No.708024

IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜

二周年特別番外編! IS学園アニマルパニック!? 後編

2014-08-11 21:49:34 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1249   閲覧ユーザー数:1211

「うーん…どこ行ったんだ?」

 

ケモ耳ケモ尻尾の生えてしまった女子達の調査を終えて、織斑先生に報告しようとしていた俺は校舎の廊下を歩いていた。

 

別に道に迷ったとかじゃない。織斑先生が職員室にいなかったんだ。

 

織斑先生だけでなく、山田先生、スコールとオータムもいなかった。

 

「居そうなところは回ったんだけど、参ったなぁ。他に先生はいないし……あ! 地下特別区画! あそこにはまだ行ってなかったな」

 

可能性はある。とりあえず向かうとしよう。

 

と言っても、俺の知ってる特別区画への行き方は生徒会室の仕掛けだけ。特別区画に行くにはまず生徒会室にいかなくちゃいけない。

 

生徒会室に向かって一階の廊下を進む途中、

 

「降りてこーい。危ないぞー?」

 

外から一夏の声が聞こえた。

 

「一夏? どうした?」

 

窓から乗り出して声をかける。

 

「あ、瑛斗。マドカがさ…」

 

「マドカ?」

 

一夏が指差した木の太い枝の上には、マドカが足を投げ出して座っていた。

 

「……何してんの?」

 

「いや、俺にもさっぱりでさ。外に行きたいって言うから連れ出したら、急に木に登って……とにかくマドカ、早く降りてこいって」

 

一夏が呼びかけると、マドカは首を横に振った。

 

「ごめんお兄ちゃん、それは出来そうにないよ。なんでかわからないけど、ここが落ち着くの。ね、鈴?」

 

「鈴もいるのか?」

 

マドカが視線を上に向けたのを追って俺と一夏も顔を上げる。

 

「そうねぇ、言いようのない安心感があるわ…」

 

鈴は枝が伸びる方向と同じ向きに座って幹に身体を預けてリラックスしていた。

 

「ど…どうしたんだ二人とも。なんか様子おかしくね?」

 

「様子がおかしいと言えば…箒とセシリアも」

 

「えっ、あいつらも?」

 

「ほら、あっち」

 

見れば、少し離れたところで箒とセシリアが一緒に芝生の上に座っていた。

 

セシリアが箒によりかかるようにしていて、じゃれあってるように見える。

 

「せ、セシリア! やめろ! やめろと言っている!」

 

「そう言わずに〜。箒さんの尻尾、もふもふですわぁ〜♫」

 

箒のキツネの尻尾をセシリアは両手で抱き寄せるようにしている。

 

「毛並みとても素晴らしいですぅ〜」

 

「ひゃぁ!? いっ、一夏! こいつを何とかしてくれぇっ!」

 

もふもふと、もふられていた箒はセシリアを引き剥がそうと四苦八苦。

 

「見ての通り、セシリアがちょっと…」

 

「なんだ? 酔っ払ってるのか?」

 

「いや、それはないだろ」

 

「いちかぁ〜っ!!」

 

「わかったわかった。ちょっと箒助けてくる」

 

「おう。俺も行きがけに声かけただけだから。またな」

 

一夏と別れて再び生徒会室へと足を動かしだす。遠巻きに見えた一夏の姿が、なんだかブリーダーのように見えたぜ。

 

生徒会室まで後少しのところで唐突に俺の目標は達成された。

 

「あ、織斑先生!」

 

「む、桐野か」

 

廊下の曲がり角から出てきた織斑先生とばったり鉢合わせ出来たからだ。

 

「探しちゃいましたよ。職員室にいないんですもの。調査、終わりましたよ」

 

名簿帳を受け取った先生はパラパラとそれをめくりながら口を開いた。

 

「助かる。それで変わった事はあったか?」

 

「それが……」

 

「何かあったのか?」

 

「楯無さんがティッシュを取り出しまくったり、シャルがコップの麦茶を舌で舐めたり…普段だとしないようなことをしてました」

 

「それはまた…奇行だな」

 

「奇行でしょう? しかもそれ、みんな無意識にやったみたいなんです」

 

「ふむ………一夏とマドカはどうしている?」

 

「ああ、二人なら箒達と一緒に外にいますよ」

 

「外?」

 

「マドカと鈴が木の上でのんびりしてて、一夏は箒とセシリアの相手をしてました。みんななんだかんだで状況楽しんでるみたいで」

 

「この手のことには慣れてしまったのかもしれんな」

 

「かもしれませんね。先生も行ってみたらどうです?」

 

「フッ…馬鹿なことを言うな」

 

名簿帳をたたんで、先生は俺に返してきた。

 

「ご苦労だった。ご苦労ついでにこれは職員室の私の机に置いておいてくれ。その後はお前も好きにしていいぞ」

 

「わかりました。では、失礼します」

 

織斑先生からの指示通り、名簿帳を先生の机に置いて、ミッションクリアした俺は寮に戻ることにした。シャル達の様子を見に行くためだ。

 

「みんな様子がちょっと変だからな…」

 

思い返してみればやっぱり気になる。もしかしたらもっと変なことになっているかもしれない。

 

「………あれ?」

 

俺の部屋の前までやって来た時、ふと異変に気づいた。

 

「扉が、開いてる?」

 

俺の部屋の扉が開きっぱなしになっていたんだ。

 

「あっちゃあ、鍵掛けてなかった」

 

出て行く時にまだシャル達がいたからな……

 

「あれ? でも扉は閉めたような…」

 

ラウラ達が開けっ放しにしたのか…いやいや、そんなやつらじゃないし。

 

「誰か中にいるのか? …あっ!」

 

そこで俺の脳裏にあのお騒がせ亡国機業の二人が浮かび上がった。

 

「あいつら…!」

 

意を決して部屋の中に入る。オータムとかスコールとかなら、速攻で追い出さねば!

 

「すぅ……すぅ……」

 

「楯無さん……!?」

 

ずっこけそうになった。部屋の中ににいたのは、オータムでもスコールでもなく、楯無さんだったからだ。

 

「も、戻って来てたのか……」

 

しかもさっきと同じポジションで寝息を立ててらっしゃる。

 

(まさか…また俺を驚かせようと忍び込んで、それでまた昼寝しちゃったのか?)

