第拾壱廻 復讐の行く末
虎牢関の戦い。
その世紀の一戦は、董卓軍の圧勝という形で終えた。
そして今、この虎牢関の前には、またしても袁紹軍が立ちはだかるのであった。
袁紹「北郷様、今しばらくお待ち下さいまし!貴方様の袁本初がすぐに参ります!
董卓などという馬の骨の元から助けだしてみせますわ!!」
斗詩「(もう完全に目的変わっちゃってるよ…)」
袁紹軍は虎牢関へ突っ込む。
地を踏み鳴らし、門を突き破るとそこには…。
誰も居なかった。
袁紹「北郷様!!貴方の袁本初ですわ!!
…なんですのこれは?」
猪々子「あっれ~?姫~、誰も居ないみたいですよ?」
袁紹「そんな事は分かっていますわ!
はっ、まさか…!董卓軍に攫われた?いえ、そうに決まってますわ!
き、きっと今頃あの方の強く靭やかなお体は…な、縄で縛られ…あ、あんな所やそんな所までねぶられて…!
あぁ…!ご立派なそこをそんな風に…!?」
斗詩「あの…麗羽様?」
袁紹「き~~~~っ!!許せませんわ許せませんわ羨ましい!!!
このまま洛陽まで急ぎますわよ!!」
猪々子・斗詩「え~~~~っ?!」
その頃一方、洛陽では。
董卓軍の面々と皇帝ご一行は洛陽の城門前で待機していた。
月「一刀さ~ん!」
霞「かっずと~!」
一刀「みんな久しぶり!準備は出来てる?」
詠「えぇ、勿論。ボクを誰だと思ってるの?」
時暮「例の件も万事完了しております。」
花蘭「あ…あぅ…ぅーっ…。」
蘭「ほら、花蘭?」
花蘭「お、おかえりなさい、一刀様っ…!」
一刀「あぁ、ただ今。」なでなで
花蘭「ぅ~っ///」
桜花「あにしゃま!だっこ!だっこ!」
一刀「あははっ、それっ。
お?桜花、歯が抜けたのかい?」
桜花「うん!これからおとなになるんだって!」
一刀「良かったな~!」なでなで
桜花「えへへ~」
月「ふふっ、一刀さん、お父さんみたいです。」
蘭「あら…なら私の夫ということに…///」
月「た、たとえ話ですっ!」
詠「はぁ~、いいから早く移動しましょ?
これから長安まで行かないといけないんだから。」
霞「一刀~、話いっぱい聞かせてや~?」
一刀「あぁ、勿論。
馬に乗りながら聴かせるよ。」
霞「よっしゃ!」
一行は洛陽に別れを告げ、長安へと向かうのだった。
その頃、連合軍の天幕では、以前一刀に集められた面々が再度集結していた。
---連合軍・曹操陣営---
曹操「さて、皆が集まったところで話を始めましょうか。」
劉備「はいっ。」
曹操「では単刀直入に聞くわ。
あなた達…この戦に何を望んだのかしら?」
「「「…?!」」」
曹操「私は私の覇道のため。その礎となってもらう為に参加を決めたわ。
だけどそこで不可解な情報を手にした。天の御遣いについての、ね。」
周喩「それは我らも聞き及んでいた。」
孫策「そうね。
我ら孫呉の宿願を叶えるために袁術ちゃんに参加を持ちかけたけど…。
あの男の存在は完全に斜め上だったわ。」
馬超「アタシは母さまに見聞を広めてこいって言われて参加したんだ。
それに、董卓は近隣の太守だったからな。正直袁紹が言う、暴政やら反逆やらは信じてなかったよ。」
劉備「うん…実は私もこの戦で武勲をあげようとかは思ってなかったです。
ただ、もし本当なら洛陽の民を救えるし、それに…。」
曹操「北郷一刀の存在?」
劉備「はい。
本当に虐殺なんてしたのかなって…。」
馬超「あっ!それだ!」
劉備「ひゃい?!」
馬超「ずっと引っかかってたんだよ!あの北郷一刀って、十常侍を全員殺したんだよな?」
曹操「そのようね。」
馬超「じゃあ、なんで十常侍の一人が袁紹のところにいるんだ?」
「「「?!」」」
諸葛亮「…どういう事ですか?」
馬超「いや、アタシの母さまって陛下と幼馴染ってやつでさ。
だから昔からこっそり洛陽に遊びに行ったりしてたんだよ。
アタシも連れて行かれることもあって、その時にあの趙忠って奴を何度か見かけたんだ。」
周喩「それは本当か?!」
曹操「…えぇ、間違いないわ。
私も祖父に連れられて宮殿内で見かけたことがあるもの。
十常侍の噂は、嫌でも耳に入ってくるしね。」
孫策「なら虐殺は嘘ってこと?!」
曹操「いえ、そうではないわ。
虐殺は確かにあった。ただ、奴はどうやってか生き延びた。
その復讐のためにこの連合を麗羽にけしかけたとしたら?」
「「「 … 」」」
荀彧「華琳様、この戦やはり危険です。」
曹操「…そうね。私達もまんまと乗せられたわ。」
---長安---
民A「お、おい!聞いたかよ?!」
民B「んあ?何が?」
民A「新しい太守様のことだよ!
