No.602136

リリカル幽汽 -響き渡りし亡者の汽笛-

竜神丸さん

第5話

2013-07-27 16:04:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1466   閲覧ユーザー数:1435

幽霊列車、第一車両。

 

-♪~♪~~♪~…-

 

シアンはいつものように草笛を吹いていた。そこへ…

 

「おいシアン!!」

 

幽汽が乱暴に扉を開け、車両内に入って来た。その後ろにはシャドウとファントムも並んでいる。

 

「答えろ、何で俺達の邪魔をした!!」

 

幽汽が言いたいのは、何故自分達の戦闘を何故中断させたのかである。先程まで魔導師達との戦っていたのに、そこへいきなり撤退するように言い渡されたのだ。幽汽からすれば不満は多いだろう。

 

「魔導師と戦って実力見て来いって言ったのはお前だろうが!! それを何で…」

 

「えぇ、相手があの犯罪者達だけなら私も特に邪魔はしませんでした。ですが」

 

シアンは二枚の写真を取り出す。写真にはそれぞれなのは、フェイトの局員制服姿が写っている。

 

「彼女達は管理局に所属する魔導師の中ではかなりの実力派。いくらあなた達だって、犯罪者達と彼女達を同時に相手取るのはきついでしょう? あのまま戦い続けていれば、どうなっていたか…」

 

「俺が勝ってた!!」

 

「おい、落ち着けって!」

 

幽汽がシアンに食って掛かり、ファントムがそれを抑える。シアンはやれやれと言った感じで三人を見据える。

 

「理由はそれだけじゃありませんよ。あなた達が戦っている中、現場を監視しようとしてる輩もいましたからね」

 

「何…!?」

 

「一機の機械がカメラで現場を監視しようとしていましたので、こちらで破壊しておきました。ただ、私達の仕事はあまり世間に言い触らして良いものではありませんからね。誰に見られているか分からない以上は、戦闘を長引かせるのは得策ではないだろうとこちらで判断させて頂きました」

 

「……」

 

それを聞いて、幽汽もようやく怒りを抑える。

 

「ギャリッジの件は私が引き受けます。あなた達は一旦休んで下さい。次に仕事をする時の為にね」

 

「へいへい、了解ですよっと」

 

「おぅ、行こうぜ」

 

シャドウとファントムは適当に返事を返し、別の車両に移動していく。

 

「…チッ」

 

幽汽はベルトを外して変身を解除、女性の姿へと戻る。彼女の瞳が一瞬、緑色に光る。

 

「…まぁ良いさ、戦えさえすればな。だから俺達はお前に雇われてやったんだ」

 

女性はシアンに顔を近付けてから睨み付ける。

 

「本当ならな、お前の事情だって俺達にとってはどうでも良いんだよ。その事、忘れるなよ?」

 

「えぇ、重々承知してますよ」

 

「ふん…」

 

「…ですが」

 

「あ?」

 

 

 

 

-ゾワァッ!!-

 

 

 

 

「…ッ!!?」

 

シアンが一睨みした瞬間、車両内の空気が一気に重くなった。睨まれた女性も思わず怯んでしまうが、どうにか平静を保つ。

 

「あなた達も忘れないで下さいね。あなた達を雇っているこの私が、一体どういう存在なのかを」

 

「ッ……分かってるよ…!!」

 

「えぇ、分かっているならよろしい」

 

シアンはいつものにこやかな表情に戻り、周りの空気の重さも元に戻る。

 

「では、今日はもう休んで下さい。管理局の魔導師達との戦闘で疲れているでしょう?」

 

「…あぁ、そうさせて貰う」

 

女性の身体からゴーストが飛び出す。女性は金髪から銀髪に戻り、その場に倒れる。ゴーストはそんな彼女に目も暮れず、シャドウ達のいる車両へ向かうのだった。

 

「女性の扱いが雑じゃないですか?」

 

シアンは呆れつつも、倒れている女性の身体を抱き上げてから席に座らせる。女性は今も意識が戻らず、眠り続けているままだ。

 

「…さて」

 

シアンは懐からボロボロの本を取り出す。

 

「私も、仕事に向かうとしましょうか。あの現場から上手く逃げ延びた者もいるようですし」

 

そしてシアンは青白い炎に包まれ、一瞬でその姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、とある拘置所。

 

ここに、あのパトリック・ギャリッジは収監されたのである。彼はロストロギアを集めて回っているコレクターだったのだが、より珍しいロストロギアを求めるあまり犯罪にまで手を染め、裏では犯罪者とのパイプがあるのではないかと、前々から黒い噂の絶えない人物でもあった。

