No.595991

GGO~剣客の魔弾~ 最終弾 守れたもの

本郷 刃さん

最終弾になります。
今回でGGO編は終了となりました。

どうぞ・・・。

2013-07-09 10:15:06 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:12114   閲覧ユーザー数:10961

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終弾 守れたもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃Side

 

バイクのリアシートに乗せられて連れて来られたのは先程の高級喫茶店とは違う、BARのような喫茶店。

看板には『Dicey Cafe』とあり、だけどドアに掛けられたプレートには『CLOSED』の文字。

けれど3人は気にする様子もなくドアを開けて中へと入ったので、私もその後に続いた。

 

「いらっしゃい」

 

入ってみればマスターと思うスキンヘッドの黒人男性が、笑みを浮かべて迎えてくれた。

店内を見渡すと夏に知り合った顔ぶれ4人が先客としてきていた。

 

「もぅ、遅いじゃない!」

「ごめんね、里香。クリスさんのお話が少し長引いちゃって…」

「アップルパイ2切れも食べちゃったんだから、太ったらどうするのよ~」

 

スツールから降りて歩み寄ってきたのは知り合った内の1人の里香だった。

 

「痩せたいんだったら志郎に協力してもらえ。痩せるうえに幸せになれるぞ」

「あぁ、俺としては吝かじゃないかも」

「おっと、それ以上は言うんじゃないぞ~」

「ふふ、そうですよ。まだ夕方前なのですから」

 

桐ヶ谷君の切りかえしに答えたのは十六夜君と未縞さん、それを微笑みながら流す雫さん。

い、いまの会話って、そういう意味よね///?

里香は顔を真っ赤にして十六夜君の方を見ているし…。

 

「はじめまして、お嬢さん。

 俺はアンドリュー・ギルバート・ミルズ、この喫茶店兼BARのマスターをやっている。

 気軽にエギルと呼んでくれ」

「あ、はい、朝田詩乃です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

私に声を掛けたのはマスターの男性で、

エギルというニックネームが本名からもじっていないみたいだから、この人もVRMMOプレイヤーなのかも。

里香は雫さんの座る2人用のテーブルの椅子に座り、十六夜君と未縞さんはスツールに腰を掛けたまま。

 

「……詩乃、こっちに…」

「うん」

 

ケイに手を引かれて4人掛けのテーブルの椅子の1つに腰を下ろす。

ケイと桐ヶ谷君と明日奈が残りの椅子に腰を下ろしてから、それぞれ飲み物を注文して、

それから桐ヶ谷君が今回の『死銃事件』についての事柄を説明した。

 

 

「……………とまぁ、以上が今回の事件の全貌って感じだな。報道前だから実名と細部は省かせてもらったけど…」

 

桐ヶ谷君が主になって説明する形で、途中それぞれの視点からの補足をして、5人への説明が終わった。

出来るだけ纏めて話したけれど、10分以上は掛かった。

 

「なんていうか、良く巻き込まれるわよね……特に和人」

「もう慣れたよ。それに、今回は因縁深かったからな…」

「そうなのかもしれませんが…」

 

里香の言葉に桐ヶ谷君は静かに答え、その様子に雫さんは少し心配そうな表情で言った。

 

「和人、景一、ちょっと…」

 

その時、スツールに座っていた十六夜君と未縞さんが立ち上がって、2人に近くに来るように手招きした。

2人は自然と呼んだ2人に近づくと…、

 

「和人、景一…!」

「揃って歯ぁ喰いしばれ!」

 

―――ばきぃっ!

 

「「ぐっ…!?」」

「「ケイ(和人くん)!」」

 

その頬を殴った。でもケイも桐ヶ谷君も倒れることなく、立ったまま2人の眼を見据えている。

 

「俺達に黙って依頼を受けてGGOに行って、危うくどんな目に遭うか分からない状況だった」

「心配を掛けさせたことへの罰ってやつだ。次からはちゃんと連絡くらい入れてくれ、心臓にわりぃから…」

「「…すまない」」

 

十六夜君と未縞さんに注意された2人は、本当に申し訳なさそうに謝った。

見れば2人とも、口の端から少しだけど血が流れている。

それを見かねたエギルさんが綺麗な布巾を渡して、口元を拭っている。

 

「さぁて、明日奈。アンタもよ」

 

―――ピシィッ!