さ、さっき兵士に聞いたんだが…。」
民C「どうせどっかの無能な金持ちが来るんだろ?」
民D「こんな時代だしな。」
民A「ば、馬鹿野郎!!
陛下が来るんだ!!」
民「「「は??」」」
民A「だから!陛下が遷都されて来られるんだ!!」
民「「「…。」」」
民B「おい、医者を呼べ。」
民C「おう。」
民A「う、嘘じゃねぇよ!!もうすぐ到着されるそうだ!!」
民D「ん?門の方が騒がしいな…。」
民B「おい、行ってみようぜ!」
蘭「長安の皆様、私は劉宏と申します。
これからはこちらの長安にて、皆様を支えていきたいと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。」
民C「う、うそ…だろ?」
民D「陛下…あ、あんなにきれいなお方だったのか…!」
民A「忠誠を誓います!!!!」
民B「いや待て!
と言う事は…魔王と名高い董卓までこっちに来るって事か?!」
民A「ま、魔王董卓だと?!俺達の生活はどうなるんだ…!」
月「へぅ…み、皆様、私は相国の董卓と申します。
若輩者ですが、これから宜しくお願い致します…へぅ。」
民A「誰だ魔王なんて言った奴は!!!思いっきり天使じゃねぇか!!!」
民B「結婚してくれーーーー!!!」
民C「お前ら…。」
元女中A「ほんっと、男って馬鹿ね。
董卓のもとには宦官を虐殺した北郷っていう悪魔が居るんでしょ?」
民D「そ、そうだった…。」
元女中B「はぁ…侍女以外の仕事探さなきゃ…。」
一刀「始めまして!天水、洛陽に引き続き、警邏隊長を努めます北郷一刀です。
困った事があったらできる限り力になるから、仲良くしてくれると嬉しいな。」にこっ
元女中A「キャー!身も心も捧げますわ!!!」
元女中B「辞表は今燃やしました!!!」
民C「お前らも大概だな…。」
霞「いや~、えらい歓迎ぶりやな~!」
詠「えぇ、これならやりやすいわね。」
その後、街の民たちへの簡単な挨拶を終え宮殿へ戻る途中…
???「陛下!お待ちください!」
蘭の元へ一目散に駆け寄る少女。
とても小柄で、商人のような出で立ちをしていた。
華雄「止まれ!何者だ!」
???「わわっ?!ちょ、ちょっと!危害を加える気はありませんって!」
霞「怪しい奴は皆そう言うんやで?」
???「ほ、本当ですってば~~!!」
蘭「え、えっと…私に何か御用ですか?」
詠「ら、蘭さん?!」
一刀「大丈夫でしょ。恋と俺が横に居るんだし。」
詠「そ、それはそうだけど…。」
???「さっすが隊長様は話がわかる~!」
一刀「あははっ、どうも。」
???「うちはここ長安にて精肉店を営んでいる者です。
是非とも、是非ともウチの『将作大匠・何肉店』をご贔屓にして頂きたくて…!」
一刀「(将作大匠…?何肉店…?なんか聞き覚えが…。)」
霞「何やと思ったら宣伝かい!」
焔「て、てめぇ…良い度胸してんなコラ。」
???「これくらいは商売人として当然です!」
蘭「…ふふふっ、頼もしいお方ですね。お名前は何と仰るのですか?」
???「有り難うございます!
