No.610719

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第三話


 お待たせしました!

 李儒達と出会い、とりあえず近くの街まで

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2013-08-20 22:32:07 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:8911   閲覧ユーザー数:6554

「そうか、見つけたか」

 

 探索の者からの文を読んだ張譲は、そう言いながら笑みを

 

 こぼしていた。

 

「それで?手筈は整っているのか?」

 

「既に捕縛の兵は配置済との事」

 

 文を持って来た者がそう答えると、張譲の笑みはますます

 

 深くなり、半ば歪んだ物となっていた。

 

「よし、ではすぐに取り掛かれ。生きていれば多少の怪我は

 

 大目に見ると伝えよ」

 

 張譲の言葉を受けたその者はすぐに走り出していった。

 

「くくく…随分と遠くまで逃げたみたいじゃが、ここまでよ。

 

 見ておれ劉宏…今度こそ我が意に従わせてくれるわ。さし

 

 ものお前とて娘達を目の前にして余裕の態度は保てまいて。

 

 くふふふふ…」

 

 そう言うと張譲は一人笑いをかみ殺していたのであった。

 

 

 

 その頃。

 

「さあ、街に着いたぞ」

 

 俺は李儒さん達に連れられて近くの街まで来ていた。

 

「ありがとうございます。あなた方と会えなかったら、多分

 

 あのままあそこで野垂れ死んでいたでしょうし、感謝の念

 

 にたえません」

 

「気にするでない。あそこで会うのもまた運命の一つじゃっ

 

 たという事じゃろうしな」

 

 俺が深々と頭を下げて礼を述べると、李儒さんはそう言っ

 

 て笑っていた。

 

「それで北郷さんはこれからどうされるのです?」

 

「とりあえずは…何か仕事を見つけてお金を貯めてからどう

 

 するか考えようかと。何をするにしろ先立つ物が必要かな

 

 と思いますし。これだけの街なら俺みたいなのでも何かし

 

 らやれる事はあるんじゃないかと」

 

 李粛さんの質問に俺はそう答える。何処か旅に出るにして

 

 も住み着くにしても金が無くてはどうしようもない事だけ

 

 は確かだしね。

 

「ほう、お主も色々と考えてはおるのじゃな」

 

 李儒さんは感心しきりにそう言っていた。

 

「ならば我々とは此処でお別れという事じゃな。久々に男の

 

 連れが出来て少し楽しかったぞ。これからも息災でな」

 

 王凌さんはそう言って俺の肩を軽く叩いていた。

 

 

 

 そして俺は李儒さん達と街の外れで別れたのだが…。

 

「ん?何だ、あの人達…あの方向は今、李儒さん達が行った

 

 方だな…しかもどう見てもただの旅人には見えないけど。

 

 待てよ…あの動き、訓練された兵士の動きだな。じいちゃ

 

 んから前に教わったのと同じだ」

 

 俺は明らかに李儒さん達を追いかけようとしている怪しい

 

 人影を見つける。

 

 それに何か危険な臭いを感じた俺は向こうにばれないよう

 

 気配を殺してその後を尾ける事にした。まさかじいちゃん

 

 に教わった事をこんな所で実践する事になるとは夢にも思

 

 わなかったが。

 

 ・・・・・・・

 

「何奴じゃ!」

 

 その頃、一刀と別れ道を進んでいた李儒達の前に立ちはだ

 

 かる者が現れ、李儒達は警戒態勢を取りつつ問いかける。

 

「捜しましたぞ姫様方…さあ、洛陽へ帰りましょう。張譲様

 

 がお待ちかねです」

 

「「「……………!!」」」

 

 その男が発した『張譲』という名に三人共息を飲む。

 

「くっ、もう少しだったというのに…しつこい男ですね」

 

 そう言う李粛の眼にも苛立ちの色が表れていた。

 

「悪いがその言葉には従えんな。此処は通らせてもらう」

 

 

 

 王凌がそう言って剣を抜くが、男は冷笑をたたえたまま手

 

 を振ると、脇から別の男が現れる。しかもその男は何処か

 

 らか攫ってきたらしき女の子に短剣を突きつけていた。

 

「なっ…お主らの目的は妾達じゃろう!?何故関係無い子供

 

 を巻き込むのじゃ!すぐにその子を解放しろ!!」

 

 李儒がそう叫ぶが、男達の冷笑はさらに歪んだ物へと変化

 

 する。

 

「関係無いですと?…くくくっ、それこそ関係の無い事。我

 

 らは目的の為に最も有効な手段を取っているに過ぎません

 

 よ。なぁに、あなた方がおとなしく従ってくださればすぐ

 

 にでも解放いたしますよ」

 

 そう言い放つ男の顔は、これ以上無い位に歪みきった物と

 

 なっていた。

 

