No.606196

SAO~菖蒲の瞳~ 第四十九話

bambambooさん

四十九話目です。

最近、モチベーションが上らず、投稿が遅てしまって申しわけありませんでした。

コメントお待ちしています。

2013-08-07 13:55:48 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1705   閲覧ユーザー数:1597

第四十九話 ~ 黄金林檎 ~

 

【アヤメside】

 

十時にヨルコさんともう一度会う約束をしていた俺たちは、朝食と情報確認と説教を済ませたあと、ヨルコさんが泊まっている宿屋に向かった。

 

宿屋から出てきたヨルコさんは、昨夜は良く眠れなかったのかしきりに瞬きをしていたが、俺たちにペコリと一礼した。

 

同じように返してから、まずキリトが詫びを入れる。

 

「悪いな、友達が亡くなったばかりなのに……」

 

「いえ……いいんです。私も、早く犯人を見つけて欲しいですし……」

 

ブルーブラックの髪を揺らしてかぶりを振り、顔を上げて俺の胸元に目を止めた瞬間、ヨルコは目を丸くした。

 

「うわぁ……。それ、サチさんが作ったアクセサリーですよね?」

 

「ん? まあ、そうだな」

 

ヨルコの反応に少し戸惑いながら、俺は首から下げている、デフォルメされたウサギを意匠した紫水晶のペンダントを手に取ってヨルコに見せた。

 

「え? サチって有名なの?」

 

少し驚きながら訊ねるキリトに、ヨルコはダメな人を見る眼を向けながら解説した。

 

「ええ! アインクラッドで初めて《工芸》スキルを獲得した細工師ですよ! デザインも可愛いうえにサチさん自身の人柄も良いって評判なんです!」

 

「そ……そんなに?」

 

「そうだよキリト君」

 

「ギルドの友達との話にも結構出てきますからね」

 

未だ疑う様子のキリトに、女子二人が肯定を示す。すると、キリトは素直に感心したように頷いた。

 

因みに、キリトは愛剣《エリュシデータ》の鞘にぶら下げた黒猫を模したキーホルダー、アスナは薄桃色のシンプルなブレスレット、シリカはピナっぽい小竜の装飾が付いたチョーカーを装備している。どれも黒猫印の特注品だ。

 

「じゃあ、今度紹介しましょうか?」

 

と、アスナ。

 

「ホントですか!?」

 

「サチさんとは結構付き合いありますからね」

 

驚きと喜びを半々にするヨルコに、シリカがちょっと胸を張って答えた。

 

「………。その前に、この事件を解決しないとな」

 

脱線しだした女性陣にストップをかける。

 

「それじゃあ、少し長い話になるかもしれないから場所を移そう。キリト、良い場所知らないか?」

 

申し訳なさそうに首を竦める三人を眺めた俺は、着いていけないと呆れるキリトに視線を移す。

 

キリトは少し悩んだ後、「じゃあ、昨日のレストランで」と言って歩き出した。

 

 

レストランに移動した俺たちは、それぞれ適当な紅茶をオーダーし、タイムラグ無しで届いたところで改めて本題に入った。

 

「まず、報告なんだけど……昨夜、黒鉄宮の《生命の碑》を確認してきたんだ。カインズさんは、あの時間に確かに亡くなっていた」

 

「そう……ですか。ありがとうございました、わざわざ遠いとこまで行って頂いて」

 

「ううん、いいの。それに、確かめたかった名前が、もう一つあったし」

 

そこで区切りを入れ、最初の重要な質問を放った。

 

「ね、ヨルコさん。あなた、《グリムロック》と《シュミット》って名前に聞き覚えはある?」

 

俯けられたヨルコの頭が、ぴくりと震えた。そして、直ぐ後に明確な肯定のジェスチャーがあった。

 

「鍛冶師の《グリムロック》と槍使いの《シュミット》のことなら、知ってます。二人とも、昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

 

か細い声に、俺たちはちらっと視線を見交わした。

 

推測通りのことに、今度はシリカが二つ目の質問を発した。

 

「ヨルコさん。あの、答えにくいと思いますけど……そのギルドで、昔何かトラブルがありませんでしたか?私たちは、今回の事件は《復讐》や《制裁》みたいなものだと思っているんです。ですから、事件解決のために、教えてくれたら嬉しいです」

 

答えは、直ぐにはなかった

 

しばらくの沈黙の後、ヨルコはかすかに震える手でお茶のカップを持ち上げ、唇を湿らせてからようやく頷いた。

 

「……はい……、ありました。忘れたい……あまり思い出したくない話ですけど――お話します。その《出来事》のせいで……私たちのギルドは消滅したんです」

 

この後の彼女の話は、大体こんな感じだった。

 

彼女が所属していたギルドの名前は《黄金林檎》。その日の食事代と宿屋代を稼ぐだけの弱小ギルドだったらしい。

 

しかし、去年の秋口。彼女らは、とあるダンジョンでレアモンスターにエンカウントとし、運にも助けられて倒すことが出来た。

 

