No.710120 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第五十話2014-08-20 21:09:12 投稿 / 全14ページ 総閲覧数:6134 閲覧ユーザー数:4319 |
「…我々とて好きで漢と戦をしているわけではないのですじゃ。じゃが生きて
いく為には他に道は無く…もし戦わずに全てが丸く治まる方法があるという
のなら教えていただきたい」
会見に応じてくれた長老の口から吐き出すように発せられたのはその一言で
あった。
俺達が来ているのは五胡のある部族の村である。この部族の長老は五胡の中
でも最有力の地位にある者の一人であり、漢との戦においては慎重派の筆頭
と目されている人物でもあった。事前の調べと雫への確認を経て、五胡との
戦を終息させる為にはこの長老に力を借りる事が出来ればと思い、こちらに
赴いたのだが…その長老を以てしても、そういう言葉が出て来るのか。歴史
上の知識として漢と周辺の異民族との戦いの事を知っているだけでは何の役
にも立たないのは分かってはいたが、予想以上に根の深い問題に俺は頭を抱
えざるを得なかったのであった。
「馬騰殿や北郷殿のように我らに対話を呼びかけてくれる方々もいらっしゃる
のですが、ほとんどの漢の人間は我らを蛮族などと呼び人間として扱おうと
してくれませなんだ。我らが戦いに身を投じてきた理由にはそれに抗う意味
もあったのです。今回だってあなたは対話に来たと言うてますが、此処から
少し離れた所に軍勢を連れて来ているのは知っております。それではまるで
我らが従わなければ軍勢を以て蹂躙する用意があると思う者がおっても仕方
ない事ではありませぬか?」
それを言われるとまったく反論する事が出来ない…無論、蹂躙するつもりな
どは無いのだが、それを言った所で信じてもらえる自信は無い。
「長老、一刀さんはそのような人ではありません。私がそれを一番良く知って
います」
「雫様…あなたがそこまで言われるとは」
そこに雫がそう言い添えると、長老は驚いた顔を見せる。
「一刀さんはただ戦をするなと言いに来たんじゃ無い…戦をしなくてもお互い
に欲しい物を得る事の出来る方法を伝える為に来たのです」
「何と!?それは真ですか?」
長老は期待を込めた眼でそう聞いてくる。
「ただ物を得る事が出来る…というわけでは無いですが」
「ほぅ、それは一体…?」
「交易ですよ」
「交易…確かにそれが実現すれば、戦などする必要は無くなるのでしょうが…
我々の土地は漢の領土に比べれば遥かに痩せ細っており、取れる文物もたか
だか知れております。果たして漢の方々が望むような物があるかどうか…」
長老はそう言って言葉を濁す。確かに取れる物は少ない、だからこそ今まで
欲しい物を得る為に略奪だの戦だのを繰り返してきたのだろうけど…。
「大丈夫、今あなた方が持っている物だけで十分です」
「何と!?我々の持っている物で一体何が…?」
「それは…」
「…そんな物で良いのですか?」
俺の話を聞いた長老は驚きの声をあげる。
「それを得る事でこちらも大きな利益を得る事が出来ます。最初の内はそんな
に多く取引が出来る状態ではないでしょうが、体制を整えればほぼ恒久的に
それを可能にも出来るのではないかと」
「しかし、毛の方はともかく肉の方は需要があるのですか?それにこちらから
運ぶ間に痛んでしまう可能性も…」
「それについては大丈夫、保存が効く方法がありましてね…」
俺の話を長老は熱心に耳を傾けてくれる。
「何と!?…ですが確かにその方法であれば此処から洛陽まで肉を腐らせる前
に運ぶ事も出来そうですな」
「それだけじゃない、少なくとも幽州や涼州だったらそこまでしなくても運ぶ
事も出来るはず。そうすればそこでまた違う料理も可能になるというもの」
「なるほど…北郷様は違う国から来られたお方だと聞いてはいましたが、そう
いったお話をお聞きするだけでもそれを実感出来るというものですな」
「それでは…?」
「ええ、我らとて戦などせずに済むのならそれに越した事は無いのです。これ
は私だけでなく多くの者達が願っている事でもあります…どうしても戦とい
う事になれば犠牲は付き物、それが無くなるのであれば喜んで協力いたしま
しょう。ですが…」
長老はそこまで言って唇を歪ませる。
「何か問題でもあるのですか?」
「…部族の中には戦を、特にそれに伴う殺戮・強姦・略奪に喜びを見出す輩も