「ぐっ…卑怯者!」

 

「くくくっ、我々にとってはこれ以上無い位の褒め言葉です

 

 ね。さあ、まずは武器を捨ててもらいましょうか。十数え

 

 る内に捨てなければ…そうですね、この童の左耳から切り

 

 取っていきましょうか」

 

 李粛の非難に笑いながらそう答えた男は、女の子の左耳に

 

 刃を当てる。

 

 女の子の顔は完全に青ざめており、失神寸前であった。

 

 

 

「分かった…従おう。じゃからその子を放してくれ」

 

 剣を投げ捨てた李儒は諦め気味にそう呟く。

 

「姉様…!」

 

「夢、確かにこいつらを斬り捨てて行くのはたやすい事なの

 

 かもしれんが、そのせいであの子供が傷ついたり死んだり

 

 するのであれば、妾は悔やんでも悔やみ切れん。そのよう

 

 な事が甘い考えのは重々承知の上なのじゃがな」

 

「くくくっ、良い判断です『劉弁』様。さあ、『劉協』様も

 

 『王允』殿もお早く。それともこの子の耳が切れる所を見

 

 たいのですかな?」

 

 男は歪んだ笑みのまま、女の子の耳に刃を当てようとする。

 

 それを見た二人も忌々しげに顔を歪めたまま剣を置こうと

 

 したその時、何処かから投げられた石が男の眉間に直撃し、

 

 その衝撃で男は女の子から手を離す。それと同時に現れた

 

 一刀が女の子を救出して李儒達の所へ駆け寄る。

 

「大丈夫か、三人共」

 

「北郷…何故お主が此処に?」

 

「街の外れで李儒さん達が行った方へ行こうとしている集団

 

 がいたんで、嫌な予感がして後を尾けてきたんだ。気付か

 

 れないように距離を取ってたから駆けつけるのが遅れてし

 

 まったけどね」

 

 

 

「そんなバカな…我々を尾行してきただと!?」

 

 一刀の言葉に男は過剰に反応する。それもそのはず、この

 

 男は元々密偵としての能力を買われて張譲に召し抱えられ、

 

 張譲の下で数々の探索・暗殺といった闇の仕事をこなして

 

 きたその道の猛者であり、大陸中探しても自分以上の能力

 

 を持っている者はいないと自画自賛していた程なので、尾

 

 行している他の者の気配に気付かないなどという事は今だ

 

 嘗て無く、この場に現れた一刀の存在に受け入れ難いよう

 

 な顔で半ば呆然と眺めていただけとなっていた。

 

「そうか…すまぬな北郷。しかしこれで形勢逆転じゃの」

 

 男は李儒のその言葉で我に返るが、その時には既に李儒は

 

 剣を拾い直していた後であった。

 

「くそっ、これ位で終わってたまるか!皆の者、この者達を

 

 取り囲め!!」

 

 先程とはうってかわって焦りの色を見せた男は周りに伏せ

 

 ていた兵を展開させる。

 

「ほう…どうやらこの程度の兵で妾達を倒すつもりらしいぞ」

 

「ふふ…身の程知らずどもに少しばかり真実を教えてさしあ

 

 げましょう」

 

 李儒と李粛はそう言って笑いあうと剣を構えて一気に駆け

 

 出す。

 

 

 

「姫様!」

 

「じいは北郷とその子を守れ!!」

 

 李儒は王凌にそう言うと敵の真っ只中に斬りこみ、剣を一

 

 閃させると一瞬にして三人の首が宙に舞う。

 

 その光景に半ば呆然となる敵に、

 

「余所見をしている暇はありませんよ!!」

 

 李粛が素早く斬りこむと、こっちは確実に一人ずつ斬り倒

 

 していく。

 

 そして半刻もすると、展開していた兵は全て倒されていた。

 

「そんな…こんな事が…」

 

 男はその光景を呆然と眺めているだけであった。

 

「さあ、後はお主だけじゃぞ」

 

「覚悟は定まりましたか?」

 

 二人がそう言って男に向かって剣を構えると同時に、男は

 

 脱兎の如く逃げ出す。

 

「逃がすか!」

 

 李儒は後を追おうとするが、男の人とは思えない足の速さ

 

 を見て追いつく事を諦める。

 

「ぎゃあああーーーっ!」

 

 その時、かなり離れた所から先程の男の悲鳴が聞こえたか

 

 と思うと、しばらくしてから男の首を下げた赤髪の女の子

 

 が現れる。

 

 

 

「何者じゃ!?」

 

 李儒さんが警戒態勢を取ると、

 

「李儒様ですね!ねね…私達は董卓様の命で皆様を迎えに参

 

 りました者です!この方は呂布殿、私は陳宮と申します!」

 

 赤髪の女の子の横から飛び出した娘がそう言って平伏する。

 