 

だとすれば目的は達成出来てるな…びっくりしたし。

 

猫の耳と尻尾を生やして、身体を丸くしながら眠る楯無さんは本当に猫みたいだ。

 

そう言えば、いつか見た映画で、主人公が縁側で猫を撫でながらうたた寝してたな。

 

「………………………」

 

なんだか、無性に撫でたくなった。

 

(腰のあたりを軽く撫でるくらいなら、いいかな…)

 

静かに近づいて、そっと撫でてみた。

 

「んぅ……♫」

 

起きるかと思って一瞬ヒヤッとしたけど、楯無さんはむしろ気持ち良さそうに顔を少し綻ばせた。可愛い。

 

さっきよりもぐっすり眠っているみたいで、起こすのも躊躇ってしまう。

 

(よっぽど疲れてたんだろうな…)

 

楯無さんに布団をかけてあげて、椅子に座る。

 

「俺も……なんか眠くなってきちまったな」

 

楯無さんの寝顔を見てたら、急に瞼が重くなった。

 

「歩き詰めだったし…俺もちょっとだけ……寝るか…………」

 

 

「いと…えいと……瑛斗」

 

身体を譲られて、目を覚ました。

 

「う〜ん……何…? てか誰…?」

 

「俺だよ! 何寝ボケてんだ!」

 

一夏だった。耳元でうるさいやつだなぁ。

 

「なんだ一夏か……って、暗っ。部屋暗っ」

 

「もう日も沈んだからな」

 

「マジかよ…」

 

こんなに長く昼寝するつもりはなかったんだけど…

 

「……あれ? 楯無さんは?」

 

ベッドの方を見たら楯無さんがいなかった。

 

「楯無さん? 俺が来た時にはもういなかったぞ」

 

「そ、そうか……」

 

俺より先に起きたのか。

 

「て、それよりも大変なことになったぞ!」

 

「何さ? みんなに耳と尻尾が生える以上に大変なのか?」

 

「そのみんなの様子がさらにおかしくなったんだよ!」

 

「…どゆこと?」

 

「とにかく来てくれ!」

 

一夏に追い立てられるように部屋から出て、そのまま寮の外まで出た。

 

外に出るまでの間、量の中がやけに静かだったな…

 

秋に入って、冷たくなってきている風を感じる。

 

「なんだよ、特に変わった━━━━」

 

直後、全身に鳥肌が立った。

 

見られている。

 

(…………なんだ? この、異様な空気……!?)

 

人影も見えないのに、周囲から視線を感じる。360度、そこかしこから、殺気にも似た視線を。

 

「一夏…こりゃ一体、どうなってる?」

 

「わからない…でも……来るっ!」

 

 

ガサガサガサ!!

 

 

茂みが揺れて、中から何かが飛び出してきた。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に後ろに身を引いて躱す。

 

「なんだっ!?」

 

身構え、飛びかかってきたのが何なのか確かめようとした。

 

「にゃあ……」

 

「…………へ?」

 

俺に飛びかかってきたものの正体は━━━━

 

「楯無……さん?」

 

我らがIS学園の生徒会長の楯無さんが四つん這いになって、獲物を狙う目をしているぞ!?

 

「な、何してんですか楯無さん?」

 

「にゃあ〜…」

 

「いや、にゃあ〜、じゃなくて」

 

困惑する俺をよそに、素早く俺に近寄ってきた楯無さんが、俺の手に顔を寄せた。

 

 

かぷっ

 

 

「え?」

 

楯無さんが、俺の手に、噛みついていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!? 噛まれたぁぁぁぁ!? あでも痛くない甘噛み!」

 

「たっ、楯無さんダメです! ばっちいですよ!」

 

「てめぇ一夏ばっちいとはなんだ! いででででで!? 楯無さん!? 急に歯を立てないでください!」

 

「にゃぁ〜ん♫」

 

「いででででででで!? い、痛いって…言ってるでしょうがぁぁぁぁ!!」

 

「ふにゃっ!」

 

思いっきり腕を振り回すと案外簡単に離してくれた。

 

「な…なんなんだ…! ホントなんなんだよ一体!」

 

ぜーはーぜーはー肩で息をしながら右手をさする。

 

「にゃお〜ん…」

 

楯無さんの俺達を見る目が、キランと光った気がした。

 

「もしかして、また噛みつきにくるつもりか…?」

 

タラ…と汗が一筋流れ落ちた直後に俺の予感は的中した。

 

「にゃっ!」

 

「うお危なっ!?」

 

危うくまた噛みつかれるところだった。

 

「と、とにかく逃げるぞ一夏っ!」

 

「お、おい待てよ!」

 

「にゃあ〜ん!」

 

楯無さんも追いかけてきおった!

 

「一夏! お前が言ってたみんながもっと変になったってああいうことか!?」

 

「い、いや、俺が見たのは、マドカがやっと木から降りて来たと思ったら、物凄い速さでどこかに走って行ったり、箒とセシリアも急に黙ってどこかに行っちまったりで…」

 

「くそったれ! なんで楯無さんはあんな猫みたいに………」

 

「瑛斗?」

 

「一夏……俺、スゲー嫌なこと考えちまった」

 

「な、なんだよ!?」

 

「楯無さんは猫みたいになったんじゃない。猫になったんだ!」

 

「は!?」

 

「時間が経って、変化が進んだんだ! 最初は木の上が落ち着くとか、飲み物を舌で舐めるように飲むとか、そういうちっちゃい異変だったけどこのまま放っておけば……!」

 

「ほ、放っておけば!?」

 

「みんな耳と尻尾以外は人の姿のまま、本当の動物になっちまうんだよ!」

 

「な、なんだってー!?」

 

「早くみんなを元に戻さなきゃIS学園がIS動物園になるぞ!」

 

「で、でもどうすりゃいいんだ!?」

 

「それは……!」

 

はっきり言ってそれは俺が聞きたい。どうすればみんな元に戻る!?

 

「方法はございます」

 

街灯の陰から声がした。

 

「誰だっ!?」

 

立ち止まって呼びかける。

 

俺と一夏の前に現れて、礼儀正しいおじぎをしたのは、長い銀髪の少女。

 

「くー…」

 

「こんばんは。桐野瑛斗さま、織斑一夏さま」

 

俺はくーがいたことで高まっていた警戒心を更に高めた。

 

くーの瞼が、開かれていたからだ。

 

「………お前が来たってことは、やっぱりこれは束さんの仕業なのか?」

 

「否定はしません」

 

「なんだってこんなことを!」

 

「今は、それを論じている場合ではないのでは?」

 

「…っ! 確かに……」

 

くーの首肯に一夏は声を荒げたが、くーには動揺は見られない。

 

「じゃあ何か? 俺達の邪魔しに来たってわけか?」

 

俺は敢えて棘のある言い方をした。くーの目は開いている。いつでも戦えるはずだ。この混乱に乗じて仕掛けに来たのかもしれない。

 

「………………」

 

「どうなんだ? 何か言ってみろよ」

 

「本日は、そのような要件で来たのではありません」

 

「何?」

 

「こちらをお届けに参りました」

 

静かに接近したくーが手に持っていたバスケットから、俺達に差し出してきたのは、白い拳銃のようなものだった。

 

「これは?」

 

「束さまが造った、皆様を元に戻すためのツールです。急造品ですのでエネルギー供給はあなた方のISからお願いします」

 

「おお!」

 

「そいつはありがたい!」

 

早速受け取って部分展開したG-soulの右腕でグリップを掴む。それだけで同期は完了した。

 

「これを使えばみんなを元に戻せるんだな?」

 

「はい。発射されるのはビームです。直撃すれば元の状態に戻すことができます。それと、こちらも…」

 

