No.659712

ランドシン伝記 第12話

木人(きびと)のツリー・フォートの助けが
来たもののヴィル達は依然、危機的な状況に
あった。
そんな中、トゥセは意外な才能を発揮し、
状況を好転させるのだった。

2014-02-02 01:09:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:346   閲覧ユーザー数:346

 第12話 ツリー・フォート

 

 大木は-さらにヴィルとファントムのもとに近づいて来て、

そして、止まった。

ファントム「チィッ・・・・・・ツリー・フォートか・・・・・・」

 と、ファントムは忌々しげに呟(つぶや)くのだった。

 そこには、大木の形をした何かがおり、ファントム達を

覗きこんでいた。

 その大木のような何か-は明らかに意思を持っており、

その顔にあたる部分は、さながらヒゲの生えた老人の

ようにも見えた。

ヴィル「テ・テヒシ、来てくれたのかッ・・・・・・」

 と、ヴィルは-その歩く大木-テヒシに対し言った。

テヒシ『久しいな、ヴィルよ。して、何やら苦戦しておるよう

    じゃが?』

ヴィル「ああ。助けてくれないか?」

テヒシ『よかろう。お主には恩もある。さらに、猫の王、

    ケット・シーよりの頼みでもある。加勢しようぞ』

 との歩く大木-テヒシは言うのであった。

 それに対し、ファントムは笑い出した。

ファントム「おいおい、おいおいおいッ!こりゃあ、すごい。

      まさか、あの気むずかしいツリー・フォートが

      人間に協力するか?ハハッ、面白い。面白く

      なってきた」

テヒシ『若造よ・・・・・・。痛い思いをしたくなくば、今すぐ

    森を去れ。我々、ツリー・フォートは元来、争い

    を嫌う。どうじゃ?』

ファントム「ハッ、争いこそが、僕の道なんでね」

テヒシ『・・・・・・いたしかた-あるまい。やるぞ、ヴィルよ』

ヴィル「ああ・・・・・・」

 そう言って、ヴィルは剣を構えた。

ファントム「ハッ、こりゃあ、本気、出さねーとなぁッ!」

 すると、ファントムは魔石を取りだし、体内に埋めこんだ。

 それと共にファントムの周囲から、異様な魔力が-ほとばしった。

ファントム「さぁ・・・・・・。始めよう・・・・・・」

 そして、ファントムは詠唱無しで、炎の中規模-魔法を放った。

 それと共に、森は焼けていくのだった。

テヒシ『愚かモノがッッッ!』

 そう叫び、テヒシは巨大な拳を振り下ろした。

 しかし、ファントムは-その拳を器用に避け、逆に、猛毒の

剣を突き立てた。

 その横からヴィルは渾身の一撃を放つも、ファントムは

大きく跳んで避けるのだった。

テヒシ『・・・・・・毒か』

 と、テヒシが呟(つぶや)くと、その傷口から樹液が出て、毒を流し出した。

ファントム「ハハッ、そうだった。ツリー・フォートには、

      毒は効かないんだったなぁ。ハハッ。こりゃあ、

      楽しくなって来たよッ!」

 そう叫び、ファントムは燃える森の中、魔力を高めるのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 一方、トゥセ達は依然(いぜん)、危機的な状況にあった。

 少女アリスの黒い波動が、トゥセ達を襲っていた。

 トゥセ達は今の所、結界で守られていたが、それにはヒビ

が入り、いつ壊れても-おかしく無い状況だった。

カシム「ッ、後、五分と保ちませんッ!」

 と、叫ぶのだった。

 すると、トゥセは-ため息を吐いた。

トゥセ「・・・・・・俺に考えが-ある。カシム、結界を縦に伸ばして

    くれ」

カシム「わ、分かりました。ですが、そうすると、魔力の消費が

    激しくなり、後、数分で結界は壊れますッ!」

トゥセ「十分(じゅうぶん)だ」

 そして、カシムと茶猫のケシャは、結界を縦に伸ばし、

かなり上方の部分まで波動を防いだ。

アーゼ「トゥセ、何を考えてるッ?」

トゥセ「アーゼ、俺を上空に垂直に飛ばしてくれ」

アーゼ「分かった。じゃあ、俺の手に乗れ」

 そして、トゥセがアーゼの手の上に乗り、アーゼは-腕を

思い切り上げ、トゥセを上空に放った。

 トゥセは波動と結界の外へと跳んだ。

 そして、上空から少女アリスを確認し、再び、結界の中へと

戻って行った。

アーゼ「お、おいッ!今、何かしたのか?」

トゥセ「いいから、もう一度、投げてくれ」

アーゼ「分かったッ」

 そして、アーゼは言われるがままに、トゥセを上空へと

放った。

 しかし、トゥセは再び、落ちてくるだけだった。

アーゼ「おいッ!トゥセッ!何やってんだッ!」

トゥセ「・・・・・・もう一回やってくれ」

 と、トゥセは答えるだけだった。

 

