No.665463

ALO~妖精郷の黄昏~ 第10話 和人の心傷

本郷 刃さん

第10話になります。
前回の続きで真っ当なシリアス回となっています。
重すぎることはないと思いますが、決して軽い話しではありません。

どうぞ・・・。

2014-02-23 12:22:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:15349   閲覧ユーザー数:14520

 

 

 

 

 

第10話 和人の心傷

 

 

 

 

 

 

 

明日奈Side

 

「かず、と…くん…?」

目の前で倒れている彼を見て、わたしは硬直してしまった。

 

なんてことはないはずで、いつも彼にからかわれて(愛情行為と理解済み)いたから、ほんの意趣返し、

少しからかうつもりで『SAO事件全記録』の一文を、“黒の剣士”の台詞を彼に伝えた。

 

『俺が2本目の剣を抜けば、立っていられる奴は……いない』

 

和人くんには悪いけれど、この台詞を読んだ時は思わず軽く噴いてしまった。

他のクラスメイトのみんなも笑ってはいたけど、彼に感謝している気持ちは凄く伝わってきた。

それでわたしの心は浮ついていたのかもしれない。

直前にされた激しいキスと、優しい言葉のせいかもしれない。

わたしの方が年上だから、偶には手玉に取ってあげたいと思ったから、少しの意地悪のつもりだった…。

だから、眼を瞑ってその台詞を言って、眼を開けた時に彼の反応を楽しもうと思っただけだった……なのに…。

 

どさっ、と何かが倒れる音がして、音を確認しようと目を開けた時、

膝を着いて胸を押さえて苦しそうにしている和人くんの姿が目についた。

 

「え…」

「はっ、はぁっ…(どさっ)」

 

わたしが息を呑んでいるうちに、彼は苦しげに息を吐きながらも力が抜け落ちたように倒れ伏した。

呆然としていたわたしは徐々に、現実を理解していく…。

 

「かず、と…くん…?……っ、和人くん!?」

 

意識が現実に戻って、すぐさま彼に駆け寄って声を掛ける。

 

「和人くん!? しっかりして、和人くん…かずとくん!?」

「うっ、ぁ…」

 

幸い気を失っているだけみたいだけど、油断は出来ない。

すぐに呼吸が乱れていないか、また脈が弱くなっていないかを確認する(元看護婦さんの葵さんから学んだ)。

これも不幸中の幸い、脈に問題は無くて、呼吸も彼が気を失う寸前よりかはマシな感じがした。

それでも、正しく彼の状態が把握できないわたしは不安で一杯で、携帯端末を取り出して通話をかけた。

 

「もしもし、志郎君!? おねがい、すぐに屋上に来て! かずとくんが…!」

『どうした!? なにがあった!?』

「い、いきなり倒れて、気を失って…呼吸と脈は大丈夫だけど、わたし1人じゃ…!」

『分かった、すぐに行く!』

 

通話が終わってから今度は和人くんの体温と心拍数を確認する。

いまの連絡をしたことで少し安心ができたわたしは、

自分の端末に彼の体温と心拍数が把握できるアプリを入れているのを思い出した。

焦ってばかりいたせいで忘れていたけど、確認してみればこっちも落ち着いている。

これなら多分大丈夫だと思いたいけど……すると、階段の方から凄い勢いで誰かが昇ってくる音が…。

 

「明日奈、和人は無事か!?」

 

ドバンッと、ドアが吹き飛びそうな勢いで開いて、そこから志郎君が現れました。

 

「う、うん…意識はないけど、他は大丈夫だと思うの…。

 だけど詳しいことは分からないし、ここじゃダメだから保健室に運ばないといけないって考えて…」

「正しい判断だな…俺が背負って運ぶから、保健室に行くぞ!」

「は、はい!」

 

志郎君は和人くんを背負い、わたしたちは保健室へと急ぎました。

道中で他の生徒が何事かと振り返ったりして、彼が倒れたことはあっという間に校内に広まりました。

わたしたちはそれどころじゃなくて、必死に保健室まで向かった…。

 

 

 

 

「……ふぅ、おそらくだけど、精神的になにかしらのショックを受けて意識を遮断したのかもしれないわ。

 防衛本能がそうさせた可能性もあるけれど…とにかく、大丈夫だから安心しなさい」

「良かったぁ……ありがとうございました、先生」

「ありがとうございます」

 