うちの名前は何進、字名を遂高と申します!」
一刀「(な、名前を聞かないと思ったら普通に肉屋継いでたのっ??!!)」
何進「隊長様、どうかしましたか?そんなに驚いた顔して。」
一刀「い、いや何でもない!」
何進「そうですか?まぁそういう事で…コホンッ
豚肉・牛肉・鶏・猪!にゃんにゃんにゃんにゃん、ニ~ハオにゃん♪
将作大匠~何肉店~♪おいしいにゃん♪」
詠「な、何その歌…。」
何進「うちの宣伝曲です!」
花蘭「…にーはおにゃん♪」
一刀「花蘭?」
花蘭「ふぁっ?!な、なんでもない…ですっ!」
蘭「では、今度是非お邪魔させていただきますね?」
何進「っ~~~~~!!!
有り難うございます!!」
時暮「…目がお金になってますよ?」
何進「はっ!!いけないいけない…てへへっ」
こうして、新たな出会いとともに一刀達の長安での生活が始まったのだった。
時に…連合軍では---
袁紹「さぁ!洛陽はもうすぐそこですわよ!!」
顔良「麗羽様!」
袁紹「んもう、こんな時に何ですの斗詩さん?」
顔良「それが…曹操様がお見えです。」
袁紹「華琳さんが?放っておきなさい。どうせ大した用事じゃないでしょう?」
曹操「大した用事よ。」
袁紹「ちょっと、何ですのいきなり!失礼じゃありませんこと?」
曹操「馬を飛ばしながらで良いから聞いてちょうだい。」
袁紹「何ですの?」
曹操「この戦…貴女の案?」
袁紹「まぁ、そんなくだらない事を聞きにきましたの?!」
曹操「…いいから答えなさい。」
袁紹「相変わらず小生意気ね…ワタクシは陛下を助けてと頼まれたのですわ!」
曹操「ふむ…。もういいわ、ありがとう。(さて、どうなることやら)」
そう言うと、曹操は馬を翻して帰っていった。
顔良「い、行ってしまいましたね…。」
袁紹「放っておきなさい。」
文醜「姫~!大変だ!」
袁紹「あら、どうしましたの?」
文醜「今斥候が帰ってきたんですけど…洛陽がすごい騒ぎみたいです!」
袁紹「それはそうですわ!何と言ってもこのワタクシの大軍団が迫ってきているんですもの!」
文醜「違うんですって!このまま突っ込んだらマズイですよ!」
袁紹「どういう事です?」
文醜「洛陽でお祭りしてるんです!」
「「…はい??」」
袁紹は急行軍を止め、洛陽の城門に数名で近づいた。
すると城門は開かれており、洛陽の街からは祭り囃子が聞こえてくる。
警邏兵「あぁ、ちょっと!困りますよそこの人!」
袁紹「はい??」
警邏兵「今日の祭りは陛下の遷都先での無事を祈った大事なお祭りなんだから。
こんな常識はずれな人数で来られても入れないよ!」
趙忠「?!」
顔良「あ、あの…私達は…。」
警邏兵「あぁ~、どうせ陛下に直々にご挨拶をってとこだろ?」
文醜「いや、あれ?」
警邏兵「無駄無駄。もう陛下は長安へ発たれた。」
袁紹「そんな…ほ、北郷様は?!」
警邏兵「隊長?あぁ、隊長も一緒だぞ。」
趙忠「(おのれおのれおのれえええええええっ!!
どこまで人をおちょくれば気が済むんだあの男は!!!)
