No.602775

リリカル幽汽 -響き渡りし亡者の汽笛-

竜神丸さん

第6話

2013-07-29 13:00:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1375   閲覧ユーザー数:1335

シアンがダリルに提案しているのと、ほぼ同時刻…

 

「こうなるとはね…」

 

機動六課本部の部隊長室に、はやて、なのは、フェイトは集まっていた。新聞のある記事を読みながら、はやてが呟く。

 

その新聞記事の内容は…

 

『パトリック・ギャリッジ氏、謎の変死を遂げ死去』

 

昨日、拘置所に収容されたギャリッジが部屋で何故かミイラ化した状態で死亡しているのが発見された。一番に目撃した看守の話によれば「別の拘置所へ移送する前には既にこうなっていた」との事。部屋を調べたところ、証拠品となり得る物は何も無く、捜査も難攻しているようだ。

 

「そんな…」

 

「こうなるなんて…」

 

実際にギャリッジの逮捕に貢献したなのはとフェイトも、この記事を読んで驚きを隠せないでいた。

 

「昨日の逮捕から、死亡するまでの時間が早過ぎる…………誰かが狙ってやったとしか思えへんな」

 

「フェイトちゃん…」

 

「…うん、間違い無いかも」

 

「? どしたんや、二人共」

 

なのはとフェイトが何かに気付いたように、互いの顔を見合わせる。そんな様子の二人を見て、はやてが問いかける。

 

「…昨日、はやてにも話したよね」

 

「あぁ、確か……“例の三人組”の事かいな?」

 

「うん…」

 

なのはとフェイトは昨日、自分達が戦った幽汽達の事をはやてにも話していた。彼等は建物一つを爆破した隙に逃走してしまったので確保は出来なかったが、彼女達にはある気がかりがあった。

 

何故彼等はギャリッジを殺そうとしていたのか、だ。

 

あの時、三人組の内の一人がギャリッジを殺そうとしていた。この時はフェイトが阻止したが、それから一日も経たない内にギャリッジ死亡の報せ。その事も考えてみると、無関係とは思えない。

 

「それ以前に、彼等があの場で戦っていた理由も分からないけど……ただ殺したいが為だけに、ギャリッジを狙っていたとは思えないの」

 

「理由があって狙ってたって訳やな……その肝心の理由も分かってないんじゃ、私等でもどうしようもあらへんで」

 

「…あ、そういえば」

 

なのはがポンと手を叩く。

 

「あの仮面の人が言ってたよ。俺達の上司から伝達が来たとか……確か、シアンっていう名前もあの人達の会話の中にあったし」

 

「上司、ねぇ……そのシアンって人が、そいつ等を従わせてるリーダー格って感じなんやな…」

 

はやてはマグカップのコーヒーを一口飲む。

 

「とにかく、今の時点じゃ判断材料が少な過ぎて、動こうにも動けへん。その三人組の事も、私等で調べていかんといけへんな」

 

「ダリル・ロッズもまだこのミッドに潜伏中だろうし、警戒は怠れないね」

 

「うん。事情は分からないけど、また誰かが死ぬような事をしてるんだったら、私達で止めなくちゃ」

 

なのはがそう意気込んだその時、フェイトは時計を見てある事に気付く。

 

「あれ? なのは、そろそろフォワードの訓練の時間じゃ?」

 

「え…にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? もうこんな時間なのぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「それじゃなのはちゃん、訓練も頑張ってな~」

 

「は、はい!! 失礼しましたぁぁぁぁぁっ!!!」

 

慌てたなのはが急いで部隊長室を出て行き、はやてとフェイトはそんな彼女に苦笑いする。

 

「…さて。フェイトちゃんも気ぃつけるんやで。執務官をやってる以上、例の三人組との遭遇率はフェイトちゃんが一番高いやろうし、ダリル・ロッズの件もあるやろうし…」

 

「大丈夫。私だって、伊達に執務官をやってる訳じゃないから」

 

「うん、そう言われると私も心強いで」

 

フェイトの返事を聞いて、はやてもうんうんと頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~畜生…」

 

幽霊列車の車両内部にて、イマジン達三人が面倒そうな様子で資料の本を読み耽っていた。読んでいる本も一冊だけでなく、彼等の周りには複数の本が置かれている。

 

「駄目だ、こっちも見つからねぇ…」

 

「俺もだ…」

 

「あぁもう、何でリストには名前だけしか載ってねぇんだよ……始めから顔や特徴なんかも載ってりゃ良いってのに…」

 

シャドウが愚痴を零すのも無理は無い。

 

彼等が始末するべきターゲットに関しては、リストに名前が載っているだけで他に情報が一切載せられていないのだ。性別、年齢、容姿、住所、職業等々、知りたい情報が一切載っていないので、滞在している世界での資料を参考にターゲットの捜索を行っているのだ。しかし始末するべきターゲットが複数いる以上、ミッドチルダに詳しくない彼等三人で調べ上げるのは結構きついものがあるのだ。

 

「せめて、この世界について詳しい奴がいてくれりゃ良いが」

 

「諦めろ。こういう時に限って、そんな都合の良い展開がある訳…」

 

 

 

「あるかも知れませんよ」

 

 

 

いつの間にかシアンが資料のページをパラパラめくって読んでいた。疲れ果てていたゴースト達が一斉に彼に振り向く。

 

「いたのかよお前!?」

 

「いつの間に!?」

 