 その様子を上空からハンター達は見ていた。

包帯「何やってんだ、あいつら?」

 と、包帯の男は首をかしげ、言った。

獣使い「まさか・・・・・・マズイッ!あのダーク・エルフを

止めないとッ!」

 そして、獣使いのエルフは大ガラスに命(めい)じて、トゥセ達の

所へと向かおうとした。

 しかし、その時、石つぶてが森から飛んできて、大ガラスの

羽に命中した。

 そして、大ガラスは-よろめき、ハンター達も成すすべも無く

あらぬ方向へ落ちていくのだった。

 

 一方、トゥセは何もしないで、再び、落ちてきた。

カシム「トゥセさんッ!あと、一分以内で何とかしてくださいッ!」

 と、カシムは悲痛な声をあげた。

トゥセ「やれやれ、はぁ、女の子を傷つけるのは-しのびなくて

    よぅ」

アーゼ「何、フェミ気取ってんだよッ!早く-やってくれッ!」

トゥセ「分かった。もう一度、放ってくれ」

アーゼ「ああ」

 そして、アーゼは急ぎ、トゥセを上空に放った。

 トゥセはタイミングを計っていた。

 丁度、重力により、速度がゼロになる瞬間、つまり、空中に

完全に浮いている一瞬を求めていた。

トゥセは今、世界をスロー・モーションのように感じていた。

トゥセ(まぁ、仕方ねぇよな・・・・・・。俺も死にたくねぇし。

    それに、こっちにもゴブリンとはいえ、女の子が

    居るワケだしな・・・・・・)

 と、凍れる時の中、緩(ゆる)やかに上昇しながら思うのだった。

 そして、その瞬間が来た。

 今、トゥセは完全に空に静止していた。

 トゥセの瞳は完全に、少女アリスの脳天を捕らえていた。

トゥセ(悪いな)

 次の瞬間、トゥセの渾身(こんしん)の一撃が放たれた。

 カードは上空から、少女アリスめがけて降り注ぎ、黒い波動を貫き進んだ。

 そして、少女アリスの脳天にカードが突き刺さった。

 一方で、あまりにも、その一瞬に-かけすぎたため、トゥセは空中で

体勢を崩し、落ちてきた。

 それをアーゼは受け止めた。

アーゼ「やったのかッ?」

トゥセ「わ、分からねぇ・・・・・・」

カシム「いえ・・・・・・波動が弱くなって来ました・・・・・・」

 と、カシムは言った。

カシム(しかし・・・・・・トゥセさんが、カードを放った瞬間、

    背筋が凍った・・・・・・。トゥセさん。このヒトは、むら

    が-あるが、最高潮の時の実力は神業(かみわざ)に達している)

 と、体を身震いさせ、思うのだった。

 その頃、少女アリスは-よろけていた。

アリス「あ・・・・・・れ?何、これ・・・・・・。頭、何か、刺さってる。

    取ろう・・・・・・」

 そして、アリスはカードを取ろうとするも、上手く取れなかった。

アリス「う・・・・・・うぁ・・・・・・。痛くないけど・・・・・・むかつく」

 そして、アリスは-ぶつぶつと言い出した。

アリス「あぁ・・・・・・お腹、お腹、減った。魂を食べたいよぅ。

    魂、とっても、おいしいから。あぁ、あぁ、おいしか

    ったなぁ、パパとママの魂。おいしかったなぁ。

    いっぱい、食べて、大きくならないと・・・・・・。

    大きくなって、パパとママに褒(ほ)めてもらおうっと」

 と、呟(つぶや)き、笑い出すのだった。

 

