─────!」

 

義久「……………う~ん?」

 

華琳「やはり……。 まったく貴女達といい道雪殿といい……。 颯馬の下には名将、勇将、知将と勢揃いしているのに。 もったいないわね……この大陸を制覇しても……まだ充分お釣りが来るのに………」 

 

義久「でもねぇ~私達も何時か、帰らなきゃ行けない身だもの~。 大陸の事は大陸の人に任せる~! それが一番じゃないかしらぁ~?」

 

華琳「ふふふっ………確かにね。 仕事を途中で帰られたら、私達ではどうしようもない! それに、私達が原因の大陸争乱に、何時までも御遣いサマの力を借りたままでは、シャクで仕方が無いわよ!」

 

華琳は溜め息をつき、気分を切り換えし……別の話を始めた!

 

華琳「しかし……大丈夫なの? 二万の兵を率いて数倍の敵に挑むなんて! 幾ら彼らを使える兵に変えたと言えど、数の差は歴然!! 春蘭や麗羽が援軍に向かっているけど………!?」

 

歳久「……ハッキリと言いますが……愚問です! 立花道雪……あの将は敵に回すと恐ろしいですが、味方になれば……これほど頼もしい者はいません!」

 

義弘「散々酷い目にあったもんねぇ~!」

 

紹運「私達の自慢の義姉上だからな! まぁ……あの義姉上が、世に恐れるモノなど三つしか無い筈だが……」

 

華琳「────! 教えなさい! 是非聞きたいわ!!」

 

歳久「僭越ながら………聞きたいですね?」

 

全員の好奇の目が………高橋紹運に注がれる! 

 

紹運「三つの内、一つしか言えん! 『私達家族を失う事』だ!」

 

『な~んだ!』と言う空気と『頑張らなければぁ!』と燃える闘魂に分かれる。 多数と一人と言う……かなり差がある結果だが。

 

紹運は……その後、貝のように口を閉ざし……どんなに請われても……何も言う事はなかった。

 

ーーーーー

 

その後、持ち場に戻る途中……紹運はブツブツと呟く。

 

紹運『───言えるかぁ! 弱みが『雷』と『颯馬に嫌われる事』を心配しているなんてぇぇ!! そんな乙女らしい理由だと知られ、私が漏らしたとバレたらぁ…………義姉上からの強烈無比の罰があぁぁぁ!!!』ガタン!

 

宗茂「………………………?」

 

傍に……頭を抱えて仰け反り、声無き叫びを上げる姉を……不思議そうに見る宗茂があったとさ。

 

 

◆◇◆

 

【 斗詩の話 の件 】

 

〖 徐州 下邳 曹操軍陣営 にて 〗

 

 

華琳『貴女に………一刀を任せたいの………』

 

は……始め聞いた時! 思わず慌ててしまいましたぁ!!

 

北郷さん……ううぅん! 一刀さんを私に預ける? 

 

まさかっ────麗羽様に譲られる!? ウソォ! 麗羽様の幸運力が、ここで出て来たのぉ? そんなぁ! そんなぁぁ!!

 

……なんてぇ……考えてしまいました。 

 

ホント………黒歴史になっちゃうぐらいの妄想でした。

 

ーーーーー

 

華琳「……一刀の看病をお願いしたいのよ……」

 

斗詩「………どうして……ですか? 華琳様……だって……」

 

華琳「…………………」クルッ

 

華琳様は、私に背を向けて話す。

 

華琳「………私は、この軍の責を担う者! たかが……将の一人が……愚かにもぉ自分の不始末で倒れただけ! だから、私が……『華琳』が行く訳には行かないのよ! 『曹孟徳』として、この場で皆を見守らなければ!!」

 

時折……声が掠れたり、身体が小刻みに震える。 何時もは巨大に見える背中も……等身大の女の子のように小さく見えた。 

 

本当は……今すぐにでも駆けつけたいのに……行けない苛立ちが垣間見える。

 

そして……私の方に振り返り……目に涙を溜め……私に願った。

 

華琳「貴女は、麗羽と同じ一刀直属の配下。 私の命に従う義理は無いわ。 だから……お願いしたいの! 一刀の看病を専属でお願いしたいのよ!」 

 

私の……淡い恋心がズキッと痛んだ。 

 

一刀さんは、多くの将達に好意を寄せられる方。 他にも……多くの将の顔が浮かぶ。 あぁ~! とんでもない人を好きになちゃったなぁ………。

 

華琳「………私の身体は…一つだけ。 だから……貴女に『華琳』の心を託すわ! これを………受け取って貰いたい!」

 