くーがバスケットを俺に手渡した。中身は、猫じゃらしにフリスビーにボールなどなど、ペット用のおもちゃが大量だ。

 

「もしかしたら何かの役に立つのではないかと、束さまからこれも渡すように言われました」

 

「…やけに、準備がいいな?」

 

「こんなことになってしまった責任は、私……た、束さまにもありますから」

 

ん? 何か今、気まずそうに視線をそらしたけど…

 

「と、とにかく、速やかな状況収拾の為ですので、お使いください」

 

「…? まあ、いいや。何にしても助かった。博士にも礼を言っておいてくれ」

 

「わかりました。それでは……」

 

くーは空中に浮遊して、そのまま夜の空へと消えていった。

 

「束さん、なんでこんなことしてくれたんだ?」

 

「さてな。もしかしたら、本人もこうなるのは予想外だったんじゃないか?」

 

「なるほど…」

 

「さて……来なすったぜ」

 

「!」

 

楯無さんが道からではなく茂みから飛び出してきた。

 

「にゃ〜…」

 

「いきなり楯無さんが相手とは…」

 

一夏が顔を引きつらせる。

 

「束さんを信じて、やってみるか!」

 

そして一夏はくーから受け取った博士の造ったツールのトリガーを引いた。

 

 

ビビビビビ!

 

 

銃口から出た青いリング状ビームが飛んで楯無さんに向かっていく。

 

「うにゃんっ!」

 

楯無さんは横っ飛びでビームを避ける。

 

「くそっ! まだまだっ!」

 

「にゃにゃんっ!」

 

楯無さんは猫のようなしなやかな動きで避け続ける。

 

「流石は楯無さんだ……当たらない!」

 

呻く一夏に俺は落ち着くよう言い聞かせた。

 

「まあ待て。くーが渡してくれたこいつらを早速使おうぜ」

 

俺はバスケットの中から猫じゃらしを取り出し、高々と掲げる。

 

「猫になってんなら、これが有効なはずだ!」

 

「ホントかよ……」

 

一夏の目と声が俺を信用してない。

 

「やってみなけりゃわからん!」

 

しゃがんで、楯無さんの方へ猫じゃらしを持っていく。

 

「ほーら、楯無さん。こっち来てくださーい」

 

猫じゃらしを振りつつ、声をかける。

 

「にぃ?」

 

楯無さんは動きを止めて、俺が揺らす猫じゃらしを見つめている。

 

「…シュールな光景だな、右手に銃で、左手に猫じゃらしって」

 

「よーしよしよしよし、いい子ですからー」

 

「……にゃんっ♫」

 

楯無さんが猫じゃらしに触った! 効果は抜群だ!

 

「にゃっ、にゃにゃっ♫」

 

「おお凄い! 瑛斗、チャンスだ!」

 

「……………………」

 

「……………え、瑛斗?」

 

「………一夏…もうちょっとだけ、こうしてていい?」

 

「え!?」

 

「だってお前超可愛いじゃん! 普段とのギャップってやつ? いや、俺が動物好きだからかもしんないけど、たまらないっ!!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! すぐに他のみんなも戻さなきゃ━━━━」

 

「猫って喉を撫でてあげるといいんだよな? この場合にも適用されっかな? な!?」

 

「聞けよ!? っていうかお前噛まれたのもう忘れたのか!?」

 

「すぐだから! これやったらちゃんとするから!」

 

猫じゃらしを置いて、楯無さんの喉元に左手で撫でてみる。

 

 

スリスリ…

 

 

「にゃぁ〜♫」

 

「くっはあぁぁぁぁ…!」

 

なんだこの生き物!? この可愛さ反則だろ!

 

「瑛斗…」

 

そろそろ一夏の声が怖くなってきた。潮時か。

 

「うぅ…わかったよ。仕方ないなぁ。楯無さん」

 

「ふに?」

 

「ちょっと痛いですけど、我慢してくださいよ」

 

 

ビビビビビ!

 

 

「にゃっ!?」

 

ビームが直撃した直後、ポンッ! と軽快な音がして楯無さんのケモ耳と尻尾は霧散した。

 

「こういうコミカルな消え方するんだな…」

 

「ふにゃぁ〜……」

 

「おっと」

 

俺の胸に倒れるようにして気絶した楯無さん。やっぱりちょっと惜しいことをしたかもしれないな…

 

「よし、何はともあれ篠ノ之博士のくれたこれが効くってのがわかったな。名前は、元に戻る銃だから…モドルガンにしよう」

 

「なんか安直じゃないか?」

 

「いんだよ、その場の勢いだから」

 

「う……ん…」

 

楯無さんが僅かに動いた。

 

「あれ…? 瑛斗くん?」

 

「気がつきました?」

 

「一夏くんまで? あれれ……瑛斗くんを今度こそ驚かそうと思ったところまでは覚えてるんだけど…」

 

俺は楯無さんに事の仔細を伝えた。

 

「…とまぁそんなわけで楯無さんが俺達が元に戻した人第一号です」

 

「そういうこと…。篠ノ之博士には一応感謝しておかないとね」

 

「なぁ……瑛斗…」

 

一夏が肘で俺を小突いて耳打ちしてきた。

 

「ん?」

 

「お前、楯無さんを猫じゃらしで遊んだりしたこと言ってないだろ…」

 

「いいんだよ。俺らが黙ってりゃ済む話だろ?」

 

「? なぁに? 二人で内緒話?」

 

「いっ、いえ! なんでもありませんよ。それより楯無さん、これからどうします? 俺達と一緒に回りますか?」

 

「そうね。このまま一人でいるのも危険だし二人に守ってもらっちゃおうかしら」

 

「わかりました。それじゃあ、この調子でみんなを戻していくぞー!」

 

「おー!」

 

「お、おー! って、これから具体的にどうするんだ?」

 

「任せろ一夏。俺にいい考えがある」

 

「と言うと?」

 

「一夏、俺達が積極的に元に戻していかなきゃいけないのはどんなやつらか、わかるか?」

 

「え? うーん…専用機持ちか?」

 

「いや、肉食動物になったやつらだ」

 

「肉食動物?」

 

「動物化が進んで、誰かに襲いかかるかもしれない。そんなことになったらマズい。だから優先的に狙うのは肉食動物の耳と尻尾を生やしたやつらだ」

 

「ライオンとか、虎とかってわけね。でも、そんなの瞬時にわかるの?」

 

「そこでです。俺達は今から職員室に向かいます。職員室の織斑先生の机に俺が置いた誰がどんな動物になったか書いてある名簿帳があるはずです。それを取りに行きます」

 

「なるほど、確かにそれがあればいくらかスムーズに進められるな」

 

「そうと決まれば早速━━━━」

 

 

ガサガサガサガサッ!