カシム「・・・・・・少女の波動が解けました」

トゥセ「おっしゃッ!今の内(うち)に逃げようぜッ!」

 すると、地響きが鳴り、大木がトゥセ達に近づいて来た。

 そして、木人(きびと)、フォーク・ツリーが一人、やって来た。

アーゼ「こ、これって。団長の言ってた」

木人「急ぎ、乗れッ!」

 そう言って、その若い木人はトゥセ達を-その大きな手の平の上に乗せた。

 すると、少女アリスの笑い声が止まった。

アリス『こちそう、いっぱい。逃げちゃ駄目。今日は、お野菜も-たっぷりなの』

 と言い、大規模-魔法を展開した。

 そして、トゥセ達に対し、巨大な重力場が発生し、引きずり

こもうとした。

アリス『アハハ、アハハハ、こっち、こっちだよ。こっちに

    おいでッ!アハハハハハッ!』

 と、アリスは笑いながら、クルクルと回り-踊るのだった。

木人「ヌゥ・・・・・・」

 トゥセ達を乗せた木人は必死に地面に根を張り、重力場から

逃れようとしたが、それでも、少しずつ吸い込まれそうに-なっていた。

 アーゼ達も必死に木人の手に掴(つか)まり、吸い込まれないように

していた。

アーゼ「まずいッ!トゥセ、何とか、ならないのかッ!」

トゥセ「ん・・・・・・あぁ・・・・・・」

 と、トゥセは気のない返事をした。

カシム「カードを放っても吸い込まれてしまいますよ、恐らく」

トゥセ「ん、ああ。そうだな・・・・・・」

 と、トゥセは-ぼんやりとしながら答えた。

アーゼ「トゥセッ!お、お前、この危機的な状況を理解して

    いないのかッ?」

トゥセ「え?だって、もう、勝負、ついてね?」

アーゼ「へ?」

トゥセ「しゃあ無い。魔力も落ち着いたし、やるか。アーゼ。

    俺の体、支えていてくれ」

アーゼ「あ、ああ」

 そして、アーゼはトゥセを片手でつかみ、支えた。

 トゥセは重力場を正面から見据(みす)えた。

トゥセ「まぁ・・・・・・仕方ない事もある」

 そう言って、トゥセは指を鳴らした。

 次の瞬間、少女アリスの頭に刺さっていたカードが-爆発した。

 そして、アリスの魔法は解け、重力場は消滅した。

アリス「ッ!」

 しかし、アリスは再び、魔法を発動しようとした。

トゥセ「遅いぜ・・・・・・」

 と、悲しげに呟(つぶや)き、トッセはカードを数枚、アリスに

向けて投げた。

 それは再び、アリスの体に突き刺さり、爆発していった。

 煙が晴れると、アリスは両膝(りょうひざ)を地面に着いていた。

アリス「あ・・・・・・れ?変だな。詠唱・・・・・・出来ない」

 と、アリスは-ぶつぶつと呟(つぶや)いていた。

 すると、ハンター達がアリスの周りを囲うように現れた。

包帯「チッ、奴ら、ぶっ殺すッ!」

 と、包帯の男は激昂(げっこう)しながら叫んだ。

獣使い「アリスさん、大丈夫ですか?」

 と、獣使いのエルフはアリスに尋ねた。

アリス「え?全然、平気だよ。むしろ、長年の頭痛が取れた

    感じ」

獣使い「そ、そうですか・・・・・・」

 と、獣使いは困った風に答えた。

獣使い「コホン、さて・・・・・・。反逆者の皆さん。ファントム

    さん-は、ああ-おっしゃってましたが、私としては

    無駄な殺生は避(さ)けたいモノと、思っています。

    そこで、どうでしょう。次の条件を飲んでくだされ

    ば、この場を引く事を約束しましょう」

トゥセ「な、なんだよ・・・・・・」

獣使い「あぁ、その前に、私の名前はクエルト。こっちの

    包帯の男はサギオス。私達はギルド、デスゲイズの

    幹部(かんぶ)です。他にも幹部は居ますが、今日は別の所で

    お仕事中でして」

トゥセ「いいから、要点を話しやがれッ!」

 とのトゥセの言葉に、クエルトは微笑(ほほえ)み、口を開いた。

クエルト「ええ。一つは、そのゴブリンを私達に引き渡す事。

     これは絶対です。そして、もう一つ。それは、

     ダーク・エルフのカード使いさん、あなた-です」

トゥセ「お、俺?」

クエルト「ええ。私は-あなたが欲しい。あなたの-その才能、

     そんなギルドの中では、磨(みが)かれる事なく、終わって

     しまう。もったいない-とは思いませんか?」

 とのクエルトの言葉に、トゥセは-あぜんとするのだった。

トゥセ「な、何言ってんだ、お前?」

クエルト「私は本気です。さぁ、どうでしょう。

     カード使い-さん」

 と言って、クエルトはトゥセに対し、手を差し出すのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 


 
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