 

「あ痛っ!?」

 

綺麗な音が鳴ったのは明日奈のおでこ。見れば側に来た里香がデコピンをしたらしい。

 

「和人君達と同じで、私達を心配させたからですよ…分かりましたか?」

「はぁ~い…(ひりひり)」

 

雫さんに諭されるように頷く明日奈、おでこが赤くなっていて可愛いかも…。

頬を抑えているケイと桐ヶ谷君は、また椅子に座った。

 

「ま、なんにせよ…4人とも無事で良かった。

 特にキリトとアスナ、お前らはALOに帰ったらしっかりとユイちゃんを甘えさせてあげろよ?

 今回はあの娘が一番頑張ったそうだからな」

「ユイが…?……そうか、分かったよ」

「今日中には戻れると思いますから、そうしますね」

 

エギルさんの言葉に桐ヶ谷君と明日奈は答えた。ユイちゃんというのは誰なんだろう?

そんな疑問も湧いたけれど、多分ALOの友達なんだと思っておく。

でも、そっか……2人ともGGOから帰っちゃうのか…。

残念に思っていると、私の手を明日奈が握ってきた。

 

「でもこれで、詩乃ちゃんと本当に友達になれたと思うんだ。

 だって、GGOで一緒に戦えて、またこうやって現実世界で話せて、お茶も一緒にできたから」

「あ……私で、いいの? 私なんかが、友達で…」

「むっ、その言い方は良くないと思うよ。自分のことを“なんか”って言うのは。詩乃ちゃんだから、だよ」

「っ、うん…ありがとう、明日奈」

 

彼女の言葉が…凄く、凄く嬉しかった。

まるで、冷え切っていた水が温まっていくように、心が温かくなる。

不思議、ケイの時とは違った心の温かさを感じる。

 

 

「景一。本当は今日、お前と朝田さんをここに連れてきたのには、他に目的があるからなんだ」

「……どういうことだ?」

 

不穏な空気、というほどじゃないけど…桐ヶ谷君とケイの間に、緊張感が奔っているのに気が付いた。

 

「景一と朝田さん。2人が巻き込まれた事件について、勝手ながら調べさせてもらった…。ここにいる全員が知っている」

「え…?」

「……和人…」

 

その言葉に私は呆然としてしまい、短く彼の名を呟いたケイは戸惑っているのが分かる。

 

「俺はどうしても、知らなくちゃいけないと思ってな。

 景一の両親に詳細を聞き、俺と明日奈と景一の小母さんと3人でそこに行ってきた」

「……………」

「な、なんで…? どうして、そんなことを…?」

 

桐ヶ谷君の言葉に対してケイは何も口にしなかったので、私が彼に問いかけた。

私自身は乗り越えることができたけど、ケイはどうなのか分からないし…。

 

「景一も朝田さんも、2人とも聞くべき言葉を聞いていない。

 だからそれを知って、解ってもらうためには、会うべき人に会って、言葉を聞いてほしいと思ったからだ」

「……聞くべき、言葉…」

「会うべき、人…?」

 

彼の言葉を聞いても、いまいちピンッとこないケイと私。

すると桐ヶ谷君は里香と雫さんにアイコンタクトを取り、

2人は椅子から立ち上がると店の奥にあるドアへと歩み寄り、そのドアを開けた。

そこから1人の女性と、その人の後を付いて小さな女の子が現れた、多分親子だと思う。

女性の方は泣き笑いの表情を浮かべたまま一礼し、女の子もそれに倣って頭を下げ、

2人は里香と雫さんに促されて私とケイの前にある椅子に座った。

桐ヶ谷君と明日奈はケイと私の後ろに離れて立っている。

彼女達は一体誰なのか?そんな疑問とともに、頭の奥で何かが駆け抜ける…そう、どこかで会った記憶が…。

 