そっと………近寄られると、私の手に赤い布が渡された。

 

華琳「私が一刀から贈られた物。 肌身離さず持っていたけど……これなら一刀が、私だと気付いてくれるわ。 これを一刀の腕に巻き付けて置いて……」

 

斗詩「…………失礼………致します」

 

私は、恭しく頂いて華琳様の居た天幕より下がった。 

 

今も耳元に残る華琳様の声。 天幕の中から漏れ聞こえる『本音の声』が。

 

ーーーーー

 

華琳「一刀…一刀……一刀! 馬鹿ぁ! 馬鹿ぁぁ!! 大馬鹿ぁぁぁ!!」

 

声を落として、天幕から人払いまでさせて………ようやく……本音が吐き出せる覇王様。 心に溜まっていた言葉は……まだ終わらない。

 

華琳「………戦いで亡くなった者達を悼むのはいいわ! だけど……どうして……残される者達の事を気に留めないの!! 馬鹿ぁ───!!!」 

 

華琳様の声は……少しずつ大きくなっていく。 

 

華琳「このまま一刀が居なくなってしまったら……私は、『華琳』は、どうすればいいのよ!? 貴方を愛した『華琳』は……また一人で居なくてはならないの!? また、孤独なままで……居続けなくてはならないのぉ!?」

 

私は、ゆっくりとその場を離れた!

 

華琳「一刀おぉ────!!!」

 

ーーーーー

 

〖 徐州 下邳 曹操軍負傷者収容所 にて 〗

 

負傷者の皆さんが収容されている天幕に到着。

 

この収容場所は、川岸よりも離れているため、戦乱の影響は無いはず。

 

朱里ちゃん、雛里ちゃんに事情を説明して、一刀さんの天幕を案内して貰ったんだけど………。

 

朱里ちゃん、雛里ちゃんは元より、流琉ちゃんにまでジト目で睨まれちゃいました。 うん、気持ちは分かる……分かるけど華琳様からの直接なんだからね? 私は悪くないんだよ……うん、絶対。

 

一刀さんは、一人用の天幕に入り、寝台の上で……気持ちよく寝ている。

 

一刀「み、水………」

 

ヒャアァ! ね、寝顔を覗き見していたら……そんな声が……!

 

き、聞こえてないですよね? ………うん、大丈夫。

 

辺りで水差しを探したけど、入れ物さえも無いため……お椀を借りて一杯用意したんだけど…………。 どう……飲ませよう………はっ!?

 

ま、まさか……口移しで行えと………!!

 

だ、誰も居ないよね………? ドキドキ ドキドキ

 

うん、居ない………で、ではっ! 

 

────んっ!   ゴクッ! ゴクッ!

 

ーーーーーー

 

あっ……あはははっ! しちゃた! 一刀さんに口移し!!

 

火照る顔を覚ましながら……桶の水を換えに出掛ける私。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

しかし……一刀さんから離れるにつれ、私の頭は冷静になる。

 

私は……困惑した。

 

華琳様の『想い』も……私の『想い』も……同じモノ。

 

どうすれば………いいの? 

 

一刀さんが……もし、目を覚ました時に……最初に見るモノは?

 

華琳様は、私の上司では無いから……深く考えなくてもいい。 この布を巻いて、私が献身的に看護をすれば、それで良いのかもしれない。

 

でも、女の戦いに情けは無用! このまま処分………いえ、そんな事をすれば犯人は誰だか直ぐに分かるだろう………。

 

私は………どうすればいいの?

 

 

 

『簡単な事ですよ……殺してしまえばいい。 殺して貴女の者にすれば、誰も奪われる事もない………くくくくくっ!』

 

 

 

斗詩「えぇっ!?」

 

そこには、誰も居なかったはず!?

 

 

 

 

私は、慌てて向くと………白い道士服を着用し眼鏡を掛けた少年………。

 

私を見ると……ニヤリと笑い………!

 

 

 

 

つまり……一刀さんより聞いていた『男好きの変態メガネ』が、こちらを向いて───笑いながら佇んでいたんですぅ!! 誰かぁ 助けてぇ!!!

 

 

 

于吉「ちょっ───! そこは、カッコ良く終わるのが定番でしょうに! えっ? これで……終わりなんですか!? そんなぁぁぁ!!!」

 

 

ーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

この話も100話に突入したそうで……ご支援ありがとうございます。

 

たまたま、休みをもらったので……早速ながら書いて投稿をいたしました。

 

物語は、徐々に終わりに向かっております。 

 

次回こそは、遅れると思いますねで、宜しくお願いします!

 


 
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