 

 

刹那、茂みや木の上からケモ耳ケモ尻尾の女子達が続々と現れた。

 

その数はざっと見ても40人以上いる。

 

「どうやら、お喋りしてる暇は無いみたいね」

 

「マジかよ…なんて数だ……!」

 

一夏が戦慄する。

 

「そりゃ俺ら以外は全員こうなってんだから仕方ないだろ。それにこの道が校舎への一本道だ。正面突破しかない」

 

モドルガンを構える。

 

「待って瑛斗くん」

 

「何です?」

 

「これ、使えるんじゃない?」

 

楯無さんがバスケットからカラーボールを取り出した。

 

「どうするんです?」

 

「こうするのよ」

 

楯無さんはミステリアス・レイディを部分展開して、ボールを大きく振りかぶって…

 

「そーれ取ってこーい!!」

 

ぶん投げた!!

 

『!』

 

女子達はボールの飛んで行った方向に釘付けになって動きを止める。

 

「今よっ!」

 

「「は、はい!」」

 

楯無さんを先頭に一気に走り抜ける。

 

「やった! 抜けられた!」

 

「瑛斗くんまだよ! まだ油断しちゃダメ! 引っかかってないのが追いかけてくるわ!」

 

「なっ!?」

 

楯無さんの言う通り、後ろから追いかけくる足音が聞こえた。

 

「マドカ!?」

 

「…………………」

 

マドカが無言で俺と一夏の後ろを走っていた。

 

そして一夏の真後ろに移動する。狙いは一夏か!

 

「気をつけろ一夏! 多分お前を狙ってる!」

 

「えっマジで!?」

 

「!」

 

予想通りマドカは一夏の背中に飛びついた。

 

「おわっととと…! うわぁ!?」

 

突然の背中からの負荷に一夏はうつ伏せに倒れてしまった。

 

「一夏!」

 

「一夏くん大丈夫?」

 

「いててて……」

 

「?」

 

マドカは一夏の背中に座って動かない。

 

「…………♡」

 

それどころか自分も倒れて一夏の背中に全身を預けた。どこか嬉しそうだ。

 

「だ、大丈夫です。それより瑛斗今だ!」

 

「わ、わかった! おらっ!」

 

 

ビビビビビ!

 

 

「……!」

 

モドルガンからのビームがマドカに直撃して、ポンッ! とリスの耳と尻尾が消えた。

 

「よっしゃ、マドカも戻ったな」

 

「動かないでくれると楽なものね」

 

「ど、どうしよう俺動けない…」

 

「すぐに目を覚ますさ」

 

「う〜ん………」

 

言ったそばからマドカが身じろぎした。

 

「ほらな」

 

「あれ…? お兄ちゃん……? なんで私の下敷きに?」

 

「はは……マドカ、怪我してないか?」

 

「え、うん。してないけど?」

 

「そっか。なら、そろそろどいてくれないか?」

 

「あ、ごめんごめん」

 

マドカが一夏の上からどいて、一夏は立ち上がる。

 

「ん……わっ」

 

「どうしたマドカ?」

 

「せ、制服のポケットの中に木の実が。しかもこんなにたくさん…」

 

マドカが制服のポケットから握った掌を出して開くと、木の実が零れた。

 

「なんでだろ? お兄ちゃんに言われて、木を降りようとしてからの記憶が曖昧だなぁ…」

 

「リスになってたからな。きっとその時に集めて回ってたんだろ」

 

「リス? リスの尻尾とかが生えてたのは知ってるけど……なくなってる」

 

「時間が惜しいわ。校舎に向かいながら話しましょ」

 

楯無さんの言葉を受けて、俺達は校舎に行く道中でマドカに状況を説明した。

 

「ふーん。そういうことなんだ」

 

校舎に着いたころには説明は終わってた。マドカの理解が早くて助かるな。

 

「じゃあ早く職員室に行かないとね」

 

「マドカも協力してくれ。この先何が起こるかわからないからな」

 

「うん。わかったよお兄ちゃん!」

 

「さて、職員室に向かうわよ」

 

新たにマドカを加えて職員室のすぐ近くまで来た俺達。

 

「…あれ? 職員室の前に誰かいるよ?」

 

マドカが職員室のドアの近くで座り込んでいた人影を見つけた。

 

「………………」

 

「ん?……あ、簪!」

 

簪は俺の声に反応してピクリと耳を動かして、こっちを向いた。

 

「わんっ」

 

俺達のそばに来て尻尾をパタパタ振る簪。

 

「おおよしよし、無事だったみたいだな」

 

「わん♫」

 

「瑛斗瑛斗、簪は確か柴犬なんだっけ?」

 

「ああ。簪は柴犬になって………」

 

マドカに答えようとして、そこで俺は声を止めた。

 

「瑛斗?」

 

「柴犬か……………簪」

 

「わん」

 

返事をした簪に右手を近づける。

 

「お手」

 

「…………わんっ♫」

 

ぽん、と右手が置かれた。

 

「ふふ、えらいぞ簪」

 

頭を撫でると嬉しそうな笑顔になった。

 

「わぅ〜ん♫」

 

「か、可愛い…!」

 

さっきの楯無さんと負けず劣らず愛らしいな。

 

「瑛斗くん、おねーさんの目の前で簪ちゃんに芸をさせるのはちょーっと許せないかなぁ?」

 

楯無さんが引きつった笑みを浮かべている。

 

「そう言わずに。楯無さんもやってみたらどうですか」

 

「えっ」

 

ちょっとたじろいだ楯無さんに簪が擦り寄る。

 

「くぅ〜ん?」

 

「か、簪ちゃん…?」

 

「わんわんっ」

 

「きゃ!」

 

簪は楯無さんに飛びついて、小さく出した舌で楯無さんの頬をぺろぺろと舐めた。

 

「簪ちゃ……く、くすぐったいわ」

 

「わうっ♫」

 

「やっ、も、もう! うふふ…」

 

楯無さんも満更でもないみたいで、じゃれる簪を受け止める。微笑ましいぜ。

 

「そうだ! 何か犬用のおもちゃとかあるかも!」

 

「あ、さっきフリスビー見つけたわ! それ使いましょ!」

 

楯無さんと一緒にバスケットの中のフリスビーを取り出そうとした時!

 

 

ビビビビビ!

 

 

「わうっ!?」

 

「「あっ!?」」

 

一夏がモドルガンで簪を撃ちやがった!

 

「よし、これで簪も元に戻せたな」

 

「やったねお兄ちゃん!」

 

「あ…ああ……い、一夏! お前なんてことしてくれたんだ!?」

 

「そうよ一夏くん! こんなのあんまりじゃない!」

 

俺は楯無さんと一緒になって一夏に食ってかかる! せっかく俺達が簪で遊び……いやいや! 簪を可愛がっていたってのに!

 

「えぇ〜…何だこの理不尽……お前も楯無さんも普段よりおかしなテンションだよな」

 

「お兄ちゃん、ドンマイ」

 

「ん……」

 

「あ、簪ちゃん!」

 

「お姉ちゃん……瑛斗…一夏にマドカも………」

 

柴犬バージョンからノーマルバージョンに戻った簪が目を覚ました。

 

「私……何して…?」

 

「えっと…瑛斗と楯無さんが…」

 

「「!」」

 

 

ゴッ!

