第34弾 死銃事件の真相
和人Side
互いに名前を名乗る程度の自己紹介をした朝田さんと菊岡、すると彼は彼女に向けて頭を下げた。
「こちらの不手際で、朝田さんを大変な危険に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「い、いえ、そんな…。結局、無事でしたから…」
朝田さんは年上の男性に頭を下げられたことに動揺したのか、そう言って返した。
「……詩乃、ここは謝罪を受け入れておくんだ。それが礼儀に値する」
「うん。僕達の方からしても、これくらいは言わないといけないから…」
「は、はい。分かりました」
景一の言葉に菊岡が続き、彼女も受け入れることにしたらしい。
「それじゃあ菊岡さん、取り敢えず今までで判ったことだけでも教えてくれ。景一には昨日少しは話したらしいが…」
「キリト君にさん付けされるとなんか背筋が寒いんだけど、まぁいいや…。
それじゃあ判っている範囲で話しをさせてもらうよ…でも、その前に…」
俺が話しを促そうとし、彼が答えようとしたところでウェイターが注文されたメニューを持ってきた。
フォークで一口サイズに切り、口に運ぶ。うん、やはり美味いな…。
景一も満足そうにしており、女の子2人もやはり美味しいデザートには満足のようだ。
それぞれのコーヒーや紅茶などを飲み、一息吐いたところで空気が変わる。
「まずは彼らの人数なんだけど、いまのところ判明しているのは3人ということだよ。
リーダー役は新川昌一っていうんだけど…」
「なに、4人じゃないのか? 『
ゲーム内のもう1人の死銃である『フィンズ』こと『PoH』、朝田さんを襲撃した新川恭二、
そして『ペイルライダー』と『ギャレット』の殺害犯の計4人のはずだが…」
「いや、主犯である新川昌一は3人だとしか答えていない。
弟の新川恭二は黙秘、もう1人は…ちょっとね……それも説明させてもらうね」
菊岡の発言に俺が言葉を投げかけると、それに答えた。
取り敢えず、順を追って聞く側に徹するとしよう。
「まずは新川昌一、彼がGGO内部でハジメ君と朝田さんを襲ったプレイヤーであることは間違いないよ。
彼自身がステルベンであることを答えたからね」
「どういう人間だったのか、聞いても?」
訊ねてみると菊岡は鞄の中からタブレット端末を操作し、画面に軽く目を通してから声を低くして喋り始めた。
新川昌一。
彼は総合病院の院長を務める人物の長男なのだが、幼少の頃から病気がちで何度も入退院を繰り返していたそうだ。
高校への入学などが遅れた事から、父親は彼を自身の後継ぎにすることを諦め、
3つ年下の弟である新川恭二を後継ぎに決めたらしい。
恭二には家庭教師を付けたりするなどしていたそうだが、昌一の方は家族から顧みられることはなくなり、
結果として兄の昌一は期待されないことから追い詰められ、弟の恭二は期待されたことで追い詰められたのではないか、
というのが聴取に応じた父親の弁とのこと。
しかし、そんな中でも兄弟仲が悪くなることがなかったというのは、
理由は真逆であれど、お互いに同じような境遇だったからなのだろう。
昌一は高校を中退、MMORPGへとのめり込むようになり、弟の恭二にもその趣味は反映されたらしい。
その後、『ソードアート・オンライン』に囚われた昌一は父親の病院で昏睡、2年の時を経て生還。
リハビリ後に弟である恭二にだけ、SAOにおいて多くの命を奪い、殺戮者として恐れられた事を語ったという。
それを聞いた恭二は解放感や爽快感を得たというが、それは恭二自身が語ったわけではなく、昌一が話したことらしい。
先程も述べたが、恭二は完全黙秘を続けているそうだ。
弟に誘われるままに昌一は『ガンゲイル・オンライン』へとダイブし、
一時の間は特に何をするわけでもなかったそうだが、プレイヤーを観察してどうやってPKするかを想像し始めたらしい。
ストーキング技術をゲーム内で身につけ、総督府ホールで様々なプレイヤーの個人情報を取得したとのこと。
その時はまだ、ただ個人情報をなんとなく記憶しただけであったらしいが、
徐々にその行いに興奮を覚え、最終的には16人も情報を得たという。
10月頃、恭二は昌一にキャラクター育成の手詰まりを相談、『ゼクシード』への恨みや妬みを明かしたところ、
昌一はゼクシードの個人情報を入手していたことを思い出し、恭二に教えた。
最初は互いにどうやって粛清するかを話していただけだったそうだが、
