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ALO~妖精郷の黄昏~ 第9話 SAO事件全記録

本郷 刃さん

第9話です。
今回はあの『SAO事件全記録』が発売した時の話を書いてみました。
原作では一文程度の説明でしたが、本作では割と重要な話になります。

どうぞ・・・。

2014-02-16 11:35:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:13644   閲覧ユーザー数:12890

 

 

 

 

 

第9話 SAO事件全記録

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

GW(ゴールデンウィーク)も明けて1週間も経過した頃の月曜日。

週初めの学校ということで多少は面倒臭いと思いながらも、

愛しの彼女である明日奈をバイクで迎えに行き、2人で学校へと向かった。

いつも通りに駐輪場へバイクを停めるためにそちらの入り口を通り、バイクを停めて下駄箱のある玄関口へと足を進めた。

 

その道中、俺と明日奈は同じく校内へと向かう他の生徒たちから視線を集めていた。

視線の種類は負の感情ではなく、尊敬・羨望・好意・好奇などなどの正の感情である。

ひそひそと傍の人と話をしたり、小さいながらも黄色い声を上げている。

もちろん俺も明日奈も身に覚えがないので取り敢えずは教室に向かうことにする。

念の為に明日奈を彼女の教室まで送り、俺も自分の教室へと向かい、ドアの中へと入った。

すると、室内のクラスメイトたちの視線が一気に俺に集まり、

思わず1歩だけ退いてしまった……なんだ、今日の反応は…?

ともかく席に着き、落ち着こうとしたところで興田と村越が俺の元にきた。

 

「おいおい、カズ! みずくさいじゃねぇか、なんで言わなかったんだよ!」

「なんのことだ…?」

「なにって、SAOのラスボスを倒したのがお前だってことだよ。俺たち礼の1つも言ってないしさ」

「はぁっ…!?」

 

やや興奮気味な興田の言葉に聞き返したところで、村越も落ち着きのない様子で言い、2人の言葉に俺は思わず絶句した。

当然である、あの時の出来事……俺と茅場、つまりはキリトとヒースクリフの決戦については箝口令とは言わずとも、

一種の暗黙の了解のようなものがあり、自然と語られることはなかったはずだ。

それが、なぜ…!?

 

「カズ、もしかしてお前『SAO事件全記録』読んでないのか?」

「え、そうなのか?」

「『SAO事件全記録』って、昨日発売した本だったよな?確かに読んでないが…」

「私持って来てるよ! えっと~……あ、あった、ここだよ」

 

『SAO事件全記録』とはつい先日発売されたばかりの本で、

なんでもSAO時代の様子をある程度だが暈したり、誤魔化したりして書かれている本らしい。

それを読んだからと言って、なぜ村越と興田やみんなが知っているのか分からない。

つまりその本に理由があるようで、近くに居た女子生徒が礼の品である本を開きながら、俺の前に差し出した。

そこには…、

 

「マジかよ…」

 

『白く輝く聖剣と黒く輝く魔剣を振りかざし、その命を懸けて魔王ヒースクリフへと突き進む剣士。

 ラスボスである魔王ヒースクリフは剣と盾を駆使して剣士と相対する。

 互いに一歩も譲らない鋭い剣撃を重ね、HPを削り合っていく。

 剣士の命が危ないと、悲痛な声が響き渡る中でも彼は決して退かず、激しい攻防を繰り広げる。

 そして、剣士の最大のスキルである32連撃の剣撃がヒースクリフの身体を斬り裂くことで、ついに勝利をもぎ取った。

 長い攻防の果てに、命からがら勝利を得た剣士……彼こそはSAOから多くの人々を救った英雄である。

 私は生涯に亘って、彼のことを忘れないであろう……魔王ヒースクリフを討ち破った英雄、“黒の剣士”の存在を…』

 

というその文章が書かれていた。

 

これはあくまでも簡潔に纏めた部分であって、どうやら詳しく戦いの様子が描かれている部分があるようだ…。

確かに、確かに暈されてはいるし、誤魔化されている部分もある。

プレイヤーネームは一切書かれていないようだし、明日奈がその身を挺して俺を庇おうとした部分、

俺がHPをなくして一度だが消滅した部分なども省かれている。

それに他のページの様子を見てみるに『ラフコフ討伐戦』などの命を奪い合う戦いだったところは、

あくまでも捕まえるだけに済ませたような描写になっている。

 

だが言わせてもらおう。確かに名前は伏せられているし、拙い描写も少ない……だが、特徴で俺だと丸解りじゃないか!