 

「……」

 

そして今、そんな彼は部屋のベッドに座ったまま呆けてしまっていた。目もハイライトが消えており、ただただ天井を見つめ続けている。

 

「…ただけ」

 

ギャリッジがボソリと呟く。

 

「珍しいロストロギアが……欲しかっただけ……何故なのだ……何故……私は…」

 

壊れたように呟き始めるギャリッジ。

 

彼がこうなってしまったのには、シャドウに殺されかけた事が関係している。あれ以降、彼は死の恐怖で精神がイカれてしまい、失神から意識を取り戻した頃には既にこうなってしまっていたのである。

 

「私は……何故……こんな…」

 

今はそういう状態だったからこそ、彼は気付かなかったのだろう。

 

 

 

 

-♪~♪~~♪♪~♪~…-

 

 

 

 

彼のいる部屋に、草笛の音色が聞こえてきた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

一人の看守がギャリッジの部屋へやって来た。ギャリッジを別の拘置所に移送する為である。看守は部屋の入り口のロックを解除し、部屋へと入る。

 

「パトリック・ギャリッジさん。護送の時間になりました…ッ!?」

 

そこで看守は、ある光景を目撃した。

 

「こ、これは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

(くそ、昨日はえらい目に遭った…)

 

一方、ダリル・ロッズは狭い路地を歩いて移動していた。現在はスーツではなく、黒シャツと迷彩模様のズボンというラフな格好である。昨日の戦闘で斬られた腹部には包帯が巻かれており、彼は時折痛そうに腹部を手で押さえている。

 

「…何だったんだ? 昨日のアイツ等は」

 

ダリルはギャリッジとの取引中に現れた、幽汽達の事を考えていた。彼等が突然自分達に攻撃を仕掛けて来た挙げ句、事態を嗅ぎ付けた管理局の魔導師、エースオブエースと金色の死神まで戦闘に加わり、取り引きは完全に失敗。ギャリッジは逮捕、引き渡す予定だったレリックも機動六課に回収されてしまった。ダリルからすれば、かなり面倒な事態だ。

 

(とは言っても、ギャリッジの野郎に関してはざまぁ見ろって感じだがな)

 

ダリルは前々から、ギャリッジの事が気に入っていなかった。ダリルや自分の部下達に偉そうに命令し、何か失敗すればそれをネチネチと嫌味を言う。自分がミスを犯してもその事を棚に上げる。こんな奴に従っていれば、従っている側も嫌な気分になるだろう。

 

「…まぁ、それはもう良いか。早いとこ、新しい契約先を見つけねぇとな」

 

嫌な奴だったとはいえ、ギャリッジが貴重なスポンサーであった事には変わりない。ダリルは新しいスポンサーとなり得るような人材を探し出すべく行動しているのだが、そう簡単に見つかる訳ではないのは彼自身が一番分かっている。

 

「チッ、どうしたもんかねぇ…」

 

 

 

 

「お困りのようですね」

 

 

 

 

「ッ!?」

 

背後から聞こえた声に、ダリルは素早く後ろに振り返って構える。

 

「…誰だ?」

 

「初めまして……私の名はシアン」

 

声の正体はシアンだった。いつの間にか近くの木箱に座っていた彼は、立ち上がってダリルの前に立つ。

 

「あなたに用があって、ここまで会いに来ました」

 

「俺に会いに来ただと…?」

 

ダリルはシアンに対して、警戒せずにはいられなかった。

 

男性にも女性にも見えるような、中性的な容姿。身に纏っている黒装束と髑髏のアクセサリーもあって、見た目だけでも怪しさバリバリである。

 

しかし、ダリルにとって問題はそこではない。

 

(こいつ、気配を感じ取れなかったぞ…!?)

 

背後を取られたというのに、彼からは気配が全く感じられなかった。というより、普通の人間とは雰囲気も全然違う。その事が、ダリルに恐怖心を抱かせる原因となっていた。

 

「そう警戒しないで下さい。昨日の件で、あなたに謝罪しに来たんですよ」

 

「昨日の件だと…?」

 

ダリルの脳内に、幽汽達の姿が思い浮かぶ。

 

「お前、アイツ等の…」

 

「えぇ。昨日は私の部下達が、どうもご迷惑をおかけしました」

 

シアンは頭をペコリと下げる。

 

「昨日の件のお詫びとして、私からあなたに提案があります」

 

「提案…?」

 

シアンから持ち掛けられた提案。

 

それはダリルにとって、思いがけない内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、私の下で働きませんか?」

 

 


 
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