そのとき、ドロップしなたアイテムが、なんと敏捷値を20も上げる指輪だったのだ。最前線でもドロップしないし、サチも稀にしか作れないようなものなので、かなりレアなアイテムだということは想像に難くない。

 

そして、その指輪を巡って、ギルドで使うか売って儲けを分配するかの二つの意見で言い合いになり、多数決の結果、売却になった。

 

とても中層の商人に扱えるようなアイテムではなかったので、彼女らのギルドリーダーが前線の街に行って競売屋に委託することになった。

 

しかし、リーダーは帰ってこなかった。

 

まさかと思い、嫌な予感がして黒鉄宮の《生命の碑》に確認に行った。

 

そうしたら、リーダーの名前には線が引かれていた。つまり―――リーダーは死んでいたということだ。

 

話し終えたヨルコは、目尻を拭って顔を上げると、震えながらもはっきりとした口調で告げた。

 

「死亡時刻は、リーダーが指輪を預かって上層に行った日の夜中、一時過ぎでした。死亡理由は……貫通属性のダメージです」

 

「……そんなレアアイテムを抱えて圏外に出るなんてことは、まず無いだろうな」

 

「ということは……その、《睡眠PK》でしょうか?」

 

シリカの呟きに、俺らはかすかに首肯した。

 

「半年前なら、まだ手口も分かっていなかった頃だわ。ドアロックできない公共スペースで眠っている人も沢山いた頃ね」

 

「前線近くは宿代も高いですからね……」

 

階層を上がるごとに少しずつ高くなっていく宿代を思い出してシリカがしみじみと頷く。

 

「……俺がもう少し早く《睡眠PK》の方法に気付いていたら、こんな事件は起こらなかったのか……」

 

少しだけ顔を伏せながら左拳を強く握りしめ、俺は唸るような声で呟いた。

 

実を言うと、《睡眠PK》のロジックを解き明かしたのは俺だった。その内容をアルゴに流してもらい《睡眠PK》による被害はまだ少なくて済んだのだが、それでも救えなかった命はあったようだ。

 

「キュィ、キュィ」

 

「「クゥン……」」

 

「……ありがとう」

 

気にしたゃダメだよ、と励ましてくれた使い魔ズの頭を左手を解いて撫でる。

 

顔を上げると、中途半端なところまで伸ばされたシリカの手が目に映り、目が合う。

 

すると、彼女は迷う素振りを見せたあと、半笑いを浮かべて手を引っ込めた。

 

シリカが何をしようとしていたのか察した俺は、「ありがとう」と口パクで伝えた。

 

そして、スイッチを入れ直した。

 

「偶然、とは考えにくいな。……キリトはどう思う?」

 

「そうだな……俺は、リーダーさんを狙ったのは指輪のことを知っていたプレイヤーだと思う。つまり……」

 

ヨルコが、こくりと頭を動かした。

 

「《黄金林檎》の残り七人……の誰か。私たちも、そう考えましたけど……その時間に誰がどこにいたのかを遡って調べる方法はありませんから……皆が皆を疑うなか、ギルドが崩壊するまでそう長い時間はかかりませんでした」

 

再び、重い沈黙が舞い降りた。

 

嫌な話だ、と思うと同時に、あり得ることだ、とも思う。

 

レアアイテムが原因で、仲良しギルドが崩壊してしまうことは、そう珍しくないのだ。

 

「……指輪売却に反対した三人。その名前は?」

 

答えたくない質問だとは承知している。しかし、聞かなければならない質問でもある。

 

沈鬱な表情で俯くヨルコは、数秒間黙り続けてから、顔を上げてはっきりと答えた。

 

「カインズ、シュミット……そして、私です」

 

「どうしてだ?」

 

続けて問われた俺の言葉に、ヨルコは自嘲的な笑みを浮かべて答えた。

 

「彼らと私は、理由が違いました。カインズとシュミットは、前衛として自分が使いたかったですけど、私はカインズと付き合い始めたばかりだったから、彼氏への気兼ねを優先しちゃったんです」

 

視線をテーブルに落として口をつぐむ。そんな彼女に、アスナが柔らかい口調で訊ねた。

 

「ね、ヨルコさん、もしかして……あなた、カインズさんと、解散後もお付き合いしていたの?」

 

すると、ヨルコは俯いたまま、小さく首を左右に振った。

 

「……解散と同時に、自然消滅しちゃいました。たまに会って、近況報告するくらいですね……」

 

「そう……。でも、ショックなのは変わらないわよね」

 

「いえ、いいんです。それで……グリムロックですけど……」

 

突然その名前を切り出され、キリトとシリカが緊張する気配がした。

 

「彼は《黄金林檎》のサブリーダーでした。そして同時に、ギルドリーダーの《旦那さん》でもありました。もちろん、SAOの、ですけど」

 

「え……。じゃあ、リーダーさんって女の人だったんですか?」

 

少し驚いた様子でシリカが言った。

 

「ええ。中層レベルでの話ですけど、とっても強い片手剣使いで、私はすごく憧れてました」

 

「……それじゃあ、グリムロックさんもショックだったでしょうね。結婚するほど好きだった相手が……」

 