おりましてな。今戦を仕掛けている者はそういう者達が主導している状況な
のです。その者達が納得して引き揚げてくれるのかどうかが…」
なるほど、最初の内は皆が漢に対する不満とか自らの誇りとかで戦っていた
んだろうけど、戦いと略奪を繰り返している内にそっちが目的に変わってし
まった連中がいるという事か…しかしそういう輩を説得というのも至難の技
というよりほぼ不可能な話に近いな。
「ですが、大半の者はそうではありません。何とか説得工作にはあたってみま
しょう」
「ありがとうございます」
そして長老はもう一人の慎重派の部族長の下へ話をしに行くというので俺も
同行させてもらったのだが…。
「そのような言葉だけで信じられると本気で思っているのか!?」
けんもほろろにそう言われてしまう。
「じゃが今も話した通り…」
「本当にそれが実現するのなら俺も万々歳だ。だがそれは漢の皇帝が認めた事
なのか?大体漢の連中はちょっと良い話を持って来てこちらが乗り気になっ
た瞬間に掌を返すように『皇帝陛下の許可を得る事が出来ませんでした』と
か『まずは皇帝陛下に臣従を示す方が先だ』とか言い出す始末…どうせその
男とて同じような事を言い出すに決まっている!」
「…ならば俺があなたの信用に足る物を示せば良いわけですね?」
「そんな物があれば…だがな」
「ならばこれを…」
俺はそう言って一枚の書状を差し出す。部族長はそれを訝しげに一瞥してか
ら広げて中を見るなり驚きに眼を見開いたままになっている。
「どうです?それで信じていただけたでしょうか?」
「…まさか、これは本物なのか?」
「おや、此処で偽物を見せて誤魔化す程落ちぶれちゃあいませんよ」
「むむむ…しかし何故劉弁皇帝はそこまでお主に?」
「それは俺が『天の御遣い』だから…では納得いただけないですかね?」
「御遣い…お主がか!?あの噂の…まさか、ただのエセ話だと思っていたが…」
「じゃなければ皇帝陛下がただの衛将軍にこのような物をくださるはずもござ
いませんでしょう?」
部族長が驚くのも無理はない。その書状は命より与えられた委任状だからだ。
そしてその内容は『五胡との会談における取決めを北郷一刀に一任する。そ
れに反した場合、我に火帝の罰が下るものである。劉弁』とだけ書かれてお
り、最後にしっかり玉璽の印が押されていたりする。
当然それはただの一将軍に与えられるような物では無い。それ故、部族長も
それ以上言葉を続ける事が出来なくなっていたのだ。
「では俺の事を信用していただける…という事でよろしいでしょうか?」
「…ああ、此処までの物を見せられて君を信じないわけにはいくまい。俺とて
戦など無くなって欲しいと常に願ってはいたからな」
よし、これで五胡の慎重派の頭目との交渉は成功という所だな。
「それで、これから俺は何をすれば良いのだ?」
「まずは涼州に侵攻している部族達に引き揚げてもらうよう説得をお願いした
いのですが」
「ふむ…確かに俺達二人の連名でそれをすれば、最低でも四割の者達は引き揚
げるだろう。でも残った連中はどうするんだ?」
「残りもそれだけの兵が退けば大部分は引き揚げるでしょう。既にこちらとの
戦闘が不利な状況で大分士気が落ちていると思われますので。それでも残っ
た者達には…」
「分かった、皆まで言うな。無血で全て終わるのに越した事は無いのだろうが
おそらく退かぬ者達は出るだろうしな…仕方ないと言ってしまうのは語弊が
あるのかもしれないが、そちらに関しては任せる。ただ…」
「分かってますよ、出来るだけ逃げてもらう方向で行く予定ですので」
俺がそう言うと部族長は笑みを浮かべる。
「よし、ならば行動開始だな。北郷殿、何卒よしなに」
「こちらからもよろしくお願いしますじゃ」
…二人の期待に応える為にも頑張らなくてはいけないな。
それから数日後。
「あれだけいた五胡の奴らが…一体何があったんだ?」
兵士より報告を受けた翠の第一声がそれであった。
驚くのも無理はない、まだ十万以上はいたはずの五胡の軍勢が、一夜にして
二万弱にまで減ってしまっていたからだ。そして…。
「へぇ…お二人の呼びかけだけでこれだけの効果が出るとは」
その効果に驚いていたのは俺も同じであった。
「驚いたかの?」
「はい、とても」
「ははっ、なかなか素直な青年だな。北郷殿のような者がいるのならこれから
は少しは漢の事も信用する事にしよう」
「そうじゃのぉ」
五胡の中でも慎重派の両巨頭である二人はそう言って笑っていた。これから