和人くんを保健室に運び込み、ベッドに寝かせてから保健室の女性の先生が軽く診察をしてくれて、

問題無いということを聞いてホッとしました。志郎君も安心した様子です。

 

「いいのよ、保険医ですもの。私は彼の先生に報告してくるから、ここをお願いするわね。

 いまは他の生徒もいないから、静かにしていてくれれば居てくれて構わないわ」

 

そう言って先生は保健室から出ていきました。

わたしは和人くんが眠るベッドの隣にある椅子に腰かけて、彼の左手をぎゅっと握りました…そこに…。

 

「「「「「「「「「「和人(さん)、大丈夫(か)(ですか)!?」」」」」」」」」」

 

景一君と烈弥君に刻君、里香と珪子ちゃんの5人に加えて、(サチ)ちゃん、京太郎(ケイタ)君、(テツ)君、

勇介(ロック)君、宗司(ヤマト)君という黒猫団の5人を加えた計10人がドアを開けて入ってきました。

みんな心配してきてくれたみたい…とはいえさすがに騒がしいと思ったのか、

志郎君が人差し指を自分の唇の前に立てて静かにするジェスチャーをして、

理解したみんなは静かになってから近づいてきました。

 

「……和人の容態は?」

「ん、心配要らないってさ。呼吸、体温、脈拍、意識レベル、どれも異常なし。ただ、気を失った原因が分からないんだよ」

「……原因? 理由は分かっているのか?」

「理由の方は防衛本能が精神を守るために強制的に意識をシャットダウンさせた可能性が高いんだと」

「……ふむ…」

 

このメンバーの中で一番冷静な景一君が代表して志郎君に説明を求めて、彼もそれに応えている。

 

「とにかく無事ってことなのよね…」

「安心しました~…」

 

一息吐いたのは里香と珪子ちゃん。

 

「でも心配したよ~…」

「そうだよな、あの和人が倒れたっていうから…」

「違う意味で俺はビビったぞ…」

「かなりヒヤッとしたからなぁ…」

「僕もビックリしたよ…」

 

幸ちゃんに京太郎君、哲君と勇介君と宗司君は未だに緊張している様子を見せています。

 

「「………」」

 

一方、烈弥君と刻君は真剣な表情のまま静かにしている…どうしたのかな?

 

「とりあえず和人は大丈夫だ。というわけで昼休みももう終わるから、俺たちは戻るとしようぜ。

 和人のことは明日奈に任せたほうが良いだろ」

「そう、ですね。明日奈さん、おねがいします」

「頼むっすよ」

 

志郎君の言葉に従うように烈弥君と刻君はドアへと向かっていきました。

 

「あ、烈君待ってよ~」

「ちょ、ちょっと志郎!明日奈、またあとでね」

「わたしたちも行こうか?」

「だな」

「「「おう・うん」」」

 

珪子ちゃんと里香は3人を追いかけるように出て行って、黒猫団の5人もそのあとをついて出て行きました。

 

「……明日奈、今回ばかりは私も原因が分からない。おそらく、和人自身も把握していなかったことだと予測できる。

 ともすれば、和人が目を覚ましたら多少は困惑している可能性もある。

 その時はキミがいつも通り落ち着いて接してあげてくれ」

「うん、もちろんだよ」

「……任せた。では、失礼する」

 

景一君は伝えることを伝えて笑みを浮かべてから去っていきました。

みんなを見送ったわたしは眠っている和人くんに視線を戻して見守る。

しばらくすると保健の先生が戻ってきて、ここに残ることを伝えると笑顔で快諾してくれました。

 

 

 

 

それから5コマ目の授業開始のチャイムが流れてきて、丁度20分が経過した時でした。

 

「ぅ、ぁ…」

「っ、和人くん…?」

「あす、な…? ここは…?」

 

和人くんが目を覚ましました。

 

「うん、明日奈だよ。ここは保健室……どうなったか覚えてる?」

「あぁ、俺、気絶したんだったな……原因は、アレ(・・・)か…。ここにはどうやって?」

「志郎君に連絡して運んでもらったの…。わたしもみんなも、凄く心配した…」

「心配かけさせてごめん。それと、傍に居てくれてありがとう…」

 

どうやら経緯は覚えているみたいで、謝ってからはお礼を言ってきた。

もぅ、謝らなくてもいいのに…。

 

「目が覚めたみたいね。体調の方はどうかしら?」

「問題ありません。すぐに戻ります」

「駄目よ、ゆっくりしていきなさい。せめていまの授業が終わるまではね」

「はい…」

「それじゃ、2人で話すこともあるだろうから私は外させてもらうわね」

 