聖剣と魔剣、それに黒の剣士など、こんな簡単なキーワードではSAO生還者ならすぐにわかるぞ!

 

「お、お~い、カズ~…?」

「き、きこえてるか~…?」

「あ、あの~…(わ、わたしの本がミシミシと~!?)」

「え、あぁ、すまない…。ちょっと考え込んでた」

 

表情を引き攣らせたり、僅かに怯えながら3人が声を掛けてきたことで意識が覚醒した。

しまった、どうやら怖がらせてしまうくらいに表情が変化していたようで、自重しなくては…。

 

「はぁ……とりあえず、あまり大手を振ってこのことは言わないでくれるか? 正直、厄介なことになりかねないからな…」

「まぁそりゃ当然だけど……それでもさ、ありがとな、カズ」

「カズがクリアしてなかったら、俺たち今頃どうなってたか想像したくもないし…。ホント、ありがとう」

「いや、俺は別に…」

 

面倒なことを避けたくて言ったものの、“黒の剣士=俺”という公式はこの学園では周知の事実なので誤魔化せるはずもない。

興田も村越も本当に感謝している様子があって、他のクラスメイトたちも寄ってきては心を込めて礼を言っているのがわかる。

そのため、無碍にもできず、その言葉をありがたく受け取ることにした。

 

「……おはよう…っと、なんだ、この騒ぎは?」

「お、ケイもきたな!」

 

ドアを開けて入ってきた景一が少し驚きながらも聞いてきたが、興田が彼に駆け寄って同じ話をしている。

最後の戦いに景一が居たのは『SAO事件全記録』によってバレているため、すぐに俺と同じ状況になったのは言うまでもない。

結局、この騒ぎはSHRのために担任がくるまで続くこととなった。

 

 

 

 

2コマ目の休憩時間、早々に教室を出て他の生徒に捕まらないようにし、屋上へと向かった。

合鍵を持っているのでそれで鍵を開け、外から鍵を閉めて一息吐く。

何故ここに来たのかというと、1コマ目の休憩時間に起きたあることが原因だ。

それは他の学年の生徒までが俺のクラスまでやってきたことにある。

入室はしてこなかったが、俺を一目見ようとしていたのは明らかで、逆に教室から出ることもできなかったのだ。

なので、景一や他の学年にいる志郎や烈弥、刻には悪いがここに避難しにきたわけだ。

ただ、他にも目的があってここにきたんだけどな…そう思いながら、携帯端末を取り出してある番号を押し、コールする。

 

『いや~、キミの方から連絡をくれるなんて珍しいこともあるね~』

「悪いけど時間が無いから本題に入らせてもらうぞ、菊岡」

 

そう、俺が連絡をした相手は総務省の仮想課、そして防衛省に所属している菊岡である。

理由は勿論、『SAO事件全記録』について問い質すためだ。

 

「『SAO事件全記録』、アレはなんだ?」

『何って、SAO事件の際に囚われていたプレイヤーが書いた本だよ。

 当時、攻略組だった著者が自分の目で見て、耳で聞いて、人から教えてもらって、生きてきたことを書いたものだ』

「あぁ、それはクラスメイトから少し読ませてもらったから分かった。

 だが、何故いまなんだ? それに、最後のアレ……俺だとバレバレだぞ…」

 

一種の箝口令が下され、誰がどのプレイヤーであるかを明かすことは基本的に禁じられている。

本人同士での理解あっての確認などは許可されているが、どんな行動を取って、

どんなことをしていたということでさえも、公にするわけにはいかない…それが政府側の基本的な意向であった。

それがいまのタイミングで一部だが緩やかになったのには、当然ながら意味があるはず。

 

『それじゃあ、まずはいまのタイミングで出版を許可したことについてを説明しようか。

 キリト君も知っているとは思うけど、『ザ・シード』の出現に伴いVRMMOの数、いや世界は多いに増えた。

 とはいえ『SAO事件』と『ALO事件』、この2つによる影響でVRゲームが受けた被害、

 それにマイナスイメージは払拭されたかというと、そうではない。

 それに『死銃事件』にくわえて、VRMMOが原因での犯罪、またはそれを利用した犯罪が大小なり増えていることも事実、

 ここまでで大体の察しはついたんじゃないかな?』

「あぁ、そういうことか……要は“英雄譚”でも作って、プラスイメージを植え付けようってことだな。

 事実の中でも良い話しを押し出して、悪い話しはみんなで協力して解決しましたよ、とでもしたのか」

『そういうことだよ』

 

菊岡の肯定の言葉に納得する。

それは俺も彼も、いまの時代の発展にVRワールドが必要であることを理解しているからだ。

そのためにはマイナスイメージを可能な限り取り除き、多くの人に良い印象を与えたいのだ。

 

「まぁそれはわかった……んで、なんで態々“黒の剣士”を選んだ?