も良い関係が築けるようなそんな気がした。
・・・・・・・
一方その頃、一刀が慎重派の者達の説得に成功した事は幽州戦線にも多大な
影響を与えていた。
「そんなバカな…あれだけいた兵のほとんどが」
そう半ば呆けたように呟いていたのは劉焉であった。
それもそのはず、こちらにも三十万余りの軍勢が侵攻していたのであったが、
一夜にして七万余りにまで減っていたからである。
「部族長、これはどういう事ですか!?」
「…どうもこうもない、慎重派の連中が裏から手を回したようだ」
此処まで兵を率いてきた部族長もこの展開には顔を青ざめたまま唇を噛みし
めていただけであった。
「しかし今回の事は全部族から了承を得た上での事だったのでは?」
「…厳密に言えば、慎重派の連中を半ば無理やり抑えつけたんだ。此処で幽州
と涼州と益州を占領すれば今までに無い位の物資と奴隷が手に入ると言って
な。しかし益州を攻めた連中は壊滅、幽州は占領こそしたものの物資も奴隷
も手に入らない上に楽浪郡は奪い返される、涼州では頑強な抵抗にあってい
るとくればこちらの士気はまったくもって上がらない。そこに慎重派の連中
が何かしらを吹き込んできたのだろう。事実、五胡などとはいっても各部族
の連合の上に成り立っているに過ぎない。結束なんか薬にしたくとも無いと
言っても過言では無いのだ」
部族長はそこまで言うと何かしら考え込むように黙ってしまう。
「ならばどうすれば…このままでは何の益も無いまま撤退という事になるでは
ないですか!」
「お前の口からそれを言うか…そもそも今回の侵攻はお前が『自分が手引きす
れば簡単に事が成就する』と言ったからではないのか!?それに失敗の原因
もお前の取引した相手が全て漢の正規軍に鎮圧された事にある!つまりお前
のやる事成す事全てが向こうにダダ漏れになっているという事になっている
のではないのか!?それとも…それで我らを討伐させてそれを手土産に漢に
戻ろうという魂胆ではあるまいな!?」
「ま、まさか、そんなバカな!私は漢から追放された人間ですぞ?そんな程度
の事で戻れるはずも…」
「ならばそこに俺の首も上乗せするつもりだったのか!?やはり漢の人間など
信じたのが間違いだったという事だな!そこへ直れ、叩き斬ってやる!!」
いきり立った部族長はそう言うと同時に剣を抜いて劉焉に斬りかかる。
「なっ!?お待ちを、落ち着いて私の話を『問答無用!』…くっ、おのれ!」
劉焉は剣をかわすと同時に部族長の腕に蹴りを入れて剣を跳ね上げる。
そしてその剣を、劉焉は床に落ちる前に受け止めると同時に無言で部族長の
胸に深々と突き刺していた。
「なっ…バカな、何故こんな…」
「ふん、お前が如きその気になれば何時でもこう出来たのだ。一応世話になっ
ているからと思い此処まで我慢してきたが、お前が俺の話を聞かずにこのよ
うな暴挙に出たのが悪いのだ…だが安心しろ、お前の軍と中原制覇の夢は俺
が引き継いでやるのでな」
「なっ…それはどういう…ガハッ」
部族長は劉焉の真意を確認する前に息絶える。
劉焉はそれを見届けると部族長の死体を手近にあった布で覆い、自らは部族
長の鎧兜を身につけて素知らぬ顔で椅子に座る。そこに…。
「失礼いたします…おや、劉焉殿のお姿が見えませぬが?」
兵士が入って来たが、そこにいる鎧兜を被った男が劉焉だとは気付かずに話
しかけてくる。
「ああ、劉焉は漢の連中とつるんでいた事が発覚した故に成敗した。その布の
中身がそうだ」
「何と!?では、これは如何いたしましょう?」
「そのまま兵士の死体と一緒に埋めてしまえ…もしかしたら奴の呪いがかかっ
ているかもしれんから決して中は見るなよ」
「は、はい、了解しました、では早速」
そして中が部族長本人の死体だとは気付かないまま、兵士達はそれを他の兵
士の死体と一緒に埋めてしまったのであった。
「そうか、無事に埋めたか」
「はっ、ところでこれから如何いたしましょう?」
「…忌々しいが、このまま此処にいてももはや何も得る物は無い。しかも慎重
派の連中がしゃしゃり出て来ている以上、我らがのこのこ戻っていった所で
居場所も無かろう。よって我らはさらに北へ向かう」
「北と申しますと…例の、ですか?」
「ああ、その地に潜んで再び中原を窺う機会を待つ。皆にもそう伝えよ」
「ははっ!」
(おのれ漢の者共…今回は引き下がってやるが、次はこうはいかぬ。次に来た
時こそこの劉焉が皇帝として君臨する日ぞ!)