起きてベッドから立ち上がろうとした和人くんを先生が言葉で制してから彼に注意して、また保健室から出て行きました。

多分、気を利かせてくれたんだと思う。

 

「明日奈」

「なに、んっ…んふぅ…//////!?」

 

彼に名前を呼ばれたかと思うと、そのままキスされました///

最初は触れるだけ、少しずつ舌を絡めたりして、だけど優しいキス…///

そのお陰でわたしの中の不安は治まりました///

唇が離れると和人くんに抱き締められました。

 

「改めて、不安にさせてごめん。目が覚めて、明日奈が傍に居てくれて嬉しかった…」

「う、ん…うん///!」

 

わたしも改めて彼が無事であったことに安堵しました。

だけど、同時に思うのはどうして彼が倒れてしまったのかということ。

『SAO事件全記録』のことで精神的に疲れていたにしても、あの台詞の一文を聞いただけで気絶するのは何かあるとしか思えない。

わたしは、和人くんの背負っているものを一緒に背負いたい、だから…。

 

「和人くん……どうして気絶したのか、分かる…?」

「……あぁ、話すよ」

 

寂しそうな笑みを浮かべて答えた和人くんを見て、わたしはいくつかのことを思い出した。

 

1つは、SAOで初めて彼と結ばれる前…和人くんが『嘆きの狩人』であることを明かした時。

もう1つは、彼が初めて凜子さんと会って茅場さんの遺言を伝えて、その後でわたしのところに涙を流して来た時。

 

主なのはこの2つだけど他にも何度かこの表情を見てきて、

しっかりと覚えてる。だって、どれも和人くんがわたしに弱さをみせる時の姿だから。

 

「まずは前提として、俺はSAO時代に『嘆きの狩人』に所属して【狩人の剣士(セイバー)】を名乗っていた。

 殺した人数は33人、全員のプレイヤーネームと顔を覚えているよ…」

 

これはわたしも知っていることで、リアルに戻ってきてから和人くんに教えられたこと。

彼は自分が手に掛けた人の顔とプレイヤーネーム、それに聞いた話では菊岡さんからリアルの情報も聞き出したみたいで、

本名の方も覚えて忘れないようにしているらしい。

 

「例え、彼らが快楽や自分の欲のために人を殺したのだとしても、

 俺が命を奪った以上はその分の命も背負って、生きていかなくちゃならない。

 後悔がない訳じゃない…それでも、無辜のプレイヤーや守りたい人たちを守れたことは誇りに思っている」

 

そう、人の命を奪ったからにはそれも背負わなくちゃいけない。

後悔しかないのなら、初めから戦わないで逃げればいいのだから。

それに、彼が成し得たことは間違いなく意味があった…多くのプレイヤーの命が助かって、わたしも救われたから。

守り、助けて、救ったことは誇りに思っていいはずだから。

 

「それでも、な……初めて人を殺した時のことは一番鮮烈に覚えているし、それ以降のことも一片たりとも忘れたことはない…。

 だからこそ俺は、屋上でのあの言葉を聞くのが辛かった…」

「どう、して…?」

 

さっきよりも一層辛く、寂しそうな表情になった和人くんの手を優しく握り締め、その瞳を見つめる。

大きく深呼吸しながら瞼をおろした彼は、開いたあとに語り始めた。

 

「50層のボスを倒し、魔剣である『エリュシデータ』を手に入れてしばらくした時、

 俺のスキル欄に1つのスキルが現れていた…それが《二刀流》だ。

 スキルを高めるために同時期にユニークスキルを手に入れ始めていた『黒衣衆』のみんなと一緒に、陰でスキルを高めていた。

 加えて、俺のリアルでの本領もまた二刀流だったから、驚くほどに俺に馴染んでいたよ…」

 

リアルでも『神霆流』の武術を会得している和人くんの本領が二刀流なのは知っている。

だけど、それがどうしてこの話に…。

 

「二刀流は俺の本領、つまり本気を出させやすい状態だ。

 命懸けの殺し合いをする“狩人”にとって、本気を出しやすく、また確実に殺せる機会が多いに超したことはない」

 

そこまで聞いて、わたしは自分が冷や汗を掻いているのに気付いた。

和人くんの本気、確実に対象を殺す、狩人…。

 

「俺は、自身のユニークスキルが明るみに出るまでの間、《二刀流》を以てほぼ確実に敵を葬ってきた」

 