「はい。それまでは、優しい鍛冶屋さんだったんですけど……事件直後からは、荒んだ感じになっちゃって……ギルド解散後は誰とも連絡取らなくって、今はもうどこにいるかも判らないです」

 

「……分かった。それじゃあ、辛い質問ばかりで悪いが、最後にこれだけは教えて欲しい。あの黒い槍の制作者はグリムロックだったんだが………カインズを殺したのがグリムロックだ、という可能性はあるか?」

 

この質問は、リーダーを殺した犯人がカインズである可能性はある、と聞いているようなものであった。本当にこんな質問ばかりで悪いと思う。

 

ヨルコは長い逡巡のあと、小さく頷いた。

 

「その可能性は、あると思います。でも、カインズも私も、リーダーをPKして指輪を奪ったりなんかしていません。無実の証拠は、何もないですけど……」

 

「私は信じますよ」

 

尻すぼみに言うヨルコに、シリカが間髪入れずに答えた。

 

それを受けたヨルコは、「ありがとう」と言ってほんの少しだけ笑った。

 

 

俺たちはヨルコをもとの宿屋まで送ったあと、数日分の食料を渡して絶対に部屋から出ないようにと念を押して言い含めた。

 

部屋をスイートにして一週間分の料金を前払いするなど、出来る限りの配慮はしたが、《フィールドに出る》《食事する》以外の娯楽が乏しいアインクラッドでは閉じこもるにも限度がある。俺たちは、早期解決を約束して宿屋をあとにした。

 

「それで、これからどうします?」

 

十一時を告げる鐘の音をバックに、道端のベンチに腰掛けるシリカが俺やキリトの顔を見回して訊ねてくる。

 

「そうだな。選択肢はざっと思いつくだけで三つか」

 

その問いに、俺は左手を前に出し、指を三本立てて答えた。

 

「一つは、手当たり次第にグリムロックの名前を聞いて居場所を特定する。二つ目は、黄金林檎の他のメンバーを探す。最後は、カインズのPK方法を検討する。……と言っても、出来ることなんて三つ目の案しかないんだけどな」

 

「へ? どういうことです?」

 

「シリカちゃん、それはね……」

 

疑問符を浮かべるシリカに、腕組みして思案していたアスナが答える。

 

「一つ目は、少し効率が悪いかもしれないから。二つ目は、他のメンバーも事件の当事者だから裏が取れないのよ」

 

「つまり、ヨルコさんが話した内容と矛盾することが聞けても、私たちにはどれが本当でどれが嘘か分からないってことですね?」

 

「その通り」

 

アスナは満足そうに頷くと、出来の良い妹を褒めるようにシリカの頭を撫でた。シリカも嫌がる様子を見せず、嬉恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「となると、残されたのはその三の殺害手口の検討になるのか……」

 

アスナとシリカの姉妹のようなやり取りを横目で見ていたキリトが、顎に手を当てた。

 

「確認する。俺たちが断定できていることは、《圏外で発生した貫通継続ダメージは圏内に持ち込めない》《ギルティソーンに圏内殺人を可能にするスキルは無い》の二つだな。………なんだよお前らその目は。分かってる。反省してる」

 

キリトたちにジト目で睨まれた。

 

「ごほん。で、これ以外にどんな可能性があるか、とことん議論しておいた方がいいと思うんだが……どうだ? 俺個人としては、一人で「やっぱり反省して無いじゃないですかっ!」……ごめん」

 

悪い癖だな、これは。

 

「一人でやるのは断固反対ですけど、アヤメさんの意見には賛成します」

 

「そうか……。心配してくれてありがとう、アスナ」

 

シリカに湿度80パーセントは超えているであろうジト―――――っとした目でもう一度睨まれる俺に、真面目な顔をしたアスナが頷いた。……湿度が増した気がするのは気のせいか?

 

「でもな……もうちょっと、知識ある奴が欲しいな……」

 

キリトが俺に助け舟をだすように咳払いしてから呟くと、アスナが眉を潜めた。

 

「そうは言っても、無闇に情報をばら撒くのはヨルコさんに悪いわよ。絶対に信頼できる、そして私たち以上にSAOに詳しい人じゃないと……」

 

「―――あ」

 

ふと、シリカが口を開いた。

 

「どうしたの、シリカちゃん?」

 

「いえ、アスナさんの条件に合う人を一人思いついたんですけど……」

 

「誰?」

 

「ああ……えーっとですね……その……」

 

口をもごもごさせ、チラチラと俺の様子を伺いながら、シリカはその人物の名前を言った。

 

「あの……団長、ヒースクリフさんはどうでしょうか?」

 

聞いた瞬間、俺はもの凄く嫌そうな顔をしたに違いない。

 

 

【あとがき】

 

以上、四十九話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

当初はここで一気に進めるつもりでしたが、「やっぱりラーメンは書かなきゃだめだろ」 と思いまして分割しました。

 

《圏内事件》編のラストまで、先は長そうです……。

 

次回はラーメンです。

 

それでは皆さんまた次回!


 
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