 しかし、今とんでもない事を聞いたような…あの赤髪の娘

 

 が呂布!?そっちの女の子は陳宮!?確かに陳宮は呂布と

 

 行動を共にしてたけど…しかも既に董卓の所にいるって…

 

 明らかに俺の知ってる歴史とは違う世界になっているよう

 

 だな。

 

「おおっ、月の所の者か!わざわざすまぬな」

 

 それを聞いた李儒さんは安堵した表情でそう言っていた。

 

 李粛さんと王凌さんもまた同様の表情を浮かべていた。

 

 そうか、迎えの人が来たのなら一先ず安心と言った所だし

 

 俺の出番はもう無いな。

 

 そう思ってその場を去ろうとしたその時、

 

「北郷、何処へ行く」

 

 李儒さんが呼び止める。

 

「まだお主に礼も言っておらんのにいなくなる奴があるか」

 

 

 

「いや、別に何もしてませんし…」

 

「お主があそこで乱入してくれたからこそ窮地を脱する事が

 

 出来たのじゃろうが」

 

「それにこの子が無事だったのも北郷殿のおかげです」

 

 李粛さんがそう言ってその手に抱いていた女の子を見る。

 

 女の子は緊張が解けたのか、すやすやと眠っていた。

 

「しかしこの子はどうするのです?何処から連れて来られた

 

 のかも分からずでは帰しようもありませんし…まさか我ら

 

 が連れて行くわけにも…」

 

「ならば此処に置いていくのですか?」

 

「…なかなか意地悪な事を仰る」

 

 王凌さんが言った言葉に李粛さんがそう反論すると、王凌

 

 さんもそれ以上は言えなくなる。

 

「なら俺がさっきの街に連れて戻ってこの子の家族を捜すと

 

 いうのは…」

 

「手がかりが何かあるのか?さっきの街にはこのような子は

 

 おらなんだ。間違いなく何処か違う所かもしくは旅の途中

 

 の子供じゃろう。それでは捜しようもあるまい」

 

 俺の提案も李儒さんに一蹴される。

 

 

 

「それじゃその子も連れていく…」

 

 そう言ったのは呂布さんだった。

 

「呂布殿!?犬の子を連れてくるのとは訳が違いますぞ!?」

 

 陳宮さんが慌ててそう言うが、

 

「それじゃ此処に置いていく?」

 

 呂布さんにそう言われるとやはりそれ以上は何も言えなく

 

 なってしまっていた。

 

「なら決まりじゃ。その子の面倒は北郷が見るのじゃぞ」

 

「はい!?…っていうか、俺も同行決定ですか?」

 

 李儒さんの突然の言葉に俺は驚く。だって、ついさっき別

 

 れの挨拶をしたばっかりだっていうのに。

 

「先程は大丈夫かとも思っておったが、既に此処までこんな

 

 奴らが来ている所を見ると、もしかしたら既にお主が妾達

 

 と一緒にいる事も見られているかもしれん。それでは逆に

 

 危険が及ぶ可能性もある。このまま妾達と一緒に来るのじ

 

 ゃ。礼は安全な所まで行ってからちゃんとするからの」

 

「そうですね…この際、北郷殿にも来てもらいましょう」

 

 李粛さんもそれに同意する。

 

「そうか、ならばまた男の連れが出来るのですな」

 

 王凌さんはそう言って笑っていた。

 

 どうやら俺に拒否権などという物は存在しなさそうだ。

 

 

 

 

 

「そうですね…それじゃしばらくお世話になります」

 

 俺はそう言って頭を下げる。

 

 こうして俺は李儒さん達と正式に行動を共にする事に

 

 なった。しかし、これが俺のこれからの運命が大きく

 

 変わる瞬間になろうとは今の俺にはまったく分からな

 

 い話であった。

 

 ・・・・・・・

 

 一刀達が去ってしばらくした後。

 

 その場に一人の女性が現れていた。

 

「璃々ーーーーーっ、何処に行ったのーーー!?…私が

 

 ちょっと眼を離した隙に…まさか人攫いにあったんじ

 

 ゃ…ああ、死んだあの人に何て言ってお詫びをすれば

 

 いいの!?」

 

 その女性は子供の名前を叫びながら何処かへと消えて

 

 いったのであった。

 

 

 

                                           続く。

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 とりあえずは窮地を脱する事が出来ました。

 

 そしてそのまま一刀はヒロイン達と行動を

 

 共にする事にもなりました。

 

 次回はようやく目的地に到着した一刀達が

 

 新たな出会いをする予定です。

 

 

 それでは次回、第四話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 一刀達が助けた女の子は言わずとしれたあの子です。

 

     親子の再会はもう少し後になりますので。

 

     そして一刀の技能についてはまた後で語らせてい

 

     だきます。

 

 


 
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