わたしは、なんてこと…。

 

「モンスターも…」

 

和人くんの傍に居ながら…。

 

殺人(レッド)プレイヤーも…」

 

結局のところわたしは…。

 

茅場と須郷(ゲームマスター)も…」

 

彼の背負ってきたものを…。

 

「俺の《二刀流》の前では…」

 

『俺が2本目の剣を抜けば、立っていられる奴は……いない』

 

「生きてはいない…」

 

ほとんど、分かってあげていなかった…。

 

明日奈Side Out

 

 

 

 

和人Side

 

ほとんど衝動的なものだった。

 

ウェルガーは俺が“狩人”だったことは当然知らないし、いまでも確実に知らないと断言できる。

ただ、本当に偶然のことだったんだ…それでも、俺にとって『俺が2本目の剣を抜けば、立っていられる奴は……いない』、

この言葉はまるで殺してきたことを責められているかのように感じ取ってしまった。

知られていないはずなのに「お前は殺戮者だ」と、「なぜ殺す必要があったのか」と、

「生かすことができたはずだ」と、そう言われているかのように聞こえてきた。

実際のところ、俺が殺した人数が公に知られているのは『第1次ラフコフ討伐戦』の際の2人であり、

それは攻略組にしか知られていないことでもある。

 

それでも、多く、深く考えてしまうのはこの性格ゆえか…。

 

「………な、さい…」

「明日奈…?」

「ごめ、ん…なさ、い…」

 

聞こえてきた明日奈の小さな言葉、思わず聞き返した時、彼女は瞳からぽろぽろと涙を零して謝ってきた。

思わず呆然と、愕然とする。

 

「ごめん、なさい…。わたし…また、なにも、きづいて……あげられ、なかった…(ひっく)。

 かず、と、くんの…せおって、る、もの……いっしょに、せおうって…いったのに…(ぐすっ)。

 いまのせいかつが…あまりにも、しあわせ、で……きづいて、あげれ…なか、った…う、あぁっ…」

「っ、明日奈…!」

 

涙を流して、嗚咽を漏らしながら話す彼女を強く抱き締める。

まただ…また俺は、自分で抱え込んで、心配させて、明日奈を悲しませて、泣かせて…!

なにを、やっているんだ…!

 

「ごめん…! 心配させて、不安にさせて、話さずに1人で抱え込んで、悲しませて……本当にごめん…!」

「たよって…。わたしに、あまえて…もっと、たよって…(ひくっ)。わたしは、かずとくんのみかただから…」

「あぁ…!」

 

そうして明日奈も俺に強く抱き縋ってきたので、俺もまた強く抱き締め返した。

本当に申し訳ないことをしてしまった……もうこんなことはないようにしないといけない。

だから俺と明日奈はしっかりと向き合って話をすることにした。

保健の先生に頼んでから、俺たちは2人きりで話し込んだ。

 

 

結局、俺たちは6コマ目も休んで保健室で話し込み、授業が終わって放課後になった時には2人してベッドで眠ってしまっていた。

志郎たちが来る前に先生に起こされ、それからやってきてみんなに改めて無事であることと、

もうこんなことはないことを伝え、安心させた。

まぁ心配を掛けさせてしまったので、お詫びということで今度リアルで奢ることにした。

下校の際に明日奈を家まで送ってから自宅に帰り、スグと共に夕食を取ったり、準備を終えてからALOへとダイブした。

その後、本日倒れたことを明日奈がみんなに明かし、明日奈と2人で解決してもう問題無いということを伝えた。

 

今日は本当に明日奈にもみんなにも申し訳ないことをしてしまった。

未熟であることを痛感し、改めて明日奈やユイとちゃんと話していこうと思った。

 

和人Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、こんな感じの仕上がりと相成りました。

 

まず自分が原作を読み、和人が明日奈と詩乃の2人にあの台詞でからかわれるシーンを読んで思ったことを書いた次第です。

 

傍から見ればなんてことはない恥ずかしいセリフかもしれませんが、

実際デスゲームを経験してあんな台詞を聞かされれば、まるで“人殺し”だと言われているように聞こえるんですよ・・・。

 

特にキリト(和人)にとっての《二刀流》とはそれほどのものだと思いますからね。

 

まぁ今回はシリアスに終わりましたが、次回からはまた冒険がメインに戻ります。

 

次回はニブルヘイムを探索する話しです・・・それでは!

 

 

 

 


 
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