 クリアしたあの場に居た面々なら抑えもきくから別に“黒の剣士”じゃなくても、

 適当な実在しない奴でも良かったんじゃないのか…?」

『キミの言いたいことはわかるよ。もちろん、情報統制も行っているし、可能な限りは情報が漏れないようにはしている。

 けれど、こればかりは“絶対”という言葉が通用しないのはキミも良く知っているだろう?

 それなら“黒の聖魔剣士”ではなく、“黒の剣士”で済ませれば、多少の誤魔化しが利くということだよ』

「SAO生還者、その中でも前線に近しい場所にいた人間しか知らない、ということを利用する、か…」

 

つまりは一種の情報操作だ。特に最後の戦いの状況ばかりは表立たせない方が良いと判断したのだろう。

ヒースクリフの正体が茅場だと明かしていないのも、俺が倒した=殺したということを広めないためであるだろうし。

 

『その通りさ。ALOにおいて“黒の聖魔剣士=キリト”は成立しているけれど、

 “キリト=桐ヶ谷和人”は学校の生徒や一部の人間しか知らない。

 他にもSAOで“黒の聖魔剣士=黒の剣士”は成立していたが、

 “黒の聖魔剣士=黒の剣士=キリト”というのは前線以外では成立していなかった。

 それなら幾つかある通り名を“黒の聖魔剣士≠黒の剣士”にすれば、それは世間一般には別人ということになる。

 ま、学園の生徒に知れることになるけれど、これでキミやアスナ君にちょっかいをかける人も減るとは思うよ』

「なるほどね…理解はしたし、ある程度も納得はしたよ。

 完全に実在しない人間だと、返って怪しまれる可能性も高いしな……ただ俺は…」

『「英雄なんかではない」、だろう?それはわかっているし、キミ自身がそう思っていればそれでいいんじゃないかな?』

 

情報を混濁化させることで渦中の人間である俺たちをある程度は守る、か。

俺たちを出汁にしたいのか、守りたいのか……両方だろうけどな。

 

『とりあえず、一時の間は騒がれるかもしれないけど、そこは耐えてくれるとありがたい。

 迷惑料も考えて、バイト代は弾ませてもらうよ』

「了解、納得しておくよ。ただ著者が誰なのか、聞いてもいいよな…?」

『それに関しては著者本人からも了承を得ているよ……キミで言うところの、

 ギルド『聖竜連合』のリーダー、ウェルガーという人物だ』

「うぉい、あの人か!? なんか意外だぞ…」

 

うぅ~ん、だが初期の段階から大手ギルドを率いてきた人物だし、

SAO内での出来事を詳しく知っている者はそうはいないからな。

それにあの人は良識があるから、加減して書いてくれたに違いない。

 

『それで他に聞きたいことはあるかい?』

「いや、取り敢えず聞きたいことは聴けたからもういい。またなにかあった時には、その時にでも」

『よし、それじゃあ僕は仕事に戻らせもらうよ』

「手間を掛けさせたな」

『気にしないでいいよ。それじゃあまた仕事(バイト)の時に』

 

俺は菊岡との通話を終えた。知りたいことは知れたが、本当に一時の間は騒がしくなりそうだな。

一応、出来るだけ明日奈の側に居られるようにしておくか…。

 

「さて、時間は…っとヤバ、急がないと…!」

 

端末の時計を確認してみると既に授業が始まる直前。俺は手早く屋上を後にして、

急ぎ教室へと戻り、少し遅れたがなんとかお許しを得て授業を受けることが出来た。

 

 

 

 

「あぁ~~~疲れた~~~……そして癒される~…」

「んもぅ、和人くんてば/// でも、おつかれさまです///」

「ん、ありがとう」

 