袁紹「…。(ふらっ)」
文醜「ちょっ、姫?!」
倒れそうになる袁紹を支える文醜。
すると、三人の将を引き連れた初老の男が現れた。
司馬防「何者かねお主らは。
よもやこの洛陽を陛下がおらぬ隙に掠め取ろうという気ではあるまいな?」
袁紹「まあ!失礼なことを言わないで下さいませんこと?!
無礼な方ですわね!」
司馬防「無礼なのは貴殿であろう。
陛下が与えてくださった記念の祭りに、この様な非常識な入城をしおって。」
袁紹「わ、ワタクシは陛下を助けようと…!」
司馬防「陛下を助ける…?
ガッハッハッハッハッハ!お主は馬鹿か?一体何から助けるというのだ?
お主らのような愚か者からか?」
袁紹「なっ?!わ、ワタクシは…!」
司馬防「まぁ良い。洛陽太守としてお主らをこのまま野放しにしておくわけにはいかん。」
袁紹「洛陽…太守ですって?!あ、貴方は誰ですの?!」
司馬防「司馬家当主、司馬建公だ。」
袁紹「し、司馬家…?!あの超名門の?!」
司馬防「そうだ。お主の名は?」
袁紹「袁紹ですわ…。」
司馬防「あぁ、袁家の馬鹿娘か。話は聞いておるぞ。
…ん?」
趙忠「(おのれ北郷め、すぐに縊り殺して…)
ん?」
司馬防「…お主、何故ここにおる?」
趙忠「げぇっ、司馬防じゃとっ?!貴様、隠居したはずでは?!」
司馬防「どぅふふ、娘に頼まれちゃってさあ~♪…い、いかんいかん、ごほんっ。
袁紹よ、陛下への反逆者と共に何を企んでおるのだ?」
袁紹「は、反逆者ですって?」
趙忠「だ、騙されるな袁紹!!此奴はワシを嵌めようと…」
司馬防「お前ら、この反逆者を捕らえろ!!」
孟達・牛輔・馬謖「はっ!!」
趙忠「や、ややややめろ!!貴様ら…ワシを誰だと思っておる!!ワシは十常侍の…!」
司馬防「十常侍なら、陛下のお達しで廃止となったぞ。
よって貴様はただの玉ナシだ。」
趙忠「わ、ワシをどうする気だ…!」
司馬防「とりあえず、警邏隊長の元へ連行する。長安まで、な。
袁紹よ、貴殿も一緒に来てもらおうか。」
袁紹「そ、そんな…ワタクシは…。」
司馬防「大方、此奴に担がれておったのだろうが…ワシから見れば同罪じゃな。
早急に軍を解散せよ。
これは陛下直々のお達しである。お主らが洛陽まで来たら連れて来いとな。」
完全に血の気の引いた袁紹達は、大人しく指示に従った。
司馬防の有無を言わせない迫力もそうだが、何よりも目の前から色々なものがこぼれ落ちたような感覚が彼女を襲っていた。
相国になれるという希望、騙されて戦を始めてしまった後悔、様々なものが心のなかで渦巻く。
司馬防「これより、連合軍の首謀者共を連行する!」
禁軍により、長安まで護送される連合軍の将達。
その中で趙忠のみ、体をグルグルと縛られ荷馬車へ転がされていた。
曹操「(ふぅ…これはかなりマズイわね。)」
孫策「(藪をつついたら蛇が出たどころじゃないわよ、これ。)」
劉備「(うぅ~…怖いけど…御遣い様の仰る通りだったな。洛陽の皆、すごく楽しそうだった…。)」
趙忠「くそっ!!なぜワシだけこんな奴隷のような連れ方なのだ!!」
孟達「煩いッスよ玉ナシ。」
牛輔「どうせ斬られるんならここで死ぬか?あぁ?」
馬謖「まぁまぁ牛さん、あと数日の命だし。ほっとこ。」
趙忠「ひぃ…!
(く、くそっ!!ワシは死なんぞ…陛下は甘い方じゃ!そこにまた漬け込めば…)」
司馬防「…ふん。」
二日後、長安へと到着した護送団。
即刻玉座へと引き連れられ、そこへ鎮座していた。
玉座の間では、董卓軍の面々と蘭がおり、そして何故か馬騰も控えていた。
一刀「…驚いた。生きてたの?」
趙忠「くっ…!貴様…!」
蘭「…。」
趙忠「へ、陛下!私めは長く旦那様へ尽くして参りました!