「はじめまして、国本景一君、朝田詩乃さん。私は大澤祥恵、この子は4歳の娘で瑞恵といいます」

 

私も、ケイも、聞き覚えのない名前。

だけど、ケイは彼女の顔を見て何かに至ったのか、驚きの表情を浮かべている。

 

「……まさか…あの、郵便局で働いて、いた…女性局員、の…?」

「え、う……そ…」

 

彼のその言葉に私はどう反応すればいいのか分からなくなり、固まってしまった。

だけどそれはケイも同じみたいで、動けなくなっている。

その代わり、私の手を強く握ってきたので、私もそれに強く握って応えた。

 

「…はい、その通り、です…。私が、東京に越してきたのは、瑞恵が生まれてからです。

 それまでは、あの郵便局で働いていました…」

 

本当に、この人が…。

そんな思いの中、ふと脳裏に過ぎったのは強盗が狙ったお母さんと2人の女性局員、その1人の顔は…間違いなく祥恵さんだ。

 

「ごめん、なさい…ごめんなさい、景一君、詩乃さん…。本当に、ごめんなさい…」

 

何故、祥恵さんが謝罪するのかが分からない。

だけど、隣に座るケイはハッとした表情を浮かべている。

そして彼女は続きを話し始めた。

 

「私、あの事件のことを忘れたくて…夫が東京に転勤することを理由に、眼を逸らして…。

 あなた達が傷ついて、苦しんでいらしていることに……すぐに、気が付けたはずなのに…。

 謝罪もしないで、お礼も言わないで……本当に、ごめんなさい…」

 

祥恵さんは間を開けると、瑞恵ちゃんの頭を優しく撫でてあげて、そして…、

 

「あの時、私のお腹にはこの子がいたんです。

 だから…景一君も、詩乃さんも、私だけでなく……この子の命も、救ってくれました。

 ありがとう…本当に、ありがとう…」

 

涙を流しながら話す彼女の言葉は、私の胸の奥の…大きな氷の塊を解かしてくれるようだった。

“命を救った”…ずっと、ずっと、ケイを傷つけて、彼に殺しをさせてしまったことだけを考えて、そう思っていた。

だけど、本当は……守れていたんだ…。

 

「……そう、か…。私はあの時……救えていたのか…」

「ケイ…」

 

隣の彼も、私と同じように胸の氷が解けていっているのを感じているらしい。

そして、瑞恵ちゃんが椅子から降りて、テーブルを歩いて周り込み、私とケイの側にきた。

肩から下げた小さなポシェット、そこから四つ折りにした画用紙を開いて私達に渡した。

そこには、瑞恵ちゃんと祥恵さん、そしてお父さんと思われる男性の絵が描かれていて、

上には平仮名で『けいいちおにいさんとしのおねえさんへ』と書かれている。

 

「けいいちおにいさん、しのおねえさん。ママとみずえをたすけてくれて、ありがとう!」

「っ、うん、うん…!」

「……あぁ…」

 

たどたどしい声でも、はっきりと大きな声でケイと私にお礼を言ってくれた瑞恵ちゃん。

唯々、その言葉が嬉しくて、溢れる涙が止まらなくて、ケイも流れる涙を隠そうとはしていなかった。

そんな私とケイの手を、ゆっくりと瑞恵ちゃんは握ってくれた。

いまは、この温もりを感じていたい…心から、そう思った。

 

詩乃Side Out

 

 

 

救った命を思い、誇りを持ち、前に進む…。

 

奪った命と向き合い、背負い、前に進む…。

 

どちらも忘れず、抱き続ける事で、人は強く、前に進み続けることが出来るのかもしれない…。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

このままあとがきを投稿します。

 

 

 

 

 


 
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