段々と『死銃計画』の骨組みが完成していき、ついには計画が完成してしまったらしい。
最後の難関であったのは電子ロックを解錠する為のマスターコードと殺害用の薬品類の入手のみだそうだが、
それは簡単に手に入ってしまった。
2人の父親の病院、そこにある緊急時用の電子ロック解錠のマスターコードと高圧注射器、
劇薬である『サクシニルコリン』を盗みだし、最初の殺害に至った…。
そして、こうも語ったそうだ。標的パーティーの情報を集め、装備を整え、襲撃したのと、今回の手口は何も変わらない。
警察官に対しては、住民から情報を得て、犯人を捕らえ、報奨を受け取る警察も同じだと、言い放ったという。
「自分の都合が悪い部分だけを現実じゃないと言う辺り、子供みたいだな」
「……同感だ。現実から逃げ続けた者の末路という感じにも思える」
「…彼よりも年下である人間から出るとは思えない言葉だね」
俺と景一の言葉に菊岡は苦笑しながらそう言い、明日奈と朝田さんは戸惑った様子を見せている。
まぁ、なんと言えばいいのか分からないのだろうけど。
「明日奈、朝田さん。新川昌一は自身が存在していないところを現実と示したんだ」
「……私達は常に、自身の存在している場所こそが現実だと思っている…」
「そっか…」
「そう、そうよね…」
俺達が言うと明日奈も朝田さんも短く呟き、菊岡も納得の表情で頷いた。
そこからまた話しが続く。
ゼクシードの時と同様に、2回目の標的である『薄塩たらこ』への殺害も昌一が行い、GGO内で恭二がキャラクターを撃った。
そんな中である一定の条件を満たした者達を標的にしたらしい。
首都圏在住、1人暮らし、ドアのロックが旧式の電子錠、またはドア周辺に合鍵を隠している、という条件。
今回その条件に含まれたのがペイルライダーとギャレット、そして
そして朝田さんはその条件の中に、もう1つ条件があるかもしれないと語った。
それはステータスタイプが非AGI型であり、STRにある程度余裕がある者には複雑な感情を恭二が抱いたかもしれないと言った。
菊岡はゲーム内に起因するものということに納得がいかないような態度を取ったが、
俺はそれが原因でもおかしくはないと語り、現にそれでトラブルが発生していることを告げると、彼は納得したようだ。
そして今度は3人目の死銃についての話しとなった。
恭二は今回、標的が朝田さんである為に彼女への殺害実行役を行うことを決め、ステルベンの操作は昌一が行い、
その昌一は新たな仲間としてSAO時代の仲間である『ジョニー・ブラック』こと『金本 敦』を引きこんだそうだ。
「あのクソッタレか…」
「……やはり二度目の討伐で生き残られたのが痛かったな。殺しておくべきだった…」
「…僕が言うのも難だけど、キミ達はあまり背負い込み過ぎない方が良いと思うよ。
少なくとも、女性の前ではそういうことは言わない方がいいかな…」
菊岡の言う通り、見れば明日奈も朝田さんも俺達を心配そうに見つめている。
自重しなければいけないな…。
「それと、昌一にとっても金本という男は理解し難い人間だったそうだよ」
「『だったそうだ』? まさか、金本は捕まっていないのか?」
「さすがだね…金本は逃走している」
彼の言い方に妙な違和感を覚えていってみれば、本当に逃げられているとは…。
これはかなり厄介な事になりそうだな…。
「……それで、詩乃に警察の警護がついたのか?」
「そうだよ、念には念を入れてね…。なんせ、奴はサクシニルコリンをもう1本分だけ所持しているからね」
「「「「っ…!」」」」
景一の問いかけに答えた菊岡から、さらに衝撃的な事実が述べられ、俺達は驚愕する。
なんでも昌一が念のためにと金本に予備を渡していたというからだ。
「まぁ朝田さんが狙われることはもうないと思うよ。
利害関係がないし、それに都心では自動識別監視カメラ網の試験運転も始まっているから、
そうそう逃げられないと思うし」
通称『S2システム』という、カメラが捉えた人間の顔を識別し、手配犯を発見するというものらしい。
ふむ、それなら今度ユイの散歩コースにでも教えてあげるかな。
愛娘であるユイにとってはそのシステムも散歩する程度のコースにしかなり得ないだろうし。
「まぁ、後はキミ達も知るところのことさ。
大会終了後、恭二は朝田さんを襲撃、ハジメ君がそこに急行して救出、
予め向かっていた警視庁の国本警部達とこちらが送った警察が合流、捜査を行った、だね」
「そうか……だが、何故PoHの名が出てこない?