未だこの身は漢への忠義に…」
蘭「お黙りなさい。」
趙忠「っ?!」
袁紹「…。」
蘭「袁紹よ、此度の洛陽への出兵…どう責任をとるおつもりですか?」
袁紹「わ、ワタクシは…。」
蘭「ここに居る董卓とその家臣達は私の恩人です。その方々へ矛を向けたこと…私は許しませんよ?」
袁紹「…。」
蘭「そして、それに与した者達も同罪です。
私の大切な人たちを傷つけたその行い、絶対に許しません。」
袁術「(ぶるぶる…)」
趙忠「…陛下。」
蘭「私は貴方に黙れと申したはずです。」
趙忠「ホホッ、ワシを殺すのか?」
蘭「…何ですって?」
趙忠「ホホッ…ワシの名誉…地位…財産…全てを奪ってくれたのう。」
華雄「貴様、気でも狂ったか?」
誰もが趙忠に疑問の目を向けたその時、兵が飛び込んできた。
忍隊「緊急事態です!」
霞「なんやどないした?!」
忍隊「後宮のお屋敷が何者かに包囲され…!」
蘭「っ…?!」
焔「マジかよ!」
趙忠「ホホッ、形勢逆転じゃな!!
あの馬鹿娘共を殺されたくなかったら、ワシを開放しろ!ホホホホホホッ!」
蘭「…。」
趙忠「どうかしたかな劉宏よ!政も知らぬ小娘が治世をしようなどと出しゃばるからこうなるのじゃ!
ホレ、早うせぬとあの糞ガキが犯され殺されるぞ!!」
一刀「…えっと、後宮の屋敷って宮殿のすぐ裏の?」
忍隊「はい!それで…」
趙忠「ホホホホホッ!そうじゃ、北郷。お主が自ら首を切れば、一人くらいは生かしてやるぞ?」
袁紹「そんなっ!!」
趙忠「黙れ役立たずが!!そもそも貴様が無能だからこんな事になるのだ!!ホホホッ!
だが、賊に金を握らせて正解じゃった。」
一刀「…ふぅ、仕方ない。」
そう言うと、一刀は小刀を取り出した。
曹操・孫策・劉備「?!」
諸葛亮「はわわっ!」
龐統「あわわっ!」
馬騰「…。」ぴくぴく
馬超「(ん…?母さま、笑いをこらえてる?)
一刀「ん~、と。まずは趙忠さんの縄を切ってあげよう。」
趙忠「ホホホッ、いい心がけじゃの。今更恩を売ろうが無駄じゃがな。」
一刀「そうだね。あぁ、一つ聞きたいんだけど…この騒動はどうやったの?」
趙忠「なに簡単なことじゃよ。
袁紹の軍に紛れ込ませた賊共に、劉宏のもとへワシが到着したら後宮へ向かえと命じたのじゃ。」
一刀「あ~、そう。何というか…惜しかったね?」
趙忠「…なんじゃと?」
一刀「忍さん、丁原さんは無事?」
忍隊「はっ。後宮に一人でおられますが…あまりの事にひっくり返っております。」
趙忠「そうかそうか、後宮では…んっ?!後宮に丁原が一人?!貴様今そう言ったのか?!」
忍隊「えぇ、そうですが?」
趙忠「な、何故じゃ!!何故後宮に丁原が一人でおる!!」
一刀「ん~、言い難いんだけど…丁原さんはもうお歳でボケちゃっててね。
何故か隠居後も自分の屋敷じゃなくて、いつの間にかここに帰ってきちゃうんだよ。
だから仕方なく老後はそこでゆっくり暮らさせてあげようって事になってね。」
趙忠「…し、信じられん…では皇族はどこへ?!」
一刀「え?この城の部屋で俺たちと一緒に暮らしてるよ?」
趙忠「…?!