 

 

「いったっ……!?」

 

俺と楯無さんに完全に同じタイミングで両すねを蹴られた一夏は膝から崩れ落ちる。

 

「一夏…?」

 

「簪、思い出さなくていい。お前は、十分やってくれた……」

 

「そうよ簪ちゃん。簪ちゃんは何も気にしなくていいのよ?」

 

そして何事もなかったかのように簪の肩に手を置いた。

 

「え…? うん……二人が、そう言うなら…」

 

「よ、よし! それじゃあ早く職員室の名簿帳を取るぞ」

 

職員室のドアを開けて中に入る。明かりが点いてないから真っ暗だ。

 

「お姉ちゃんの机に置いてあるんだよね?」

 

「そうだ。俺が自分で置いたからな。織斑先生の机はっと……」

 

何度も見てるから机の位置は簡単にわかる。

 

「お、はっけーん」

 

思いの外早く見つかった。

 

「よしよし、これがあれば楽に進むぞ」

 

「早くみんなを戻しに行こう」

 

「そうね。簪ちゃんも手伝ってくれるかしら? 状況は今話したからわかるでしょ?」

 

「うん……手伝う…」

 

 

カサ……

 

 

「「「「「!」」」」」

 

今、物音がした!

 

「だっ、誰か、いるのかな…!?」

 

「あっちから聞こえたな…」

 

「ど、どうするのお兄ちゃん」

 

「どうするも何も…行くしかないだろ」

 

「待て待て離れるな。全員でまとまって動くんだ」

 

机の陰を移動しながら、音のした部屋の端に移動。

 

「俺が三つ数えた後仕掛ける。一夏はサポートだ」

 

「わかった」

 

「よし。1……2………3!」

 

即座に飛び出し、モドルガンを構える。

 

視界に机の上で身体を絡ませ合うスコールとオータムが━━━━

 

「そいっ!」

 

 

ビビビビビ!

 

 

スコールとオータムが、倒れた。いや、俺が倒した。

 

「クリアーだ」

 

「瞬殺かよ…。お前、この二人にはやけに厳しいよな…」

 

「そうか?」

 

「きっともうちょっと見せ場あったわよ、この人達」

 

「躊躇無し……」

 

「でも私的にはちょっとスカッとしたよ。瑛斗のこの二人への扱いに」

 

マドカは少し晴れやかな表情を浮かべていた。

 

「何にしても、名簿帳も手に入ったし、これで本格的に動けるな。気合入れて、頑張るぞー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 

それからの瑛斗達と動物化した女子達を元に戻していく戦いは熾烈を極めた。

 

見つけては恥ずかしさからか姿を隠してしまう狐になった箒を誘い出すために瑛斗が全力で『るぅぅぅぅるるるるるるるるっ!!』と叫び余計に遠ざけ━━━━

 

木の上でぐっすり眠っていたパンダになった鈴が寝返りを打って落ちそうになるのハラハラしながら見守り━━━━

 

犬になった女子達を一網打尽にしようとおもちゃを使ったところ殺到し過ぎて大変なことになり━━━━

 

今度は猫をとバスケットの底の方にあったマタタビ入りボールを使おうとしたら、瑛斗がそれを投げる直前に大量のネコ科動物化した女子達にもみくちゃにされ━━━━

 

水辺に住む習性のある動物になった女子達が室内プールに集まっており、下着姿で泳いでいたりしていたので、楯無やマドカが一夏と瑛斗の代わりに相手をして━━━━

 

ラウラを含めウサギ化した女子達は真耶と共に校舎付近の芝生でのんびりしていたので案外楽に進んだが、『なんだか、一方的なウサギ狩りを見ているみたい…』とは簪の談である。

 

そして、激しい戦いの末、残るターゲットはついに最後の一人となった!

 

 

「その最後の一人が織斑先生ってどういうことだよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

俺のシャウトが風に揺れる木々に吸い込まれる。

 

戻して回った女子達は山田先生にお願いして寮に戻してもらった。今いるのは専用機持ちだけだ。

 

「そのうち見つかるだろうと思って、たかを括ってたツケが回ってきたわけだ…」

 

箒が眉を下げる。その言葉はまさに俺達も思っていたことだった。

 

「みんなを元に戻してた時も、全然見かけなかったわね」

 

「影も形も見ませんでしたわ」

 

「流石は教官だ。最後の一人にまで生き残るとは」

 

「ラウラ、感心してる場合じゃないよ」

 

「……っくしゅん」

 

カワウソになってた戸宮ちゃんがくしゃみをした。

 

「大丈夫梢ちゃん? プールにいたんでしょ?」

 

「…平気。それより、蘭は大丈夫?」

 

「え? 私?」

 

「…織斑先輩に、タックルくらいの勢いで抱きついてた」

 

「えっ!? そ、それは…!」

 

「…わかってる。蘭には身に覚えのないことだって。でも、ああいう積極的なのも大事。どんどん、やっていこう」

 

「そんなことしたら逆効果だよ……」

 

何の話をしてるんだ? あの二人は。

 

「なぁ桐野、この際他のやつらも呼んでみんなで探すのはどうっすか?」

 

「いや、数でどうにかしようにも、結局はこのモドルガンじゃなけりゃ元には戻せないです。それに、相手は織斑先生ですよ?」

 

「難易度高いっすねぇ…あ、そう言えば、あの二人はどうしたっすか?」

 

「スコールとオータムですか? ダメです。あいつら帰りましたから」

 

「帰っちゃったっすか?」

 

「あいつら…というかオータムが元に戻ったけど俺らに見られたっていう事実がもう恥ずかしくて死にそうなんですって。それでスコールが連れて帰りました」

 

「そうなんすか」

 

「あの時の巻紙先生、涙目だったもんね」

 

「ま、俺としてはいい気味だったがな。さて、何かいい策はないもんかな…」

 

「千冬姉、一体どこに居るんだ…忘れかけてたのほほんさんでさえ元に戻したってのに…!」

 

一夏が歯噛みする。みんな記憶に無いだろうけど、俺も一夏も噛まれたり、のしかかられたりして、結構ボロボロだ。早いとこ事態を収拾したいぜ。

 

「楯無さん、どうします?」

 

「…仕方ないわ。こうなったら奥の手よ」

 

「奥の手?」

 

「そんなのが…あるの? お姉ちゃん…」

 

「あるわ。とっておきのがね…。一夏くん、協力してくれる?」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんの?」

 

「あなたにしか出来ないことよ。このままじゃ、織斑先生が本当に狼になっちゃうわ」

 

「お姉ちゃんが…」

 

「千冬姉が、狼に……」

 

一夏とマドカの表情が強張る。

 

「…やろうお兄ちゃん! お姉ちゃんのためだよ!」

 

「ああ! いっちょやるか!」

 

そしてその後すぐに頷いた。

 

「ありがとう二人とも。みんな、早速準備よ!」

 

そして楯無さん主導の対織斑先生の作戦が始まった!