部族長に成りすました劉焉は心の中でそう叫んでいたのであった。
そして数日後。
「皆様、ご苦労様でした」
五胡の軍勢が引き揚げたのを確認した俺達は、奪回した北平にて幽州・涼州
で戦っていた全軍が集結してささやかな宴を開いていた。
正式な宴は洛陽に戻った後という事であくまでもささやかな物であったはず
なのだが…。
「酒じゃ、酒じゃ、もっと酒を持ってこぬか!」
「きゃははは、祭ったらもうできあがってるのぉ!?」
「ウチもジャンジャン飲むでぇ~!」
「これだけ酒があるのだ、飲まねば損という事だな…メンマが無いのが残念だ
がな!」
既に何人かは盛り上がっていたのであった。
「やれやれ、今からこんなのだったら洛陽に帰った後はどうなるんだ?」
「もっと盛り上がれば良いだけだ」
俺の呟きにそんな返しをしてくるのは空様だった。ちなみに空様は既に葵さ
んに半刻ばかりセクハラ行為をした後だったりする。(この段階で、一刀は
馬騰より真名を預かっているので此処からは真名でお送りします)
「ほぅ…つまり洛陽では葵さん相手にもっとあんな事をするという事ですか?」
俺がそう言った途端にすぐ近くで疲労困憊の様を呈していた葵さんが一気に
空様から距離を取っていた。
「おい、一刀がつまらん事を言うから葵が逃げてしまったではないか」
「むしろそれは貴女のせいでしょうが」
「仕方ない、ならば一刀で欲求不満の解消と行こうか」
空様はそう言うなり俺の腕をしっかり自分の腕で絡めて引っ張ろうとするが、
「李通殿、此処は勝利を祝う宴の場、一刀さん無しで成り立つわけがありませ
んので」
反対の腕を輝里がしっかり掴んでいてそれ以上動けなかったりする。
「おいおい、元直…幾らお前でも私と一刀の邪魔をするというならこっちにも
考えがあるぞ」
「へぇ…それはどういうお考えですか?是非ご教授願いたいですねぇ」
空様も輝里もそう笑顔で応酬するが…二人とも眼が笑ってないし!はっきり
言って超怖いし!!
此処は誰かに助けを…そう思ったその時、
「あらあら、二人とも一刀をどうしようというのかしら?」
そこにやってきたのはほろ酔い加減の瑠菜さんだった。
「瑠菜さん、ちょうど良かった…『あら、私をお求めで?なら、私もちょうど
良かったわ』…えっ、それはどういう『チュッ~~~!』もがが!」
何を思ったのか、瑠菜さんは俺の顔をホールドしたかと思うとそのままキス
をしてくる。それと同時に空様と輝里から恐ろしくドス黒いオーラが発せら
れていたりする…って、ますます怖いんですけど!
「おいおい、瑠菜…如何にお前とて今のその行動は容認出来ないんだが?」
「盧植様、一体何をされておられるのですか?」
「あらぁ、だって一刀が子犬のような眼で私を見つめるのだから、てっきり私
の事をと…」
さすがは瑠菜さんといった所か、二人の怒気に対してまったくひるむ様子も
見せない…ていうか、俺は何時この状況から抜け出せるのだろうか?本当に
誰か助けて!
俺の心の叫びに耳を貸してくれる人は誰もいなかったのであった…遠くから
悔しそうな顔で見つめる人が何人かいただけで。
「そんなの当り前や!誰がそんなうらやま…もとい、大変なシチュエーション
の奴に手なんか貸すかい…本当にうらやましくなんか無いんやからな、本当
やで(泣)!!」
及川のそんな叫びが聞こえたような…気のせいだっただろうか?
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
一応此処で五胡との戦いは一旦終わりです。
まだ元凶が生きてますので、まだ完全に終
わってはいませんが。
あんなので五胡が一刀を簡単を信用出来る
のかいう疑問をお持ちのお方も多いとは思
いますが、どうかご容赦の程を。
とりあえず次回からはまたしばらく拠点を
お送りします。
それでは次回、第五十一話にてお会いいた
しましょう。
追伸 さすがにそろそろ命との逢瀬を送る
べきなのだろうか…?
Tweet |
|
|
45
|
1
|
追加するフォルダを選択
お待たせしました!
では前回の続きからという事で、
続きを表示