う、嘘じゃ!緊急事態と言っておったではないか!」
一刀「まぁ、緊急事態ではあるよね…。
忍びさん、賊はどうなってる?」
忍隊「はっ、見つけた時には殲滅しております。」
趙忠「なんじゃと?!」
忍隊「その…興奮した丁原様が『朝餉はまだか』とまた騒ぎ出したもので…。」
一刀「こりゃ参ったな。」
趙忠「…。」
蘭「さて、趙忠。
覚悟は出来ましたか?」
趙忠「ひっ…!」
蘭「では、皆に罰を与えます。
まず趙忠は終身牢生活を命じる。」
趙忠「っ!!」
蘭「続いて袁紹。」
袁紹「…はっ。」
蘭「河北へ帰り、今まで通り統治を命じます。
ただし、今後の行動には見張りを設け、もし統治に怠惰が見られた場合更迭とする。」
袁紹「えっ?」
蘭「…此度のこと、私の無力さにも原因が有ります。
だからこそ、私にもう一度民を支える機会を、やり直す機会を与えて欲しいのです。
そしてそれは貴女も同じ。今一度、自分を見つめなおす機会を与えます。」
袁紹「っ…!
有難く…頂戴いたしますっ!」
一刀「頑張って立派な太守になるんだよ?」
袁紹「…!!」
蘭「それから袁術。
…貴方のご両親のことはよく知っております。
その歳で領地を継ぐことになったのには同情しますが…民の声を聞くに、力不足のように感じます。」
張勲「…。」
蘭「それをふまえ、貴女の領土を寿春に縮小します。
…一から学び、ご両親を超えるのですよ?」
袁術「…ぅっ。」
蘭「まだ若いのだから大丈夫。頑張れますね?」
袁術「はい…なのじゃ。」
蘭「孫策。」
孫策「はっ。」
蘭「貴女には…こちらの北郷一刀からの推薦で、呉の地の統治を任せます。
これよりは建業に移り、政務に励みなさい。」
孫策「えっ?!」
周喩「なっ?!」
蘭「あら…不満ですか?」
周喩「い、いえっ!…有難く、頂戴致します!」
チラリと孫策が一刀を盗み見ると、彼は片目をパチリと閉じた。
孫策「っ///
あ、ありがとうございますっ!」
蘭「それから、曹操。」
曹操「はっ!」
蘭「貴女は陳留に戻り…」
曹操「それは駄目よ。」
蘭「えっ?」
一刀「??」
曹操「私は陛下に剣を向けたわ。
それをこんな甘い形で収めれば、それはいずれ諸侯に足元を見られることになる。」
荀彧「か、華琳様?!」
曹操「罪を犯し、それを温情で見逃されたなど…この曹孟徳の覇道に相応しくないわ。」
蘭「…。」
一刀「ふふっ。」
蘭「では、命じましょう。」
曹操「はっ。」
蘭「これより貴女は許昌に入り、州牧となりなさい。」
曹操「何ですって…?」
蘭「貴女が覇道に生きるも、民がそれを望んだのならそれは私の力不足によるもの。
私を見限り、新しい世を作る…貴女にならそれも出来るでしょう。
ただし、私も留まってはいられません。
覇の道大いに結構です。ですが…私も負けるつもりはありませんよ?」
曹操「…ふっ。(大きいわね…これほどの方だったとは。)」
蘭「如何ですか?」
曹操「はっ、この曹孟徳、有難く頂戴致します。」
蘭「さて、劉備さん。
貴女は平原の相と伺いましたが…今回は何故このような戦に?」
劉備「はい。私は…天の御遣い様を探していました。」
蘭「…一刀様を?」
劉備「大陸に平和をもたらす者と聞いたいたので…
なので私が目指す皆が笑っていられる世を作るために、私達のご主人様になって欲しかったから。」
一刀「ごしゅっ?!」
董卓軍の面々「「「…。」」」
蘭「そうですか…。」
劉備「でもそこで、御遣い様や董卓さんの噂を聞いて…あの、どうしてそんな事したのかなって。
私はただ確かめに行きたかったんです。
御遣い様、どうしてあんな事を?」
一刀「前に話した通りなんだけどな。」
蘭「…。」
そこで、蘭はぽつりぽつりと語り始める。
とても大切な物語を語るように、胸に手を当てゆっくりと目を閉じた。