 

………

 

……………

 

…………………

 

………………………

 

 

「うわわわっ!? ゆ、揺れてる揺れてる!」

 

「こら一夏暴れるな。縄が緩むぞ」

 

縄で縛られ、ラウラに木の枝に吊るされる一夏。

 

俺と楯無さんとラウラ、そして一夏は、校舎から少し離れた林の中にいた。

 

「たっ、楯無さん! これは?」

 

一夏に尋ねられた楯無さんは、ふふん、と自信満々に笑う。

 

「織斑先生を元に戻す作戦よ!」

 

「それが、この、俺を吊るし上げることなんですか?」

 

「そうよ。あなたがそんな状態なら、確実にあの人は来るわ!」

 

「でも、みんな正気じゃないのに、一夏のことなんてわかりますかね?」

 

楯無さんの隣に立っていた俺は若干疑念を抱いていた。

 

「大丈夫。おねーさんを信じなさい」

 

 

rrrrr! rrrrr!

 

 

む、シャルから電話だ。

 

「シャルか? うん。うん。わかった。じゃあ、そっちも頼むぞ。うん。じゃ。楯無さん、向こうの準備出来たみたいです!」

 

「こちらの準備も完了した」

 

「わかったわ。私達は隠れるわよ。一夏くん、頑張ってね」

 

「この状態で何を頑張れば…」

 

ぼやく一夏を背にして、俺とラウラと楯無さんは少し離れた茂みに身を潜めた。

 

「上手くいきますかね?」

 

「すぐにわかるわ」

 

その言葉の通り、5分足らずで変化が起きた。

 

 

ガサガサガサ…

 

 

「………………………」

 

狼の耳と尻尾を生やした織斑先生が木の陰から出て来たんだ。

 

(ほ、本当に来たっ!? しかもみんなと違って二足歩行してる!?)

 

「………………………」

 

吊るされた一夏を見て、沈黙している織斑先生。こっちには気づいてないか?

 

「…や、やっぱりあからさま過ぎるんじゃないですか?」

 

「問題無いわ。ラウラちゃん、お願い」

 

「了解…!」

 

ラウラがナイフを投げて、一夏を吊るしている縄を切断した。当然一夏は地面に落ちる。

 

「痛っ!?」

 

一夏は手も縛られてるから上手く受け身が取れなくて地面に横たわる。

 

「………………」

 

織斑先生は一夏を見たまま動かない。

 

「ち、千冬姉?」

 

「………………」

 

「おわっ」

 

先生がおもむろに一夏を抱きかかえ、チラ、と俺達の隠れていた茂みを見た。

 

「楯無さん…」

 

「ええ、どうやら気づいたわ」

 

短い睨み合いの末に………

 

「っ!」

 

織斑先生が走り出した! 物凄いスピードだ!

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

抱えられたままの一夏の悲鳴が後を引いてる。

 

「作戦通り! 行くわよ二人とも!」

 

「わかりました!」

 

飛び出した楯無さんの後を追う。林の中の道の数メートル先に織斑先生が見えた。

 

「鈴ちゃん! セシリアちゃん! 今よっ!」

 

直進と左折の分かれ道に差し掛かったところで楯無さんが叫ぶ。

 

「いくわよセシリアッ!」

 

「はい!」

 

右側から網を持った鈴とセシリアが飛び出した。それを躱す為に先生は左の道に進む。

 

「蘭ちゃん! 梢ちゃん!」

 

次は蘭と戸宮ちゃんに楯無さんの指示が飛ぶ。

 

「や、やるよ梢ちゃん!」

 

「…合点」

 

大きな網を二人で広げて持ちながら、蘭と戸宮ちゃんが躍り出る。広げた網は分かれ道の片方を塞ぐようになっているから、先生は残された道に走っていくしかない。

 

ここまで来ればもうわかるだろう。楯無さんの作戦とは、一夏を囮にして先生をおびき寄せ、わざと隠れた俺達を気づかせて逃がし、ある場所へ誘導することだ。

 

そしてその場所とは━━━━

 

「頼むわよ箒ちゃん! フォルテちゃん!」

 

「篠ノ之っ!」

 

「わかりました!」

 

フォルテ先輩と箒による最後の通せんぼで織斑先生が誘い込まれた場所は━━━━!

 

「やったわ! 追い込んだ!」

 

高い木々に囲まれた袋小路!

 

「頼むぞマドカァッ!!」

 

「任せて!」

 

木陰から俺が渡したモドルガンを構えたマドカが姿を現す。

 

織斑先生は袋小路に追い込んだ。そして、マドカはその袋小路の出入り口に立っている!

 

「お姉ちゃん! 今戻してあげ━━━━」

 

 

ヒュンッ!

 

 

ビームが発射される前に、なんと織斑先生が回し蹴りでマドカのモドルガンを蹴っ飛ばした。木に激突したモドルガンがボン! と煙を上げる。壊れちまったか!?

 

「…………………」

 

「お、お姉ちゃん…!」

 

「マドカ! 離れろっ!」

 

「マドカちゃん!」

 

俺が叫ぶのと、潜んでいたシャルが一夏を抱えて死角になっている右側から先生を狙うのがほぼ同時だった。

 

「この距離ならっ!」

 

ビームが発射されて、織斑先生に飛ぶ。

 

「…………………」

 

だけど先生は僅かに身体をずらして避けてみせた。見えていないはずなのに!

 

「そんなっ……!?」

 

「……!」

 

シャルに肉薄した織斑先生がハイキックでモドルガンを空に蹴った。

 

「あぁっ!?」

 

蹴り上げられたモドルガンにみんなの視線が集中する。あれまで壊れたらもう先生を戻せなくなっちまう!

 

(そうは……させない!!)

 

 

「ガアァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

咆哮と一緒に、俺は跳躍した。

 

セフィロトを展開して。

 

サイコフレームも発動して。

 

「瑛斗くんっ!?」

 

背部クローアームの掌で宙を舞ったモドルガンを止めて、落下するモドルガンをクロー未展開の右手でキャッチして構える。目標は当然、織斑先生。

 

「これで……フィニッシュだ!!」

 

少し間抜けなビーム発射音が夜空に吸い込まれ、撃ち出されたビームが先生に命中した。

 

「……………………」

 

「お姉ちゃん!」

 

耳と尻尾が消えた織斑先生にマドカが駆け寄って体を揺する。何とかなったな……

 

「ん…? うわっ!?」

 

 

バチバチッ!!

 

 

俺の手の中でモドルガンがスパークして、バラバラに弾けた。

 

「危ねー…もう少しで詰みだったか」

 

セフィロトの青く光るサイコフレームが装甲の内側に戻り、展開を解除する。

 

「すごいね瑛斗! 僕もうダメかと思ったよ!」

 

「うむ、よくやったぞ」

 

「おう、俺にかかればざっとこんなもんよ」

 

「作戦成功ね。お手柄よ瑛斗くん」

 

「楯無さんの作戦のおかげですよ。でも……」

 

「どうしたの?」

 

「上手いこと誘導出来ましたけど、織斑先生は一夏をどうするつもりだったんでしょう?」

 

そもそも、何で先生は一夏を連れ去ろうとしたんだ?