午前の授業が終わって昼休みとなり、俺は逃げるように教室を出ると明日奈の元へと急ぎ向かった。

そこで彼女を捕まえて即座に離脱、2人して屋上へと向かい、そこで2人きりで明日奈お手製の弁当を食べた。

食べ終わった俺たち、そこで明日奈は自分の膝をぽんぽんとして促してきた。

その意図に気付いた俺はありがたく、彼女の膝枕を堪能することにし、現在の状況になったのである。

 

「入学当初も似たような空気だったけどここまでじゃなかったからさ、

 まだ良かったんだけど…さすがに今回は色んな意味できつい…」

「ふふ、仕方がないよ。キミが【黒の剣士】様なのはこの学校のみんなが知っていることだし、

 実際に終わらせたのも和人くんなんだから。それに……やっぱり和人くんは、わたしの勇者様だから…///」

「明日奈……ん…」

 

照れながらも俺の頭を優しく撫でて言った明日奈。

そんな彼女を愛おしく思っているとそのままキスをされた。

ほんの少し、短い時間だけのつもりだったが、思わず火がついた俺は手で明日奈の頭を押さえ、キスを続行する。

 

「んんっ//////!? んちゅ、ちゅるっ…んふ…//////」

 

驚愕と困惑、羞恥に彼女の瞳が揺れるが、それを無視して少々…というか結構激しく舌で彼女の舌を絡め取る。

唾液を飲み干し合う水音が響き、さすがの明日奈も恥ずかしさのせいか瞳を閉じ、なんとか落ち着こうとしている。

ここまでやれば、十分かな…。

 

「ふぅ……ありがと、堪能させてもらったよ…(ニヤリ)」

「ぅ、ぁ、ぇぅ、うぅ~~~/////////! 和人くんのばかぁっ//////!」

「(ごんっ!)がふっ!? い、つ~~~…」

 

ニヤッと笑みを浮かべて言ったのだが、さすがにいきなりであれほどやってしまったせいか、

怒鳴られてしまい、さらに明日奈は膝を引っ込めて立ち上がってしまった。

そのことで重さに身を任せてしまった俺は後頭部を強打した…くっ、これも自業自得か…。

 

「ふん///! 折角、良いムードにもっていこうとしたのに…和人くんのバカ…///」

「あ、あぁ、それは、ごめん…」

 

なんてことだ、俺としたことが大きなチャンスを逃すとは…不覚!

しかし、だ…拗ねる明日奈もやはり可愛いと思う俺は最早どうしようもないのだろう。

そんな自分に苦笑しつつも良い風景(・・・・)を惜しんでから立ち上がり、彼女の手を優しく握って語りかける。

 

「まずはごめん。それと俺のことを想ってしてくれたんだな…」

「うん…/// それに、少し疲れた顔してたから…」

「明日奈、本当にありがとう」

「ん…///♪」

 

今度は満足気に頷く明日奈、あ~ホント可愛くて仕方がないな~。

そこでふと、明日奈が少し意地悪そうな表情を浮かべていることに気付いた。

これは、甘んじて受けるしかないような気がする。

 

「実はね、クラスの子が『SAO事件全記録』を持って来てたの。それにね、【黒の剣士】様の素敵な台詞があったの♪」

「へ、へぇ~…」

 

実に楽しそうな明日奈に対して俺は表情を引き攣らせながら冷や汗を流す。

 

非常に嫌な予感がする……いつものくだらない予感ならばいいけれど、

いま俺が感じているのは紛れもなく俺自身を揺らがしてしまうものだと、理解できた。

耳を塞ぎたい、眼を閉じたい、ここから逃げ出したい…そう感じるけれど、彼女に心配を掛けさせるわけにはいかない。

 

「その台詞っていうのがね……」

 

眼を閉じながら笑顔で述べようとする明日奈。

さっさと聞いてすぐに落ち着けば、問題は無いはずだ。

そうだ、そうすればいい…。

そして、明日奈の口から出た言葉は……。

 

 

 

『俺が2本目の剣を抜けば、立っていられる奴は……いない』

 

 

 

瞬間、鉄よりも重いと感じた身体が屋上に崩れ落ち、意識は混濁し、暗闇に落ちた…。

 

和人Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

日常回だとかイチャラブ回だとか思った方々、残念でした・・・実はシリアス回です。

 

『SAO事件全記録』は原作の和人(キリト)にとっては黒歴史的なものが描かれているものですが、

本作の和人にとってはそんな生易しいものではないことになっています。

 

なぜ和人が意識を失ったのか、それは次回にて明らかにします。

 

それでは~・・・。

 

 

 

 


 
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