蘭「劉備さん。私は…夫を亡くしてすぐ、皇帝となりました。
その頃はまだ劉協がお腹におり、政の経験もなかった私はとても戸惑いました。
情けない話、すぐ側まで刃を向けられるまで、十常侍や宦官達に良いようにされていると気が付かなかったのです。」
趙忠「…。」
蘭「それからは本当に地獄の日々でしたわ。
逆らえば娘たちの命がなくなるかもしれない…そんな風に思いながら過ごしていたのですから。
こんな力のない私でも、皇帝としては無能な私でも、あの子たちの母親なのです。」
劉備「陛下…。」
蘭「あの日、流星が降り注いだ頃からは毎晩天に祈りました。
『どうか娘たちだけは』と。
その後です。一刀様が助けに来てくださったのは。」
劉備・孫策・曹操「…。」
蘭「ふふっ、一刀様ったら…縛られて槍を付きつけられても、十常侍たちにいくら罵倒されてもケロっとしていて。
今思い出しても笑ってしまいます。
そしてこの方はこう仰ったんです。『もしかして毎晩祈ってる?』って。」
「「「 …。 」」」
蘭「届いていたんだ、と涙が零れそうでした。
恥を忍んで助けを求めると、どんな危険も顧みずに私達を地獄から救い出して下さいました。
想いを、受け止めてくださいました。
…これが真実です。」
一刀「…あの、すごく恥ずかしいんですが…。」
蘭「まあ…このお話は桜花が寝るときによく聞かせておりますのに。」
一刀「ま、マジかよ…。」
関羽「…。」
劉備「み゛御遣い゛様ぁ~~!ぐずっ…ごめ゛んなさ゛い~!」
一刀「わ~っ!ちょっと!なんで泣いてるの?!」
劉備「ちょっとでも疑って…うぇ~~んっ」
一刀「…どうしたもんかな。」
蘭「ふふっ、とても真っ直ぐで可愛いじゃありませんか。
それに…この方ならば益州を豊かにしてくれると思います。」
諸葛亮「はわわっ?!」
龐統「あわわっ?!」
蘭「益州では、覇権争いなどで民が疲弊していると聞きます。
貴女方には永安の地を任せますので…どうか益州の民をお願いできませんか?」
劉備「は、はいっ…私、頑張ります!」
蘭「次は…馬超さん。」
馬超「はい!」
蘭「お久しぶりですね…また少し萩に似てきましたね?」
馬超「あ、ありがとうございます!」
蘭「貴女への罰なんですが…これは萩が決めると言って聞かないのよ。」
馬超「か、母さまが?!」
萩「そういう事♪
翠…あんた、連合に参加してどうだった?」
馬超「…やっぱり、人には色々な考えがあっ」
萩「はぁ~、んなこと聞いてんじゃないわよ馬鹿娘!」
馬超「うぇ?!」
萩「良い男は見つけたの?
見聞を広めてこいってそういう意味だったのに…。」
馬超「はぁ?!」
萩「いつまでたっても槍ばっか振り回して…少しはメスとしての自覚を持ちな!」
馬超「ば、馬鹿なこと言うなよ!恥ずかしいだろ母さま!」
萩「何が恥ずかしいっての?!」
馬超「だって…アタシにはまだそういうのは…!」
萩「安心しな!良い男見つけてやったから!」
馬超「はぁ?!」
萩「もう決めたから。アンタへの罰はそいつと婚約すること。いいわね!」
馬超「ちょっと、何勝手に決めてんだよ!!絶対嫌だからな!!」
萩「拒否権があると思ってんの?」
蘭「萩、いくらなんでも望まない結婚は可哀想よ…。」
月「そうですね…これはちょっと…。」
萩「大丈夫だって!翠も絶対気に入るほど良い男だから!」
馬超「ど、どこの誰だよ!」
萩「ん?目の前に居るじゃない。」
「「「 はっ? 」」」
一刀「…あの、まさかとは思うけど…俺?」
萩「当然でしょ。」
「「「 え~~~~~~~~っ?! 」」」
翠「★■※@▼●∀っ!?」
萩「あら…?これはこれは、もしかして意中の相手だった?」
馬岱「叔母様、ご名答~!にひひっ」
翠「わーっ!!わーっ!!」
萩「あっはっはっはっはっはっ!なら良かったじゃないか!