 

「う…うーんと、それはね……」

 

「みなさーん!」

 

楯無さんが何か言う前に、セシリアの声が聞こえた。

 

「セシリア、みんなも来たか」

 

「上手くいったみたいね」

 

「よかったよかったっす」

 

「さっき瑛斗の叫び声が聞こえた気がしたが…」

 

「ちょっとセフィロトを使ったんだ。怪我人は出てないから安心してくれ」

 

「なるほど」

 

「あっ! い、一夏さんが倒れてるっ!?」

 

「うう〜ん…」

 

蘭の言う通り、一夏が目を回して先生の横で倒れていた。

 

「そう言えば織斑先生に担がれっぱなしだったもんな。気絶しても仕方ないか」

 

「そんな冷静な!? い、一夏さん大丈夫ですか!?」

 

「…蘭、ここは人口呼吸で目を覚まさせるしか━━━━」

 

「ちょ、ちょっと! 何ふざけたこと言ってんのよ!」

 

「騒がしい……何の騒ぎだ?」

 

あ、先生が目を覚ました。

 

「お姉ちゃん、気分はどう?」

 

「頭がクラクラする……酒を飲んだ覚えはないんだが………何が起きた?」

 

「えっとね…お姉ちゃんが本当に狼になっちゃう前に、瑛斗がお姉ちゃんを元に戻したんだよ」

 

「何を言ってるのかいまいちわからんが…確かにあの耳と尻尾は消えているな」

 

「楯無さんのアイデアでね、お兄ちゃんを木に吊るしてお姉ちゃんを誘き寄せてここまで誘導したの」

 

「一夏を? ……ふっ」

 

気を失っている一夏を見てから、織斑先生は笑った。

 

「私としたことが、お前に一本取られたということか、更識?」

 

楯無さんを見ながらそんなことを言う。

 

「はい、取らせてもらいました」

 

「…まあいい。今回の件は、災難だったということにしておくか」

 

なんだ? いつの間にか話をまとめられたぞ?

 

「さて、それじゃあ戻るわよ。瑛斗くん、一夏くんを運んでちょうだい」

 

「わ、わかりました」

 

一夏をおぶってから、先に歩き出していたみんなの後を追いかけようとする。

 

(…あ、それで、結局何で楯無さんはあんな作戦を思いついたんだ?)

 

まだ聞けてなかったな。一体どういう考えで………

 

(はっ! まさか、マジで食べるつもりだったのか…!?)

 

あり得る。これはあり得るぞ。なんてこった。俺の最も恐れていたことが起こりかけてたのか…!

 

「瑛斗ー! はやく行こうよー!」

 

「あ、ああ! 今行くー!」

 

シャルに呼ばれて、みんなを追いかける。

 

(一夏には、後で生命の危機が迫ってたことを教えておこう…)

 

 

「あらら…もう終わっちゃった」

 

この世界の何処かから、ハッキングした監視カメラではなく遠望カメラを使って瑛斗達の様子を言葉の通り高みの見物をしていた束は、お菓子を食べ終えてがっかりした子どものような声を出した。

 

「偶然の産物だっていうのはわかってたけど、もうちょっと見てたかったなぁ」

 

「束さま、ただいま戻りました」

 

壁と一体化していたスライドドアが開き、学園に降りていたクロエを迎え入れた。

 

「おお! くーちゃんおかえりー!」

 

マッサージチェアのような椅子から跳ね起きた束はスケートのように床の上を片足で滑ってクロエに近づく。

 

「お疲れー! どうだったー?」

 

「束さまのご指示通り、混乱に乗じて学園内に潜入し、篠ノ之箒さまの映像データを入手して参りました」

 

クロエが手をかざすと、大型ディスプレイに様々な時間、場所、角度から撮られたキツネの耳と尻尾を生やした箒の映像が画面を分割して同時再生された。

 

「わぁー! ありがとうくーちゃん! ご褒美のぎゅ〜っ!」

 

「束さま苦しいです」

 

束の抱擁にクロエは少し顔を赤らめる。

 

「それにしても、くーちゃんもやるねぇ」

 

束がクロエに耳打ちする。

 

「な、何のことでしょうか?」

 

ギク、としたクロエは無駄だとはわかっているが白を切ってみた。

 

「ドサクサに紛れて、IS学園の監視カメラの昨日から今日にかけての映像のデータを消去しちゃうなんて」

 

「う…な、何のことでしょうか?」

 

「知らんぷりしてもダメだよ? なんたって束さんはくーちゃんのお母さんだからなーんでもお見通しなんだよ?」

 

「し…しかし……これで彼らが真実に辿り着くことはありません真実は闇の中でございます」

 

「んふふ〜?」

 

「な、何か…?」

 

「やっぱり、後ろめたい気持ちがあったんだー?」

 

「そ、それは……!」

 

「くーちゃん、くーちゃんは束さんの為に色々してくれてるのはわかってるけど、隠し事したりするのは、束さんちょーっと悲しいなぁ」

 

「そ、そんな大袈裟な……」

 

しかし束は聞かず、クロエから少し離れて座り込み、指で地面に『の』の字を書く。

 

「ショックだなぁ、私のオリハルコンのハートに傷がついちゃうなぁ…」

 

「何ですかその、いまいちわからない例え…」

 

「あーあ、これを癒すにはくーちゃんのウサ耳コスプレ姿を見るしかないかなぁー」

 

「はい?」

 

クロエは目をしばたたかせ、自分の聞き違えではないかと疑った。

 

「くーちゃんが出かけてる間にー、もう一回作ったんだよねー」

 

「やはりそれが━━━━!」

 

しかしクロエは思いとどまった。確かに、束がこうしてへこんでいるのは演技だが、今回の問題の根本的な理由は束が作った薬が自分の作ったグラタンによってケミカルチェンジしたことだ。

 

つまり、クロエには責任の一端がある、ということになる。

 

「……………………」

 

そう考えるとクロエはいたたまれない気持ちになってしまう。

 

(しかし、またあのような格好を……)

 

もう一度束の丸まった背中を見た。演技とはわかっているが、本当に落ち込んでいるかもしれない。

 

(…もし…もし……私のせいだとしたら………)

 

覚悟を決めて、クロエは身体の力を抜いた。

 

「……少しだけ…なら…」

 

ぽそりと呟いたクロエの小さな声を束は聞き逃さなかった。

 

「えっ!? くーちゃん今なんと!?」

 

立ち上がり、目をキラキラと輝かせる束。

 

「すっ、少しだけならっ! 付き合います………」

 

「ほ、ほんと!? 言ったね!? 今言ったよ! くーちゃん今言ったからね! はい言質とった!」

 

「あ、あの…束さま?」

 

「わーい! 早速準備しなくちゃ! きゃっほー!」

 

クロエの言葉を聞くこともなく、束は部屋から出て行った。

 

「……はぁ」

 

クロエは日頃から思っていたことを改めて思った。

 

(やはり、かないませんね……)

 

ことこういうことに関しては、クロエはいつも折れてしまう。しかし、それでも束が望むことならば、叶えてあげたいと考えるのだ。

 

(これからのことを考えれば……)

 

「私は、何処までもついて行きますよ。束さま………」

 

言い終えると、笑顔いっぱいの束が何やら極小の布が紐で繋がれた衣服とは言いづらいものを持って戻ってきた。

 

「それじゃ最初はウサ耳マイクロビキニからいってみよー!!」

 

「えぇっ…!?」

 

それから暫くの間、クロエは束が次々と持ってくる恥ずかしい衣装を着て、恥ずかしいポーズの写真を取られたそうな。

 

(やはり、言わなければよかったかもしれません……というか、私でオチですか?)