正直に言うと、これほど巧妙で完璧に近い作戦を立てるのは、奴の分野のはずだからな」
菊岡の言葉に反するように問うてみると、彼は表情を特に変えることもなく告げた。
「それに関してだけは、昌一は何も答えなかったよ。自分と恭二が計画を弄し、動いたとしかね」
「…まるで、PoHを隠しているみたいだね…」
確かに明日奈の言う通りだ、どうにも良く分からないな。
奴の所在について訊ねてみたが、奴もまた行方が掴めないとのこと。
「あの、恭二君は…これからどうなるんですか?」
「2人とも未成年だから少年法による審判を受けると思うけど、大事件だからね…。
精神鑑定が行われた後で、少年院に収容される可能性が高いと思うよ」
朝田さんは菊岡に訊ね、彼はそのままの言葉を伝えた。
そこから彼女は新川恭二という人間について、彼女なりの考えで語り始めた。
恭二にとって現実世界はGGOで、GGOこそが真の現実だと。
その結果、ネットゲームへの労力がストレスとなり、彼は本末転倒になってしまったのだとも言った。
「……ネットゲームの神髄である最強。彼はそれに縛られ、道を誤ったのか…」
「俺達『神霆流』とは真逆だな。俺達は現実でこそ強く在る為に、VRMMOではどの程度通用するのかを試しているが…」
果たして『神霆流』がどれだけゲーム世界に通用し、
それを揮う俺達はどれだけ高みに登ることができるのか、それを目的の1つとしている。
まぁ、純粋にゲームを楽しんでいるのも事実だけど。
「私、面会が出来るようになったら彼に会いに行きます。
私が何を考えてきて、いまは何を考えているのかを、知ってもらう為に…」
「強い人ですね。分かりました、日程などが分かりましたら、キリト君達を通して連絡させてもらいます」
詩乃もまた、新川恭二の友人として、彼と向き合うつもりなのだろう。
菊岡もそれに応えたが…腕時計を確認し、言葉を続けた。
「申し訳ないけど、そろそろ行かないといけないから……あぁ、そうだった。
キリト君、ハジメ君、新川昌一からのメッセージがあるけど…聞くかい?」
「「ああ…」」
俺達は即答し、
『これが終わりじゃない。終わらせる力は、お前達にはない。すぐにお前達も、それに気付かされる。
イッツ・ショウ・タイム』
メッセージを俺達に伝えた菊岡は会計を済ませて去っていった。
「終わらせる力がない、か…。お生憎と終わらせる分の力も、繋がりも、十分に整えてあるんだよな~、これが」
「……奴らはそれを知らない。こちらも爪は隠しているのだからな」
『神霆流』という力、仲間達との繋がり、朝霧や結城という家の力と繋がり、
『時井八雲』という人の力と繋がり、そして菊岡の一派との繋がり、
これだけの手札と爪を奴らが知ることが出来ているのかは謎だが、果たして…。
「ねぇ、ケイ…。あの人って、本当に総務省の役人なの? なんか、ちょっと…」
「……私もそこは気になっている。だからこそ、奴には信用はしても信頼は置いていない」
朝田さんの言う言葉に同意した景一、それは俺と明日奈も同じだ。そして俺は…、
「奴は防衛省の人間だ。総務省のある霞ヶ関ではなく、防衛省のある市ヶ谷に移動していたからな」
「防衛、省…」
俺の言葉に明日奈は絶句しながら呟く。
「まぁ、奴に関しては警戒するに越したことはないでいいだろう。
それじゃ、デザートも食ったことだし、行こうか」
話しを切り上げ、俺達は喫茶店を後にし、停めてあるバイクの元へ移動した。
「おっとごめん、ちょっと電話してくる」
「うん」
俺は3人にそう言ってから距離を開け、ある番号をコールする……繋がった。
景一には口元を見られないようにする。
「別れたばかりなのに悪いな、菊岡」
『いやいや、構わないよ。それで、何かようかい? 伝え忘れたことでもあったかな?』
通話を掛けたのは先程店を後にした菊岡だ。
「まぁな…安岐さんを手配してくれたのはお前なんだろ? 彼女にお世話になりましたと、伝えてくれないか?」
『分かった、伝えておこう。それだけでいいのかな?』
「もう1つ。アンタ自身が言ったように、朝田さんへの連絡に関しては俺か景一を必ず通してくれ」
『ははは、相変わらず警戒心が強いね。うん、そちらも了解したよ』
取り敢えず、いま伝えておきたいことはこれだけだな。
なら最後に、意趣返しをさせてもらうか…。
「それじゃ…また何かあったら連絡してくれ、
『なっ!? ちょ、どうしてっ(ぴっ)』
俺の言葉に驚愕した菊岡の制止を強制的に切り、俺は明日奈達の元に戻って、バイクに乗って移動を始めた。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
取り敢えず、簡単ながら説明を纏めさせていただきました。
詳しい内容に関しては原作などを拝見してくださいねw
PoHに関しては結局のところ、和人達自身も分かる事なく逃げられました。
というも、アイツは自宅からのログインでは無かったものですから・・・(ニヤリ)
そして最後の最後で和人が菊さんに放った言葉、ウチの和人さんは彼の正体を知っています!
まぁラースの事までは
次回は最終弾となります、出来れば最後までお付き合いください。
それでは・・・。
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第34弾です。
今回は事件の内容を簡単に纏めてみました。
どうぞ・・・。