アタイに感謝するんだよ?」
蘭「は、はははは萩?!あなた何を勝手に…!」
月「そうですそうです!そんな…ズルいです!」
詠「…(ぼ、ボクだって…)」
焔「ば、馬鹿な…!」
時暮「ふふっ、ふふふふふっ(私もそろそろ動かなきゃいけませんね)」
心「うー…私の春ってもう来ないの…?」
罰ではなく、これを新たな機とするべく、それぞれの行末が定められた。
司馬防「(ふむ…無能な皇帝、か。ワシにはこれ以上無く適材適所に任命しておるように見えるがの。
地の利、人の輪、天の時。かつてこれほどまでに恵まれた皇帝が居ただろうか。)」
爺「大旦那様…ご隠居は早かったようでございますな。」
司馬防「そのようだ。
ところで…ご褒美の…その、時暮の靴下は?」
爺「おいたわしや…。」
その後、趙忠は牢へと入れられた。
その牢は凶悪な罪人たちが纏められた、所謂タコ部屋であった。
趙忠「…。」
???「よぉ…新入りが誰かと思ったら懐かしい顔だな。」
趙忠「?!」
???「儂が誰だか忘れた忘れたわけではあるまい?
昔、貴様のクソのような進言に背いた瞬間、全てを奪われた男だ。」
趙忠「…ひっ!!き、貴様は…!」
???「く、くはははははははっ!!こんな所で何年も粘ったかいがあった…!
儂の家族も…どうせ無事じゃねぇんだろ?」
趙忠「し、知らん!ワシは何も知らん!!
…や、やったのは張譲じゃ!!」
???「…そうかい。それは残念だ。」
趙忠「ひぃ…、や、やめてくれ…!」
???「馬鹿か?儂も昔、貴様に同じことを言ったはずだが…貴様はやめたか?
家族だけは、と。」
趙忠「…!」
???「…まぁ、死んどけよ玉ナシが。」
牢に入ろうとも変わらず鍛え続けていた太い腕が、趙忠の腹へ何度も突き刺さる。
骨が、内臓が潰れていき、苦しみ抜いた末に息絶えた。
囚人「…仇が取れましたね、皇甫嵩将軍。」
囚人は涙を流していた。
かつては皇甫嵩の部下として仕えた男だったが、皇甫嵩の開放を目論み牢へと入れられたのである。
皇甫嵩「よせや、儂はもう将軍じゃねぇよ。」
囚人「いえ…私にとっては最期まで将軍です。」
皇甫嵩「…ありがとよ。
しっかし、この玉ナシ爺をぶち込んでくれた奴には感謝だな。」
こうして、一つの復讐はかつての復讐に討たれることとなったのだった。
この度もお読み頂き、誠に有り難うございます。
反董卓連合軍集結編でしたが、如何だったでしょうか?
それにしてもこの一刀君はまともに相手をしませんね…。
さて、これまで皆様には色々なコメントを頂き、感謝カンゲキ雨嵐です。
ところで、某所にて「シナリオ形式じゃなくて小説形式で見たい。」とメッセージを頂きました。
これに関してなんですが…実は自分は以前、ゲーム等のシナリオライターとして生活していたこともありまして、染み付いた書きグセなのだと思います。
この台詞比率の多さも、演出などに頼ってしまうサボり癖が治っていない証拠ですね。
無論、きちんとした行程を踏んで書いているわけではないので、読み返しながら何度も修正しているこの体たらくは反省ですが。
こんな私ですが、これからもどうぞこの形式でお願いできればと思います。
何卒ご理解の程を宜しくお願い致します。
ちなみに…ライターから退いた理由は、ギャラは良くても眠れないからです。w
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反董卓連合軍終結です。
名前の出てこなかったあの人達が…?