 

 

ラ「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ!」

 

シャ&簪「「りゃ、略して!」」

 

ラ&シャ&簪「「「ラジオISG!」」」

 

シャ「て、ちょっと待って待って」

 

ラ「む、どうしたシャルロット。まだ挨拶のくだりがあるぞ」

 

シャ「それの前に二つくらいツッコんでおきたいことがあるんだよ!」

 

ラ「なんだ、言ってみろ」

 

シャ「どうして僕達三人でラジオ始めちゃってるのさ?」

 

簪「それに…この、ケモ耳のカチューシャ…スタッフさんに、渡された……」

 

ラ「今回のラジオISGは番外編の後ということでな、特別に各自がなっていた動物の耳のカチューシャを付けている」

 

シャ「じゃ、じゃあこの三人で始めたのは?」

 

ラ「それはこの質問が来たからだ」

 

シャ「なになに? グラムサイト2さんからの質問。瑛斗ラバーズに質問です。瑛斗にはどんな動物の耳と尻尾が似合うと思いますか? あ、後魔法を使えたら何をしたいですか?」

 

簪「後半…すごい取ってつけた感……」

 

ラ「この質問に答えるにあたり、瑛斗がいると何かと不都合がある。よって今回は私達三人で進行を務めることになった」

 

シャ「そうなんだ」

 

ラ「実を言うと瑛斗と一夏は私達を戻して回っていた時に受けた傷の手当てを受けているのだが、それも理由の一部だろう」

 

簪「そっちが…主な理由だと、思う……」

 

ラ「それでは早速答えていこうと思う。瑛斗にはどのような動物の耳と尻尾が似合うだろうか…」

 

シャ「僕はウサギさんかな。やっぱり、せっかくなら可愛いのがいいと思うんだ」

 

簪「私は……えっと…い、犬なんて…いいかなって…」

 

ラ「私はライオンや虎だな」

 

シャ「わぁ、強そう」

 

ラ「うむ。嫁には強い男であって欲しいからな。さて、この、魔法というやつだが……」

 

簪「魔法…」

 

シャ「か、簪ちゃんの目が光った!」

 

簪「やっぱり炎を出したり、氷を出したり、変身魔法もありだよね。マンガとかで読んだこと、あるでしょ?」

 

シャ「そうだね! 女の子が大人になったりするの見たことあるよ」

 

簪「あれを使えば、理想の身体になれる…!」

 

ラ「り、理想の…!」

 

シャ「身体…!」

 

簪「……でも、現実は厳しいから、頑張ろう」

 

ラ「う、うむ」

 

シャ「は、はい」

 

ラ「つ、次は雷雲さんからの質問だ。うさ耳ラウラに質問です!クラリッサにはどんな耳が似合うと思いますか?あと、本物の耳とうさ耳どっちが感度がいいですか?」

 

シャ「クラリッサさんかぁ、林間学校のあの時あって以来だな」

 

簪「ラウラの部隊の、副隊長さんだよね?」

 

ラ「うむ。やはり、隊の者には私のように黒ウサギの耳になってもらいたい」

 

シャ「黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)だもんね!」

 

簪「じゃあ、耳の方に……ラウラは、瑛斗に触られたんだよね?」

 

ラ「ま、まあな」

 

簪「どうだった?」

 

ラ「触られた時は驚いたが、今思うと、経験したことの無い感覚で、き、気持ちよかった…」

 

簪「……羨ましい」

 

シャ「簪ちゃんも撫でてもらってたよね。いいなぁ、僕も正気なうちに瑛斗に撫でてもらいたかったよ…」

 

ラ「運が無かったな、シャルロット」

 

簪「そういう時も、あるよ」

 

シャ「あ、ありがとう…」

 

ラ「次で最後だな。カイザムさんからの質問だ。シャルロットに質問です!!シャルロットのお母さんが作ってくれた料理で1番好きな料理は何ですか?」

 

シャ「僕への質問だね。お母さんの料理かぁ……」

 

ラ「母の味、というものか」

 

シャ「うん、お母さんはもういないけど、お母さんのことはどんなことでも忘れてないんだ」

 

簪「素敵、だね…」

 

ラ「ああ。それで、シャルロットは母の味で何が1番好きだ?」

 

シャ「僕はね、お母さんの作ってくれたグラタンが大好きなんだ」

 

ラ「そう言えば、食堂で好んで食べている印象だな」

 

簪「そういうことだったんだ…」

 

シャ「いつかね、お母さんの作ってくれたのと同じくらい美味しいグラタンを作るのがちょっとした夢なんだよ」

 

ラ「ほう」

 

シャ「そ、それで…瑛斗と一緒にそれを食べたいなぁ…なんて……」

 

ラ「ダメだ」

 

シャ「そんなばっさり!?」

 

ラ「私もシャルロットの作るグラタンが食べてみたいぞ。だから、その時は私も呼べ」

 

簪「あ……そっち…」

 

ラ「?」

 

シャ「…ふふっ。そうだね。それじゃあラウラと簪ちゃんの分も作ってあげる。みんなで食べよっか」

 

ラ「うむ! 楽しみにしているぞ!」

 

簪「私にも作ってくれるんだ……嬉しい…」

 

ラ「…む? そろそろ時間のようだな。それではエンディングだ」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

ラ「いつもなら瑛斗が知り合った何者かに歌わせているのだが、今回はその時間も無かったのでオフボーカルだ」

 

シャ「ここの歌う人ってさ、瑛斗がどうやって知り合ってるのか気になる時があるよね」

 

簪「それ、わかる…」

 

ラ「あいつは収録前に何をしてるのだろうな。さて、シャルロット、簪、最後までしっかりやるぞ」

 

シャ「うん!」

 

簪「わかった」

 

ラ「よし…それじゃあ!」

 

シャ&簪「「みなさん!」」

 

ラ&シャ&簪「「「さようならー!」」」

 

 

後書き

 

夜中も暑い…! 溶ける…!

 

さて、お待たせしました番外編の後編! 楽しんでいただけましたでしょうか?

 

番外編というわけで、若干キャラ達を弾けさせてみたりみなかったり。

 

クロエでオチにしてみたのは、ちょっと冒険でした(笑)

 

さてさて、次回からは本編に戻ります。

 

迫る学園祭に向けて頑張る瑛斗達が、ある人物に出会います。

 

次回もお楽しみに!

 

また、オリキャラが来る予感…


 
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