「いや、それは別に良い。いつもの事だ…………今お前が言った言葉、どういう事だ?」

 

比較的冷静なファントムがシアンに問いかける。

 

「言葉通りの意味です。この世界での優秀な情報通を、こちらで確保しておきました」

 

「「「早ぇな行動が!?」」」

 

ゴースト達が同時に突っ込む。しかも妙にシンクロ率が高い。

 

「いや、でも良かった。これでこんな面倒な作業から解放される…」

 

「俺ももう、精魂が尽き果てそうだぜ…」

 

「尽き果てた場合、私が無理やり呼び戻しますのでご安心を」

 

「「労働基準法何処行ったよ!?」」

 

疲れ果てて席に寝転ぶシャドウとファントムに対し、シアンが鬼畜な一言を言い放つ。当分、彼等に休みは無いようである。

 

「それは良いんだがよ。その情報通ってのは誰なんだ?」

 

「それはさっき出会ったばかりの私よりも、昨日戦ったあなたの方が知ってるんじゃないですか?」

 

「あぁ? …おいおい、まさか」

 

「えぇ、そのまさかです」

 

質問に質問で返されるゴーストだが、どうやら察しがついたようだ。

 

 

 

 

 

 

「ダリル・ロッズですよ。報酬と引き換えに、私達の仕事に協力してくれるそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまた場所は変わり、クラナガン…

 

「確か、ここら辺りだったか」

 

現在、民家の並ぶ住宅街にやって来ていたダリル・ロッズ。彼はデバイスに組み込まれているデータを参考に、ここまで辿り着いていた。一応犯罪者である為、今は帽子を被って自身の顔を上手く隠している。

 

(しかし、俺も何でこんな仕事を引き受けちまってるんだか…)

 

ダリルは今の自分に対し、溜め息をついた。

 

 

 

 

話は、数時間前に遡る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺に情報提供して欲しいだと?」

 

「えぇ」

 

路地で出会ったダリルとシアン。ダリルはシアンから、自分の下で働かないかと仕事の提案をされているところだった。

 

「何故俺なんだ? 俺以外にも、それに向いた奴ならいるだろう」

 

「私達もそれ程、この世界に詳しい訳ではありませんからね。こういうのはむしろ、裏の社会で動く人間に頼んだ方が良いだろうと思いまして」

 

「だからって、俺は…」

 

「もちろん、報酬だってきちんと支払いますよ。お金なら今まで私達が通って来た世界でいくらでも稼いでいますからね。何でしたら、ボーナスだって弾みますよ?」

 

「む…」

 

それを聞いて、ダリルは言葉に詰まる。

 

確かにシアンの提案は、ダリルにとっても非常に都合が良いものだった。ダリルのやっている職業はとても褒められたものではないが、代わりにミッドチルダ含む他次元世界の出来事などについてはそれなりに詳しくなっっている。

 

しかし、だからといってそんなすぐに了承出来る訳でもなかった。内容からして、明らかに話が美味し過ぎる。こういうのは大抵の場合、裏には必ず何か他の意図がある。それに…

 

(こいつ、信用して良いのか…?)

 

何より、シアンに対する警戒心が解けないでいるのが一番の理由だ。彼が放っている気配は、通常の人間とは全然違う。表情こそにこやかな笑顔ではあるが、その笑顔からは何か別の意図があるようにも思えてかなり不気味な印象だ。

 

「無理強いはしませんよ。協力するかしないか、それはあなたが決める事です」

 

「……」

 

シアンからそう告げられ、ダリルは無言のまま思考を張り巡らす。

 

この話、本当に乗って良いのだろうか?

 

何か裏があるかも知れない。

 

しかし、話の内容自体はそれ程悪いという訳でもない。

 

考えに考えた結果……ダリルは口を開く。

 

 

 

 

「…何をすれば良い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今はこんな事をやらされてる訳だ…」

 

ダリルは今、シアンから渡されたリストに載っている名前の人物を捜索しているところだった。あの後シアンから“仕事”の話を聞いた時は、流石のダリルも驚かされた。

 

(まぁおかげで、何でギャリッジが狙われてたのかも理由が分かったしな)

 

当初、ダリルもギャリッジが死亡した報せについては既に耳にしていた。それ故、ギャリッジ死亡の件にシアン達が関わっている事が分かった際には、ダリルはシアンがどれだけ“仕事”に徹底しているかがよく分かり、そして恐怖をも感じている。

 

「…仕事に集中するか」

 

ダリルは思考を切り替えて、マンションの屋上から双眼鏡を使って住宅街を見回す。リストに載っている名前の人物は一通り調べ終えた為、後は居場所を見つけるだけだ。

 

「…あそこか」

 

そして、双眼鏡から見える先にターゲットらしき人物を発見する。

 

(確か、これで連絡すりゃ良いんだったな)

 

懐から通信機を取り出す。これでシアンに連絡を入れてターゲットの情報を伝えれば、こっちの仕事はひとまず完了する。

 

 

そして、ターゲットとされている人間が殺される事になる。

 

 

「ッ…」

 

何を戸惑っている。

 

俺にはもう、立ち止まっていられるような時間は無い。

 

どんな手を使ってでも、俺は絶対に成し遂げなければならない。

 

自分にそう言い聞かせ、ダリルは通信機の電源を入れる。

 

 

 

 

 

 

「俺だ。ターゲットを一人、見つけたぞ」

 

 

 

 

 

 

全ては、己の目的の為に。

 

 


 
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